保守がてら季節ネタ
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もうすぐ19時になろうかという頃、古美門邸に予期せぬ呼び鈴が鳴り響いた。
土曜日の夜、働き者の事務員すら不在で、たった1人で杯を傾けていた屋敷の主が重い腰を上げる。
訝りながら玄関の戸を開くと、見慣れた部下の間抜け面があった。ただ、いつもの堅苦しいスーツではなく、白い肩と膝を出した涼しげなワンピース姿だ。
「こんばんは!」
「……何の用だ」
彼女がなぜこんな時間に自分を訪ねて来たのか、さっぱりわからなかった。
「花火!」
「は?」
「花火っ、見えますかっ?ここからっ、見えるでしょう?」
とりあえず、最大限に不機嫌な顔を作ってこたえる。
「…2階からなら見えるが」
「やっぱり!」
嬉しそうな笑顔を咲かせて入って来ようとする黛に立ち塞がる。
「ちょっと!もう始まっちゃいます!」
「君を2階へ上げるつもりはない」
「何言ってんですか!いいでしょう、花火の時ぐらい、無礼講ですよ!それに私、先生のプライベートになんか全く興味ありませんから、安心してください!」
黛は機敏な動きで古美門を振り切って、階段へ向かう。
軽やかに駆け上がっていく黛に、40男の呟きは届いたのだろうか。
「…どうなっても知らんぞ」