(……ふぅ。まったく、楽園から地獄へ逆戻りだな……けど、どうにか今日は終わった)

 そして、一日と半分の時間が過ぎる。
 まだまだ日の落ちない6月の夕方。
 自分の会社のエントランスから出てくると、西日ににじみ出る汗を拭う。
 そして鹿屋は、まだ明るい空を見上げた。
 仕事復帰一日目が終わったのだ。

 富士谷に言った通り、一日休んでから、鹿屋は自分の戦場に戻った。
 あの日、自分の部屋に遺書は置いたが、会社に辞表などは出していない。
 したがって何も変わらない。
 突然休んだことへの叱責があったことぐらいしか、変化は無かった。
 いつもの、少しずつおろし金で精神を削られるような営業の業務。
 変わったのは鹿屋の方だ。
 遮二無に、がむしゃらに、一昔前ならモーレツ社員と呼ばれるような姿で仕事を片付けていった。
 ミスもあったがご愛嬌と言わんばかりに、次々と。
 接し難い上司にも積極的に話をしに行き、はるか下の後輩だろうと仕事の効率化のための相談をし、人が変わったようだと言われた。
 何か、薬でも手を出したか? 疲労がポンと取れる系の……?
 なんとなく、そんな視線も感じられた。
 定時ではなかったが全く遠慮なく、普段より圧倒的に早く会社を出る鹿屋を、同僚は奇異の目で見るのだった。
 そして、彼はビル街を真新しい自転車で駆けていく。
 途中まではいつもの帰り道だ。

「薬は飲むより塗るのに限る……かな?」

 風を受けて道すがら、この二日間の事を思い返す。
 麻薬のような…と、あの夜、鹿屋は言いかけた。彼女の出すモノに限って言えば、確かにそんな効果があったようにも思えた。
 アヘンのような危険な麻薬と言うよりは、ちょっとしたカンフル剤と媚薬のようでもある。
 昨日も……楽しかった。

 「普段はどうしてるんだ?」と聞いたら見せてくれた、バケツをずらっと並べて排泄したうんこ。重いそれを、二人で風呂場に運ぶのも一興だった。
 足腰と腕力が妙に強い理由が分かった。
 半日経たずにあの量、間違いなく普通の便器は溢れるどころか、埋まる。
 夢見ていたのと同じ情景だった。
 素晴らしい。
 そして、恥ずかしがっている彼女をその時初めて見た。
 100%酒が抜けた彼女は、バケツにまたがった間ずっと顔を両手で隠し……だが下はしっかりと、俺に見せてくれた。出会った夜とのギャップがたまらなかった。