信也の首は検分ののち、謀叛の首謀者として往来に晒された。
一族の死骸は見せしめとして、埋葬されず黒く焼け落ちた屋敷跡に放置された。
信也を葬ったあの日から、美桜は心も愛も捨てた。
彼女はくのいちとして己の研鑽と任務に没頭し、それらを淡々とこなしていった。
そして年とともにくのいちとしてだけでなく、少女から妖艶な大人の女へと成長していった。
忍者の任務とは表沙汰にできない汚れ仕事が常である。
それは情報収集であったり、誘拐や強奪であったり、暗殺であったり。
それらの任務に美桜の容姿は大いに役に立った。
美貌だけでなく天性のくのいちの才能を備えた美桜はたちまち頭角を現し、その実力は一目置かれるようになっていった。
数年後、美桜は忍者を束ねる頭領から新たな任務を授けられた。
裏切り者、もしくは忍者について知った者の抹殺である。
忍者の組織は厳格なる規律と統制で管理された社会である。
一切の私情を許さず、絶対なる上意下達によって成り立っている。
その活動は人目に触れてはならず、存在を決しては知られてはならない。
美桜に下された任務とは彼女に非情の殺戮者に徹せよとの命令に他ならなかった。
くのいちである美桜はその命令を忠実に実行した。
任務に失敗した者に、任務を放棄、逃亡した者、任務を私欲に利用した者、更には抜け忍と呼ばれる
忍者の世界から逃れようとする者まで美桜は容赦なく抹殺した。
そして殺戮の対象は忍者だけでなく、忍者の存在を知った人々にも及んだ。
身分を問わず、思想や老若男女の区別もなく、忍者の活動に障害となりうる存在は躊躇うことなく殺した。
中には何の理由かもわからず殺められた者もいたが、忍者にとっては任務だけが
すべてであり、障害と見做した者は単なる排除対象でしかないのだ。
そしてその頃から、美桜のある“奇行”が始まった。
それは殺しの時に全裸になるというものだった。
忍者にとって全裸とは身体能力を最大限に発揮できる状態のことでもあるが、全裸で任務に臨む忍者はまずいない。
しかし美桜は必ず全裸になって相手を殺すのだ。
多人数であろうが、少人数や個人であろうが、美桜はその肌や肢体を晒し、見た者は悉く死んだ。
身体能力を全開にしたくのいちはまさに美しき獣であり、その牙に抗える者は誰一人としていなかったのだ。
(続く)