「あのですね……すいません。本当にすいません。この人は酔っ払っていまして……」
「で、でしょうね。この顔は。あと息も」
薫がアルコールに呑まれ、寝落ちしてから、初めてスーは口を開いた。
事務所の隅にあった来客用のソファに寝かされた薫。
若干のいびきを立てているその寝顔を、傍らに立つ二人が見ていた。
着ているサンタコスほどではないが、明らかに顔が赤い。
そして酒臭い。
「家で二人でお酒を飲んでたら、突然、お世話になった人に感謝したいとか、迷惑かけた人に謝らなきゃ、といったことを言い始めまして。
で、突然これを着て、プレゼントするとか言って外に出て行ったんです」
「はぁ……」
「どんどん歩いていって。サンタの格好で。……あ、これは今日の、ケーキ店のバイトで着てた服らしいんですが。もう、完全に酔ってました」
「はぁ」
「それで、ここだ! …って言って、この事務所に入って行っちゃいまして。私は心配でついて来ただけなんですよ」
「そ、そうなんですか……」
「こんなカオル、初めて見ました。でもカオルとあなたって、どんな関係の人なんですか? 一体」
「ええ!? いや自分にそんなこと聞かれましても。かおるさん、ですか?」
「全然、知らないですか」
「歩いてきたってことは近所の人……? 近隣説明会とかで来てたか……どっかで苦情とか……いや……。
しかし突然こんな場所に夜中来るって、こっちが訊きたいくらいで……ん? …んんっ? あれっ!?」
寝ころがったせいで、頭の赤いナイトキャップが外れていた。
その薫の顔を改めて確かめると、彼の表情が変わった。
軽く自分の膝を叩く。
「あ〜…… ひょっとしてあの人か……。しかし、びっくりした本当に……」
「何か、思い出したんです?」
「ええ。この方、たま〜になんですが、この現場にトイレを借りに来られてました。日曜夕方とか祝日とか、職人が居ない時ですね。
事務所の外で、私が資材の点検とかやってると、ゲートの所から声をかけられて」
「トイレ借りに!? それは……知道了。いや、なるほど」
やっと繋がった、とスーは思った。
工事現場の汲取りの仮設トイレ、旅行中などよく薫は緊急避難に使っている。
そして「なるほど」という彼女の言葉に若干の違和感を覚えつつも、彼は説明を続けた。