【昨夜の続きです。いつでも終えられる状況ではありますが】
【主さえよろしければ、その…………もう少しでいいので、くっついていられたら、俺は嬉しいです】
【(真面目な声で言った)】


(柔らかな頬に流れ落ちる涙。白手袋を濡らす滴は熱く、それを感じられる肉体がある事に安堵する)
(笑っていてほしい、だなんて。この方がくれる主命は、相も変わらず優しすぎて――――……)
拝命いたしましょう。
(それが彼女の願いだというのならば、いつだって。穏やかな承認の声に乗せて、藤の瞳が幸福そうに細まった)

はい。貴女の長谷部はここに――――……っ、――――…………。
(言葉が途切れる。片膝立ちのまま、飛び込んできた少女の身体をしっかりと抱き留めて)
(その勢いのまま両の腕を細い背中に回してきつく抱きしめ返せば、二人の間にもう隙間は存在しない)
…………ここに、おります。貴女を…………一人にはいたしません。
(この身を彷徨う細い手に応えるように、背を丸めるような体勢でぎゅうと力を込めれば、少女の身体が撓る)
(痛みを与えていないか案じる余裕はなかった。ただ、自分も同じように彼女の存在を確かめたくて)
(細い背中と、丸みを帯びた後頭部を大きな手で支えるように添えながら頬を擦り寄せる)

ありがたき、幸せ…………。
(頬と頬の間に零れる涙の熱を感じながら、許しの言葉を全身で享受した)
長い間お待たせしてしまいましたね。…………俺は、もう――――主から離れません。
(切なる思いが耳に届けば胸が痛む。この少女だけが与えてくれる、苦しくて、甘くて、とても幸福な痛み)
離しません。離れたくない…………。
(これが自分の意思だと伝えるように拘束を緩めぬまま、すり、と一度頬を寄せてから僅かに顔をずらし)
(紅く染まった目尻に口元を寄せると、ほろほろと零れ落ちる涙の粒を己の唇で受け止めた)

大丈夫…………俺は逃げません。貴女がどんな姿を見せようとも、消えたりはいたしません。
あの日、最後の瞬間。俺にぶつけたい心も、落ちる涙も、全てを飲み込んで…………ただ笑顔だけをくれた事。
貴女の優しさを、真心を…………俺は覚えています。
だから、今は――――……泣いてもいいいんですよ。主。