【Wizardry】ウィザードリィのエロパロ18【総合】
0001名無しさん@ピンキー2025/03/29(土) 19:57:51.03ID:rBCZYcAH
ワードナ率いるヴァンパイア軍団や、ローグ、オークその他のモンスターに凌辱される女冒険者たち。
プリーステス、ウィッチ、サキュバス、獣人などの女モンスターやNPCを凌辱する冒険者たち。

ここはそんな小説を読みたい人、書きたい人のメイルシュトローム。

凌辱・強姦に限らず、だだ甘な和姦や、(警告お断りの上でなら)特殊な属性などもどうぞ。
過去スレその他は、>>2-10辺り。
0070名無しさん@ピンキー2025/06/16(月) 13:19:37.40ID:LK+L1a/P
>>68
ソーンあたりにやられたい、逆レモノになるけど…
女冒険者は部下にくれてやる(好きにしていいぞ)のか…それとも百合ハーレムPTを組むべく邁進するのか
0071名無しさん@ピンキー2025/06/16(月) 13:25:10.15ID:LK+L1a/P
>>59の考察の続き
ヴァルキリー
・はいてない(一部の司祭級ははいている)
・無毛

アマズール
・はいている(一部の司祭級ははいてない)
・ボーボー
0072名無しさん@ピンキー2025/06/16(月) 13:27:23.42ID:LK+L1a/P
>>66
おかえりー
寝たらレベル上がった?
0073名無しさん@ピンキー2025/06/16(月) 23:00:36.72ID:bCBbrQJ6
>>70
SMTif...の女主人公みたく、降伏した女悪魔にナニして「お姉様とお呼びしてよろしいか……?」する系のキャラになりそう
0076名無しさん@ピンキー2025/08/12(火) 18:15:13.27ID:bL6hxWC3
公式・非公式、ライセンス有るか無しかは別として
・オンラインゲーム
ウィザードリィダフネ

・ゲーム
外伝 五つの試練(SWITCH)

・漫画
魔境斬刻録 隣り合わせの灰と青春(コミックボーダー)
ブレイド&バスタード(コミックDRE)

・小説
ブレイド&バスタード小説版(DREノベルズ)
迷宮くそたわけ(カクヨム)

あたりが今動いてる環境か(元ゲーのクローンとかもあるけど)
補足あったらヨロシク
0077 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/18(月) 22:48:55.60ID:YzJyzaNv
こんばんは。
大昔こちらのスレに続き物の話を投下させていただいた者です。
色々あって時間がかかってしまいました。
誰も覚えてないでしょうが、話の続きを落とさせてください。

NGワードは鑑定士、またはトリップでお願いいたします。
エロは薄めです。

専ブラが携帯版に対応してるかわからないのでNGワードが設定できないかもしれません。
申し訳ありませんが、手動で数レスから数十レス飛ばして下さい。

それでは投下させていただきます。
0078鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/18(月) 22:54:08.50ID:YzJyzaNv
“ここで重要なお知らせです。
ミニチュアホースに続きシェトランドポニーが
媚薬と“スパム”の過剰摂取で人事不省に陥り、発走除外。
繰り返します。シェトランドポニーが出走の取り消しを表明いたしました!

さあ、日も暮れてまいりました。
レッドターフが映えるこのロイヤルスイートグラウンド、
第“17”レース、オージー特別はサラブレッドの一頭立てという
豪華な顔ぶれでいよいよ出走です!”

 * * *

 偶発的な現象の連続は、しばしば芝居がかった奇蹟を起こす。あたかも、
最初から仕組まれていたのではないだろうかというほどに。しかし、その事象は、
あくまで偶然であり、人知を超えた力を持つ神が、たおやかにその御手を脆弱なる
人に差し出したもう結果なのだ。

―――――こいつが神サマの仕業なら神なんてウンコ食らえだ!!

 * * *

よう、俺だ。残念ながらまだくたばっていないんだ。この通りピンピンしてるぜ。
なんだ、不服か?なに、あれからたった6レースしか走ってないのかって?
ハハハッ、そうじゃないさ。『あれから』16レースを完走したんだぜ!
ゴールに着いた思いきや、すぐさま次のスタートラインという強行軍的地獄の
スケジュールだ。われながら素晴らしいスタミナだよ。新米ジョッキーのこの俺が、
こんな耐久力を示せたのも、ひとえに良馬のおかげだな。
ただし、下になるのは俺のほうだ。手綱を握っているのは俺だが、
俺の手綱も彼女たちの腰のあたりに結び付けられている。
ああ、どっちがジョッキーだかわかったもんじゃない。
――なんだよ、え?こいつはポニープレイじゃなくてパピィプレイだって?
はっはー! 細かいことは気にするなよ!
もうオツムが破裂間近でイカレちまったんだからな!
イカレついでにこの際言っておこうか。ああまったく、実に素晴らしい乗り物だったよ!
一つとして同じ“乗られ心地”じゃないんだからなあ!
0079鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/18(月) 22:58:50.31ID:YzJyzaNv
ボンデージプレイでの最大の利点は、なんといっても、こちらに選択権がないことだ。
何が起こっても、自分のせいにしなくていいんだからな。いや、まったく、14レースを除き、
11レースから16レースまでの試合は酷いもんだった。10レースの終わりごろから、
初めての試合で小人どもに散々虐められた妹さんが、仕返しを始めてなあ!
パーティ内での喧嘩に部外者を巻き込まないで欲しいよ、まったくハハハッ……

“そう落ち込みなさんな!あれだって、フローレンス女史の御尽力あってのもんだったぜ!”

あー、ありがとうペニス君。君だけが俺の友達だよ。責任とってくたばってくれ。
確かに妹さんは“優秀”だったよ。彼女には素質がある。
迷宮とは大違いの実に見事な連携だった。が、それもさっきのでおしまいだ。
今は個人競技の時間だ。邪魔者がいなくなって清々したと思ったが、いなくなって見ると
少し寂しいもんだな。ハハハッ、俺は何をいってるんだろうな!
 順番が逆だが、今さらになって、セックスの意義について深く考えられるようになった
気がするなぁ。種族別の受精確率はどうたったかな?
こんなことなら、もっと真面目に生物学を学んでおくべきだった。

“多種族間での『H』との出生率は概ねアルファベット順”

はっはぁ!こんな時でもちゃんと答えてくれるとはさすが俺の脳味噌だ。
そうだ、アルファベット順だった。他種族が“H”umanと交配したときの出生率は
“D”と“E”が同率、“G”と“H”が接戦で最も低いという並びだ。
あくまで科学的な根拠など一切ない極一部のヒューマンの人類学者が提唱した
俗説だが今こそこの迷信に全力で縋らせてくれ。

“この比率はHumanと婚姻した他種族との比率に比例している。つまりヤッたら
ヤッただけデキた人数をカウントしただけ。本当にただの迷信だ”

土壇場で素敵な事を思い出してくれるなんて、俺の脳味噌は実に素敵な
構造をしているね。
ハハハッ、気休めにもならないよ。ああ畜生、ぶっ殺されてもいい、誰か来てくれ!
THE SPANISH INQUISITIONでもいいから誰か来てくれよ!
頼む、誰か助けてくれ!!

 * * *
0080鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/18(月) 23:02:08.31ID:YzJyzaNv
 覗き穴にかじりついている丁稚をどうやってどかそうかと、ホセは思案していた。
肩を叩こうが頭をはたこうが、びくともしない。
「なあもう良いだろ、ここでマスかくのはやめろ。親父に言いつけるぞ」
 上気した顔で、Adventurer's Innのルームマンの下っ端の制服を着たホビットは
やっと振り返った。でっぷり太り、蚤をばらまいたようにまだらに禿げた中年男の
ホセの容姿は、ボップの劣情を削ぐのに一役買った。
 ホセが紙煙草に火をつけようとすると、ボップは慌てて止めた。
「ここは禁煙ですよ」
「そうだな」
 薄暗い部屋の中で、ホセはポケットの中から火種の入った銀ケースを取り出した。
そのまま火をつけ、安煙草の煙をボップに吹きかけた。すくみあがったボップを
覗き穴からどかすと、咥え煙草のまま穴を覗いた。
「勘弁して下さい。壁紙を焦がしたら支配人に殺される」
「わかってるよ、任せとけ」
 ホセはポケットから銀細工のケースを取り出すと、蓋を開けて中に灰を落とした。
「痰壺ぐらい置いとけよ。親父にそう言っとけ」
「冗談でしょ」
 情けない声ですぐに火を消すよう訴えるボップをよそに、ホセは穴の向こうの
ロイヤルスイートのベッドの様子を伺った。

 ここは従業員専用の通用口だ。上等な部屋の壁の隙間には、こうした覗き窓が
いくつも空いている。従業員に金を握らせば、冒険で財を成した成金たちの
私生活が覗ける秘密の部屋だ。
 穴の向こうでは、エルフの女が、ヒューマンの男に覆いかぶさり、絡みついていた。
両脇にはぐったりした裸の小人女が二人、それぞれベッドの左右の端でだらしない
痴態をさらして眠り込んでいる。
「ここは禁煙だ」
 ホセは突然、肩を捕まれ覗き穴から引き剥がされた。眼の前には、肩に
房のある上等な赤い制服を着込んだ、がっしりした黒髪のドワーフがいた。
「やあ、ホール。久しぶり」
 ホセはすぐに銀の灰皿で煙草をもみ消した。ホールは煙草の火が消えると
厳格な顔を崩して笑顔で拳骨を差し出した。
「やあホセ」
 ホセも拳骨をつくり、ドワーフのこぶしに軽く打ち合わせた。
0081鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/18(月) 23:07:18.90ID:YzJyzaNv
「たまには店にも顔を出せよ。さみしいじゃねえか」
「そうしたいところだがね。年末は帳簿の整理で忙しいんだ。
なあ、あんたのところはいつになったらクレジットカードに対応してくれんだ?」
「冗談じゃねえ。現金払いだけだ」
「ボルタックのおやっさんみたいなこと言うねえ。お硬いこって」
「そうさ、悪いか。オヤジは若かった頃に空手形掴まされた。それ以来オヤジは金貨以外は
信用してねえ。おれはそういう風に教わったんだ」
「その話はもう耳にタコができるくらい聞いたよ、おっと」
 ホールは床のぬめりに気がつくと、後ろで震えているホビットに恫喝した。
「ボップ! また床を汚したな」
 ボップはすくみあがった。
「すみません、すぐに拭きます」
「石灰、おがくず、それから石鹸水と布だ。準備だけして部屋の外で待ってろ。
おれはホセと話がある」
 ボップは打たれた犬のような返事をして、音を立てずに通用口に駆け出した。
丁稚が部屋から出るのを見送ったホセは両手を広げて言った。
「すげえなこりゃ、大当たりの部屋じゃないか」
「ああ、この部屋に出入りしてるのはあと二人いるが、どっちも上物だ」
 ホールはホセの体をどかして、自分も節穴を覗き込んだ。ホールは舌打ちをした。
「なんだあの男。あんな情けねえ野郎が、あんないっぺんに別嬪とやれるなんてな」
「代わりてえか?」
「あんたの店の薬を使うならごめんだね」
「お前ならどれにする?」
 ホセは親しみをこめた笑いとともに言った。
「一人だけか?」
「贅沢だな」
「銀髪と金髪」
「へえ! お目が高い」
「あんたの店に並べたいのはどっちだ?」
「どっちも捨てがたいね。あの銀髪は原石だ。伸びしろは十分、仕込みがいがある。
手つかずのままでもいい。ちょっと鼻につくところがあるじゃじゃ馬で、世間知らず。
あんたみたいな奴はその方がお好きだろ?」
「おれは普段のあのエルフを知ってるんだ」
 ホールはニヤつきながら答えた。
「需要は大いにあるね」
 ホールは覗き穴を見ながら額に手をかざし、目を細めた。
0082鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/18(月) 23:11:11.37ID:YzJyzaNv
「できれば二人乗りがいい」
「そりゃ品がないぜ、ホール」
 ホセは顎の贅肉を引っ張りながら、首を左右に振った。 
「あの金髪を調教したやつの手腕には、正直おれは感動しているよ。
モックチャイルドは巨人に人気の商品だ。あんだけ仕込むにゃ
金も手間暇もかかる。アレが動いているところをあんたに見せて
やりたかったぜ。何もしなくても硝子箱の一等席に上げられる」
「あんたがやるならどっちだい」
「そりゃあ、断然茶髪だね。俺用だ。店になんて上げねえ」
「だろうと思ったよ」
 二人は友情を確かめあうように笑いあった。
「それであんたの素晴らしい新商品はいつ売り出すんだい」
「ああ、薬か? ありゃ売りもんじゃねえさ」
 ホセは覗き穴を見ながら答えた。
「使い潰したガラクタどもに飲ませる用の試薬だったんだがねえ。
ジッドの旦那のお手製だぜ」
「ほう」
 ホールは顔を背けるようにして眉をしかめた。
「効き目はまあまあだな。これなら行けるぜ。オツムはすっかりパアになるが、
最後の稼ぎをさせるにゃ上等だ。それにしてもあんなクソみてえな鑑定屋に
こんな上玉の知り合いがいたとはねえ。あーあ、もったいね」
「あんたが言うなんてよっぽどだな」
 少しばかりげんなりした顔でホールは言った。ホセは鋭い舌打ちをして、
覗き穴から離れた。
「くそっ、上物三人も使い潰しやがって、あの畜生野郎が」

 * * *
0083鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/18(月) 23:14:19.76ID:YzJyzaNv
 宵の空から太陽が追われ、夕日の残り火も西の彼方に消える頃、城内の戸々では
暖かな火が燈り、窓から色とりどりの明かりが零れ、街は、到来する長い冬の夜への
準備を着々と進めていた。決して上げられることのない跳ね橋では憲兵の簡素な
入城検査を待つ冒険者が列をなし、跳ね橋のすぐ側では、仕事熱心な客引きたちが、
一日の行程を無事終えた冒険者から、彼らの得た幸運の一部を授かろうと躍起に
なっていた。跳ね橋を渡ると、多くの城がそうであるように網目のような複雑な道へ
と出る。迷路のような路地の先には、広大な面積を囲む内堀が出迎える。
普通の城であれば、ここに宮殿や、議会場、寺院など、都市にとって最も重要な
政治の中枢機関があってしかるべきである。だが、この国において、
最も重要な機関というのは、議会でも、寺院でもない。堀の内側にあるのは、
交易都市リルガミンが誇る広大なMarket Place(市場)だ。内堀の中央には
東西にメインストリートが走り、東西いずれの道も、堀の内壁につかないうちに、
大きく二股に分かれ、その四本の道が、巨大な四つのアーチへと繋がっている。
このアーチは、外壁の外にあるTRAINING GROUNDS(訓練場)を除く、
リルガミン“五大施設”の表玄関にもなっている。

城内に無事たどり着いた冒険者たちは、皆、一様にして安堵の息をもらし、
命の尊さを噛みしめ、一日を恙無く過ごせた事を神に感謝し、また、仲間の
機転と自らの武勇を褒め称えながら往来を闊歩する。
マーケットプレイスの入り口では、多くのパーティが、“解散”の儀式を行っている。
生死を共にした兵たちが、隊から個へと還るのだ。

ある者は、仲間と別れた後、寺院の『夕べの集い』へと向かい、ある者は、
自らの命を賭け代にして手に入れた武勇伝を土産に歓楽街へと姿を消し、
またある者は、互いを称え合うために、夜のパーティを組み、酒場へと向かう。

この街を最初に訪れたのならば、まずは“酒場”へ行ってみることだ。
もしも君の運がよければ、そこで永遠の友となり得る仲間を見つけられるだろう。
それだけではない。このGILGAMESH’S TAVERNは、新参者に、
この街のルールを教えるのによい教育の場だ。
この酒場の風景は、この街の風情の縮図そのものなのだ。
0084鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/18(月) 23:18:23.94ID:YzJyzaNv
他所から初めてこの街に足を踏み入れたものは、この酒場の光景を見て目を
むいてしまうだろう。敵対会派が、共に同じ卓で食事をし、敵国同士を故国に持つ
若者たちが、お国での紛争事もどこ吹く風と親しげに会話を交わす。
訓練場では教えてくれない奇妙な魔術で、酒瓶を浮遊させ、余興を披露する司教の
卓に、新人の魔術師たちが群がりその妙術に目を輝かせて見入っている。その傍らで、
仲間の戦士が胡散臭そうな目を向けてエールを飲み干す。『魔法の世界』ならではの
実に珍妙な光景だ。この酒場でカードをやるには注意をした方がいい。
シーフと金属鎧を着れない輩(スペルユーザー)を相手にすれば、財布の中身を
すっかり抜き取られること請け合いだ。城門を潜り抜けた先で見た光景そのままに、
“最下層民”たちもまた、この酒場に溢れかえっている。ここでは、戸外にいる乞食に
加え、いわゆる冒険者以下乞食以上の、辛うじて“冒険者”と名乗る事を許される者たちが
存在する。訓練場で登録した職業とはまた違った、冒険者の間での
肩書きを持つものたちだ。

 夕暮れのGILGAMESH’S TAVERNの厨房は、これから押し寄せる冒険者を
迎え撃つべく準備に忙殺されていた。冒険者にとって、食事は特に重要なイベントだ。
探索から帰ったばかりの冒険者たちは、この酒場で食事を取ることが多い。
この酒場はギルドの集会所もかねているからだ。酒場の食事は、大味で品数も
少ないが、非常につぼを押さえた品揃えだ。一風変わった食生活を営む砂の民や、
砂漠より東の国の出身者の口に合うものは少ないが、西国の者が好むような
脂身の多い料理のレパートリーはそこそこだ。特殊な食事は取り扱っていないが、
一般的な謝肉祭や断食月ぐらいには対応できる。味にこだわらなければ、
我慢できなくはない品質だ。
 食事をする客の中には種族ぐるみで偏食家の地族(Gnome)も少なくない。
彼らの大好物であり、街では滅多に手に入らない最も素晴らしい飲み物、
『水』があるからだ。

戦場さながらに立ち回るカウンターの向かいでは、冒険者の帰還後に行われる
点呼を間近に控えた“銀行家”たちが居並んでいる。カウンター席の動く壁たちは、
これより到来する唯一にして最も苦しい仕事――自らが、本来あるべきであった姿を
まざまざと見せ付けられる恐ろしい業務、あるいは、彼らの雇い主の虫の居所が
悪い時に行われる無意味な体罰――を目前にして、運命の女神の冷たさを思い出し、
この先死ぬまで繰り返される静かで暗い拷問に耐えるべく機械に徹するために
絶望的な努力をしている。幾人かの者は、束の間その苦しみから逃れようと気晴らしに
励んでいた。具体的な例を挙げれば、擦り寄ってくる街娼と卓を共にする(“床”では
ない。長年銀行をやっているものほど、娼婦の危険性を承知している)、怪しげな品を
押し付けてくる商人に罵声と唾を浴びせる、主にホビットで構成されている
似非少年少女合唱団に金貨のつぶてを投げつける(もちろん、金貨を受け取るために
帽子を差し出した瞬間を狙い、正確に額目掛けてだ)といったものだ。
0085鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/18(月) 23:21:50.70ID:YzJyzaNv
ちょっとしたハプニング――
銀行の一人が、飲みすぎてうっかり「なんて惨い仕打ちなんだ! おれがこんなこと
されるいわれは無いのに! これじゃまるで“THE SPANISH INQUISITION”だ!」
と口を滑らせたばかりに、赤服の修道士が乱入した事件――を除けば、
それはいつも通りの冬の夕暮れの光景だった。

「これ、なんだと思います?」
カウンターにほど近いテーブル席にいた褐色の少女が、傍らにいたエルフの女性に
話しかけた。袖口の広い長袖のダルマティカを身に付け、上から短いケープを羽織り、
行儀よく閉じた膝の上にミトラ(司教帽)を置いている少女の格好は、鎧こそ
着ていないが、それを除けば、探索業に向かう司教の装いそのままだ。
正装で酒場にいるということはこれから探索に出かける所か、あるいは
今しがた帰還したばかりか。傍らの女性の装いからして後者だろう。
一見どの種族か迷ってしまう可憐な姿のこの司教は、尊大な山岳部の同族が
最も卑下する砂地のドワーフだ。彼らの血はけっして卑しいものではない。
かつてエルフ族からも『最も美しい小人』と称された流浪のドワーフ(シールドドワーフ)の
血を受け継ぐ一族の末裔だ。山を追われた砂漠のドワーフは、体躯は大柄な者が
多いが、ドワーフとしては非常に体毛が薄く、特に女は、純粋なシールドドワーフと
違い、年長者ですら髭を蓄える文化がなく、贅肉も極端に少ない。この地方出身の
Dwarf女に共通して言えることだが、彼女たちはDwarf族であるにもかかわらず、
しばしばHuman族の男の目を数十秒ほど留めさせることができた。
世慣れしていないこの司教の少女は、それよりもより長い間、凝固の呪術を
かけることができるようだ。

「リーダー、あの」
司教の少女は、彼女にしてみれば精一杯の大きな声で話しかけ、エルフの袖を
軽く引いた。端麗な顔の女性は、頬に手を当てたまま、カーチフからはみ出した
銀髪を揺らして振り向いた。
0086鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/18(月) 23:25:13.01ID:YzJyzaNv
 少女の隣に座るエルフの女性は、冒険者とはとても思えないような、まるで街娘の
ような質素な服を身に着けていた。ひとつなぎのカートルからは刺繍こそほどこされ
ているもののカフスの付いていない袖が伸び、頭に袖と同じく赤と薄い緑の糸で
刺繍されたリンネルのカーチフを被っている。そんな質素な身なりにも関わらず、
エルフは司教同様人目をひいていた。元来、エルフ族は非常に繊細な顔立ちを
している。その中においても、一際目立った容姿のこの女性は、白磁の肌に
輝く生糸のような銀髪を持ち、渓谷の伝承の中にある小神族の末裔のように
神々しい美しさを放っていた。しかし、注意深い人ならば、一見高潔で、貞淑そう
な彼女の藍玉色(緑柱石の色、青緑)の瞳に、悪名高い“沼地のエルフ”のような
死ぬまで男を躍らせることができる魔力が宿っていることに気がついただろう。

「え、なに?」
「これ、なんだと思いますか?聖遺物であることは間違いないんですけど…」
 司教は、聖別された絹布に包まれた色の悪い腸詰の切れ端のような物を
エルフに差し出した。
「あら、どこでこんなの拾ったの?」
「赤い服の方々が落として行ったものなんですけど」
「赤服?」
「さっきカウンター席の人を安楽椅子に縛りつけたまま連れ去ったあの……」
「ああ、SPANISH INQU…… あの連中ね。ごめんなさい、全然気が付かなかったわ」
「あんなに大騒ぎだったのに、気付かなかったんですか?」
「ええ」
 驚く司教に、気のない返事をしたエルフの女性は、再び火時計に見入った。
もう随分と長い時間、彼女は心ここにあらずといった具合で、酒場の入り口と、
目盛りのついた銅板の上でほの暗い店内をちらちらと照らす火時計とを
交互に見つめ、不安げに顔を曇らせていた。僅かな沈黙の後、司教が
決まり悪そうに声をかけようとしたとき、突然エルフの女性が振り向いた。
「遅すぎるわ。宿屋から往復で一時間もかかるわけないのに」
 ほとんど独り言のように呟くと、エルフは椅子に手をかけて立ち上がり、
ストールを羽織った。彼女は、ポカンとしている司教の頭にミトラを乗せ、
まるで男のように顎をしゃくって合図をした。
「いらっしゃいフラウド。あの子たちに、何かあったらしいわ」

 * * *
0087鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/18(月) 23:28:25.36ID:YzJyzaNv
 最高のバカ面で、俺は天井を仰いでいた。
たまに意識を失いそうになって、数秒で目が覚める。いつの間にか口の端から
涎が垂れている。腰をくねらせて俺の下半身を愛撫していたフローレンスさんが、
俺の首に手を回し、よだれを舐め取った。俺は横を向いて、彼女の顔を見た。
こうして間近で見ると、やはり似てるだけで彼女とくノ一は違うな。色気は
たっぷりだが、フローレンスさんの方が無邪気で子供っぽく見える。
俺の頬を舐め回していた彼女は俺の口に吸い付いた。

 あっ、もうこのまま、ここで生涯を終えても良いんじゃないか。いいだろ。
いや、ちょっとまて、このままで良い訳が無い。そうだろ。おそらくこのままでは
くノ一に八つ裂きにされる。
 猛烈に勃起してるが、頭はもう賢者の心得を習得する状況まで来たと断言してもいい。
あっ、フローレンスさん、それはちょっと、あっ、はげしすぎぃ、あっ、あっ、あっ、ううぅっ!
……すまん、何の話だったっけか。とにかくだ、なんとかしてここを出ないと。
自分で蒔いた種だが、俺がどうにかして終わりにするんだ。とにかく考えろ。

 シャイアやチビが先に寝ちまった理由は、あの媚薬には時間差で作用する
強力な睡眠作用があるということだ。あの二人が特別寝付きが良いってわけじゃ
ないだろう。お楽しみのあとは、時間差で眠らせるなんてまさにレイプ用の
薬ってわけだな! ちくしょう、もう薬なんてやらない。本当だ。
 フローレンスさんが眠ってない理由は、あの二人より明らかに摂取量が
少なすぎるからだ。エルフに薬物耐性があると言ったって、個人差程度に
強いってだけだ。
「ふふっ」
 耳元に息が吹きかかった。俺の右腕を枕に寝転んだフローレンスさんが、
うっとりとした眠たげな目で俺の頬を撫で回している。間違いない、彼女はもう意識が
なくなりかけている。
 素のままじゃ俺のKATINOは効きゃしないだろうが、今ならなんとかなるかもしれない。
幸い両腕のシーツはとっくにほどけてる。やるしかねえ。
俺の首に腕を回して頬を舐め回し始めた彼女に、小声でKATINOを詠唱した。
 閉じかけていた彼女の瞳が開き始めた。あれ、やべえ、やらかした、聞かれたか?
とろりとしたフローレンスさんと目があった。効いてる。大丈夫だ。
俺は死に物狂いで、もう一度KATINOを唱えた。
「くふっ」という短い風が俺の耳をくすぐった。
0088鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/18(月) 23:33:36.76ID:YzJyzaNv
俺の右腕に頭を預けて、彼女は眠った。俺は左手を彼女の顔の前にかざした。
規則的な柔らかいリズムが伝わる。大丈夫、ちゃんと寝てる。
いよっしゃあ、逃げるぞ。うん逃げるぞ。逃げるんだ俺。
いやでも、あと五秒後……いや三十秒……いや二分後には必ず。
駄目だ彼女の寝顔の可愛さが破壊力ありすぎる。

こうなったら訓練場時代のとっときの起床方法を使うしか無い。
俺は心の中で十秒をカウントダウンした。
じゅーう、きゅーう、はーち、なーな、ろーく
「五秒前、四、三、二、いぃいち」
  フンッと勢いをつけて俺は左半身を起こした。起きれた。良かったあぁ……。
これ駄目だったら冒険者廃業だよ、鑑定士も名乗れねえ。
俺はそっとフローレンスさんの頭をどかした。彼女に覆いかぶさるように、
両手で頭を持って静かに枕に、そーっと、そーっと……
なあ、あと一回くらいヤっちゃ駄目か?
 バカ、バカ、俺のばあかヤロ! 駄目だっての!
フローレンスさんは薬でこうなってるだけなんだ。正気に戻ったら
素手で俺を解体できるんだぞ。無駄な希望は捨てろ。悲しいけど。
ああぁぁ、ここにいたい。こっから離れたくねえ。
俺には勿体ないレベルの美人なんだ。可憐で、清楚で、おっぱいも大きくて、
柔らかくて、セックスも情熱的で。
彼女は今日が初めてなんだ。
そんな彼女の初めてを俺は……このさい責任取って一緒に……
いや、だめだ。俺じゃ駄目なんだ。俺は鑑定士だ。彼女には全然釣り合わない。
俺はただの生きる計算機で、最底辺のゴミクズなんだ……
うっ……ううっ、うっ……くそぉ。

 正直猛烈に後ろ髪を引かれてたが、根性と気合で俺は枕元から離れた。
腰から下の両脇をフローレンスさんとチビどもに固められてるせいで、
ベッドから転がり降りれない。しょうがなく、俺はなるべく振動を与えないように
ケツをゆっくりすべらせて足元に移動した。
0089鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/18(月) 23:36:41.26ID:YzJyzaNv
 シャイアとチビは寝てるな。俺は試しに、シャイアの顔に右手をかざした。
よしよし。よく寝てる。しかしこいつも寝顔だけなら可愛いな。
見てくれだけは本当に良いんだよあコイツ。がきっぽい身なりのくせに色気もあるし。
いかん、寝顔を確認したら、変な気分になってきた。
こいつの性格を思い出せ。そうそう。クソみたいに性悪で、口うるさくて
無駄におせっかいだ。
 仕事持ってくるときもやたらと挑発するし、仕事中も喧しく話しかけてくるし、
勝手に俺の部屋のテーブルの下の空き瓶片付けに行くし、対人恐怖症と躁鬱で
誰とも会いたくなかった時期だって無理やり押し入って飯置いくし――

 あれ、こいつ俺のこと好きなんじゃね?

――んなわけないだろ。何考えてんだ俺。ありえない。
そもそも俺がこうなったのはこいつのせいだし。
こいつは寝覚めが悪いから俺に世話焼いてるだけの小心者だ。
変な気が起きないうちにさっさと行こう。一応チビの方も確認しとくか。

 ……やばいなこいつ。フローレンスさんやシャイアとは可愛さのベクトルが違う。
これに手を出したら本当のやベえ奴じゃないか。寝息を確認するのはやめだ。
頭撫でたくなりそう。いやいや、うん、その、あれだ。
道端で日向ぼっこして寝ている子猫みたいなもんだ。
可愛いと思っても当たり前だ。
そうだ、ただの子猫、ただの子猫……寝てる子猫に欲情するとか、
余計やばい奴じゃねえか。なんか死にたくなってきた。
こいつにまた変な気を起こすようなことがあったら、俺はもう自室で首を吊るしか無い。
俺はやっとの思いでベッドから滑り降りた。

 名残惜しさで、いっぱいの気持ちになり、俺はベッドを振り向いた。
ああああぁベッドに戻りたいよぉ……枕元に飛び込みたいぃ……。
このまま四人で一緒に寝てるほうが幸せなんじゃないか。
頭の中で、俺の理性が“死にてえのかお前”とどすの利いた怒号をきかせた。
そうだ。取り返しつかないことしたが、まだ死にたくない。
なんとか逃げ出して姿を消すんだ。荷物をまとめて故郷に帰ろう。
俺は冒険者に向いてなかったんだ。
0090鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/18(月) 23:39:53.78ID:YzJyzaNv
 俺は急いで身支度をした。俺の一張羅はベッドの下に丸めて押し込まれてた。
ローブを引っ張り出したときに、ベッドの下にまだなにかあることに俺は気がついた。
浅い籠の中に服が入っている。
 こ、これは、まさか、くノ一の黒装束ではないか?!
ちょっとくらい、匂いを嗅いでもいいかな?
 俺は無意識に籠を引っ張り出して、籠ごと鼻面を突っ込んだ。
ああ、いい、すごい、とっても、いてっ、なんか固いもんに当たった――
籠の中には黒装束の他に、なにか錆びた短刀のような物が抜き身で入っていた。
錆びきっているせいで、何も切れなさそうな短刀だ。こいつは……
「“がらくた”だ」
 そうだ。大抵の鑑定士ならそこで鑑定をやめるだろう。だが俺の頭は
この短刀の元の名前を言い当てようとしていた。こいつの本当の名前は、
「“Dagger of Thieves(盗賊の短刀)”」
よし、答え合わせはできないが多分合ってる。手応えありだ。
……いや、何やってんだ俺。一刻も早く逃げるんだよバカが!
 着替えるのは至難の業だった。視界が思ったよりぐらついていることに
今気がついた。まともに歩けるかな俺。下履きの薄いズボンを履くところで
俺はようやく気がついた。勃起しすぎてズボンが入らない。ローブの結び目から
立派な息子が元気に飛び出している。これで表を歩いたら目立ちすぎる。
どう見ても変態にしか見えない。ズボンを履くのは諦めて腰に巻いたら
どうだろうか? それはそれで目立つし変だろ。ああくそっ、早くここを
出ないといけないのに……

 たしか、くノ一の黒装束、着物状だったよな、腹も下帯で締めるタイプで
胴も広がってるし、これならなんとか下も隠せるんじゃないか?
ちょっとキツイがなんとか入りそうだ。流石に着物なら女物でもなんとかなるな。
袖はあとから絞れるようになってるし。よし、着れた。やはり着物は良い。
これならズボンを腰に巻いても腰袋にしか見えないし。お、頭巾もついてる。
顔も隠せるしついでに着けとこう。ローブの上から着たからだいぶ着ぶくれしたが
これはいいな。股間も何とか隠せる。歩く時ちょっと痛いけどこれなら良し。
ああ、まるでくノ一に包まれているような気分だ。
……いや、何やってんだ俺! これじゃ変態じゃねえか!
いや、だがこれは不可抗力なんだ。何としても目立たないようにしないといけ
ないだけなんだ。俺は断じて変態じゃない。うん。……うん。

 突然、俺は外の扉の異変に気がついた。誰かがドアの眼の前にいる。
着替えに夢中で気が付かなかった。まずい。

 * * *
0091鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/18(月) 23:43:26.91ID:YzJyzaNv
「姉さん、開けて」
 くノ一は肩で息をしながら部屋をノックした。道中ずっと悪い予感がしていた。
いつもなら、彼女の同僚は、彼女がドアの前まで来ると、ノックする寸前で
扉を開けて驚かすのが常だった。
「姉さん」
 くノ一はもう一度、今度は強めにノックをした。返事なし。彼女の中で、心臓の
鼓動が素早くなっていった。なにかがおかしい。鍵は彼女の同僚に預けてある。
中から開けてもらわなければ部屋には入れない。
「姉さん!」
 くノ一はドアのノブを何度も動かしながら、激しくノックした。相変わらず返事なし。
ノックをやめて、くノ一は耳をドアに当てて、神経を集中させた。微かだが、
なにか物音が聞こえる。中に誰かがいる。衣擦れの音、引きずるような足音、
聞き覚えのあるような気がするが、彼女の仲間の出す音ではない。
「ねえ、開けて」
 くノ一は再びノックをし始めた。そのうち、壊すのではないかという勢いで
ドアを叩き出した。
「姉さん、ムー、フロー、誰かいるの? ねえ!」
 くノ一には確信があった。部屋の中に三人以外の人物がいる。くノ一は
カーチフを外し、内側に隠してあるピックの束を抜き出した。
彼女は神経を集中させ、錠前を覗き込んだ。
『ピンが上下にある。それに多層の再施錠機構ね』
 くノ一は絶望的な気持ちになった。
『ディスクの向きが不規則。何枚あるかわからない。こんなの無理よ』
 それでも彼女は二本のピックを選び出し、残りは口に加えた。
錠前に跪き、右手で一本のピックを差し込んだ。ピックで錠前のほぞの
位置を丁寧に探る。耳と違って、指先の感覚は鈍い。くノ一は、昔の
感覚を思い出そうと必死になった。鈍い手応えがある。祈るように、
左手に握ったピックを差し入れた。
『お願い、開いて、神様、お願い。開いてちょうだい、お願いです。
あの子は無しにして、あの子だけは無しよ!』
左のピックの先が溝を捉えたと思ったが、つるりと滑るような感覚がして、
錠がおりた。この鍵は開けられない。今の自分の腕では何もできない。
視界がぼやけて見える。知らない間に涙が溢れ出していた。
 五大施設の錠前は、ニンジャの彼女には荷が重すぎた。
彼女がシーフだったときですら、開けられたかわからない。
 くノ一はピックを引き抜き、カーチフにくるんで放り投げるとドアから離れた。
昔のやり方が無理なら、今の自分のやり方で試すしかない。
 宿屋のドアは、巨人や悪魔が徒党を組んで体当りしても壊れないと
評判だった。自分より何倍もレベルの高い冒険者たちですら、
ロイヤルスイートの鍵付きドアを壊せた者の話など聞いたことがない。
それでもくノ一は錠前に挑むときよりもずっと落ち着いた気持ちだった。
体をそらしてはずみをつけると、彼女は思いっきりドアにぶつかった。

 * * *
0092鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/18(月) 23:48:13.15ID:YzJyzaNv
 宿屋の入口までくると、リーダーはわたしを置いてけぼりにして、あっという
間に駆けて行きました。道中、わたしが走れる限りの速さで歩いてくれましたが、
わたしはすっかり息を切らしてしまいました。
 階段を登る途中から、リーダーの声が聞こえていました。
わたしがやっと三階につくと、リーダーは部屋のドアに、凄い速さで何度も
体当たりをしていました。
「リーダー!」
 びっくりして、わたしはとっさに止めに入りました。わたしがリーダーの腰に
しがみついたときは、リーダーは恐ろしい力で扉に向かっているところでした。
ドアに押しつぶされて、死ぬかもしれない。わたしはとっさに思いました。
リーダーはしがみついたわたしにすぐ気がついてくれました。
ドアに肩をぶつけるのを、リーダーはすぐに辞めました。
リーダーの頬には涙が流れていました。人がこんなに取り乱したのを、
わたしは生まれて初めて見ました。息を切らしながら、わたしはリーダーに
言いました。

「フロント、鍵、取ってきます」
「私が行くわ」
 リーダーは駆け出そうとして、一瞬わたしと目を合わせました。
わたしを一人でここに残すことが不安だったのだろうと思います。
怖さはあったけど、すぐにわたしは「大丈夫、待ってます」と答えました。
リーダーは風のように走り出しました。

 * * *
0093鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/18(月) 23:54:48.29ID:YzJyzaNv
 くノ一の声が聞こえる。まずい。もうドアから出られん。俺のバカ。遅すぎた。
なんとかして、なんとかしてドア以外の場所からでないと。
いっそ部屋の中に隠れるか? いや絶対見つかる。トイレに篭って籠城する
ぐらいしか対抗手段が思い浮かばん。そんなことしたら詰みだ。
 俺は部屋の中を駆け回った。トイレは二回見た。ベッドルームの窓も、リビングの
窓も全部調べた。入口以外の出口が見当たらない。そして恐ろしいことに、この部屋の
窓はすべてはめ殺しだった。たとえ出られたとしても、この高さから飛び降りたんじゃ
助からない。

 突然入口のドアから爆音が聞こえ始めた。なにかがドアを蹴破ろうとしている。
 やばい。どうする、どうする俺?
もうどうしようもない。窓から飛び降りるしか無い。だがはめ殺しだぞ。
こうなったらもう窓をぶち破って飛び降りるしかない。宿屋の物品を壊すのは
重犯罪だが、もうこの際仕方がない。
ベッドの下の浅籠にがらくたの短刀があったはずだ。あれを使おう。
俺は錆びた短刀をベッドからひっぱりだし、目星をつけた窓に思いきり叩きつけた。
窓は割れなかった。不思議なことに、手応えがない。それに音もしなかった。
なにかの間違いかもしれない。俺は今度は思い切りよく、短刀をぶつけた。
窓はびくともしない。こんなに思いきりぶつけたのに何の音もしない。
俺は絶望した。窓に近づいて、薄暗くなりかけた太陽の光を透かして見た。
「まずいぞ」
 光の反射のしかたがおかしい。ただの屈折じゃない。
この窓、なんらかの魔術が込められている。訓練場の窓と同じ技法だ。
力を込めてぶつかっても、魔力に衝撃が殺されてしまう。
俺は必死に錆びた短刀で窓の四隅やら真ん中やら、あちこちを叩いてみた。
窓枠を叩いたところで、初めて「ゴン」という大きな音がした。
 わかったぞ、これならいける。
窓は強いが、窓を支えている窓枠は何の魔力も込められていない。ただの木製だ。
木枠には四隅の金具で硝子窓が取り付けられている。隙間は木材とただの漆喰だ。
宿屋の親父、ケチったな。金具はでかくて頑丈そうだが、まだなんとかなりそうだ。
 これなら、木枠を壊すか、金具を壊すだけでいい。いやもっと良いものがある。
なにか魔力の込められたアイテムを使うんだ。それなら、魔法の硝子が逆に
力を増幅して反射する。楽に窓枠の金具を壊せるはずだ。
 この元盗賊の短刀じゃ無理だ。魔力が何も残ってない。なんかないか、
この部屋になんか、マジックアイテム。俺は急いでベッドルームを探した。
ドアからフラウドの声が聞こえた。やばい、急げ。
0094 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/19(火) 06:06:00.56ID:KbTnbrwy
連投規制からのプチ規制発動されたようなので時間置いて出直してきます
0095鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/20(水) 05:40:08.21ID:TiQ3KpL5
 ベッドの下を覗き込んで、俺はぎょっとした。得体のしれない白いものが動き
回っている。動物の鳴き声のような奇妙なくぐもった声が聞こえた。そいつは
跳ねるような動きでベッドの下から飛び出してきた。俺は思い切ってそいつを
掴み上げた。白い袋だ。端を掴んで引っ張ると、中からゴロンと大きな何かが
転がり出てきた。赤と青のケープを身にまとった、カエルの彫像だ。全身が
金属でできているくせに、生きているように這い回った。
 これだ。まさに僥倖。俺は素早くカエルを捕まえた。こういうとき、地元で
培ったスキルが活かされるってもんだ。

 俺はリビングに駆け出した。なるべく入口から遠い窓のほうがいい。
ちょうどよく、カエルの口には猿轡が噛まされていた。これはいい、このカエル、
うるさくてかなわんからな。俺は暴れるカエルの足を引っ掴んで思いきり振り回し、
全力で窓にぶつけた。派手な衝撃があった。金属音とともに窓枠が軋んだ。
いいぞ、これならやれる。
 俺はめちゃくちゃに窓にカエルを叩きつけた。最初に窓枠の右上の金具が飛んだ。
続いて右下と左上の金具が外れた。もうちょっとだ。窓はもうぐらついている。
猿轡が外れてカエルが騒ぎ出した。俺は構わず窓にカエルをぶつけた。
最後の金具が外れた。同時にカエルが俺の手からすっぽ抜けて窓の外に落ちて
いった。「のーぉぉぉぉ……」という間の抜けた悲鳴がリビングに木霊した。
俺はすぐに部屋のテーブルを椅子ごと窓に近づけて、よじ登って身を乗り出した。

 寒い。思ったより、高い。相変わらず勃起が収まらないのに、金玉だけが縮み上がった。
下には雪が積もっている。これなら行けるか? いや、多分無理だ。カチカチに
押し固められて、氷みたいになってるだろう。
明日酒場の掲示板には『速報! 破壊行為を行ったレイプ魔 勃起したまま転落死!』
のニュースが貼られるかもしれない。
 バカなこと考えてる場合じゃない。俺はここから生きて帰るんだ。
ああ、すっかり忘れていたが俺はBISHOPだった。
俺は使える限りの呪文を唱えた。PORFICやSOPIC、MOGREFにMATU。
準備は万端だ。地面についたから必ず転がれ。両足で着地したら歩けなくなる。

着地して横に転がる、着地して横に転がる。よし、シミュレーションはオーケー。
あとは飛ぶだけ、あとは飛ぶだけだぞ、おい。
 ……早く飛べよ俺、呪文切れちまうぞ。落ち着いて、呼吸を整えて―――
 突然、入口のドアがガチャリと音を立てて開いた。
俺は振り返った。ドアから宿屋の主人が飛び込んできた。あとに続いて、
くノ一の姿も。
 俺は意を決して飛び降りた。

 * * *
0096鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/20(水) 05:43:02.47ID:TiQ3KpL5
 部屋に飛び込んだくノ一の目に、ベッドの上の仲間たちと肉親の姿が映った。
視界の端の隅で、なにか黒い影がふっと動いたのが見えた気がした。
くノ一は凝固の呪文をかけられたように静止した。悲鳴を上げる前に、
宿屋の主人が奇声をあげた。
「いいいいいいいいぃぃ!」
 主人は、壊された窓枠に駆け寄った。テーブルと椅子を押しのけて、
窓枠の破片で手を切るのも構わず、主人は身を乗り出した。
窓の真下には死骸はない。主人は素早く見回した。黒装束の男が建屋の角を
曲がるのが見えた。
「ぎいいいいいいいいぃぃ!」
 主人は再び奇声をあげた。

 くノ一は悲鳴をあげなかった。代わりに、ドアの外にいるフラウドの所まで行き、
声をかけた。
「入っちゃだめよ」
 そう言って、くノ一は廊下にぺたりと座り込んでしまった。くノ一は両手で口を押さえて
嗚咽した。泣きながら、なんとかフラウドに「そこにいて」とだけ言うと、彼女はベッドの
肉親のところに行こうとした。腰が抜けてしまったようで四つ足で歩み寄った。
ベッドの上には仲間たちが酷い有様で転がされている。枕元でうつ伏せになっている
裸の妹の所まで這い寄ると、彼女は妹の頭を抱きしめた。
「ああ、生きてる」
 くノ一は、妹の頭を撫でながら呟いた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
 顔は綺麗だったが、体は酷い有様だ。
「おい、あんた!」
 鋭い声がくノ一の背中からかけられた。彼女は妹の頭を抱えて泣き腫らしたまま、
ゆっくり振り向いた。宿屋の主人が恐ろしい剣幕で言った。
「あいつは誰だ?」
 くノ一は泣きながら首を振った。
「わからない。私が知りたいわ。絶対に殺してやる」
0097鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/20(水) 05:46:06.66ID:TiQ3KpL5
 宿屋の主人は小さく両腕を放り投げる仕草をしてぐるりと視界を回した。
「ホォオル!」
 宿屋の主人は、副支配人の名前を大音声で叫んだ。駆け足でやってきた
副支配人のホールに、主人は命令した。
「このレディたちに別室を用意しろ。彼女たちを介抱してやれ。それと修理屋を
呼べ。部屋を片付けろ。今すぐだ」
「はい、総支配人」
 ホールは緊張した顔で、すぐに仕事に取り掛かった。
「お嬢さん、申し訳ないが話がある」
 宿屋の主人は先ほどとは打って変わって紳士らしい柔らかな声で、くノ一に話しかけた。
「あいつを殺したいんだろ」
「もちろん」
 くノ一はえづきながら答えた。
「あなたの力が必要だ。一緒に犯人を探そうじゃないか。
知ってることを教えてくれ」
「ええ、ええ、何でも協力するわ。お願い、あのくそ野郎を捕まえて」
「ようし、ギブアンドテイクだ。犯人は黒装束の男。詳しくは別室で話そう」
 ホールが主人に駆け寄った。
「右隣が空きました」
「左は?」
「夜の九時にチェックイン予定です」
「二時間だけ使う。間に合わなかったときに備えてひと部屋用意しとけ」
「はい」
 ホールは引き下がった。
「あなたのご友人たちは我々に任せてくれ。お嬢さん、立てるかい? 
隣に移動しよう。外で待っている司教の娘さんも一緒に来ると良い」
 くノ一は泣きじゃくりながら素直な子どものように頷いた。
0098 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/20(水) 06:00:18.05ID:TiQ3KpL5
もう見てないだろうけど11スレ目の323氏への回答です
とりあえず今回はここまで
色々不手際があって申し訳ない
0099名無しさん@ピンキー2025/08/20(水) 06:11:35.14ID:x3GZ9ULY
トリップないけど ◆RDYlohdf2Qです
保管庫管理人氏へ
フォームから送った2件の要望は黙殺してください
鯖落ち直らなくてテンパって書いたものですので…
0100保管庫”管理”人2025/08/20(水) 07:44:08.52ID:RGV5ESCO
>>99◆RDYlohdf2Q 様
メールフォーム&直へメの返信が遅くてスイマセン。
依頼の件、添付して頂いたtxt終端までの内容がこのスレッドにて確認できましたので、
鑑定士本編の6話として近日中に保管させて頂きます。

保管庫管理人もちょっと焦りました、BBSPINKのPC用サーバーは未だに復帰してないようですね。
携帯(スマホ)でのアクセス問題ナシ…あと、専ブラでの読み込み・投稿も大丈夫なようです。
0101名無しさん@ピンキー2025/08/23(土) 07:49:08.55ID:48Z+WEep
ゴブリンの臭いがする姉さんと石鹸エルフのファンです。ダフネパロ欲しいです。
0102 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/24(日) 18:17:30.63ID:Pnqkk6dR
失礼します
また容量つぶしの投下をさせていただきます

NGワードはトリップまたは鑑定士で回避をお願いします
0103鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/24(日) 18:20:53.94ID:Pnqkk6dR
 雪は思った通り硬かった。着地の衝撃が伝わり、体中の骨が軋んだ。
ワンテンポ遅れて、俺は地面を転がった。
「ああああっ!」
 痛っえ、ちくしょう、痛え! くっそ、痛くても走れこのやろう!
まだ呪文がきいてる今なら動けるはず。俺は四つん這いになりながら何歩か歩いた。
足のことは今考えるな。足の様子を見たらもう動けなくなる。頭上から宿屋の親父の
奇声が聞こえた。
 恐怖で頭がいっぱいになり、俺は両足で立って夢中で駆け出した。
痛いのかどうなのかすらもうわからなくなっていた。幸い人はいなかった。ごみ箱の上に
いつも陣取っている乞食共もいない。サボり魔の見張りの姿もない。神に感謝だ。
俺は何も考えず宿屋の裏口に飛び込んだ。

 俺はポコチンおっ勃てたままA Cotの廊下を全力疾走した。目を剥いて短い悲鳴を
上げる同業者共をかき分け、最奥の自室に飛び込んだ。その時になって俺はくノ一の
部屋から錆びた短刀を持ち出していたことに気がついた。投げ捨てるように短刀を
ベッドの下に滑り込ませ、俺はすぐさま忍び装束を脱ぎ捨ててローブの紐を緩め、
大急ぎでマスをかいた。体の痛みよりも、こんな体たらくになりながら
まだ勃起し続けている俺の一物に心底恐怖していたからだ。
 猛烈な勢いでしごいてるのに、びくともしない。全然収まらん。性欲なんてとっくに皆無だ。
鈍い感覚だけで俺のブツはおっ勃ったまま一向に収まる気配がない。ああ思いついたぞ。
 俺はすぐベッドの下に手を伸ばした。ケース買いした解毒剤の在庫が二箱ある。
俺はすぐに二本分を一気飲みした。足の激痛と吐き気に耐えながら、飛んだりはねたりして
体に解毒剤がまわるようにしたが、何も変わらない。
 俺はすぐに汚物用の桶を探した。机の下においてあった汚物桶に急いでかがみ、
指を喉の奥に突っ込んで胃を裏返すようにして咳き込んだ。薬草の悪臭が喉に
せり上がってきた。俺は勢いよく吐いた。胃が空っぽになるまで、なんとか中身を
すべて絞り出した。追加の解毒剤をもう二本飲んだ。一物にも解毒剤を擦り込んでみた。
症状は変わらない。
 どうする、俺どうする、いやもう考えてる時間はない。俺は転送屋のベランの部屋に
向かった。俺が依頼できる一番腕のいい治療師はこいつしか居ない。一物おっ立てて
ぎくしゃく歩く俺を、同業者共がやばいやつを見る目で見つめてきたが無視だ無視。
 ドワーフの部屋の前ではベランと同室の、呪われた得物を片手に吸い付かせた
“左右コンビ”が薬もビールもやらずにめずらしく廊下でくっちゃべっていた。
ホビットのマイクと、ノームのダーだ。
 ダーは俺が近づいてくるのを見ると「おう、ういぃ?」という素っ頓狂な声を上げた。
俺が部屋に入ろうとすると、二人は慌てて俺を止めに入った。
「あ、あんた、今はちょっと、あー取り込み中だぜ」
「うるせえ今それどころじゃない」
「ああ! 旦那だめ、今入っちゃだめ」
 血相変えて止めるマイクの静止を振り切って、俺は無理やり転送屋のベランの
部屋に駆け込んだ。
「誰だ!」
 すぐさまドワーフの怒号が飛んだ。俺は飛び込んだ部屋の中で固まった。
ベランは裸でベッドの中にいた。それで、その、相手もベッドの中にいた。
二人は真っ最中だった。一瞬たじろいだが、もう破れかぶれになっていた俺は裸で
シーツに包まっている二人の前で身を投げ出しながら叫んだ。
「頼む、たすけてくれ!」

 * * *
0104鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/24(日) 18:22:16.27ID:Pnqkk6dR
「あんたふざけないでくれ、時と場合をわきまえろ」
 はい。もう仰るとおりです。ベッドの中に二人がいる状態で、俺はローブを
はだけさせ、一物をおっ勃たせたまま顔から出せる汁を全部出しながら、
一方的に症状を訴えた。話していくうちにだんだん冷静になってきた。
やっと全部伝え終えた俺はベソかいたまま床に頭をぶつけて丸まった。
「後ろ向いてくれないか。サーシーに服を着させてやりたい」
 顔面鼻水まみれの俺は床に座ったまま後ろを向いた。
 転送屋のベランには協力者がいるっていうのはなんとなくわかっていた。
そりゃあそうだ。LOKTOFEITを使った外法解呪をするには金を預かる金庫番と
組まなきゃいけない。相方が誰かなんて、ベランは決して口外にしたことがない。
 考えてみりゃサーシーなら金庫番に適任だ。近づいてくる奴はあまりいない
だろうな。二目と見れない御面相だし、昼も夜も延々唱え続ける詠唱は
A Cotにおける環境音楽として悪い意味で評判で、おまけに気が触れている。
あくまで噂だけだったようだが、こういう“噂”はサーシーにとって良い隠れ蓑に
なったんだろう。金を守るにはうってつけの立場だ。
「もういいですよ。着替えました」
 俺は二人に向かって振り向いた。規制も発さず、目の焦点も合っている
サーシーを見たのは二年ぶりだった。顎がぶっ壊れて舌がずるりと垂れだして
いるはずのサーシーの顔はすっかり治っていた。
「え、あえ、え」
 馬鹿面さらしている俺に、ベランが言いにくそうな声で説明した。
「サーシーはおれのビジネスパートナーなんだ」
 なるほどビジネスだけじゃなくて、あっちのほうでもパートナーなんだな。
ベラン、朴念仁だと思ってたのに……仲間だって信じてたのにこの野郎。
「この前の仕事でやっとまとまった金ができた。良い機会だから、腕利きで
評判の医者になんとかしてもらえたんだ」
「まだ舌がここにあるのが慣れてなくて」
 サーシーは舌をペロッと出してはにかみながら答えた。
 いかん。性欲は枯れ果てたはずだが、このサーシーの声と顔は良くない。
おかしいなひょっとしてまだいけるのか俺。今はまずいって。ちょっと舌っ足らずに
なっているのもまた余計まずい。ゆるくウェーブしたブルネット、小作りで形の良い
目鼻立ち、琥珀色の瞳に優しそうな声。
ああまずい、なんか出そうになったらどうしよう。
……というかお前らいつの間にそういう中になってんだよ。
「まずは怪我の治療をしよう。あんた体中おかしいぞ」
 言われた途端に、足の感覚がまともじゃないことを思い出した。それどころか
全身が痛いことに気がついた。腰から下は普段の倍に膨れ上がっている。
後でわかったが、背骨と骨盤にもヒビが入っていた。耳は遠くなっている。
割れるように頭が痛い。俺は情けない声を出して床に転がった。
0105鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/24(日) 18:24:03.61ID:Pnqkk6dR
 俺は自室のベッドに運ばれた。同業者が何人も手を貸してくれた。気がつけば俺の部屋は、
俺の同業者やらご近所やらで信じられないほどすし詰めになっていた。
 ベランの呪文の連唱で、俺は一命をとりとめた。もうベッドに一人で座ることもできる。
さすがDIALMAの一本槍だけでなんとか凌いできた元冒険者だけある。
いつだって頼りになるやつだ。
 ベランはすぐに解毒の作業を始めた。俺はもう祈るような気持ちだった。
何度LATUMOFISを唱えても一向に変化のない俺の一物をみたベランは険しい顔で俺に言った。
「おい、あんたこれ普通の強壮剤じゃないな? 何に手を出した?」
 おねがい。俺の犯した犯罪を聞き出そうとしないで。
「人払いをしてくれないかベラン。あんただけに話すよ」
「人に言えないような話なのか?」
 ベランは凄んだ。めちゃくちゃ怒ってる。そりゃお楽しみを邪魔したのは悪かったよ。
でも俺にだって尊厳てものがあるだろ! 鼻くそみたいなもんだけど!
「せめてサーシーだけは部屋から出してくれ」
「サーシーに聞かせられないようなことなのか?」
 ドワーフの鼻息は荒くなった。俺は泣きそうな顔で口をすぼめた。
「話してください。今、ここで」
 サーシーが膝を屈めて、俺の目を真っ直ぐ見ていった。俺はもう逃げられなくなった。

 俺は萎縮したまま、多くの同業者に囲まれて、これまでの経緯と悪事を洗いざらい話した。
俺の話を聞くにつれ、ベランの表情はだんだん厳しくなっていった。
「あんたはせこい手で、自分の雇用主を手籠めにしようとしたんだな?」
「はい」
「それで、得体のしれない怪しい売人から買った薬を使って、あげく無関係な女を
三人も“当てた”んだな?」
「はい」
「しかもロイヤルスイートの窓をぶっ壊して逃げ出した?」
「はい……」
 俺は叱られたガキのように頷いた。
「最悪の選択肢を丁寧に選んでいったみたいね」
 飲んだくれのエルフのトビーが、毒消し瓶を飲みながら、ヤツにしては珍しく真面目な
口調で言った。わかってるよ、このカマ野郎。俺の人生いつも選択を間違えてるよ。
 トビーは「おかわり」と言いながら、自然な手つきで俺のベッド下から毒消し瓶を取り出した。
おい、なに堂々とパクってんだお前。さっきのも俺の毒消しかよ。なんか最近減るの
早いなとか思ってたら、てんめえこの野郎。
 ベランが神妙な顔で口を開いた。
「いまの話が本当なら、おれたちはあんたを宿屋の親父に突き出さなきゃいけない」
 俺は震え上がった。周囲は急に静まり返った。ベランはあたりを見渡した。
「仮にここで“どん詰まりの畜生野郎”を庇ったとしよう。もし後で宿屋の主人が事実を
知ったらどうなると思う? おれたちは連座制でしょっぴかれる。ここにいる誰か一人でも、
一言だって漏らさない自信はあるのか?」
 やめて、ベラン、正論で殴ってくるのはやめて。
0106鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/24(日) 18:26:15.74ID:Pnqkk6dR
 トビーが科(しな)を作りながら隣に座ってきて俺の手を握った。
「あたしはあんたの味方よ。レイプぐらいで何よ。尺八で三年間生き抜いてみなさいよ」
 トビーは無くなった前歯の隙間からバカでかいゲップを吐き出した。汚えなこのコノヤロ。
でもちょっとだけ救われた。もうさっさとツケ払えアル中金玉エルフとか言わねえよ。
だから早く手を離せ。気色悪いわ。
「あんたいなくなったら、あたしの月々のジュース代どうなるのよ」
 こんちくしょう、ちょっとでも感動した俺がバカだ。あとてめえが常飲してんのは
ウイスキーの蒸留酒割りだろうが。
「あんたを助けよう」
 俺にいつも鑑定代理を頼んでくるジョブスが気取った声で言った。
ジョブス、お前……良いやつだな。いつも危険物を一律50ゴールドで丸投げしてくるけど。
「その通り」
 ボラスがここぞとばかりに叫んだ。
「あんたがいなけりゃオレは次の仕事をどうすりゃいいんだ」
 大男のモリスが答えるように言った。
 それに続けと、いつも俺に仕事の代理を頼んでくる連中たちが口々に俺の必要性を訴えた。
みんなありがとう……いつも鑑定料金値切ってくるくせに、泣かせてくれるじゃねえか。
 ジョブスは気をよくしたように爽やかな声で「我々には君が必要なんだ」と言った。
 感激した。今だけはこいつらが格安で危険物処理させてくるクズだってことは忘れといてやろう。
 トビーは腕を広げてボケ面で眺めているドワーフに向かっていった。
「みんなもああ言ってるし。あなただって困るわよねぇ、ホリー」
 顎の下に兜を引っ付けた痩せこけたドワーフのホリーがボソボソと答えた。
「困る」
「あんたは俺たち鑑定屋一の尊敬すべき稼ぎ頭だ。困った時はお互い様だ。当然だろ」
 土気色の顔をしたヒューマンのマズルが、胸に引っ付けたブレストプレートを叩いてみせた。
いつも情けない面で金の無心にくるお前の面が、今日は輝いて見えるぜ。
 身体のどこかしらに呪物をひっつけた同業者たちからも、大きく頷いたり賛同を唱える
やつらが現れ、がやがやと話しだしたりした。だいたい俺にツケのある連中ばかりだ。
まぁ、二束三文で俺に鑑定丸投げしてくる連中よりはまだマシだ。こんなナリだが、
まだ、トビーやホリーやマズルは、金が入ったら返しに来る。いつもちょっと足りねえけど。
他の連中も、実入りがあれば返済に来る真面目な奴らだ。だいたい半分くらい返ってこねえけど。
 ……よく考えたら俺の知り合い碌でもないやつらばっかりじゃねえか。
まあいい。この状況だ。しょうもねえクズどもだが味方は一人でも多いほうがいい。
むしろこいつらクズでよかった。
「これでおれたちは一蓮托生の兄弟姉妹ということになるんだが、良いのか?」
 ベランは苦虫を噛み潰したような顔で一同を見渡し、宣言した。モリスが口笛を吹いた。
歓声と拍手が一気に湧き上がった。あれ、なんか泣きそう。普段容赦なくたかって来る
クズどもに感動させられるなんて。
0107鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/24(日) 18:28:52.19ID:Pnqkk6dR
「あのねえ」
 拍手が鳴り止まないうちにトビーが言った。
「宿屋の外にでたほうがよくなあい? ここじゃドラゴンの腹の中にいるようなもんよ」
「いや、まだここのほうが安全だ。旅籠ギルドの長を敵に回したんだ。歓楽街は危険だ。
乞食の目もある。今は下手に動かない方が良い。宿屋の親父も情報を集めているところだろう。
それに薬を抜くための治療をするにはここよりまともな設備がある施設がない」
 ベランは首を振って、俺に向かって言った。
「あんたには残念だが、一月分の宿賃を残して、有り金全部貰うことになる。
高額なオイルを使うんだ。あんたの冒険は高くついたな。これは呪われた薬だ。
最近出回り始めた薬で、おれのところにも銀行が一人か二人来た。
運良く治療方法は知ってる。調べるのは大変だったんだ。あれには、あんたがよく扱う
指輪や鎧みたいなのと同じ成分が入ってる。こいつは時間との戦いだ。なんとか力は尽くすが、
急がなけりゃならん。前に来た銀行は手遅れになった。間に合えばいいが、
下手すりゃあんたは一生不能になる」
 俺は青ざめた。そういうことか。
 副作用がないどころか、劇薬中の劇薬じゃねえか。つまり俺はあの禿げにとって
実験用のゴブリンみたいなものだったわけか。あの三人にも、禿げチビの薬を使っち
まったじゃんか!……俺のバカ、クソッタレ!
「サーシー、便所の戸棚の二段目にエネマが隠してあったろ」
 ずっと殺気立った目をしてたサーシーは頷いてすぐに部屋を出ていった。
 はい? えっ、なに、浣腸器? なんで?
 ぽかんとした俺にベランが呆れたように言った。
「あんたは一応司教だろ。上からも下からも入れなきゃこいつはだめなやつだよ。申し訳ないが、
覚悟をしてもらうぞ。大変な治療だ。なあ、ロディ、ハーマス、他の連中みんなも、見てないで
手伝ってくれ」
 俺はぎょっとして周りを見渡した。
 えっ、ちょっとまって、どういうこと、上からと……下から?
いやちょっとまってよ、いやベラン、なんとか一人でできるだろ。
「勘弁して下さい、すいません、せめてあんただけで」
「あんたは浣腸器見ただけでパニックになって暴れるだろ。前に便所で大騒ぎに
なったじゃないか。アレのせいで便秘患者には悪いが戸棚に隠すことになったんだ」
 当たり前だろ! 俺のトラウマだぞ!
 まってよ何でみんな協力的なんだよ。
お前らみんな畜生野郎の垂れ流しとか見たくねえだろ、馬鹿野郎お前ら離せやめろたすけて

 * * *



* おおっと! *



 * * *
0108鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/24(日) 18:31:37.18ID:Pnqkk6dR
 あれから二時間がたった。俺はやっと自力でゲロ桶を抱えられるレベルまで生気を取り戻す
ことができた。詳細を語ることは、勘弁してくれ。後生だ。後ろだけじゃなくて、尿道にも注入管で
無理やりオイルを流し込まれた。死ぬかと思った。ケツからは見たことのない量と色のやばい
水便が出た。
 何回か血混じりの茶色いゲロを嘔吐したあとで、俺はやっと水を飲むことを許された。
ケツ穴と尿道に詰められた栓も外された。地獄みたいな痛みだった。俺はバカほど水を飲んで、
死ぬほど吐いた。
 今は常時吐き気と下痢に襲われているぐらいだ。それから割れるように頭が痛い。
これまでの治療の痛みにくらべりゃなんてことはない。
心置きなく自室でゲロまみれになれるってもんだ。
「レイやラヴィがだったら、もっと楽に始末してもらえたんだろうな」
 マイクが右手の剣の先に雑巾を引っ掛けて器用に床を拭きながら言った。
俺と目が合うと、マイクは哀れみを込めた目つきで左手で自分の股間を覆ってみせた。
「縮んじまったよ、おれ」
「レイチェルやラヴァーンがいたら、この人殺されてますよ。夜の仕事の人たちがみんな
出払っていて良かった」
 ベッドでゲロ桶を抱える俺に、サーシーが背中を擦りながらため息混じりに言った。
サーシーには本当に申し訳ない。尿道へのクレンジングオイルの注入をやってくれたのは
彼女だ。
 最初はマズルとホリーがやろうとした。俺が暴れることは想定済みで、猿轡を噛まされ、
股間と首から上だけさらした状態で、シーツとロープで身動き取れないほど固定された。
俺のブツは薬の副作用で徐々に感覚がなくなりかけていたが、地獄の苦しみを味わった。
困ったことに、勃起しすぎて管が全く通らなかったのだ。
 当たり前だが、誰もこんな汚れ仕事をやりたがらなかった。そのくせ、ベランは部屋に
集まった連中に指示だけだして、全身ゲロとクソまみれの体で俺の汚物桶を抱えて
行ってしまった。誰も手を挙げない中、陰気なホリーが自分から治療の手伝いを志願した。
 せめてもっと器用なやつが名乗り出てくれりゃよかったのに。
 ホリーの野郎は無遠慮にガシガシと管を突っ込もうとした。俺の股間は血だらけになった。
あまりの惨状に俺の体を押さえつけていたマズルは目を背けていた。そうじゃないだろお前? 
周りの連中も笑ってねえで誰かホリーを止めろよ! 後で覚えとけ!
 見るに見かねて、サーシーが代わりを申し出てくれた。呪文こそ使えなかったが、
彼女は訓練場で正規の治療師の講義を受けていたからだ。それに、なんというか、
サーシーにはアレがついていないから、容赦なくできた。
ベランが離席している間で良かった。
 サーシーには治療師の才能があったのかも知れない。彼女の施術は手際が良かった。
死ぬほど痛かったが、なんとか管が通った。こんな悲惨な思い出なのに、謝りながら
一生懸命に俺の一物に取り掛かるサーシの姿に何かに目覚めそうとか一瞬思って
しまった……俺はアホだ。これも劇薬の効能のせいだ。そう信じさせてくれ。
0109鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/24(日) 18:34:03.78ID:Pnqkk6dR
 俺の背中を擦るサーシーにホリーが、伸びきった小さな声で「申し訳ない」と言った。
「ホリー、あなたがわたしに謝る必要はないんですよ」
 そうだよ。まず俺に謝ってくれ、ホリー。
「心ひゃいすんなぁ、おれたひゃあんたの味方だ」
 歯抜けで甲高いキーキー声で話すダーが臭い息吹きかけながら俺の横でまくし立てた。
格安ソフトドラッグで常時ラリっている標準的な底辺所得者のノームだ。そうだな、ダー。
お前にいくらタカられたか、もう覚えてねえよ。左手は手袋で隠しているが、こいつの手には
指輪が四つ吸い付いてる。ヤクをキメ続けなきゃやってられないんだろう。俺に金を無心しに
くるリストのナンバーワンだ。しかも一度も金返さねえし。せめてこの前の50ゴールドだけで
いいから今返せ。
「あんちゃんみひゃいな素敵な金蔓がなくなるなんてみへられねぇ。おれに任せろ」
 堂々とふざけた宣言してんじゃねえ。これはお前がなにか頑張ってどうにかなる問題じゃないの。
「下らないやらかししたって自覚してるなら、悔い改めなさい」
 俺の背中を擦りながらサーシーが言った。子供に向かっていうような口調だ。
 すいません。ほんとすいません。生きててごめんなさい。
「まあ素直な感想を言ってもいいなら、『舗装道路』しか歩いたことのないお嬢ちゃんには良い
お灸だったんじゃないですか。その程度で済んだんだし。守ってくれるお姉さんもいて、
強い仲間もいて、恵まれすぎてたんですよ。あなたの女主人の同僚たちなら何とも
思ってないですよ。あなたの女主人のほうは存じ上げませんけど」
 彼女なりに気を使って言っているのだろうが、情けなさすぎて俺はサーシーと目が
合わせられなかった。ゲロ桶に突っ伏して、俺は言った。
『ずみばぜん』
 口から出た声がひど過ぎて自分でびっくりした。
「謝らないで下さい。みんなあなたに感謝してるんですよ。無関心にゆっくり締め殺される
気持ちは当事者にしかわからないんです。どん底にいたときに、手を差し伸べてくれたのは
あなたぐらいだったんです」
『おでは金をがしただけ――』
「そういうところですよ」
 サーシーは微笑んだ。俺はなんとかヘロヘロの笑いを返した。彼女は知らない。
やつらの借金の催促は恐怖だ。ホリーは何時間も俺の部屋のドアの前でひたすら何か
呟き続けるんだぞ、異国の言葉で。トビーはもっと遠慮ない。素面の時は危険だ。
“おれは何のために生まれてきたんだ?”って泣きゲロで騒ぎ続けるんだ。
俺の部屋の中で。おかげでこんなでかい汚物桶が俺の部屋の常備品になった。
ほかの連中も大なり小なりだ。露骨な脅迫はないが、実際脅迫みたいな泣き言ばっかりだ。
なんだか笑えてきたな、くそ。
 俺は桶の縁にぐったり顔をつけて言った。
『あなだは命がげの懇願の怖ざがわがっでない、知ってまず? 
ドビーは金を借りるどぎだげは男声になるんでずよ』
「そうなんです? 確かにあの人、睾丸も四つありますしね」
『え゛っ』
「二つは“指輪”ですけど。いつも枕をかぶせられてますけど、始める前には見えるんです」
 待ってくれ、何の話だ。
『見だっで、どごで?』
「ベッドの上で」
 混乱してきた。ベッド? トビーが? タマ吸いが生計の何割かを占めるあいつが? 
あいつカマじゃなかったの! 俺の様子を見て、サーシーが付け加えた。
0110鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/24(日) 18:35:06.96ID:Pnqkk6dR
「彼が酷いわけじゃないですよ、仕方ありませんもの。他の人たちも大抵そうします。
ポーやモリスだって。クーポーは気にしてないみたいですね。あの人は顎にシーツも
被させないですよ。終わったら食べ物をくれます。時々金貨も。わたしはルースや
レイチェルみたいにお店に入れないですもの。だからわたしは生きていけたんです。
女が冒険家業をやるというのは、そういうことなんです」
 俺は桶にまた吐いた。サーシーはあいかわらず背中をさすり続けてくれている。
彼女は慰めてくれるつもりで言ったのだろうが、俺はショックを受けていた。 
「だからそんなに落ち込まないでくださいね。反省はしてほしいですけど」
 サーシーは皆に細かい指示をとばすベランをみて目を細めた。
「あの人にはずっと避妊処置をお願いしてました。彼は全部ツケにしてくれてたんです。
ある日計算してみたら、払いきれないと分かって、わたしは謝罪をしました。よっぽど
ひどい嘆き方だったんでしょうね。ベランはわたしに金庫番の仕事をくれたんです。
仕事中は必死になってDIOSを唱えてました。日に日に金貨が増えていって、仕事を
始めたばかりのころは怯えてました。今だって慣れないですよ。ベランがこんな
サプライズしてくれるなんて思ってなかったんです。ダーもマイクも一緒にお祝い
してくれました。二人はわたしの同僚なんですよ。わたしのせいで稼ぎが減ったのに、
二人はワインをプレゼントしてくれたんです。二年ぶりに、何もこぼさずに飲めました。
お酒は苦手ですけど、あんなにおいしいワインを飲んだのは生まれて初めて」
 粋なことすんなあいつら。まてよ、この前の50ゴールドはそれか。
用途を言えよあの野郎。あいつに金返せって言えなくなっちまったじゃんか。
 ベランが俺の傍に戻ってきた。サーシーは席を離れた。
「諦めるなよ」
 ベランが俺の肩をぶっ叩きながら言った。痛え、ショック死するかと思った。
やっぱこいつ怒ってんだろ。
「お前のやったことはどうしようもないことだが、サーシーの身体を治す金の
出どころがあんただったのはわかってる」
 ロッティングコープスもどきの鑑定屋が痙攣してるみたいにがくがく頷いた。
何でまだいんのお前。指輪無事に剥がれたんならさっさと故郷に帰れよ、馬鹿野郎。
「サーシーには悪いけど、僕はこの人を助けます」
「だってよ、なあサーシー」
「しょうがないですね」
「最初からそのつもりだろ?」
「ええそうですよベラン、悪いですか?」
 ベランはサーシーに微笑み、周りに低い声で号令をかけた。
「さあみんな、手筈はいいな。さっき話した通り、酒をありったけ集めるんだ。
中身があろうがなかろうがいい。とにかく簡易寝台中の酒瓶を残らずだ。
瓶なら何でも良い。水入りだろうが薬瓶だろうが何でもだ」
 簡易寝台の住民どもが一斉に部屋をとび出した。
『さがびん?』
 俺は言った。
「いいか、お前はなんにも喋るな。この際はっきりいうが、お前さんはクズのくせに誤魔化しが
下手すぎる。誰に何を聞かれてもこの部屋から一歩も出ずにおれたちと飲んだくれてたって
答えるんだ。いいな?」
『わがっだよ』
 俺は桶を抱え直してまた吐いた。

 * * *
0111鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/24(日) 18:36:40.04ID:Pnqkk6dR
 俺が便所と自室を往復している間に、俺の部屋は空瓶でいっぱいになった。
「追加はもう無いのか?」
 ベランが部屋を見渡しながらいうと、マイクが首を振った。
「駄目だ。宿屋の出口が封鎖されている。もう出られないし入れない」
 下痢と嘔吐が止まらない俺に回復をかけながらベランは首を振った。
「クソ。新しい桶が必要だな」
「捨ててくるわ」
「おれが行く」
 マイクが名乗り出ると、ダーが黙って立ち上がり、右手の使えないマイクの
補助をした。俺の吐瀉物でいっぱいの桶を、二人は持ち上げようとしたが、
すぐに床に置いた。
「げえっ、こりゃロープがいるな」
「しゃがしてくる」
 ベランが俺の背中を擦りながら言った。 
「マズルとホリーはどうした?」
「おれはここにいる」
 マズルが手を上げた。
「出口が封鎖されたのはさっきだ。おれとトビーで外の足跡を消しに行った。
見張りのガースがいつも通りサボってくれてよかったよ。うまく誤魔化せたと思う。
ホリーとは少し前にすれ違いになった。裏口からはもう帰ってこられない」
 マイクが忙しない口調で会話に入った。
「ホリーなら酒場の友だちの銀行のところに行ったよ。クレンジングオイルの追加が
必要なんだ。金がいる」
 ベランが渋い顔で首を振った。
「口の軽いやつに言いふらさんでほしいな」
 ダーが代わりに答えた。
「口はかひゃいよ。ホリーのおともひゃひは同期だ」
「ホリーに同期の銀行?」
 マズルはそう言いながらしゃがんでゲロ桶の固定を手伝った。
「だったらあいつはもっと羽振りがいいだろ」
「ホリーのごしゅじんしゃまはドワーフだ。桁一つだっちぇ見落としゃない。
しょれでホリーはこうなった」
 マズルに向かって、ダーは顎のしたに拳を押し付けて見せた。
「そんなら、あいつは何しに行ったんだ」
「力になりちゃかったんだ、ホリーは必死だよ」
 ダーは俺をちらりと横目で見た。
 マイクは、成人のホビット特有の酒焼けしたガキの声音で俺に囁いた。
「こいつは大事になってるよ先生」
 わかってる。最初に言ったじゃん俺。
 小人二人はせかせかと俺の汚物でいっぱいの桶を捨てに部屋を出た。同業者たちはみんな
忙しなく偽造工作に勤しんでいる。廊下の床は拭き直された。俺がくノ一の部屋から持ち帰った
黒装束や短刀は仲間が別々に自分の寝台に預かった。
 本当に泣けてきた。生前贈与でこの場の全員になにか奢らなきゃいけないな。

 新しい桶を大量に携えた小人二人が、血相変えて帰ってきた。
「まずい、あんたの女主人が来ちまったぜ」
 マイクが叫んだ。ダーが神妙に言った。
「しゅうんごい怒ってる」
 首を振ったベランは俺の背中を叩いて言った。
「思ったより早く来たな。手筈はできてる。腹くくろうや鑑定屋」
 オーケー、わかった、ハハッ、覚悟はできた。
 ベランが声を張り周囲に目配せをした。
「よし、さあみんな騒げ! 大芝居の始まりだ」

 * * *
0112鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/24(日) 18:43:27.85ID:IZDKWqyN
 私は道中ずっと自分の直感が正しいのか考え続けていた。あの部屋で
ドア越しに聞こえた音。気配。どこかで感じた覚えがある。一人の男の可能性が
突然頭にふっと思い浮かんだ。最初はありえないと思い直したが、
時間が立つほどに絶対にあの男だと強意見する頭の何処かの声が、無視できない
ほど大きくなっていった。
 彼にそんな力がないことは理解している。でも私は自分の勘を信じてみることにした。
この第六の感覚には今まで何度も助けられてきた。こういう一大事で外れたことがない。
 A Cotと書かれた看板が見える所まで来ると、遠目に、手の妙なところに剣が
吸い付いた小人とその介添が、二人で大きな桶をいくつも重ねて歩いている姿が見えた。
二人のうちの一人と目が合った。小人たちは自分を見ると、不自然なほど焦りながら姿を
消したように見えた。それは何の根拠もなかったが、自分の中で予感が確信に変わるのを
感じられた。
 怒りに震える感覚は久しぶりだ。それでも頭の中は驚くほど冷静だった。

 神経を集中させて、A Cotの看板が掲げられた突き当たりの通路を曲がった。
いつもの廊下は、不思議なほど静かだった。ドアはどこも開けっ放しで、簡易寝台の
どの部屋もベッドは空だった。奥の部屋に近づくにつれて騒がしい音が聞こえてきた。
 鑑定屋の男の部屋は、彼の友人たちと思しき人々が集まっていた。こちらの姿を見た
人混みから歓声が上がった。廊下でいつもすれ違う飲んだくれのエルフが、酒瓶片手に
手を振って、艶めかしく手招きした。
「いらっしゃあい、素敵なお嬢さん。パーティへようこそ」
 面食らってしまった。彼らの反応は思っていたものとは全く異なる。部屋の奥を見ると、
桶を抱えて体を小刻みに震わせている男の周りを、簡易寝台の住人たちが賑やかに
取り囲んでいる。床には沢山の酒瓶や何某かの薬瓶が散らばっていた。木桶を抱えた
男の背中を、ドワーフの僧侶がずっとさすっていた。
「やあ、どうしたんだ女主人様」
 ドワーフは苦笑いをしながら、こちらを見上げた。
「すまないね。こいつに用があるんだろ。こいつがこうなっちまったのは
おれたちのせいなんだ」
 右手に呪われたショートソードを握りしめたホビットが、棒きれのように剣ごと手を
振り回しながらお辞儀をして進み出た。
「貧民の祝賀会へようこそ、女王陛下! 悪いな。おれたちが飲ませすぎて旦那は
当分使い物にならんよ」
「天上のいひゃいなるご主人ひゃま、おれらになにか用? ねえ!」
 歯のないノームが目を合わせないように、だがはっきりと自分に向けて言った。
ノームはお辞儀をするホビットの頭を叩いてげらげらと笑い出した。自分は場違いな
ところに来てしまったのではないかと後悔し始めた。

 桶を抱え込んで俯いていた司教が、手を上げて、周囲に合図した。部屋にいた人々は
一斉に男を見た。男は青ざめた顔でこちらを向いた。男は割れたしゃがれ声で『はい』と
挨拶をした。戸惑いながら、私は男に話しかけた。

 * * *
0113鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/24(日) 18:45:09.92ID:IZDKWqyN
普段見慣れない町娘のような格好で、くノ一は俺を見下ろしていた。妹さんとお揃いの服だ。
顔を直視できない。抑えていても、気配から凄まじい怒りを感じる。
「どうして私がここに来たのか、ご存知かしら?」
 はい。俺を殺すためですね。わかります。
「今しがた宿屋の警備が厳しくなったのは知ってるかしら。私の部屋に怪しい男が入ったせいよ」
 なんて答えたらいいんだよ……程々に元気よく、しかし不審になりすぎない程度の絶妙な
音量によるシンプルな回答が一番だな。
『ばい』
 ヤクの過剰摂取とゲロ吐きたての喉で声が出ねえ。
「宿屋の主人が発表した罪状はロイヤルスイートの窓ガラスの破損。彼に言わせれば大事件だそうよ」
『……ばい?』
 ……はい? 何言ってんのあの親父。馬鹿じゃないの。婦女暴行事件のほうがオオゴトだろがあ?!
「それで」
 言葉の途中で、くノ一は両手を組み合わせたまま腕を下ろした。俺の様子をずっと見ている。
 どうする俺。どうする俺? どうすんだ俺! またゲロ吐きそう。もう胃の中何も残ってないのに
内臓まで全部吐きそう。薬なんて使うんじゃなかった。
 ごめんなさい。なんてことしでかしたんだ俺。どうしよう、俺何回死んだら許される? 
だめだ、もう持たん。もう自白するしかない。

 * * *

「何かあったのですか?」
 ドワーフの横で控えていたヒューマンの女僧侶が、怪訝な顔で尋ねてきた。
声に聞き覚えがあったが、すぐに誰だったのか思い出せなかった。
しばらく相手の顔を見つめて、やっと思い出した。三つ隣の部屋でひたすらDIOSを
唱え続けていた女の声だ。顎が曲がっていたと聞いていたが、見た目が綺麗だ。
顔に少し麻痺が残っているようで、隠そうとしているが発音が舌足らずに聞こえる。
「ごめんなさい、ベランとわたしがお祝いしようってみんなに声をかけたんです。
彼、今誰と話しているのかもわかってないですよ。彼が仕事から帰って来て
ずっと飲ませていました。思ったより人が集まったのもだから」
「彼には世話になったからな」
 痩せこけた青白いヒューマンの司教が相槌を打った。
「同業者の転職祝いですよ旦那様。あなたのお陰でおれの恩人が司教に戻れそうなんですよね」
 桶を抱えていた男がうめいた。かすれた声で『よしてくれ』と言ったのだとわかった。

 肩に入っていた力が急に抜けた。恥ずかしい。ここぞというところで自分の勘が外れるなんて。
もう自分が信じられなくなった。どうして最初にこの男を疑ったのだろう?
 この男は、最も尊敬するシーフの元同業者なのだ。彼女に言わせれば、彼女の元いた
頭のいかれたパーティの中で、最もまともな男のはずだ。彼はずっとこの部屋で古馴染み
たちと飲み明かしていたのだろう。
「ええ、お祝いを言いに来たのよ。おめでとうって彼に伝えて」
 桶を抱えた司教はまだ呻いていた。代わりに女僧侶が、怪訝そうに聞いてきた。
「その、なにか大事があったのですか?」
「ええ」
 もう声に力が入らなくなっていた。
「にゃぁひぃ盗まれひゃんで?」
 甲高い声でノームが尋ねた。
「私の宝物、それと、色々。でも、犯人の目星はついてるわ」
 女僧侶は息を呑んだ。騒がしくしていた簡易寝台の住民たちも、静まり返った。
私は壁に向かって言った。
「宿の主人が言っていたの。犯人はニンジャよ。腹が立つほどタフな男みたい」
 集まった人々がざわめいた。私は振り向いて、もう一度、犯人と目星をつけた男を見た。
タフとは程遠い、くたびれた人間だ。集まった住民たちに
「彼に伝えておいてくれない。一週間後にここで会いましょうって。今はまだ心の整理がついてないの」
とだけ告げると、私は逃げるように男の部屋を去った。
0114鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/24(日) 18:46:48.22ID:IZDKWqyN
 ざわめきが遠のき、頭は呆然としていて足だけが動いていた。
無力感に押しつぶされそうだった。もう自分の勘は頼りにならない。
指はとっくの昔にガラクタだ。自分にはなにもない。
腕っぷしはある方だと思っていたのに、何の役にもたたなかった。
親友も仲間も肉親も、誰も守れなかった。

 A Cotの看板を曲がると、そこには宿屋の主人が立っていた。
「やあ、お嬢さん」
 主人は口を緩めて言った。笑顔だが、目には殺気がこもっている。
「収穫はあったかい?」
 私は小さく首を振った。
「あてが外れちゃった」
 言葉と同時に、自分の中から何か大切なものまで抜け落ちるような気がした。
「どいつだ?」
 ぎらついた目で主人は言った。
「一番奥の部屋の人」
「へえ」
 初老の男は口元をすこしだけ緩めた。 
「失礼だが、あなたがあの男を疑った根拠を伺いたいものですな」
「根拠もなにもないわ。でも……あの時、ドアの向こうから音が聞こえたの。
間延びして引きずっているみたいな足音だった。いつも聞いてた音とはちがうけど、
なんとなくあの人の顔が思い浮かんだの」
 緩んでいた宿の主人の顔が険しくなった。
「それなら、十二分に謹聴に値する意見だ」
「でも彼、違ったわ。友達みんなでずっとここで飲んでたんだって」
「あれがそう言っているだけだろ?」
「彼が一人でそう言ってただけなら、私は笑顔で彼の首をぶら下げて来ているでしょうね。
この辺りの宿泊者全員に聞いてちょうだい。みんな彼の部屋にいたわ」
「そいつは妙だね」
「お祝いをしていたのよ。彼、随分慕われているみたい。あの人、私のパーティに入ることになったの」
「ほおう」
 宿の主人は、意外そうに軽く開いたこぶしを唇の下に当てた。
「あのS.O.B(畜生野郎)をあなたのパーティにか?」
「レベルは低いけど、腕のたつ司教よ。怒鳴らないし、腹のたつ嫌味な言葉も使わないわ。
ちょうど、ものを教えられそうないい人を探していたの」
「あれはもう冒険者としては盛の過ぎた男だよ。あいつがあなたのパーティに
今更何を教えられるんだ?」
「妹のためだったの。だけどもう彼は必要ないわ。一週間後に、彼との契約は打ち切るつもり」
 喉からは掠れた音しか出なかった。宿屋の主人は手を打ちならした。
「わかった。あなたがそう言うのなら、きっとそうなんだろう。ビラを刷らないといかんな。
犯人は、また一から探し直しだ」
 それだけ言うと、主人は首を振り、踵を返して立ち去った。

 * * *
0115鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/24(日) 18:48:31.70ID:IZDKWqyN
 くノ一がもう安全だという距離まで離れるのを確認する間、俺の共謀者たちは
ヤケクソでお祭りの演技を続けていた。彼女が本当に立ち去ったことを斥候役の
マイクが宣言すると、演技じゃない本当の歓声が湧き上がった。
 それからなし崩し的に飲めや騒げやの突発的な祝賀会に発展し、やっと静かに
なったのは夜も更けきる頃になってだった。なんやかんや世話を焼こうとする
ご近所をなんとか丁重に追い返して、俺はベッドの上で意識朦朧としながら
相変わらずゲロ桶を抱えてぐったりとしていた。ベランの話では毒が抜けるまで、
とにかくどこからでも良いから出し続けることが治療だそうだ。
部屋には同業者連中の手によって大量の水瓶が届けられた。

 深夜に差し掛かる頃に、俺の部屋をノックする音が聞こえた。
 もうお見舞いはいいよ……頭痛がひどすぎて眠れない。頼む一人にしてくれ。
 二回目のノックで、俺は目をかっぴろげた。A Cotの住民がやるようなノックじゃない。
くノ一でもない。なんとか体を起こして、俺はジジイのような足取りでドアに向かった。

 ドアを開けると、そこにいたのは宿屋の主人だった。
 俺の思考は完全に停止した。
 やばい。ばれてた。今死ぬのか俺。
「ブック」
『ぐえぇあ? ぁばい』
「呪文書を用意しろと言ったんだ。あんた、久しぶりの授業の時間だ。
冒険に行ったんだろ、なあ坊や」
 忘れてた。そうだったわ。俺、迷宮に潜ったんだったわ。
『ずいまぜん、ばい、ずぐにごびょういじまず』
「声でないのか?」
『ずびばぜん、飲みずぎで』
「困るねえ、あんた。まあいい。簡易寝台の“お客様”だ」
 初老の男は『お客様』という言葉をことさら強調した。
「一週間以内なら構わん。講義の場所は覚えてるか?」
『ぐえぇ、ばい』
「賭けてもいい。あんたはきっと二日酔いじゃ済まされないだろう。
木曜のこの時間に講義堂に来い。いいな」
 意外なことに初老の男は笑顔を浮かべていた。
『ばい』
 宿屋の主人は扉を閉めた。俺はしばらく扉の前で呆然としていた。
 俺は夢遊病患者みたいにベッドに戻った。ゲロ桶をベッドの下にそっと蹴りこみ、
俺はベッドに転がった。今日は眠れるはずがないと思っていたのに、目をつぶった
途端に意識がなくなった。

 * * *
0116鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/24(日) 18:50:36.61ID:IZDKWqyN
 それから数日間、俺のまともな記憶は無い。吐いたり下痢したり、
なんだかわからないスープのようなものを飲まされたり、それだけだ。
あの薬が完全に抜けるには、それだけかかった。ベランに言わせれば、
すぐにクレンジングオイルを使わなきゃこんなものじゃ済まなかったそうだ。
頭と金玉と財布がすっからかんになって、俺はようやく本当の正気になる
ことができた。
 食事は同業者たちが代わる代わる運んできた。ありがたいより情けない
気持ちでいっぱいだ。二日目になって、俺は運んでくる連中の変化に気がついた。
「マイク?」
 俺は一人でスープの盆を運んできたマイクに声をかけた。マイクの手には、
もはや体の一部と化していたあのショートソードがなかった。俺は右手を持ち上げて、
左手の人差しで何度も叩いて見せた。
「おや、今頃気づいたかい旦那」
 マイクは自慢げに、指を広げて振ってみせた。掌は一面青黒い痣になっているが、
マイクの右手には何も付いていない。
「あんたのゲロを始末し続けたおかげさ」
 マイクは肩に斜めがけに吊るした聖布の包を指さした。間違いない。
布に包まれているがマイクの手に吸い付いていたショートソードだ。
 そうか、クレンジングオイルは本来そういう使い方をするもんだった。
「ホリーは感謝していたぜ。トビーやマズルもだ。A Cot中の鑑定士がみんなが
あんたのゲロでじゃぶじゃぶ洗う姿は、変わり種の地獄みたいな絵面だったけど」
 俺はその図を想像しようとしたが、脳みそが働かない。むしろ働かなくて良かった。
「ダーは心底喜んでいた。最初に気づいたのはあいつだ。ゲロまみれの手袋をはずしたらずるんって」
 マイクは右手で左手の掌をつかんで勢いよく滑らせた。
「気がおかしくなったんじゃないかって心配しちまったぐらいだ。みんなあんたに感謝している」
「俺のおかげじゃない」
「そうだな。あんたは勝手にそう思ってるだけでいい」
「ぐぅ」
 急に吐き気が込み上げてきた。すっかり慣れた動きで、俺はベッドの下のゲロ桶を蹴り出して、
かがんだ。マイクは去り際に「返しきれない借りができちまったよ」という言葉を残して、
部屋を出ていった。
 スープが冷めきるまで、俺はゲロ桶の前に膝をついて呆然とし続けた。

 * * *
0117鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/24(日) 18:52:05.07ID:IZDKWqyN
 彼女との再開日の前夜は眠ることができなかった。
 わかっている。おそらく、あの三人のうちの誰かは確実に俺を殺すためにくノ一には
真実を知らせるはずだ。あるいは本人が自らの手で俺にとどめを刺すつもりだろう。
眠れないまま、俺は横にもならずベットに腰掛けていた。
 ここ数日間で体中の水分と栄養はほとんどケツとゲロから流れ出た。身体は重だるく、
脳みそは完全にガラクタに成り下がっている。俺は明け方前にうつらうつらしだした。
よりによって今眠気が来やがった。なんとか朝まで粘るために、俺は椅子に座り、
ぼんやりテーブルを眺めていた。

 体を揺すられて、俺は目を覚ました。いつの間にか朝だった。
机に突っ伏したまま寝ていたらしい。横を見るとフラウドがいた。
「大丈夫ですか、先生?」
「起きなさい、お寝坊さん。朝食の時間よ」
 正面にはくノ一がいる。二人とも笑顔だ。
あれ、なんだこれ、夢? 
走馬灯って実際に起ったことだけじゃなくて都合の良い妄想も見ることができんの? 
ガシャンという音とともに俺を乗せたまま椅子が引かれた。のけぞった俺の両肩に
ずっしりした何かが乗った。
 恐怖にかられて横目で見る。
Gloves of Silver、売値30000ゴールド、オーケイ。
「おはよう」
 頭上から柔らかい声が振ってきた。あーそうですよねぇ、世の中そんな都合の良いこと
あるわけ無いっすよね、振り向きたくないがもう仕方がない。三人はくノ一の手を汚させず
自分の手で始末するつもりだ。
 両手をなにやらちっこい手とシャイアらしき手に引っ張られ俺は椅子から引き剥がされた。
つんのめりながら、俺はテーブルに突っ伏しそうになりうっかり後ろを振り向いた。
三人ともそこにいた。
 シャイアとフローレンスさんは笑顔だった。チビだけは前回見たような迷宮と同じ装備で、
フードを目深に被っているせいでわからんが。シャイアは探索用の服じゃなかったし、
妹さんも小手だけで、街を歩くような服装だ。
「ちゃんとベッドで寝ろよ。体に悪いぞ」
「外、天気いい。空気吸うの、体にとてもいい」
 二人がテーブルまで来て俺に言った。にこやかで明るい声だ。
 あれ? どういうこと? 俺殺されるんじゃなかったの? ひょっとして、ひょっとしてだが、
もしかすると、あの三人に飲ませた媚薬だけは効果が永続的だったのか? 
え、うそぉ?! いいの? 俺生きてて良いの?!
 ふと正面をみるとくノ一が俺に笑いかけている。いや、違った。妹さんの顔をみて笑っていた。
つまり、これが最終審判だったってことか。なるほど、三人を俺のところにつれてきて確かめたのか。
ハハッ、まじで今日生き延びて良いのか?
「それじゃあ酒場に行きましょう」
 くノ一と妹さんが、二人がかりでテーブルに腹ばいになってる俺を起こしてくれた。
ああ、いい。ずっとこうしていたい。いやしかし、本当に大丈夫なのか? 
幸せすぎてだんだん不安になってきた。
「ありがとうございます。その、着替えたいので、少しだけ一人にさせてもらえますか」
 頭の整理がつかない。これよりマシな服などないが、とにかく一瞬でも一人にしてもらいたくて、
俺は言った。
「酒場でドレスコードなんて気にしちゃいないよ」
 シャイアが俺の手を掴んだ。初めてのことだ。シャイアは手袋をしていなかった。
チビが俺の反対の手を握り、妹さんが俺の肩に手を優しく置いた。シャイアは鼻歌すら歌っている。
後ろからは妹さんのハミングまで聞こえてきた。まさか、本当に、信じられないことだが、
あの媚薬はやはり永続効果があるのか。
0118鑑定士 ◆RDYlohdf2Q 2025/08/25(月) 05:37:09.80ID:Z3zlQbG+
 くノ一がフラウドと先に俺の部屋から出たタイミングで、俺は自分の浅はかさを思い知った。
俺は歩き出そうとしたが一歩も動けなかった。三人は俺をその場に押さえつけるために
取り囲んでいただけだった。
 俺が全てを理解する前に、シャイアは俺の手の甲の肉が千切れんばかりにつねり上げ、
フローレンスさんが銀の小手で肩甲骨に穴が空きそうなぐらい肩を締め上げ、足の甲を貫通する
勢いでグリーブの鋭い踵が降ってきた。
 激痛が走った。立っていられない。俺は力のかぎり叫んだ。が、音が出ない。
痛みでしゃがみたいのに妹さんが肩を引き寄せてしゃがませてくれない。
妹さんに支えられた肩から下は、壊れた操り人形みたいにぶら下がっているだけだ。 
 しまった、シャイアの鼻歌はブラフだ。妹さんがハミングに偽装したMONTINOを唱えていた。
 「心配ない。傷あと、のこさない」
 悶絶しそうな痛みがいきなり引いた。チビが入口に向かってスタスタ歩きながら
俺の方を見ずに言った。妹さんは素早く俺の肩を持ち、俺の耳に唇がふれんばかりにところで、
息を吹きかけるように呟いた。
「行くぞ。リーダーを待たせるな」
 胃が溶け落ちたかもしれん。もうこの部屋から出たくない。
シャイアは俺に向かって指を立て、シーと音を出した。
「殺しゃしないよ。話があるんだ。逃げるなよ」
 両脇をシャイアとフローレンスさんにがっちりと捕まえられて、俺はA Cotの廊下を歩いた。
いつも通りの陰気な雑踏が聞こえる。みんな視線を合わせないように俺を見ていた。
すれ違いざま、そっと様子をうかがった。音が出ないように拍手をしてるやつもいる。
笑って見せたたり、親指を立てるやつもいる。
そうじゃない、そうじゃないんだお前ら……助けて。
0119ここまで2025/08/25(月) 05:44:47.16ID:Z3zlQbG+
SS投下する人は16レスを超えるとスレッドに書き込めなくなります
こんな長文だからかもしれんけど気を付けて

>>101
ダフネ未履修なんで力になれなくてすんません
ところで石鹸エルフについてもう少しくわしく
0120名無しさん@ピンキー2025/09/07(日) 21:14:52.00ID:nUf3X3ob
鑑定士の人来てたああああ!!!
ちょっと最初から読み直してくる→→→
レスを投稿する


ニューススポーツなんでも実況