DVDを抱えてトボトボと帰るチョウチョウを見送りながら、シノは一人、長いため息をついた。
――どうやら、しのぎ切ったようだ。
この数ヵ月、シノに対してチョウチョウは愛らしいアピールを続けていた。しかし、いきなり『夜の奔放なふるまい方を教えて』とせまられるとは…。
遠ざかる小さな後姿を見て、再度ため息をつく。

――可哀想だが、仕方がない。
元教え子と男女の仲になるなど、いくらなんでも職業倫理に反する。しかも相手は、同期の娘だ。娘を溺愛するチョウジを怒らせるのも怖い。
『そのあたりは任せておけ』と、なぜかチョウチョウの恋心を知る、いのとシカマルは胸を叩いて言った。
よく知る相手に娘を嫁がせるほうが、チョウジも安心するだろうと2人は言うが――お前たちの倫理観はどうなっているのだと、小一時間問い詰めたい。

そもそもどうしてこうなった? と、シノはもう一度深いため息をついた。
昔から食べっぷりの見事な娘だった。あの日も、自分が作った弁当をじつにうまそうに食っていた。
そのあと、まさか自分に食指を伸ばすとは……。
「――困った」思わず声が出る。
チョウチョウが、女性として魅力に欠けるというわけではない。むしろ、魅力がありすぎるから困るのだ。

可愛い教え子が、いつの間にか魅力あふれる女性となり、自分にせまってくれば、誰だって困るし、動揺する。
先ほども、動揺のあまり、思わず秘蔵のDVDを出して、ごまかしてしまった。
――赤トンボのように朱に染まったチョウチョウの頬を思い出し、もう何度目かわからないため息をつく。

――生命の力強さを感じさせる、あの食べっぷり。うまいものを口にしたときの素直な笑み。何よりあの、ふくよかで豊かな体…。
カミキリムシの幼虫のように、ぷっくりとした二の腕。産卵期のカマキリの腹のように、みっしりと張った胴。それに、あの胸。
生まれたての大カブトムシの卵のように、大ぶりで、ぷくぷくとして……いや、女性を虫に例えるのは失礼だ。
例えるなら、そう……マシュマロ…というより、蒸かしたての黒糖まんじゅうのような……。
「ハァァーーー」。ひときわ長いため息がもれる。

「――――パフパフしたい」

――――油女シノ。アラフォー独身。職業・教師。肉食系元教え子の猛攻を受ける。
……陥落まで、あとわずか。


終わり
思ったより長げーし! いろいろスミマセン
…エロよりお笑いのほうがスラスラ書けるのはどういうことだってばよ!?