戸棚の奥から、老酒の赤いビンを取り出そうとする薫。
その横のキャビネットから、グラスを二つ用意するスー。
まるで勝手知ったる我が家のようだ。
異国の地で、こうしてかなりプライベートな話をする相手が居るというだけでも、スーは幸せを感じていた。
しかし更にアルコールが入り、薫のテンションは聖夜が深まるのと同時に、ちょっとおかしくなって行くのだった。
「あ〜…… 飲みすぎかな? 何か変な気分。でも、ありがとう。この事を話してくれて。クリスマス、その人が居るのに私の所に来てくれたし。スーには本当、感謝しなきゃ」
「だからまだ、そんなのじゃないってば」
「そうなのよ、私……感謝しなきゃいけない人、いっぱい居る。それに迷惑をかけちゃった人も……。謝らなきゃ。クリスマスにプレゼントが来るのを待ってるだけ、それってただの子供じゃない。
助けてもらって、当たり前の事だって何もしないなら、良い事も良い縁もやって来ないよ。そう思わない? スーは」
「え? ええと……うん。感謝は大事だよね」
「クリスマスって、恋人のものじゃなくて、頑張ってる人達に感謝とかお世話になった人にプレゼントをする日って、本来そうだって……どこかで聞いたことあるのよね。うろ覚えだけど」
追加の老酒のグラスを片手に、上体を若干ゆらりとさせながら薫は口を動かし続けている。
段々と、彼女の様子が変わってきてスーは困惑していた。
自分の話のせいか……と反省するも、主因は追加で摂取した老酒の方が大きい。
こんな状態で、この後のトイレは大丈夫かと心配になってくる彼女だった。
そして薫は、そんなスーの心配を他所に、不可解な行動を取り始める。
「……行くわ。私」
「へ!? 今から、どこに? 寒いよ? もう10時回ってるし……」
「すぐそこだから大丈夫よ。ちょっと待って…………うん。まだ居るわ。明りが付いてる。クリスマスでも遅くまで、普通に仕事だろうって言ってたけど、本当だったんだ……」
「誰のこと? それ……」
本当に不可解だった。
薫は何故か突然、寒風吹きさらしのベランダに出て、外の何かを確かめる。
そしてすぐ室内に戻ってきた。
次いで、冷蔵庫からクリスマスケーキの箱を一つ取り出してコタツの上に置く。