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 指先を肌に滑らすだけで、百々子は甘い呻きを上げる 起きているのか、まだ夢の中なのか。どちらにせよ魅力的な妻の呻き。
 周りから見れば印象通りの明るく快活な妻が、夫である典生だけに聞かせる、湿った艶やかな声。

「百々子」
「あんっ、あ」

 少し寄って、囁く。
 百々子は俺の女だ。
 この甘い声も、豊かな肉も、いろんなことをしてくる躰のあちこちも、そして中の具合の良さも、本当に知っているのは俺一人だ、と典生は思う。
 ここ数日の揺れた日々も、立ち返ればそれが全て。典生の女は百々子であり、百々子の男は自分しかいない、と。

「いや、ぁ」
「いややないやろ」
「だめ、よぉ」
「何がだめか、百々子」

 村の衆にいやらしい目で見られるのは、ある意味快感なのだ。部落一番の、いや郡一番のいやらしい女の持ち主は俺なのだ、と。
 百々子は俺の女だ。村の誰の物でも、ましてや、アイツのものでも……。
 縋る物が見つかった典生は、妻が寝ていようが起きていようが、このままセックスに雪崩込むつもりだった。些細な不安など吹き飛ばすほど、妻 百々子の熟れた肉を
激しく乱すつもりだった。

「……父ちゃんが、近くにいるやろぉ?」

 思わず手が引っ込んだ。
 少し荒い呼吸のままだが、妻の様子は変わらない。どうやら、百々子は寝ているらしく、夢うつつで謎の囁きを発したらしい。
 父さん?2つ先の部屋で寝ている親父のことだろうか?いや違う、百々子とのセックスで親父に遠慮したことなど新婚時や母が亡くなった直後以外にはない。
むしろ認知の発病した頃から、好き者同士夫婦の行為はあからさまになっていた。
 ならば。誰に対しての「父さん」なのか。父さんであるはずの典生に向かい「父さんがいるから」と行為を断る妻がいるだろうか。
 百々子の息は次第に落ち着いてゆき、やがて乳を触る前に戻る。ただ一人、典生の鼓動だけがひたすら激しく続いていた。
 典生の自信は、またすぐに茫漠とした不安へと変わった。勃起し始めていた自分の物を持て余したまま、典生はゼロ距離にいる妻の囁きに戸惑い続けたのだ。