(その日はいつもと変わらない穏やかな一日だった)
(都会の喧騒とはかけ離れたこの環境ではそれらの全てとは無縁の平穏な日々が過ぎていた)

(彼の集落にある一つの家の中でもそれは同様だった)
(家の扉には休業中と書かれた看板が立てかけられ、扉には鍵が掛けられているが、看板の裏にはこの家の予備の鍵が掛けられていた)
(かつては商いが行われていた家、商品が置かれていた棚やカウンターには今は何も陳列されておらず薄く埃が積もっていた)
(以前は来客や友人たちとの談笑でにぎやかだったその環境はかつてのもので今は写真のように、時間が止まったかのように静寂が訪れていた)
(裏手にあった居住の為の部屋はそこに何もなかったかのように片付けられ、部屋の中央には小さな箱が一つ置かれている)
(中にはこの家の住人がかつて使っていた小物や装飾具をはじめ、着ていた衣服や靴、眼鏡などあらゆる痕跡がきれいに掃除された状態でしまわれていた)

(家の更に奥、普段は物置として使っていた部屋、そこにもかつて置いてあった物品などは全て片付けられ床には埃が薄く積もっていた)
(部屋の片隅には20代後半の女性が横たわっていた)
(かつては綺麗に整えられていた髪は無造作に伸び、手足は枯れ木のように細くなっていた)
(衣服なども纏わず、色白の肌は既にこの人物が事切れているということを伝えるかのように青白くなっていた)
(胎児のように丸くなり、だが表情は小面のように何も感じられないような表情で瞳はかつての彼女のように無気力に開きどこか遠くを見つめていた)

(外では冬の冷たい風が野を吹きつける音が聞こえている)
(その日はいつもと変わらない穏やかな一日が過ぎていた)