2期8話後で妄想。

「真知子」

名前を呼ばれた。彼に。彼の声で。
家族やNEXUSの同僚には普段から名前で呼ばれているのに、彼の口が放ったその響きは、一瞬で黛を沸騰させた。
―――
古美門事務所で安藤貴和の裁判について話していた時だった。
「本当の事を明らかにしなければ…」
「いい加減にその単純な思考を捨てたまえ。本当の事なんてどうだっていいんだよ」
「よくありません!」
黛が大声で詰め寄ると、古美門はいかにもうるさそうに眉をひそめた後、右手で黛の両頬をむぎゅっと潰すように掴んだ。
「んむっ!ひぇんひぇっ!ひゃっ」
「真知子」
「…!?」
顔を掴まれたまま、目を丸くして彼を見上げた。
(先生…?いま、真知子って…)
一瞬、息が止まった。
どれだけ望んだことか。望んでも叶わないと思っていたのに…。
古美門に下の名前で呼ばれる…思い浮かべてはかき消していた夢が、なぜか、今、現実になっている。
心臓が痛いくらいに暴れる。顔が火照る。
そして、熱い顔を掴んだまま、目の前で、低い声で、もう一度
「真知子」
「ひぇんひぇ…」

パッと手を離す。
「その名前がそもそもの原因だな」
熱と痛みを抑えようと、解放された頬をさする。
「は?」
「真実を知りたがる子ども」
「あ…」
「まさに名は体を表す、だな。いかにもあのバカ親が考えそうなウザい名前だ。君は親が名前に込めた願いの通りに、バカまっしぐらに育ったわけだ」
「う…。わ、悪かったですね!先生のバカぁっ!!」
ひときわ大きな声を浴びせると古美門は手で耳を塞いだ。
「バカはそっちだ。真・知・子!」
「やめて下さいっ」
「真〜知子!」
「もう!」
「おやぁ〜?顔が赤いぞぉ?真知子。私に名前を呼ばれるのがそんなに嬉しいかぁ?」
「先生が掴むから赤くなったんでしょうが!」
「耳は掴んでいない」
「う、うるさいです!もう、ほっといてください!」
「ゆとり王子には呼び捨てにされても平気な顔をしていたのにねぇ。そぉか〜。私のセクスィーヴォイスは特別かぁ。何度でも呼んであげるよ?真知子。真知子?」

事務員と草の者が一部始終を見守っていた。
「すっごい嬉しそうだね、先生」
「羽生先生に先を越されましたからな」