「……ん。 ちょっと酒臭いか? 40分も寝たし、においが移ったか……」

 それだけは、口に出てしまった。
 作業着についた、いつもと違う匂いに彼は気づく。
 酔いつぶれて寝てしまったサンタ……ではなくサンタコスの女の子だが、彼女を一旦寝かせたそのソファで仮眠をとっていたのだ。
 ペンキや接着剤、作業服に匂いが付くのは日常茶飯事だが、あの子の匂いなら酒の匂いもまぁいいだろう、と思った。

 あの飲んだくれサンタ、吐いたりしてないか。大丈夫か。
 あの恰好で、風邪ひいたりしないか。心配だな。
 明日……じゃない。今日も俺のこと、見てくれるかな……。頑張らなきゃな……。
 眠い中、雑多な思考が彼の頭をめぐる。

「よしっ! やるか」

 残った書類仕事を片付けるべく、彼は頬を叩いて机に戻った。
 この仕事を応援してくれる人がいる。
 自分自身と、その人のために頑張ろう。
 それから、また来てくれた時のために、事務所と、それからトイレをきれいにしとかないとな……彼はそう思った。


 彼の見た、悪夢。
 悪夢も実は、良いことが起こる前触れとも言われる。
 突然現れて彼の心をかき乱したあの酔っ払いサンタが、夢の少女によく似ていると気付くには、まだ時間が必要だった。