ここ最近の芽依は少し変わった。
どこが変わったのか、はっきりと相違点を上げることは出来ない程度だったが真佐樹はそう感じていた。
「あれ? 米田先輩」
真佐樹は芽依が視線を送る方にいる太った女性の姿を見た。
正確に言えば先ほど目配せした時にその存在は目に入っていたはずだが、今初めてそこにいることを知覚した。
「…………………………」
真佐樹が気づいたときには、芽依に米田と呼ばれた女生徒は真佐樹ではなく芽依を見ていた。
厚ぼったいフレームのレンズ向こうで一重瞼の目が少し尖っているように見えた。
「マサキ」
それに気づいたのか芽依が真佐樹を盾にするかの様に腕にしがみつく。
それによって相対的に真佐樹はその太めの女生徒から芽依を守るような立ち位置で米田と向き合う形になった。
真佐樹が、一瞬米田の顔に紅の色が浮かぶのを見た瞬間、その女生徒は後ろを振り向くと小走りに建物の外に走りだした。
腕にしがみついた芽依の口元が意地悪く歪んだことくぉ真佐樹は気づかなかった。
「いい気味……。あなたには渡さない。真佐樹もこの体も」
その独り言は午後の最初の授業が終わったことを知らせるチャイムにかき消された。