>>10
(「もう!! どうなっているの?? でも…………」)
(何度もスカートの上からお尻を撫でられ、太腿を直に触れられれば、気分は苛立ちだけが募る)
(なんとか捕まえようと試みはするものの、何かに阻まれたり、思わぬ位置から触れられ翻弄され、意気込みは落胆へとすり替わる)
(電車が学校の最寄駅に近づくアナウンスと、前方へ向かうGが体に感じられれば)
(捕まえられなかった悔しさと同時に、終わりが見えたことに僅かな安堵感も微かに抱いていた)
(その間にも痴漢たちの傀儡と化しご褒美をもらっている親友が、さらに悪辣な罠へ自分を誘い込もうとは知らず)
(聡美も痴漢の被害に遭ってはいないだろうかと、心から心配していた)

…………フゥッ
(電車の速度がかなり落ち見慣れた風景が見えると、さすがにもう痴漢も諦めたはずと勝手に判断して)
(早く聡美と合流しないとと気持ちも逸り、降車するためにまだドアが開く前に一歩進んで)
(踏み出した脚と軸足とに隙間ができ、油断で完全に無防備になっていた時)
……ンァ…………ッ。
(ショーツのクロッチの部分、まだ異性の誰も触れたことがないちょうど秘部に硬い感覚のモノが下から当たれば)
(太腿を触られるのとは比較にならない嫌悪と驚きに、体が太腿を愛撫された時以上に)
(大げさに言わずとも飛び上がるほどにビクッと震えて、なにか分からない感覚も僅かに秘部から走る)
(ただそんなことに怯んでるはずもなく、相手が満足したのか動きが鈍いことに気づき)
(手首を掴まえに利き腕の左腕を後ろにむけるが、掴んだと思った瞬間に痴漢の手を引く速度が上がり)
(あともう少しというところで、指に触れただけで逃してしまう)
(「あと、もう少しだったのに……。次に遭った時には絶対に許さないんだから」)
(いくら同年代の女子の中では聡明であっても、人生経験不足であることは否めず)(それが相手の奸計だと気づくはずもなく、再接触したときのリベンジを己に誓う)

顔が赤いけど大丈夫?
(車両が停車しドアが開くと聡美と無事に合流するが、すぐに親友の頬がほんのりピンク色に上気していることに気づく)
「うん、大丈夫。狭い場所に追いやられて息苦しかっただけ」
それなら良いけど……。
(痴漢されたような怯えが見られないことに、どこか引っ掛かりつつも親友の言葉を信じて)
(どこか腑に落ちない表情を浮かべつつも、どちらからともなく手を繋いで改札方向へと向かって行った)
(すでに痴漢たちには聞こえるはずもないが、聡美はまた翌日に一緒に登校する約束を取り付け)
(話を上手く持っていきながら、同じ時間のほぼ同じ位置へ彩良を誘い出すことに成功していた)

(そして翌日、彩良はまだ少し迷っていた)
(夜に考え直して、何度かLineで「電車の時間を1本前か後に変えない」とか「乗り込む車両を変えよう」と聡美に提案してみるが)
(聡美からは「なんで?」、「今日、まさかなにか遭った?」と返されれば)
(今まで何度か痴漢を掴まえた自負と、自分が痴漢に遭いつつ捉えられなかった羞恥に素直になれず)
(痴漢たちが巧妙に張り巡らせた罠の中へと誘導されてしまう)
(ただ昨日と違うのは、万が一を考えてショーツの上にロイヤルブルーのスパッツを履きと黒のオーバーニーソックスで武装したことだった)

(「えっ、また?」)
(同じドアから乗り込めば、デジャヴュを感じさせるようにまた駆け込んできた何人かの乗客に)
(聡美と繋いでいた手を切られ、ドアの互いに反対側へと分断されてしまう)
(間に割って入った乗客を見上げるが、特徴は昨日の人物と違って見えたし)
(隙間から聡美がかなり奥へ押し込まれるのを見ていて、一人くらいどいてもらった程度ではどうにもならないことを知っており)
(今日は昨日のように声を上げることはしなかったが、明らかに緊張と警戒している雰囲気が見て取れる状態であって)
(「来れるものなら、来てみなさいよ。その時が卑劣な痴漢の最後だからね!!」)
…………!!
(「来た」)
(痴漢の手がスカートに触れてもすぐには掴まえず、相手が本当に痴漢かどうかを見極めるために少し我慢する)
(それが失敗であることも今はまったく知るはずもなかった)