…う…
(魔王の間の扉の前に立っただけなのに、吐き気がこみあげてくる)
(頭の中に、千歳自身に行われた凄惨な仕打ちが鮮明に蘇ってくる)
(記憶だけじゃなくて、その時の苦しみや痛みまでもが再現されてくるかのよう)
あう…ううっ…!
(足を踏み出せずに膝をつき、その場でかたかたと震える千歳)
(このまま逃げ出してしまおうかと考え始めた千歳の耳に、懐かしささえ感じる鳴き声が聞こえた)
っっ…!
(ハッとしたように見上げると、蝙蝠が鳴きながら千歳の廻りを飛び回っていた)
こ…こうもりさまぁ…!
(色々な感情がこみあげてきて、両の瞳に涙が溢れる)
(蝙蝠はそんな千歳を励ますように、ぱたぱたと羽で頭を包み込んでくる)
ふぐっ…うう…こ、こうもり、さま…
(感極まって蝙蝠を抱きしめてそうな千歳の耳に、蝙蝠の意思が伝わってくる)
ぶん…しん?
(呟く千歳に、蝙蝠はまた励ますように鳴くとふわりと舞って千歳の顔の前に回り込んだ)
こうも…ん…ちゅむ…
(蝙蝠と千歳の唇が重なり、思わず差し出した舌を吸われる)
(そして唇が離れると、千歳は少し元気を取り戻したようにこくりと頷いた)
こうもりさま、ぼくやってみるね…!
(もう一度頷いた千歳は、城の中で覚えた分身の魔法を唱え始める)
(その際に魔法を強化して、より分身の方に力を分け与えていく)
(千歳の輪郭が揺らいで、だんだんともう1人の千歳が形作られていく)
……っっ……!
(さらに念を込めて、出来上がっていく分身に魔力を惜しみなく与えていく)
(千歳の魔力の光が弱くなっていき、代わりに生まれたばかりの分身の魔力の光が増大していく)
……はぁっ…はぁっ…!
(やがて緊張を解いたとき、千歳の魔力はかなり微弱なものになっていた)
(その分の魔力は、目の前にいる分身に込められている)
(その意味で言えば、魔法少女の千歳は今生まれた分身の方だろう)
分身のぼくに、お願いがあるの
(目の前の分身に話しかける千歳)
今から魔法少女の千歳になって、魔王と和解をしてほしいの
(命令することに慣れていないからか、丁寧にお願いしてからぺこりと頭を下げた)
【うーんと…ぼくはないと思うよっ】
【というより、これだけたくさん楽しくお話ししてきて、まだ我がまま言ったらばち当たっちゃいそうだよぉ】