きゃッ!
な、軟禁の次は暴力ですかっ
(扉に叩きつけられた背中がじんじん痛む。彼の心中など知らず、怒っているためわざと痛い思いをさせられたのだと受けとって内心びくつくが)
(ここでひけばいつも通り流されて性交、ということになりかねなくて強気なふりをする)
(言葉だけはキツいが怖くて声は震えて足には力が入らない)
(もはや体を支えているのは足でなくてもたれかかっている扉である)
ひゃっ!やっぱり嘘ですごめんなさっ…
(いつも以上に冷徹な表情に怯えいて、クラウスの顔が近づいてこれば肩が飛びあがる)
(とっさに思ってもいない言葉を連ねて適当に誤魔化そうとするが御構い無しにもっと近づいてくる顔にもう無理だと悟り口をつぐむ)
(なにをされるか怖くてたまらずとっさに目をぎゅっと閉じた瞬間、固く結んだ唇になにか触れた)
(痛いことや苦しいことをされるのではと思っていたのに戸惑いながら恐る恐る薄目を開けてみるとクラウスのまつげが見えた)
いまの、なに、くちびる、あたって……
(唇が離れてもまだことを理解できず目を白黒させている)
(クラウスと目があっても気まずそうに視線を逸らしてみたり一瞬合わせてみたりせわしなく眼球が動く)
(まだクラウスの感触の残る唇を人差し指でそっとなぞり、初めての体験の名前を口にする)
(理解した刹那、顔があかく染まる様子がはっきりわかるくらい首元から顔に徐々に血が上ってついには全て真っ赤になって)
(本当にこの人のことが理解できない。こんなことをするような軽薄なひとじゃなかったはずと憶測がぐるぐる頭を回る)
すき、……恋?
わたしのこと、を……
(次から次へと耳に流れ込んでくる、本当とは思い難いクラウスの言葉に混乱してぽかんと口を開ける)
(こんな冗談を言う人ではない、つまり彼の言うことは)
(あいも変わらず表情のない顔をのなかに、どこか人間らしい感情を垣間見た気がして微かに微笑んで彼に言葉をかけようとしたのだが)
(なにかいうべきことを見つける前に身体が勝手に動いた)
(自分の目線くらいにあるクラウスの肩に、背伸びをして手をかけて)
(そのまま撫でるように首に手を回して抱きつくとぎゅっと目をつむって強く押しつけるようにキスをした)
(キスなど今日が生まれて初めてで力加減がさっぱりわからず押し潰れた唇が痛い)
(緊張のあまりそんなこと気にならず、何時間にも思えた数秒のキスを終えると一気に全身から力が抜けて体を支えられなくなりドアにもたれかかり、そのままずるずる下がってその場にへたりこむ)