智子は今ようやく俊一の異常な精神状態を理解できてきた。それは『絶望』と言い表すのがぴったりだった。
智子はゲームの最初に、誘導された結果であるにせよ、自らの口で「このゲームをやりたい」と宣言した俊一を、
たっぷりと後悔させてやろうと思い、その後悔させるプロセスを楽しむことが、このゲームの智子にとっての
大きな目的の一つになっていた。しかしいつの間にやら、智子も知らないうちに俊一の『後悔』は『絶望』に
脱皮していた。
それは俊一の目を見れば分かった。

智子(ふぅーー。なんて『軽い』絶望かしら。軽くて、ちっぽけでヤワで、、、。
   身分が落ちるにつれて絶望のスケールまでちっちゃくなっちゃったね。・・・
    『彼の絶望は私の手のひらの上で転がせるくらいに小さく、
     指でつまめば潰れてしまいそうなくらいふにゃふにゃでした。』・・・
   あ、これイイ!ポエムみたい!今日のブログに書いちゃお。きゃははっ…。
   この遊び本当に面白いわ!もうちょっといろいろ試してみていいよね?)

智子にとってそれは手のひらサイズの玩具でも、俊一にとっては実に巨大な絶望感だった。
そして手ごろな玩具を手中にした智子の好奇心はなお旺盛だった。
智子「俊一?!許して下さい・ってどういうことかな?意味分かんないよ?
   ホラ、お前が毎日磨いてくれてるブーツじゃん?
   そんなツレナイこと言わないでよ。ほら!」
智子は俊一が全力で凝視するブーツをふいに動かし、心持ち踵を浮かせてから、
ピンヒールで鋭く床を踏み鳴らした。
「カツーーン」と心地よい音が鳴り響いた。
俊一はびっくりして「うわあぁぁぁっ!!」と声を張り上げた。目は最大限見開かれていた。

その絶叫が止んでから、智子はゆっくりと、俊一の目の前で、クイッ、クイッとブーツの爪先を
上下に軽く揺らしてみた。
智子の靴が揺れるのに合わせて、俊一も呆けにとられたように「あっ、あっ、、、」と
かすかな声を漏らした。目線もブーツの爪先に釘付けされたままのように上下させていた。
まるで智子のブーツがホラ、ホラ、と手招きしているように見えた。