>>161
(公立高校に通う二年生、柏葉一希がその店を見つけたのは、偶然と呼ぶしかない出来事であった)
あれ、此処にこんな店をあったっけ……?
(いつも通りの道を通って帰宅途中の一希は、商店街の片隅にある洋館に向けて疑問を発した)
(蔦の絡まる外観は古風で、前からそこにあった様だが、記憶には無い)
(首を傾げながら看板の前で足を止め、周りの様子を再度確かめる)
(春の陽気を含んだ風が通り抜けて、新年度に合わせて整えた短い髪を揺らした)
し、よう、かん……で良いのかな……?
アンティークショップ、って言う感じだけど
(訝しむように看板を眺め、出窓から中の様子を窺う)
(蝋燭の灯りが揺れる店内は薄暗くてよく見えなかったが、雰囲気だけは伝わってくる)
(制服に身を包み、高校二年生という年齢相応の知識、趣味を持つ一希に骨董趣味は無かったが)
(それでも、古めかしい物に大人の印象を抱き、格好良さを感じもする年齢であった)
(時間はあることだしと、自分の中で理由を付けてから、興味に突き動かされるまま扉に手を伸ばす)
失礼しまーす……
(ゆっくりと開いた扉から中に入り小声で挨拶すると、即座に店内へ視線を巡らす)
(所狭しと並べられた骨董品や書物の数々が一希の目には飛び込み)
(予想通りの品々の登場に感嘆の声を上げながら、香りの良さに意外さを感じていると)
……っ!?
……あ、えっと、こんな所に店があるんだなって吃驚して……
ちょっと立ち寄ってみた、だけです……
(店の奥から聞こえてきた美声に背筋をビクッと震わせてから、慌てて声のした方に顔を向ける)
(来客を迎える言葉に返した一希の返答は、傍目にも明らかな程上ずった声で)
(初めて訪れた店での店主との会話に緊張しているようであった、が)
(胸中では、緊張よりも店主の美貌に対する動揺の方が、遥かに大きな比重を占めていた)
(こんな綺麗な人をテレビでも見たことがない、と月並みな感想を抱いてしまうほど)
(店主の顔立ちは美しく、眼鏡やストレートの紫髪がその怜悧な容貌をより際立たせていた)

はい……っ
(そのまま会話を続ければ何時までも顔を見続けてしまいそうだっただけに)
(店内を自由に見るよう促されたのは有難いことであった)
(しかし、慌てて陳列棚を眺めようとした一希の視線は直ぐ、女店主の方を再び見てしまう)
(今度は顔ではなく、その長身の美しいスタイルを)
……
(商品を見るという目的も忘れ、一希の目は女店主の胸から腰、そして臀部へのラインを追っていく)
(人を吸い込むほどの美しさでありながらも近寄りがたい雰囲気であった顔立ちと異なり)
(ふくよかな胸の膨らみや、引き締まった括れ、豊かな臀部は人を誘うように蠱惑的で)
(女性を知らない一希にでも、その身体が最上級の物であることはよく理解できた)
あ、ありがとうございます……
……えっと……
(そんな高嶺の花とも言うべき存在が目の前にいて、そして微笑みを向けてくる)
(目眩がしそうな程の非現実感を覚えながら、同時にこの機会を逃したくないという思いが湧く)
(でも、どうすればいいのか?高校生の自分にできることを考えながら店内を改めて見回し)
(咄嗟に目に入った古風な懐中時計と、その値札を見て、一希の頭にあるアイデアが浮かんだ)
あの……これ、買います
……机の上に置く時計、探してて……
その、こういうのあると格好良いかな……、と
(商品の陳列を直す店主に、今度は一希の方から声を掛ける)
(ぎごちなく笑みを浮かべながら、今即座に思い付いたデマカセ……もとい、時計を選んだ理由を付けて)

【書き出しありがとうございます】
【こちらの名前は付けるか悩みましたが、そちらが付けるようなら合わせて、と】
【よろしくお願いします】