「びっくりしたなぁ…。あんたも修学旅行……中学生?」
「はい。すいません興奮しちゃって。自由行動の時間もう少ないし、困ってたんです。いきなりで本当にすいません。教えてもらえませんか、石の場所」
「ああ… まぁ、いいよ。近くだしな」
カメラを構えていた方、その男子が短髪の頭を掻きながら言った。
そして、あまり興味なさげだった、もう一人の男子が意外そうに声をかける。
「おい、いいのか? 港とかの写真は?」
「後で撮りゃいいさ。この子困ってる」
「なんだよ、お前けっこう優しいな……。好みの子なのか?」
「そんなんじゃねぇよ、流石に中学生は興味なし。とにかくほら、行くか。すぐそこだ、そこのグラバー邸の庭の隅っこにあるんだ」
「あ、ありがとうございます!」
親切なその大学生の背中に、薫はついて行った。
これも普段だったら、まず声はかけていなかっただろう。彼女らしくない行動だった。
年上の男子……どころか遥か上の大人である、男子大学生に対してなど。
普通だったら緊張して喋りかけられないか、そうでなくとも相当に躊躇したはずだ。
「お前、見つけてたんなら言えよな。時間損しちまったじゃねえか」
「いやだってよ。あんな石、お〜、これかぁでお終いだろ普通。すげぇ小さいし」
「やっぱり、あれって小さいんですか?」
「ああ。向こう岸に何があるか描かれた石の台があってよ、そこから何歩か横なんだけどな……言われなかったら、なかなか気づかねえよ。あれ」
「へ〜……でも本当、良かったです。班の友達ともちょっと離れちゃって、自由時間かなり使っちゃって、不安だったんですけど。実際みんなも見つけられなかったみたいだし」
「そうか。なら俺らが居て、運が良かったな」
「つか、あんたも良く声かけてきたよな……。でも友達とはぐれちゃったのか〜。すぐ会えそう?」
「ええ、多分。メールで、どこに居るかは教えてもらいましたから……」
実際彼女は安堵の表情で、三人連なって石畳の坂道を下っていく。
元いたグラバー邸へは、ほんの一分ほどで着く道のりだ。
大学生二人は、気さくに薫と話をしてくれている。