(自分はずっと学校の教師に憧れていた)
(けれど、何浪しても教師にはなれずに塾の講師のアルバイトのようなことをして生計を立てている)
(今日は家庭教師として生徒の家に行く日で、お昼過ぎに生徒の家までやってくるとチャイムを鳴らした)

(背は曲がり疲れた感じの表情を浮かべ、タバコの匂いを体に纏わせて家の主が出てくるのを待つ)
(そう言えば、今日は両親が留守でいないって言ってたな)
(この生徒に教えるのは初めてだが、前もってそれは聞いている)
(たぶん本人が出て来るだろうから、親御さんに会うような緊張感はなく、普段通り)
(だが女生徒と会うのも初めてなので、少し楽しみではあった)

(しかし、しばらくしても出て来ない)
ありゃ?もしかしてチャイム壊れてんのかな?
さっきちゃんと鳴った気はしたけど

すいませーん
家庭教師の長谷川ですが、どなたかいませんか
(大きな声で呼びながら、玄関ドアを軽くノックしてみた)

(すると庭にある犬小屋から老犬が出てきて、ワンと一度吠える)
おお、わんちゃんか
よしよし、いい子だな
…今日はご主人様はお出掛けでもしてるのか?
家にいない?
(しゃがみこんで老犬を撫でながら、いつもの調子でうっかりポケットからタバコを取り出そうとする自分に驚き、
慌てて手をポケットから抜く)
(今から仕事なのだから、タバコは我慢しよう)