特別研修(新社会人⇔赤ちゃん)

「この会社もダメだったの。ここもダメだったら、もうムリじゃん、どうしよう...」
お祈りメールで埋め尽くされたメールボックスを見て、私は絶望に明け暮れていた。

私、遠藤未希は絶賛就職活動中の大学4年生である。
『今年は景気も回復して就職は大丈夫なんだから、まずは勉強に専念しろ!』という教授の言葉を信じ、就職活動をそこそこに勉強とバイトばかりしていたら、乗り遅れてしまったのだった。
周りのみんなは数ヶ月も前に就職が決まって、決まっていない人は大学院に進む奇特な人くらいだ。
私だって、教授には気に入られてるので大学院に進むことも出来たのだが、大学院に行くとさらに就職が大変になるって聞くし、それに学費だってバカにならない。
両親が亡くなって、家族と呼べる人がいない自分には、ここで就職しないと一生フリーターの可能性もあるので、なんとしてでも就職しないとならなかった。

そんなことを考えている時、電話が鳴り響いた。
着信表示を見ると、そこにはさきほど落ちたばかり子供用品のメーカーの担当者の名前が入っていた。
何故、担当者の名前が表示されていたかというと、面接担当者の人に気に入られて連絡先の交換をしていたからだ。
こんな事は初めてだったので受かるはず!っと思っていただけに、さっきお祈りメールが来た時にはショックが大きかったのだった。

「もしもし、人事担当の崎原と申します。先ほどメールをお送りしましたように、応募いただいた営業部門での採用は不採用となってしまったのですが、研究・開発部門にて遠藤さんを採用させていただきたいと思い、ご連絡申し上げた次第です」
「はい、喜んでお引き受けしたいです。でも、よろしいのでしょうか、私、文学部なので研究・開発とかしたことないですし、お役に立てるかわからないのですが」
「それは大丈夫ですよ。研究・開発部門といっても理系の人ばかりではありませんし、実際に製品を作っている人ばかりではありません。
遠藤さんには、子供用品の使ってもらい、アイディアを出していただくようなお仕事をまずはしていただくことになると思います。このような勤務内容はとなるのですが、それでもよろしいでしょうか?」
(なるほど、それなら私にも出来そうね)
「はい、ぜひお引き受けしたいと思います」
こうして、私は無事に子供用品メーカーに入社することになった。

そして、迎えた入社初日、会社全体の入社式も終わり、私は研究・開発部門の部屋へと案内された。
「ようこそ、研究・開発部門へここは、その中でも第3開発室よ。そして、私が室長の崎原沙英よ、改めてよろしくね。」
そして、そこから開発室のオリエンテーションが始まった。
最初に案内された部屋はオフィス用の机やパソコンがあったりして、いかにもオフィスッて感じだったけど、奥の方には子供部屋を再現したような部屋があったり、
理系の研究室みたいな実験機器が置いてある部屋があったり、なんだかよくわからない大きな機械が置いてある部屋まで会った。

オリエンテーションも終わり、一息ついた頃、本題の話題が出てきた。
「それでね、遠藤さん、事前に連絡していたように今日から一ヶ月間、特別研修に入るんだけど、準備は大丈夫?」
『特別研修』、それはこの会社に入るかどうかちょっとだけ迷ってた点だった。
特別研修中は一ヶ月あり、その間は外へも連絡できないし途中で帰ることも出来ないということだった。
一人暮らしで友達も少ない私にとって、帰れない・連絡できないは大丈夫そうだったけど、一ヶ月間何をさせられるのだろうと思うと、正直ちょっと怖かった。
でも、このオリエンテーション中に開発室の人と話した感じだと、みんな笑顔が素敵で悪い人には思えなかったし、顔色が悪い人とかもいなかったからブラックなことをやらされる様子はなさそうだった。
なにより、ここで特別研修を断っても行先のない私にとってそもそも選択肢は無かった。