それが当人には気に入らないらしい。
「ボク、お姉さんだよ?先輩だよ?」
子守りやヒーロー全員での強襲事件以来、パオリンはバーナビーの家によく遊びに来るようになった。いつもは持ち込んだお菓子を食べたりゲームをしたりで満足するが、今日はそうではなかったようだ。
「……わかりました。ドラゴンキッド『先輩』、次回からはそのように――」
孤児院にボランティアで通うようになってから、子どもの扱いにもずいぶん慣れてきた。時に理不尽さを伴う我儘も、それが個というものを主張するための手段であるのだと思えば心を広く持てる。
「ボクだって、後輩と一緒に飲みに行って奢ったりとか、人生相談に乗ってあげたりしたいんだよ!」
何を飲みに行くのだ。シルバーステージにオープンした、流行りのトロピカルジュースか。……ともかく先輩風を吹かせたいらしい。困ったものだ。しかし、可愛らしい。後輩らしくふるまって、パオリンを満足させてあげよう。バーナビーが小さく頷いたところだった。
「ちゃんと後輩の面倒も、見てあげるよ?そ、そうだよ。バーナビーさんのお世話だってしてあげるんだから!」
「世話って――」
介護が必要な歳ではない。バーナビーが苦笑する。
「バーナビーさんを、卒業させてあげるよ!?ど、童貞から!」
「――」
バーナビーの動きが止まった。
「……今、何と?」
「そ、卒業、させてあげる……から!その……あの……どーてい……から」
……おそらく、酒の席で虎徹やアントニオ辺りが適当に喋っていたのを素直に信じ込んでしまっているのだろう。
「あの。期待に添えず申し訳ありませんが、僕はもう童貞では――」
「は、恥ずかしがる事ないよ!?生まれた時は、誰だってそうなんだから!」
話を聞いてくれ。
しかし、これは否定しても肯定してもどちらにしても嘘くさくなる。バーナビーに肯定するつもりはさらさらないが。
「大丈夫だよ!い、痛くしないから!」
「いや、あの……ドラゴンキッド?――ドラゴンキッド!?」
真っ赤な顔でパオリンが服を脱ぎ始めた。バーナビーが慌ててその手を押さえつけ止めようとするが、NEXTを発動され、走る電流の痛みに手を離してしまう。
「ぼ、ボクが、ちゃんと、卒業させてあげる」
助けてくれ。目の座った半裸のパオリンを前に、バーナビーは天井を仰いだ。