「とにかく兄さんが食べてくれさえすれば万事解決なんですから早く召し上がって下さ
い。兄さんだって時間の浪費は不本意でしょう?」
 「だから、それをお前が言うな……」
 なんか色んな意味でドッと疲れてきた俺は渋々ながら妹の勧める椅子に腰を降ろし、妹
が差し出したナイフとフォークを……
 「……って、なにゆえチョコをかじるのに食器が居るんだ?」
 「ああ、言い忘れていましたがケーキです。表面をチョコレートでコーティングしてあ
りますけど中身はビターチョコを混ぜたスポンジケーキなんです」
 「……随分と手が込んでるな……」
 しかも、よく見るとカット前の丸いケーキ(ホールっつーんだったっけ?)並の大きさ
だったりするのな。これって、材料の量も半端ないんじゃないのか?
 「そ、それは……さっきも言いましたけど本命の仕様ですから……」
 つまり明日(正確には既に今日なのだが)になれば、これに更にデコレーションされた
代物である本番仕様品を何処かの野郎がプレゼントされる訳か。このサイズじゃ下駄箱と
か机とかには入らないだろうし当然ながら手渡し。この見栄えだけは悪くなくて無駄に胸
がデカい妹が嬉し恥ずかしで真っ赤になりながら『これ、私の気持ちです』とか何とか宣
って、挙句の果てに『ど、どうぞ?』とか言いながら自分で切り分けて一口ずつ他の野郎
の食べさせてやったりするのか、この妹が?
 「…………あの、兄さん? 私の顔に何か付いてますか?」
 「な、なんでもねーよっ!!」
 「そこで逆ギレされる理由が全く理解できませんけど?」