(半透明のぷるぷるとした、蛞蝓のような生き物が、ぼとぼとと続けざまに何匹も垂れ落ちて侵入してくる)
(ゆらゆらと体から生えた触腕を揺らめかせながら、目的である雌、杏に向き直ると、緩慢な動きで這い寄っていく)
(音もほとんどなく、それによって獲物が目を覚ます気配もない)
(一匹は口元に、一匹は股座に、一匹は耳元に、とにじり寄っていって)
(そのうち、杏の耳元ににじり寄った一匹が、触腕を耳の穴へと伸ばし…)
くちゅり…くちゅ、くちゅ…くちゅ、くちゅ…
(細く伸びた触腕は、その先端からさらに細い極細の糸のようなそれを伸ばし、聴神経に絡みつくように)
(脳へと触腕を伸ばし、杏の脳に侵入)
(その機能を、奪い、己のモノとするために触腕を接続し脳の機能を干渉し始める)
(動物的にしか思考できなかった寄生体が、その機能を奪う事で本人にさえ成り済ますことができるように)
(脳を寄生生物の思考装置として使う為に、音を立てて弄り、支配していく)
(記憶を引き出し、読み込んで、人間的な思考を徐々に獲得していき…)
(杏本人の意識は眠らせたまま、己がそれになり替わる為に)
(人間の雌の体に寄生し、脳を奪い人格すら擬態して社会に溶け込み、雄の精液によって繁殖する生物)
(今杏に群がっているこれらは、自然に発生したものではない、人為的に育成されたもの)
(アイドルである杏のファンをやっていた男の手により、飼育され手懐けられたものだ)
(彼らは、主人が交尾したがっている雌の体を奪うようにとの指示を受けて、この部屋に侵入してやってきたのだ)
【お待たせしました、導入はこのような形でどうでしょうか】