(何故父は怒らないのか…必死に怒らせる言葉を紡いでいるのに)
(何故優しい顔でこちらに向かってくるのか…)
(何故…頭が熱くなるほど考えている内に、父の腕の中にいた)
(年頃になってからは、どんなに心中で願ってもせがみすらしなかった父の抱擁に身を硬くする)
…違います、間違っているのは私だけです
気がつきませんでしたか?
ネクタイやネクタイピンやカフスが時々無くなっていたのを
間違ってるのは…私なのに…
(悪女ぶるには幼すぎた、望んだ腕で抱擁されれば子供と変わらずにくたりとし…ただしそれはすでに女が男に甘える様な仕草に変わっているが…父に縋って啜り泣く)
お父さんは悪く無い…何にも悪く無い…
(そう言いながら抱きしめられる歓びを感じている自分に罪悪感さえ感じる)
……
(涙に濡れた顔を上げれば唇が重なり、身体の力が抜けていく)
(父の言葉を聞きながら、自分の唇に手を当てる
間違いなくそれは望んだ人物とのファーストキスだった)
あ…
(なんと言ったらいいかわからない、何をすればいいかわからない)
(ただ豊満になった胸を、柔らかい曲線を描く腰を父にしなだれ掛かて、段々と熱くなる体温を伝えるしかなかった)