「ひさしぶり」
「ああ、頭の薬。なんか痛い」
「いつものやね」

 家から少し離れた県道筋の小さな薬屋。近くに農協施設がある地域では栄えてる場所だが、典生のより少し年上の女が隣町のドラッグストア
出店計画の噂に愚痴を繰り返すような薬局だ。子供の頃から知ってる相手だからこそ、具体的な商品名など一度も出さずに買い物できる。
だからこそ、村の人間は避妊具など恥ずかしがらずにここで買うのだ。

「いやー、困るわ。つねちゃん」
「そうやな」

 愚痴の分量に比してなかなか出てこない頭痛薬を待ちながら相槌を打ち、ようやく紙袋にそれが入ったのを見て典生は安心する。
原因はともかく、頭は現実にいたいのだから包装などいらなかったのだが。

「あ、そういや」
「ん?」
「お盛んやねあいかわらず」
「今日は買わんよ」

 薬と同じように、名前も出ないコンドームの話題だと互いに悟る田舎特有の会話。だが。

「昨日?一昨日?えらく買ったやん」
「買ってねえよ」
「買ったって、ももちゃんが。2箱」

 固まってしまった典生に気づかず女店主は話を続ける。数日前百々子がジャージ姿でスキンを買いに来た、2箱買うというのでいいなあと
話すと照れていた、運転できないからあんたが運転席から買わせたんだろう、と。
 きっとその時と同じように、夫が死んでご無沙汰だからあんたら夫婦が羨ましいわぁ、と楽しげにしゃべる女に、典生は自分が挨拶したのか
さえわからないまま、店を出た。

 家を出て30分程度。典生は軽バンの運転席に乗り込み、待望の頭痛薬を飲むのさえ忘れ、どこに向かうかひたすら深く思案した。