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いつものように小学生向けのレッスンを終え、更衣室へと戻る男の子たちを見送ったのが30分ほど前のこと。
世の中が大変な状況下にあってなお、明るさを無くさないでいてくれるあの子たちに、毎回私は元気を貰っているような気がします。
亡き夫との間には子供ができなかったので、余計にそう思うのかもしれません。
あ、そうそう。ロシア系の血をひく私の髪は、あの子たちから見ると漫画のキャラみたいでカッコいいそうです。
日本人のコミュニティの中じゃ目立ちすぎる髪の色が、彼らに褒められると少し誇らしく思えます。

なーんて前置きで現実から目を背けようとしてみましたけれど、ですね。
私たち大人には少し浅めのプール。腰より少し上、胸より少し下ぐらいの水位しかない、子供向けのプール。
普段の半分以下の人数ではあったけれど、ついさっきまで、純真無垢な男の子たちが楽しそうに泳いでいた場所です。
2階の大きなガラス窓から、練習中の様子が見下ろせるようになっています。
今も、耳をすませば子供を迎えに来た親御さんたちの気配が、ここからでは見えないけれど、伝わってくるような気がします。

「や、やっぱり、無理です……」

そんな浅いプールに、ざぶんと肩まで浸かって、いざ水着の肩紐に指をひっかけたは良いものの。
プールサイドに置いたスマホのカメラレンズの前で、私は固まってしまいました。
こんなところで全裸になんてなったら、誰に見つかったっておかしくありません。
だって私、しがないコーチですよ?
営業時間が終わった後の施設を貸し切りになんて、できる立場じゃありませんし……
第一、ロッカールームならともかくここには監視カメラだってあるんですから、変な真似をしたらすぐにバレちゃいます。
そうしたら、怒られるどころかクビにされて……

「通報だってされちゃうかもしれませんし……でも……」

指示をスルーしてばかりでは、やがて閲覧してもらえなくなってしまうだろうことは、想像に難くありません。
そうなれば報酬だって貰えなくなり、借金を返すあてが無くなってしまう……
リスク、羞恥、恐怖、常識。
色んなものが頭の中をぐるぐると巡り、混ざり合って、もう大変です。
そんな私を、投稿用アプリの動画撮影機能が、ずーっと記録している……ああ、もう、今日はこれで勘弁してください!
半ばやけっぱちになった私は、ざぶんと底まで潜ると……水面下で思い切って肩紐を下まで引っ張りました。
そして、平静を装いながら。
ゆっくりと、水面から顔を出して。続いて肩を、上半身を――水着からこぼれたオッパイを。
カメラの前へと、露わにしていきました。

「ァはぁッ♪」

思わず漏れたため息の色っぽさに、自分でもびっくりです。
見下ろした胸元は、はだけた水着の生地に下から持ち上げられて、却って裸よりも卑猥な形に見えました。
さっきまで、男の子たちが入っていたプールの水で、どこか妖しく濡れ光る、白い乳房と桜色の……
男の子たちの気配の残るプールで、オッパイを露出させるだなんて……
見慣れたはずの自分の身体が、まるでポルノのワンシーンに出てくる女優の裸みたいに、ただ淫らなだけのモノに見えて……
ああ。
セクシー女優でもないのに、こんなマネをするなんて、これじゃただの痴女……私、痴女になっちゃった……

『巴さん、ずれちゃってる! 水着ずれちゃってるよ!!』

片づけを終えても更衣室へ戻ってこない私を心配した同僚の、慌てたような声で我に返った私は、小さな悲鳴と共に水の中へ潜って大急ぎで水着の乱れを整えたのでした。
幸いにして、見られたのはほんの一瞬で、最後のつぶやきも聞かれなかったようでしたけれど。
……投稿用の動画にはバッチリ残ってましたね。

以上、報告を終わります……あーっ、恥ずかしくて死んじゃいそうです!!