「兄さんが『どうしても嫌だ』と仰るなら、遺憾ながらお父さんにお願いするしか有り
ません……………が……」
 「…………『が』?」
 「そうですね、具体的には…………『ぐすっ、頑張ってチョコレートのお菓子を作って、
やっと第一号が完成したので兄さんに食べて頂けますかとお願いしたのですが『お前の作
ったチョコなんぞ食べられるか!』と言われてしまって、仕方なくお父さんに……いえ、
こんな時間になってしまったのは私が不器用で手が遅い所為ですし、兄さんもゲームでお
忙しいので兄さんを責めないであげて下さい。本当は私も兄さんに美味しいって言って頂
きたかったのですが私が至らないばかりに……ううっ、兄さんは悪くないんです。私の要
領が悪いから嫌われただけで兄さんに罪は』」
 「何勝手に誇張してんだおい! ジャロ(公共広告機構)に訴えんぞゴルァ!?」
 しかも親父が妹の言い分のみを信じる可能性が100%近いのが非常に拙い。自分で言
うのも何だが日頃の素行の違いから、この家のヒエラルキーにおいて俺の信用度は妹のそ
れと比較して非常に低位置なのだ。
 「誇張ではなく演出といってください。お仕事でお疲れのお父さんに気持ち良く食べて
頂くには不可欠とも言うべき必要悪の範疇です」
 「……だったら俺を起こす時にも少しは演出を加えろよ……」
 というか俺の負担とか心労とかが最初から因数外なのはどうよ?
 「兄さん向けの演出ですか? なら、そうですね…………」
 「………………………」
 「……とか何とかやっている問答の時間も惜しいと思いませんか兄さん?」
 「面倒だからって考えるの放棄しただけだろ今!?」