(妙な静けさが流れる。怒っちゃったかな、使えないからもういらないって言われたらどうしようと今更後悔が押し寄せてくる)
(クラウスのそばをはなれなきゃいけなくなるくらいなら好いた相手なのだからたかが体を許す程度ぐずぐず言わなきゃよかった)
(いつまでたっても何も言ってもくれずこちらを向きもしないクラウスを見ているのは辛くて俯いて落ち着きなく指先同士を擦り合わせ)

(いま思えば好きな人相手なのだから性行為自体には不満なんてなかったのになんでこんなに意固地になっているのか自分でもわからない)
(というのは少しだけ嘘で、本当は愛されていると思いたかったのだ)
(最中は普段よりずっと優しくて、そのぶん終わったあと通常の態度に戻ったクラウスを見るとぼんやりとした喪失感にさいなまれて1人で落ち込むこともよくあった)

(感傷にひたっていると、ようやくクラウスから言葉が発せられてほっとしたように表情がゆるむ)
(しかしそれは自分の気持ちに寄り添ってくれたものではなく魔法の説明ばかりで聞くにつれて胸がちくちく痛む)
(揺れる感情を抑えようとすると毛先をいじる癖がある。今もそれは無意識に表れていて伸ばした髪を両の指先でつまんだり編んだりしている)

それは……、わかってます
(全部聞きおえると深呼吸してから絞り出したような小さい声で答える)
(ここまで抵抗したのは初めてだから、同様にここまで詳しく説明されたのも初めてだが貯めておく魔力の性質はなんとなく察しがついていた)
(彼は今どんな顔をしているのか知りたくてこわごわ盗み見ると、いつもの冷徹な顔で私に気をとられるようなひとじゃないよねとがっかりする)
(曲がりなりにも10数年一緒にいるのにあまりにも自分に興味を示してくれないのが悲しくて、下を向けば涙が溢れてしまいそうで我慢して前を向いてクラウスから目を逸らさない)

いっつもそればっかり……!
(いつも自分を才能がないと切り捨てるクラウスに凹んでいたが、今日は感情的になりすぎていて抑えがきかず拳を握りしめて微かに震えだす)
(普段は自分に才能がないのが悪いのだと思い込むことで抑えてきたが教えてみようともしない彼になんだか腹が立ってきた)
(魔法はダメ、外に出て金を稼いでくることもダメ、自分に任されていることといったら魔法でもできる庭の水やりだの家事だのその程度)
(成長したら教えてくれるかと思ったのにどうやらその気はなさそうで、怒りに任せて感情を爆発させる)

たかが私一人に教えられないほど無能な魔法使いなんですか!?がっかりです!
そのくせ私が独学しようとしても怒ってくるし、普通の人間らしく生活しようと街に出かけるのも禁止だし、なにがしたいかわかんないです!
私のこと軟禁してるのと一緒ですからね!そんなに私のことすきなんですか!?
(すべて一息で言い切ると、息を切らしながら高揚感にひたって言ってやったとばかりに微かにニヤリと笑い扉に体当たりするように駆け寄って)
(そうしてノブを回すと青ざめた。階段への扉と同じ魔法がかかっているようで、開けられないのだ)
(あれほど激しく啖呵を切ったのだから同じ部屋にいたらめちゃくちゃ怒られるに決まっていると早く逃げたくて扉をバンバン叩く)
(すきだとかなんとかは口から出まかせで言っただけで、悪口の量増しみたいなものだからとあまり気にしておらずそれよりここから逃げることに執心している)

【いえいえ、せっかくそちらから提案いただいたことですから、できる限りご希望に添いたいと思いまして】
【じゃあ長丁場になりそうですねw長くお付き合いください】