霧夢と遊園地で思いきり遊んだ帰り。
 僕は霧夢に誘われて彼女が相ヶ江さんと一緒に暮らし始めた新宅を訪れていた。
 ……いや、勿論そんな場所に僕がお邪魔するのは問題があるのは解っているのだけれど、霧夢に押し切られてしまったのだ。
 まぁ『男子高校生が女子小学生を自宅に連れ込んだ』だったら完全にアウトだろうけど『女子小学生が男子高校生を自宅に連れ込んだ』ならセーフだと思う。
「はい、ひびきの分」
「ありがとう。いただくよ」
 霧夢が淹れてくれたお茶を口にする。なんだか一気に身体の力が抜けた。
「ど、どうかな。普段は柚葉に淹れもらう事が多いから、あまり慣れてなくって」
「大丈夫。とっても美味しいよ」
「そう? えへへ、よかった。お茶もロクに淹れられないお嫁さんになって、ひびきにハズかしい思いをさせるワケにはいかないもんね」
 今日、相ヶ江さんは用事があるらしくて外に出ている。彼女も彼女で霧夢と同じく街を案内してあげたいところなんだけど、ひとまず今回は都合が合わなかったわけで。
 それはそれとして。
「何度か言ったけど、霧夢はまだ小学生なんだからお嫁さんにはなれないよ」
「……ねぇ、ひびき。本当に、島でのプロポーズのこと、覚えてないの?」
 注意してみると、急に神妙な顔になった霧夢が訊ねてくる。
 冗談を言っているようには見えない。この話をする時、あくまで霧夢は真剣だ。
「……うん。霧夢には申し訳ないけど、少なくとも僕は、そんなつもりで言ったんじゃないんだ」
 いまだに、僕がいつ、霧夢に誤解させてしまうような言葉を放ってしまったのかさえわからない。
 もっと正直に言えば、あの時は霧夢を外に連れ出そうと必死で、そして盛大に自爆してしまったせいで焦りまくってて、言葉の詳細をよく覚えていない。
「そっか。残念ね、ひびき」
 正直、怒鳴られるのは覚悟していた。だから今の静かな霧夢を見て、逆に戸惑ってしまった。
 直後。
「あ、れ……?」
 目眩。視界が揺らぐ。そう認識した瞬間、意識が遠のいていった。
 
「ひびき。いい加減に目を覚ましたら?」
「ん……霧、ゆめ?」
 なんだっけ。なんで僕は寝ていたんだろう。
 霧夢と遊園地で遊んで、それから……
「えっ? っていうか、なにこれ?」
 記憶をたぐり寄せる事さえ終わらず、違和感に気づく。手が、足が、動かない。
「あの、霧夢さん……? いくつか質問させていただいてよろしいでしょうか?」
「ええ。私に答えられる事なら答えるわよ」
「じゃあまず。霧夢が淹れてくれたお茶を飲んだ後、いきなり意識を失ったんだけど、アレはなんだったの?」
「お茶の中に仕込んでおいた薬のせいね」
「なんで霧夢がそんな物持ってるのさ!?」
「私じゃないわよ。柚葉に用意してもらったの」
「ああ、なるほど……って結局納得できないよ!?」
 到底納得はできないけれど、相ヶ江さんに用意してもらったという点が本当なら、少なくともこのまま霧夢を問い質しても大した意味はないだろう。
 それに、他にも聞かなきゃいけない事があるし。
「じゃあ、二つ目の質問。どうして僕は縛られているんでしょうか?」
 目が覚めた瞬間覚えた違和感。僕の両腕両足はロープでがっちり縛られてしまっている。
「そりゃあひびきは男だし、私はか弱い小学生だもん。ひびきに本気で抵抗されたら、どうにもならないじゃない」
「僕が抵抗しそうなことをやろうとしているんだね……」
 なんだろう。殴る、蹴るの暴行はさすがにないと思うし。
「最後の質問。どうして僕は、布団の上に寝かされているんでしょうか?」
 わざわざ寝室に運ばれて敷布団の上に寝かされたらしい。一体、ここからなにを始めようというのか。
「それはもちろん、二人の愛の営みをスムーズに行うためよ」
 そう言って、霧夢は。
「な、なにやってるのさ霧夢っ!」
 おもむろに着ていた服を脱ぎ始めた。
「なにって、ひびきは私が服を脱いだ方がコーフンするでしょ。ちょっとハズかしいけどひびきなら見てもいいよ?」
 頬を赤く染めながら答える霧夢。
 嫌な予感がどんどん膨れ上がってゆく。裸になる霧夢、布団の上、愛の営み。
「あっ、でもひびきだったらランドセルとか背負ってた方がいい? 裸ランドセル」
「僕にそんな変態的な嗜好はないよ……」
 なんだ、裸ランドセルって。