そう、普通なら疲労困憊する(というか、歴代の聖女達も日々疲れ切っていた)筈の
多忙さなのに、この聖女だけは来る日も来る日もやる気満々だったりする。
 「ねぇノエル、今日も下着は無しで構いませんよね? 私に会いにに来て下さる方々が
『まさか、そんなはずは!?』とか思いながら胸元とかお尻の形とかをチラチラ覗き込んで
くるのを感じるだけでゾクゾクしちゃうんです! この前いらっしゃった王子殿下なんか
『今日は日差しが暖かいですね』なんて言いながら上着を脱いで差し上げたら、それはもう
胸が気になって気になって仕方なかったご様子で、耳まで真っ赤になられて気も漫ろで、
私のお話なんて一つも頭に入らないままチラチラ盗み見みて、『どうかなさいましたか?』
って態とらしく襟の奥をお見せしたら大慌てで、それはもう可愛かったんですよ?」
 「……なるほど……」
 殿下は確かに御年十二だったはず。
 それは確かに刺激が強すぎたに違いない。
 只の同性代の女性の素肌だけでも敏感に反応してしまうお年頃だというのに、この変態
は抜群の美少女。しかもお恐れながら清楚と潔癖の代名詞たる聖女様。
 その法衣の内側という神秘の領域を至近距離で見せつけられた日には、真っ白な素肌の
破壊力と相まって理性と欲望の鬩ぎ合いで混乱してしまうに決まっている。
 「次にいらっしゃるのは来週でしたっけ? じゃあ、その時にも……」
 「……その前に、本日はリィム伯爵のご令嬢がおいでになりますので……」
 「そうでした! では私なりに淑女の嗜みを色々と教えて差し上げましょう!」
 むふふふ、と舞台に立つ悪役のように生き生きと意地の悪い笑みを浮かべる聖女様の
横顔にゲンナリしつつ、ノエルはまた、溜息をついた。

 貴女様の類い希なる法力の源は、そのお身体に流れている淫魔の血のお陰なのです。
 側仕えの立場を利用して、そんな嘘八百を吹き込む。
 そうすれば、いずれ精神的に破綻を来して失脚する。
 そう言われて、毎晩のように眠っている聖女様の耳に繰り返し囁き続けたのに。
 それなのに、どうしてこうなった?