『…何しに来たのですか、こんなところまで?」
「ええ、ちょっと運命の人を取り返しに…ね」

そこは下水道、という名目で作られた隠し通路
非常時の逃走経路ゆえに秘匿性を重視されており、その存在を知る者はごく僅か、司令官たる“彼”と最高戦力である絆、そして…
『で、なぜここがわかったのですか?』
“シスター”の中に存在する戦闘用人格“DOGMA”だけである。
 
「…当たり前でしょう?あまり認めたくはないのですが----」
対し、そう言うは“DOGMA”と同じ表情である彼女。
「----“貴女”と“私”は同じ存在なのですよ?」
シスターの妹にして、神の代行者、神の傀儡になれなかった少女…DOGMAだった。
 
『…本当に認めたくないものですね…人間である自分を』
「私だって認めたくないですよ、身も心も堕ちた自分なんて」
お互い軽蔑の眼差しを隠さぬまま口を開く。当然だ、この二人は【彼のことが好き】【姉を敬愛している】以外は全く異なっている。

「神に祈る者」と『神を呪う者』
「人を救う者」と『人を殺す者』
「全てに無関心だった者」と『全てが憎かった者』
そして
「機械になりたかった人間」と『人間になりたかった機械』

彼女らは何もかもが違っていた。
わかりあえるはずがない、それも敵同士なら尚更だった。
 
「----そこをどいてください」
『もちろん、いやです。貴女のほうがここから消えてくださいよ』
「いやです、私はあの人を連れて帰るまで消えることも、退くこともありません」
決して譲らず、退かず、交わらずの平行線な二人。
目の光はとっくの昔に消え失せ、空気は深海の重みを超えていた。

『なら---仕方ないですね』
「ええ、仕方ないことです…」

交渉は不成立、現状維持など愚策、和解なんて論外だ。
ならば、選択肢など一つしか無いだろう。