これはつまり、ナンバリングだったのだ。センターにいる間だけ必要な番号だから、
焼き入れする必要はない。だから、容易には落ちないインクでナンバリングする程度
で充分というわけだ。歩は蹴り転がされてうつ伏せにされると、背中にも同じ番号を
打刻された。数字の意味は、23年度収容の第1号保護者という意味だ。名誉な番号
ではないか。数日後にはセンター長となる森下玲子は、長となれば既収容者100余
名に加え、新規収容者50名を迎える施設の運営に忙殺されて、佐藤歩という目の前
の男の氏名など覚えようともしないだろうが、この第1号という番号は、嫌でも彼女の
心象に深く刻まれた。4月1日に法に従い早朝から出頭してきた模範的な要保護者は、
第1号の栄誉を既に奪われていることに落胆するかもしれない。
 玲子はその後、いくつかのまことに事務的な引継を受けた後、本省へ戻った。