★「無敵無敗の格闘女王は雨のリングにいる」010
 練習生として入団した、蘭奈まゆみの練習初日の動きを見た時の事をはっきりと覚えている。
 同じ練習生の自分から見ても溢れたぎる才能を感じた。おそらくこの子は自分の手の届く存在でなくなる、そう思った。
 そして女の自分から見ても、美しく綺麗だと思った。そして――

 「シルバーすみれ」と名付けられ、デビューが決まった時、思わず蘭奈に声をかけた。
 当時から特別な雰囲気をかもしだしていた蘭奈は、仲良くしていた選手は他にいないようだった。
 どうして蘭奈に声をかけたかはわからないが、上昇志向の強い自分と真逆にいるような蘭奈を見ていると不思議と一緒の時間を過ごしてみたいと感じていた。

 断られるかと思ったが、蘭奈は練習休日に自宅に来てくれた。休日に呼んだのは、練習後だと飲酒・喫煙がやめられないので自宅には招けなかったからだ。
 蘭奈が来る前夜は自宅を片付けて、酒と煙草は見つからないように隠した。