バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第8部
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常に【sage】進行でお願いします
※ルート分岐のお知らせ
前スレ>>238「生きてこそ」以降、3ルートに分岐することとなりました。
ルートAは従来通りのリレー形式に、
ルートB、Cは其々の書き手個人による独自ルートになります。
経緯につきましては、新・総合検討会議スレの886以降をご参照ください。
(ルートC)
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、果し合いに臨む】
【備考:全員、首輪解除済み】
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3 → F−7 隠し部屋】
【ランス(元02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:斧、鍵(←野武彦)、カスタムジンジャー(←共有物)】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨数本にヒビ(処置済み)・鎧破損】
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3 → C−4 隠し部屋】
【魔窟堂野武彦(元12)】
【所持品:454カスール(残弾 3)、鍵×2、斧(←共有物)、
軍用オイルライター、ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング
カスタムジンジャー(←共有物)】
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3 → F−5 隠し部屋】
【広場まひる(元38) with 体操服】
【所持品:グロック17(残弾16)(←共有物)、せんべい袋(残 17/45)、
鍵(←野武彦)、簡易通信機・小(←野武彦)】
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3】
【ユリ―シャ(元01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:スペツナズナイフ、フラッシュ紙コップ】
【月夜御名紗霧(元36)with ナース服】
【スタンス:状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:グロック17(残弾16)(←共有物)、金属バット、ボウガン、対人レーダー】
【備考:下腹部に多少の傷有、性行為に嫌悪感(大)】
【小屋の保管品】
[武器]
指輪型爆弾×2、レーザーガン、アイスピック、小太刀、鋼糸、斧×3、鉈
[機械]
解除装置、簡易通信機・大、分機解放スイッチ、プリンタ
モバイルPC、USBメモリ、簡易通信機素材(インカム等)一式×3
[道具]
工具、竹篭、スコップ、シャベル、メス、白チョーク1箱、文房具、
謎のペン×15、メイド服、生活用品、薬品・簡易医療器具、手錠×2
[食品]
小麦粉、香辛料、干し肉、保存食、備蓄食料
【タイトル:SP01:『世色癌』〜優しい俺様〜】
(ルートC:3日目 PM01:30 D−7 村落・民家)
(ちょっとサイズ合わないけど、しょうがないよね)
姿身に映る自身の姿を評価して、溜息をつくのは仁村知佳。
手にした若草色のサマーセーターを身に合わせての感想である。
抱いた感想は的を射ており、着衣のサイズが幾分その身に余っていた。
上半身にはクリーム色のブラウス、下半身には純白のミニスカート。
下着も合わせて、つい先ほど、民家の箪笥の中から拝借したものである。
それまでの着衣は、足元に脱ぎ捨てられていた。
既に衣服としての体を為していなかった。
その全てが千切れ、捩れ、血液で変色していた。
全てが透子との戦いで、自らが流した血液である。
推し量るに、致死量と言わずまでも、
ICU入りは間違いない出血量であると見受けられた。
しかし、その割には。
知佳の血色は、決して悪くない。
グロックに穿ち抜かれた腹部の穴も、既に塞がっている。
魔剣カオスに袈裟斬りにされた肩から胸にかけての裂傷にも、瘡蓋が張っている、
透子からの餞別・素敵医師の薬品群と、背中の羽根による光合成。
それらの相乗効果が、知佳の疲弊を大いに回復させていたのである。
(ぴったりの服は無かったけど、着替えはこれでおしまい。
あとは恭也さんたちを探さないといけないけど…… どこにいるんだろう?
主催者たちの情報、早く伝えないといけないのに)
知佳は、考えを改めていた。
今の彼女は、恭也たちと合流する心算でいた。
透子が戦意を明確に表し、ザドゥと芹沢も目覚めたであろう現在。
いかなXX念動能力者・知佳とはいえ、主催者たちを一人では殲滅し得ない。
複数人で。
一気呵成に。
シェルターを攻め落とすことが肝要であると、知佳は考えた。
で、あれば。
自分を庇って怪我をした、恭也に合わせる顔がないなどと言っては居られない。
心の乱れが、力の暴走が、などといじけている余裕は無い。
優しさや臆病さを前面に出している場合ではない。
(時間が経てば経つほど、戦いは厳しくなる。
ザドゥと芹沢が回復してしまうから)
死闘に次ぐ死闘、裏切りと別離。
それらの経験によって一皮剥けたと言うべきか。
それとも何かが欠落したと言うべきか。
変化についての評価は、現時点では下せない。
ただ、はっきりと言える事は。
優しいだけの少女はもういないことと、
覚悟を持った戦士がここにいることである。
(花園からここにくるまでの間に、東の森の焼け跡は通って来た。
村の中にも誰もいない。
どこに居るんだろう…… 西の森か、港のほうか、山のほうか……)
結局はぶかぶかのセーターを身に付けた知佳は、
行く先について思案しながら、民家から村落へ。
そこで、ばったりと。
「知佳ちゃん?」
「ランスさん!」
カスタムジンジャーを楽しげにぶいぶい言わせているランスと、
舗装道路と村落の交差点にて、鉢合わせたのであった。
「やあ知佳ちゃん、生きてたんだな! よかったよかった」
「……」
親しげに片手を上げるランスが歩み寄る分だけ、
訝しげに眉根を寄せる知佳が後ずさる。
それもやむない話である。
なぜなら知佳は、ランスと恭也が手を組んでいることを知らぬ。
彼女にとってのランスとは。
知佳と性交渉を持ちたい一心で恭也に切りかかった男であり
同行と協力の申し出を踏みにじった男でしかなかった故に。
殺人鬼。
強姦魔。
そうとしか捉えられぬ行動であった。
危険人物というほか言葉は見当たらぬ。
「前に会ったときより元気になった感じだな。うん、グッドだ!」
「……っ!」
知佳が自分と距離を措こうとしていることを察したランスの歩みが、
大股なものとなる。
知佳はその動きを受けて、身を翻した。逃げ出した。
「待て待て知佳ちゃん!」
ランスが知佳を止めるべく伸ばした手は、彼女に触れる手前で弾かれた。
念動力の柔き大盾・サイコバリアである。
「うぉっ!? なんだこりゃ?」
ランスもまた、知佳の変化に目を見張った。
ランスの知る知佳とは、一人で歩くのもままならぬほど弱々しく、
可憐で清楚な病弱お嬢様でしかなかった。
しかし、今の知佳は。
灰色の翼をその背に生やしており、謎の半透明の膜を前方に展開していた。
その跡は見当たらぬが、うっすらと血の臭いすら漂わせていた。
しかも、物騒な目で、強気な警告を浴びせるのである。
「あなたと今、戦うつもりはないから、放っておいて」
ランスには分かった。知佳の目を見るだけで判った。
この少女も又、この数日で相当の修羅場を潜り抜けてきたのであろうと。
ここまで生き残り、勝ち抜けるだけの力が備わっているのであろうと。
そこまで分かっていて、尚。
ランスは知佳を見過ごさなかった。
「まあまあ、そんなツンケンするな、知佳ちゃん。俺様と恭也は和解したぞ?
バット使いの紗霧ちゃんや、魔窟堂のジジイ、おかまっ子のまひるも一緒だ」
「うそ……」
知佳はこの場から転進する決意を固めていた。
しかし、ランスの口から発せられた内容が、彼女の足を地面に縫い付けた。
恭也たちとの合流こそ、知佳の目下の目的であるが故に。
その彼らと目の前の暴漢が同行しているというのであれば、
知佳はランスの存在を無視出来ぬのである。
「いやいや、ホントホント。俺様は、あいつらを部下にして、
悪い主催者どもにかっこよく立ち向かっているんだぞ!」
そこで、曇りなきがはは笑い。
知佳にはランスの言は信じられぬ。
しかし確認する術は持っている。
「本当に、恭也さんと一緒にいるの?」
注意深く歩み寄り、バリアを展開したままで。
知佳はランスの裾をそれとなく握る。
「まあ…… うん」
ランスは歯切れ悪く、目を逸らして答えた。
それが嘘でないことを、知佳は読心で読み取った。
それが隠し事なのだと、知佳は読心で読み取った。
【ひでえ怪我で意識不明……てのは、黙っててあげたほうがいいんだろうなぁ】
「酷い怪我って!?」
知佳はランスに詰め寄った。
その勢いにランスは若干飲まれてしまい、問われたことを正直に答えてしまう。
若干の違和感を覚えつつ。
「ゴツい銃で撃たれた後、傷口を焼いたらしいな。そこが膿んで、な」
【あれ? 俺様、怪我のこと言ったっけか?】
「あの時の……!」
その怪我は、知佳も知っていた。
知佳を庇った故に穿たれた傷である。
知佳の癒えぬ疵でもある。
胸が痛む。締め付けられるように。
その後悔と逃げ出したい気持ちを押さえつけて、
知佳はランスへの確認を継続する。
「お薬は? 化膿止めとか止血剤は?」
「そんなものよりも、だ。
実は俺様、世色癌といういいモンを手に入れてな」
「せいろ、……がん?」
既にランスは、マンホールに偽装したシークレットポイントから、
世色癌の10粒を回収していたのである。
その上、ちゃっかり一粒を飲み込んで、己の傷ついた肋骨と、
失われた体力を完全に回復させていたのである。
「回復量は多くないが、どんな状況でも体力を回復させ……」
【ちょっと待て…… ん!? 来た! ピーンと来たぞ!】
ランスが口篭もり、思案を働かせる。
知佳の胸中に広がるのは、悪い予感の分厚い雨雲であった。
予感は即座に事実の裏づけを得た。
【これ上手くすれば知佳ちゃんとエッチできるんじゃねーの?】
知佳の表情に露骨な軽蔑が宿ったことにすら気付かず、
ランスは欲望塗れの卑怯な取引を持ちかける。
「そーだなー。知佳ちゃんが一発ヤらせてくれたら、
この大事な世色癌を一粒、恭也のヤツにくれてやろう」
【うへへへ。これは知佳ちゃんも断われないだろう?
なにせ最愛のお兄様が助かるかどうかの瀬戸際なんだからな!】
知佳は落胆し、憤慨した。
(結局、それなんだ。この人には、それしかないんだ)
ランスが恭也と同行していることが事実であった故に、足を止めた。
主催者と戦う意志を見せたが故に、遠慮があった。
しかし、その仲間の命を盾にして下劣な取引を仕掛けるような、
野卑な下種でしかないというのならば―――
(―――奪う)
知佳の目が爛と輝く。
テレキネシスを引き絞り、急所に無遠慮に叩き込もうと、意識を集中する。
そんな剣呑な知佳の思惑にまるで気付かぬどころか
そもそも念動の全貌も知らぬランスは、暢気なことに、
己の欲望を全開にして、さらなる脅し文句を重ねてゆく。
「いやー、これを手に入れるのには苦労したんだぞー」
知佳の狙いは心臓直上。
至近距離からのハートブレイクショットを打つ算段である。
「それを知佳ちゃんにあげようっていうんだ、俺様って優しいだろ?」
スケベ心に正常な嗅覚を鈍磨されているランスは、
下卑た笑顔で、知佳の肩をぎゅっとつかんだ。
その接触した肩から強烈に、ランスの本音が伝わってきた。
【まあ断わられても恭也に世色癌はやるつもりだがな】
その、一回りして意外な本音に、知佳は動揺する。
集中力が乱れ念撃は不発となり、力が萎んでゆく。
(―――え? どういうこと!?)
ランスは傍若無人な男である。
唯我独尊の男である。
それでも、世の男の全てを敵視しているのかというと、そうでもない。
「知佳ちゃんがうんと言わないなら、俺様がぜーんぶ飲んでやろうかなー?」
【というか、元々恭也の為に探しにきたようなもんだし】
可愛い女の子に比べて優先度が著しく低いことは通底しているが、
認めざるを得ない相手は認めるに吝かでないし、
上から目線とはいえ、同胞意識も抱くのである。
「ぶっちゃけ俺様は、ヤローの命なんてどうでもいいしな」
【あいつはこんなところで死なせるには惜しいヤツだ】
例えば、ランスが一目置いている部下の一人、
リーザスの赤き死神と呼ばれる青年将軍、リックなどは、
ランスお気に入りの女親衛隊長、レイラとの交際すら
認められているのである。
「だいたいケイブリスと戦ってるときも、俺様はかっこよく斬り込んだのに、
あいつは後ろのほうからぽいぽいと石ころを投げてただけだったしな」
【俺様が今こうして元気でいられるのも、
恭也のヤツがケイブリスの動きをうまく御してくれたからだしな】
ともに命をかけて、背を預けあって戦えば、それは戦友。
相手が強く、頼もしいければ、なおのこと信頼は強固になる。
「それに……」
【それに……】
気付かぬうちに九死に一生を得たランスが、知佳の瞳をじっと見つめる。
知佳もその瞳を覗き返し、ランスの心の囁きを汲み取ることに集中する。
「いなくなっても俺様は全然困らんわけだ、知佳ちゃん?」
【石頭でうっとおしいところはあるが、嫌いじゃないぞ、うん】
知佳の肩に置かれたランスの手が、首筋経由で頬にスライドした。
いやらしさ全開の動きであった。緩やかに性感を刺激するための指捌きであった。
だが、知佳は顔を顰めない。伸ばされた手を振り払わない。
ランスが『取引』を持ちかけている間は、これ以上の性的刺激を
与えてこないであろうと、半ば確信したが故に。
(この人は、敵じゃない)
なんとしても知佳と性交渉を持ちたいという気持ちも本心ならば、
恭也を気遣い、助けたいという気持ちもまた本心。
相反するようで実は両立している言葉と心理のギャップを飲み込んで、
知佳はランスへの評価を改めた。
決して善人ではない。かといって悪人でもない。
ランスとは、スケールの大きなやんちゃボウズであるのだと。
(だったら、話し合いで済ませよう)
知佳は思い出す。
ランスとの初邂逅時に自分が取った行動を。
力の反動で心身共に衰弱窮まり、自力歩行すらままならなかった知佳が、
唯一残った読心を駆使して、ランスの情婦たるアリスメンディを誑かし、
まんまと恭也との戦場離脱を成功させた前例を。
やるべきは、それと同じ。
ランスの心を読みつつ、会話を有利な方向に誘導する。
「私、わかってるよ。そんな意地悪を言ってるけど、
本当はランスさん、優しい人なんだって」
極上の、媚びた笑みで以って、知佳はランスの手を握り……
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
【……どうしてこうなった?】
しきりに頭を捻りながら、ランスは二粒の世色癌を知佳に手渡した。
知佳はにっこりと微笑んでそれをピルケースに収納した。
「恭也が寝てる小屋は、西の森の浅いとこにあるから。
空飛んでりゃすぐに見つかると思うぞ」
結局、取引は不成立であった。
ランスにとって誠に不本意ながら、性交渉の確約を取り付けることなく、
知佳に世色癌を譲渡することとなってしまった。
「ありがとう、ランスさん」
相手が悪過ぎた。
読心能力者に、恭也を助けようという思いを見透かされた以上、
ランスに勝ち目は万に一つもなかったのである。
「でも、二粒だけ?」
「まあ、今の怪我を乗り切るにはそれで十分だろ。
今後の戦いのことを考えるとな、無駄遣いはできんのだ」
【透子ちゃんとの戦いで、何粒かは絶対に必要になるからな】
ランスの言葉と思いが一致していた。
口調と眼差しもまたシリアスであった。
「うん、そうだね」
既に、知佳は自分が恭也らと離別してからこちらの小屋組に発生した
おおよその情報を、ランスから巧みに引き出していた。
果し合いのことも、その後の透子の警告のことも、読んでいた。
故に、知佳は食い下がらず同意した。
「ありがとう、ランスさん。あなたが優しい人で、よかったよ」
「俺様の優しさにぐらっと来たか? いつでも乗り換えていいんだぞ?」
【ま、いっか。俺様を優しいとか勘違いしてるみたいだし。
じっくり時間をかければそのうち和姦もいけるだろ!】
「んと、あはは……」
知佳は笑って誤魔化した。心は既にここに無い。
西の森の外れにある小屋へと、そこに眠る恭也へと飛んでいた。
早く会って、早く世色癌を飲ませたい。
想いの全てはその一色に染まっていた。
「紗霧ちゃんに伝えといてくれ。
斧も鉈も、どうもしっくり来ないから、
ケイブリスの爪を毟ってくるってな」
「うん、わかったよ」
知佳は軽く頷くと、ランスに背を向け、背中の羽根を羽ばたかせた。
砂埃を巻き上げて、浮揚。
旋回、飛翔。
燕の勢いで西の森へと飛び去る知佳の背へと、ランスが言葉を贈った。
「知佳ちゃん、ナイスパンツ!」
「……」
知佳無言のツッコミは軽微な念動波であった。
ランスはそれに膝裏を叩かれて、かっくんと転倒した。
↓
(ルートC)
【現在位置:E−7 舗装道路・交差点 → E−5 耕作地帯】
【ランス(元02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す
@ケイブリスの死体を漁り、爪(武器になるんじゃねーか?)を回収する】
【所持品:斧、鍵、カスタムジンジャー、世色癌×7(New)】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:鎧破損】
※世色癌を一粒飲んで、怪我は完治しました。
【現在位置:E−7 舗装道路・交差点 → D−6 西の森・小屋3】
【仁村知佳(40)】
【スタンス:@小屋組に合流し、恭也に世色癌を飲ませる
A手持ちの情報を小屋組に伝える
B手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める】
【所持品:テレポストーン×2、まりなの手帳、筆記用具とメモ数枚
世色癌×2(←ランス)】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(小)、脇腹銃創(小)、右胸部裂傷(中)】
【備考:手帳の内容はまだ半分程度しか確認していません】 【タイトル:SPI-02:『地下シェルター』〜終身願望保険(掛け捨て)〜】
(ルートC:3日目 PM02:00 J−5地点 地下シェルター)
シークレットポイント、02。
スペシャルアイテム、02。
あらゆる天変地異から内部を守る地下シェルター。
智機はそこに、独りであった。
心理的な意味合いのみならず、
空間的な意味合いにおいても。
ザドゥとカモミール芹沢は新鮮な空気と日光を求め、シェルターの外に出ていた。
カオスは芹沢に担がれていった。
御陵透子は、情報収集と監視と警告に赴いていた。
故に、シェルターの中にいるのは彼女のみなのである。
この状態になって、既に一時間余。
椎名智機はずっと検討している。
【自己保存】の欲求を満たしつつ、願望を成就させるための方法を。
(……ザドゥ殿だ。何を於いても、ザドゥ殿だ。
果し合いの勝利は大前提として。
その結果に於いて、彼だけには生存していて貰わねば、
私の願いは叶えられないのだから)
優勝によるゲームクリア時にての生存主催者のうち、
一名の願いを『叶えない』というχ−1のペナルティ。
願望成就の放棄を宣言しているザドゥがその時点で残存していなければ、
残りの生存者との間で貧乏籤の押し付け合いになるは必定。
その局面が訪れた場合、智機は自ら進んで願望を放棄することとなる。
なぜならば、彼女の最優先事項は【自己保存】。
自らを害しようという相手との戦いは、不可能である。
人間になる―――
智機が抱えるその願望を叶える為には、
前述の彼女の思案どおり、ザドゥを生き残らせることが必須となる。
(But、私の演算では、ザドゥ殿生存の可能性は五割弱。
果報を寝て待つには極めて分が悪いと言わざるを得ないね。
手を拱いて見ている訳にはいかないな)
無論、智機は何も手を打たずにいる心算は無い。
果し合いを止めることはもう不可能であるにしろ、
小屋組への事前準備や離間工作、或いは果し合い時の後方支援等、
ザドゥ生存確率を高める為の策略は十指に余る。
しかし、ここでもまた。
(【自己保存】。全く忌々しきは設計思想の愚かさよ!
この本能を封じねば、自分には何も出来ないのだから!)
結局は、そこなのである。
同僚の悉くに自らの主張が封殺されている今、
事態に介入する為には、己の体にて出張る必要があるのだが、
トランキライザと機械の本能を沈黙させぬ限り、
それすら不可能なのである。
膝を抱えて震えているしかないのである。
【こころ】の封印を解く。
何にも先んじて智機が為さねばならぬのは、それであった。
そしてそれは、彼女単独では為し得ぬことでもあった。
(透子様と交渉するしかあるまい)
透子は恐ろしい相手である。
決して逆らえぬ相手である。
しかし裏を返せば、それほど頼りになる相手でもあった。
また、感情に支配されているザドゥや芹沢と違い、
今の透子は機械の思考ルーチンを持っている。
であれば、理で以って説得は可能。
その判断で智機は彼女なりの覚悟を決めて、透子へとIMを投じた。
================================================================================
T−00:透子様、お願いがある。今後の戦局を左右するとても重大な頼み事だ。
================================================================================
数秒と待たずに、レシーブは来た。
================================================================================
N−21:ほわっと?
================================================================================
少なくとも交渉に乗る気はありそうだと智機は判断し、
冗長を嫌う透子の機嫌を損なわぬよう配慮しながら、
智機は用件を短く纏め、打電する。
================================================================================
T−00:小屋組が入手した、分機解放スイッチを掠め取ってきて頂けないだろうか?
T−00:透子様の瞬間移動があれば、造作も無いことだろう?
N−21:のー。その行動は果し合いのルール3に抵触する。
================================================================================
(ここからが勝負だ……)
ここまでは、只の前振りである。
ここからが、交渉の開始である。
智機は理を述べねばならぬ。以って透子の考えを否定せねばならぬ。
その結果、直接、生命の危機に至ることはないと演算はされているが、
そこに生じるであろう透子の自分に対する評価の減算は疑い様が無い。
智機のトランキライザが恐怖感を丸めるべくうなりを上げる。
冷媒が体中を駆け巡り、クロック周波数が引き下げられる。
無意識に、深呼吸。一度、二度。
腹を据えた智機が、仮想キーボードのエンターキーを打鍵した。
================================================================================
T−00:ルールとは小屋組に課されたものだろう?
================================================================================
またしても、返答は簡潔にして即座であった。
================================================================================
N−21:のー。相互に課されたもの。私も従う義務がある。
T−00:流石は透子様だ。その義理堅さと高潔さには感心せざるを得ない!
T−00:そしてまた私も、自身の陰謀気質を大いに恥じ、反省しよう!
================================================================================
透子の再反論を受けた智機は即座に己の意見を取り下げた。
取り下げて謝罪し、おべんちゃらを使い、反省して見せた。
結果、透子のIMは止んだ。
不快や遺憾の意は打電されてこない。
(Yes、山場は乗り切った!)
そこまではシミュレートできていた。
これが拒否されることは高確率で予測が立っていた。
そして、ここからが。
智機の真の頼みごとであった。
================================================================================
T−00:では、私のトランキライザの常駐を解除して頂けないだろうか?
T−00:それならば、ルールへの抵触はないだろう?
================================================================================
智機は把握していた。
御陵透子の共生する機体N−21から、トランキライザが常駐解除されていることを。
レプリカの最優先事項、【ゲーム進行の円滑化】が、今は無効化していることを。
透子は推測していた。
それらは、透子の本性、思惟生命体の働きによって選択的に為されたことであろうと。
思惟生命体は、自分にもそれを為すことが可能であると。
分機解放スイッチに拠らずとも、【こころ】を取り戻すことは出来るのである。
智機は、そこに、気付いたのである。
================================================================================
N−21:のー。
================================================================================
透子は素気無く無下に否定した。
理由すら語ることなく却下した。
================================================================================
T−00:Why? よければその理由をご説明いただけないだろうか?
N−21:怯える智機はいい智機。頑張る智機はダメ智機。
N−21:だって、あなたは保険だから。ザドゥが死んだら必要だから。
================================================================================
透子が考えていたのも、智機の危惧に同一であった。
しかし透子はザドゥの死すら包括して検討していた。
χ−1。
ザドゥが敗北死した場合、願望没収の対象を智機に切り替える為に、
お前には最後まで生きる義務があるのだと、
透子は願望成就にかける冷徹な情熱を、開示したのである。
================================================================================
N−21:あなたは私に逆らえない。それを私は知っている。
N−21:あなたは誰とも争えない。それも私は知っている。
N−21:それは貴女の【自己保存】の欲求に拠るもの。
N−21:だから【自己保存】の枷を外すことは、私にとってマイナス評価。
================================================================================
自分に逆らう可能性をゼロにする為に。
独自に行動する可能性を封殺する為に。
透子は決して、智機に【こころ】を取り戻させない。
明確な宣言であった。
透子は、智機の予想より遥かに冷静で冷徹で容赦無かった。
智機は透子の理と決意を目の当たりにして交渉を断念した。
そしてまた。
智機が断念したのは、交渉のみでは無かった。
(私は、もう…… 人には、なれないのだね……)
願望の成就すら、運に任せざるを得なかった。
こうなっては、もう、智機はシェルターから出ることは出来ぬ。
安全な地下室に土竜の如く引きこもり、
ただただ命を心配し、怯え続けることしかできない。
ザドゥが生還することを神に祈りつつ、
壁に向かって恨み言を呟き続けることしかできない。
(恨めしい…… この機械の本能が。
意のままに行動できぬは愚か、意すら意のままに発せぬとは)
それでも、そこまで追い詰めても。
まだ、追い詰め足りぬと言うのか。
「出して」
透子はシェルターに転移してきた。
項垂れる智機に手を伸ばしてきた。
「Dパーツ」
Dパーツ――― それは、智機に神が下賜した前報酬。
あらゆる機構と智機とを融合させることのできる、魔法科学の奇跡の結晶。
非力な女学生レベルの運動能力しか持たぬ智機を、
戦場の魔王レベルにすら引き上げることのできる、大逆転の至宝。
「このままじゃ」
「宝の持ち腐れ」
但し、オリジナル智機にそれは使用できぬ。
【自己保存】の本能で生き死にのかかった戦いに参加できぬ彼女には。
メインメモリに分機への指揮領域が固定確保されている彼女には。
【こころ】なき智機には。
決して、換装できぬのである。
故に、透子の発言と行動は。
全く正しい判断なのだと、智機の論理演算回路は解を返さざるを得なかった。
「……果し合いの役に立ててくれ給え」
その解に従って、透子に逆らわぬという本能に従って、智機は。
抵抗することなく。
嫌な顔すら作れぬままに。
己に残された最後の可能性・Dパーツを、透子に引き渡した。
「大事な体」
「労わって」
赤い魔法金属を両手で抱えて消えてゆく透子が、
無表情の智機に声をかけた。
それは思いやりとねぎらいの言葉であった。
言葉面だけを捉えるならば。
シークレットポイント、02。
スペシャルアイテム、02。
あらゆる天変地異から内部を守る地下シェルター。
智機はそこに、独りであった。
↓
(ルートC)
【現在位置:J−5地点 地下シェルター】
【グループ:ザドゥ・芹沢・透子】
【スタンス:待機潜伏、回復専念
@プレイヤーとの果たし合いに臨む】
【刺客:御陵透子(N−21)】
【スタンス: 願望成就の為、ルドラサウムを楽しませる
@果たし合いの円満開催の為、参加者にルールを守らせる】
【所持品:契約のロケット(破損)、スタンナックル、カスタムジンジャー、
グロック17(残弾17)、Dパーツ(←智機)】
【能力:記録/記憶を読む、
世界の読み替え:自身の転移、自身を【透子】だと認識させる(弱)】
【刺客:椎名智機】
【所持品:スタンナックル、改造セグウェイ、グロック17(残弾17)×2】
【スタンス:【自己保存】】
【タイトル:SPI-03:『木星のブルマー』〜初めにブルマーありき〜】
(ルートC:3日目 PM02:30 D−6 西の森外れ・小屋3)
この世に、有り得ないは有り得ない。
―――初めにブルマーありき
神がブルマーを元に天地創造した。
そんなけったいな世界が、確かにあった。
亡き常葉愛の出身世界の話である。
―――ブルマーは神と共にありき
―――ブルマーは神であった
月夜御名紗霧がUSBから発掘したアイテム管理ファイル。
その「木星のブルマー」の項は、天地創造の壮大な一節から始まっていた。
紗霧は目をこすり、再び読みかえす。
―――初めにブルマーありき
―――ブルマーは神と共にありき
―――ブルマーは神であった
「ええ、と……」
何度読み返しても、文面に変化は無かった。
「ユリーシャさん。ちょっとここの文章、音読していただけます?」
「初めにブルマー……」
「了解です。おっけーです。飲み込みましょう」
そこまでして、紗霧はようやく己の目に狂いが無かったことを認めた。
―――地球にブルマーをもたらしたブルマー星人
―――地球を包むブルマニウム粒子
「ユリーシャさん。ちょっとここの文章、音読していただけます?」
「地球にブルマー……」
「了解です。おっけーです。次行きましょう」
―――地球全土のブルマー化を目論む悪の集団「BB団 ビッグブルマー団」。
―――世界のブルマーバランスを監視する国際機構「MIB ブルマーの男たち」。
―――この影の二大組織が血眼で奪い合う「神のブルマー」。
「ユリーシャさん。ちょっとここの……」
「紗霧殿、戦うのじゃ、現実と」
―――「神のブルマー」とは古代の超兵器である。
―――存在が確認されているのは二着のみ。
―――「常葉愛」が装着する「月のブルマー」。
―――BB団のブルロイド「B」が装着する「木星のブルマー」。
「諦めがついたら、なんだか楽しくすらなって来ましたね」
「いい按配に頭が茹だった、なんとも胸躍る設定じゃな!」
「そうですか……? 恥を知らない世界だと思います」
それから10キロバイト少々。
木星のブルマーに関する、無駄に壮大な一通りの資料を読み終えた紗霧は、
目眩めく偏執的なくだらなさに心底辟易し、深い溜息をついた。
しかし、半信半疑ながらも、その秘めたる強大な力は、理解できた。
木星のブルマー。
それは、世界を滅ぼす破壊の力にもなり。
それは、世界を慈愛で満たす力にもなり。
神の隣に座る資格すら得ることができる。
この記載にもまた、偽りが無い。
古代に栄えた二大大陸文明を滅ぼしたブルマー裾入れ派と裾出し派の戦い―――
エンシェント・ブルマゲドン。
その始まりを担ったのが神のブルマーならば、
その終わりを担ったのも神のブルマーであった故に。
無論、参加者・常葉愛が装着していた「月のブルマー」の如く、
或いはアズライトやイズ・ホゥトリャの如く、
このアイテムもまた、金卵神によって何らかの制限は課されているであろう。
それでも、チートといえば、この上なきチートアイテムである。
と、そこまでは良かった。
問題は、テキストの最後に記されていた「適格者」の項目であった。
「……」
「……」
黙して瞳を交わす、紗霧とユリーシャに、
わざとらしい咳払いをしつつ、狼狽を隠せぬ野武彦。
「ううむ…… おほん、ごっほん」
全く残念なことながら。
神代より伝わる超兵器の神秘に触れる資格を、紗霧は有していなかった。
隣に座るユリーシャにしても、同様である。
だが、この居心地の悪い空気は、落胆による物では無い。
羞恥によるものであった。
―――純潔であること。
そうして、生存者を俯瞰してみれば。
仁村知佳とて、思いを寄せる異性と望まぬ契りを交わしているし、
童女しおりに至っては、生存者の誰よりも性経験が豊富であった。
又、主催者サイドに目を移しても。
カモミール芹沢は多情で鳴らした徒女(アダージョ)であるし、
椎名智機もレイプに近い強引な手管で処女を散らされている。
透子は【御陵透子】であった頃の肉体は全き乙女ではあったものの、
仮衣である椎名智機のレプリカは純潔を失った後の智機を基盤に作られている。
誰も彼も揃って非資格者であった。
「どうしたもんですかね……?」
「あの…… 恭也どのなんて、どうじゃろか?」
純潔とは、処女のみとは限らぬ。
童貞もまた一つの純潔であると、野武彦は考えたのである。
残念ながら恭也もまた、知佳を相手に資格を失っているのであるが、
そのことを知る者はここにいなかったし、
彼の言動のそこかしこに見られる初心さやお堅さから、
きっとそうなのであろうと、皆がなんとなく察していたのであった。
とは言え。
「想像させないでください、この倒錯ジジイ!」
「それを提案してしまうあなたの心根を軽蔑します」
言葉に誘発されて想像してしまった絵面の洒落にならなさに対して、
乙女たちは立腹し、野武彦を鋭く責めた。責め抜いた。
そうして数分。
冷や汗で下着が絞れるほどに塗れている野武彦の窮地を救ったのは、
ここのところ気の合うそぶりを見せ始めた、相方であった。
「あったよー!」
煤と灰に塗れた真っ白で真っ黒な顔ににっこりと笑顔を浮かべ、
その手に、サイドラインの入った小さな濃紺のブルマを握って。
もとい。
ビニール袋の中に入れて。
広場まひるの帰還である。
シークレットポイント、03。
東の森の木の一本に、小鳥の巣箱に偽装してあったそこは、
昨晩の火災で、消し炭になってしまっていた。
通常のアイテムであれば、巣箱と同じく燃え尽きていたであろう。
しかし、そこにあったのは神の手になるオーパーツ。
業火を物ともせず、焦げ付き一つつく事は無く。
輝きすら放ち、まひるの到着を待っていたのであった。
「「「居た!!」」」
まひるの華奢な体操着姿と、袋詰めの超兵器を見て、野武彦たちの心が一つになった。
「お? お? 声が揃っちゃうほどあたしの顔が見たかった?」
勘違いしたまひるが、笑顔全開でてとてとと野武彦に駆け寄る。
その脇から、ぬうと黒い影が手を伸ばした。
月夜御名紗霧である。
「とりあえずジジイは外に出てなさい。ここからは乙女会議です」
「うむ、心得た。後は任せたぞい、軍師殿。
というより、まひるちんが帰ってきたのじゃから、
わしは『神語の書』捜索に向かおうと思うのじゃが?」
「了承です。かのアイテムは最重要アイテム。
是非入手して頂きたい…… ところですが。
何分、崩落後の危険地帯です。
貴方の身の危険を押してまでの調査は不要です。
五体無事で帰ってきなさい、魔窟堂野武彦」
その判断は、野武彦を戦術の駒と見ての発言である。
理の天秤の軽重であり、決して優しさのみから出たものでは無い。
それでも。
その何%かの成分は、確かに紗霧なりの同胞意識から成っていた。
「その命、しかと受けたのじゃ!」
野武彦は奮い立つ。
紗霧に対する篠原秋穂殺害の疑いは、未だ頭の片隅にはある。
しかし、今は。
それよりも、圧倒的比重で。
紗霧への軍師としての信頼感と仲間意識が、勝っている。
「じっちゃん、気をつけてね!」
「いってらっしゃいませ」
「合点じゃ!」
野武彦は人差し指と中指を立てた左手を横に寝かせるとこめかみに当て、
ウインクを決めるや、ビッとその手を突き出した。
それは多分なにかのヒーローの決めポーズなのであろうが、
残念なことにまひる達にその意図は伝わらなかった。
「世代の違い、かの……」
寂しそうに背中を丸めて、野武彦が小屋を後にする。
カスタムジンジャーの軽快なモーター音が遠ざかっていった。
その音が完全に聞こえなくなったことを確認し、
隣室で眠る高町恭也の寝息を確認した上で、
紗霧は、猫撫で声で、まひるに話しかけた。
「さて…… 広場まひる」
「はひ?」
「あなたは、自分が女性であると主張していますね」
「残念ながら世間の風当たりは強いですが」
「世界があなたを否定しても、私は貴女を認めますよ。
あなたは女の子。貴方ではなく貴女。まちがいない」
「広場さんは女の子。だれより素敵な可愛い子」
紗霧の優しい囁きを、ユリーシャが補強する。
腹にイチモツ抱える者同士、意外と息の合うところを見せている。
しかし、腹芸に鈍感なまひるは、彼女らの含みに気付くことなく、
素直に嬉しくなって、調子に乗った。
「でへへぇ…… やっぱり? そう思っちゃいます?
やだなーもー、いくらホントのこととは言え、照れちゃうなー」
「で、純潔ですか?」
「ぶうううっ!?」
紗霧の問いは突然跳ねた。
予想もしない方向に、恥ずかしくてならぬ内容に。
まひるは顔を真っ赤にして抗議する。
「不埒、不埒、極めて不埒っ!!
そーゆーデリケートな問題を尋ねるときは、オブラートに包むってゆーか……
てゆーか、そもそも何でそんなこと聞かれなくちゃいけないのさ!」
「理由はあります。ユリーシャさん、適格者の部分を」
「はい」
ユリーシャはモバイルPCの液晶画面をスクロールさせた。
そこには、木星のブルマーの兵器性能と適格者の条件が表示されていた。
―――ブルマー衝撃波
―――ブルマーミラージュ
―――ブルブレイド
―――ブルマーの輝き
「これなんていい意味で酷いですよ、大陸弾道ブルマー。
NK民主主義人民共和国世襲元首がテポドンミサイルを発射する!」
「なにそれ、ふざけてるの!?」
「それは履かなきゃわからない」
その後も、まひる、黙読することしばし。
読み終わると同時に、諦めたような溜息をついた。
「わかりましたか、大事なことなんです。
答えなさい。あなたのエッチ経験を赤裸々に」
「う…… わかるけど、わかるけどさあ!
だったら紗霧さんとユリーシャさんも言ってよ
あたし一人だけ告白なんて、そんなの恥ずかし過ぎ!」
「私が適格者だったら、いちいちあなたに聞きません」
「ランス様に…… 可愛がって頂いております……」
キレ気味に言い捨てる紗霧。
夢見る瞳で語るユリーシャ。
共に即断。
「ま、まあ…… ピュアであることに、誇りと劣等感をもってるけどさ……」
その勢いに、結局は正直に答えてしまうまひるであった。
「なら決定です。履きなさい」
「……そーくるよね、やっぱり」
可愛くぐずりながらも、まひるは装着に同意した。
どの道体操着。
レギンスからブルマーに履き替えること自体に、さほど抵抗感はなかった。
「履き替えたけど?」
「では、ブルーミングしてみましょう」
「ブルーミング?」
ユリーシャは黙って液晶画面の該当項目をスクロールさせる。
―――ブルーミングとは。
―――装着者の性的興奮を基準とする発汗や発熱、愛液によって、
―――ブルマの内部のムレムレ度を高めることである。
「……」
「……」
「……オカズが必要でしたら、パンチラまでなら協力しますよ?」
「やっぱりオトコのコって思ってんじゃん!!!」
↓
(ルートC)
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、果し合いに臨む】
【備考:全員、首輪解除済み】
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3】
【ユリ―シャ(元01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:スペツナズナイフ、フラッシュ紙コップ】
【月夜御名紗霧(元36) with ナース服】
【スタンス:状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:グロック17(残弾 16)、金属バット、ボウガン、対人レーダー、指輪型爆弾】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷、性行為嫌悪】
【広場まひる(元38) with 体操服 & 木星のブルマー】
【所持品:グロック17(残弾 16)、せんべい袋(残 13/45)】
※木星のブルマーは、まひるが適格かもしれません。
※適格ならばレベル1のブルマー技が使用できる筈ですが、
※ムレムレ度を上げることが至難です。
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3 → C−4 隠し部屋】
【魔窟堂野武彦(元12)】
【所持品:454カスール(残弾 3)、鍵×2、簡易通信機・小、
軍用オイルライター、ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング
カスタムジンジャー(←共有物)、斧(←共有物)】
【西の小屋内・グループ所持品】
[日用品]
スコップ・小、スコップ・大、工具、竹篭、救急セット、薬品・簡易医療器具
白チョーク1箱、文房具、生活用品、指輪型爆弾
[武器]
小太刀、鋼糸、アイスピック、斧×2、鉈×1、レーザーガン、メス
[機器]
モバイルPC、USBメモリ、プリンタ、分機解放スイッチ、解除装置、
簡易通信機・小、簡易通信機・大、簡易通信機素材(インカム等)一式×5、
カスタムジンジャー×2
[食料]
小麦粉、香辛料、干し肉、保存食
[その他]
手錠×2、メイド服、SPの鍵×4、謎のペン×15
【タイトル:SPI-04:『神語の書』〜あなたの知らない世界〜】
(ルートC:3日目 PM04:00 C−4 山中)
「思ったより大規模に崩れておるの…… くわばらくわばら」
ジンジャーを竜神社に乗り捨てて一時間余り。
魔窟堂野武彦は、敵の本拠地跡を発見した。
座標C−4。
島北西部に位置する山岳地帯。
地下に掘りぬかれていた基地は発破により支柱が破壊された為に崩落し、
山肌を巻き込んでクレーターの如く陥没していた。
底は見えず、砂埃は未だ治まっていない。
「なんとしても手に入れたい紙片なのじゃがなあ……
やはりこの崩落に巻き込まれてしもうたかのぅ」
スペシャルアイテム04『神語の書(一枚)』。
03『木星のブルマー』と同じく、USBメモリから読み取ったその効能とは。
―――世界を書き込んだ内容に改変する
御陵透子の【世界の読み替え】に等しいものであった。
否。記入者の任意に改変できるのであるから、それ以上であると言える。
その凄まじき効力ゆえに、たった一枚しか用意できないのであろう。
さて、そのアイテムの現在位置であるが。
野武彦の悪い予想を裏切らず、地盤崩落で地中深くに没していた。
ケイブリスでもいれば掘り起こしも出来ようが、
今の小屋組の力で、小屋組の装備で、それを入手することは、
残念ながら不可能であった。
「残念じゃが、単独では如何ともしがたいのぅ」
足場は不安定。
下に降りるルートも皆無。
その上、いつ二次崩落が発生してもおかしくないきな臭さを漂わせていた。
故に、野武彦はクレーターを降りることを諦めた。
しかし、神語の書の捜索を諦めたのかというと、そうではない。
日没までには、まだ一時間以上の時間がある。
C−4地区の捜索は始まったばかりである。
野武彦は更に山を歩く。
注意深く周囲の岩や地面に目を凝らして、人工物を探しながら。
ごろごろと礫岩が無造作に転がる斜面を、禿げ山を、登る。
「あれは……」
足早に傾斜を登った野武彦がたどり着いたのは、
岩肌をドーム状に開いた、オープンルームであった。
テラスの中央には、巨大な投擲機が鎮座していた。
主催者基地・カタパルト投擲施設である。
この施設のみが崩落を免れたのは、偶然ではない。
二つの理由によって、守られていた。
カタパルトそのものの重量や投擲にかかる運動エネルギーの負荷を考慮して、
足元に空洞が無く、地盤が強固で、基地から距離をやや隔てた位置に
この施設が配置されていたという、設計事情が理由の一つ。
もう一つの理由は、発破の実行犯・レプリカ智機P−22が、
カタパルト投擲にての脱出を安全に成すために、
この施設に影響を与えないよう計算し、爆弾・爆薬を設置したことである。
「シークレットポイントでは、なさそうじゃが……」
呟きとともに、野武彦は室内を調査する。
中心施設であるカタパルトは、磨耗により破損していた。
コンソールも無通電により電源が入らなかった。
その他機器もコンソールに同様であった。
ただ一台。
バッテリー残量があったことが幸いし、ノートPCのみが起動した。
「ふむ、収穫はこれだけかの」
その端末は、代行N−22が拠点崩落の直前まで使用していた端末であった。
管制室の情報集積サーバのミラーリング機であった。
野武彦に奪わせたUSBメモリのデータは、
この中のデータを厳選し、コピーをとったものであった。
つまりは。
N−22の選別から漏れたデータが、そこには眠っている。
N−22が選択的に除いたデータも、そこには眠っている。
その眠れるマシンを。
野武彦は、起こしてしまったのである。
野武彦の知らぬ智機世界のOSが、二十秒ほどで立ち上がる。
デスクトップには、幾つかのモニタリング情報へのショートカットが
整然と並べられていた。
その中に、一際目を引くフォルダがあった。
【死亡者情報】
ドクン。
その五文字を目にした瞬間、野武彦の心臓が跳ねた。
ドクン。
野武彦の額に、脂汗が流れる。
ドクン。
まるで酸欠の金魚の如く、口をせわしなく開閉している。
ドクン。
ちりり、ちりりと。
野武彦のこめかみが、鳴っている。
(知佳殿やアイン殿は生きているのか?)
それを、知ることができる。
それは、大きな収穫である。
だが、ここで得られる情報は。
得てしまう情報は。
決して、それだけに止まらぬ。
(ボウガンの出所は? 秋穂殿を殺したのは?)
野武彦の胸中の奥底に、ずっと眠らせていた思いが、
棚上げしていた疑念が、鎌首をもたげた。にゅるり。
(ここで、軍師殿が秋穂殿を殺しておらぬことを確認できれば。
わしの憂いは全て無くなる。
心底軍師殿を信じ、迷うことなくその指示に命を賭けられる)
月夜御名紗霧の作戦立案・指揮能力は、
巨凶ケイブリスを相手に完璧に証明された。
故に、小屋組はモチベーションが上がっている。
仲間意識が高まっている。
(……そうでなければ?)
恭也の疲弊。透子の監視。
決して順風満帆とは言えぬ現状ではある。
それでも、希望は胸にある。
団結力を以って難局にあたる覚悟がある。
(軍師殿が秋穂殿を殺したことが確認できてしまったら?
その時、わしはどうなる?
迷い無く軍師殿について行けるのか?)
その中心に、間違いなく紗霧がいる。
大小差異はあれど、誰もが紗霧の才に頼っている。
果たして、彼女に信を置けなくなったとき、
小屋組は連合としての形を保てるのか?
(ならば、知らぬままでよい。ままがよい。
疑念は奥底に沈めたまま、ただ眼前の戦いを戦えばよい。
これまでだってそうしてきたのじゃ。
これからも……)
これからもそうするだけ。
野武彦はそう己に言い聞かせようとした。
(これからも……)
しかし、出来なかった。
既に、禁断の果実に触れてしまった故に。
知ることができることを、知ってしまったが故に。
(……)
野武彦は硬直する人差し指をゆっくりと伸ばし。
タッチパッドで矢印ポインタを動かしてゆく。
己の吐く息で白く曇った瓶底眼鏡。
その奥にある瞳の色は、窺い知れぬ。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
「おおっ…… おおっ……」
魔窟堂野武彦が、慟哭していた。
あまりにも深い絶望に捕われて。
『若い命を無駄に散らせぬ為に、我ら老骨がこの身を擲とう』
あの夜の森での誓いを、野武彦は思い出す。
その神聖で熱い男の誓いが、汚されたように感じられていた。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています