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横から掛けられた声に、エリカはページをめくる手を止めて顔を上げた。

「あら、申し訳ありません。私ったら、つい……」

はにかむような表情で店員へと詫びながら、手にしていた雑誌を閉じる。
素人による投稿がメインの、ややマニアックな月刊誌である。
扇情的な見出しをゴテゴテと並べた表紙には、露出・調教・青姦といった卑猥な単語がドギツイ配色で殊更に強調されている。
およそ彼女のような女性が読むとは思えないものであり、彼女のような年齢の人が購入して良いものでもない。

「見てはイケナイと思うと、ますます見たくなってしまいますの」

そういって、小首を傾げるように微笑む彼女の頭上で、作り物のウサギの耳が小さく揺れる。
仄かに紅潮した頬、潤んだ瞳と相まって、その笑みはとても魅力的なものに見えるだろう。

「殿方も、そういうものではありませんの?
 隠されているからこそ、ほんの少ししか見えないからこそ……」

そんな風に言い訳を口にしながら、店員へと背を向け、足元に置いた買い物篭に雑誌を入れようと前かがみになるエリカ。
もちろん、そんなポーズを取ればタダでさえ丈の短いコートの裾が、さらに捲れ上がってしまうことになる。
顔を覗かせたのは、白いふわふわの丸い尻尾と、黒いエナメルの光沢。
そして、ハイレグカットのそれらを食い込ませた、網タイツをまとった白いヒップの丸いライン。
それらがグッと後ろに突き出された結果、背後の男の股間に軽く触れてしまい……。

ぐぃっ

「あっ」と小さく声を挙げて腰を引いたエリカの左手が、裾を引っ張るまでのほんの数秒、幸運な店員の目にはしっかりと、それらの光景が焼き付けられた。

「……隠れた中身を想像してしまうのでしょうね。
 あ、この本はちゃんと購入させて頂きますわね……失礼致しましたわ」

肩越しに振り返ってそう告げると、エリカは何食わぬ顔でエロ本の入った籠を手にし、奥まったところにある別の陳列棚の方へと歩き出した。
その口から、ホゥ……と熱の籠った吐息が漏れたことに、果たして店員は気付けただろうか。
ハイヒールが床を叩く音に合わせて揺れるコートの裾は、先ほどまざまざと見せつけられた形の良いヒップラインを、ギリギリのところで隠し続ける……まるで、彼の視線を誘うかのように。

そうして、十分に焦らし切ったところで。
金髪の兎耳少女は、野菜などの並ぶ生鮮食品コーナーの前で立ち止まって、何かを探し始めた。