>>209
(蝙蝠は何かに導かれるように森を抜けていく)
(千歳はそれを見失わないように、てくてくと速足で歩いていく)
(空を飛ぶ蝙蝠の方がスピードが速いけど、千歳の速さに合わせて導いてくれている)
(少し余裕が出てくると、森の木に時々魔力の目印のようなものがあることに気づいた)
(どうやらアレスが迷わないように付けていたものらしい)
(アレスの気づかいに感謝しながら進んでいくと、木々の向こうから硫黄の臭いが漂い始めた)
(千歳にとっては、少し前まで毎日のように嗅いでいた臭い)
(やがて森を抜けて見覚えのある場所に出た)
…ここ…
(しばらくアレスと滞在して特訓をした温泉地だ)
(その脇には、寝泊まりしていた小屋があった)

(千歳は小屋の前まで来ると、入口の扉を開けて蝙蝠を中に入れてあげた)
(蝙蝠はここが安全な場所だと教えてくれている)
(そういえばアレスは、この小屋を作るときに結界を何重も張っていた)
(千歳よりもずっと強い魔力を持っていたアレスだから、結界に魔物も近づいてこなかった)
(そのおかげで、千歳も存分に特訓ができた)
(ちょっと思い出に浸っていた千歳の肩に、蝙蝠が乗ってすり寄ってきた)
こうもりさま…ん…
(愛しそうに見る千歳の口を、蝙蝠がせがむようにぺろっと舐める)
ん…ぺろ…れろっ…
(千歳も舌を出して、蝙蝠と舌どうしを重ねて舐めあう)
はふ……ねぇ、こうもりさま…しばらく、ここにいよっか
(蝙蝠にここで滞在しようと話してみる千歳)
(山を下りて街に行くという考えもあったけど、実のところ千歳は街での生活をアレスに頼っていたからまだ自分で暮らす自信がない)
(だからしばらくここで暮らして、時々街に出て、だんだんと慣れていこうと思っていた)