私は今、レンタルビデオ店で大いに悩んでいる。さてどれを借りてやろうかと思っていて、店に来るまでは特にこのタイトルが借りたいだとかそういったことを考えていなかったから、
いざ実際に借りるとなったら迷ってしまうのは当然だ。
更に私は映画にするのかテレビドラマにするのか、邦画か洋画かすら決めずに来たので、悩むのは当然の結果だ。
ラブ・ロマンスかホラーかSFか、はたまたコメディか。いつもだったら何を借りてみようとも私の勝手なのだけれど、今日はそうはいかない。私一人で観るわけではないからだ。
一緒に観る相手は同居人である菫子さんではない。かといって友達うちの誰かと、という予定でもない。相手が瞳子あたりだったらこんなに迷わないのだろうな、と思う。
いや、しかし彼女は演劇部だし、名作とも呼ばれる物語を選出しなければならないのかもしれない。
私がなぜこんなに悩んでいるのか。そもそも私がなぜレンタルビデオ店に居るのか、その問いには今日のお昼にまで時を遡らなければ答えられない。



今日は土曜、午前だけ授業がある日。放課後私は薔薇の館へいつものように向かう。祐巳さまや由乃さま、瞳子たちがいて、そして白薔薇さま――私の姉でもある――志摩子さんもいた。
掃除当番で遅れた私は一番後の到着だった。皆さん既にお昼用の弁当箱を開けていて、その箱の中身に箸を伸ばして口に運んでいた。ただ一人を除いて。

「待っていたの」

志摩子さんが微笑んで言う。

「…ありがとう志摩子さん…っと、お姉さま。あ、お茶淹れますね」

私のためにお昼を待っていてくれた、そういった気遣いがたまらなく嬉しかった。
流し台に向かいながら、ご飯にはやはり日本茶がいいだろうと思い急須にお茶っ葉をガサガサと流し込む。

「私が一足先に淹れたわよ」

後ろで声がして振り向けば瞳子がいた。

「私のお姉さまにも?」
「当たり前でしょう?」

見れば志摩子さんの手元にもカップがある。待っていてくれたお礼に、せめてお茶くらい差し出したかった。

「いいもの、自分の分だから」
「ごめんなさいね。乃梨子」

なぜ謝られているのかいまいち解らなかった。自分の分も欲しかったから急須にお湯を入れて持っていき席につく。大好きな志摩子さんの隣。瞳子も祐巳さまの隣に戻っていた。

「いただきましょう?」
「うん、お姉さま」

午後は山百合会の仕事があるね、とか前放送していた仏像特番がおもしろかったよ、とか。私が言うことに嬉しそうに、楽しそうに聞いてくれる志摩子さん。
志摩子さんも、令さまに教わった方法でお菓子作ってみたけどあまり巧くいかなかったこととか、今度上手に出来たら私に食べて欲しい、とか話してくれた。
まさに談笑の字がぴったりに当てはまる会話をしていた私たちだったけれど、反面なかなか言い出せないことが私にはあって、胸につかえていてもどかしく思っていた。

この土、日曜日は私の同居人である菫子さんが居ないのだ。つまり今日明日、私はあの広い部屋に一人きりなのだ。
思いきり一人暮らしを満喫しようと思っていたのだけれど、ふと志摩子さんと一緒に居たいと思った。
つまり私が志摩子さんに言いたいことは、今日私の家に泊まりに来ませんかという、ちょっぴり恥ずかしい提案だった。

「あの、お姉さまっ」

私は意を決して言った。たかだかお泊まりくらいで言い出せないのも訳がある。志摩子さんは友達同士で泊まり込みとかをしたがらない人かな、と思ったからだ。

「乃梨子が良いのなら、私は行きたいわ」

志摩子さんが二つ返事で頷いた。
何でも志摩子さんのお父さんは、いかにも普通の女子高生がしたがることをお父さんの方からさせたがるみたいで、多分聞けば直ぐに許可を取れるそうだ。

「下校したら一度家に戻って準備して乃梨子の家に行くわね」

志摩子さんは晴れ晴れとした笑みを浮かべた