黒板一杯ぐらいな大きな字で、童貞先生とかいてある。
おれの顔を見てみんなわあと笑った。
おれは馬鹿馬鹿しいから、童貞が可笑(おか)しいかと聞いた。
すると生徒の一人(ひとり)が、しかし生涯童貞は過ぎるぞな、もし、と云った。
童貞捨てようが生涯童貞だろうがおれの人生でおれが童貞なのに文句があるもんかと
さっさと講義を済まして控所へ帰って来た。
十分立って次の教場へ出ると一つ生涯童貞なり。
但(ただ)し笑うべからず。と黒板にかいてある。
さっきは別に腹も立たなかったが今度は癪(しゃく)に障(さわ)った。