>>422
(地下室に滑り込んできたノエラの顔は少し濡れているようであった)
(庭で水やりでもしていたのかと思いながら用件を告げれば、予想通りの反応で)

「……以前も説明したことがあるかも知れないが。
魔力を直接、液体や固体に変換するのは周囲へ影響を及ぼすリスクがある。
保管にも再利用にも細心の注意が必要で、手間が掛かるのだ。
それに比べて人体へ溜めた方が……

──話の途中だ」

(すぐに身を翻して戻ろうとするノエラの姿を見ると)
(男は手を持ち上げ、ノエラ……ではなく、その向こうの階段を指差してから)
(パチンッと指を鳴らして、階段に仕込んでいた術式を起動させた)
(途端、階段のある空間全体の空気が歪んで、人間の通行を拒む透明な結界へと変貌する)
(ノエラがドアを開けようとすると見えない何かにそれを阻まれてしまう)

「水やりはいつでもできるだろう。
話を戻すが、人体に保管する方が影響は減るし、こうして傍にいるだけですぐ取り出せる。
何より……これは説明したことが無いかも知れないが
定期的な魔力供給を行わなければ、折角溜め込んだ魔力の所有権が曖昧になる」

(ドアを開けず地下室から出られないノエラの方へゆっくりと歩み寄る)
(男は無表情で、事務的な口調で説明しながらノエラを真っ直ぐに見ている)
(その様子は初めて会った時とまるで変わっていなかった)
(態度だけでなく容姿も含めて、何一つとして)

「これまでの積み重ねを無駄にしない為にも、今も、今後も魔力供給は欠かせない。
────理解できたな? ノエラ」

(目の前まで近付くと足を止め、ノエラが頷くのを待つ)
(これまでの積み重ねという言葉には、ノエラに溜め込んだ魔力のこと以外にも)
(この師弟のようなそうで無いような二人の関係も含まれていた)
(無論、男としてはそれを匂わせるつもりで言った訳ではなく無意識に込めた意味だが)
(無意識に……ノエラへの感情を男が行動に垣間見せることは数少ないがある)
(身体が動かしやすく効率的であるからと言って、外見年齢を昔のままに留めているのも)
(ノエラに老いる姿を見せたくはなく、出会った時の見た目を保ちたかったからだ)
(隠し切れないそういう部分を気付かせない為にも、表情や接し方だけは)
(高圧的で冷酷な、これまた変わらぬ魔法使い然とした態度を、取り続けていた)