(遅い時間、暗い夜道で誰かと出会う可能性は低いと考えていましたが、零とは思っていません)
(それでも──まさか無言で後を付けて眺めてくる人がいるとは想定していませんでした)
──きゃ、ぁっ!?
(真後ろから声を掛けられた瞬間、予想外の出来事に悲鳴が自然と上がります)
(夜の闇を引き裂くような高い音の後に続いたのは、苦しく呻くような掠れた声でした)
ぅう、ぅ……せ、ぃび……?
(太い腕に一瞬で首を取り押さえられて、息をするのがやっとの苦しさ)
(細い眉の間に皺を刻んで顔を歪めながら、襲ってきた人が誰なのかを考えて──青褪めました)
(いきなり襲い掛かってくる暴漢が不埒な侵入者なら、許せませんが納得はできました)
(ですが、まさか──顔馴染みでもある整備兵の方とは……)
(抵抗する為に太い腕を剥がそうと掴んでいた手に、力が入らなくなります)
(襲われたのですから敵と言っても過言では無いはずですが、仲間という意識も残っていて)
(それに何より、仲間に襲われたというショックで呆然としてしまっていました)
(首を拘束されたまま、抵抗する動作も無く大人しく貴方に連れて行かれるまま歩いて行きます)

(連れて行かれた場所で、もし首の拘束を緩められたのなら──こう問うつもりでした)
どうして、こんなことを……?
(怒ったり逃げ出したりするよりも前に、確認をしたかったのです)
(何か怨みを買うようなことを涼月がしてしまったのか)
(それとも、ただの悪ふざけで襲っただけなのか)
(それからこの質問も、貴方に向けて投げかけることになると思います)
何を、する気……ですか?
(整備のことで、いくら大事な話とは言えこんな時間にこんなやり方で連れて行くことは考えられません)
(だから違う目的があることはすぐに理解できていました──ですが)
(真の目的が何であるのかは、想像できませんでした)
(男性が女性を連れ込んで何をする気なのか、知識が足りず考え付かなかったのです)
(細い通路の奥、逃げることが容易では無い空間で──涼月は身を守る素振りも無く貴方の前で困惑するだけでした)

【はい、今はまだ……】
【貴方の力で心までも堕としていただきたいです】
【急がずに反応を見ながら進めていくやり方は好きです】
【涼月の反応を楽しんでいただけるなら、そうした進行でお願いします】