特別手術室には俺と母さんの二人だけ。
仰々しい機械が手術台の傍に運ばれている。
局所麻酔が施されて、施術の痛みが遮断される。
細長いロボットアームがウィィンと音を立て、俺の両の耳の穴に挿入される。
アームはそのまま伸び、脳に達し、細長いコードを何本も脳に接続する。
麻酔のおかげで痛みは感じないが、この奇妙な感覚にはいつまでたっても慣れない。
続いて母さんは操作パネルに手を伸ばし、色々な命令を入力する。
パネルに入力された命令がコードを通して脳に伝わり、記憶を消去したり、改変させたりするのだ。

「さてさて、今日の記憶・・・っと。笛吹さんから告白された記憶は全部消去!」

電気信号がコードを伝って脳に入り込み、ラブレターの記憶を焼き切る。
例えるならば、写真に火がついて、それが燃え広がって消し炭になる、そんな感覚だ。
火が燃え広がるにつれて記憶が断片的になり、消し炭になるとそこに何があったかもう思い出せない。

「これでもう大丈夫よ。汚らわしい思い出はきれいさっぱりなくなったわ」
「ありがとう。おかげでなんで自分がここに座る羽目になったのかわからないぐらいさっぱり忘れたよ」

その夜、俺と母さんはセックスしまくった。
特に母さんは明日仕事があるにもかかわらず、激しく俺を求めた。
普段はこんなことはないので、おそらく消された記憶が関係しているのだろう。
母さんは俺にマーキングを施すように、何度も俺の体にキスマークを刻む。
こんな体じゃ、明日は人前で肌を晒せないだろう。
5回戦が終わったところで、疲れ果てた俺は物欲しそうにしている母さんを置いて眠りについた。

***

眠りについた翔を見つめながら、女はふと昔のことを、翔と初めて会った時のことを思い出していた。
当時、女は22歳。天才少女と呼ばれ、大学院に飛び級し脳神経学の博士号を取得していた。
翔は当時7歳。彼女の隣の家の一人息子であった。多少ヤンチャなところがある、普通の少年だった。
近所とはいえ、歳の離れた男女。傍目には接点はなさそうであった。しかし、女はその身に黒い欲望を宿していた。
女は翔に恋をしていた。その感情は、異性愛であり、母性愛でもあった。
女は翔を欲した。息子として、恋人として。そして女には、その歪んだ欲望を為すだけの力があった。
女は一家から翔を奪った。言葉巧みに翔を誘いだし、手製の洗脳マシンにかけ、その記憶を歪めた。
少年の元家族も洗脳マシンにかけられ、何を吹き込まれたか地球の裏側に飛んでいった。

その日から、翔は女の息子になった。翔は女を自分の母親として一途に慕うようになった。
それからも、女は定期的に洗脳マシンを使って、少しずつ翔の意識や行動を自分の都合のいいものに変えていった。
翔が思春期を迎え、異性を意識するような年頃になり始めるとそれは顕著になった。
女はいよいよ本格的に翔を自分の恋人にすべく、翔の意識に禁断の欲望、母を犯したいという近親相姦の欲望を植え付けた。

何も知らない翔は自分の身に湧き起こる禁忌の欲望に苛まれ、女に対してそれを必死に隠すように振る舞ったが、
女はすべてを見透かしていた。マシンによって日に日に増幅する欲望に苦悩する翔を、女は愛おしく思った。
やがて翔が自分の欲求に耐え切れずに女を襲った時、女は待ってましたとばかりに翔の欲望をすべて受け止め、
自分も翔を異性として愛している、いけないことだとわかっているが嬉しいと、迫真の演技で告げた。
こうして翔と女は晴れて異性としても結ばれることになり、女の長年の望みは叶えられることになった。

そして今、女は次のステージを見据えている。翔との間に子供が欲しい。
翔が高校を卒業したら本格的に子作りを始める。
誰にも邪魔させない。翔の心と体は自分のモノだ。それを脅かすような要因は、どんな小さな芽でも見逃さず摘み取る。
次なる欲望を身に秘めながら、女もまた眠りについた。