戦火の中犯される娘達12 [無断転載禁止]©bbspink.com
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被虐の姿ここに極まれり!
戦争などで無惨にも犯される少女達…
のスレッドです。
兵士や盗賊、モンスターなどの襲撃で犯される村娘
捕虜になって慰み者にされる女性兵士などなど
舞台は現代・ファンタジー・時代モノ問わずで行きましょう。
基本は何でもありですが
出血など、グロ要素の有るものは警告をお願いします。
前スレ
https://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1434277046/ 誰も書か無くなったなぁ〜
まぁココごときより荒らされねぇ良い場所見付けてソッチで活躍してるから
ココはもう打ち捨てられてるからな 昭和末期に放送されたサムライトルーパーは次々にOVAが製作されるほど人気爆発
俺も当時ハマってて色々なグッズを買いあさってたんだけど
ちょうど30年前に発売された小説の3巻が衝撃
舞台は1千年ほど前の時代で小さな村に住んでいた主人公とヒロインが主軸
物語中盤くらいで敵が攻めてきて村は壊滅してしまうが主人公は何とか無事に逃げられた
しかしヒロインは祖母と一緒に主人公を待っていたために逃げ遅れてしまう
さらに火事場泥棒をしていた盗賊たちに見つかり祖母の前で輪姦される
一般作品なのでレイプの詳細は書かれなかったけど
ヒロインを輪姦した盗賊たちは用が済んだとばかりにヒロインを捨てるように放置
輪姦の暴行とショックで失神して体が白くなっていた全裸のヒロインに服をかける祖母
このレイプで身籠った事実にヒロインはショックで泣き続けるが最後は決心して出産
出産後は周囲からの中傷を避けるために村を出て辺境の土地で暮らす母子2人
輪姦とその後が生々しくて色々と想像してしまう
可憐な少女が輪姦されるのは可哀想だと思うけど同時になぜか興奮する 俺もリアルハゲに未来は無いからと自殺幇助してさっさと異世界行くこと勧めてるわ
この世も綺麗になるしウインウイン 2: 死刑執行人→◆ErY2TknG0w [sage] 2017/03/20(月) 13:11:41 ID:jum6nY2h
>>1
>546すぞ?
>546
無駄なんだよばーーーーーかwww
てめぇもばらまいてやるわ
http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1489947028/
2: →◆rK2yM3sIGxCU [] 2014/11/07(金) 01:22:35 ID:awA/eQIM
ちなみに僕は蛙吹梅雨ちゃんが好みです
長い舌のばせるとことか全身ぬるぬるなところとかセクシー・・・エロいっ!
>>6 AVだとFAプロが現実・架空の舞台設定で作ってるね
例えば
https://www.dmm.co.jp/mono/dvd/-/detail/=/cid=h_066aofr043dod/
同胞の筈の日本兵に母子共々輪姦され最後は中国人ゲリラに全員頃されて(母子は全裸で)屍体になって転がってるシーンでEND
https://www.dmm.co.jp/mono/dvd/-/detail/=/cid=h_066htms026/?dmmref=aMonoDvd_List/
鈴木ありすの役は処女設定だった方が個人的には良かったがこの作品もいい ありすも辱められた後は銃でバン! どかーん!
(⌒⌒⌒)
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もうおこったぞう
1: 1 ◆rK2yM3sIGxCU [sage] 2014/11/07(金) 01:15:49 ID:awA/eQIM
ないので建ててみた
女子キャラ普通にエロいと思う(小並感)
http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1415290549/987 昭和20年春、本土上空。
「こちら泉機、現在北多摩上空、高度1万1000」
操縦桿を持つ右手はあまりの寒さでカタカタと震え、電熱線の入った飛行服越しにも、情け容赦ない寒気が突き刺すように肌を刺激した。
「敵はB-29二機、高度1万2000。偵察型だと思う。針路170度」
「了解。可能な限り攻撃に努めよ」
基地からの返電は、高高度のせいで異常にクリアに聞こえた。こなたは自分より左後方のはるか高空を飛ぶ敵機を睨みつけると、伝声管に口を寄せた。
「つかさ、ちょっと遠いけど旋回銃で撃って」
「りょ、了解!」
後部座席のつかさは震える声で返事をした。すぐにガチャガチャと機銃を操作する音がしたが、弾丸はなかなか撃ち出されなかった。たまりかねたこなたが振り向くと、つかさは顔をしかめて旋回銃を回そうとしていた。 「こなちゃん・・・・・もう銃が凍っちゃって、動かないよぉ」
こなたの視線に気づき、つかさは情けなさそうな表情で泣きついてきた。不恰好に大きい酸素マスクをつけ、まつ毛までもが凍りついたつかさの顔が、ひどく痛々しく見えた。
「・・・・・つめたい」
冷えきった銃身を不用意に握りすぎ、つかさの飛行手袋はガチガチに固まっていた。内張りの兎の毛も針のように固まり、手のひらを不快に刺激した。
(痛いよ・・・・) つかさは目に涙を浮かべながらも、右手の痛みを無視して機銃を回そうとした。しかしオイルをたっぷりと塗られた機銃の基部は、一人の力では到底動かせなくなっていた。
目に浮かんだ涙はすぐに凍り、目の前に白くにごった氷の膜を作った。つかさは力任せに瞬きすると、氷を瞼からはがした。
(こりゃ、ダメだね)
小さなため息をつくと、こなたは機体の様子を確認した。
こなた達の乗る 「キ45改」 は、とても新鋭機とは言えない双発複座戦闘機だった。
両翼のエンジンは健気に排気炎を噴き出ているが、酸素不足のせいで炎の色は妙に赤く、勢いは弱弱しい。
風防を閉め、プロペラピッチを下げ、速度を出すためにあらゆる努力をしているが、それでもこの高度では速度が250ノットを越えなかった。
高高度だと地面の動きがほとんどないので、飛んでいるというより空中にぽっかりと浮かんでいるだけのような気になる。
上空の敵機は、四苦八苦するこちらを意に介さないかのように、悠々とサイパン島へ向け南下していた。左後方にいたはずの敵機は、いつの間にか左前方へと出てきていた。敵機のほうが速度が速い。 B-29のコクピットは与圧されており、普通の飛行服で快適に飛べるのだということを、こなたはよく知っていた。
敵味方の機体の性能のあまりの差に、こなたは悔しさというよりも焦りを感じた。
(せめて、一撃なりとも・・・・・)
こなたは座席の足元から拳銃を取り出すと、風防を力任せに空けた。急激に吹き込んだ猛烈な寒気が、こなたの心臓にまで突き刺さったような気がした。
こなたは歯を食いしばって寒さに耐えると、1000メートル以上高いところを飛んでいる敵機に向けて何度も拳銃の引き金を引いた。甲高い発射音とともに銃口から煙が噴き出したが、たちまち後方へ吹っ飛んでいった。
遥か遠くの航空機を拳銃を撃つ無意味さは理解していた。弾倉を一つ撃ちつくすと次を装填する気にもなれず、こなたは拳銃をもとあった場所にしまって風防を閉じた。
かすかな苛立ちを感じながら、無造作に無電機のスイッチを入れた。
「こちら泉機。旋回銃故障、敵機は前方に出た。敵機に追いつく見込みなし」
二、三度同じ内容を繰り返すと、基地から返事が来た。
「了解、帰還せよ。お疲れさん」
やっと許可がおり、こなたは座席にどっと体をもたれさせた。
「つかさ、機銃はもういいや。高度を落とすよ」
「うん」
少し眠そうな声でつかさが答えた。こなたはちらりと温度計を横目で見ると、操縦桿を前に倒した。温度計の針は、マイナス45度を差していた。 機体を着陸させて格納庫に入れると、飛行服を着たかがみが待っていた。こなたは飛行眼鏡を上げると、疲れを見せないように気をつけながら手を振った。
「ずいぶん長く戦ってたわね。大丈夫だった?」
偵察席から降りるつかさに手を貸しながら、かがみはざっと機体に目を走らせた。
被弾は見当たらず、まともに空戦をしなかったのはすぐわかった。
「いや〜、敵機が速すぎてね。ぜんぜん追いつけなかったよ。結局、撃ったのはこれだけ」
こなたが腰のホルスターの拳銃を指差すと、かがみはあきれたような顔を浮かべた。
「あんた、拳銃なんて撃ったの? 馬鹿みたい。掃除しといてあげるから、貸しなさいよ」
「ホント? いや〜かがみん、助かるよ」
こなたは弾倉を抜くと、拳銃をかがみに手渡した。かがみは弾を抜いてあることを確認すると、銃身を覗き込んだ。案の定、火薬のかすがかなり張り付いていた。
「あの、皆さん」
不意に後ろから声がした。かがみが振り向くと、みゆきが立っていた。
「部隊長がお呼びです。泉さんとつかささんの報告を待っているみたいですよ」 格納庫を出ると、古臭い始動車が灯火を抑えながら走っていた。爆装した九七戦と二式高練が何機か掩体壕から出され、プロペラが回っている。
古い機体なのだろうか、エンジンがずいぶん疲れた音を立てている。
(特攻機だ・・・)
整備員の脇では、空中勤務者が機体を心配そうに見ていた。
カンテラに照らされたその顔は若いというより幼いほどで、学徒上がりなのがすぐわかった。恐怖と興奮で引きつったその表情は、特攻機パイロットに特有のものだった。
かがみにとってそれらは見慣れた光景であり、今さら感情的にどうということはなかった。しかし、ろくに訓練もされず、旧式の機体に乗せられるパイロットが少し哀れだった。
「お姉ちゃん、早く指揮所に行こうよ」
つかさに促され、かがみは頷いた。何気なくつかさの右手を見たかがみは、つかさの手の平がひどく裂けて血が流れている事に気づいた。
かがみの視線に気づいたつかさは、ぱっと手を握って傷を隠そうとした。かがみは腰に手を当ててため息をつくと、滅菌ガーゼで素早く手の平を縛った。
「まったくあんた、怪我してたんなら早く言いなさいよ」
「えへへ・・・・特攻の人がいっぱいいるのに、こんなかすり傷を言い出せなくてさ」
つかさの言葉に、かがみは何も言えなかった。 指揮所に入ると、糟日部航空隊司令の泉そうじろう大佐が、大きな地図を背に座っていた。
こなた達が入室したときには、すでにみなみとゆたかが椅子に座って待っていた。
こなたは身内しかいないことを確認すると、軽く手を挙げて父親に挨拶を送った。
そうじろうもその無礼を叱ることなく、椅子に座るように視線で促した。
「知っての通り、サイパン玉砕以来、B-29による本土空襲は拡大の一途をたどっているわけだ。こっちは戦闘機もない、パイロットも足りん。八方ふさがりってやつだな」
そうじろうは腕を組むと、静かに話し出した。指揮所はひどく狭く、声は充分に通った。
「ここ何日か、敵は関東地方への偵察を繰り返してる。こなたとつかさちゃんは、たった今迎撃をやってきたな」
「う、うんっ!」
迎撃戦の疲れで座った瞬間に居眠りをしかけていたこなたは、急に名指しにされて思わず驚いた声を上げた。
「今日の迎撃、どうだった?」
「あ、うーんと・・・・・」
寝ぼけ眼をこすりながら、こなたはうまい言葉を探したが、もやがかかったような思考で考えがまとまらなかった。
それを見たつかさは苦笑すると、手を挙げた。
「事前に高度1万500と言われていたので、1万1000で待ってたんだけど、敵はさらに1000メートル上から来ました。敵機の高高度性能はすごいです・・・・・・・旋回機銃で撃とうとしたけど、凍っちゃってて撃てなかったとです」
つかさは旋回機銃を撃つ真似をしてから、ひょいと肩をすくめた。邪気のないその動きに、そうじろうはかすかに心が穏やかになるのを感じた。
「ねえお父さん、じゃなかった部隊長・・・・・ぶっちゃけもう、あたしたちの戦闘機じゃ勝てないよ。高高度は寒すぎるし、エンジンの馬力が落ちすぎて全然敵機に追いつけないし」
こなたは目の前の机に突っ伏して嘆くと、近くの皿に盛ってあった飴玉を一つ掴んで口に放り込んだ。
そうじろうは苦笑すると、壁に広げられた地図を指した。 「こなた、文句を言うな。ここで恨み言を言ったって、新しい戦闘機も空中勤務者は来ないんだからな。
大本営に掛け合ってみたが、沖縄戦が落ち着くまで機体を回す余裕はないって返事ばっかりだ」
(沖縄、ですか・・・・)
みゆきは頬に手を当てて考え込んだ。ついに、戦争は民間人の住む本土へとその場所を移そうとしている。
それに伴い、民間人の犠牲者は避けられなくなる。みゆきは暗澹たる気持ちになってきた。
「話を戻すが、ここ最近の動きを見ていると、どうやら今度はどこかの工場に昼間精密爆撃を仕掛けてきそうな気配だな」
「そりゃ、東京はもう焼くところがないもんね」
かがみは何の気なしに言い、自分の言葉のあまりの残酷さに自分で驚いた。
つい一週間ばかり前の猛爆撃で、10万近い人間が焼け死んだというのに。
自分の中の優しさが、いつの間にか失われつつあった。
「爆撃があるとして、それはいつですか?」
みなみが少し緊張した表情で聞いた。
「早ければ明日の午後。遅くてもあさっての午後にはたぶん来る」
そうじろうは、断定的な口調で言った。こなたは、飴玉を転がしていた舌の動きを止めた。
「明日かあさって・・・・部隊長殿。どうしてそんなに正確にわかるのですか?」
みゆきが、かすかに顔をこわばらせて聞いた。そうじろうは頷くと、土佐沖の海面を指差した。
「昨日まで沖縄を攻撃していた敵機動部隊が、今日姿を消した。恐らく、今このあたりにまで来ている。敵はまず機動部隊の艦上機でこっちの飛行場を叩いてから、B-29を突っ込ませてくる気だ。
敵艦隊が今夜のうちに駿河湾にまで急行するなら、明日の午前中に南関東を攻撃、午後にB-29が来る。もし敵艦隊が急がないなら、1日ずれるってわけだ」
(あ、さっきの特攻機の攻撃目標は、その機動部隊だ)
かがみには、つい今しがた飛行場で見た若い搭乗員の表情の意味がわかった。
あのパイロットは、明日の昼かあさっての昼には敵空母に向かって突っ込む。あまりいい気はしなかったが、どうしようもなかった。 深刻そうな顔で頬杖をついて話を聞いていたゆたかが、すっと手を挙げた。
「おじさん。敵の総兵力は?」
そうじろうは腕組みをすると、ふむとため息をついた。
「艦上機300機、B-29の100機は覚悟してほしい」
つかさは天を仰いで嘆息した。多すぎる。
「それでお父さん、私たちも飛ぶんだね?」
少しばかり気落ちしながらも、こなたは気丈に質問した。そうじろうは強く頷いた。
「ああ。お前達6人にも出撃してもらう。防空空域は東京都西部だ。この基地もまず間違いなく機動部隊に攻撃されるから、明日の6時に離陸していったん長野の飛行場に退避してくれ。
詳しい場所はあとでチャートを渡す。現地で燃料を補給した後、B-29の動きに合わせて離陸する。もし敵襲の気配がなかったら、帰還してくれ。
もしここの滑走路が使用不能になるまで叩かれたら、そのつど連絡する」
「ってことは、明日は朝から飛びっぱなしってこと? 今日も迎撃を一発やったのに、しんどいなぁ〜」
「こなちゃん、そんなこと言っちゃだめじゃない」
こなたは遠慮なく不満を述べ、つかさは慌てて止めた。そうじろうはこなたの無礼を気にせず、説明を続けた。
「今回は陸軍も海軍も本気で戦う気になっているから、みんな安心して戦ってくれ。機動部隊に対しては特攻機を出すし、三式戦や四式戦も合わせて50機はB-29の迎撃に出撃するはずだ。海軍さんもそれくらい戦闘機を上げるって言っていた」
「それは助かりますね。それにしても、問題はB-29より機動部隊ですね。最近のグラマンは腕をあげる一方ですし」
みゆきはのんきな口調でつかさに話しかけた。つかさは苦笑に近い表情を浮かべた。
「嫌だよねぇ。この前ロケット弾を撃たれたとき、ほんとにびっくりしたよ」
グラマンという嫌な名前を聞き、かがみはため息をついた。
(双戦でグラマンを相手にするのは、もう無理よ・・・・)
かがみは、以前にレイテ島上空でグラマンに追い掛け回されたときの事を思い出していた。右翼にレーダーポットを装備した、夜戦型のワイルドキャットだった。
突っ込んでくるときの敵機のエンジン音と、ギラギラと光っていた敵パイロットの飛行眼鏡が、今でも脳裏に焼きついている。
「それと、最後に注意だ」
そうじろうは始まりかけた雑談を制すると、机から一枚の大きな写真を取り出して六人に見せた。戦闘機が写っている。
液冷式のとがった鼻、胴体中央の大きな空気取り入れ口、一枚ガラスの見通しのよさそうな風防。一目で誰もがわかった。
「お父さん。その写真、P-51だよね。まさか・・・・・」
「そのまさかだ、こなた。硫黄島にこの戦闘機がもう進出している。昨日、海軍の偵察機が硫黄島で見つけてきた。まだ数は50機足らずのようだが、奴らのことだ。あっという間に数を増やすだろう」 こなたは、机の下で握った両手が少しずつ震えてくるのを押さえられなかった。今までなら、B-29は爆撃機だけの裸の編隊だった。
だけど、その時期はもう終わった。明日からはそれに世界最強の直掩戦闘機がつく。
「部隊長殿。硫黄島に対する攻撃はやらないのですか? 少しでも地上で叩いておけば・・・・・」
かがみの言葉に、そうじろうは首を横に振った。
「もうやった。海軍のほうで挺身隊を出して、今朝に攻撃を行ったよ」
「戦果は?」
かがみがやや詰問調で言うと、そうじろうはちらりと目をそらした。
「零戦と彩雲あわせて12機で攻撃を行ったらしいが、全機未帰還だった。戦果不明だ」
「・・・・・・でしょうね。海軍も最初っからそのつもりで出したんでしょ」
かがみは、苛立ちを隠せなくなっていた。飛行機が足りない。飛行機の質も、敵と比べ物にならない。
そして、今や爆撃目標は軍の基地ではなく、国土そのものになっていた。燃え上がる都市の上空で空中戦をするのは、もうごめんだった。
「ま、なんにせよ、P-51との交戦を覚悟してほしい。三式戦との区別が難しいから、奇襲を受けないように気をつけてくれよ。
それじゃ、明日の5時には出撃準備を完了して飛行場にいること。以上だ」
そうじろうは、話を打ち切った。かがみ達は小さなため息をつくと、指揮所を出ていった。
「こなた」
最後に指揮所を出ようとしたこなたは、不意に呼び止められた。こなたは扉に片手を当てたまま振り向いた。
「何? お父さん」
「こなた。この国を守れ。ここは、俺と、お前と、かなたが生まれ育った国だ」
そうじろうは腕を組み、目を閉じて話していた。こなたはくすりと笑った。
「わかってるよ、お父さん。しっかりやってくるから安心して」
「・・・・・・・こなた」
少し目を開き、そうじろうはふっと笑った。
「敵をやっつけたら、生きて帰ってこい。何か面白いゲームでも用意しておこう」
「うん、お願いねっ!」
こなたはウインクをすると、先に行ったかがみ達を追って走り出した。これ以上、父親の目を見ていることができそうになかった。 指揮所を出たが、まだ夕食には早すぎる時間だった。6人は飛行場の隅っこで車座になると、こっそりと作戦会議を始めた。
「P-51だって。お姉ちゃん、ひどいことになってきたねえ」
つかさは、じっと何かを考え込んでいるかがみに声をかけた。かがみははっと我に返ると、つかさの顔を見た。
「何? つかさ」
「うん、P-51のこと」
つかさは今になって恐怖を感じてきたのか、自分の肩を抱いてぶるっと震えた。
「お姉ちゃん、もしP-51と出会っちゃったらどうする? 性能はグラマンよりいいって聞くし、怖いよね」
「うん・・・・・」
かがみも同じ事を考え、結論を出しかねていた。黙っていると嫌な考えばかりが浮かんでくるので、かがみはこなたの拳銃を取り出し、携帯キットで分解掃除を始めた。
(速度も旋回性能も向こうが上。もちろん数も負けてる。一体どんな手があるだろう・・・・)
かがみは火薬の燃えカスを丹念にはがし、その上からごく薄く油を塗った。部品のすべりを確認してから、銃身をはめた。
「あの・・・・3機で連携して戦うのはどうでしょう? 固定銃と、旋回銃と、斜銃を組み合わせて戦えば、そこそこいけるんじゃないですか?」
おずおずとゆたかが言った。だがかがみには、P-51がそんな戦法をとるだけで対処できる敵だとは到底思えなかった。
「敵機が少なければそれでなんとかなると思う。でも、もし敵がこっちより多い数でかかってきたら、連携を保てないと思うわ」
かがみは遠慮せずに思った通りを言った。自分たちの戦闘機は複戦であり、対戦闘機戦闘にはもともと向いていない。
まして小口径の機銃を全て取り払って37ミリ砲を積んだ現在では、事実上は戦闘機に対抗できる手段はなかった。
みゆきが何かを思いついたのか、顔を上げた。五人の視線が集中した。
「やっぱり、急降下しかないと思います。2000m以上を一気に落ちれば、敵は単戦だからついてこれないはずです」
こなたはみゆきの意見を聞くと、目を閉じて首を横に振った。それなら誰でも思いつく。でも、それでは意味がない。 「駄目だよみゆきさん。敵機に出会うたびにそんなに高度を落としたら、B-29に攻撃できない。それじゃ何のために出撃したのかわからないもん」
「それでは、泉さんはどうすべきだと思いますか?」
みゆきが、ほんのかすかに苛立った声を出した。そう反論されると、こなたにも妙案はなかった。
「とにかく、その場にある雲に隠れるとか、北のほうに飛んで敵機の航続圏外にまで逃げるとか、その時の状況を見てどうにかするしかないわよね」
かがみがこなたに拳銃を渡しながら、結論めいた事を言った。他の面々も、それ以外に何も思いつかなかった。 味気ない夕食を食べると、もうすることがなくなった。翌日の早い出撃を考えると、夜更かしするわけにはいかない。一同は早々に寝ることにした。
だが、寝床に入ってからも、かがみは落ち着かなかった。繰り返し寝返りをうっていると、隣で寝ていたつかさも起き出したのが気配でわかった。
「・・・・・お姉ちゃん、眠れないの?」
つかさが小さな声で話しかけてきた。かがみはこくりと頷いた。
「明日の空戦のことを考えてたら、さすがに不安になってきてね・・・・・」
かがみは仰向けになると、両手を枕にして天井を見上げた。遠くで夜間空襲が起きているのだろう。空襲警報のサイレンと、高射砲の発砲する音が山鳴りのように聞こえてくる。
宿舎の外に出れば、探照灯が幾筋も空に伸び、空が炎に赤く照らされているのが見えるだろう。
「お姉ちゃん、大丈夫。心配しないで」
つかさは手を伸ばすと、かがみの手をぎゅっと握った。
「お姉ちゃんは、私が守るよ。P-51でもグラマンでも、私が旋回機銃で追っ払うから。だからお姉ちゃんは、B-29を落とすことだけ考えて」
かがみもつかさの方を向くと、両手で妹の小さな手を包んだ。
「ありがとうつかさ。信じてるからね」
「うんっ」
つかさは嬉しそうに笑った。 翌朝、こなた達は5時前に不寝番から起こされた。手早く飛行服を着て指揮所に行くと、腫れぼったい目をしたそうじろうが既に待っていた。
徹夜していたんだな、とこなたは一目見てわかった。
「来た」
開口一番、そうじろうはこう言った。とたんにピリリと緊張が走った。
「正規空母六、護衛空母五。駆逐艦や巡洋艦は数える気にもならん。現在地は伊豆沖130度150海里。恐らく夜明けと同時に発艦を始める。ここもやられるだろう」
みゆきが手を上げた。そうじろうは視線で発言を促した。
「作戦は変更なしですか?」
そうじろうはこくりと頷いた。
「作戦通り、午前6時に離陸。いったん長野飛行場へ、その後は追って指示する。一番機は操縦員こなた、偵察員みゆきちゃん。
二番機はかがみちゃんとつかさちゃん。三番機はみなみちゃんとゆーちゃんだ」
「わかった。お父さん、行ってくるからね」
指揮所のすぐ脇を、轟音を響かせながら一機の航空機が離陸していった。こなたが振り向くと、ちらりと見えた尾翼からそれが百式司偵なのがわかった。
恐らく、機動部隊の接敵に向かう誘導機だろう。夜明け後の敵機動部隊に張り付いて偵察を行う事は、もはや確実な自殺以外の何ものでもなかった。
こなたは、あらかじめ切っておいた一束の自分の髪を、黙ってそうじろうに差し出した。そうじろうは一瞬泣きそうな顔をしたが、黙って受け取った。 指揮所を出て滑走路に出ると、急に誘導路からエンジン音が高まった。湧き上がる土煙に苦労しながら透かし見ると、二機の一式戦と、爆装した九七戦が四機、離陸に入ろうとしていた。
滑走路に沿って並べられたカンテラが、機体をうっすらと闇の中に浮かべていた。
本来はカンテラではなく赤と青のおしゃれな誘導灯があるはずなのだが、数日前の敵の爆撃で吹っ飛ばされていた。
「特攻・・・・」
ゆたかがぼそりと言うと、まるでタブーに触れたかのように、はっと急いで口を押さえた。
かがみは少し厳しい面持ちで友軍機の様子を眺め、みゆきはまるで仏壇に向かっているかのように両手を合わせた。
(お願いします。がんばって下さい)
比島での戦いのころとは違い、最近は特攻出撃の際もほとんど見送りがいなくなっていた。多い時期には、特攻機は日に何回も出撃する。
そのたびに地上員が全員整列しては戦争にならない。いつの間にか、今日のように手の空いた何人かが見送るだけなのが当たり前になっていた。
必死行である特攻にすら誰もが不感症になっている現実に、みゆきは身震いするほどの恐怖を感じた。
こなた達は、誰言うともなしに滑走路脇に整列した。やがて四機の特攻機と二機の直掩機は、ゆったりと間隔をあけて滑走路を走り出した。
かがみは飛行帽を脱ぐと、縦に大きく振った。
直掩機は比較的優秀なパイロットが操縦しているらしく、危なげなく離陸した。しかし、特攻機の3番機は滑走路をふらついたかと思うと、ぐーっと左に傾斜しながら回りだした。
「あっ!」
焦った三番機は、ラダーとエルロンをいきなり右にいっぱいまで効かせた。速度の乗りかけていた機体はバランスを崩し、左脚を浮かせて急激に左に曲がりだした。
「まずいっ!」
初心者がよくやる、典型的な離陸の失敗例だった。三番機の右脚は不気味なほどたわむと、甲高い音を立ててへし折れた。機体はたちまち滑走路に接触し、爆弾やプロペラが地面と擦れてギギギギッと耳障りな音を立てた。
火花を散らしながら滑走路をこする三番機に、四番機が正面から突っ込んでいった。
四番機のパイロットが必死の形相で三番機を避けようとしているのが、かがみの目にはっきり映った。しかし四番機は、ほとんど横向きになった三番機の胴体に頭から体当たりをした。 「かがみ伏せてっ!」
こなたがかがみに飛び掛ると、無理やり地面に伏せさせた。次の瞬間、かーっと白い光とともに、二機の特攻機は大爆発を起こした。
かがみの目と耳は一瞬でおかしくなり、焼けただれた鉄の破片が雨のように降ってきた。
「あちちっ」
燃えた破片を頭に浴びたつかさが、あわてて破片を手で払って飛行帽をかぶった。
(被害は・・?)
かがみは降りかかる破片から目をかばいつつ、滑走路を見た。二つの爆弾がほとんど同時に爆発したらしく、両機は木っ端みじんに吹き飛んでいた。
舗装していない滑走路には、すり鉢上の無遠慮な穴が開いている。二名のパイロットは、一片の遺骨も残さずに消滅していた。
「ちぇっ」
こなたが立ち上がると、服についたほこりをはたいた。滑走路では、整備員が集まって穴を埋め始めている。慣れっこなのか、特に悲壮な顔をしている人間もいない。
「かわいそうに・・・・・せっかく決死の覚悟をしていたのに・・・・・・・・」
みゆきが、言わずともよいことをわざわざ言った。かがみも口には出さなかったが、パイロットの無念に思いを馳せないわけにはいかなかった。
(わざわざ志願して特攻隊に入ったのに、くだらない事故で死ぬなんてね)
離着陸の事故で死ぬパイロットは、別に珍しいものではない。しかし特攻機が事故を起こすと、どうしてこんなにやるせない気持ちになるのだろう。かがみにはよくわからなかった。
無事に離陸した四機は、少しふらつきながら編隊を組んだ。そのぎこちなさからパイロットの練度は容易に想像がつき、その戦果もおおよそ見当がついた。
編隊は名残惜しそうに基地を何周かして高度を確保すると、南の敵機動部隊へと向かっていった。恐らく、直掩機もろとも一機も帰ってこない出撃だった。
「・・・・・行こうか」
飛行機が見えなくなるまで見送ってから、こなたが言った。 掩体壕に入ると、機体はまだ整備中だった。
締めきった壕の中に試運転中のエンジンからの排煙がこもり、おもわず顔をしかめたくなるような異臭がした。
何人もの整備員が機体に取り付き、油まみれになって最後の調整をしてくれている。
気を利かせた主計兵が朝食を持ってきてくれたので、一同は外で簡単に食事をすませた。
指に貼りついた米粒をなめながら掩体壕に戻ると、こなたたちの機体を整備していたのは下士官が一人だけだった。増槽に手をかけて、がたがたとゆすぶっている。
パイロットは、機体の整備はほとんど見ていることしかできない。こなたは近くに転がっていた空のオイルの一斗缶に腰掛けると、薄暗い壕の様子をするともなしに眺めた。
(綺麗だな・・・・・)
掩体壕の中では、四機の戦闘機が並んで整備されていた。三機は自分たちの二式複戦、もう一機は古い一式戦だった。
廃油を転用したランプの光の中で、四機は飴色に染まっていた。その色はまるで古びた写真のようで、どこか懐かしさを感じさせた。
どこからか折りたたみ椅子を持ってきたゆたかが、こなたのすぐ隣に座った。こなたが懐から時計を出すと、針は5時45分を差していた。そろそろ機体に乗ったほうがいい。
こなたが視線で機体に乗るようにゆたかに合図した瞬間、唐突に警戒警報のサイレンが鳴り響いた。基地全体にさーっと緊張が走り、あちこちから出てきた兵員が機銃座や高射砲陣地に向かって駆け出していった。
こなたは座っていた一斗缶を蹴り飛ばすように立ち上がると、自分の戦闘機に走った。ゆたかはものも言わず、三番機に向けて走った。
整備員が置いていた工具を何個か蹴飛ばしながら、こなたは操縦席に飛び乗った。
「飛べますか!?」
こなたは身を乗り出すと、先任らしき整備員に大声で聞いた。プロペラはすでに回っているので、声を張り上げないと何を言っているのか全くわからない。
「右フラップの動きがおかしい! でも飛べはするはずだ! 燃料弾薬は満タン!」
下士官らしき整備兵が怒鳴った。こなたは了解の合図を送ると、操縦桿の具合を確かめた。
後席がガタッとゆれたので後ろを見ると、後席に飛び乗ったみゆきが準備完了の合図をしてきた。
(フラップなら戦闘で必要ない。それならいい)
多少離着陸が難しくなるが、そんなの問題にはならない。操縦桿もレバーも動きにおかしなところはなかった。
これなら戦争はできる。こなたは伝声管を口元に寄せた。
「みゆきさん、何か命令は来てる?」
「いいえ。特に、何も言ってきていません」
みゆきは無電機のレシーバーを耳にあて、一文字も命令を聞き逃すまいとしていた。
やがて無電機ではなく、掩体壕の中に据えつけられた古びたスピーカーから、ガリ、ガリ、と異音が聞こえた。やがて、くぐもった声がそこから聞こえてきた。
「少数のB-29が接近中。偽装急げ。双戦隊は離陸待て。飛行場待機」
指揮所から将校が何人も飛行場に飛び出してくると、整備員を地上に露出している航空機のほうへ追いやっていった。機体には次々と偽装網が被せられ、そのあたりの木の枝が大急ぎでかぶせられた。
「みゆきさん、聞こえた? 飛行場待機だって」
「ええ。それにしても、迎撃命令を出さないんですね。ということは、高高度の偵察機でしょうか」 命令がないのに狭苦しい操縦席にいる必要もないので、こなたは機体から地上へ降りた。
そのまま飛行場へ出ると、かがみやつかさも集まってきた。
飛行場に出ると、一足先に来ていたみなみが双眼鏡で空を探っていた。ゆたかがその脇にちょこんと立っている。
「みなみちゃん、敵はいますか?」
みゆきが問いかけると、みなみは首を小刻みに横に振った。
飛行場付きの見張り員や高射砲の向きから、敵機がほぼ真南から来ているのは間違いなかった。
こなたは目を閉じると、音で敵を探そうと思った。
5分ほど経つと、うっすらと夜が明け始めた。やがて、独特の甲高いエンジン音が南のほうから聞こえてきた。こなたが目を開けたのと、みなみがあっと声を上げたのがほぼ同時だった。
まだ暗い空に排気炎をちらちらと見せながら、無塗装のB-29が二機近づいてきた。
「偵察機ね」
かがみが言った。すぐ近くに非常待機の二式戦が三機駐機し、パイロットも乗っていたが、出撃する気配はなかった。
今から上がってもB-29に追いつけないのはわかりきっており、だから迎撃命令も出なかったのだろう。
やがて、敵機はほとんど真上に来た。何を考えているのか、基地の高射砲群が突然砲弾を撃ち上げたが、すぐに射撃をやめた。
敵機の高度の半分にも達せずに炸裂する砲弾は、見ていても痛々しいだけだったし、わざわざ敵機に高射砲の位置を教えているに等しかった。
「あ、味方の戦闘機だよ」
きょろきょろと空を見渡していたつかさは、B-29の後下方に味方の戦闘機らしい機体が追いすがっているのを発見した。特徴ある機体の太い形から、それが二機の二式戦である事がわかった。
「やれやれ」
足が疲れてきたこなたは飛行場に座り込むと、上空を眺めた。しばらく味方機の動きを見て、顔をしかめる。
「下手っぴ。あんなんじゃだめだよ。B-29は高度を上げながらじゃ追いつけない」
二機の二式戦は下方から必死にB-29に食いつこうとしていた。しかし高高度での二式戦の性能はひどく悪く、どんどんB-29に引き離されていった。
やがて友軍機はほとんど同時に機首をがくっと下ると、スローロールをしながら急降下を始めた。
「撃たれた!?」
かがみは急に立ち上がると、心配そうな顔をした。しかしみゆきには、撃たれたのではない事はわかっていた。
(あれは、酸欠ですね)
同じ経験をした事があるみゆきには、見た瞬間にわかった。酸素が切れてパイロットが失神したのだろう。長時間の高高度飛行で、酸素ボンベの中身が切れたのかもしれない。
くるくると回りながら落下していた二機の戦闘機は、3000m以上高度を落としてからようやく体勢を立て直した。
過速で機体を損傷させたのか、一機はうっすらとオイルを曳いている。敵機は、二式戦の動きをまるで意に介することなく悠々と飛行を続けていた。
友軍機はなおもしばらくB-29を追おうとしていたが、やがて諦めると編隊を組んで反転していった。
「みっともないわよね。戦闘機が爆撃機に追いつくこともできないなんて」
かがみは体育座りをすると、足元の草をちぎって投げた。パイロットのせいではない。もはや、機体の性能が敵から置いてけぼりにされている。
(私たちの 「キ45改」 も・・・・・)
もともと、高高度戦闘を想定して作られた機体ではない。一歩間違えれば、あの二式戦のような情けない戦いしかできない。
まして、敵機が多数のグラマンやP-51を伴っていたら? いったい自分にどれほどの事ができるのか?
(こん畜生っ)
かがみはやり場のない怒りを感じた。 警戒警報が解除されると、こなた達の機体が掩体壕から出された。こなたたちは一旦指揮所に行くと、そうじろうの命令を聞きにいった。
「予定より遅れている。直ちに離陸。かかれ」
「了解」
かけられた言葉は短かった。こなたも特に言うべき言葉が思い浮かばず、すぐに自分の戦闘機へと走った。
滑走路脇に並んだ三機の戦闘機は、すでに整備員により始動されていた。こなたは機首にそっと手を触れて目を閉じると、エンジンの音に聞き入った。いつもと同じ音、振動。整備はよくなされていた。
ゆたかは機体の脇にかがみこむと、胴体の右下部に装備されている三十七ミリ砲の具合を確認した。現状では、これ以外にB-29に打撃を与えられる武器はなかった。
一機あての砲弾は、わずかに八発。ゆたかは全弾が装填してある事を確認した。少し砲身にオイルがつきすぎていて、高高度では凍りつきそうな気がしたので、近くの整備員からウェスを借りて軽く砲身を撫でた。
つかさは主翼の上に乗ると、後部座席前方にある斜銃の具合を調べた。二門の20ミリ機関砲は、黒々とした砲身を斜めに突き出していた。
つかさは機関砲を固定してあるボルトを素手で軽く締め直した。
「つかさ、どう?」
足元から声を掛けられた。下を向くと、頬に黒い油をつけたかがみが自分を見ていた。
「うん。大丈夫そうだよ」
「そう、よかったわ」
つかさはするりと地上に降りた。双子の姉妹は、基地の喧騒を無視してじっと向かい合った。
二人は何も言わずに飛行手袋を外すと、ぎゅっと力いっぱい両手で握手をした。
「お姉ちゃん、操縦お願いね」
「つかさ、誘導は任せたわ。信じてるからね」
お互いの体温をしっかりと記憶に焼き付けてから、二人はそれぞれの座席に乗った。
キ45改は前後の操縦席がかなり離れ、しかも間に斜銃が鎮座しているてので、搭乗員どうしが直接触れることができない。硬いアルミ製の座席は、春の太陽光ですでにぬるく温まっていた。
つかさは手早く落下傘バンドを締めた。
主計兵が駆け寄ってくると、かがみに弁当とサイダーのビンを差し入れてくれた。最近はサイダーのビンでも中身が番茶の事が多かったのだが、今日は本物だった。
弁当からはぷんと強い酢飯の匂いがした。精一杯のご馳走を用意してくれた主計科に、かがみは頭が下がる思いがした。
「お姉ちゃん、調子はどう? 声は聞こえる?」
伝声管から、勢いよくつかさの声が聞こえてきた。かがみは伝声管を引き寄せた。
「よく聞こえてるわ。がんばろうね、つかさ」 こなたは少しだけアンテナの位置を直すと、無線機のスイッチを入れた。
地上にいるせいでひどい雑音が入ったが、じきに指揮所からの通信が入ってきた。
「こちら指揮所。泉小隊、感どうか、明どうか。応答せよ」
こなたは声を出した。
「こちら泉小隊。受信良好、完全に聞こえてよ、こちらの感どうか、明どうか」
「こちら指揮所。通信状態良好。よく聞こえてるぞ、こなた」
こなたはふっと笑顔になった。地上と通信ができるようになってから、どれだけ戦争がやりやすくなっただろう。
何より、地上との繋がりがある事が、自分たちの戦意を奮い立たせてくれた。
「おじさん、がんばりますから、見ててくださいね」
三番機からゆたかの声が届いた。 一番機の操縦員のこなたが、両手を力強く振って出発の合図をした。
「ゆたか、行こう」
「うんっ」
ゆたかはエンジンを左右同時に噴かした。ぶわっと砂塵が舞い上がり、機体は誘導路を走り出した。
かがみもレバーを倒した。
エンジンの唸りは急激に高鳴り、エンジンの回転計の針がすぐにレッドゾーンに入った。
かがみはエンジンの共鳴の具合から、左右の回転数がほとんど等しくなっていることがわかった。調子はいいらしい。
つかさは風防を開けると、立ち上がって周囲の様子を確認した。一番機はすでに滑走を開始し、すぐ後ろにはゆたか達の機体が張り付いていた。
(空は安全?)
真っ青に晴れ上がった空をぐるりと見回したが、つかさの視界の中には航空機の姿はなかった。
ついさっきまでいたB-29も、サイパンに帰ったようだ。ちらりと基地の対空見張所やレーダーサイトを見ても、異常を探知している様子はない。
「お姉ちゃん、滑走路に機体なし。上空にも異常はないよ。針路よーそろ」
「さんきゅ。砂煙がひどくて、全然前が見えないのよ」
滑走路に出ると、地上員が一列に並んで帽子や日の丸を振っていた。かがみはエンジンを全開にすると、その横を通り過ぎて上空に舞い上がった。 三機は速度が安定するのを待ち、編隊を組んだ。高度をとってすぐ、明瞭な声で通信が入った。
「一部の敵艦上機が、東京方面へ襲来しつつあり。各機は交戦を避けて北方へ退避せよ」
「うわっ、困るなぁ」
こなたは大げさな悲鳴を上げた。みゆきは編隊機動がとりやすいよう、列機の二機に少し散開するように指示した。
かがみとみなみは即座に右手を上げて了解のサインを出すと、エンジンを絞って後方へ下がった。
うかつに大きく変針すると太陽光を反射して敵に発見される恐れがあるので、こなたはしばらく現在の西向きの進路を維持することにした。
つかさは座席を180度反転させると、旋回銃を掴んで南を見た。目を凝らして必死で上空を探ると、上空にぼつぼつと黒い影が浮かんでいるのが見えた。
とっさに敵か味方かわからなかったので、つかさはしばらく待ってから双眼鏡を取り出して機体を確認した。黒っぽい塗装、胴体の白い星のマーク、間違いなかった。
「お姉ちゃん。8時方向遠方にグラマン4機!」
「もう来たの!?」
かがみはベルトを緩めると、大きく後ろを振り返った。1000mほど上空を、四機編隊のグラマンがほぼ真北に向けて飛んでいた。B-29の来る前に露払いをするための戦闘機なのは明らかだった。
かがみが増槽の投下レバーに手をかけようとした瞬間、短波通信が入った。
「こちらこなた。全機、330度に変針」
こなたはそう言うと、敵に目立たぬようにごくわずかに機体を傾けた。みゆきは前席のこなたと後方の敵機を交互に見た。
つかさは敵機がまだ自分たちに気づいていない事を確認してから、無電機のスイッチを入れた。
「こちら泉小隊。東京上空にグラマン4機を確認。高度5000。敵機は増槽およびロケット弾らしきものを装備」
「増槽なんてつけてるの?」
伝声管越しに、かがみの声が聞こえてきた。かがみも首をひねって敵機のほうを見ていたが、肉眼では細かい様子まではわからないようだった。
「うん。胴体の下と、翼下にも何かを装備してる。多分、胴体の奴は増槽だと思うの」
「グラマンがここまで増槽をつけたままで来れたって事は、敵空母は相当近くまで来てるわね」
もしかしたら、相模湾くらいにまで接近しているのかもしれない、とかがみは思った。
(舐められたものね)
そして、その敵艦隊に対し特攻しか戦術のない自分たちに、かがみはやり場のない嫌悪感を感じた。自分達に先立って離陸していった4機の特攻隊は、攻撃に成功しただろうか。それともすでに叩き落されたのだろうか。
「かがみ、変針」
短い通信が入り、かがみがはっと我に返った。考え込んでいる間に、少し編隊から離れていた。
「ちぇっ。編隊を保てないなんて素人かよ、私」
かがみは独り言を言うと、操縦桿とフットレバーを操作した。
つかさは双眼鏡の重みで少しだるくなってきた腕を下ろした。瞬きできずに少し乾いていた目をしばたいた瞬間、最後尾のグラマンが急に火を噴いた。
「あっ!」
遠くて少しわかりにくいが、敵機の編隊の後方から、二機の友軍機が襲いかかったようだった。銃撃を受けた敵機は尾翼を吹っ飛ばされたらしく、黒煙を吹きながら真一文字に落ちていった。
やがて、機体から白い落下傘がぱっと開いた。
「味方の戦闘機ね」
かがみも異変に気づき、敵機のほうをじっと見つめた。残る敵グラマンはいっせいに増槽を落とすと、ロケット弾を発射した。
白い炎を発しながら、十発以上のロケット弾が見当違いな方向へ飛んでいった。バラバラに飛んでいくロケット弾の煙の模様がなんだかおかしくて、つかさはかすかに声を出して笑った。
「さあ、始まるわね」
かがみは息を呑むと、空中戦の様子を眺めた。最初の攻撃で高度を落としていた味方戦闘機も、体勢を立て直して斜め左上に上昇している。
三機になった敵機は、ぱっと編隊を解いた。一機が右に、一機が左に、そして残りは高度を確保し始めた。 「味方機は、あれ、何かな?」
ゆたかはじっと目を凝らしたが、機種の区別がつかなかった。風防が低く、尾翼がやや高い、見慣れない機体だった。陸軍の戦闘機ではない。
「ねえみなみちゃん。零戦や雷電じゃないし、紫電の新型かな?」
ゆたかに聞かれるより先に、みなみも機種の見定めに苦労していた。みなみは、どこかであの機体を見たような気がした。しばらく考え込むと、はっと気づいた。
「わかった。あれは烈風」
「烈風って、噂の新しい艦戦?」
ゆたかは少し驚いた表情をした。零戦以外の艦上戦闘機を見るのなんて、何年ぶりだろう。
編隊は空戦の行われている空域から急激に遠ざかっているため、すぐに空戦の様子がわからなかくなった。やがて空に薄い煙が流れたが、敵なのか味方なのかはわからなかった。
(そうか。もう烈風も実戦配備されてるんだ)
ゆたかはかすかに頼もしく感じた。
離陸が遅れ、針路も北に大回りしたため、予定時間を1時間以上遅れて長野飛行場付近に到達した。こなたとみゆきは、地図と地表を交互に見ながら目指す飛行場を探した。
「あ、あれですね。上空に戦闘機がいます」
付近を山に囲まれた盆地のような場所に、赤土を固めた簡素な滑走路が三角形に設置されている。
ぱっと見ただけではわからないほど地味で、滑走路も短い。その真上には、警戒隊らしき四式戦が二機飛んでいた。
その戦闘機はこなたたちに気づくと、戦闘体制を保ったまま突っ込んできた。
「あわてないで味方識別をしよう」
こなたは翼端灯を初めとするすべての明かりをともし、ゆっくりと大きなバンクを振った。
相手もその動きで味方と理解したのか、同じようにバンクを振って挨拶してきた。こなたは機体を傾けると、翼の日の丸を相手によく見えるようにした。
みゆきが滑走路を見下ろし、すこし表情を硬くした。
「狭い飛行場ですね。どなたか着陸経験のある人はいないのでしょうか?」
本土空襲が始まってから慌てて作った飛行場なのか、付属設備もずいぶん粗末だった。
それに山に囲まれている中途半端な高地にあるため、かなり着陸は難しそうだった。こなたはチャートで滑走路の高度を再確認した。
「ま、なんとかなるかな」
かがみもみなみも、十分に経験のあるパイロットだし、しくじることはないだろうとこなたは高をくくった。
飛行場の周りをぐるぐる回っていると、整備兵が現れて着陸すべき滑走路と着陸方向を旗で示してくれた。ずいぶんとサービスがいい。 滑走路脇には、何機かの複葉の飛行機が駐機されていた。ゆたかはその列線をながめると、急に笑顔を作った。
「あはっ。みなみちゃん、あれ九五中練だよ。懐かしいなぁ」
「・・・本当。久しぶりに見た」
みなみは身を乗り出して眼下を見た。緑色に塗装されてかつての赤とんぼの面影はないが、間違いなく九五中練だった。
つかさとかがみも、九五中練の存在に気づいていた。
「ねえお姉ちゃん。練習機があるってことは、ここは練習部隊なのかな?」
「さあ、多分そうじゃない? 部隊長からは何も聞いてないけど」
機体を着陸コースに入れながらも、かがみはちょっと解せない気分だった。
(こんな着陸が難しい、できたばっかりのひどい飛行場で練習生の訓練をしてるのかしら? 練習機部隊ならもっとましな飛行場を割り当ててあげればいいのに)
土ぼこりが酷かったが、一番機のこなたは難なく機体を着陸させた。かがみも、堅実な二点着陸で機体を地面につけた。
たちまち寄ってきた地上員の誘導で、機体を掩体壕へ運び入れた。天井はなく、土嚢を積んだだけの簡素な掩体壕だった。
エンジンを切って飛行帽を外すと、かがみは天を仰いで深呼吸をした。少し疲れている。
コンコンと音がしたので振り向くと、つかさが風防をノックしていた。かがみは頷くと、ベルトを外して外に出た。
「お姉ちゃん、操縦お疲れ様」
「気持ちはありがたいけど、ほんとに疲れるのはこれからよ」
のどが渇いていたので、かがみは飲みそびれていたサイダーを一気に飲んだ。シュワシュワと口の中が刺激され、少し気分がよくなった。
「あ、燃料をお願いします。メインタンクだけで大丈夫です」
燃料車が近づいてきたので、かがみはサイダー瓶を握ったまま声をかけた。整備兵は、やや堅苦しい敬礼をした。
「やっほ〜、かがみん。異常はない?」
こなたが近寄ってきた。かがみは無言で頷いた。
「んじゃ、指揮所に挨拶に行こうか。ゆーちゃん、みなみちゃん。悪いけどここに残って機体の様子を見ててくれる?」
「うん、わかった。お姉ちゃん、挨拶のほうはよろしくね」 「あら、今日の双戦隊ってあなたたちだったの」
指揮所で指揮をとっていたのは、見覚えのある顔だった。
「天原先せ・・・・大佐殿。お世話になります」
思わず気安い言葉が出そうになったこなたは、あわてて言い直した。
「あら、別に堅苦しい言葉はいらないわよ。どうぞ座って」
ふゆきに椅子を勧められ、四人は着席した。間髪入れずに従兵がお茶を運んできた。
「ずいぶんと遅いから、やられたんじゃないかって心配してたのよ。何かあったの?」
温厚な口調を聞き、こなたは心の奥が安らいでくるのを感じた。決戦を前に、思わぬ贈り物をされた気分だった。
「途中でグラマン4機と遭遇しまして、空戦を避けて迂回しました」
かがみは少しまじめくさった顔で答えた。ふゆきに対し緊張しているのではなく、グラマンと出会ったショックをまだ引きずっているのだと、つかさにはすぐわかった。
ふゆきは頷くと、ちらりと壁に立てかけてある大きな地図を眺めた。
「報告はもう来てるわ。関東がひどく叩かれてるみたいね」
ふゆきは立ち上がると、こなた達に背を向けて窓の外を見た。
「今日、『長門』 がやられたわ。横須賀の部隊から連絡があったの」
「・・・・・っ!」
なんと答えていいのかわからず、こなたは言葉を失った。見えるはずもないのに、ふゆきは窓から横須賀のほうを眺めた。
「連合艦隊の象徴がやられたってことは、もう本当に海軍は駄目なのね」
「・・・・・・・」
陸軍だって同じだと、言葉には出さないがかがみは思った。硫黄島守備隊も、あと半月ともたずに玉砕するだろう。
大本営がそれを発表するのはいつだか知らないが。
かがみが出されたお茶を飲み干した瞬間、背後のドアからノックの音がした。
「どうぞ」
ふゆきが言うと、ガチャリと音を立てて扉が開いた。
「部隊長、上空警戒第二直、任務を完了しました。味方双戦3機と遭遇。敵影なし。機体は二機とも異常なし。現在整備中であります」
カツンとかかとを揃えて敬礼をする二名の顔に、かがみは見覚えがあった。
「あーっ! 柊じゃん! こんなところで何してんの?」
目をキラキラさせたみさおが、場所柄もわきまえずに勢いよくかがみに抱きついた。
友の変わらぬ笑顔に、かがみは救われる思いがした。
「こら、みさちゃん、ここは指揮所よ。騒いじゃだめ」
あやのに諭され、みさおは急にしゅんとした。ふゆきは苦笑いを浮かべた。
「日下部さん、峰岸さん。任務お疲れ様。この人たちを宿舎に案内しなさい。泉さん達も、離陸までしばらくあるから休みなさい。敵情がわかったら伝令をよこすから」
「心遣いに感謝します。部隊長殿」
みゆきは立ち上がると、教本どおりの挙手の礼で感謝の辞を述べた。ふゆきは、なぜか少し申し訳なさそうな顔で答礼した。 こなた達は、指揮所のすぐ近くの宿舎に案内された。みさおとあやのは先任搭乗員扱いなのか、二人で一部屋を与えられていた。
「狭いながらも楽しい我が家ってとこだナ」
部屋はみさおの私物らしきガラクタがかなり転がっていたが、六人が腰掛けるくらいの余裕はあった。
「峰岸、日下部。あんたらこんなとこで油売ってたの? 上空じゃぜんぜん気づかなかったわ。練習部隊の教官なんかしてないで、第一線で戦いなさいよ」
かがみが何気なく言うと、みさおはちらっと外を見て苦笑いした。部屋からは滑走路がよく見えた。九五中練が何機か、危なっかしい動きでタキシングをしていた。
「ふふ、柊ちゃんが元気でうれしい」
あやのは飛行帽を脱ぐと、額にうっすらと浮かんでいた汗をぬぐった。
「でもね柊ちゃん。ここは練習部隊じゃないの。実施部隊なのよ」
わずかに視線をかがみからそらしながら、あやのが言った。かがみは、とっさに何を言われたのか理解できなかった。
「え、実施部隊って・・・・・・だって、ここにあるのは練習機ばっかりじゃないの?」
かがみはちらっと飛行場を見回した。視界の中にあるのは、緑色に塗装された九五中練ばかりだった。
先ほどまでみさおとあやのが操縦していた二機の四式戦だけが、偉そうに掩体壕の中に置いてある。
みさおはいたずらっぽい笑みを浮かべると、外の練習機の動きをちらっと確認した。
無理な訓練をしているのか、動作の端々に疲れがあることにかがみは気づいた。
「柊も聞いたことあるっしょ? 練習機の実戦部隊なんだぜぇ!」
みさおは近くに置いてあったやかんから水をコップに注ぐと、一息に飲み干した。
かがみはみさおの言っている意味を一瞬理解できなかったが、やがてピンと来た。
(まさか、この部隊は ―― )
「練習機特攻・・・・・・噂には聞いてたけど・・・・・・・・・」
「ピンポーン! 大正解だぜっ!」
おもちゃのような九五中練に爆装をさせ、未熟なパイロットの操縦で突っ込ませる。
噂には聞いていたが、実際の部隊を目の当たりにするのは初めてだった。
空を見上げれば、三機編隊の練習機が飛んでいた。
二番機と三番機は前に出たり横に滑ったりと、一番機にまともについていくことすらできていない。実戦に出るなど考えられないレベルの低さだった。
「あんなパイロットを、機動部隊に突っ込ませる気なの?」
かがみは、あまりの悲惨さに吐き気を覚えた。みさおとあやのは、かがみの言葉に少し困ったような顔をした。
「まあ、あたしらもその事はわかってんだけどさ・・・・・」
「柊ちゃん、もう命令が出ちゃっているのよ。だから私たちにできるのは、あの子たちの練度を少しでも上げることだけなの」
そう言われると、かがみはこれ以上批判じみた事は言えなくなった。
巨大な陸軍という組織の中では、個人の意見など何の意味も成さない。この二人は、命じられたとおりに訓練をしているだけなのだ。 「峰岸、日下部。あんたらも、行くの・・・・?」
かがみは胸を押さえ、搾り出すように言った。みさおとあやのは目を見合わせると、ちょっと笑った。
「うーん、実は近日中には九州のどっかの飛行場に進出して、沖縄付近の機動部隊攻撃に行く予定なんだわ。これ、一応は機密だから言っちゃ駄目だかんね!」
「私たちは、突っ込む子達の直衛をすることになってるの。まあ、ちょっとやってくるわね」
あやのはいつもの穏やかな笑顔に似た表情をしていた。しかし今日のその顔は、困難な任務を前にした人間の凄みが感じられた。
(直衛、よかった・・・・)
かがみは、あやのの言葉に心から救われた気がした。直衛なら、もしかしたら生きて帰ってこられるかもしれない。確率でいったら数パーセントではあろうが、それはゼロパーセントの特攻とは雲泥の差がある。
みさおは立ち上がると、胸を張った。
「あたしやあやのが手塩にかけて育てたパイロットたちが行くんだから、あたしらも行かないってわけにはいかないっしょ! だから、ちょちょっとやってくるわ」
みさおはかがみにウインクをした。かがみはため息をつくと、窓から見える四式戦を指差した。
「直衛って、あの四式でやるの?」
「いや、あたしらは四式に慣れてないから、一式戦で行くんだわ。ちょうど新しい三型が何機かあるし」
「そう・・・・・」
かがみはしばらく考えこむと、気になる事を聞いた。
「ねえ、九州から機動部隊まで行って、もとの基地まで帰還できるの? 一式でもちょっと厳しい距離じゃない?」
一式戦は航続距離が相当長いが、それでも九州から沖縄沖まで往復するのは、かなり難しい。
かがみの質問に、みさおはわずかに顔をしかめた。それが、痛いところを突かれたときにするみさおの癖であることを、不幸にもかがみは知っていた。
「その、実はね、沖縄本島に着陸するべしっていう命令になってるんだ。その後は現地部隊の指揮を受けよ、ってね」
みさおはかがみから目をそらし、顔をぽりぽりとかいた。
「現地部隊の指揮下に? 最近は海軍の真似みたいなことをやってるのね」
つとめて明るく言おうとしたが、かがみの表情は曇った。沖縄に行った戦闘機パイロットで、帰ってきた人間はいない。
「ってことは、もうじき沖縄に行くのね。気をつけて。結構厳しいわよ」
「うん、あははは・・・・」
「ええ・・・・・ありがと」
二人とも、妙に歯切れの悪い返事をした。かがみは、みさおとあやのが何か隠していることにすぐに気づいた。
「あんたら、何か私に隠してるでしょ」
ストレートにかがみが質問すると、みさおは目をそらした。
「何なのよ、一体・・・・・」
軍機に属することかもしれないので、かがみはそれ以上強くは言えなかった。そのまま嫌な沈黙が数秒流れた。
やがて、意を決したかのようにあやのがみさおの方を向いた。
「ねえ、みさちゃん」
「ヴぁ?」
みさおはあやのの顔を見ると、わずかに表情を硬くした。みさおは、あやのが何をしようとしているのかすぐにわかった。
みさおは、やれやれといった表情で肩をすくめた。
あやのはみさおの表情を確認してから、かがみの顔をまっすぐに見た。 「柊ちゃんに本当のことを言うわ。私たちは、沖縄に着陸する気はないの」
「・・・・・・・・」
みさおは言葉を失い、すねた顔でぷいと横を向いた。
「え、あんたら何言ってんの? だって沖縄に着陸しろって命令が出てるんでしょ?」
無邪気を装って言いながらも、かがみの右手は意思を無視してガタガタと震えだした。二人が何を言おうとしているのかは、ほとんどわかっていた。
「あんたたち、あんたたちまさか・・・・・・」
かがみは、言葉の震えを抑えられなかった。みさおとあやのは、申し訳なさそうに顔を伏せている。
「・・・・あんたたちも、機動部隊に突っ込む気なのね。特攻機を見届けたら」
沈黙が流れた。その沈黙が、何よりも雄弁にかがみの言葉を肯定していた。
「・・・・・柊ちゃん、申し訳ないけど、わかって。もし私達が生きて沖縄に着陸したところで、どうせ何日もしないうちに空戦でやられるわ」
「よしんば空中戦に生き延びたとしても、どうせ敵が上陸してくるから、なんにせよ玉砕だからナ」
二人は、何とか明るく言おうとしていた。そしてそれは、かがみにとって耐え難い優しさだった。
「ただ撃墜されるよりは、敵の飛行甲板に体当たりしたほうがまだましだわ。だから、私もみさちゃんもやるわ」
かがみは、この決意を止めさせることができなかった。確かに、あやのの言うことは間違ってはいない。
だけど、かがみにとってそれは受け入れられないことだった。
あらゆる理屈などどうでもいい、今目の前にいる友達を助けたかった。決死行ならば、まだ笑顔で送り出すことはできる。しかし、特攻は・・・・・・
こなたが雰囲気の変化を察知し、つかさとみゆきに目で合図した。三人は頷き合うと、静かに部屋を出ていった。
かがみは震えると、ぽたぽたと涙をこぼした。もう言葉が出てこなかった。あやのはあわててかがみにタオルを渡した。
「ほらみさちゃん、湿っぽくしちゃ駄目でしょ。柊ちゃんも困ってるわよ」
「ヴぁ? こりゃ失敗しちゃったかな。柊、元気出して見送ってくれよ!」
みさおは、無理をして空笑いをした。かがみは、涙を必死でかみ殺すと、顔を上げた。
「峰岸、日下部。がんばって。武運長久を・・・・・・」
そこまでが限界だった。あまりに月並みな励まししか言えない自分が呪わしく、かがみは呻きながら号泣した。
それを見たみさおもあやのも、申し合わせたかのように同時に目頭を押さえ、涙を止めようとした。
「柊ちゃん。柊ちゃんは死なないで。私は、柊ちゃんたちを守るためと思って戦うから・・・・・」
「柊ぃ、ありがとうなぁ・・・・・」
かがみは涙でぼろぼろになった顔を上げると、必死の思いで挙手の礼をした。みさおとあやのも、目にいっぱいの涙をためて答礼した。 燃料をたっぷりと補給された機体は、暖機運転のためにパラパラとプロペラを回していた。かがみを除く五人は機体の周りに腰掛け、ほとんど無言で来るべき時を待っていた。
「あ、お姉ちゃん」
宿舎から出てきたかがみに、つかさが最初に気づいた。だがつかさは、かがみの異様な雰囲気に呑まれてかけるべき言葉を失った。
「お、かがみん。多分、もうじき出撃だからね」
こなたもかがみの様子にもちろん気づいていたが、あえて何も知らないふりをした。
「いよいよ、敵機はサイパンを離陸したそうです。しっかりやりましょう」
みゆきの言葉に軽く頷くと、かがみは全員に向き直った。
「・・・・・・勝つわよ」
かがみが、やや唐突にぼそりと言った。全員の視線が、かがみに集中した。
「この戦争、何が何でも勝つわよ。死んでいった人のためにも、これから死ぬ人のためにも」
かがみの強い言葉にこなたは一瞬ぎょっとした表情をしたが、静かに頷いた。
「うん、やろう。かがみ」
指揮所から、伝令が一人走ってきた。こなたは、手を挙げて合図すると、命令が走り書きされたメモを受け取った。
「ふむふむ・・・・・」
しばらく沈黙したこなたは、メモをくしゃっと握りつぶした。
「お父さんからだった。全機、ただちに離陸して所定空域にて待機せよ、だって。敵はB-29が140機、P-51少数の模様」
「少数、ね」
かがみは、自分の中の恐怖が完全に消え去っていることに自分でも驚いた。昨日まで恐れていた敵機が、今は少しも怖いとは思わなくなっていた。
「行こう、みんな。戦争だよ」
こなたは、素早く自分の髪を縛った。
機体に乗り込むと、整備兵や練習生がたちまち機体を滑走路に押していってくれた。ここの人員はえらくマナーがいい。
こなたは二機の列機に、異常がないかを手信号で聞いた。かがみとみなみから異常なしの合図を確認すると、こなたはエンジン出力を高めた。
「みゆきさん、地面にお別れをしておいた?」
「また帰ってくるから必要ないですね」
冗談で聞いたのに思わぬ強い否定を受け、こなたはみゆきを頼もしく思った。なんだか、今日はいい戦いができるような気がした。
かがみは、離陸直前にぐるりと飛行場を見回した。思ったとおり、宿舎の窓からみさおとあやのが見送っていてくれた。
かがみは、ほんの一瞬右手を操縦桿から離し、挙手の礼をした。二人も素早く敬礼をした。
「さあ、戦うわよ」
機体が地面を切ると、かがみは自分の気持ちが研ぎ澄まされていくのを感じた。今日は、何の迷いもなく敵を落とせそうだった。
かがみは首をひねると、まだ1000キロ以上かなたのB-29の編隊を睨みつけた。
続きはまた今度にw senkaモノってその性質上どうしても粗暴さが出てしまうけれど個人的には征服した異国の美女たちに見とれてしまう男たちみたいなのがいいな
見てるだけで目の保養になるような美人さんたちにウットリし股間を膨らませ思わず飛びかかってしまう的な
どうしても現代戦に近いとより戦闘が苛烈になってさらにイデオロギーや人種・宗教対立が入ってジェノサイドっぽい猟奇性が強調されてしまうから
時代は大昔、古代とか中世初期がいい
アジアの騎馬族とシルクロードコーカソイド系の娘たちとか
オリエンタルな衣装に身を包んだ美人さんたちに惚れ込んだ男たちは丁重に彼女たちを抱きかかえ天幕へと連れ込む
女たちは鼻を赤らめエメラルドの瞳から涙を零すんだけどもうどうにもならず、むしろ自然な柔らかさを持つ
絹のような肌のぬくもりと乳房の感触で男たちを癒やしてあげてしまうんだよね
当然甘美な女体に包まれては勇ましい男たちも乱暴な気持ちにはならない
ただただ肌と肌の触れ合う感触に酔いしれつつ最後には子種を吐き出すのみ
こうしてねっとりとした草原の夜が過ぎてゆく……
https://i.imgur.com/FJHaL0I.png 無能なクソ運営がキチガイ埋め立て荒らしようやっとツブしても
ココじゃ何の評価も得られんしカネにならんからな
みんなカネになりそうななろうなんぞで戦記モノのなかでモブが兵隊に…とか流れた 三機の戦闘機は編隊を整えると、東京方面に向かいながら高度を確保した。
「ゆたか、寒くなってきたけど大丈夫?」
高度が6000mを越えたあたりで、みなみが前席に声をかけた。ゆたかはみなみの言いたい事をすぐに察知し、プロペラに不凍液を注入した。ちらりとエンジンの温度計を横目で確認したが、まだ適温の範囲内だった。
「横須賀が、燃えてるね」
「うん・・・・・」
昭和20年になって以来、各地の工場が軒並み操業を停止したため、本土の上空は変なほど煙がなくなっていた。しかし今日は、横須賀の方がうっすらともやがかかっている。炎はあまりはっきり見えないが、何が起こっているのかははっきりしていた。
「がんばって仇を討とう。ゆたかもがんばって」
「うん、しっかりやろうね、みなみちゃん」
ゆたかはマスクを試しにつけると、酸素ボンベのコックを開けた。シューッと空気が漏れる音がして、すこしひんやりとした気体が舌に当たった。ボンベの調子はいいらしい。
(酸素がもつのは、せいぜい2時間) その2時間の間に、勝負を決しなくてはならない。敵機を1機通せば、その分だけ人が死ぬ。それも軍人でも軍属でもなく、何の罪もない市民が。ゆたかは思わず、操縦桿を強く握り締めた。
その時、無線通信が入った。みなみは素早くメモを取ると、暗号書を開いた。平文で送ってこないということは、緊急の用事ではない。みなみは解読を終えると、伝声管を引いた。
「ゆたか。敵編隊は硫黄島付近を通過。敵は総勢二百機で三悌団。P-51は硫黄島飛行場を離陸の模様。敵機動部隊は友軍の攻撃を受けるも、なおも関東近辺を空襲中なり」
「うん、わかった」
敵が多いな、とみなみは思った。P-51の数がわからないのも薄気味が悪かった。 「あ、通信が入りました」
みゆきはさっとレシーバーを手で押さえると、両目を閉じて聞き入った。こなたは口を閉ざし、みゆきの邪魔をしないようにした。
最後まで電文を聞いた後も、みゆきは暗号表に手を伸ばさなかった。こなたは伝声管に口を寄せた。
「みゆきさん、平文だったの?」
「はい。接触機からでした。『敵超重爆130機、硫黄島北方30海里、高度6000。東海方面へ向かう。敵は直衛機35機を配す。われ空戦中』 と繰り返し平文で・・・・」
「今現在の通信は?」
「・・・・・・・ついさっき、急に通信が途絶えました」
その言葉の意味するところはわかりきっていた。こなたは、英霊となった仲間の冥福を祈った。一度も助けを呼ばず、自爆するその瞬間まで敵情を伝え続けることが、司偵隊のプライドなのだろう。
(仇を討つとか、そんなのは私に似合わないけど・・・・・)
柄ではないと知っているのに、こなたの心の奥底にかすかな怒りの炎がともった。こなたはサイダーを一口飲んで自分を落ち着かせると、後ろを振り返ってみゆきに声をかけた。
「みゆきさん、今日の敵はずいぶん低いね」
「ええ。恐らく、精密爆撃をするためにそこまで落としてきたのだと思います。たぶん、直衛戦闘機があるから高度が低くても安全と判断したのではないでしょうか」
「そっか、P-51がいるもんね」
高高度能力の低い自分達の戦闘機は、7000mを越えたあたりから性能ががくっと落ちる。敵もそのことをしっかりと知っており、それより上の高度で戦いを仕掛けてくるのが大好きだった。ただ今日は、低高度で来る。爆撃の効果を高めるために。
(やれやれ。ナメられたもんだね・・・・)
目の前が暗くなるような気分だったが、こなたは態度に出さないよう努力した。 「あとは、敵が東京の方に来るかですね・・・・・・」
みゆきが言った。こなたも、その点は気になっていた。敵は、いつも最初は富士山に向かって飛んでくる。霊峰ももはや、敵の航法上の目印にしかなっていなかった。
(頼むから、右に変針してよ・・・・・)
敵は、富士山を視認すると右か左に変針する。右ならば関東が、左なら関西や八幡がやられる。ただ、こなたは今日の敵は右に曲がると確信していた。
長く空戦をしているうちに、敵が何を考え、何をしようとしているのかはなんとなくわかるようになっていた。
「あの、泉さん」
伝声管から、遠慮がちな声が聞こえてきた。
「今のうちに、銃砲の試射をしておきませんか?」
言われて、こなたははっと気づいた。変に緊張しているのか、肝心な作業を忘れていた。
「そうだね。かがみたちにもやるって伝えといて」
こなたは、手元の機銃レバーの安全装置を外した。みゆきは電話回線を開いた。
「全機、機関砲を試射せよ」
「こちらつかさ、機関砲を試射します」
「こちらゆたか、機関砲を試射します」
列機の返事を待ってから、こなたは発射ボタンを親指の腹でゆっくりと押した。その刹那、ドォンと重苦しい音とともに青白い砲弾が発射された。
数秒の間をおいて、二番機と三番機がほぼ同時に砲弾を撃った。こなたの前方を、薄い噴煙を曳きながら2つの砲弾が飛んでいった。目で追えるほど速度は遅い。
「よし、主砲は良好」
八発しかない砲弾のうち、一発を今のテストで消費してしまった。これから先は、一発の無駄も許されない。
(撃ち込むとしたら、やっぱり操縦席かな?)
37ミリといえど敵機の急所に当てないことには、B-29の撃墜は困難だった。
こちらの砲弾の速度の遅いことも勘案に入れれば、やはり衝突寸前にまで突っ込んで操縦席か翼の付け根に命中させるしかない。
(斜め銃だと、反撃がなあぁ)
こなたは、斜め銃の発射ボタンを押した。ドンドンと軽いリズムで、20ミリ砲弾が左斜め上に向けて発射された。
夜間ならまだしも、今日のような昼間の迎撃戦では、斜め銃は使いたくない。敵機の腹の下にもぐりこめば、数十丁の敵の13ミリ機関砲が出迎えてくれるだろう。
たぶん、一発も射てずに華と散ることになる。かがみとみなみも、軽く20ミリを発射していた。 「みゆきさん。今日は基本的に37ミリだけでいくから」
「了解です。私もそのほうがいいと思っていました」
「みなみちゃん、左90度に機影!」
ゆたかは電話のスイッチを入れると、先を行く一番機と二番機に呼びかけた。
こなたとかがみが振り向くのを待って、ゆたかは機影の方を腕で指し示した。10個くらいの黒点が、徐々にこちらに近づいてくる。
「単発機。敵機じゃなさそう」
「うん、私もそう思ってた」
編隊の組み方が友軍のものだったので、ゆたかもそう警戒していなかった。みなみが双眼鏡で見てみると、その機影は12機編成の海軍の戦闘機隊だとわかった。
同じ空域の防空を担当しているのか、友軍機はほとんど平行に飛んでいた。やがて、少しずつ編隊は近づいてきた。少し迷惑だったが、かがみは相手をすることにした。
「先頭にいるのは、戦闘機じゃないわね。艦偵かしら?」
「お姉ちゃん、あれは彩雲っていう偵察機だよ」
かがみは一番機をじっと観察した。中席に腰掛けて無線機を操作しているのが、どうやら指揮官らしい。見張りもやらずに通信に専念している。
後ろに続く部下は、零戦、雷電、紫電改の混成部隊だった。こんなに機種が混じった編隊は珍しい。雷電と並んで飛んでいると、見慣れた零戦がやけに細身の戦闘機に見えた。
隊長機が、トトトッ、と軽く機銃を発射した。かがみが顔を向けると、偵察席に腰掛けた搭乗員が挙手の礼をとっていた。マフラーを首まで下げているので、ちょっと幼い感じの八重歯までもが見えた。あれが指揮官だな、とかがみは確信した。
「ずいぶん人懐っこい指揮官ね。何がしたいのかしら?」
「ただのあいさつじゃない?」
海軍の編隊も、今日の空戦がどんな結果になるかをわかっているのだろう。今日の敵には戦闘機がついていることは、海軍も当然知っているはずだ。
誰もが、自分の落下傘バンドを何度も確認しているに違いない。過去に、落下傘降下した友軍のパイロットが敵と間違えられて住民に撲殺されて以来、両肩には目立つ日の丸が縫い付けられていた。
かがみも、自分のバンドと肩の日の丸をさっと手で探った。しっかりと体に繋がっている。いざというときには、躊躇なく使うつもりだった。
海軍機の搭乗員達はめいめいに手を振ると、変針していった。どうやら、本気であいさつだけするつもりだったらしい。このご時世にずいぶん余裕のあることで、とかがみはあきれた。 しばらく間を置いてから、みゆきが伝声管を持った。
「泉さん。なんだか今日は、特攻隊の皆さんにあまり恥ずかしくない戦いができそうですね」
「まあね・・・・・」
やや唐突な言葉だったが、こなたはみゆきの言いたい事を理解できた。
かがみやみゆきが、今まで数え切れないほど見送ってきた特攻隊のパイロット達に、ひどく負い目を感じているのは知っていた。すぐ近くで戦っていたこなたには、そのことが嫌でも伝わった。
(今日の自分達は、特攻と同じくらいの危険の中にいる。だから、引け目を感じないですむって言いたいんでしょ)
自分は自分、他人は他人とある程度割り切っていられるこなたは、正直に言ってみゆきの感情に同意してはいなかった。今日の出撃も、ただ自分達の運命であり、特攻の人間達は関係ないはずだった。
しかし今のこなたの心の中にあるものは、わけのわからない安堵だった。
実際、今朝に特攻機を見送ったとき、いつもより心穏やかだったことは自分でも理解していた。こなたも、自分の心の中で起こっていることを肯定せざるをえなかった。
(私も、みゆきさんと同じだった。自分が安穏に生きていることに引っかかりを感じてたんだ・・・・・・今初めて知ったよ)
土壇場になってわかった自分の真人間らしい心に、こなたは微笑んだ。 「見えた・・・・」
こなたは、ごくりと生唾を飲み込んだ。真っ青に晴れ渡った空に、ぽつ、ぽつと黒い点が浮かび上がった。最初は一つ二つしか見えていなかったその点は、あっという間に数百もの数に膨れ上がった。
B-29はエンジンが四つと胴体があるため、距離があると1機が5つの黒点に見える。
「みゆきさん、電信!」
「はい。やっています」
思わず冷静さを失って怒鳴りつけたが、みゆきは穏やかな口調で返してきた。
敵機は、山梨県上空を北東に向かって飛んでいた。針路だけで、こなたは敵の攻撃目標を察した。
「みゆきさん、ついでにこう言っといて。敵の爆撃目標は、中島飛行機武蔵野工場の公算大なり!」
「ええ。わかりました」
やはりあそこか、とこなたは感じた。この国の、航空機用エンジン生産の心臓部。今までも何度も爆撃目標になっている。
「ったく」
敵編隊の近くで、ボコボコと高射砲弾が炸裂しているが、敵機の編隊に全く乱れはなかった。かがみは友軍の高射砲部隊のふがいなさにため息をついた。
よく見ると編隊がかなり欠けているが、たぶん撃墜したのではなく故障で引き返したのだろう。
かがみは増槽を落とし、機銃の安全装置を解除した。機銃の照準機の電球をつけると、いよいよ空戦だなと感じる。
「つかさ、戦闘機は見える?」
「うん、ちょっと待って」
つかさは遠眼鏡を掴むと、ざっと見渡した。それはまるで自分の処刑人を探しているような気がして、なんだか変な気分だった。
(あ、いる)
尖った鼻の液冷戦闘機。一瞬は見慣れた三式戦だと思ったが、胴体に目をやればその差は明瞭だった。青と白で描かれた、星と横じまのマーク。日の丸じゃない。
つかさはカタカタと震える手で無理やり無電機をつかんだ。この震えは、寒さだけのせいではなかった。
「泉小隊二番機です。B-29の編隊を視認しました。駿河湾付近、P-51もB-29と同航中です」
先ほど挨拶をしてきた海軍の戦闘機隊が少し右手から現れると、すーっと前に出ていった。いつの間にか全機が増槽を落としていた。
つかさが手を振ると、一機の紫電改のパイロットが真面目に敬礼をしたのがおかしかった。
「了解。機数はどうか」
基地から明瞭な返答が帰ってきた。つかさはざっと敵情を確認した。
「B-29百十機、直上に、直上に・・・・・」
つかさは、声の震えを必死で押さえ込んで言葉を続けた。
「直掩戦闘機30機を配すっ!」
それだけを言うと、つかさは力任せに送信を切った。得体の知れない恐怖が全身をさいなんでいた。 「P-51ね。間違いない」
かがみは努めて冷静に言うと、速度を確保するために風防を閉め、飛行眼鏡をかけた。裸眼だと、敵機がキラキラと太陽光を反射して少しまぶしかった。
(こりゃ、ほとんど特攻だね)
つかさは心の中でため息をついた。思えば、ノモンハンのころから、友軍のほうが数が多い空戦なんてほとんどなかった。いつもいつも劣勢の中で戦争をするうちに、いつの間にかこんなところまで来てしまった
周りを見回しても、味方は自分たち3機と海軍機の編隊があるだけだった。無電を聞いていると、東よりにかなり大規模な陸軍の編隊がいるようだったが、まだ見えなかった。こちらに来るまでには少し時間がかかるだろう。
敵編隊は、B-29の編隊の上空に20機弱、やや前方に10機と戦闘機を置いていた。戦闘機を直衛と前衛に分けた、典型的な戦爆連合の編隊だった。
「それにしても、編隊がきれい過ぎるわね」
かがみがぼやいた。すでに何回か友軍機が攻撃を仕掛けているはずなのに、敵の編隊は不気味なほど整っていた。
普通なら、戦闘機の配置がばらばらになっていてもおかしくないのに。ただ、P-51の翼下に増槽がついていないことは間違いなかった。
「敵機ももう増槽を落としてるわね」
「うん。燃料を考えたら私達の方が有利だね」
かがみは、状況によっては敵戦闘機を引きずりまわしてやるだけでもいいなと思った。長時間の空戦を強いれば、P-51は燃料がなくなって硫黄島に帰らざるをえなくなる。
そうやってB-29を裸にした後で、別の友軍機に叩いてもらえばいい。
(あれ・・・・私って、こんなに冷静だったっけ?)
みさおとあやのの事を、忘れたわけではなかった。しかし、かがみはB-29にがむしゃらに突っ込むような気持ちにはならなかった。
(私じゃなくてもいい。誰かがB-29を落としてくれるなら、それが弔いになる)
旺盛な戦意と冷静な判断力がまぜこぜになったような、不思議な気分だった。かがみは、自分の精神がこの上ないほどに高い位置にいることに自分で気づいた。
「やるわよ、つかさ」
「うん。やろう!」
つかさは、ガチャリと音を立てて旋回銃の弾倉をはめた。 「あっ、左30度上方に味方機です!」
周囲を見張っていたみゆきが、驚いた声を出した。こなたはすぐに言われた方向を見たが、太陽がまぶしく光っているばかりで何も見えなかった。
「ほとんど太陽の方向です。三式戦のようです」
みゆきは、いつの間にか飛行眼鏡をかけて太陽を見ていた。こなたもとっさに着用しようかと思ったが、視界がさえぎられるのが嫌なのでやめた。
数秒もしないうちに、三式戦の編隊が太陽からぱっと躍り出てきた。編隊は9機、ぴったり一個中隊だった。
敵編隊も、この存在に今気づいたようだった。P-51の半分ほどが急激に翼を傾け、襲撃の姿勢に入った。しかし三式戦はずいぶんと速度が速く、あっという間に敵編隊に向けて突っ込んでいく。
「さすが新鋭機、やるね」
三式戦はなぜか塗装をはがしており、ジュラルミンの機体が太陽光を反射してまぶしいくらいだった。ただ、胴体と翼の日の丸だけが、やけに色濃く描かれていた。
「なんでしょう。ちょっと異様な感じですね」
「うん・・・・」
P-51の部隊は、まずこの三式戦から叩く気になったようだった。B-29に張り付いていた敵戦闘機も、ほとんど全機が三式戦の編隊に向かって大きく旋回した。B-29はかまわず直進している。
「あ、敵戦闘機がはがれた」
「ラッキーだね、みなみちゃん」
思いもよらず敵戦闘機が減り、みなみとゆたかは微笑を交わしあった。
P-51は、下から三式戦に食らいついた。気の早いパイロットは機銃を撃ちだし、キラキラと光る弾丸が飛び交った。たちまち、一機の三式戦が黒煙を曳いて落ち始めた。
「みゆきさん、戦局は?」
三式戦とP-51は見た目が似ていて、遠目ではどっちだかわからない。こなたは双眼鏡を持ったみゆきに質問した。
「残念ながら、友軍機が一方的に撃たれているようです。あ、また一機やられました」
案の定、落ちていくのは友軍機ばかりのようだった。こなたはやれやれとため息をついた。
だが、三機の友軍機が、空戦を無視してB-29に向かって突っ込んでいった。虚を突かれたのか、敵戦闘機はこれの通過を許した。 「お、攻撃をかけるわね」
三機は、この高高度でありながら密接な編隊をすばやく組んだ。B-29の編隊はそれに気づき、胴体上部に取り付けられた双連機銃が三式戦に向かってすばやく旋回した。
やがて、機銃はいっせいに火を噴いた。シャワーのような弾丸が、三式戦に向けて斜め下から降り注いだ。
「やられたっ!」
最後尾の機体の黒い破片が中空に散った。やがて、右翼が激しく震えたかと思うと、半ばからちぎれて飛んだ。
風防にもいくつもの穴が開き、パイロットが射殺されているのはほとんど間違いなかった。機体は数箇所から火を吹き、真っ黒な煙を引きながら落ちていった。
突然、隊長機がのたうつようなバンクを振ると、急降下の体勢に入った。その瞬間、つかさの目の前の通信機が雑音を発した。やがて、それは明瞭な声となって聞こえてきた。
「こちら八坂中隊、これより突撃」
一番機はくるりと横転し、ぐっと操縦桿を引いてB-29へ急降下を始めた。不気味さを感じたのか、敵機は猛烈に撃ちまくっている。
(やる気だ)
二番機も反転し、一番機に続いた。これだけ急激な操作をしているのに、まだ一番機に遅れずについていっている。
「行け、やっつけろ!」
後席から、つかさが急に叫んだ。だが次の瞬間、隊長機がうっすらと黒煙を曳いたかと思うと、ぱっと炎を発した。火炎はたちまち機体の前半分に広がり、機体はくるくると回りながら落ちていった。
「あっ!」
つかさが両手を口に当てた瞬間、一機のP-51が三式戦の脇を急降下していった。隊長機を食ったのはあれに間違いなかった。
だが、二番機がまだ残っていた。機銃を撃っているのだろう。きらきらと光の粒がB-29に向かって伸びている。また、つかさの無電機が鳴った。
「こちら田村機、これより突撃」
残った二番機に、B-29全機の銃弾が集中した。背後にはさっきとは別のP-51が回り込み、やや距離があるが機銃を撃ちまくっている。
しかし三式戦は体勢を崩さず、B-29の編隊に突っ込んでいった。胴体後部の燃料タンクに被弾したのか、機体の下半身が炎を発した。
「行けるっ!」
かがみは、思わず握りこぶしを振り回した。この寒さにもかかわらず、手の平にじっとりと汗がにじんでいた。
三式戦は、炎をまとったまま敵の指揮官機に突っ込んだ。ドンッという衝突音が響き、B-29の機体中央にめり込んだ機体は瞬時に爆発して四散した。
B-29は中央から真っ二つに折れ、乗員が裂け目から何人か吹き飛ばされていった。
「やった、やったよっ!」
つかさが、手を振り回して叫んだ。かがみは重苦しい感動で言葉が出てこず、左手で胸を押さえながら操縦を続けた。
(なんて戦争なの・・・・・)
特攻隊は何度も見た。だが今目の当たりにした体当たりは、胸に何かが突き刺さるようにショッキングだった。自分がパイロットであるだけに、体当りする者、体当たりされる者それぞれの恐怖が想像できた。
「かがみ、下を向くなっ!」
突然、無電機から大声がした。はっとして顔を上げると、一番機の操縦席で、こなたが握りこぶしを振り回していた。
「今度は私達の番だよ! 突っ込もう!」
かがみは無理矢理涙を押さえつけると、唇をかみ締めて頷いた。
「わかってる。やってやるわよ!」 海軍の戦闘機隊は一斉にエンジンをふかすと、攻撃態勢に入った。速度の速い紫電と雷電が先に出て、遅い零戦は徐々に後落していった。
しかしどうも最初からそうなることは織り込み済みだったらしく、零戦は焦った様子もなかった。先頭の彩雲も突撃している。偵察機のくせに空戦をするつもりなのだろうか。
先ほどの三式戦は全滅したのだろう。P-51の部隊も、編隊を軽く整えてこちらに突っ込んできた。
「行くよ! 海軍と同時攻撃だ!」
こなたは叫ぶと、照準眼鏡を覗き込んだ。まだ距離がありすぎたが、照準の中心にB-29を入れた。
「先頭の機を叩こう」
敵の指揮官機はさっきの三式戦が体当たりで落としていたため、今はどの敵機が指揮をとっているのかわからなくなっていた。
それなので、こなたは最も防御砲火が弱い編隊の先頭を狙うことにした。
(命中させるべき場所は、翼の付け根だね)
あらゆる飛行機にとって、そこは弱点になる。37ミリをまともに食らえば、B-29といえどもただではすまない。
「みゆきさん、敵機は?」
一部のB-29は、もうこなた達を撃ち始めていた。キラキラと光る弾丸が、敵編隊から次々と飛んでくる。
「P-51は徐々に背後に回り込んでいます」
近くを敵機が通ったのか、二番機のつかさが短く機銃を撃った。こなたは周囲を見回し、確かにP-51が何機か自分達の後方に来ていることを確認した。
(マズイなぁ。P-51に食いつかれたら・・・・・)
一回攻撃をしたら、いったん退避しようとこなたは思った。未練がましく再攻撃を試みれば、必ず撃墜されるだろう。
「みゆきさ――」
こなたが声を発した瞬間、ボンッと異様な爆発音が背後でした。ぞっとしてこなたが振り向くと、二番機は大きな炎に包まれ、どす黒い煙を太く曳いていた。みゆきも二番機の様子に気付き、はっと息を呑んだ。
「・・・・ンクに被弾、爆・・・・・・」
無電が入り、ひどい雑音に混じって、つかさの声が聞こえてきた。しかし、通信はすぐに途切れた。
「かがみさん、つかささん、落下傘降下をしてください!」
みゆきがマイクを掴んで絶叫した。返事はなかったが、前席の風防が開き、かがみが煙に激しく咳き込みながら脱出しようとしているのが見えた。
「かがみ、早く!」
「真上にP-51ッ!」
こなたと同時に、ゆたかも金切り声を上げた。はっとして上を振り仰ぐと、機銃を乱射しながら敵機が急降下してきていた。こなたはとっさに操縦桿を一杯にまで倒した。
「かがみさん、よけてっ!」
ゆたかの叫びもむなしく、二番機に次々と敵機の銃弾が命中した。
身を乗り出していたかがみの姿がふっと機内に消え、機首ががくっと下がったかと思うと、二番機は強い光を発して大きな爆発を起こした。
グワッという爆発音がこなたにまで聞こえ、空中には焼け焦げた機体の破片がパラパラと飛び散った。 「そんな・・・・・」
こなたは呆然とした表情で、つい数秒前まで二番機がいた空を探った。しかし、機体は四散し、かがみやつかさの落下傘はどこにも開いていなかった。
「・・・・・・・・くっ」
こなたは唇をかみ締めると、操縦席に座りなおした。目の前を、炎に包まれた雷電がくるくる回りながら落ちていったが、こなたの視界には入っていなかった。
「・・・・殺してやる」
こなたの心の中で、怒りがぐつぐつと煮えたぎった。みゆきも、硬い表情で頷いた。
「やりましょう、泉さん」
こなたは操縦桿を強く握ると、照準に目をつけた。いつの間にか、敵編隊にかなり近づいていた。B-29は盛んにこちらを撃ち、時折鈍い音を立てて銃弾が命中したが、こなたには気にならなかった。
「みゆきさん、いくよっ!」
「お願いします!」
照準機の中に、B-29の巨大な機体がどんどん大きくなってくる。操縦席の敵兵の顔すら見えそうだった。
「食らえっ!」
必中の距離にまで引きつけてから、こなたは37ミリ砲の発射ボタンを押した。次の瞬間、ドォンという振動とともに、砲弾が発射された。
すぐに、B-29の胴体の中部にぱっと爆発が起き、機体に大きな穴が開いた。しかし、敵機はそれでも悠々と飛んでいた。こなたはみゆきに聞こえそうなほどに大きな音で舌打ちした。
(ちぇっ。致命傷じゃない)
こなたは安全の確保のために、機体を降下の姿勢に入れた。機体を安定させてから背後を見ると、三番機が同じ敵機に飛び込んでいくところだった。
「行きます。これは、かがみさんと、つかささんの分です!」
無電から、ゆたかの声が聞こえた。三番機の37ミリ砲が砲煙とともに白い光を発すると、B-29の右翼の翼端が音もなく吹っ飛んだ。敵機はぐらりと体勢を崩すと、つーっと音もなく落ちていった。
「やった!」
こなたは右手を振り上げ、ガッツポーズをした。この撃墜は、かがみとつかさの戦果にしてあげようとこなたはとっさに思った。ゆたかもわかってくれるだろう。
(かがみ、つかさ、やったよ・・・・・・)
こなたは一瞬目を閉じ、二人のことを思った。しかしこなたの気の緩みを叱るかのように、みゆきの強い声が伝声管から飛び込んできた。
「泉さん、8時方向上方に敵機です!」
こなたははっと我に返ると、言われた方向を見た。尖った鼻の敵機が、自分達に向かってすごい速度で急降下してくる。みゆきは素早く機銃をまわすと撃ちだした。
「くっ!」
操縦桿をひねろうとした瞬間、ガツーンと強い衝撃を感じ、こなたは急速に意識を失った。 「お姉ちゃん!」
ゆたかは悲鳴を上げた。こなたの背後に張り付いた敵機は、猛烈な銃撃を加えている。一番機の両方のエンジンは煙を吹き、風防にも何発も銃弾が命中している。
「みなみちゃん、撃って!」
「うん。任せて」
みなみは機銃を回し、敵機に向けて撃った。しかしP-51は軽く翼をひねってみなみの銃撃をよけると、満足げに飛び去っていった。みなみは敵機を睨みつけたが、射程外に逃げられるとどうしようもなかった。
「お姉ちゃん、お願い脱出して!」
「・・・・・・・」
ゆたかは叫んだが、こなたからの返事はなかった。一番機のエンジンから火災が起こると、炎はたちまち機体全体を包み込んだ。一番機は力を失い、すーっと落ちていった。
(お姉ちゃん、こなたお姉ちゃんっ!)
ゆたかは、こなたの無事を祈った。しかし一番機は爆発を起こすと、機体の後部がちぎれ飛んだ。ゆたかとみなみが悲痛な表情で見送るなか、一番機は激しく回転しながら落ちていく。
あれでは、万が一こなたやみゆきが生きていても、加重で脱出はできない。
(もうダメ。いったん退避しないと・・・・)
ゆたかは激しい恐怖を感じ、焦りながら機体を急降下の姿勢に入れた。しかし、突然ガガガッと嫌な音がしたかと思うと、右エンジンがぱっと火を噴いた。
「撃たれた!」
みなみが鋭い声で叫んだ。ゆたかは素早くあたりを見回したが、P-51はいなかった。B-29の旋回銃に撃たれたのだとすぐわかった。
「だめ。操縦桿が効かない・・・・・」
ゆたかは操縦桿を動かし、絶望的な表情を浮かべた。操縦用のワイヤーが切られたのか、操縦桿が異様に軽くなり、動かしても機体が何の反応も示さない。
フットペダルを踏むと、ラダーだけはどうにか動いたが、それだけではどうしようもなかった。 (脱出しよう)
ゆたかが覚悟を決めると、それに抗議するかのように右エンジンがガツンと音を立てて爆発した。それに続いて、また銃弾が何発も命中した。風防に蜘蛛の巣のような亀裂が走り、右肩に鋭い痛みが走った。
「くっ!」
傷口を押さえるゆたかの飛行手袋の隙間から、さらさらとした血が流れた。しかし、ゆたかは苦痛は無視して後ろを振り向いた。
「みなみちゃん、操縦できない。脱出を――」
そこまで言うと、ゆたかは絶句した。みなみは薄い胸からどっと血をあふれさせ、前方に突っ伏していた。目は見開かれ、右手はまだ旋回銃の引き金にかかっていた。
「みなみ、ちゃん・・・・・」
もう言葉もなかった。ゆたかは胸の奥底から湧き上がってくる恐怖と吐き気をどうにか押さえながら、ベルトを外した。
左手だけで風防を開けると、ゆたかは教本通りに主翼の付け根に降りた。
そのままツーッと体は後ろにすべり、翼の縁からゆたかは空中に投げ出された。手を伸ばして後席のみなみに触れようとしたが、届かなかった。
機体から飛び降りるのは初めてだった。みるみるうちに遠ざかる愛機をしばらく眺めてから、ゆたかは落下傘の開傘バンドを引いた。落下傘はパッと開き、バンドがぐっと体を締め付けた。
(やってる・・・・)
ゆたかが上空を振り仰ぐと、新たに現れた四式戦の部隊が敵機に挑んでいた。つい数分前には自分もB-29を撃墜したのに、落下傘でぶら下がりながら見る空中戦は、なんだか別の世界の光景を見ているようで、現実感がなかった。
気が抜けると、急に右肩にひどい痛みがした。見てみると、飛行服が裂けて血が流れている。どうやら銃弾ではなく、何かの破片が突き刺さっているらしかった。
(どうでもいいや・・・・・)
自分だけが生き残り、こんな傷はいまさら気にならなかった。
何気なく足元を見てみると、地上がだいぶ近づいていた。
ゆたかは、ちょうど真下付近にあった駐車場らしき場所に降りることにした。風は弱く、落下傘を軽く動かすと、意外と簡単に操作できた。 木や電線に引っかからないように気をつけながら、ゆたかはどさりと地面に降りた。衝撃で肩に強い痛みが走ったが、ゆたかは苦痛をかみ殺してバンドを外した。
「ああ・・・・・」
ゆたかは、大の字になって寝転がりながら空を眺めた。火災を起こした機体が、黒い煙で航跡を空に残している。あれはP-51だろうか、友軍機だろうか。
(そうだ。帰らないと。帰って、報告をしないと・・・・・)
そうじろうに、こなたの死を伝えるのは途方もなく気が重かった。しかし、それは自分がやらなくてはならないことだった。
ゆたかが上半身を起こすと、一台だけとまっていた車から、運転手らしき男が降りてきた。敵と疑っているのか、恐る恐るといった感じで近づいてくる。
「大丈夫。味方ですよ」
ゆたかは苦笑すると、飛行服の左肩に縫いこんである日の丸を見せた。それでようやく安心したようで、運転手はすたすたと近づいてきた。
「え〜と、こんにちわ。白石といいます」
「あ、こんにちわ。小早川ゆたかです」
あいさつをかわすと、気まずい沈黙が流れた。ゆたかも、それ以上何を言えばいいのかわからなかった。
「おい白石、何してんだ! 乗せてやんな!」
停車していた車の中から、身を乗り出して女が下品な声でわめいた。ゆたかはその顔に見覚えがあった。
「は、はい! すぐに!」
白石は直立不動の姿勢で返事をすると、ゆたかに手を伸ばした。
「さ、どうぞ。車で送りますよ」
「あ、どうも。お願いします」
歩けない怪我ではないが、ゆたかは好意に素直に甘えることにした。よく考えればここがどこかもわからないし、お金も持っていない。
失礼します、と軽く声をかけて後部座席の扉を開けると、あきらは黙って頷いた。 「お疲れさん。あんた、陸軍のパイロットだね」
相変わらず、ブカブカの上着を着たあきらが、優しい目でゆたかを見た。ゆたかは頷いた。
「そうです。乗機がやられて・・・・・・どこか近くの陸軍の施設までお願いします」
ゆたかの言葉を聞くと、あきらは軽く首を横に振った。
「いや、あんたの原隊にまで送ってってあげるよ・・・・それとも、病院?」
あきらは、ゆたかの右肩に視線を向けながら言った。落下傘で着地したときに傷口が裂けたらしく、けっこう派手に血が流れていた。
「いえ、わざわざそんな。たぶんすごく遠いですよ」
ゆたかが遠慮すると、あきらはフンと鼻で笑った。
「変に気を回さないでいいよ。どうせ、今日の慰問も終わったし、あんたを送るのを口実に陸軍に顔を繋いでおきたい」
あきらは誉を取り出すと、マッチで火をつけた。民間人の割にいい煙草を吸っているな、とゆたかは驚いた。
「で、どちらまで?」
運転席の白石が振り向いた。なんだか本当に原隊にまで送ってくれそうな雰囲気になっていたので、ゆたかは糟日部航空隊の所在地を素直に告げた。白石は頷くと、エンジンをかけた。
「やられてるねぇ・・・・」
あきらは窓枠にもたれると、東京の方向を指差した。B-29の腹から黒い塊がパラパラと落下し、その下では町が赤々と燃えていた。ゆたかは無力感を噛み締めた。膝の上で組んだ両手に、ぽたぽたと涙が落ちた。
(守れなかった。誰も、何も・・・・・)
爆撃を終えて悠々とサイパンに帰るB-29を、ゆたかは見ている事しかできなかった。 「・・・・・・・そうか。よくやってくれた」
長い沈黙のあとに、そうじろうはそれだけを言った。目は硬く閉じられ、表情は読めない。
「ゆーちゃん、よくやってくれた。本当に、よくやってくれた。とにかく病院で手当てを受けるんだ」
「はい」
そうじろうが耐えているのに泣くわけにもいかず、ゆたかは涙を必死でこらえて敬礼した。右肩の傷はじくじくと痛んだ。
それからたった5ヶ月で、戦争は終わった。
おわり 自分に熱く語れる知識も筆力もないのが申し訳ないほど力作で凄く面白かった 戦で多くの男手を失った村。
そこを包囲する近くの賊たち。
過去幾度となく賊たちと小競り合いをしてきた村であったが
村の守り手であった男たちを失った今その命運は風前の灯火――
賊たちは村を取り囲み通告した。
”降伏して村を明け渡せば破壊はしない”と
流浪の生活を続ける賊たちにとって村を制圧することは
自分たちの安寧な暮らしの拠点の確保、そして略奪に頼らない
資源の安定した入手を可能とする願ってもない悲願であった。
「もはや抵抗なすすべなしか……」
これまで村の防衛の陣頭に立っていた村長は多くの村人たちの前で
そう重く呟いた。
それを聴いていた村の住民たち、特に13歳から30歳前後に至るまでの
若い娘たちはこれから自分の身に降りかかるであろう「災厄」を
脳裏に思い浮かべ目に涙を浮かべた。
程なくして村は村長の意思に基づき目印となる白い布を掲げた。
幸いにも賊たちは公約を守り村は破壊されることなく制圧され
その手中に収まることとなった。 だが村は破壊されずとも村人たちの心に安寧はなかった。
村が賊たちの手に落ちる、それはすなわち村の若い娘たちの
身体さえも彼らのものになることを意味したからだ。
賊たちは村を完璧に手中にするための手段として13歳から20歳までの
未婚の女たちに自分たちと祝言をあげるよう迫った。
そして20歳以上であったとしても容姿美しく配偶者を戦災で亡くしている
未亡人であれば容赦なく婚姻を交わすことを要求した。
女たちにこれを拒絶できる術はなかった。
逃げられないカゴの中に閉じ込められた乙女たちにできるのは
せいぜい清らかな身体で過ごす最後の晩に愛する親兄弟と抱擁を交わし
思う存分に泣きはらすことだけであった。 それから程なく、村では盛大に若い娘たちと村の新しい男手たちの婚姻を
祝う宴が催された。
男たちは自慢げに新妻の肩を抱きながら酒と料理に舌鼓を打ち宴を楽しんだ。
そして程よく酒も回ってきたところで狼狽える新妻たちを抱き寄せ、涙ながらに
顔をしかめる生娘たちと強引に接吻や愛撫を交わした。
さしずめそれは男たちにとってこれから始まる本当の宴を前にした前夜祭であった。
やがて前夜祭は終わりを告げ宴はいよいよ本番を迎えた。
思えば美しい娘たちを前にした賊にしては辛抱強く堪えた方であろう。
本心では村を制圧してすぐにでも娘たちを我が物にしたかったであろうものを
欲望を抑えて彼女たちに心の準備をする猶予を与えたのだから。
それは賊たちにとって村の女が単に欲望のはけ口としての略奪対象でなく
妻として迎える大切な財産であったからこその慈悲であった。
事実男たちは新妻を連れ込み床についてからも極力女たちが傷つかないよう
丁重に女体を扱うことを心がけた。
これまで乱暴な略奪しかしらない男たちであったが、今回の破壊を伴わない征服では
暴力に訴える必要もなかったためか彼らの心を純粋な色欲以外で荒立たせるものは何もなかった。
それゆえ男たちは新妻の絹のような肌とぬくもりをじっくりと味わいながら繊細にその女体を
責めていきながらゆったりとした腰使いで己の矛を若い女房の花園へと収めていった。 だが皮肉にもその男たちの優しさと新妻を愛しく思う気持ちがかえって純粋な乙女たちの心に
征服される屈辱と悔しさを与えていった。
もちろん女たちが初めての床で流した涙には破瓜の痛みに対する反応もあった。
だがそれ以上に美しい彼女たちを泣かせたのはこれから妻として子を孕まされるという
事実への不安と恐怖に、そしてなにより自分の女体が男たちにじっくりと愛されることによって
反応してしまうという残酷な生理現象であった。
女たちは涙と同時に堪えきれない喘ぎを発した。
男たちに可愛い可愛いとその清らかな女体を撫でられる度、彼女たちの肌に鳥肌が立ち
桜色した乳首もピンと張り詰めた様相とかした。
そんな屈辱と快楽の狭間で悶える女房の姿に男たちはますます彼女たちを愛しく感じて
より深く濃厚にその神秘的な女体を愛でていった。
理性の限界を超えた男女の営みの中で多くの女たちは絶頂とともに愛していないはずの
男たちの身体に腕を巻き付けその背中に爪を引っ立てながら仰け反ったという。
そして男たちもまた女体のぬくもりに癒やされながらうっとりと絶頂を迎え
ヨーグルトのように濃い子種を吐き出して果てた。
こうして村の夜は静かに過ぎていく。
やがて月日がめぐり季節が一巡したころ、あの日涙した女たちは
夫に優しく肩を抱かれながら生まれたばかりのわが子の口に乳房を与えた。
あいも変わらず美しい彼女たちの顔には優しい笑みとほんの一握りのかすかな
悲しみが写っているように見えた。
END >>73
村、女、犯。
このスレらしい三拍子が揃った正統派SSで満足。
乙です 戦火じゃないかもだけど、学校の先生が教室に入ったら生徒の男女が全裸で、なぜか教師も服を脱いで授業をしている間に生徒は服を着てて教師だけ外からの人にさらされるとかいう動画知ってる人いる? ビルマ:治安部隊がロヒンギャの成人女性と少女をレイプ | Human Rights Watch
ttp://hrw.org/ja/news/2017/02/05/299699
> ビルマ国軍と国境警備隊は10月9日から12月中旬にかけて、レイプ、輪姦、権利侵害にあたる身体検査、
> 性的暴行などをマウンドー郡の少なくとも9つの村で行ったと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
>
> 村人の自宅に侵入した治安部隊が家人を殴打あるいは殺害し、女性たちをレイプする事例も多かった。
> ヌアさん(40代、仮名)によれば、20人の兵士が自宅に押し入り、ヌアさんと夫を外に引きずり出したという。
> 「庭に連れて行かれると別の2人の兵士が私の頭にライフル銃をつきつけ、
> 衣服をはぎとり、レイプしたのです…。
> 兵士たちは私の目の前で[夫を]手斧で殺しました。さらに3人の男からレイプされました…。」
>
> 自宅で兵士たちにレイプされかかったと話す20代の女性は、兵士たちにこう言われたという。
> 「俺たちを殺すためにガキを育てているんだろう。だからガキどもも始末してやる。」
ビルマ:ロヒンギャ成人女性と少女、大規模なレイプ被害 | Human Rights Watch
ttp://hrw.org/ja/news/2017/11/16/311441
> ビルマでは、ラカイン州のロヒンギャ・ムスリムに対する民族浄化作戦の一環として、
> 治安部隊による成人女性と少女への大規模なレイプが行われていると、
> ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。
>
> ビルマ国軍兵士による成人女性と少女へのレイプは、村落への大きな襲撃の最中と、その数週間前、
> 嫌がらせが繰り返された後の時期のどちらでも起きていることが、
> ヒューマン・ライツ・ウォッチにより明らかになった。
> どの事例でも、レイプ実行者はビルマ治安部隊の制服を着た隊員で、ほぼすべてが軍人だった。
> ラカイン民族の村民は、ビルマ軍と明らかに共謀して、
> ロヒンギャ成人女性と少女への性的嫌がらせを行った。
>
> マウンドー郡ハティ・パラ村のハラ・サダックさん(15)は、兵士たちに服を奪われ裸にされ、
> 家近くの木まで引きずり出され、そこで本人の推測によれば男性10人に背後からレイプされたという。
> 「現場に置き去りにされていたところを、家族が来て助けてくれました。
> そこに倒れていて、もう息がないように見えたそうです。」
>
> 国軍による性暴力の証拠は増えつつあるが、ビルマ当局はこれを退けている。
> 2017年9月、ラカイン州の国境問題担当相は一連の報道を否定した。
> 「どこに証拠があるんですか」と、この閣僚は述べた。
> 「ああいう主張をしている女性たちをよく見てくださいよ。レイプしたいなんて思う人はいないでしょう?」 「青い目のヤジディーをくれ」 捕らわれの10代女性が見たISの奴隷市場 国際ニュース:AFPBB News
ttp://afpbb.com/articles/3059198?page=2
2015/09/03
> この「奴隷市」でジナンさんが見かけた人には、イラク人、シリア人、
> さらに国籍は分からなかったが欧米人もいたという。
> 容姿が美しい女性は高官や湾岸諸国からの裕福な顧客のために「取り置き」された。
> ジナンさんは売り飛ばされると、他の女性たちと一緒に1軒の家に閉じ込められ、
> 男たちがやって来ては立ち去る日々を過ごした。
>
> 戦闘員たちが女性を買いにやって来るロビーでは商人たちが、
> 奴隷の所有者と「家畜」の様子を調べる首長たちの間を仲介していた。ある業者はこう言った。
> 「このブルネット(こげ茶色の髪)の娘、あんたのベレッタ(Beretta)の拳銃と交換するよ。
> 現金なら150ドル(約1万8000円)。イラク・ディナールでもいいぞ」
ISの拉致・レイプから脱出、ヤジディー教徒少女「助けを」と訴え 国際ニュース:AFPBB News
ttp://afpbb.com/articles/3080046
2016/03/11
> イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」に拉致された
> イラクの少数派ヤジディー(Yazidi)教徒の16歳の少女ニハド・バカラート・アラウシさんは、
> 戦闘員にレイプされ子どもを出産。
> 逃げるために余儀なく赤ん坊を置き去りにし、14か月間にわたった苦難の後遺症に苦しんでいる。
>
> ニハドさんは25歳の戦闘員サラムに「選ばれた」。
> サラムはニハドさんをレイプした後、妊娠中の妻と息子のいる自宅に彼女を連れ込み、性的暴力は続いた。
> 「彼の妻は私につらく当たった。私が彼女の家を侵略したと言われた」。 南スーダン「レイプキャンプ」の実態、女性数千人が性奴隷に 国際ニュース:AFPBB News
ttp://afpbb.com/articles/3062964
2015/10/22
> ヌヤベナさんは、拉致された後、
> 日中は略奪してきた物や食事を運んだり、水くみや農作業をさせられたりしていた。
> 日中は常に見張られ、夜になると他の女性たちと一緒に縛られた。
> 「兵士はセックスをしたくなるとやって来て、私たちの縄をほどいて連れていった。
> 終わったら私たちを元の場所に連れ戻し、再び柱に縛り付けた」。
>
> ヌヤツアチさん(仮名)の場合、5月にラブコナ郡の村が襲撃に遭った際に、10代の未婚の娘3人が拉致された。
> 2人はまだ行方不明だが、17歳の娘はめい3人と一緒に逃げてきた。
> 戻ってきた彼女らは「とても弱って、痩せ細って」いたという。
> 「体は衰弱し、あまりにも多くの男たちと性交渉をしたせいで体液が流れ出ていた」と、
> ヌヤツアチさんは説明した。
> これは、特に暴力的なレイプ被害に遭った場合に、
> 膣と膀胱または直腸との間に穴が開いて失禁を引き起こす「瘻孔(ろうこう)」の典型的な症状だ。
> 中には、出血して性交渉ができなくなるまで繰り返しレイプされた末に、
> 解放されたり、殺されたりした女性らもいた。
> 「壊れた少女たちは、使い捨てにされる」とヌヤツアチさんは語った。 >>81
戦火ってか「戦果」かな…これは
今さら投下主にせめてSSにしろよ、とか野暮なこと言ったって始まらないだろうしな
まあ仮に主がやらかしたところで、悲鳴オンリーのセリフ一行の繰り返し
とかで終わりそうやし
ドラえもんの「グエーッ!」とかネタにさえしなさそうだもんなぁ ???
とかだけで返したいがオイコラだから無理だったわw
ドラえもんの話はループネタのオシシ仮面とかのセリフ。
うろ覚えだけどな〜… さて、な
最近になってのいきなりなレス…
戦火SSを真面目に投下してない奴については自演、うんこっこレス入れ
ニセコイスレ住人、鴨女の同類と確信させてもらうわ 昭和17年8月、南太平洋のソロモン諸島のひとつ、ガダルカナル島。
突如来襲した敵大部隊の上陸により、ごく少数の海軍守備隊は壊滅状態に陥り、完成寸前の飛行場は敵手に落ちた。
事態を重く見た大本営陸海軍部は、グアム島に駐留していた妹姫支隊を投入、同島の奪回作戦を開始した。
妹姫支隊の半数である約1000名は駆逐艦によって輸送され、内火艇に曳航されてガダルカナル島の大地を踏んだ。
その先に、何が待ち受けているのかは知らずに。 真っ黒なジャングルが、まるで自分たちを飲み込もうとしているかのように目の前に広がっていた。航は底知れぬ恐怖を感じたが、努めて明るい声を出そうとした。
「みんな、急いで上陸艇を隠して」
咲耶が呼びかけた。兄妹は協力して、小さなの折りたたみ舟を陸に引き上げた。そのままずるずるとジャングルの中に引っ張りこむ。
(うわ・・・・)
ジャングルに一歩踏み込んだだけで、空気が変わった。じっとりと暑く、空気は重苦しい。
航たちは近くの枝草で簡単に舟艇に偽装をほどこした。いったん海岸線に戻って海を見ると、自分たちをここまで運んできた駆逐艦がもう反転していた。後部甲板の水兵が盛んに手を振っている。航も大きく手を振り返した。
「海神少尉、天広中隊長殿が呼んでるよ」
第二分隊長の山田少尉が話しかけてきた。航はうなずくと、中隊長の下へと走った。
「わが支隊はこれより夜明けまで西進し、飛行場を目指す。敵に見つからないように気を付けよ。日中の行軍は避ける」
「はっ」
思ったよりも簡素な指示だった。少し意外に思ったが、文句を言うべきところではない。
分隊に戻ると、もう全員が行軍の準備を整えていた。
「お兄ちゃん、すぐ出発ですか?」
すぐそばから声がかかった。ジャングルの中は何も見えない闇で、声と影からかろうじて可憐だということがわかった。
「うん。海岸線に沿って西に進む。あさっての夜にはもう飛行場に突入するよ」
「了解です」
がさごそと音がして、十二人が立ち上がった。静かな興奮が伝わってきた。
「じゃあ、行こうか」
ジャングルの中を進むのは、思った以上に難しかった。海岸の方からほんのかすかに星明りが差すほかに光はなく、足元は草や倒れた木だらけですぐにつまづきそうになる。
航たちは隊列の比較的後方を進んでいたので、かろうじて前を進む兵士が道を踏み固めていてくれたが、それでも楽なわけではない。誰が言い出したでもなく、前を行く人間の背嚢を掴みながらの行軍になった。
「おにいたま、ヒナ、ちょっと怖いな・・・・・」
航のすぐ後ろについた雛子が、早くも弱気な声を出した。小さな両手で背嚢をぎゅっと握りしめている。
「大丈夫だよ。あさってにはもう飛行場で休めるから」
気休めを言うが、航も内心では不安を感じていた。
(敵勢はどのくらいなんだろう? 人数も、武装もわからないなんて)
こちらの戦力は約一千人。軽装備の一個大隊に毛が生えたくらいの戦力で勝てるか、少し不安だった。
(まあ、実際に戦ってみればわかるか)
航は頭を振って、余計な思考を追い出した。今は進むべきときであって、不安に怯える時間ではない。
少し歩くと、眼前に河が現れた。たいした急流ではないが、何の準備もなしに渡るのは少し辛そうな程度だった。
「渡河材料小隊って、連れてきてたっけ?」
春歌に問いかけると、暗闇の中で首を横に振ったのがわかった。
「確か、輸送船に置いてきていますわ」
「そう。わかった」
前を行く部隊は、文句も言わずに胸まで浸かって渡河をしている。どうやら仮橋を作る時間もないらしい。
航は後ろを振り向いた。何を言われたわけでもないのに、妹たちはすでに背嚢を下ろし、頭の上に乗せようとしていた。
「みんな、河を渡ろう。弾薬や荷物を濡らさないようにね」
「わかったわ。お兄様」
航は比較的荷物が軽いので、雛子の背嚢も持った。背負って初めて、そのずっしりとした重さに気づいた。
(雛子ちゃん、ごめん・・・・・)
文句も言わずここまで歩いてきた妹に心の中で感謝を述べてから、足を水につけた。思った通り底はねっとりした泥だった。
しばらく進んでから後ろを振り返ると、擲弾筒を頭上に掲げた衛が喉元まで迫る水に苦しんでいた。花穂が後ろから懸命に支えている。亞里亞は千影に、雛子は咲耶に背負われている。皆つらいが、助け合ってどうにか耐えていた。 服を乾かす間もなく、行軍は続いた。夜明け直前にまた河にぶつかり、敵に発見されるのを避けるため渡河は諦めての露営になった。
「日没までジャングル内で待機」
命令が下り、一同は荷物を下ろすとその場にへたり込んだ。一度座ると、全身が泥のように重く疲れているのに気づいた。
「・・・・・・」
妹たちも無言だった。身を寄せ合って寒さに耐えている。
「さ、みんな何か食べるですの。おなかがいっぱいになれば元気も出ますの」
白雪が無理に元気な声を出した。妹たちは疲れた顔で少し笑うと、背嚢をごそごそとやりだした。
何か食べるといっても、火を出す事は禁じられている。そうなると、味気ない乾麺包を噛むより他になかった。
(糧秣は、足りるかな?)
背嚢に入っている食料は、食い延ばしても一週間分くらいしかない。飛行場を奪取しない限り、敵の物品を奪うのも味方の輸送船が来るのも不可能だろう。
(なんとしても、飛行場を占領しないといけないなぁ)
喉の渇く乾麺包をかじりながら、航は決意を新たにした。
日没後に再び行軍が始まり、さらに河を二つも越えた。そのたびにずぶぬれになる。
「アニキ、こりゃ、きっついわ」
装備品が一番重い鈴凛が、最初に音を上げた。10キロ以上する機関銃を握りながらの行軍なのだから、止むを得ない。
(替わってあげたいけど・・・・・・)
しかし、そんなことはできない。分解して持ち運ぶことも可能だが、すでに敵地内にいるため許されない。
「ごめん。もう少しだからがんばって」
「ハイハイ。わかってるってば。ちょっと愚痴っただけだって」
鈴凛は疲れた笑顔をした。両手が疲労に耐えかねてぶるぶると震えていることに航は気づいたが、気づかないふりをした。 午前零時を少し回ったころ、大休止の命令が出た。航たちは待ちかねたように荷物を下ろし、その場で息をついた。
「はいお兄様」
咲耶が水筒を渡してくれた。航は一口だけ水を飲んだ。あまり大量に飲むと動きにくくなる。
「兄チャマ、どうやら第一中隊から将校斥候を出すらしいチェキ。たぶん、敵飛行場は間近デス」
耳ざとい四葉が、早くも噂をつかんできた。航は背嚢から地図を出すと、懐中電灯でそれを照らした。可憐と春歌が、反対側から覗きこんでくる。
「現在位置がわからないな。最後に河を渡ってからもう大分歩いたけど・・・・」
地図とはいっても、実際は白地図に近い。海岸と川が書いてあるほかは、簡単に高地の位置が示してあるだけだった。気休め以外の何者でもない。
「まわり道や停滞を結構していますからはっきりはしないですが、あと5,6キロくらいではないでしょうか」
「可憐もそのくらいだと思います。あと二時間も歩かずに飛行場へたどり着けるはずです」
「うん。なるほど」
航はもう少し進んでいるだろうと思ったが、口には出さなかった。どうせ、斥候が戻ってくればわかる。
「お兄ちゃん。敵が橋頭堡を作っている可能性はあると思う?」
「うん、どうだろうね」
自分の手のひらも見えないようなこの闇の中では、もし敵の機関銃座があっても気づく事は不可能だろう。確かにそれは怖い。
「大丈夫だよ」
闇の中から衛の声が聞こえた。日ごろ鍛えていた成果か、声に疲れはなかった。
「敵はたいした数じゃないし、もう撤退中だって噂もあるくらいだよ。ボクたちがちょっと攻撃をすれば、あっという間に逃げるよ」
気休めを言っているのではなく、本気でそう思っているようだった。
一時間ほどたった時、突然パンパンと遠くで銃声が聞こえた。兄妹はいっせいに銃を構えた。
(斥候隊が敵と接触したのか?)
航は拳銃を握り締めた。鞠絵が航を守るように背中合わせに立った。
タタタタ、タタタタと、聞きなれない発射音がする。鞠絵がきゅっと身を固くするのが、背中越しに伝わってきた。
「九九式やチェッコの音じゃない。敵の機銃陣地にぶつかったかな?」
鈴凛が、がさりと音をたてて立ち上がった。腰だめに機関銃を持っているのだろう。闇の中でもシルエットでかすかにわかった。
「先頭の方の様子を見てくるデス!」
四葉が立ち上がると、あっという間に駆けていった。五分もしないうちに戻ってくる。
「兄チャマ、第一中隊が救援に向かうそうデス。第二中隊は、現在の位置でいつでも動ける状態で待機しろだそうデス」 一時間ほど、重苦しい待機があった。銃撃音はしばらくして途絶えたが、第一中隊が出発してから30分後くらいから再び響きだした。恐らく、こちらの救援部隊と接触したのだろう。やがて、中隊長から将校全員の集合命令がかかった。
「妹姫大佐殿から命令が出た。第二中隊はただちに前進、北回りに敵橋頭堡を迂回し、敵飛行場を制圧せよとのことだ」
天広大尉がやや緊張した面持ちで話した。予想外の抵抗に驚いているのだろうと航は理解した。
「第一小隊が中央、第二小隊が右翼、第三小隊が左翼を進む。同士討ちに気を付けろ」
将校たちは顔を見合わせ、うなずきあった。大きな戦闘が間近であることを、誰もが確信していた。
一歩一歩、先へ進んでいく。じっとりと汗が肌に張り付いた。
航のすぐ背後に、可憐と花穂が張り付いていた。ざくざくと草を踏みしめる音がやけに響く。緊張しているのか、カタカタと花穂の鉄帽が震えて音を立てていた。
「お兄ちゃん、可憐が前に出ます」
可憐が航を押しのけるように、少し強引に前に出た。かすかな星あかりに照らされて、可憐の歩兵銃の銃身が鈍色に光った。
「お兄ちゃまぁ」
花穂が航にささやき、袖をぎゅっと掴んだ。抱えていた重い弾薬箱が航の背中に当たった。
「お兄ちゃま、花穂のこと、見捨てないでね」
いつもは何気ない言葉だが、この状況では洒落にならなかった。
「大丈夫だよ花穂ちゃん。見捨てるわけないよ。早く敵をやっつけて、みんな連れて家に帰ろう」
航は後ろを向くと、花穂の頭をそっと抑えた。花穂の震えが消えた。
「うん、ありがとう。お兄ちゃま」
花穂が笑顔を浮かべた瞬間、敵陣奥深くから何かが撃ちだされた。ひゅるひゅると甲高い音を立てながら上空に白い光が登っていくのが、樹木の隙間から望見された。
「あ〜花火なの〜」
いつの間にか亞里亞が航のそばに擦りよっていた。航は右腕で亞里亞の肩を抱きながら、呆けたような表情で光を目で追った。
(あれは、花火なんかじゃない――)
航がはっと気づいた瞬間、猛烈な光が目を焼いた。
「全員横に開け! 伏せるんだ!」
航はとっさに怒鳴りつけると、亞里亞のうなじを掴んで地面に押し付けた。自分の体をその上に覆いかぶせる。
「照明弾よ!」
咲耶が叫んだ。調子の悪いガス燈のようにちかちかとまたたきながら、真っ白な光が咲耶たちを無遠慮に照らしていた。航の命令をすばやく実行し、妹たちはとっさに伏せた。だが、鈴凛だけは膝立ちになって機関銃を構えた。
(来たっ!)
航の頭上を、ひゅっと音を立てて弾丸が通り過ぎた。それを合図にしたかのように、敵陣から猛烈な量の弾丸が降り注いできた。
「ぐっ!」
「ああっ!」
先を行く第二分隊の兵士たちが次々と倒れた。光の中でぱっと埃と血の入り混じった煙を上げ、前のめりに崩れ落ちる。
「兄や、重いの〜!」
腹の下から亞里亞が抗議の声を上げたが、構ってはいられなかった。航は首を持ち上げ、様子を伺った。 (すごい・・・・)
鋭い光の粒が、まるで砂を投げつけるように自分たちに降り注いでいる。弾丸は自分の頭の上ほんの数十センチ上を通り過ぎている。少しでも頭を上げれば、あっという間に貫かれるだろう。
味方は相当数やられていた。ほんの数秒伏せるのが遅れた兵士は、軒並み第一撃でなぎ払われていた。関節を不自然に曲げ、申し合わせたかのようにうつ伏せに倒れている。弾丸は、その死体を無遠慮に貫いていった。
(まずい!)
数秒に一度、不幸な兵士に弾丸が命中していた。ナメクジのように伏せているのにも関わらず、敵弾はわずかに露出している体に突き刺さった。
(反撃しないと・・・・・・)
しかし、草木に阻まれて敵の姿は全く見えない。恐らく、敵もこちらの姿を見ていなかった。数十丁の機関銃を一斉に撃ちまくっているのだろう。
(なんて火力だっ!)
「鈴凛ちゃん!」
航は前を見たまま怒鳴った。すぐに返事があった。
「アニキ、アタシは無事だよ!」
「よし、制圧射撃!」
「了解!」
鈴凛は立ち上がった。その瞬間、鈴凛の左腕に敵弾がかすった。服が裂け、露出した肌が血と火傷で赤く染まった。鈴凛は悲鳴を必死で押し殺した。
「鈴凛ちゃん、体勢を低く!ワタクシの背をお使いください!」
鈴凛の危険を悟った春歌が、鈴凛の目の前に行くと横向きに四つんばいになった。千影が機関銃の二脚を持つと、春歌の背にそれを乗せた。
「ありがとうっ!」
鈴凛は春歌の背に機関銃を押し付けるようにしながら、ぐっと低い体勢をとった。そのまま、春歌に覆いかぶさるような格好で射撃を再開する。敵の位置はわからない。とにかく前方に射弾を送るしかなかった。
敵の射撃は全く衰えない。航は顔を地面にこすり付けたが、それでも頭のすぐ上を次々と弾が通り過ぎていく。とてもではないが前に進むことなど考えられない。
なるべく頭を上げないようにして回りを見回すと、もう前進している味方は誰もいない。照明弾の無遠慮な光の中で、生きている者はほんのわずかな窪みや倒木に身を寄せて、恐怖に引きつった目をしていた。
(まずい。統制がなくなってる)
先頭を行く将校はほとんどやられたのだろう。兵士たちは数人ずつに分断され、指揮官を失っていた。
(天広中隊長殿はどこだ?)
前方をにらむと、突然密林の中から一人の影が躍り出た。右手に抜き身の軍刀を握っている。
「第二分隊、突撃に進め、前へっ!」
山田少尉の声だった。航はその無謀さに身震いした。
鬼気迫る様子にうたれたのか、少尉の周囲から十人くらいの兵士が一斉に立ち上がった。敵陣に向かって走り出す。
すると、キラキラと光る敵弾が、磁石に吸い寄せられるかのように少尉たちに向かって集中した。ものの十歩も走らないうちにばたばたと人影は倒れ、やがて立っている者は誰もいなくなった。
(ああ・・・・・)
航は顔を伏せた。あれでは全員戦死だろう。あまりの悲惨さに、航は言葉を失った。
「っ!」
「鈴凛ちゃん!」
すぐ後ろで声にならない悲鳴が上がった。振り返ると、軽機関銃を握りしめたまま鈴凛が仰向けに倒れていた。敵弾にやられたのだろう。顔の上半分が吹き飛ばされていた。 (うっ・・・・)
航は現実を受け入れられず、一瞬呆然とした。ついに妹がやられてしまった。地面に叩き付けられた機関銃が、がちゃりと大きな音を立てた。
「あにいっ!」
匍匐とは思えない速度で衛が突っ込んできた。両手に擲弾筒を抱えている。
「よくも鈴凛ちゃんを。許せないっ!」
怒りに我を忘れた衛は、自分を狙う敵弾も気にならない様子だった。すばやく擲弾筒を組み立てると、衛は膝立ちになった。
「よし、衛ちゃん、撃てっ!」
航も頼もしく感じ、大声で命じた。衛は手早く砲弾を放り込むと、引き革を力いっぱい引いて発射した。やかましい音とともに砲弾が飛んでいった。
「衛ち・・・っ!」
弾薬箱を持ってにじり寄ってきた花穂が、肩を抑えると崩れ落ちるように倒れた。抑える手のひらから、赤黒い血が流れた。
「花穂ちゃんがやられた!誰かっ!」
「ヒナに任せて!」
航の言葉に応じ、雛子がすぐに花穂に覆いかぶさって仮包帯を巻き始めた。
「衛ちゃん、これを!」
鞠絵が花穂の体を乗り越えて衛に這いより、自分の弾薬嚢を渡した。衛は前を睨みつけたまま弾を受け取った。
航はすぐ後ろにいる可憐の様子を見た。突然の出来事に呆然として、銃を構えたまま凍ったように動かない。航は可憐の鉄帽を平手で叩くと、背後を指差した。
「可憐ちゃん、雛子ちゃんと一緒に、花穂ちゃんを後送して」
可憐ははっと我に帰ると、花穂を見、航を見た。銃弾で跳ね返った石が鉄帽に当たり、かつんと音がした。
「・・・お兄ちゃん。絶対に、死なないで」
可憐は一言ずつ区切るように、ゆっくりとしゃべった。兄のそばにいられない無念さが、ひしひしと伝わってきた。
「ああ。大丈夫だよ。任せて」
航は笑いかけた。可憐は一瞬泣きそうな顔をしたが、すぐに後ろを向いた。
「雛子ちゃん、手を貸して」
「は〜い」
可憐が花穂の左肩を、雛子が同じく右肩を掴んだ。射撃が少し衰えた隙に、二人は一気に立ち上がって後退した。痛むのか花穂はうめき声を上げたが、かまう余裕はなかった。
(よし、花穂ちゃんは大丈夫だな)
航がかすかに安心して再び前方を見ると、今度は衛と鞠絵が倒れていた。衛は腹部をやられたのか、体を二つに折って脂汗を浮かべている。鞠絵はわき腹を押さえながらも、擲弾筒に近づこうともがいていた。
「二人とも、大丈夫!?」
「ちょっと、痛いかな・・・・・」
「鞠絵は大丈夫です。兄上様、擲弾筒をとって下さい」 また一つ、照明弾が撃ち上げられた。両国の花火のように華やかに、真っ白な光が自分たちを照らした。いまいましくも、照明弾はタンポポの綿毛のようにゆっくりとしか落ちてこない。
「ごほっ・・・ぐっ・・・」
衛は低い声で軽く咳き込むと、少しだけ血を吐いた。航は仰向けに衛をひっくり返して傷を調べた。
「あにぃ、大丈夫だから。まだ戦えるよ」
「無理しちゃだめだよ。ここからは僕たちがやるから」
(まずい。これは重傷だ)
胃と腸の間くらいに、盲管銃創がある。確実に内蔵をやられている。今はまだ興奮して大して痛みを感じていないようだが、間違いなく重傷だった。
航は後ろを振り返った。妹たちは航の後ろに密集して、心配そうな視線を自分に送っていた。航は、ともすれば乱れそうな自分の気持ちを必死で押さえつけた。
(ここで僕が崩れちゃだめだ。動揺しちゃだめだ!)
「白雪ちゃん、亞里亞ちゃん!」
「は、はいですの」
「兄や、ちょっとこわいの・・・・・」
航は虚勢を張り、無理に強い声を出した。白雪は少し驚き、亞里亞は少しおびえた。
「安全なところまで下がって、衛ちゃんと鞠絵ちゃんを見ていてくれ。自分がやられないように気を付けてね」
白雪と亞里亞は一瞬だけ顔を見合わせたが、すぐに航にしっかりとした視線を向けた。
「わかりましたの。姫にお任せですの」
「亞里亞、がんばるの〜」
亞里亞が答えると同時に、擲弾筒の発射音がした。航が驚いて振り向くと、半ば突っ伏した姿勢で衛が擲弾筒を構え、わき腹を片手で抑えながら鞠絵が砲弾をこめていた。
「二人とも、もういい。下がるんだ!」
航は衛の足を掴むと、無理やり引っ張った。もう抵抗する気力は残っていないようで、衛はすなおに引きずられた。
「衛ちゃん、撤退するんだ!」
「あにぃ、でも、でも・・・・・」
衛はなおも反論しようとしたが、不意に黙りこくると目を閉じた。ついに気絶したらしい。
「よし、この隙だ。白雪ちゃん、亞里亞ちゃん。頼んだよ」
「はいですの!」
衛は無言で戦場を去った。白雪も亞里亞も背が低いので、敵の目標になっていないようだった。
「鞠絵ちゃん、ついていくんだ。衛ちゃんを頼む」
航は鞠絵を座らせると、真正面から目を見つめた。鞠絵の顔はいつにも増して血の気がなかった。航と鞠絵の顔の間を、銃弾が一発通り過ぎた。
「わかりました。気をつけて下さい。お待ちしています」
鞠絵は、少し伏目がちにして言った。吊っていた弾薬嚢をその場に置いた。
「また、鞠絵は待つのですね・・・・・」
鞠絵は航に一瞬だけ抱きついた。眼鏡のフレームが航の頬に当たり、少し冷たかった。
ふらつきながら鞠絵は立ち上がり、よろよろと歩き出した。傷自体はそれほどひどくはないようだが、体力のない鞠絵にはつらいだろう。
「お兄様、このままではまずいわ」
いつの間にか咲耶がすり寄ってきた。その白い肌も今は泥にまみれ、こころもち頬が落ち窪んでいた。
「いったんどこかに・・・・あの木の後ろはどう?」
「どれ?」 咲耶が指差す先に、そこそこ大きな倒木があった。うまく敵の方向に対し横向きに倒れているので、あそこなら五、六人は入れそうだった。
(なるほど、あそこなら銃弾を防げる)
「みんな聞いてくれ!」
航は仰向けになると、首だけを持ち上げて後ろを見た。ついさっきまで十二人いた妹が、五人しかいなかった。
「あの木まで進む。咲耶ちゃんと僕が擲弾筒を持つから、みんなは軽機関銃を持っていってくれ!」
「はい!」
春歌が一同を代表して答えた。
航たちは木のところまで何とか移動し、ようやく一息ついた。敵弾は依然として頭上を通り過ぎるが、不思議なもので次第に慣れていった。
「だいぶやられちゃったわね」
咲耶が額の汗と泥をぬぐった。次々と死傷者の出たことを憂いているのだろう。瞳に絶望の色が濃い。
「鈴凛ちゃん・・・・・」
春歌は両目を押さえ、涙をこらえているようだった。すこし落ち着いたせいで、やっと今まで起きたことに現実味がわいてきたようだった。
千影は、表面上は最も気丈だった。機関銃の弾倉を交換し、擲弾筒の泥を払い、各部を点検していた。
「これからどうするのお兄様?これ以上負傷者を出したら本当に身動きできなくなるかもしれないわ」
「そうだね」
今ここにいるのがわずかに五人。軽機関銃と擲弾筒を運搬するのに二人ずつは必要だから、あと一人誰かが撃たれたらどちらかを放棄せざるを得なくなる。二人以上やられたら、後送もできずに全員ここに動けなくなるかもしれない。
(中隊長殿はどこだろう?)
もう、中隊としての形は完全に崩壊している。辺りを見回しても、無言の死者と呻く負傷者が地を覆うばかりに大量に転がっているだけで、まとまった生存者は自分たちしかいない。別の中隊は、この猛攻撃の中で飛行場にたどり着けたのだろうか。
航は時計を見た。あれだけ激しく動き回ったが、壊れてはいなかった。
(夜明けまであと四時間とちょっと。とにかく、中隊か大隊の指揮下に復帰しないといけない。前進だ)
航は決断をすると、妹たちを見渡した。
「僕は中隊長殿を探しに前進する。みんなはここを動かないで、敵の突撃に備えてほしい」
一同の顔がかすかにこわばったが、航は気づかないふりをして言葉を続けた。
「四葉ちゃん。君だけは僕についてきてくれ」
「りょ、了解チェキ!」
突然名指しされて驚いたようだが、四葉は元気よく返事を返した。 航と四葉は重い荷物を全て置くと、銃と手榴弾だけの身軽な装備になった。航は四葉の鉄兜の紐が緩んでいるのに気づくと、黙って締め直した。四葉はあごを上げ、心地よさそうに目を閉じた。
頭上を通り過ぎる銃弾は、心なしか衰えてきている。敵も少しは弾丸が心細くなってきたらしい。
「じゃあ四葉ちゃん、行こうか」
「了解デス」
航と四葉は頷き合うと、倒木を迂回してジャングルの中を進んだ。上がる照明弾もまばらになっており、やや大胆に前進できた。そこここに転がる死体もちょうどいい障害物になった。
異臭がする。戦友が熱さと湿気で早くも腐りだしているのだろう。埋葬してやりたいが、今はそれどころではなかった。
(あ、沢だ!)
少し進んだだけで、進行方向とほぼ平行に伸びる、水路とも呼べない水の流れを発見した。二尺ほどの幅で軽い窪地になっている。
航はごろごろと転がると、水路に踊りこんだ。四葉もそれにならい、パシャリと水音を立てた。
(このままここを進んでいけば、安全に敵陣まで行けるかもしれない)
水路の水は鉄くさかった。首をつっこんだ戦友の死体がいくつもあった。おそらく、重傷を負って、最後の気力で水路の水を飲もうとしたのだろう。
一時間ほどじりじりと暗闇の水路を前進した。下手をすれば方向感覚を喪失するところだが、絶え間なく響く機関銃音が敵地の方向を教えてくれた。
(敵陣はまだか?)
視界はあまりない。照明弾からかなり離れたため、手探りで前進しているようなものだった。四葉の顔も見ることができない。
夜も更けていたが、気温は高かった。体全体がじっとりと汗ばんでいる上に、腹の下を水が流れているので、ひどい不快感があった。
「・・・・・・・・」
いつもあれほどやかましい四葉が、無言で前進していた。表情はわからないが、もそもそと動く影はわかった。
(そろそろ外を見てみるか)
航は、溝からゆっくりと顔を出した。すると、前方わずか10メートル足らずの場所に機関銃の銃火を発見した。
「兄チャマ・・・・」
横に並んだ四葉がささやいた。緊張と恐怖がよく伝わってきた。
「トーチカデス。兄チャマ、敵橋頭堡に接触したようデス」
四葉の方が夜目が効くようなので、航は黙って双眼鏡を手渡した。四葉は、落ち着きなくきょろきょろと周囲を見回した。ようやく、らしくなってきた。
(ずいぶん適当に撃ってるなぁ)
敵陣は、蛸壺を掘ってその上に屋根をかぶせただけの代物だった。そこから黒光りする銃身が三本伸びている。断続的に、なぎ払うように銃弾を放っている。航空機用の13ミリのようで、発射音はずいぶん重く、しかも速度は速い。
「四葉ちゃん。他に敵のトーチカは見える?」
「さっきから探してマスが、見当たらないチェキ」
相当近いところからも別の機関銃の発射音がするのだが、背の高い草や木、さらに暗闇に阻まれてまったく見つけられない。
(それならこっちもやられることはない。攻撃しよう)
幸い、目の前のトーチカは全くこちらに気づいていないようだった。これなら攻撃できる。
「四葉ちゃんは右側を狙って。僕が左側に投げる」
四葉は懐から手榴弾を取り出すと、安全栓を口にくわえた。お互いに視線を交わす。
(行くぞ!)
航は手榴弾のピンを引き抜くと、力任せに鉄兜に叩きつけた。一拍おいてから、膝立ちのモーションで投げつける。
「逃げよう!」
うまくトーチカに入ったか確認する余裕はなかった。航と四葉は地面に伏せると、大急ぎでもと来た道を引き返した。
爆発音がして、一瞬、敵の銃火が静まり返った。別の陣地の機関銃も完全に銃火を止め、背筋の凍るような沈黙がその場を支配した。
(今のうちだ、逃げよう!) 動き出した瞬間、反撃が来た。
どこがやられたのかわかったのだろう。周囲の全ての機関銃が、自分たちに向かって撃ってきた。猛烈な曳航弾の奔流が頭の上をひゅんひゅんと通り過ぎる。まるで鉄のシャワーだった。
水辺の草がたちまち根元から引きちぎられ、土も見る間に削られていく。航は一歩も動きたくない気持ちだったが、膝と腕を使ってナメクジが這うような速度でそこから逃げ出した。
(動けなくなったり、少しでも頭を上げたら、その場で、死ぬ!)
「兄チャマ!兄チャマあっ!」
四葉は航の目の前にいたが、頭を抱え、突っ伏したまま動けなくなっていた。圧倒的な恐怖がその小さな体を押さえつけていた。
「四葉ちゃっ!」
航がわずかに頭を上げた瞬間、がつんとなぐられたような衝撃が頭にきた。急いで頭を下げると、髪の毛がじかに底の水についた。どうやら鉄帽が吹っ飛ばされたらしい。
「四葉ちゃん、逃げるんだ!敵が来ないうちに!」
「りょ、了解チェキ!」
やけくそのように四葉が叫んだ。次の瞬間だった。 「っつあ!」
四葉が一瞬背中をそり返すと、どっと倒れこんだ。片手で口を押さえ、悲鳴をかみ殺している。
「四葉ちゃん!」
航が前進して肩をつかむと、四葉は歯をがたがた言わせながら航を見た。
「足をやられマシタ・・・・・」
ものすごい数の曳航弾のせいで、うっすらとお互いの様子を伺えた。全身に手を当てて確認すると、四葉の右のふくらはぎに風穴が開いていた。流れ出す血がゲートルを樺色に染めている。
「すぐに手当てを・・・」
包帯は持っていない。肌着をわずかに裂いて、傷にあてがった瞬間だった。
(――っ!)
突然、焼け火箸を突っ込まれたような熱を左腕に感じ、ふわりと意識が飛びかけた。一拍遅れて、痺れるような痛みが左半身に走った。
(撃たれたっ!)
航は四葉の背中の上に崩れ落ちた。二の腕の傷を右手で抑えると、ネジのゆるんだ蛇口のように血が流れている。
「兄チャマ、大丈夫デスカ?」
突っ伏した体勢から顔だけ持ち上げて四葉が聞いた。髪はほとんどほどけ、口の中にも泥が入っている。
「だ、大丈夫。すぐに手当てをするからね・・・・・」
航はかろうじて動く右手で四葉の傷を押さえつけたが、それ以上の事は何もできない。四葉はしばらく航の様子を見ていたが、やがて思い直したかのように口を開いた。
「兄チャマ。四葉は大丈夫デス。ここに置いていって下サイ。」
「な、何を?」
驚いて顔を上げた瞬間、幾筋もの曳航弾が顔の両側を通り過ぎた。航は慌てて伏せた。
「歩けない四葉を連れていては逃げ切れまセン。四葉はここで敵を釘付けにシマス」
四葉は自由な両手で短機関銃に着剣すると、溝から身を乗り出して威嚇射撃をした。敵弾はどんどん近くに着弾しているのに、不思議なことに四葉には命中しなかった。
「そんな・・・・四葉ちゃんを置いていくなんてできない!」
航は四葉の肩をつかむと、無理やり溝に引き戻した。四葉は傷が痛むのか一瞬顔をしかめたが、すぐに航を睨み付けた。
「何を 'ucking なことを言うデス! 兄チャマは早くみんなのところに戻って分隊の指揮をとるデス!このまま兄チャマが戻らなければ、みんなはあそこで敵の逆襲を受けて全員戦死デス!」
航の脳裏に、銃砲撃におびえる妹たちの顔が浮かんだ。咲耶が指揮をとっている以上パニックにはなっていないだろうが、底知れぬ恐怖に耐えているのは間違いない。
「だけど・・・・・・」
「God Damn it!兄チャマ、これでもデスか!?」
四葉は航の腰から拳銃を奪うと、自分の眉間につきつけた。
「早く行くデス! どうしても四葉が気になるなら、四葉は今すぐケリをつけマス!」
四葉の指は恐怖に震えていたが、本気なのは明らかだった。航は四葉の両目を見つめ、絶望した。
四葉の瞳から、静かな覚悟が航に伝わってきた。激情に我を忘れたのではなく、冷静に死を見つめている顔だった。
(もう、四葉ちゃんはここで死ぬことしか考えていない。僕にはどうすることもできない・・・・・・)
航は自分の無力を呪った。傷の手当てをしてあげることもできないし、水も食料もない。
「兄チャマ。今まで、ほんとにありがとデス・・・・」
四葉の言葉には、今まで見たことのないような落ち着きがあった。二人は血まみれの手で固い握手を交わし、四葉は拳銃を航に返した。
「行くよ。四葉ちゃん、必ず無事で帰ってきて!」
「それでいいデス。さ、早く行ってくだサイ」
四葉はぷいと反対を向くと、また射撃を始めた。銃弾がジャングルの中へと吸い込まれていく。
航は味方の方向へ頭を向けて伏せた。すると、目の前にぽとりと髪留めが落ちてきた。ぴちゃりと水が顔にはねた。
「それを持って、振り向かずに行くチェキ。もし一度でも振り向いたら、兄チャマはここに戻ってしまうデス」
「四葉ちゃん・・・・・・・」
普段の四葉からは想像もつかない気丈さだった。航は髪留めを懐にねじ込むと、涙をこらえながら匍匐を始めた。胸が張り裂けそうで、左肩の傷の痛みも感じない。
「兄チャマは、やさしいデスからね・・・・・」
四葉は航の姿が消えるまで見送ると、敵の方角を睨み付けた。さきほどの威嚇射撃でこちらの位置を正確に掴んだのだろう。機関銃の銃弾が今まで以上に自分の周りに集中して来た。
「望むところデス」
四葉は弾倉を取り替えた。一つ息をつくと、足の痛みを無視して一気に立ち上がった。
「兄チャマ、チェキイイイイッ!」
四葉が引き金を絞るのと、数発の銃弾が四葉の胸を砕くのがほぼ同時だった。
四葉は仰向けに倒れながらも、空に向かって銃弾を送り続けた。 「前方に人影!」
双眼鏡で前を睨みつけていた春歌が、突然鋭い声で言った。目を閉じて座りこんでいた咲耶は、がばっと跳ね起きると機関銃に取り付いた。
「敵?それとも味方?」
「わかりませんが、味方だと思います。怪我をしているようです」
春歌は双眼鏡を足元に置くと、小銃を構えた。千影は擲弾筒を掴むと砲弾を落とした。後は引革を引くだけで発射できる。
「敵か! 味方か!?」
春歌は照準をぴたりとつけたまま叫んだ。一瞬の間があった。
「味方だぁ!」
人影は搾り出すような声を出すと、その場に座りこんだ。もう精根も尽き果てたといった風情だった。
「あの声はっ!」
春歌は息を呑むと、倒木をひらりと飛び越えて走った。銃弾はそこここを飛び交っていたが、気にしなかった。
「あの子は・・・・・・なんて無茶すんのよ!」
咲耶は頭を抱えて一つため息をつくと、自分も木を飛び越えて走った。千影はかすかに眉を上げたが、特に何も言わずに擲弾筒の砲弾を取り出し、機関銃を掴んだ。
「咲耶ちゃん、なんで?」
「問答はあとよっ!」
銃弾が咲耶の右脇をかすった。焼けつくような痛みが走ったが、気にしていられない。春歌と咲耶は気絶している味方兵をつかむと、力任せに引きずっていった。
「おかえり」
最後には千影も手を貸し、味方兵を木の後ろにまで運んだ。気を利かせて千影がマッチを擦り、かすかな光が兵の顔を照らした。春歌が息を呑んだ。 「柿之本軍曹!」
春歌と同期の、大隊本部付きの下士官だった。すでに体のあちこちに怪我をしており、生きているのが不思議なほどだった。
「第二中隊の兵士か?」
マッチの炎にも気づいていない。もう目が見えていないのかもしれない。
「春歌です。柿之本軍曹、しっかりしてください!」
咲耶は水筒の蓋をとると、軍曹の口に含ませた。柿之本は二、三口ゆっくり飲むと、もう十分とでも言いたげに首を横に振った。
妹たちが心配そうに見守る中、柿之本は口を開いた。
「そうか、春歌か・・・・・では、私に代わって報告を頼む。第一大隊は大隊長殿以下ほぼ全員戦死。第一、第三中隊長殿は戦死、第二中隊長殿も恐らく戦死。妹姫大佐殿は全員の後退を命じた後、自決された」
「・・・・・・・・」
春歌が、生唾を飲み込んだ。声も出なかった。
「私はここまでだ。なんとかして、大本営に打電するよう頼む」
「・・・・わかりました。任せて下さい」
春歌はひざまずくと、血と泥にまみれた柿之本をぎゅっと抱きしめた。柿之本はすぐに事切れた。
「・・・・・・」
嫌な静寂がその場を包んだ。やがて、春歌の背後からすーっと白く柔らかい光が差し込んできた。千影がそちらを向くと、太陽が静かに昇っているのがわかった。
「夜が、明けたのね・・・・・」
咲耶はどさりと座りこむと、鉄帽を目の前に投げ捨てた。がくりと首が垂れる。
「これで夜襲も終わりね。お兄様、早く戻ってきて・・・・・」 ここを動く事はできない。もし入れ違いになったら、兄はまた自分を探しに戻るだろう。そうなったらいつまで経ってもここを脱出できない。
春歌は懐からハンカチを取り出すと、柿之本の顔をぬぐった。遺体をすぐ脇に置き、泥にまみれたハンカチをそのままかぶせた。
(先に行ってしまわれましたね。少し待っててください。春歌もすぐに行きます)
今度会うときは、九段の坂の上だろう。
春歌がふと後方を見ると、100メートルほどの距離に可憐と雛子がいた。匍匐でゆっくりと接近してくる。咲耶もそれに気づき、少し表情を明るくした。銃を水平に持ち上げて合図する。
(今の今まで暗夜行路だったのに、よくここがわかったわね)
待つこと数分、ようやく再会した可憐と咲耶は、手を固く握り合って喜びを共にした。
「お待たせしました。可憐が来たからにはもう大丈夫です」
可憐の腕から胸にかけて、ところどころに血がこびりついていた。咲耶は、それが花穂の出血による返り血だとすぐにわかった。
可憐は咲耶の視線に気づき、すこし表情を暗くした。
「花穂ちゃんは、なんとか大丈夫です。だけど、衛ちゃんの方は、おなかを撃たれてかなりの重傷でした」
「そう。わかったわ・・・・」
腹をやられたのはまずい。特に今のように医療設備が皆無に等しい状況では、命にかかわる。
「お待たせ。クシシシシシ」
雛子は空腹なのだろう。乾麺包の袋から金平糖だけを取り出してぽりぽりとかじっていて、ご機嫌だった。
「白雪ちゃんと亞里亞ちゃんは、ここまで戻ってきません」
唐突に可憐が言った。春歌は一瞬、二人もやられたのかと思ったが、可憐の口調からそうでないのはすぐわかった。
「後退してる最中に、白雪ちゃんたちと会ったんです。花穂ちゃんと衛ちゃんも二人に任せて、可憐たちはこっちに戻ってきました」
春歌は納得した。自分たちはわからないが、少なくとも亞里亞や花穂はこの負け戦の中でも生き延びられそうだった。
「負傷者は多いのですか?」
「いいえ、そんなには・・・・・・ところで、お兄ちゃんは・・・・・」
「・・・兄くんだっ」
突然、会話をさえぎるように千影が鋭い声で言った。全員が一気に顔を上げて前方を見据えた。
いた。左肩を抱えるようにして、ゆっくり歩いてくる。敵は兄を直接見ることができないのか、散発的に弾を散らすだけで精密な射撃をしていない。 「お兄ちゃっ・・あぅっ!」
「可憐ちゃん!」
不用意に可憐が身を乗り出し、とたんに首筋を撃たれてのけぞり倒れた。朝の白い光の中で、真っ赤な血があふれ出た。
咲耶は可憐の傷口を押さえながら、敵陣を睨んだ。怒りのままにわめく。
「全員、援護射撃!」
「了解!」
春歌が機関銃にかじりつくと、力いっぱい引き金を絞った。千影は薄笑いを浮かべて擲弾筒を発射し、雛子は自分の小銃を撃ちまくった。鬱憤を晴らすかのように、雑多な銃弾が敵に向かって飛んでいく。
「お兄様。すぐ行くわ!」
咲耶は木を乗り越えると、全力疾走で兄へ飛んでいった。右腕に抱きつくと、力いっぱい引っ張っていく。自分のすぐ近くを敵弾が通り過ぎたが、まったく気にならなかった。
再び木の後ろまで兄を引っ張っていく数十秒間、咲耶は至福を感じていた。
「そうか。後退命令が出たんだ・・・・・」
航は、がっくりとうなだれた。軍服の袖はまくられ、咲耶が手当てをしていた。
「お兄様、今はこれしかできないけど、ちゃんとした手当てが必要だわ」
咲耶は包帯をぎゅっと締めた。航は痛むのか、少し呻いた。
「はぁ・・・・はぁ・・・・・」
「可憐ちゃん、だいじょうぶ?」
首の傷を抑える可憐の包帯は、すでに真っ赤に染まっていた。可憐は風邪を引いたように浅い呼吸を繰り返し、とろんとした視線をさまよわせていた。それを雛子が心配そうに覗きこんでいる。
航は妹たちの苦しむ様子を見るにつれ、少しずつ正気に戻っていった。顔を上げ、全員の目を順々に見る。
(そうだ。これ以上妹を死なせちゃいけない。行くんだ、後方に)
「・・・・・撤退しよう。みんな、歩ける?」
折りしも、敵陣からの砲撃が始まった。弾着は遥かに敵陣寄りで、どうやら未だ動けない味方を皆殺しにする算段らしい。機銃掃射はやんでいた。砲弾の着弾の煙で、こちらを視認できないのだろう。 「大丈夫です。可憐も歩けます」
可憐は青い顔をして言った。よろよろと立ち上がるが、たちまち膝から崩れ落ちた。雛子が慌ててそれを支えた。
航は、可憐の苦しみに気づかないふりをした。本来なら動くことなど考えられない傷だ。でも、ここで待つわけにはいかなかった。
「行こう。四葉ちゃんが助けてくれたんだ。ここで死んじゃだめだ・・・・・」
航は立ち上がり、機関銃を持った。自分が先頭に立たなくてはならない。
「そうね。行きましょうお兄様。早くこんなところから出ていきましょう」
咲耶が虚勢を張って、痛々しい元気さで立ち上がった。それにつられるように妹たちはそれぞれの荷物を持つと、ぞろぞろと航に従って歩き出した。負傷者とぼろぼろになった兵士たちの行軍、その姿はまさに敗残兵だった。
キュラキュラキュラ、という聞きなれない履帯の音が左手から聞こえてきた。航は急いで全員を伏せさせると、双眼鏡を取り出した。
「兄君さま。9時方向、敵戦車が併走中!」
目のいい春歌が最初に発見した。航が言われた方向に目を向けると、青白い星のマークを付けた車両が次々と目の前を横切っていった。
(戦車、戦車、装甲車、装甲車、全部で四輌か)
密林の中なので、こちらの姿は発見されずにすんだようだ。はっきりとはしないが、敵は海岸線の砂浜を走っているようだ。
「こっちの退路を、遮断するつもりですね」
可憐が血の気の失せた顔で言った。失血が苦しいらしく、さっきから雛子の肩を借りてようよう歩いている状態だった。
「そうだね。急ごう」
敵の砲撃は遥か後方に着弾しているので怖くはないが、敵車両に先回りされるとどうしようもない。味方には一門の対戦車砲すらなかった。
航たちは体勢を低く保ち、じりじりと後退した。銃弾は全く飛んでこないが、いつ敵の戦車砲弾の餌食になるかと思うと全く気が休まらない。
十五分ほど息を切らせながら進むと、春歌がまたしても叫んだ。
「前方に敵戦車!」
誰の命令でもなく、妹たちは瞬時に伏せた。航は敵の様子を確認すると、息を呑んだ。
(ああ、スチュアート軽戦車だ。封鎖線を作られた・・・・・) 噂に名高いスチュアートが、砲塔をこちらに向けたまま、自分たちの進路に直角にゆるゆると走っている。どうやらパトロール中らしい。航は敵の余裕っぷりに歯噛みした。
(迂回できるかな?)
航は戦車の様子をしばらくながめ、その後に妹の様子を見てため息をついた。
(無理だ)
こちらは人数が多く、負傷者や重火器が多くて迅速な行動がとれない。そして何より、とっくに夜が明けていて周囲が明る過ぎる。戦車だけはごまかせても、きっと近くに敵歩兵がいるに決まっていた。
敵の戦車兵が一人、車体の上にある機関銃を掴んだまま辺りを見回している。少しでも動く物を見かけたら撃つ気なのだろう。
「お兄様・・・・・」
咲耶が、不安そうにささやいてきた。どこで怪我をしたのか、左のこめかみから頬に掛けて一筋の出血があった。
「咲耶ちゃん、大丈夫だよ。きっと大丈夫さ」
航が気休めを言うと、咲耶はかすかに微笑んだ。航は咲耶の髪を軽くなでると、双眼鏡を覗きこんだ。
(問題は機関銃だなぁ)
敵を注視する。敵はたった一輌とはいえ、戦車砲一門に加えて機関銃を二丁か三丁積んでいる。それが一斉に自分たちに指向されたら、ひとたまりもなく全員やられてしまう。
(でも、こっちに遠距離から戦車を撃破できるような兵器はない。だから、しょうがない)
航は覚悟を決めた。対戦車兵器がない以上、ありったけの武器と精神力をかき集めるよりほかにない。そしてまとまった敵歩兵に遭遇すれば、もうどうしようもないと思うしかなかった。
「みんな聞いてほしい」
航は妹たちの方を向いた。何を言われたというわけではないのに、自然に感情は伝わっていたらしい。すでに決死の覚悟がみなぎっていた。
「全員で、肉薄攻撃を行うしかない。一人でも二人でも敵戦車に取り付き、手榴弾で攻撃してほしい。これから続々撤退してくる味方のためにも、今ここであの戦車を破壊しなくちゃいけないんだ」
ここまで言ったとたん、敵戦車は突然エンジン音を高めると、ゆっくりとその場で旋回した。航は心臓が凍るほど驚いたが、相手はやがてもと来た道を反対方向に進みだした。ただ単に方向転換をしただけのようだった。
「可憐ちゃんは走れないだろうからここで伏せていてればいいよ。動けないとすぐにやられちゃうからね」 可憐はだいぶ思考力が衰えているらしく、航が何を言っているのか理解するのに若干の時間を要したが、やがて弱弱しく頭を横に振った。
「ありがとうお兄ちゃん。でも大丈夫です。擲弾筒をください。可憐も一緒に戦います。戦わせてください」
可憐は無理矢理にっこり笑うと、両手を広げて強がった。しかし、右半身を染める鮮血のせいで、その姿はあまりに凄惨だった。
(可憐ちゃん・・・・)
航は痛む左腕を伸ばし、可憐の頬にこびりついた血を指で落とした。可憐は気持ちよさそうに軽く目を閉じた。
「お兄ちゃん」
可憐は、航の左手を両手で包み込み、愛おしそうに頬擦りした。
「お兄ちゃん。大好き。心から愛しています」
可憐は涙をいっぱいにためて航を見上げた。視線が交錯した。
「可憐ちゃん。何をお別れみたいなことを言ってるのよ。みんなで生きて帰るのよ」
咲耶が、横から口を挟んだ。うっすらと笑みを浮かべてはいるが、その表情はかすかにこわばっていた。
「もちろんです。一緒にプロミストアイランドに帰りましょう」
可憐は咲耶に頷きかけた。擲弾筒と弾薬を受け取り、きりっとした表情に切り替える。
「可憐、準備できました。いつでもいけます」
咲耶、雛子、春歌は小銃を地面に置くと、銃剣だけを鞘に収めて左脇に吊った。右手に手榴弾を握って笑う。
「肉弾三姉妹ってとこかしら?」
「り〜んたるこ〜ころさんにんが、お〜もうことこそひとつ〜なれ〜」
「我らが上に頂くは、兄君さまの大御稜威というわけですね。ふふふ」
咲耶の趣味の悪い冗談に雛子の無邪気な歌声が重なり、珍しく春歌が声に出して笑った。航は妹たちの固くならない姿を見て、改めてその強さを知った。
「私は、これで敵を引きつけよう」
千影は軽機関銃を掴んだ。目立つようにするためか、着剣までしている。
「千影ちゃん、あの機関銃を持っている敵兵を狙撃できる?」 試しに航が聞いてみた。千影は少しの間自分の機関銃を眺めていたが、やがて笑みを浮かべた。
「ふふ・・・・保障はしないが、やってみるよ・・・・・」
航は安心した。千影がこう言った時には、たいてい何とかしてくれるからだ。
準備は整った。
「じゃあ、行こうか」
敵戦車は、かなり左手の方へ行ったが、やがてエンジン音を高めて引き返してきた。どうやら、一直線上のルートをしつこく往復しているらしい。
(みんな、生き残ってくれ・・・・・)
航を中心に、咲耶、春歌、雛子、可憐の四人が大きく散らばった。息を殺してゆっくりと接近していく。
(気付かないでくれっ!)
戦車の砲塔は、まっすぐこちらを向いている。前方百メートルを、人が歩くほどの速度でゆっくりと敵が左から右に横切っていく。妹は誰も見えない。千影を除く全員が、踏み潰された蛙のように這いつくばって前に進んでいるはずだ。
丈の高い草に身をやつしながら、じりじりと近づいていく。むっとする草いきれで呼吸がつまり、得体の知れない虫が目の前を跳ねる。
突然、エンジン音が高まった。ぎょっとして顔を上げると、敵は再び方向転換しようとしていた。
(判で押したような行動。ずいぶん舐められてるなあ・・・・・)
だが突然、さらにエンジン音が高まった。異変を感じて航が顔を上げた瞬間、敵の機関銃が猛然と火を噴いた。
(見つかった!)
「全員、突撃!前へっ!」
航が一気に立ち上がって軍刀を振りかざすのと、千影が機関銃を撃っていた敵兵を狙撃したのが同時だった。敵は戦車の中へ崩れ落ちた。
「突っ込めええええ!」
「うわああああっ!」
「はあああああああっ!」
少し離れたところから、咲耶と春歌が走り出した。可憐は膝立ちになってに擲弾筒を水平に構えると、力いっぱい撃ち出した。敵戦車の前面に轟音と共に爆発が起きるが、ダメージを与えた様子はない。
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