(彼女から向けられる感情に、男の余裕を崩すに至るものはない)
(圧倒的優位な立場から引き摺り下ろさないかぎりは、何をしようとも痛手にさえならないのだから、当然だろう)
(彼女の考えは当たっていた。その優位さえ消せれば、それが全てなのである)
(男はこれから彼女を絶えず抱こうとし続ける。機会は幾らでもあるはずだ)
(それが蜘蛛の糸にも及ばぬ儚い可能性だとしても、だが)
おう、よしよし。
出せ。屋敷までだ、急げよ。
(男は魔鳥をあやすと、部下に命じて中へと入る)
(そこは、小さなVIPルームと呼ぶに相応しい豪奢なもの)
(伴って座るであろう椅子は程よい弾力に抜群の肌触りを持ち合わせ)
(傍らに並ぶ洋酒の瓶は、どれもこれも最高級の限定品)
(戦場を駆けようとも倒れぬ頑丈さの馬車の中で、これほどの設備)
(そういう思考の入る余地があるのだ。襲撃にあっても死なないと考えられる地位と権力があるのだ、この男には)
尻だ。
良い肉付きだな。今夜が楽しみだ、くくく。
(馬車が動き出しても、男の手はアーシュを弄り続ける)
(外から見て分かっただろうが、この窓は魔術的な屈折効果で外からは中が伺えない)
(中からははっきりと見えるのだが、その際も気にはなってしまうだろう)
(今のアーシュは、権力者の愛人、それもこの彼女を一方的に犯した男のものにしか見えないからだ)
(回した手が薄布の上から乳房を包み、からかうように男の鼻先が彼女の目の前まで近づく)
(此処で抱く気はないのか、積極的だが踏み込んではいかないイタズラのようなもの)
(だが、魔術によるもののせいか、馬車の振動や音は殆ど彼らには伝わらない)
(異質であろう。馬車ではなく、どこかの狭い個室で男に身体を弄ばれているだけのようなものに感じるかもしれない)
(それでも、馬車は刻一刻とどこかに近づいていた)
【着せ替えていくのは大歓迎です、色々と好きに着てください】