ガンダムヒロインズMARK ]YI
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語るも良し!エロパロ書くも良し!
ガンダムの娘ッ子どもで妄想が膨らむ奴は集え!
ガンダム以外の富野作品やGジェネ、ガンダムの世界観を使った二次創作もとりあえず可!
で、SSは随時絶賛募集中!
■前スレ
ガンダムヒロインズMARK ]Y
https://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1455334594/
■関連スレ
ガンダムビルドファイターズでエロパロ
http://nasu.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1381888018/ 「P−04ってのは、プラント農業とジャンク漁業の町なんだよ――まあ私も、実際に行くのは初めてだけど」
サラミス改級巡洋艦《トラキア》、MS格納庫――ルウム農協船団護衛MS隊との接触から、一時間前。
この短期間に数度の実戦を潜り抜け、今また無事に帰還したばかりの艦載機RGM−79R《ジムU》への整備と補給に、整備兵たちが飛び交いながら奔走している。その壁際で、二人の少女兵が飲料を片手に話し込んでいた。
「ルウム戦役の時、ジオンは大量破壊兵器の無差別投入で徹底的にコロニーを破壊したけど、流石に細かいプラント全部までは潰しきれなかった。
まあ核にも艦砲にも毒ガスにも弾数ってもんがあるし、連邦軍とも戦わなきゃいけなかったからね。
だからコロニーの住民が全滅した後も、プラントの方には多少の生き残りがいたんだ。
戦闘後に両軍が撤退してからの数か月後を生き残っていられた人たちを、同郷のルウム難民志願兵を中心に編成されていた、当時のトラキア隊がルナツーから来て助けて回ったらしい」
「ぜんぜん知らなかった……そういうところだったんだ」
「うん。まあこればっかりは、アイネが不勉強ってわけじゃない。私も今の部隊に来るまで、ほとんど知らなかった。このへんの情報、なぜだかほとんど外には出てないみたいだし。――もっと早く、知れていたらなあ」
シエルが言葉を切ったその一瞬に、アイネは親友の横顔に過ぎる記憶の暗い影を見た。一息の間を見守られた少女はどこか遠くへ視線を投げて、何かを洗い流そうとするように続けた。
「――とにかく、戦中に始まったトラキア隊とプラント難民の協力関係は続いて、戦後には旧ルウム暗礁宙域に拠点を築いていった。
暗礁宙域に潜伏したジオン残党と戦いながら、食糧難に陥った戦後地球圏への輸出を見越して、再生プラントでの農業を推進したの。そこへ83年の末に起こったのが、北米大陸へのコロニー落下事故。
あのとき食料相場は狂乱したけど、ちょうど輸出態勢が立ち上がるのを待ってた大量の在庫で介入して、プラント難民組織――『ルウム農協』は財を成した。
連邦政府の予算無しでも復興事業は軌道に乗るようになって、P−04が築かれた。そしてジオン残党どもが巣食う新サイド4に築かれた、連邦軍の橋頭堡になったってわけ」
「なるほど〜」
眼鏡の小柄な少女パイロット、シエル・カディス伍長が淡々とMSパイロット候補生時代に同室だった同期生へ向かって語りかけると、相手は気抜けしたような調子で楽し気に頷く。
シエルはトラキアではなく、第223戦隊の僚艦であるサラミス改級駆逐艦《アルマーズ》MS隊の所属である。
だがシエル機は先の戦闘で頭部と脚部を失った満身創痍の機体で、戦域離脱時にかろうじてトラキアへ着艦したまま、今も艦外に繋留されている。
本格的な修理に着手するのは、P−04への入港以降となるだろう。P−04への入港を控えて、パイロットのシエルもそのままトラキアに残されていた。
そしてシエルの傍らには、そのかつての同期生――アイネ・クライネ伍長が、今は底抜けに幸せそうな――腑抜けたような、とも言えそうなほどに緩んだ表情で、彼女の話に聞き入っている。
二人がMSパイロット訓練課程を修了してそれぞれの任地へと別れてから、まださほどの日数は経っていない。
二人がその後のわずかな期間に経験した激しい実戦と、シエルが聞かされたアイネ戦死の「誤報」が心を揺らしても、互いの無事を認め合った後は、あの戦場で見せた互いの動きだけで、すべてを語るに事足りた。
だから二人の話題は何事もなかったように自然と、世間話の方向へ流れていった。
現在のトラキアMS格納庫では、アイネとマコト・ハヤカワ准尉のジムU2機、そしてサブリナ・ミケリヤ少尉のジムUキャノンの合わせて3機のMSに対する整備作業が進行している。
いずれもシエル機と異なり、機体の損傷は小さい。艦外ではゲンナー・ウェズリー少尉のジム・ゲシュレイに率いられて、ロブ・サントス伍長とシュン・カーペンター伍長のジムUが対空警戒に当たっていた。
アイネも自機の整備が完了し次第、次の指揮官となるサブリナとともに機体ごと出て、対空警戒を交代するになっている。シエルは引き続き待機だ。 「そしてプラント農業とその輸出態勢が軌道に乗った頃には工業プラント群も整備されて、宙域のデブリやジャンクを回収して再利用する基盤も整っていた。
連邦軍の第一線を退役したボールを大量に取得して、今は予備役登録を条件に業者へ積極的に貸し出したりする振興策をやってるみたい。
何せここの暗礁宙域は地球圏最大だったうえ、長年残党軍の拠点にされてたから、今でも高額で捌けるジャンクがデブリになって、手つかずのまま大量に漂流してる。
誰が呼んだかジャンク漁業――そのジャンク漁業に従事する民間船団の護衛は、今でもここの連邦軍の任務のひとつらしい」
「ジャンク漁業の護衛っ……!」
シエルの言葉に、にわかにアイネの瞳が輝きを増す。姿勢が前のめりになり、巨大な胸元がシエルの眼前へ迫る。呆れたような半笑いを浮かべながら、シエルは親友の顔を見上げた。
「何。アイネ、そんな仕事やりたいの?」
「うんっ!」
揶揄するような調子の問いにも、アイネは満面の笑みで即座に頷いてのける。
ジャンク回収船に張り付いていつ来るかも分からない敵をひたすら待ち受ける受け身の任務など、シエルは積極的にやりたいとは思わない。むしろいかに危険であろうと、果敢に敵陣へ斬り込む威力偵察のような攻めの任務の方が好ましいと思っている。
「白兵大好き突撃バカのアイネがそれ言う……? 死ぬほど退屈でしょうよ。そんな待ちの仕事、私なら絶対イヤだけどな」
「やっとMSのパイロットになれたんだもん。あの凶悪なジオンの残党どもから、復興のために働く人たちの安全を最前線で守るんだ。これこそ地球連邦宇宙軍の、最高の存在意義だよ!」
「――そう」
屈託のない笑みからの、まっすぐに理想を目指して言い切ってのける言動。互いにあれほどの激戦を経験してきたというのに、訓練隊から巣立ったあの日から、アイネは何も変わっていない。彼女は理想を捨てていない。
同室の親友が見せるこの横顔が、シエルは決して嫌いではなかった。
「クライネ伍長!」
「はいっ!」
そんな二人へ向かって、整備中だったアイネの乗機、ジムU25のコクピットハッチから声が掛けられる。幼くあどけない女児じみた声色のようでありながら、同時に凛とした気迫を備えたその呼びかけに、アイネが思わず背筋を伸ばして向かい合う。
「25とミケリヤ少尉機の整備、間もなく完了! コクピットに入って最終点検。良ければ庫内のエアを抜いて、そのまま対空監視に出てもらうけど。準備はいい?」
「万全です!」
女性として小柄なシエルと比べてもなお二回りは小さく見える、いっそ童女のような整備兵が、整備作業の汗を帯びたボブカットの金髪を揺らしながらアイネを呼んでいた。
「よしっ。じゃあシエル、行ってくる!」
「おう、行ってこい」
ノーマルスーツの拳と拳をカツンと合わせると、アイネは格納庫の床を蹴り、自機の機付長が待つコクピット目掛けて跳んだ。
途中でノーマルスーツのスラスターを噴かすこともなく、跳躍のみで狙い過たず届いたコクピットハッチの縁を掴んで制動しながら、アイネはコクピット内を覗き込んでいるマリエル・エイムズ軍曹の真横で身体を止めた。
思ったより距離が近い。
「…………」
無言のまま、妙に心拍数が上がってしまう。
会議室での初顔合わせ以来、アイネはマリエルに対してなぜか緊張感を持つようになってしまっていた。
マリエルが自他ともに厳格な人物なのは動作と態度の端々からも感じられるのだが、どうもアイネに対してはそれ以外の「何か」があるようにも感じられるのだ。
なんとなく、これは女社会における負の側面の片鱗めいた気配なのではないか、とすら思ってしまう。
まだろくに話してもいないというのにこれというのは、自分たちは何か、よほど絶望的に相性が悪いのだろうか……?
自機の整備という命運を預ける存在から人間的に嫌われてしまうなど、MSパイロットにとっては完全な悪夢以外の何者でもない。 とはいえ比較対象として、現在この場に不在の整備班長ウェンディ・アーデル曹長の想像を遙かに上回る奔放さを思い出してしまうと、自機の機付長としてどちらが良い、と言えるものでもなくなってくるのだが。
だが同時に、こうして間近で見るマリエルの横顔はまさしく人形のように整っていて、こんなに可愛い女の子は見たことがない、とすら思ってしまう。
――ハヤカワ准尉やシエルみたいな凛とした女性も素敵だけど、エイムズ軍曹みたいな美少女も、最高だなあ。
エイムズ軍曹を隠し撮りした高解像度の大判写真を額縁に入れて飾りたい。というか無骨な整備兵用ノーマルスーツなんかじゃなくて、フリルのたくさん付いた可愛いドレスを着せてみたい。
いや。そこまでやるならもう、その状態でさらに手足を縛ってベッドの白いシーツの上に転がし、涙目でキッとこちらを睨み返してくるところを――
「――クライネ伍長?」
「はいっ!?」
妙な緊張を伴う沈黙の中、危うくおかしな方向へ跳びかけたアイネの思考を、マリエルの言葉が矯正した。
「最新の戦闘データ、見せてもらった。ずいぶん突っ込んだ戦い方が好きみたいね」
「は、はい」
「カーペンター伍長の機体をそのまま使って、ルスランのザクUF3にエゥーゴのジム改もどきとビームサーベルでやり合った。
それで今度は乱戦の中、あの大ジオン仏道のゲルググ相手にも斬り込んでみせた。無茶をするのね――大した度胸だこと」
「……はい」
マリエルの意図が読めず、アイネの返答は萎む。関節部を酷使する格闘戦という機体への負荷を省みない無茶な戦い方をした、として叱責されるのだろうか。不意にマリエルが金髪を揺らし、アイネの瞳をじっと見つめた。
「――それがあなたのやり方だというなら、こちらも全力で整備するまでのこと。クライネ伍長。だから今後、整備への変な遠慮で自分に枷を填めて、言い訳するのは許さない。全力で、やりなさい」
「は、はいっ!」
結局アイネは徹頭徹尾はいとしか答えられないまま、マリエルはそこで会話を打ち切った。アイネはリニアシートへ飛び込み、次々と機能点検を掛けていく。全項目異常なし。マリエルはそれを無感情に見届けると、コクピットから跳び去った。
「な、なんだろ。よく分かんない……よく分かんないけど……可愛くて、怖いひとだなぁ……」
『アイネ、もう良いの? 良いんなら、さっさと行くよー』
「だ、大丈夫です。今行きます、ミケリヤ少尉!」
慌ててコクピットハッチを閉めながら全天周モニターを完全に起動させると、すでにサブリナのジムUキャノンはBR−S85ビームライフルを手に昇降機へ向かうところだった。マリエル、シエルもエアロック外へ退避している。
「ま、いいか……。考えていたって仕方ない。私は私の、出来ることをやっていくんだ」
艦外ではあの戦闘後からそのまま、ロブ・サントス伍長やシュン・カーペンター伍長らが警戒を継続している。早く休みたいであろう戦友たちと早く交代してやろうと、アイネも昇降機へと自機の歩を進めさせた。
しかし、とアイネは再び別のことを思う。トラキアから最大の危機はすでに去ったとはいえ――
「ハヤカワ准尉とアーデル曹長、どこにいるんだろ。……トラキアMS隊トップの二人が揃って見当たらないなんて、いったい何をしてるんだろう……?」 「ん、……っ……」
長い銀髪を下ろしたあどけない顔立ちの美少女が、薄闇の空間で目を覚ました。
彼女の記憶に残っている最後の光景は、首のないジムUから向けられたビームライフルの丸い銃口だった。
装甲を貫き、一瞬でコクピットとパイロットスーツを焼き尽くした、灼熱の閃光。それが彼女が最後に見たものだった。
苦痛を感じる間もなく、自身の肉体は蒸発した――彼女がこれまで多くの連邦兵をそうしてきたように、彼女自身も細胞の一片までを原子レベルで分解され、再び宇宙と一体化する『完全成仏』を遂げた。そのはずだった。
だが今、彼女の目の前に広がっているのは、明らかに極楽でも地獄でもない。宇宙艦艇の、窓もない狭い倉庫の一室だった。
その目に映るのは一糸まとわぬ、透き通るように白くみずみずしい自身の肌。相変わらず下向きの視界を遮るほどに大きな乳房はなぜか熱を孕んで、桜色の頂は堅く尖っている。
素肌には火傷はおろか、かすり傷の一つすらも残っていない。そして下着のひとつも身につけていない、完全な裸身であった。
「…………!?」
自身の状況を確かめようと身体を動かしかけて、彼女はまったく果たせずにその場で揺れた。彼女の両手両足は、いっそ過剰と思えるほど厳重に拘束されていた。
「おー。大ジオン仏道のカワイコちゃん、お目覚めでしゅか〜?」
「!?」
いっそ軽迫な調子の女の声が耳元で響いたと思った瞬間、彼女の乳房は左右もろとも、背後から伸びた女の手に強く握り締められていた。
女の掌などではとうてい包みきれないたっぷりとした肉塊が変形し、手指に絞られた充血した乳肉が逃げ場を求めて熱く蠢く。
「あ、あああーーーッッッ!!」
まだ敏感な頂には触れられてすらいないというのに、それだけで少女はおとがいを反らせて倉庫に絶叫を響かせた。
「んん〜、いいおっぱいだぁ。アイネちゃんのよりはちょっと小さいけど、白くてキレーで感度も最高。やっぱり犯るのは『墜としたて』に限るよぉ。たまんないねぇ〜〜〜!」
「なっ、……なにを、言ってっ……!」
少女の乳房をいいように捏ね回してくる背後の女は、赤毛をポニーテールにまとめた看護師だった。前髪が目元を隠し、口元には邪悪な笑みが浮かんでいる。
少女を凌辱する獄卒のごとき女に乳房を弄ばれながら、かつて一度も感じたことのない濃厚な性感の快楽の中で、彼女は少しずつ現実を認識していく。
自分はあの戦場で、完全成仏を果たせなかった。
なぜ?
あそこから、ビームが外れたのか? コクピットハッチを焼いて飛び込んだビームが彼女の肉体をギリギリで外し、気絶だけさせて捕虜にしたのか?
あり得ない。
自分は確かに、粉々に砕けるヘルメットを、燃え上がる間もなく蒸発して消し飛ぶパイロットスーツを感じていた。ビームの直撃は確実だったのだ。
となれば、結論はひとつしかない。
何か人智を越えた、得体の知れない邪悪な力が働いたのだ。それが自分の完全成仏を妨げ、このような辱めを受けさせるに至らしめた。
では、その力とは、何か。
彼女にはひとつ、覚えがあった。あの戦場で感じた、強烈な違和感。決してこの世に在ってはならぬと強く感じさせた、まったく異質な存在の気配。彼女が放った必殺の狙撃を易々と掻い潜り、反撃で痛打を浴びせてきた、あのジムU。
時代遅れのビームスプレーガンを構えたジムUを操る連邦兵の気配は、およそ人間のものではありえなかった。
「おやおやウェンディ、もうお楽しみか。ふふ。それにしても、しかし――なかなかいい眺めじゃないか」
「!!」
背後で少女の乳を揉み続ける女とは別の女が、薄闇の正面からふと現れていた。
憎き地球連邦軍の制服に身を包み、囚われの少女を嘲るような表情を浮かべた、東アジア系の美女だ。初めて見る顔だったが、少女はこの美女の正体を瞬時に理解することが出来ていた。
「おのれッ……この妖術、やはりお前の仕業だったか。……妖怪変化め……ッ!!」
背後から爆乳を弄ばれつつ、歯を食いしばってきつく睨みつける銀髪の美少女の視線を真っ向から受け止めながら、マコト・ハヤカワ准尉は邪悪な笑みを浮かべてみせた。 今回は以上です。
スレッド容量の確認を怠って途中でスレッドを落としてしまい、申し訳ございませんでした。 0083の観艦式に参加した連邦艦隊
そりゃーキレイなお姉さんたちがオペレーターで乗ってたんだろうなぁ
勿体無いなぁ 「――以上をもちまして、『トラキア』からの状況報告を終了いたします」
サラミス改級巡洋艦『トラキア』艦長リドリー・フランクス大尉が急拵えの資料で報告を終えても、新サイド4暗礁宙域に設けられた地球連邦軍要塞拠点『P−04』内部の作戦会議室は静けさを保っていた。
前列の席に着くのはつい今し方P−04へ到着し下艦したばかりの、トラキアが属する第223戦隊の主要士官たち。戦隊司令リード中佐、旗艦『マカッサル』艦長カミラ少佐、その僚艦であるサラミス改級駆逐艦『アルマーズ』艦長ヘイズ大尉の3人が並ぶ。
そしてその後方に艦載MS隊長たちが立つ。トラキアのハヤカワ准尉、アルマーズのリンリー少尉、それから不審船を巡る戦闘で壊滅状態に陥ったマカッサルMS隊の生き残りである隊長代理、キーガン少尉。
もっともリドリーが報告した内容の大半は、すでに第223戦隊の内部ではレーザー通信経由で共有されていたものだった。戦隊側から質問を発する気配はなく、場の意識は会議室前方の最上位者に集中していく。
室内における最上位者――すなわち、P−04駐留部隊司令官、ユン・ソギル准将。そして新サイド4駐留艦隊副司令ヨランダ・ウォレン准将の懐刀として知られる参謀、タニア・メーティス中佐の2人である。
「ご質問は?」
微かな緊張を帯びながら、リドリーはソギルへ問いかけた。
「ふむ。ご苦労だった、フランクス大尉。さて……よろしいですな、中佐?」
ソギルが傍らの黒人系女性士官へ何事かを確認すると、タニアは無言で同意を示した。ソギルがひとり頷くと、前方の大画面がリドリーの資料から切り替わる。
「では今度は、私から諸君らに説明しよう。諸君ら第223戦隊がこのP−04から離れ、外部拠点から新サイド4宙域への哨戒任務に移行して半年。その間にルスラン・フリートは我々の以前の推定を大幅に上回る、劇的な戦力強化を達成していたことが判明した」
ソギルが手振りで促してリドリーを席へと返しながら画面の前へと歩を進めるや、大画面が再び切り替わって新たな資料を映し出した。
航路図、部隊編成表、そして望遠の戦闘映像。
「それを明らかにしたのが、この戦闘だ――昨86年12月。P−04に拠点を置く新サイド4駐留艦隊第450戦隊が、巡洋艦1隻と駆逐艦2隻に21機のMS隊を搭載して、戦隊司令の独断でルスラン・フリートが実効支配する宙域――いわゆる『聖域』への侵入を強行した」
「――450戦隊?」
「3ヶ月前……では、やはり、あの噂は――」
その部隊名と作戦の時期を聞いて、第223戦隊の指揮官たちが静かにざわめく。
画面上の航路図で部隊符号が動き始めた。同時にその横へ新たな窓が開いて、かなりの望遠で撮ったと思しき戦闘記録映像を流しはじめた。
450戦隊の3隻がMS隊を展開しつつ、敵宙域へと突進していく。暗礁宙域としてはかなりの速度が出ている。電撃的な侵攻作戦だった。
そしてRMS−106『ハイザック』を主力としつつ、洗練された機動を見せるRMS−117『ガルバルディβ』の3機小隊を頂点とした21機もの大MS部隊が3隻のサラミス改の周囲と前方に展開していた。
6機ほどのMS−21F3『ドラッツェF3』から成るルスラン・フリート前哨部隊を一方的に後退させつつ、敵陣深く侵攻していく。
高機動性を存分に発揮しながら軽快に先頭を切っていくガルバルディβを相手に、ドラッツェF3はまともな抵抗を出来ていない。かろうじて紙一重で背後からの射撃を回避しながら、必死に逃げまどい続けるだけだ。
それでもドラッツェF3の大推力にはガルバルディβといえども直線では追いつけないが、この暗礁宙域ではそうも行かない。何度も迫られ、危ういところを何度も紙一重でビームを回避する。
それはもはや戦闘というより、中世貴族の狐狩りのような様相だった。
「第450戦隊はルスラン・フリートの前哨部隊を順調に駆逐しつつ、敵前進拠点を制圧するべく前進を継続した。が、敵はその間に態勢を整えていた」
敵宙域の奥に、艦影が現れた。
「――マゼラン?」
「いや、艦橋が……では、まさか、あれが――」
それは連邦宇宙軍の軍人ならば、誰もが見慣れた艨艟の艦影。しかしただ一か所、第一艦橋の形状だけが異なっている。
巨大な艦体と不釣り合いに小さいそれは、旧ジオン公国軍のムサイ級巡洋艦の第一艦橋に挿げ替えられたものだった。
ただその一点だけが、見慣れたはずの艦影に不気味な影を落としている。 「ルスラン・フリート旗艦――マゼラン級戦艦『ルスラン』」
リードにそう艦名を呼ばれたジオン残党軍のマゼラン級戦艦が単艦、第450戦隊に向かって接近してくる。
連邦軍の3隻を相手にわずか1隻で向かってきたその敵艦から、10機前後のMS隊が発進した。スラスターが曳く光条を見るに、サラミス改級巡洋艦のようなMS用カタパルトではなく、一年戦争末期さながらに艦底部甲板からの自力推進らしい。
だが、その後の加速は鋭い――わけても先頭に突出する3機小隊が、ひときわ。
MS隊を発進させた敵艦から、艦砲射撃の火線が走った。マゼラン級戦艦が放つビームは太く、速く、そして鋭く、サラミス改級の3隻をたやすく圧した。艦隊を嘗めるように走った正確な光条に脅され、450戦隊が思わず行き足を乱す。
ドラッツェ隊を玩具のように追い回していたMS隊の先鋒が、苛立つように進路を転じた。敵艦へ、そしてそのMS隊へと目標を変える。
スラスターが火を噴き、ガルバルディが虚空に跳ねる。
その意気揚々と先陣を切っていく連邦軍MS小隊の、派手なパーソナルマーク付きのガルバルディβへと、敵艦から来た角付きのMS−14A『ゲルググ』――あるいはその同型に見える機体が静かに銃口をもたげた。
互いに同系統のビームライフルが狙いを付けあう。
一瞬の沈黙ののちに有効射程を割るや、両者は同時に火蓋を切った。
ガルバルディβ小隊とゲルググ小隊、火力拮抗する両者の間で光の雨がうねって荒れる。瞬きする間に距離が大きく詰まっていく。
上下左右への激しい回避機動を交えながらも、ガルバルディβの隊長機は巧みに機体を制動し、休むことなく精確な応射を放ち続ける。獣のように躍るゲルググの機動を捉えきれないまま、一発を盾の対ビームコートで弾き、一発が右肩を掠めて機体を揺らす。
そして両小隊が交錯する瞬間、ゲルググの振るったビーム・ナギナタが、ガルバルディβを機体の中心から上下に分割していた。その両方が光の泡と化して消し飛ぶ。
同時に、光弾。
急旋回したそのゲルググがビームナギナタの下から覗かせていたビームライフルの銃口が、ナギナタで斬り裂いた爆光越しにもう一機、小隊僚機のガルバルディβを過たず撃ち抜いていた。2機目のガルバルディβが痙攣したように一瞬震え、そして消し飛ぶ。
「おい、あいつらはペズンの凄腕だぞ」
小隊長を含む二機を瞬時に撃墜されながらも、尖兵小隊で最後に残ったガルバルディβはさらに加速して距離を開き、ゲルググ小隊からの狙撃を逃れる。逃れようとした。
「P−04付の450はウチより大勢、教導団上がりを6人も引き抜いていましたからね。それが――」
リードが呆然と呟き、応じた傍らのカミラが言い終えるより早く、戦況は動いていく。
雲霞のごとく敵機の群れが押し寄せた。
航路図が、そして編成図が大きく動いていた。第450戦隊を取り巻くようにその周囲から突如として、おびただしい数の敵MS隊が出現していたのだ。
コロニーの残骸や小惑星に潜んでいたもの、あるいはそれらを偽装したバルーンに隠れながら接近していたもの。そして遠方からコムサイ改級揚陸艇などで駆けつけてきていた増援部隊。
それらすべてを合計した規模は、第450戦隊を遙かに上回る。航路図へ新たに浮かんだ光点、そして編成図を書き換えて現れた敵MS隊の陣容は、ゆうに80機近い。
もはや5倍近い戦力差となったその大部隊が一斉に、一個の生物のような連携を見せつけながら450戦隊へと襲いかかった。
先鋒最期のガルバルディβはビームライフルとミサイルを猛然と応射し、なお軽快な高機動を発揮して足掻く。だが四方八方から降り注ぐマシンガンとビームの弾幕に取り囲まれ、そのすべてからは逃れきれずに右手、そして左脚をもぎ取られる。
姿勢制御が狂ったところへ突撃してきたMS−06F3『ザクUファドラン』が、ヒートホークを胴体部へ深々と突き立てた。痙攣するようにくの字に折れると、小隊最後のガルバルディβは火球に変じて爆散した。
劈頭で最強の小隊が全滅したその背景では、烏合と化した残兵が数の暴力に潰されていくだけだった。
RMS−106『ハイザック』の小隊が無数の射線に追われ、もはや応射すら出来ずに逃げまどう。背後から降り注ぐ火線に貫かれて1機がたちまち爆散。
後退の一途から急反転して、猛加速で追撃してきたドラッツェF3が閃かせたビームサーベルに両断されて、さらにもう1機が火球と爆ぜる。 ジオン残党が振るう圧倒的な数の暴力でMS隊が一方的に撃墜されていく中、メガ粒子砲と機銃で狂ったように防御射撃を繰り広げる3隻のサラミス改へと、MS−09RB『ビック・ドム』の編隊が肉薄していく。長大なビーム・バズーカの砲口を向けた。
雲霞のごとく群がる敵MS編隊によって、第450戦隊の各艦が放つ対空砲火は既に限界まで分散し、飽和させられきっていた。ビック・ドム隊はろくな迎撃を受けることもなく、中距離からビーム・バズーカの狙いを定める。
巡洋艦の艦砲にも匹敵する大火力の高初速ビームを、矢継ぎ早に撃ち放った。
艦隊に回避機動の猶予などない。太い光弾が次々と艦体の舷側を捉えては食い破り、3発、4発と立て続けに浴びたサラミス改級駆逐艦の内部に誘爆の炎が走ると、200m近い巨体は内側から膨れ上がり、跡形もなく消し飛んだ。
周囲すべての僚機を撃墜されて完全に孤立し、武装もろとも右腕を失いながらハイザックが単機、よろめくように逃げまどう。そのハイザックの背中を、一転して猛追するドラッツェF3が狙った。
MA級の圧倒的な加速力で瞬く間に距離を詰め、ハイザックの背後からビームサーベルを振りかぶる。
だがその前方にいきなり出現したRGM−79R『ジムU』が、すんでのところでドラッツェの光刃を止めた。
それはこの戦場に登場した、初のジム系MSだった。
戦場外からにわかに参戦したRGC−80SR『ジムUキャノン』とジムUの小隊が猛射を放ち、ハイザックを追おうとしていたルスラン・フリート追撃部隊の出鼻を挫く。
片脚を撃ち抜かれたドラッツェF3が錐揉み状態に陥って離脱し、突っ込んできたザクUF3は肩盾でビームライフルを弾きながら戦闘機動しつつ、果敢にザクマシンガンの連射を返す。
だがそれ以上はジムU部隊が放つ巧みな射撃を警戒して、生き残りのハイザックを確保しながら後退へ転じた新手を深追いできない。
戦場の中心では、まだ生き残っていた最後のサラミス改級巡洋艦がいよいよ集中砲火を浴びて閃光を放ち、小さな太陽となって轟沈するところだった。
単機で2機のガルバルディβを屠った、あのゲルググが信号弾を放った。宙域に鮮やかな華が咲く。
ルスラン・フリートの大MS部隊は逃げ去るジムU部隊を鷹揚に眺めつつ、整然たる隊伍を組みあげていく。そして凱旋するように、ゆっくりと後退を開始した。
去り行く編隊の先頭から、ゲルググが頭部を巡らせる。遠方から撮影していたカメラの主を嘲るように、数百キロメートルの距離越しに真正面からモノアイを向けたところで、映像は止まった。
「――以上の戦闘で、第450戦隊は壊滅した。このときP−04外縁警備に就いていたものの、独自の判断で救援に急行したサブリナ・ミケリヤ少尉率いる哨戒部隊が、かろうじて生き残りのMSを1機だけは救出することが出来たのは幸いだった」
指揮官型ゲルググの望遠映像で止まったままの画面の前に、ソギルが踏み出す。
「敵はほぼ奇襲に近い一個正面への侵攻に、これほどの大部隊による即応態勢を整えていた。つまり、今回出てきた敵の数倍の予備兵力があるということだ。だが、これとて敵の全力には程遠い。実は同時期に、我が軍は他の正面からも『聖域』への侵入を試みていたのだ」
再び航路図と編成表が動く。
連邦軍の艦艇数隻が各個に別々の多正面から、『聖域』への侵入を図って前進していく。しかしいずれの正面でも、わずかな時間の間に出撃してきた数倍の敵MS隊による迎撃を受け、ろくに戦闘もせずに追い返されてしまった。
「今回の一連の作戦で確認された敵MS隊の勢力から、我々はルスラン・フリートの現有戦力を再計算した。その結果、我が軍のジムUやハイザックに匹敵する、ザクUF3級の水準以上のMSが、少なくとも500機以上との分析が得られた。
これは我がP−04に前方展開する連邦宇宙軍部隊が有する、ボール・タイプを除く全MS戦力の3倍近い」
「…………。……は?」
上官たる准将の面前にある戦隊司令とは思えないアホ面で、リード中佐が呆然と呟いた。だが普段なら上官をたしなめる立場にいるカミラ少佐も、ただ青くなっているだけで何も言えない。 タニアがソギルの言葉を継いだ。
「現在までに、この新サイド4暗礁宙域から地球圏の各地へと、ジオン系MSの密輸が十件近く確認されています。
今までに押収・確認されている密輸MSの多くはザクUF3のような新型機ではなく、ザクUF型やF2型といった旧型機が中心ですが、そのほとんどがジオン本国での製造記録を持たないものです。
旧ジオニック社の正規品ではない、デッド・コピーのレプリカMS――形態は不明ながら、ルスラン・フリートは独自にMSを開発し、一定規模での新規生産を行うだけの能力を有している。そう結論せざるを得ません」
「…………」
リードがそのまま押し黙る。一年戦争後にも決して絶えることのない「ジオン残党軍」の脅威。旧ジオン公国軍の人員と装備だけではなく、戦後に生産されたレプリカMSがその戦列に加わっている、との噂話は連邦軍でも絶えることがなかった。
だがこれは、規模の桁が違い過ぎる。かつてのデラーズ・フリートですら、少なくともMS隊の物量はこの水準には遥かに及ばなかったのだ。
一方でリドリー・フランクス大尉とジャクソン・ヘイズ大尉の二人は溜息を吐きながらも、静かに現実を受け入れていた。
これらの情報の大半はすでに、パブリク改級哨戒艇で任務中のトラキアへの合流を敢行したサブリナによって密かに、そして細部に至るまで、長くP−04から離れていたトラキアとアルマーズへ伝えられていたものだった。
トラキア隊にとって今回のブリーフィングは、入手可能なあらゆる情報資料を収集・分析しうる上級司令部から公式に与えられる情報とそれらの「答え合わせ」と、今後、自分たちがそれらを知っていることをどこまで公言できるのか、を測るためのものに過ぎない。
「敵さん相変わらず、絵に描いたように見事な待ち伏せだねえ。教範に載せてやりたいよ」
「ですがサブリナも相変わらずいい仕事をしています。悪いのは男癖だけではないらしい」
他人事のようにリンとマコトが小声で呟くと、隣に立つキーガンは唇を噛んで俯いた。彼もまたルスラン・フリートの旗艦部隊に殲滅されていった450戦隊のエース部隊と同様、ペズンの教導団出身者だったからだ。
「し、しかし――いくらなんでも、これほどの戦力差など前代未聞です。一年前にヨランダ・ウォレン准将が自ら率いてこられた大規模な増援を受け、今や我が新サイド4駐留艦隊の勢力はかつての比ではないほど充実しております。
だというのに敵は、かつてのデラーズ・フリートに数倍するMS戦力を整備してきた。……一体どうやって……? ま、まさか。エゥーゴ? エゥーゴを支援しているという月のアナハイム・エレクトロニクスが、奴らに500機の大MS部隊を提供したのかっ!?」
「アナハイムも、そこまで暇ではないと思いますが……」
「とにかくっ! 現状は、まさに危機的状況です! すでに事態は、我が新サイド4駐留艦隊のみで対処できる範疇を大きく超えつつあります! 増援を……ティターンズが約束したという増援部隊の、さらに大幅な増強を要請しなければ!」
「心配はご無用。ティターンズはすでに、一騎当千の『特殊部隊』の派遣を確約しました」
戦闘記録映像を含む豊富な資料で作られた発表で取り乱すリードに、タニアが明言した。マコトが後列で眉を動かす。
「ほお――」
一騎当千。タニアが口にした景気のいい言葉に、マコトは七年前のア・バオア・クーで遥か遠方に見た、狂奔し絡み合う閃光の渦を思い出す。
噂では聞いていた。あの伝説に匹敵するニュータイプ兵を人工的に育成し、同時にその異能に相応しい超兵器を開発しようとする試みのことは。
「ニュータイプ研究所」なる怪しげな組織が地球圏にいくつも乱立し、戦災復興を最大の課題とする戦後世界で多額の予算を獲得しながらこの宇宙にも跋扈していることは、マコトもとうに知っていた。
ティターンズがその幾つかを抱き込みにかかっていること。そしてルスラン・フリート側もその幾つかを攻撃し、どうやら殲滅に成功しているらしいということも。 「詳細は申し上げられませんが、あの『アムロ・レイ』が最新鋭のニュータイプ専用機に搭乗したうえ、数人がかりで我々の援軍に来るようなもの、とご理解ください。今やニュータイプ研究において、我々連邦軍はジオン残党軍の遥か先を行っております。
新生ニュータイプ部隊が敵の前衛を突破して中核を撃破すれば、あとの残兵なぞは烏合に過ぎません。我々が団結して最善を尽くせば、勝機は十二分なのです」
「おお! なんだ、それなら安心ですな。そういえば我々は先の戦いでルスランのニュータイプらしき敵にも遭遇しましたが、我がマカッサルの精強なる対空砲火で撃墜してやりました! いやあしかし、昔は気合を入れてやったものですが、あのアムロくんも出世しましたなあ」
どうでもいい武勇談をここぞとばかりに混ぜ込みながら満面の笑顔を浮かべるリードを前に、ソギルもタニアもニュータイプ部隊の派遣と引き換えに、ティターンズ一般部隊の増援がなくなった件については口を閉ざした。
その名を聞くだけで、味方にこうも大きな安心を与えてのける。本人が戦場へ出なくなってもう7年以上になるというのに、アムロ・レイのネームバリューは今なお実に凄まじい――マコトは無表情に眼前の光景を見つめていた。
「我々はこのティターンズからの増援部隊を交えて、新サイド4駐留艦隊の総力を挙げた、ルスラン・フリート討伐を目的とする任務部隊を編成します。エゥーゴの戦艦も宙域に入った今こそ、諸君らの一層の奮起を期待します」
そのエゥーゴ艦がティターンズの1個戦隊を殲滅した情報は第223戦隊相手にはおくびにも出さず、タニアは姿勢を正して冷たくソギルへ向き直った。
「ではソギル准将、よろしいですね? ――じ後の編成及び作戦計画は追って伝えます。各艦はまず整備と補給、そして乗員の休養に努めるように。それでは、解散とします」
ソギルが頷くやそう宣言して、タニアが踵を返す。リドリーが目の前を通る彼女と視線を合わせないよう目を逸らした。マコトとタニアの目が一瞬合うが、タニアは未練も見せずに視線を切り、そのまま会議室の外へと消えた。
「任務部隊……となると、艦隊決戦ですか。いずれにせよ、まずは本艦MS隊の損耗補充ですな」
「マイデン大尉は全治1か月と聞いたぞ? 大破2機に中破4機、機体とパイロットの都合、どう付けたものか」
リードとカミラも席を立つと、キーガンもその後ろに続いて退室していく。会議室には手元の資料を眺めるソギルと、トラキア隊とアルマーズ隊だけが残った。
扉が閉まり、場に残ったのが一年戦争以来の『身内』だけになったところで、ソギルはふっと破顔してその場の四人を見渡した。
「――お帰り、諸君。P−04から離れたこの半年間、皆、本当によくやってくれた」
かつて一年戦争当時、この場の全員がトラキアに乗って戦った。
ルウム戦役で惨敗し、かろうじてルナツーへ後退した連邦艦隊と、そこに収容されたわずかなルウム難民。負傷し重体に陥ったソギル大尉は大手術の末、奇跡的に回復するや行動を開始した。
ソギルは自ら難民たちから志願兵を募って部隊を編制、混乱するルナツーで完成間近だったサラミス級巡洋艦トラキアを受領した。
それが第223戦隊――トラキア隊の始まりだった。
そしてトラキア隊は連邦軍の他部隊同様にMSを持たないまま、圧倒的優勢を誇るジオン公国軍を相手に地獄のようなゲリラ戦を繰り広げた。
トラキアは単艦ソギルの指揮下、ジオン艦隊の目を巧みに掻い潜り、地球圏の戦場を縦横無尽に泳ぎ回った。あらゆる手段を使ってジオン艦艇を撃沈し、あるいは接舷して白兵戦で制圧。
劣勢の連邦宇宙軍がジオンに仕掛けた各種のゲリラ作戦の中でも、トラキア隊は傑出した戦果を挙げていった。
地球侵攻作戦を展開するジオンの伸びきった後方連絡線は大いに脅かされ、事態を重く見たジオン宇宙攻撃軍は、あの『赤い彗星』までもを受け身の対ゲリラ戦へ投入せざるを得ない状況に至る。
だが単艦とは信じられないほどの戦果を挙げていながら、トラキア隊は無名のままであった。理由はいくつかある。
一つは、手の内を隠したため。
徹底して存在を秘匿しながら行動し、いったん襲った敵は確実に殲滅することで証拠隠滅を徹底。トラキア隊は終戦までジオン軍に対してその正体を隠し通した。
戦後に押収された公国軍関係部署の文書からも、トラキア隊の活動を認知していたと思しき記録は見つからなかった。
ただトラキア隊が当時活動していた宙域で、「触雷」「原因不明の事故」などによって喪失したMSや艦船の記録が残るのみである。特殊作戦部隊として考えれば、無名は有名に大きく勝る。 もう一つは、連邦軍内部の力関係。当時の連邦軍は現在にも増して著しく硬直した、教条主義的な組織であった。艦隊主力がろくな戦果も挙げられないままルナツーに逼塞していた状況下である。
どう考えても主流とは言い難い、怪しげな難民上がりの部隊による不透明なゲリラ戦での不可解な勝利など、とうてい組織として誇れるべき戦果とみなされる状況にはなかった。ただ薄気味悪いだけの存在とすら見なされていた。
そして何より決定的なのは、誰もが沈黙を守ったためだった。
トラキア隊は一兵卒に至るまで、誰もが堅く秘密を守った。ソギルという強烈なカリスマに率いられ、年端もいかない少年少女を多く含む新兵を主力としながら鉄の規律を持って戦ったトラキア隊は、当時の連邦軍にとって明らかな異端だった。
その異様さに脅威を感じた何人かの士官が団結の背景を探ろうとしたが、その結果は芳しくなかった。激しさを増す戦闘の中である者は戦死し、またある者は事故死して、そうした試みは自然消滅していった。
だから結局、今でも部外者には知られていない。トラキア隊がそこまでして戦い、果たそうとした真の目的が何だったのかは。
一年戦争が終わり、トラキア隊が旧ルウム暗礁宙域でジオン残党軍と戦い、のちにルウム農協となった難民の復興活動を支援してきた戦後の7年間も、それは変わらなかった。
連邦軍内部における、トラキア隊の扱いも変わらなかった。ジオン残党の巣窟と化した暗礁宙域でわざわざ危険な任務を買って出て、旧式装備のまま戦後もひたすら戦い続ける、腕は確からしいがかなり頭のおかしい連中。
彼らを知る連邦軍の大半から、トラキア隊はそう思われていた。
だからこの連邦中央の目も届かない暗礁宙域で敵を討ちつつP−04という城を築き、彼らは静かに爪を研ぐことが出来ていたのだ。
――半年前、突如として予備役から復帰した老将、ヨランダ・ウォレン准将がP−04へと大軍を率いて来るまでは。
ヨランダはそれまでソギルの支配下にあったP−04に介入し、そこかしこに連邦軍中央の橋頭堡を築いて「目」を入れた。
指揮系統を抑えてトラキア隊であった第223戦隊を改編し、ソギル子飼いの歴戦艦であったトラキアとアルマーズをP−04から引き離した。
ヨランダの率いてきた大軍は不気味に存在感を増しつつあったルスラン・フリートに対する地球連邦の備えであると同時に――あるいはそれ以上に、ルウム農協と結びついたソギル一党を抑えるための憲兵であることは誰の目にも明らかだった。
だからトラキアとアルマーズはこの半年、新サイド4暗礁宙域で行動していながら、P−04へは近寄ることも許されなかったのだ。
だが今、その構図が崩れた。他ならぬ宿敵、ルスラン・フリートが見せた、予想を大きく上回る成長によって。
「リドル曹長のことは残念だった」
「また置いていかれてしまいました」
淡々とソギルに答えながら、ヘイズとリンはその瞳に黒い炎を灯していた。マコトはよく覚えている。それは一年戦争の日々にトラキア隊の誰もが共有していた、復讐の暗い炎だ。
「ですが今、我々はここに帰ってきました。また一つ『約束の日』は近づいた。約束を果たすことが出来れば、リドルに――今まで倒れていったすべての同士に報いることができます」
「リン君、逸ってはならない」
ソギルは静かに呟いた。傷面の中で剥き出しになった異形の右目とともに、優しく、諭すように。
「必ずや、我々は約束を果たす。しかしまだ、今日ではない。明日へと繋ぐ道をひとつひとつ、築き上げていかねばならない。――諸君。これからも、共に歩んでくれるな?」
「もちろんです、閣下」
「…………」
ヘイズとリン、そしてリドリーとマコトが頷くと、ソギルは満足げに微笑んで視線をリドリーとマコトへ向けた。
「さて。トラキアにはこのP−04で補給を終えたのち、MS格納庫の改修工事を予定している。格納定数を現行の4機運用から、マカッサルと同等の6機運用に移行してもらう」
「……!」
寝耳に水の発言に、マコトが思わず眦を上げた。当のリドリーもさすがに予想外だったのか、押し黙ったまま上官の顔をじっと見返す。
「リード君の方には後で私から話を通しておく。機体の手配と人選についても問題は無い。長らく待たせてすまなかったが、ようやく予算と工廠の目途が付いてね。モジュールはすでに揃っているから、工期は10日ほどの予定だ。
フランクス大尉。その間、乗員諸君にはゆっくりとP−04の休暇を堪能してもらいたまえ」
「い、いえ。結構な話ではあるのですが、ずいぶんと、その……急な話ですな」 「ルスランの戦力増強が急激だからね。トラキアにはこれからも戦力の要になってもらわなくては困る。艦載機戦力の増強は必須だよ。
いくらマコト君が一騎当千の強者でも、彼女一人にすべてを負わせるわけにもいかない。さっきの映像のゲルググが出てきたときは、君に押さえてもらいたい――その露払いが出来る態勢ぐらいは整えさせてもらいたいのだ」
「やめてください、閣下。私はエースですらないんですよ」
マコトが呆れたように肩を竦めてみせると、隣でリンが笑った。
「マコト、どしたの。今日、なんかずいぶん疲れてない?」
「そりゃまあ、なにぶん連戦でしたからね――実は私、か弱い乙女なもので」
「うわべの撃墜数に関係なく、間違いなく君は我々の切り札の一人だ。だからこそ、今は休んでもらわなくては困る。特に君はP−04を離れてから、もう半年も大切な人に会えていないのだろう?
それは駄目だ。私も責任を痛感している。混乱が重なった結果とはいえ、人として許されない」
にこやかに微笑むと、ソギルはリドリーに視線を移した。
「だから、フランクス大尉。マコト・ハヤカワ准尉に、今日から――いや、今すぐ10日間の有給休暇を付与したまえ。
P−04基地司令として命ずる。これから退艦した後は別命あるまで、マコト・ハヤカワ准尉のトラキアへの接触を禁ずる。雑事に煩わされることなく一私人として、純粋な休暇を楽しみたまえ」
「…………。……は?」
開いた口が塞がらなくなったマコトの横顔を見るのはいつ以来だろうな、とリドリー・フランクス大尉はぼんやりと思った。 投下します。
今回ようやく濡れ場が入りますが、女×女(非百合)で挿入無しです。 「――まずいことになった」
長期にわたる哨戒任務から久々の入港を迎え、サラミス改級巡洋艦『トラキア』の艦内は上陸準備に湧いていた。その中でも特に、MS格納庫近辺の喧騒はひときわ激しい。
MS格納庫の大改装計画が発表されたことで、ほとんどがMS隊の領域である近辺の居住区画や倉庫までもがにわかに「立ち退き」を強いられる羽目になったからだ。
浮かれ騒ぎながら物資を運んで右往左往するMS隊の要員たちの喧騒を背中の壁越しに感じつつ、MS隊長マコト・ハヤカワ准尉は疲れ切った顔に手を当てていた。
「まさかP−04へ入港早々、MS格納庫の大改装とはねー。まあ確かに戦力増強も必要だったし、ルスランやエゥーゴがここまで押し出してきたこのタイミングでなら、
このトラキアの強化施策だろうがあの因業ババアも文句は言えない。この周到さと詰めの早さは、さすがに閣下の仕事だわ」
小部屋で一人うなだれるマコトの前で、MS整備班長ウェンディ・アーデル曹長は楽しげに笑いながら、手元の荷物を整理している。
「で、マコトには閣下自ら強制休暇処置だって? ちょうど良かったじゃん。こっちの方は任せて、半年ぶりにゆっくり会っておいでよ」
「簡単に言ってくれる……」
「いつかは向き合わなきゃならなかったことでしょ?」
頭を掻き、重たい息を吐きながら、マコトはようやく顔を上げた。強引に話題を変える。
「それより今いちばんの問題は『彼女』をどうするか、の方だろう。格納庫が改装されるのなら、ここにはもう置いておけないぞ」
「あー」
言われてウェンディも、その方向に目を向ける。
二人の視線の先――マジックミラー加工が施された防弾強化ガラスの壁の向こうに、四肢を縛られた白い裸身が揺れていた。
そこにひとり拘束されているのは、銀色に輝くロングヘアを無重力に漂わせながら、汗ばんだ白い柔肌とたわわな乳房を惜しげもなく曝け出した美少女だった。
長い髪を乱して肌のそこかしこに赤い愛撫の痕を残した彼女は、向こう側からはただの鏡面にしか見えないであろうこちら側を、単なる敵意だけではない奇妙な熱の籠った視線で睨み続けている。
先の大規模戦闘の戦場からマコトが回収した、真空の宇宙空間で淡い光の層をまといながら、傷一つない裸身で漂っていた少女だった。マコトは自身の経験とあの戦闘の経緯から、その正体を容易に想像することが出来ていた。
彼女は敵兵だ。それも悪名高きジオン残党組織、『大ジオン仏道』の。
マコトは回収した彼女を密かにトラキア艦内へ収容、ウェンディと自分だけが知る、MS格納庫内に隠された秘密の小部屋に拘束した。
そして彼女が目を覚まして以来、ウェンディと二人がかりで尋問、そして凌辱――あるいは保護と介護を続けてきたのだ。
疲れを隠しきれない表情で、マコトはその少女をじっと見つめた。 「おのれ、仏敵ッ……ビームで私を焼いておきながら、生きてこの場に捕らえて辱めるとは。この妖術、やはりお前の仕業だったか。……妖怪変化め……ッ!!」
「可愛らしい声だ。そそるな」
これ見よがしに地球連邦軍の軍服姿を見せつけながら、マコトは不敵な表情のまま、拘束された銀髪白肌の爆乳美少女へゆっくりと歩み寄った。
背後から抱き着いたウェンディが思うがままに豊かな乳房を握りしめると、手指の隙間から雪のような白さと桜色の暈がはみ出て溢れる。
「いやらしい雌だ。これでジオン残党は無理だろう」
マコトは邪悪に笑いながら、少女が晒す太腿の内側を、膝上から指先でつうとなぞり上げた。少女はその刺激だけで少女は苦痛と快楽のはざまに落ちて、身をよじりながら大げさなほどに震えてのける。
「くっ、くうっ……!」
「戦闘に敗れて乗機を撃墜され、鬼畜生と罵ってきた敵兵の眼前に吊るされ。捕らわれの身となった裸身を晒されながら、この女の部分はこれほど淫らに湿らせている。
ふふ、そうか。武名名高い大ジオン仏道の女は、連邦の男に敗れて捕らえられながら犯されるのを、それほど心待ちにしていたのか」
「…………!」
太腿の半ばを越えて登りあがったマコトの指先に触れる液体は、少女の汗だけではない。そのさらに上――股間の秘裂から薄く粘ついた透明な液体が溢れ、滴り伝わっているのだ。
「何を考えているのか分かるぞ。お前を墜とした男。戦場でお前より強いことを示した男に、犯されたいのだろう。
かつて敵として憎み、今までさんざ屠ってきた連邦の男に犯され、その強い男から蹂躙されるような獣の種付けを受けて、その子を孕ませられたい。
魂の芯ではそう強く願っているから、お前の卑しい『女』は荒々しい『男』の訪れをこれほど強く待ち望んでいるのだろう?」
「そ、それは……!!」
傲岸不遜な態度を崩さない、連邦の女軍人。
先の戦闘で彼女のゲルググをビームライフルで貫いて火球へ変えたのは彼女でないにしても、自ら放った必殺の狙撃を、人智を超えた何か異常な力で無力化してのけた、
あのビーム・スプレーガン使いのジムUを操っていた『妖怪変化』本人であることは、もはや疑いようもなかった。
その妖怪変化へ反論しようとして、少女はそこで口ごもった。自身の肉体が置かれた現状は、まさにこの女に言われるとおりだったからだ。
体が熱い。
男が、欲しい。もう誰でもいい。
もうとにかく誰でもいいから、このビームと核の炎で全身を洗うように焼かれて濡れそぼった肉穴を、猛り狂った雄の怒張で一度に貫いて、飢えた雌穴を埋めてほしい。
魂消るような雌獣の絶叫を上げながら喘ぎ狂い、膣奥を何度も叩きながら激しく抜挿された末、濃厚な熱く子種汁を子宮目掛けて注ぎ込んでほしい――。
たとえその合体と受精によって、自らの肉体が取り返しのつかない変質を迎えてしまうとしても。
今までの人生で一度も感じたことのなかったその異様な欲望が、衝動が、男たちにそうされる自分の鮮明なイメージとそれに対する羨望までをも伴って、己の内側を埋め尽くしているのだ。
あまりに異様な意識を自認しながら、それでも少女はキッと目の前の仇敵たちを睨んで吠えた。
「こ、この異様な熱は……そうか。おのれ、連邦の淫獣どもめっ。この私に、淫欲の麻薬を盛ったのだな!?」
青く澄んだ瞳から涙の粒を零しながら、頬の上気しきった美少女が悲痛に呻いた。
大ジオン仏道の教義に身も心も捧げたまま、彼女の美貌を求める男たちを一人として顧みることなく過ごしてきた彼女にとって、この異常な現状はそれ以外にはまったく説明のしようがないものだった。
女の性欲を異常に昂進させる媚薬――もはや人間を壊す麻薬の域まで達したそれらを、彼女らは自分に対して使用したのだ。そうに違いない。
連邦に属する者すべての魂は、人に非ざる畜生道へと堕ちる。連邦兵、ましてその中でも鬼畜外道を極めたこの妖怪変化ならば間違いなく、それぐらいのことは平気でやる。彼女はそう信じていた。
言うまでもなく、捕虜への薬物投与は南極条約で禁止されている。
というか実際のところマコトとウェンディは彼女に対して、何の薬物投与も行っていない。拘束して移動させる以外、ほとんど触れてすらいなかった。
彼女の内面を焼き尽くしている異常なまでの発情は、すべて完全に自発的なものだった。
だが、マコトは曖昧な――何も知らない者の目からは不気味にも見えるであろう傲慢な笑みを浮かべたまま、少女から浴びせられる強烈な非難と冤罪を否定も肯定もすることなく、ただ不敵に冷たく言ってのけた。 「ふふ、いい目だ。……だが、残念だったな。お前のモビルスーツに股ぐらからビームを挿入し、一気に核の炎に燃え上がらせて墜としたのは、男ではない。女だ」
「何を……?」
「そして我々誇り高き地球連邦軍に、ジオン残党の雌豚ふぜいを慰めてやるためだけにくれてやれるような、安い男など存在しない。思い上がるな。つまり、……分かるか?
お前の女陰がどれほど雄欲しげに雌汁を垂らそうとも、その虚ろな洞穴は今後永遠に満たされることは無い。膣奥を突かれる快楽に咽び泣くこともなく、子種汁を注がれることもなく――ただ虚しく乾いたままで、そこに在り続けるのだ」
「…………!!」
もし万一自分が戦いに敗れても成仏を果たすことなく、敵の手に落ちた場合の結果を想像したことはあった。
女に飢えた連邦畜生道の兵たる男どもが殺到し、自分は裸身に剥かれて容赦なく代わり代わりに輪姦され、戦場で猛った敵の男どもの欲望のはけ口となって終わることのない凌辱の中で、襤褸切れのように使い捨てられるのだろうと。
今の自分は、そのおぞましい結末さえもを望んでしまっていた――だが目の前の連邦軍人の女は、その予想図をあっさりと否定してのけたのだ。
部屋は小さく、完全に閉ざされている。自分の背中で乳房を揉む女と、目の前の女の二人以外に人の気配はない。自分を犯そうと欲望に燃えて待ち構える下卑た男たちの気配は、どこにも感じられないのだった。
「そ、……そん、な……っ……」
もはや自分が敵の男たちに犯されることなど無いのだと察するや、魂の渇望が言葉となって小さくかすれながら、少女の可憐な唇から零れ落ちた。がくりと肩が落ちる。
意識から本能へと現状の理解が進んだ少女の瞳から、今までと異なる理由で――屈辱ではなく絶望の涙が新たに溢れだしていた。
その間も搗きたての餅のように柔らかな乳房を捏ねまわし、肩越しにその絶景を覗き込みながらたぷたぷと弄ぶウェンディは、その表情にだらしのない満面の笑みを浮かべていた。
今は俯いている少女が少し横を向けば、まったく緊張感のない緩んだ表情が見えてしまいかねない。膳立てが台無しだ。マコトがギッと睨みつけるとウェンディは小さく舌を出し、その表情を邪悪な凌辱者のそれに戻した。
気を取り直して、マコトが歩き出す。ウェンディと少女への前後を入れ替えながら、彼女への言葉を続けた。
「お前ごときの相手など、わざわざ男たちの手を煩わせるまでもない。女だけで十分だ。ふふ、どれ……。確かになかなかどうして、いい乳をしているじゃないか?」
「うっ!?」
マコトはぎゅうっ、と爪を立てながら乱暴に少女の右乳房を握りしめ、あらぬ形状へと変形させる。同時に正面へ回ったウェンディが左乳房を右手で下から持ち上げながら、その可憐な桜色の山頂部へと吸い付く。
さらに左の手指を濡れた秘裂へと侵入させた。くちゅくちゅと淫靡な水音を立てて、ウェンディの人差し指と中指が揃って少女を内側から広げていく。
「いっ、いやあっ!!」
熱のこもった悲鳴を上げて、少女は拘束されたまま身をよじった。長く伸びた銀髪が揺れ、少女の肩甲骨が背後に立つマコトの乳房に当たって弾ませる。
「お、女同士で、など……っ! おのれ、妖怪変化めっ。犯るなら一思いに、男どもを連れてきて犯れぇっ!!」
「馬鹿め。そんな安い挑発には乗らんよ。お前ごとき戦争犯罪人に、本艦の将来有望な男子諸君を恵んでやることは決してない。
盛りの付いたジオンの雌犬ごとき、女だけで相手してやると言っているのだ。
楽しませてもらうぞ――観念しておとなしく股を開くんだな」
「お、おやめなさいぃ……ッ!!」
少女は頑是ない幼児のようにいやいやをしながら首を振り、抵抗にならない抵抗を試みる。その理性は儚く、もはや風前の灯のようにも見える。
――だが、足りない。
拘束した美少女の肉体を二人がかりで思うがままに貪るという異様な環境の中で、マコトは奇妙な冷静さをもって判断していた。
だからマコトは言いながら軍服を、ウェンディはナース服を脱ぎ捨てていった。
マコトはさらに髪留めを解いて下着までもを脱ぎ捨てると、少女のそれよりはいくぶん小さくとも、形の良い見事な巨乳が二つぶるりと震えて揺れた。
虜囚の身となった銀髪の美少女にも劣らぬ美貌を惜しげも無しに曝け出しながら、二人の雌は上気しきった汗ばむ白肌へと自らの肌を合わせていく。 「んッ……ンンッ、ンンウウゥッ!!」
乳房に見合った大きさの乳輪を左右から潰して搾り出すように揉みながら、マコトは自らの乳首を少女の勃起しきった乳首に合わせて突いた。
今まで巧妙に直接攻撃を避け続けてきた、乳房でもっとも敏感な部分をここで攻められて、少女はそれだけでびくんと背中を跳ねさせる。
マコトはそこで少女の後頭部を押さえ、一気に唇を奪った。そして文字通り有無を言わさぬまま歯の隙間から舌を流し入れ、少女の舌を捕らえて搦める。
くちゅくちゅと唾液が混ざり合い、唇から飛び散った。その間もマコトは少女の乳房を揉みしだき、ウェンディは屈んで彼女の秘裂に舌を入れていた。
さらにウェンディの右手が回り込んで少女の尻穴を攻めると、狂暴な愛撫の連鎖が少女の思惟を貫いた。
「――ッ!!」
呼吸が止まるほどの長い接吻のあと、ようやくマコトは唇を離した。互いの舌から二人の唾液が糸を引いて伸びる。この間にもウェンディの愛撫は場所を変えながら続いている。少女の瞳は虚ろで、初めて経験する未知の快楽に深く溺れて喘いでいた。
とどめとばかりに、ウェンディの巧みな舌技が少女の陰核、その中心部を責め上げる。これがダメ押しの一撃だった。
「あッ、ああっ……、ああ、ああああああ〜〜〜ッ!!」
おとがいを反らして喘ぎ、絶頂したように少女が叫んだ。股間からひときわ大きく潮が吹き、肩から力が抜けて体が崩れる。
――やったか?
本当に絶頂へと達したならば、発動した『力』の残滓も霧散する。そうなるはずだ。
今だ、とマコトが冷たく目配せすると、ウェンディは隠し持った小さな刃物を少女の指先に当てた。少量の血液検査に用いられる医療器具だ。
虚ろな瞳で喘ぐ彼女からの死角に隠れて気取られぬよう、ウェンディがすっとその刃を走らせる。
だが鋭利な刃は少女の柔肌を切り裂くことなく、傷ひとつ付けられずに弾かれていた。
ビームの直撃や至近核爆発の暴威から女体を完全に守り抜いてのけた『力』の残滓は、まったく失われていなかった。
男と女のセックスであれば、ただ膣内射精を一度受けさえすれば、それだけで雲散霧消していたはずなのに。
不完全燃焼、か。
ギリッ、とマコトはきつく歯噛みする。とろんと蕩けた瞳で、もっと、と無言でせがむように次の愛撫を求めてくる捕虜の少女に向き直る。
己の内面を貫く暗い義務感を、捕虜の美少女に欲情して弄ぶ変態女軍人の仮面を被りなおしながら、マコトは次の愛撫を再開した。 「これだけやっても無理なのか。やはり、……女だけで鎮静化させるのは無理なのか。最終的には、男を使うしかないというのか……」
「ま、あたしは困んないけどね! いつでも発情マックスの爆乳かわい子ちゃんを愛しモードの犯りホーダイ、空気のようにレズセックスするエアーエッチの新世界、
ロック開けたら5秒でレイプな貝合わせ常時接続の最高にイイモビルスーツ整備環境でこいつぁユビマンキタッスね……まだまだヤリ足りないしぜんぜん飽きない。天国では?」
「私はもう疲れたから言っているんだ」
マコトは心底疲れ切った表情で頭を振った。
憔悴したマコトと裏腹に、ウェンディの血色は良い。肌艶はいつにも増して輝いて動きは軽く、しぐさと表情にも余裕がある。
MS整備班長として表で業務に当たっている直の時間以外は、ほぼ不眠不休でこの少女を何度も何時間もかけて繰り返し犯し続けていたはずなのだが、今なおこの状態を維持できてしまっている。
この旧友にして悪友はやはり人間ではないのかもしれない、と今更ながらにマコトはそう思う。
「まあ、それなら最後の手段だね。そのへんの若いの誰か適当に捕まえて、ちんぽブチ込ませちゃえば?
ゴム付けさせるか、それだけじゃダメで最悪中出しまでさせることになっても、気絶したあとですぐに避妊処置すればなんとかなるでしょ。
たぶん。それこそガチのゲイでもなけりゃ、あの娘が相手だったら大体誰でもおっ勃つだろうし――」
「それだけはダメだ」
大前提を崩そうとするウェンディの提案を、マコトは即座に却下する。
「ここで男を使えば彼女を確実に『安全化』することは出来るかもしれないが、男を巻き込めば、その彼に事情を知られることになる。私とウェンディ以外に、秘密を知る人間はこれ以上絶対に増やさない」
「ま、そうだよねぇ。……これ以上、あたしらの事情に巻き込めないか……」
「クライネ伍長の事例がある。男と合体させなくても、どこかに突破口があるはずなんだ。まずは態勢を立て直して、続ける。それでも、このまま無力化できないなら……構わない。むしろ、このままデータを集め続けるんだ」
静かに呟きながら、マコトはウェンディを睨んだ。
「彼女には、実験台になってもらう。彼女からデータを取っていけば、この謎めいた『力』の正体について、何か新しいことが分かるかもしれない。地球圏は――そして新サイド4は、これから荒れる。
エゥーゴの新型機に乗っていたあのMS隊長も、『力』の存在を知ったうえで彼女を拾いに来ていた気配があった。気のせいとは思えない。
おそらくほぼ確実に、私たち以外にも『力』について知ったうえで、利用しようとしている連中がいる」
「となると――」
「一年戦争で異能を示したアムロ・レイたち『ニュータイプ』が、連邦中央へ公に存在を知られてどうなったか。雨後の筍のように林立したニュータイプ研究所とやらで、何が行われたか……。
私は、……私たちは、ああなってやるつもりはない。これ以上、誰にも知らせない」
悪いことにあの少女はすでに、自分が不死の『力』を発揮したことを強固に認識してしまっている。
曖昧さに付け込んで誤魔化すことが出来たアイネのときとは違うのだ。今さら捕虜として表に出すことは出来ない。
上級部隊に引き渡して情報部が尋問することになれば、『力』の存在をすぐに広く知られてしまうことになるだろう。
マコトにとってそれは、絶対に避けなければならない最悪の破滅を意味していた。
マコトは部屋の一点を見ながら淡々と、しかし言葉に強い意志を込めながら続ける。
「私は私たちの平穏な未来を守る。だからあのエゥーゴ部隊は、どんな手を使ってでも確実に潰す。そのためには私たち自身も『力』について知る必要がある。
私たちは『力』の秘密を暴いて手元に隠すが、その存在を知って利用しようとする者たちは、敵だ。このまま闇に葬らせてもらう」 明確な殺意を込めたマコトの言葉に、ウェンディは目を眇めた。マコトはそんな彼女に視線を移し、そして目を伏せた。
「すまないと思っている。発表の見込みがあるわけでもない、こんな研究もどきに付き合わせて」
「別にいいさあ。かわいい女の子を犯りまくれるっていう、役得がみっちりだからね。あたしは堪能させてもらうだけだよ。マコトの守りたいものは、あたしが守りたいものでもあるし。――で? これからどうすんの」
「……家に連れていく。まだ使える部屋があったはずだ」
「ん? つまり、サブリナん家に入れるってこと?」
「ああ。とりあえず薬で眠らせて荷物に隠し、誰にも知らせずにここから連れ出す。ここに置いておけないなら、それしかない」
「やれやれ、やっぱりそうなるよねえ。ま、やってみますよっと」
ぱっと手元に麻酔薬を取り出し、ちょうどいいサイズの空のトランクケースを引き出しながら、ウェンディはにいっと笑った。マコトも苦笑する。
「よし。それでは、大ジオン仏道雌豚の出荷といくか」 「これで良し、と……」
同室のマコトが帰ってこないまま、アイネ・クライネ伍長は早々に荷物の整理を終えていた。何しろ彼女は乗機を撃墜されての宇宙漂流から、文字通り「体一つ」でこの艦に拾われた。
ここに来てから受け取った物資以外には、私物も官給品も本当に皆無だったのだから、荷造りが早いのは道理だった。
機体が大破した戦闘後、しばらくはトラキアに滞在していた同期の親友シエル・カディス伍長も、入港後は早々に母艦であるサラミス改級駆逐艦『アルマーズ』へ戻っていた。
せわしなく通路を行き交うMS隊の要員たちの多くは、既に上陸に備えて私服へ着替え終えていた。聞けばウェンディらほんの一部の要員のみが改修作業要員との調整のために残るものの、他はほとんど下艦させられるらしい。
だがそんな中でもアイネたちパイロット要員は、いつも通りのパイロットスーツのままだ。彼女らの愛機、RGM−79R『ジムU』を改修工事に入る艦から出して、指定されたP−04の基地MS格納庫まで移動させなければならないからだった。
「私の手荷物は、コクピットに持ち込むだけで足りちゃうなあ……」
大ジオン仏道の襲撃で撃沈された、初めて配属されたサラミス改級巡洋艦「アバリス」のことを思い出す。初の航宙展開に胸を躍らせながら荷造りしたカバンと私物は、もうどこにも存在しない。
彼女にろくでもない「歓迎」を仕掛けてのけた乗員やMS隊の先輩方もろとも、新サイド4外縁軌道で宇宙の塵になってしまった。つい数日前のことなのに、もう遠い昔のようにすら思えてしまう。
MS隊長のマコトはしばらく休暇を取らされるらしく、他の要員も多くは休暇の消化を命じられているようだ。部隊配属間もないアイネはトラキアから降りた先で整備期間中も何かしらの勤務を継続することになるはずだが、その内容はまだまったく分かっていない。
「遅いなあ、ハヤカワ准尉……」
移動開始までやることもなく、マコトが帰ってくる気配もなく、アイネは部屋から出てすぐそこにあるMS格納庫を覗いた。この区画が拡張・合理化されて、MSベッドが6基に増えるらしい。今ある風景も見納めだろう。
ぼんやり愛機を眺めていると、MS格納庫内へ貨物車型のエレカがゆっくりと乗り入れてきたのに気付いた。荷台の側面にアイネには読めない日本語文字で、「みけり屋」と表記されたロゴが入っている。
工事関連資材か何かの搬入かな、と思うアイネに向かってエレカは近づいてきた。停車するや降りてきた女性運転手に、アイネは目を丸くした。
「あれ、サブリナ少尉?」
「よっ」
アイネへ気安く話しかけてきたトラック・ドライバーは、サブリナ・ミケリヤ少尉だった。
前回の戦闘後から妙に忙しそうになり、なぜか非番時に姿を見かけることも少なくなったマコトに代わって、サブリナはアイネの面倒をよく見てくれるようになっていた。
だが作戦行動中に合流したゲンナー・ウェズリー少尉のRGM−79GSR「ジム・ゲシュレイ」とサブリナのRGC−80SR「ジムUキャノン」は、もともとP−04基地所属のため、
入港直前にトラキアから発艦して本来の拠点へ戻っていたはずだった。
「帰られたのでは……?」
「帰ったからまた出直して来たんじゃない。聞いたよ。トラキアは格納庫周りの大改装で、MS隊はみんな艦から下ろされちゃうんだってね。アイネ、トラキアから降りたらどこへ行くの? 下宿はもう取った?」
「えっ?」
連邦宇宙軍の軍人のうち、いつも決まった拠点や基地で勤務している者はともかく、複数の拠点間を往来する艦艇の勤務者は展開先の港にも下宿を持っている場合が多い。
トラキアはもともとP−04を母港としていたから、古参乗員の大半はそちらに下宿というか自宅を持っているようだ。
だが当然アイネにそんなものはないし、聞けばMS隊先任のイベル・ガルノフ軍曹、ロブ・サントス伍長やシュン・カーペンター伍長らにしても、P−04に下宿は持っていないらしかった。
「それが、迷っていまして……アバリスが沈んだ時に現金から何から全部なくしちゃいましたから、いま一文無しなんです。
だからホテル暮らしみたいなことも出来そうにないですし……基地の宿舎を借りる手続きが間に合わないなら、トラキアの中で工事しない区画になんとか泊めてもらえないかなあ、と思ってるんですが」
「よーし。それならアイネ、ウチに来なよっ」
爽やかな笑みとともに、サブリナはウインクしてのけた。 「ここ来るとき、P−04の小惑星本体の周りにプラント群が見えたでしょ? アレの一つにウチがあるの。ってか、ここの住民は大体そういう住み方してるんだけどね。この辺もともと、ルウム戦役でジオンが潰しきれなかったプラントの生き残りを集めて作った町だし」
「えっ。いいんですか?」
「もちろん。重力もあるし、農業プラントだから空気もいい。産地直送の新鮮な食い物も山ほどある! メシの旨さは保証したげる」
「え、ええ……で、でも……」
明るいノリで迫るサブリナに対し、アイネは申し訳なさが先立って話へうまく乗れずにいる。途中でサブリナは何かに気づいて勢いを緩めた。
「あ、そうだ……。ウチはマコトとシェアしてるから、アイネがウチに来たらマコトとも毎日顔を合わせることになるな。ごめん、アイネ。自分は仕事中なのに、休暇中の上官の顔を朝から毎日見るのが嫌なんだったら――」
「ぜひ入居させてください。よろしくお願いいたします」
「え? そ、そう?」
ガシッ、とサブリナの手を力強く取りながらアイネは即決し、鼻息荒く入居を申し込んだ。ぐっと拳を握りこむ。
これで毎日、ハヤカワ准尉の顔が見られる……。
煮え切らなかった態度から瞬時にいきなり切り替えてきたアイネに、サブリナは目を瞬かせながらも、すぐに頷いてのけた。身を翻し、格納庫内で思い思いに待機していた他のパイロットたちにも声を掛ける。
「オッケー、まずアイネちゃん確定! そんじゃあ、そこのシュン、ついでにロブとガルノフも! あんたらも下宿ないんでしょ? まとめてウチ来ない?」
「えっ、……俺らもいいんすか?」
「大丈夫! ウチ広いから、いけるいける。まあ、お前らはアイネちゃんの部屋から離すけどな!!」
一瞬固まりかけたアイネを素早くフォローしつつ、サブリナはどーんと来い、と大きく胸を張って見せる。
「じゃ、じゃあ、お願いします」
「う、うっす……オナシャス……」
「マジかー……」
「任せとけい!」
「が、ガルノフ軍曹と、カーペンター伍長とも一緒に暮らすのか……」
アイネにとって不可抗力だったとはいえ、危うく男女の関係を持ちそうになってしまった二人である。
前者だけでなく後者に対しても、先ほど出会ったルウム農協所属という予備役兵の、不穏な美少女パイロット二人組の言葉で搔き立てられた警戒心が沸き起こる。
あの二人の船団もP−04へ帰港した。おそらく、また会うことになるのだろう。
MS隊でもマコト以外のパイロットは比較的新参が多い一方で、整備兵らは古参がほとんどらしかった。話の流れにも、特に関心を示していない。
そんな空気の中だったから、整備兵たちの中でなぜか一人だけ凍り付いていたマリエル・エイムズ軍曹の存在は特に目立って、アイネの目に付いたのだった。 「あ、あの――エイムズ軍曹」
「……ひゃっ!? な、なにっ!?」
アイネが近づいて後ろから声を掛けると、なぜか水でも掛けられた猫のような動きで飛び退かれてしまった。
「良かったらエイムズ軍曹もご一緒に、サブリナ少尉のご自宅に下宿しませんか? エイムズ軍曹も下宿、ないんですよね?」
「……え? えっ……?」
普段の勤務中に見せていた鋭敏さが嘘のように、マリエルは不自然なほど魯鈍な反応を返してきた。遠慮しているのかな、とアイネは思う。
「あれ? マリエル、あんたは下宿持ってなかったっけ? 展開中に解約したの? まあいいや。まだ部屋あるから、あんたも来なよ」
「行きましょう、エイムズ軍曹!」
周りに知己の女性が増えるのは心強い。アイネから文字通りに背中を押されても、マリエルはまだ「ああ……」とか「うう……」とかよく分からないことを言っていたが、やがて機械仕掛けのような動きで顔を上げた。
「わ、分かりました……少尉、私も、お世話になります……」
「よーし。じゃあお前ら、トラックの荷台に荷物を載せな! ウチに荷物を下ろしたら、パイロットどもは移動先の格納庫まで迎えに行ってやるよ。マリエルは助手席な!」
「さっきから何なんだ、この騒ぎは……。サブリナ、ずいぶん大きな車で来たな?」
ようやくMS隊長が整備班長と、大型のスーツケースをふたつ引きながら顔を出してきた。怪訝そうな顔でサブリナのトラック・エレカを見ている。
「あー、マコト? いろいろ話が急だったから、ここに下宿持ってない子たちの行き先が無いだろうと思ってさ。あんたんとこのパイロット全員と、ついでにマリエルもうちで預かることにしたから、ヨロ!」
「…………」
アイネが聞いた限りでは、サブリナの自宅とはすなわちマコトの自宅でもあるはずなのだが、サブリナはどうやら完全に事後承諾で進めるつもりだったらしい。
マコトは少し顔に手を当てて考え込むしぐさを見せ、隣のウェンディと一瞬視線を交わしたものの、やがて諦めたように頭を振った。
「確かに、そうか……そうだな。やれやれ……これはどうやら、展開中と変わり映えしない休暇になりそうだ」
自嘲するように言い捨てると、ふっと微笑んで、マコトは部下たちに向き直った。
「すまなかったな、気を回してやれなくて」
「? は、はあ……」
マコトが見せた予想外の素直さに、ガルノフが毒気を抜かれたように答える。
マコトは表情を引き締め、全員に告げた。
「各人、サブリナの私有車へ私物の積載を終えたら搭乗せよ。各機所定の武装を携行のうえ、トラキア整備工事間の暫定拠点となる第113整備場まで移動する。移動後に自分とガルノフ軍曹は休暇に入る。休暇間の編隊指揮はサントス伍長が執れ――かかれ!」
マコトの号令で、MS隊が動き出す。スーツケース類を持ち上げ、大荷物を次々とトラックの荷台へ積載、固定していった。ジムUのコクピットに潜り込んで機体と全天周モニターを起動しながら、アイネは新生活への期待に胸を膨らませていた。 今回は以上です。
次の濡れ場は次々回になるかと思います。 サラミス改級巡洋艦『トラキア』の改修整備間にそのMS隊にとっての仮の宿となる第113整備場は、P−04の中核になっている小惑星本体ではなく、その周囲に多数が連結された生産プラント群の一つにあった。
「すごい。生産プラントが、こんなにたくさん……。コロニー何基分なんだろう?」
P−04中心から伸びる軌条へ沿うように、RGM−79R『ジムU』の4機編隊が宙域をゆっくりと飛んでいく。コロニー生まれでコロニー育ちの生粋のスペースノイドにとってもこの光景はさすがに壮観で、アイネ・クライネ伍長は思わず嘆息した。
P−04の中心とプラントの間、そして各プラントの間を繋いで結ぶ軌条には、いくつもの列車やコンテナが忙しなく行き交っているのが見える。あの中のどれかに、サブリナとその貨物車もいるのだろうか。
生産プラントとは通常、1基のスペースコロニーに対してその周囲に数十基が付属するものだ。コロニーから隔離された環境内において効率的な特化型の農工業を営むことで、住環境であるコロニー本体の内部では生産困難な各種の物資を提供する役割を担う。
プラント個々の外観は半径300メートル、全長600メートル程度の巨大な円柱状だ。回転軸から垂直に見ればほぼ正方形、水平から見ればリング状の採光窓を設けたほぼ真円となる。
この巨体が固定された中心軸を除いてコロニー同様に自転することで、円筒内に外向きの疑似重力を発生させている。回転し続けるその質量は戦闘艦などの比ではない。
これに比べればMSなどは豆粒にも満たないし、仮にトラキアのようなサラミス改級巡洋艦をプラントの横に置いたところで、縦に少し潰したドラム缶の横へ細い水筒でも置いたようにしか見えないだろう。
それでも半径で3キロメートル以上、全長に至っては30キロメートルをゆうに超えて文字通り桁違いの巨大さを誇るコロニーの威容とは、さすがに比べるべくもない。プラントひとつの体積は、コロニー・シリンダーの600分の1にも満たないのだ。
これほど小さいにもかかわらず、プラントがコロニーに対して不可欠な生産拠点としての大きな働きを示せる理由――そのひとつはコロニーと異なり、多層構造化によって床面積を稼げることだ。
スペースコロニーは通常、内部に階層構造を持たない。外壁部分が整備用などに多層化されて『地下空間』を構成する場合こそ多いものの、居住空間となる『地上』から空を見上げれば、そのまま円筒内部の反対側である『対岸』までを見通すことが出来る。
鳥類の領域でもあるこの広大な空間は大量の空気を貯め込むことで、コロニーという閉鎖空間における人工自然環境の冗長性を確保するとともに、長く人類のゆりかごであった地球上に近い景観を保つために重要な役割を果たす。
その一方でコロニーの有効床面積はその質量と容積に対して、著しく小さなものとなってしまっていた。
一方で居住用ではなく、農業用、工業用など各種の用途に特化したプラントは、多層化によって全く異なる内部構造を形成することが可能である。
バームクーヘンのように無数の円を重ねた階層構造に分割することで、プラントはその床面積を非常に大きく広げられる。これは農業用途においてはそのまま、収量に直結する作付面積の飛躍的な増大を意味する。コロニー内に緑地はあれども農地は少ない。
それでもコロニーがそこに住む数千万人の胃袋を自給自足していくことが出来るのは、プラント群によってもたらされる驚異的な高密度の農業生産力があればこそであった。
P−04はそうしたプラント群を、破壊された旧サイド5のコロニーから寄せ集めていたのだった。
第113整備場はそんなプラント群のひとつ、その回転せず静止した中心軸の一端に位置している。誘導灯に従いながら、4機のジムUは開いたゲート内のエアロックへと、滑り込むように進入していった。 外部ゲートが閉まり、エアロックを挟んで移動すると、トラキアのMS格納庫の3倍はありそうな空間に出た。10基ほどのMSベッドが並んでいる。
そこへ駐機されている機体にRGM−79GSR『ジム・ゲシュレイ』――ジム・コマンド宇宙戦仕様の独自改修型の姿を認めて、アイネは思わずうげっ、と呟いた。
ゲンナー・ウェズリー少尉機にはシュン・カーペンター伍長との模擬戦訓練へ無茶苦茶な割り込まれ方をされたり、ルウム農協所属の予備役の美少女たちからはわけのわからない因縁を付けられたりしてきた
アイネは正直、この機種に対してろくな印象を持っていなかった。
ジム・ゲシュレイは常備役部隊より予備役部隊で使われている局地戦機と聞いたから、ここも本来は予備役部隊の拠点なのだろうか。
その奥にはRB−79『ボール』もまとまった数が駐機している。こちらは戦闘用ではなく作業用らしいが、そのわりに頭部には一年戦争さながらの低反動砲が座っていた。
P−04はジオン残党ルスラン・フリートが活動し、連邦軍の侵入をまったく許さないという絶対防空圏『聖域』に近い。
自衛用なのだろうか、とアイネは思う。
アイネがトラキアへ回収された直後に発生した救援作戦で接触した、貨物船『リバティ115』とその護衛に付いていた民間警備会社のボール部隊を思い出す。
アシュリー・スコット予備上等兵、あのとにかく元気でちょっとおバカな少女は、P−04への到着後も元気にしているだろうか。
整備場内をノーマルスーツの誘導に従って進み、武装と携行コンテナを下ろして固定、最後にMSベッドへ機体を寝かせると、融合炉を落としてコクピットハッチを開く。
そのときにはもう整備場側の人員がわっと出てきていて、アイネが床まで下りる頃には、すでにMS隊長マコト・ハヤカワ准尉がぐるりと取り囲まれていた。
集まってきたのはこの整備所の整備士や管制員らしい服装の他にも、スーツ姿が合わせて十人以上。熱狂的に歓迎されているらしかった。
「マコトさん!? 本当に帰ってこられたんですね!」
「トラキアとアルマーズが入港したって聞いたとき、ひょっとしたらって思ってたんですが――こんなに早くお会いできるとは思いませんでしたよ!」
「恥ずかしながら帰って参りました」
神妙に敬礼してのけるマコトに、再び人波が興奮で揺れる。
その人員のほとんどがルウム農協の所属らしい。かつてトラキア隊はルウム戦役で壊滅したプラント群を一年戦争中から救援し、のちのP−04の復興に尽力したという。
ルウム農協の人々がトラキア隊の古参兵であるマコトへ向ける真っすぐな賞賛と敬意を自分ごとのように面映ゆく感じて、アイネは一人誇らしげに鼻をひくつかせた。
「推進剤の備蓄はたんまりです。予備部品も、ジム系ならどうとでも都合できます――兵站はお任せを。ここでお好きなだけ飛ばしてください」
「ありがとう。こちらの整備要員が来るから、整備作業はやらせてもらう。それと言いにくいが、私は今日からしばらく休暇なんだ。不在間の指揮は、こっちのロブ・サントス伍長に任せることになっている」
「そうでしたか! 留守はお任せを」
「いや、しかし――マコトさんとトラキアが帰ってきてくれたなら百人力ですよ」
その喧騒の中で群衆の一人が声を落とし、マコトの耳元で囁いた。
「――この半年、ここでの中央派への不満は鬱積する一方です。いったん火が付けば止まりません。トラキアとアルマーズが帰り、マカッサルは壊滅状態となれば、戦力均衡も変わります――『一声』あれば、我々はいつでも動けます」
「そうですか。我々はこの半年で宙域を外から見てきましたが、敵が強いのです。今は一致団結して、残党軍の脅威に備えるときですよ。皆さん、ゆめゆめそれをお忘れなきよう」
その一瞬だけ落ちた不穏な空気を、マコトは即座に打ち払う。空気が奇妙に沈み込んだが、それもすぐに世間話に切り替わって押し流されていった。話題が尽きることはなく、明るい大声での談笑が続いた。
マコトが部下たちに到着後の行動を指示するより早く取り囲まれてしまったため、マコトと他3人は人垣で完全に分断されてしまった。
マコトもこの出迎え集団を無下には出来ないらしく、部下たちへ向けて一瞬だけ視線を向けて顎をしゃくると、彼らを引き連れたまま整備場の出口らしき方向へと歩き始めた。
付いて来い、ということらしい。このまま外へ出るしかなさそうだった。イベル・ガルノフ軍曹はサブリナの貨物車の荷台に放り込まれていてここにはいない。3人の先任者であるロブはふっとため息をつくとシュンとアイネを従え、3人ばらばらに集団の背後を歩きはじめた。 「プラント中心軸内のMS基地か……元々は小型艇の発着場か何かだったのを改修したのかな」
アイネは物珍しげに周囲の空間を観察しながら歩いていく。
だが、そのマコトを取り巻く人員の中に見覚えのあるパイロットスーツ姿を二人見つけたとき、アイネの顔面からさっと血の気が引いた。シュンの表情も強張っていた。
「よっ、シュン。おひさ」
そして黒髪のポニーテールを揺らす、凛とした顔立ちの美少女――トモエと名乗ったルウム農協所属の予備役兵が、パイロットスーツ姿でシュンの真正面を塞いでいた。近い。
光線の加減によるものなのか心無し、笑顔にどこか凄みが宿っているように見える。
「ずっと会いたかったんだよ。こないだトラキアがP−04を出る前、最後に3人で会おうって約束してたの、覚えてるだろ? 私ら、ずっと待ってたんだぜ……?」
「と、トモエさん……っ……あ、あのときは……っ」
シュンは声にならない声を上げながら、後ずさって逃げようとした。逃げようとしたが、背後から誰かに組み付かれて止められていた。シュンの背中に重く大きく柔らかな、女の丸い肉の感触がふたつ潰れている。
「り、リタさん……!?」
「ふふ、シュン……トラキアを下りた先の格納庫まで一緒だなんて、運命みたいな『偶然』だね。これからいっぱい、一緒に『訓練』しようね……」
切なげな甘い吐息を交えて耳元で囁きながら、褐色の肌の美少女――リタ・ブラゼル伍長がパイロットスーツ越しにその豊かな乳房を圧しつけながら、シュンへと絡みつくように寄り添っていた。
シュンは必死に彼女を引き剝がしながら逃げようとしたが、その動きを読んでいたようなトモエに正面を塞がれる。完全な挟撃だった。
「ふッ」
「かは!!」
そして一瞬でシュンの懐へ入り込んだトモエが予備動作もなく、その鳩尾に拳をめり込ませていた。寸勁。声も出せずにシュンは崩れ、その左右へリタとトモエが入って支える。他人事のようにトモエが言った。
「あれ? どうしたんだよシュン、気分でも悪くなったのか?」
「まぁ大変! 私たちが介抱してあげなきゃ。すぐそこの部屋で横になろうね」
すべては一瞬の出来事だった。マコトに群がる群衆たちを壁に使って隠れながら、二人の少女はシュンの拘束を完了する。
「それじゃあ、私たちはここでお先に。あとはお任せ」
「きゅーけー、はいりまーす」
既に一行は格納庫を出て、ターミナル前の広場に入っていた。アリバイ作りの申し訳程度に静かに宣言するや、リタとトモエはそのまま彼を近くのロッカールームへそそくさと連れ去っていく。
いや――連れ去って行こうとして、誰かに行く手を塞がれた。
「あ、あなたたち……っ!」
「おやぁ? 誰かと思えば、新入りさんじゃないの」
すっとシュンから離れたトモエが向き合う。間合いを割って勢いよく踏み込んだアイネは、至近距離でトモエと睨み合った。
互いに手は出していないが互いに一歩も引かずに踏み込んだため、結果として互いの胴体で最も前方へ突出した部分――乳房がパイロットスーツ越しに接触してぶつかり合い、4つの柔らかな乳肉がぐにゃりと潰れた。
トモエもパイロットスーツの胸元に浮き出た見事に立体的な巨乳の輪郭線を誇らしげに見せつけていたが、アイネはその優に倍以上はある暴力的なまでの質量を武器に押し込んでいく。
アイネの爆乳はトモエの巨乳を完全に食ってしまいそうな勢いで圧倒していた。その勢いに、トモエは思わず半歩下がる。 「なっ、このっ……」
その目に一瞬浮かべた驚きと苛立ちを素早く消し去ると、再び口元に余裕を浮かべてアイネを見返してきた。大きく胸を張って肉のバンパー越しに押し合いながら、アイネはきつくトモエを睨みつける。
「いい加減にしてください。あなたたち、カーペンター伍長にそういうの嫌がられているの、分からないんですか」
「ええっ、嫌がられてる?? そんな……嫌じゃないよね、シュン?」
シュンを捕らえたリタは間近で彼に問いかけながら、身体を寄せて脚まで絡める。女体の肉感と艶やかな声色に反応させられた股間の膨らみを、直接触れない程度の微妙な距離で指先になぞられると、シュンは苦しげな呻きを漏らして仰け反った。アイネの眉間に皺が寄る。
「おいおい、何やってんだよ……」
ようやく事態に気づいたロブは呆れ半分、3人の巨乳・爆乳美少女たちに争奪される境遇への羨み半分で事態を傍観していた。これから何か積極的な介入が出来るようには見えず、実際、リタとトモエにもほぼ無視されている。
もしアイネがここで引けば、二人はこのままシュンを小部屋に連れ込んで『介抱』を始めてしまうだろう。
アイネは軽く切れながら、トモエの肩越しにリタを睨んだ。
「彼は私たちの部隊の仲間なんです。具合が悪くなったのなら、私が連れていきます。関係ない他部隊の人は、下がってもらえませんか」
この期に及んでとぼけて見せるリタへ鋭い視線を刺して牽制する。だが乳房でぶつかり合うトモエは、下から煽るような調子で挑発してきた。
「部隊は関係なくても、個人的には関係大アリなんだよなあ」
「何……?」
「私たち、こいつの女なんだよ。面倒見てやる義理があるんだ」
「そんな話、聞いてません。デタラメ言わないでください」
「ふーん。……アンタさぁ、処女でしょ?」
「んなっ!?」
かっと顔を赤くしたアイネに、トモエはすべて見透かしたような余裕の笑みを浮かべた。
「やっぱりねぇ。せっかくイイもの持ってても、ただの宝の持ち腐れ。いつおっ死ぬかも分からないこの戦場で、ヤらせてもくれない女が女気取りなんて、あり得ないでしょ」
「そ、そうだけど……そうかもしれないけど、違うもん」
「何が違うっての。おてて繋いだことぐらいありまーす、って?」
「じゃなくて、私と、カーペンター伍長は……っ!」
即物的、享楽的な肉体の繋がりだけで関係を語ろうとするトモエに強い反発を覚えながら、同時に、アイネの脳裏にシュンとの初対面で繰り広げた二人の痴態が蘇った。
得体の知れない劣情。感じたことのなかった快楽。合体への渇望。
それらがすべて遠のき、取り残された自分を襲った、凌辱の恐怖――それらの記憶のフラッシュバックは大洪水じみた威力で、アイネの意識の全てを押し流してしまった。
「うっ、あ、……あうっ……」
「…………? なんだ?」
奇妙なところで赤面したまま奇妙な停止を見せたアイネに、トモエが怪訝な視線を向ける。
そのときターミナルの物陰から怒りに張り詰めた少女の声が、場の全体を圧するように響き渡った。
「ちょっと、まだ話は終わってないでしょ! 待ちなさいよ!」
「だから、お前らと組むのはもう無理だってんだろ……しつこいな」
物陰から歩き出てきたのは、一年戦争当時そのままの旧式パイロットスーツに身を包んだ少女たちと、同じ服装の男たちだった。この整備場に駐機していたボールのパイロットたちか、とアイネは我に返りながら瞬時に推量した。
亜麻色のロングヘアをなびかせたスタイルの良い少女が、勝気そうな表情へさらに強い怒りの意思を込めて、立ち去ろうとする男たちへ掴みかからんばかりにしていた。
だが男たちはその表情の端に後ろめたさは感じさせながらも、つれなく彼女を遠ざけるように手を振り、近づく少女を払いのける。
「『亡霊』は女を狙う。お前らと一緒にいたんじゃ、こっちは商売上がったりなんだよ」
「気持ちは分からんでもないが、悪く思わねえでくれ。俺たちにだって生活があるんだ」
「じゃあ、あたしたちの生活はどうなるのよ!!」
「……知らねえよ。陸に上がるか、このへんの近海で雑用でもやればいいだろ」
「それじゃ稼げないから言ってるのよ! あと少し。あと少しなのに……っ!!」 「フィオ!」
食い下がる少女の後ろからもう一人、やはり旧式パイロットスーツ姿の、ぽっちゃりとした体型の少女が追い付いてきた。
「フィオ、もういいよ。もういいよ、仕方ないよ。これ以上は、やめよう……」
「マルミン――」
マルミンと呼ばれた可愛らしい顔立ちの温厚そうな少女が短いツインテールを揺らしながら、亜麻色の長髪の少女の片手を取って制止した。そのまま前に出ると、男たちの方へ向かって頭を下げる。
「あの、今まで本当に……ありがとうございました」
「……ああ……。さすがにもう行くな、とは言えねえけどよ……。十分気を付けて、安全にやるんだぞ」
「命あっての物種だからな。せっかくあのルウム戦役で死なずに済んだのに、こんなとこでゴミ拾いのために殺されてたらアホみたいだろ」
「っ!!」
男の捨て台詞に、長髪の少女はなお食い下がろうとしたが、豊満な少女にぐっと腕を掴まれてやむなくその場に留まった。去り行く男たちの背中を悔しげに睨みつけながら見送る。
「仕方ないよ、フィオ……。あの人たちにだって、生活があるんだもの。あそこに行けばまたあの『亡霊』に狙われると分かってるのに、来てもらうわけにはいかないよ」
「でも今のままじゃ、頭数が足りない……。あと少しなのに。このままじゃ、せっかくアレにたどり着けても、引っ張って帰ってこられない……」
「落ち着いて、もう少し待とう。そしたらあの『亡霊』だって、いなくなるかもしれないし……」
「いつ? いついなくなるっていうのよ? マルミンだって分かってるでしょ。そんなに待ってたらアレだって、もう二度と見つけられなくなるかもしれないのに……」
そこまで言ったところで、長髪の少女は5人のパイロットたちから見られていたことにようやく気付いた。悲しみと絶望から瞬時に怒りへ切り替えながら、悔し気に吠えたてた。
「は……? 役立たずの軍人どもが何見てんのよ。見せモンじゃないっての!!」
「ご、ごめんなさい……! この子、今ちょっと気が立っちゃってて。気を悪くしないでください……! ほら行こ、フィオ……!」
ふくよかな少女が腕ずくで連れ去るように長髪の少女を引くと、彼女は苛立たしげに舌打ちしながら退場していった。5人はただ呆然とそれを見送る。
トモエが呟いた。
「今の小娘……『境界漁民』だな」
「女を狙う亡霊、って言ってた……ってことは、まさか。また、アレが――?」
好みの美少年を狙って襲おうとしていた浮ついた雰囲気を一気に消し去り、にわかに戦士の空気を纏ったトモエとリタが、互いに視線を交わし合う。
「ご、ごめん……リタさん、もういいよ。もう歩けるから……」
「あっ」
そしてボール乗りの少女たちと男たちの言い争いに皆が気を取られている間に復活したシュンが、ここぞとばかりに力を入れてリタを振りほどいていた。そのまま素早くロブとアイネに合流する。
「もう大丈夫です。ご心配おかけしました」
「お、おう……。じゃあ、隊長に合流すんぞ」
シュンを巡って揉めているうちに、マコトとその取り巻きたちの背中はずいぶん遠くに行ってしまっていた。
ロブの指示で靴裏の電磁石を鳴らしながら小走りに駆けだすと、さすがにもうトモエとリタは追ってこなかった。 「よーし。エレベーター降りたらすぐだからな!」
「まさか、同じプラント内だったとは……」
「というかP−04初期の頃に各プラントへMS隊の拠点を作りはじめたときに、あたしらの家も一緒に作ったんだよね。いろいろ余裕ない態勢だったから、職住一致ってやつでね」
トラキア隊の4人はロッカールームで私服に着替えると、サブリナに出迎えられて、エレベーターでプラント内の『底』を目指した。
静止した中心軸内に存在する第113整備場は無重力空間だったが、その外側はプラント本体となる回転体であり、ミケリヤ家はその外壁近くに位置していたのだった。
アイネは道中でシュンを護衛するように周囲に目を光らせていたが、トモエとリタの追撃は無かった。しかしP−04への航路上で接触してから、まさかこれほど早く接触を受けるとは。
偶然とは思えない。ルウム農協の情報網でトラキア隊の行き先を掴んだのだろうか。もはや油断も隙も無い。
「クライネ伍長……さっきは、ありがとう」
「当然のことをしたまでだよ。また変な絡まれ方をするようだったら教えてね。飛んでいくから」
少し前までなら、候補生課程で同室の同期生シエル・カディス伍長に言われていたような台詞を、今度は自分からシュンに言っていることに気づいて、アイネはそのおかしさに思わず微笑んで誤魔化した。
シュンも釣られたように微笑み返しながら、アイネを見つめる。
「その私服、……艦内で準備したんだよね。似合ってるよ」
「えっ。そ、そう……? あ、ありがとう……」
アイネの私服はトラキアでウェンディ・アーデル曹長が用意してくれた、肩と胸元の出るキャミソールにジーパンだった。体型によく合っていて確かに可愛らしいが、胸の谷間まで見えてしまうため若干の躊躇があった。
だがシュンがこうして素直に褒めてくれると、アイネはそれだけで報われたような気分になった。
シュンが出来るだけ自分が気にしている胸を見ないように頑張っているのを、微笑ましい、可愛い、と思えている自分に気づいて、アイネは頬を薄く染めながら俯いた。
サブリナはニコニコしながら見守り、マコトは黙って何も言わず、ロブはよそでやれよお前ら感を隠しもしていないが、アイネとシュンの二人は意に介していなかった。
やがて動き続けていたフロア表示が『居住区』に切り替わり、エレベーターが停止する。
「さーて。我が家に、とうちゃーく!」
「うわっ……」
人員用エレベーターのドアが開くと、アイネはその眩しさに思わず呟いた。
プラントの内部については狭い階層が折り重なって続く、艦艇内のような閉塞した空間をイメージしていたのだが、ここは数階層分をぶち抜いたのか、かなり開放感のある空間が実現されていた。
コロニー内のように開けた『空』はなく、光もほとんどすべて人工のものだった。それでも果樹と思しき木々や草花が生い茂り、小鳥のさえずりが聞こえる中に、風情を感じさせる屋敷が建っている。
あるいは地球上の農村地帯の光景というのは、案外こうしたものなのかもしれなかった。
「サブリナ、荷物は?」
「旦那とガルノフとマリエルに手伝わせて、もう皆の部屋まで運んであるよ。これ、あんたらの部屋の間取りと鍵ね。文句は後から受け付ける」
「私は奥か……」
サブリナが最初に言っていたように、アイネの部屋はサブリナ一家とマコトの区画を挟んだ奥だった。隣にマリエルの部屋がある。男たち3人はその反対側だが、まだ空き部屋があるようだった。
短い間だが、単なる『部屋』ではない『屋敷』に住めると分かって、アイネの気分は静かに上がる。 「じゃあまずは、これからしばらくお世話になるご家族にご挨拶しなくちゃですね」
「それがねぇ。亭主はいま用事で、子連れで町に出てるのよ。挨拶は後でいいから、先に部屋と荷物を確かめに行ってくれる?」
「そうなんですか」
「サブリナ。じゃあ、ミコトも――」
「たぶん一緒に出てると思う」
「そうか。じゃあ夕食の時間、1900にまたここへ集まるとしよう。それまではいったん解散だ」
「了解」
マコトが命じると、男2人は自分たちの区画へ向かった。マコトとサブリナは立ち話を始めたので、アイネもやむなく1人で屋敷の中を歩き出す。
久々の1G重力が心地よい。そこかしかの緑と、おそらくレプリカなのだろうが、農村風建築の風情が目に優しかった。心が休まっていくのを感じる。
「…………」
だがアイネは、不意にそれに気づいた。
何者かに見られている。
殺気の類ではない。だが確かに何者かの視線を感じて、アイネはその視線の主に気取られないよう慎重にあたりを見渡した。
木々が植えられ小鳥も囀るプラント区画だ。小動物か何かだろうか。さすがに人間に危害を加えられるような危険生物はいないはずだと信じたいが、豚か牛ぐらいだったらいてもおかしくはない。
犬という可能性もある。まさか野良犬ではあるまいが、放し飼いだったりすると嫌だな、と思う。
緊張しながらアイネは歩を進め、そして前方でがさりと藪が動いた。
犬ほどもある影が姿を現し、そしてアイネは目を丸くして立ち止まった。
「……か、か、かっ……、かわいい……っ!!」
思わず、本心からの声を上げてしまう。
そこに現れたのは黒髪を長く伸ばしたワンピース姿の、あどけない顔立ちのアジア系の幼い少女だった。学齢期に入ったかどうかといったあたりの年齢だろう。つぶらな瞳でじいいいっ、とアイネの方を見ている。
果たして純真無垢という言葉が、これほど似合う美少女がいるだろうか。ワンピースの少女のたたずまいは、まさに天使のそれだった。
それだけではない。彼女は、誰かに似ていた――アイネが慕い憧れる誰かに。
アイネは言葉を失いながら目を輝かせ、謎の美少女にすっかり目と心を奪われてしまっていた。
「…………」
謎の美少女が、すっと一歩を踏みだした。アイネの方に近づいてくる。ここの家の子なのだろうか。アイネは反射的に両手を開き、微笑みかけながら彼女を迎え入れる姿勢を取った。
「こ、こんにちは――」
だがアイネが挨拶しようとした瞬間、少女の瞳には獲物を狙う野獣の眼光が宿っていた。
「……おっぱい」
「きゃっ!?」
少女は呟いた次の瞬間、瞬発力を発揮して一気に体ごと跳躍してアイネの胸へ飛び込む。そしてその可憐な顔面から、アイネの巨大な乳房へとキャミソール越しに突入していた。
ばゆんっ、とアイネの爆乳が弾力で少女の顔面を跳ね返す。だが少女は華麗なバックステップを見せつけて反動を吸収、再びアイネの乳房を狙って顔面を押し付けてくる。
ちょうど彼女の顔面ほどの高さにある、少女の頭ほどもあろうかというたわわな肉塊を、少女は強引に頬ずりしながら乳首を探すように唇を寄せていく。
小さな両手で無心に揉みしだき、さらには指先でその頂を引っ掻くように捕らえに来る。
「きゃううぅっ!! だ、だめぇっ!!」
「おっぱい。おっぱい。おっきい、おっぱい……」
予想もしなかった小さな痴女からの攻撃に、アイネは乱暴に振りほどくことも出来ずにその場で釘づけにされた。あまつさえ少女はキャミソールの上辺に手を掛け、ずり下げて乳房を丸出しにしようとしてくる。
さすがにアイネは抵抗し、少女を傷つけないようにしつつ引き剥がした。 絶対的なリーチの差で腕も頭も狙う乳房から引き剥がされ、少女は空中に捕らえられながらじたばたともがく。アイネは半分涙目で睨みつけた。
「い、いきなりこんなことしちゃダメでしょ!!」
「ミルク……」
「はぁ!?」
少女は唇に自らの人差し指を突っ込み、物欲しそうな顔で再び呟いた。
「おねえちゃんのおっぱい、こんなにおっきいのに……ミルク、出ないの?」
「出ません!!」
「がっかり……」
「がっかりしないで!!」
少女は空中で肩を落とした。泣き出しはしないが、静かな悲しみに満ちた表情をしている。美少女の失望感がありありと伝わってきて、アイネはなぜか自分の方が悪事を働いていた気分にさせられてしまっていた。
アイネは同時に、悪夢の記憶を思い出す。初めての実戦で撃墜された後、トラキア隊ではなく敵に回収されて捕虜となり、男に凌辱を受けた悪夢。
処女を奪われて膣内射精を受けた後、アイネの乳房に見合った巨大な乳輪は真っ黒に染まってぶつぶつの腺が浮き出し、そして母乳を勢いよく噴き出してしまっていた。
だが、あんなものはしょせんただの悪夢だ。妊娠出産を経験していない自分の乳房が母乳を出すことなどあり得ない。彼女には悪いが、ミルクの期待に応えることは出来ないのだ。
「……ミコト?」
そのとき背後にマコトの気配を感じて、アイネは少女を持ち上げたまま振り返った。
マコトは目の前の状況にどう対応していいのか分からないような表情のまま、そこに立ち尽くしていた。今マコトが呼んだ「ミコト」というのが、このおっぱい大好き少女の名前なのだろうか。
少女は一瞬だけちらりとマコトの方を見たが、またアイネの乳房の方へ視線を戻してしまった。せっかくの爆乳からミルクが出ないことにがっかりはしても、まだ興味を完全に失ってはいないらしかった。
「ハヤカワ准尉? 彼女は――」
そしてマコトと少女を見比べたとき、アイネの頭の中に電撃じみた何かが走った。
この二人、似ている。
同時にP−04への到着前に、サブリナが言っていた言葉が脳裏に閃く。
『マコトの家も大事な人も、ずっとここなの。そうだよ……アイツ、もう半年ぐらい会えてなかったんだよね』
そうか。なるほど、そういうことか。
合点したアイネは、少女を地面に下ろして解放した。
「この子、ハヤカワ准尉の妹さんだったんですね。ごめんなさい、さっきこの子がいきなりぶつかって来ちゃって――」
「いや。その子は、……ミコトは――」
少女はマコトの方には見向きもせず、再びアイネの胸に突っ込んできた。今度はキャミソールの上から胸の谷間に頭を入れて、両手で左右の乳房を下からたぷたぷたぷ、とリズミカルに揺らして遊びはじめる。
「私の、……娘なんだ」
「なあんだ、そうだったんですかー。ハヤカワ准尉の、娘さんだったんですねー。…………。娘。……えっ。……娘……??」
乳房をたぷたぷ揺らすミコトの手指が、乳首の位置を探るように動きつつむぎゅむぎゅ乳房を揉みにかかってきても、アイネは谷間を満喫する黒髪頭のつむじを見下ろしながら、その場に凍り付いたまま動けなかった。 「あれ……なんだよ、これ。誰か間違えやがったな。俺のスーツケースじゃねえじゃん。誰のだよコレ」
与えられた個室で荷物を確かめながら、ロブは悪態をついた。
ミケリヤ邸の外装は地球の伝統建造物を模してはいるが、個室ごとの基本構造は現代技術のモジュール工法で作られていた。防音や断熱もしっかりしている。
夜中に大音量で映画を観たりしても、隣から文句を言われることはないだろう。家具や家電の類も一通りは揃っており、生活に不自由することはなさそうだった。
景観も艦内よりは悪くない。ちょっとしたリゾート気分が味わえる。
だが同型だったからといって、スーツケースを取り違えられたのはさすがに腹が立つ。
「ったく、ホントに誰のだよ……。なんかやたらクソ重いし、何が入ってんだこれ。クソ……夕食の時間まで待つしかねえか」
誰かの重たいスーツケースをバタンと床へ転がすと、他の荷物を開梱しながら、ロブは少しずつ新生活の準備を始めた。
それにしても一人で落ち着くと思い出すのは後輩、シュンのモテ具合だ。
シュン自身は女性に対する積極性に著しく欠けている。過去に何か嫌なことでもあったのかもしれないが、女たちにとってはそれさえ魅力に見えてしまうらしい。
確かに顔はいいし仕事もこなす男だとは思うが、そこまでいい男なのかよ、と思わざるを得ない。
P−04から前回出港したときにはルウム農協の誇る巨乳美少女二人組に絡まれたが必死に抵抗し、すんでのところで逃げられたらしい。
そのうえ最近は回収した超絶級の爆乳美少女、アイネとも訓練と実戦を通じて距離を縮めている。真面目で努力家の彼女に対しては農協二人組と異なり、シュンもまんざらではないようだ。
戦場でいい雰囲気になりやがって。爆発しろとまでは言わないが、いや、やっぱり爆発しろ。
「はあ……」
羨ましい。
蛇口をひねってコップで水を飲みながら、ロブはひとりテーブルで黄昏る。
かつてMSパイロットになればモテるという噂を聞いたが、自分については全然だった。機体がジム、しかもフェイス・エクステリアの印象がぱっとしない感じのジムUだからいけないのか。
ガンダムとまでは言わずとも、せめてハイザックあたりに乗れればモテるのか。
そんな風に考えていた時代もあったが、シュンがモテている時点でその考えは棄却されてしまう。結局自分は決してモテない側の人間、永遠の素人童貞なのだ。
「酒飲みてえ……」
自嘲するように呟きながら、ロブはテーブルの上に突っ伏す。
だが整備場で見たシュンを狙うトモエやリタ、そしてアイネのパイロットスーツに浮き出る女体美を、そしてアイネのキャミソールを押し上げる凶悪なまでの爆乳の谷間を思い出すと、どうしようもなく股間に熱が滾ってくる。
あのスーツケースには、秘蔵のおかず本が入っていたのに。肝心な時に使えないとは。
「ああ、クソ……どっかに都合よく俺を愛してくれて、エロエロ淫乱で何でもしてくれる爆乳美少女はいねぇかなあ……」
何も出来ることが無いので、どうしようもない妄想が口から垂れ流されてしまう。
そのときバン、と異様な音が背後で響いた。
「!?」
思わず椅子から跳ね起きる。その方向を見た。
誰のものだか分からないあのスーツケースが、ロックを物理的に破壊しながら開いていた。まだ動いている。
中に何かいる。
「ヒイッ!?」
ロブは思わず後ずさる。驚愕に目を見開いた彼の目の前に、白い裸身が立ち上がった。
「ああ、おとこ……おとこ、……みつけたぁ……」
長い銀髪とたわわな爆乳を揺らしながら、汗ばんだ白い柔肌を淫靡な熱に火照らせた美少女が、獲物を見る目でロブを見つめた。 今回は以上です。
追ってハーメルンとpixivに挿絵付きの完全版を投稿しますので、よろしければそちらもご確認ください。
ご感想などいただけますと励みになります。 続けて投下します。
今回は冒頭場面以外、ほぼ前編エロ、孕ませありです。 「ミコト、――ここにいたのか。シータと、ジローはどうした? おじさんと一緒に行かなかったのか」
「…………」
ワンピース姿の女児は答えない。思考回路を予想外の爆撃で吹き飛ばされたままのアイネ・クライネ伍長の規格外の乳房へ頭を埋めつつ、淡々と話しかけてくるマコト・ハヤカワ准尉――彼女の母親に対して背中を向けている。
マコトは近づき、娘の顔にそっと手を伸ばす。だがミコトは顔を背け、アイネの胸の谷間へといっそう深く潜り込んでしまった。マコトの手は泳ぎ、宙に浮いたまま、止まった。
「そうか……。クライネ伍長のことが、気に入ったのか」
静かに微笑むと、マコトは娘から部下へと視線を上げた。
「クライネ伍長。すまないが、しばらくこの子のことを見てやってもらえないか?」
「えっ? ハヤカワ准尉の、妹さん……じゃ、なくって。娘さんを、私が、ですか?」
「こうなると聞かないんだ。言うことを聞かないときは、きつく躾けてもらって構わない。……頼めるか?」
「え、……ええっと……、は、はい。わかりましたっ。ハヤカワ准尉のお子さん、謹んでお預かりしますっ!」
「夕食時まで頼む。途中で力尽きるようだったら、適当に寝かせてやってくれ」
「…………」
マコトが言い終えると、アイネの胸からミコトが顔を出した。ぱっと離れると無言のままアイネの手を取り、ぐいぐいと全身の力で強く引っ張りはじめる。どこか連れていきたい場所があるらしい。
「わわわっ、どこ行くの……じゃ、じゃあ、ちょっと行ってきます!」
「よろしく頼む」
小さく手を振って見送るマコトに振り返ることなく、ミコトはアイネを引きずるようにしながら、あっという間に視界の外へと消えていった。
「――半年……か」
振っていた手を下ろし、マコトはひとり呟く。しばらく立ち尽くした後、彼女は庭から自室へ足を向けた。
半年ぶりに自宅のドアを開けると、サブリナが言った通り、荷物はすでに埃の薄く積もった部屋へと搬入されていた。その積み上がった中に問題のスーツケースを見つけて、マコトは深く息を吐く。
「やるか」
彼女の戦いは、これから始まる。
玄関に内鍵を掛けると、家電を制御するコンソールに秘密のパスを打ち込む。玄関からは見えない別室の奥で静かに本棚が動き、ドアが開いた。マコトはその奥に隠された部屋へと、重いスーツケースを引いていく。 進入したマコトの背後で、秘密のドアと本棚が再び閉じる。その室内にはさらに分厚い壁で密閉された内部屋があった。
マジックミラーの窓と監視カメラ、そして壁のないユニットバスと簡素なベッドが設けられ、天井や壁からは手枷と足枷が吊るされた殺風景な小部屋は、さながら監獄の独房を思わせる。異様な光景だった。
その室内に入っても用心深く内鍵を施錠すると、マコトは拳銃型の装置をその手に握りながらスーツケースへ手を掛けた。
それは火薬で弾丸を発射して目標を殺傷する通常型の拳銃ではなく、ワイヤーを射出して目標の手足を縛りあげる非殺傷武器だった。
そしてマコトの傍らには、勃起した男性器型の女性向け性玩具も置かれている。
モーターを備えてプログラムに従った各種の運動が可能なだけでなく、電動ポンプとタンクも内蔵しており、本体ボタンやリモコンの操作で模擬精液を射精する機能付きという、凝ったつくりの代物だ。
こんなものでどこまで『力』を騙せるのかは分からない。だがマコトは、打てるだけの手はすべて打つつもりだった。
「…………」
無力化を完了する前に途中で場所を変えさせられるのは予想外だったが、これでひとまず、いま出来る限りの準備は整えられた。そのはずだった。
『力』を発動させて宿した人間に対し、物理的な拘束が常に必ず有効であるという保証はない。
そもそも戦車砲弾にも耐えるMSの装甲をスポンジのように蒸発させながら撃ち抜くメガ粒子の直撃を受けても、そのビームが背中合わせの核融合炉を貫いて至近距離での核爆発を起こしても、かすり傷の一つすら負わない存在なのだ。
およそ人知の及ぶところではない。扱いひとつ間違えれば、猛獣どころではない危険な存在になりうる。
まして今回の彼女はもともと、敵なのだ。
覚悟を決め、顔面の側まで引いて構えたワイヤーガンの銃口を向けながらスーツケースを開くと――どざあああっ、と中身が一気に崩れ落ちてきた。
「は??」
床一面へ広がったそれは、大量の雑誌と書籍類だった。マコトに心当たりなど、無い。
「……『生搾り☆ 今日スグ会える! サイド2素人巨乳列伝!!』……?」
落ちた中から数冊を手元に拾い上げてパラパラと頁をめくりながら、煽情的な肌色ばかりが目立つそれらの書名を、マコトはただ平板な声で読み上げていく。
「『ザビ家慰安部隊 ジオン地獄のブロンド女囚刑務所』『乳タイプ部隊、☆1号作戦! 宇宙要塞アクメ・パオン・くぅ〜』、
……『美人MS隊長、堕ちる〜まさか巨乳でエースなボクのカノジョが、ジオンの175ミリでマゼラにトップしちゃうなんて〜』……」
どさどさどさっ、と手に取った雑誌をまとめて床へ落としながら、完全に感情の消えた瞳でマコトは顔を上げた。 「な、なんだよお前っ。ど、どこから入って……っ」
「あ、あぁ……やっと、あえた、……殿方、様ぁ……」
所有者不明のスーツケースの中から、銀髪の美少女が立ち上がった。
輝くような白い裸身のすべてを一糸まとわず晒したまま、きゅっと引き締まった細い腰の上でたわわに弾んで揺れる爆乳も、陰毛を濡らしながら股間から溢れる透明な雫も気に掛ける様子などない。
少女はゆっくりと、部屋着のままソファから腰を浮かせたロブ・サントス伍長へ向かって接近してくる。
「な、お前、な、なに……何だよ、だから……何!?」
だがあまりに状況が異常過ぎるがために、ロブはこの明らかに常軌を逸したこの不審者に何も対応できない。思考を停止させられてしまっている。
そしてロブが一歩も動けない間に、謎の全裸不審美少女は眼前に達する。少女は屈みこみながら、その手をロブの股間へ伸ばしていた。
「なあっ!?」
「あ、ああ……すごい……おおきい、……かたい……うれしいぃ……」
「ゔゔゔっ!!」
目の前で脈絡もなく展開されている状況の意味は全く分からなくても、ロブの自分自身は爆乳美少女の裸身へ率直に反応していた。白い手指が独自の生き物のように蠢き、そこをまともに掴まれる。
「――みせて」
「えっ……?」
もはや一瞬の我慢もならないとでも言うかのように、少女は切なげな熱い吐息を交えながら指先の腹を這わせて、布越しにロブの逸物の堅さをしきりに確認していた。勃起した男性器が少女の手指でズボン越しに撫でられるたび、彼の分身は硬さと大きさを増していく。
「みせて、ください……魔羅様……あなたの魔羅様、はやくぅ、みせてぇ……」
「うおおおおっ!?」
「……ご本尊……秘仏魔羅様、ご開帳しますぅ……っ!」
犬のような浅い呼吸で頑是なく『魔羅様』とやらをねだる少女は、ロブの承諾も得ないままにベルトを外すと、ズボンをそのまま下着ごと剥き下ろした。とうに臨戦状態を整えきった男根がびんっ、と反り返りながら飛び出す。
少女の眼前に跳ねた肉棒は、ゆうに標準以上の威容はあった。その目がいっそう強く輝く。
「魔っ、……魔ぁ羅様あああっ!!」
グロテスクな陰茎をすぐ目の前に捉えるや、少女は弾けるような嬌声を上げ、瞳の邪なきらめきをいっそう強めながら圧しかかってきた。
「ブフッ!!」
ロブはついに体重を支えきれなくなり、半立ちから一気に崩れて派手に背中を打ち付けた。悶絶してカーペットの床へ転がるロブに立ち直る隙を与えることなく、勃起したままぶんぶんと振り回されるその男性器を狙って少女が身を乗り出してくる。
白く柔らかな乳房がロブの腿上で潰れ、硬く尖った薄い桃色の乳首が刺さって乳肉の内側へと埋まった。押し倒す格好になったロブへと少女が上体を乗り上げると、その巨大な乳房がちょうど左右からロブの肉棒を挟み込む格好になった。
「あはっ、……魔羅様、かわいい……」
少女は微笑みながら、両腕を使って自らの乳房を中央に寄せた。乳房が前に押し出され、さながら小ぶりな水蜜桃を思わせる左右の乳輪が汗に輝きながらロブに向き合う。
左右合わせてゆうに3キログラム近いかという凶悪な脂肪塊が、流体じみた動きでロブの男性自身を取り込むように埋没させる。それでもかろうじて谷間から顔を出せた亀頭へ愛おしげに顔面を寄せると、少女はちろりと舌を出した。
上品なアイスキャンディーを味わうように、可憐な舌先で突きはじめる。 「うう!? ううっ、ううううううーーーっ!?」
自分自身を全方位からの巨大な乳房の弾力と質量によって圧し潰されながら、亀頭だけを美少女の舌の不慣れなしぐさに突き責められる。それは完全なる未知の感覚だった。ロブは爆乳美少女になすすべなく組み敷かれながら、強烈な未体験の新快楽に身をよじった。
それは今まで相手にしてきた玄人女たちとはまったく格の違う、現実離れした女体美の具現化。パイロットスーツ越しに透視図を何度も想像した、アイネ・クライネ伍長の裸身にも匹敵しうる肉体がもたらす破壊力に、ロブはただ翻弄される。
――なんだ、こいつ。本当になんなんだ、こいつは。
頭を起こし、なんとか落ち着こうとしながら眼前の少女を見た。おっとりとした感じを与える、垂れ目がちで上品な顔立ちが、今は発情に染まりきった淫靡な欲望一色に塗りつぶされていた。
家主のサブリナ・ミケリヤ少尉が気を利かせて用意してくれた、コールガールのサプライズ接待か? いや――いくらなんでも、そんな話はあり得ない。
では同宿で先に到着していた先輩のイベル・ガルノフ軍曹に頼まれたコールガールが、行き先の部屋を間違えたのか……いや、そうだとしても、それならどうしてわざわざスーツケースから出てくるのだ??
出口のない思考の迷路を彷徨うロブをよそに、少女は亀頭から舌を離してなめずった。
「はぷっ……」
「あおおおおおぉっッ!?」
その小さな唇が大きく開き、今まで舌先だけで弄んでいた亀頭を口に含んだ。舌に加えて口腔全体を使いながら亀頭を責め、さらに両腕で脇から爆乳を寄せる圧力まで加えてこられては、ロブは情けない声を上げながら、もはやひとたまりもなく果てるしかなかった。
「で、出るッ!!」
「うぶッ!?」
びゅくびゅくっと男根が脈打ち、若い精液の迸りが少女の腔内へ放たれる。最後の一滴の射精が終わるまで、少女は男根を口に含んだまま、じっくりと待った。
やがて唇を離すと、口腔内で何度もロブの精液を転がして味わい、最後にようやくごくりとすべて飲み下す。
「ぼだいしん、……にがい……。これが、菩提心の、味……なのですね……」
さっきからこの少女の言葉には、よく分からない単語が登場していることにロブは気づいていた。どうやら『魔羅様』とやらが男性器、『菩提心』とやらは精液のことを指すらしい。
だがロブにはそもそもそれらが何の用語なのかもさっぱり分からない。
「う、うう……ッ。お、おい。あんた、一体――」
一回は射精したことで、思考もようやくすっきりしてきた。ここでいったん彼女を止めて身元を質そうと、ロブは呼び止めようとした。
だがロブが次の言葉を口にして動くより早く、少女はすっとその場に立ち上がっていた。自らの手指を使い、既に濡れそぼった女性器をくぱあと左右に広げてくる。
「う、うおおおおぉ……っ」
下から見上げる秘裂の肉色と爆乳の絶景に、ロブはそれきり言葉を失う。そして少女は巨大な乳房の向こうで穏やかに微笑みながら、ゆっくりと腰を下ろしてきた。自らの腰を、少女に尖端を嘗めつくされてもまだ堅い勃起を保ったままの、ロブの怒張へと落としていく。
そして切なげに、濡れた声色で宣言した。
「で、では、いよいよっ……、魔羅様っ……、陰陽を、和合させていただきますっ!」
「ちょ、ちょっとアンタ! 生で!? 本番!? お、おお……ッ!? お、おおおおおほおお〜〜〜っ!!」
完全に受け身のまま、ロブの陽物は少女の女陰へと、ずぶずぶと呑み込まれていった。
少女がゆっくりと少しずつ腰を下ろすたび、生の膣内が避妊具も付けないままの裸の亀頭と陰茎を包んで締める。緩みのない引き締まった膣圧が、先ほどまでの乳圧とはまた違った力でロブを苛む。
少女の洞窟を貫きながら掘り進むうち、やがてわずかな抵抗に遭遇し――そして自らの亀頭がそこを食い破り、摩滅させるのをロブは感じた。
「う……ッ!!」
「あ、あおおおぉぉっ!!」
そして膣外に十分な余長を残したまま、ロブの切っ先が膣奥を突く。
それは完全な男女の合体、騎乗位の完成だった。
脳に強い電流でも流されたようにびりびりと少女は震え、滂沱の涙を流す焦点の合わない瞳で宙を見つめたまま、その動きを止めた。 「しゅ、しゅごい……っ。こ、これが、……涅槃……?」
「や、やばい……もう、出そう……っ……」
すでに第一波を放った直後とはいえ、ロブの若さは早々に二回戦の準備を完了させている。少しでも気を抜けば強い膣圧に負け、簡単に二度目の精を放つことになるだろう。そうなればただでは済むまい。
腔内ならまだしも、避妊具も無しに膣内射精となれば、相手が娼婦でも一大事だ。
これ以上は、マズい――異常な状況と鮮烈な快楽に陰った理性が、再び明確な警告を発する。
だが少女はまたしても後手後手のロブを嘲笑うように、一歩先んじて次の動きへ移行してきた。腰を振り始めたのだ。自分から、獣じみた勢いで。
「あん! あん! あん! あんんっ!!」
「おぐうっ!?」
四つん這いになって銀髪を振り乱し、左右の爆乳を上下左右へ弾み散らさせながら、ロブに最奥を突かせるたびに少女は絶叫した。
「あああああああ〜〜〜っ!! すき、すき、すき、すきぃぃぃ〜〜〜っ!!」
「…………っ……」
騎乗位でロブを組み敷いたまま少女は激しく上下し、男根を搾り潰さんとするかのようにきつく締め上げていく。大玉メロンほどもある乳房がデタラメに弾けて、薄桃色の乳頭から玉になった汗を飛び散らせた。
その陰茎を愛液と血液の入り混じりが、ゆっくりと伝い落ちてくる。少女はロブの反応などまったく無視したまま、自分の動きだけでひとり勝手に絶頂へと駆け上がっていった。
それは完全な凌辱であり、強姦だった。性交と呼べるものではない。もはやロブの存在など、単なる女性自慰用肉バイブ以下でしかなかった。モノ扱いなのだ。
十分に勃起して射精できる肉棒さえあれば良い――ロブ・サントスという個人の人格など、この少女にとっては、完全にどうでもよいことなのだった。
「――な、……なめんなよ……っ……」
そう考えると次第に、ロブの内側でふつふつと怒りの感情が沸き上がってきた。
女性上位のまま何の説明もなく、わけもわからないままで犯される。
いくら相手が男の夢を小柄な身体へ凝縮しながら全部盛りしたような稀代の淫乱爆乳美少女であろうとも、これ以上の一方的な蹂躙は、もはやロブの自尊心が許しはしなかった。
腰を叩きつけ爆乳を暴れ狂わせながら嬌声を放って身をよじる、肉欲の権化のような少女の中で、搾られ続ける第二射への衝動がいよいよ我慢の限界へ達するかと思えた瞬間、かっと目を剥いてロブは叫んだ。
「……うっ、うおおおおおおーーー!! なんだテメェ、俺は負けねぇーーーッ!!」
「ああっ!?」
絶叫とともに、ロブは足腰に渾身の力を込めて跳ね上がった。一気に回転し、少女と上下を逆転する。二人が合体したままの腰を支点にしながら両腕をがばりと回し、床へ落ちかけた少女の背中を空中で抱き止めて支えた。
「あ、あうぅ……っ!? ど、どこへ――」
「イイところ、だよ!」
いっそう深く自身を彼女へ深く突き刺しつつ、そのまま歩いてベッドまで一気に運ぶ。
「きゃっ……!?」
「今まで好き勝手、してくれやがって……覚悟しろよ、てめー……」
少女の背中をそっとシーツへ下ろしながら、ロブは両手を彼女の背中から、乳房に負けず劣らず豊かな尻肉をぎゅっと握った。 「俺のターン! 見せてやるよォ……核もビームも通さねえ百キロ岩盤をも穿ち貫く、必殺のドリルチンポ……『ルナツー掘り』をなぁ!!」
「あムゥっ!?」
亀頭の切っ先だけを少女の内側に残したところから、ロブの腰突きが少女の最奥を貫いていた。その腰使いのキレは、先ほどまでの騎乗位で少女が上から落としていた速度を遥かに上回る。
そしてロブはその突きを休むことなく、頭部60ミリバルカン砲にも匹敵する発射速度で叩き込んでいく。
「フンフンフンフンフンフンッッ!!」
「ア゛! ア゛! ア゛! ア゛! ア゛! ア゛ア゛ア゛ア゛〜〜〜ッ!!」
飛び散る汗が霧を作る。少女は突き上げられるたび魂消るような絶叫を上げてよがり狂いつつ、なんとか両手で必死にシーツを掴んで耐えようとした。
だが、もはやロブの一転攻勢は留まるところを知らない。
「しゅぅっ、しゅご、ぉぃっ」
「凄ぇのは当たり前だっ!! あまりの威力に初めて行った店の女を壊して速攻出禁を食らい、変な噂まで立てられてきたロブ様の本気を嘗めんじゃねぇッ!!」
完全に逆切れして喚き散らしながらも、ロブが腰使いを止めることはない。ただ速いだけではなかった。一撃ごとに繰り出す角度を微妙に変えながら少女の最奥、女たちがもっとも男と我が子を『感じる』部分を巧みに攻略していた。
「ほっ、法悦ぅっ……法悦ですぅ、解脱しちゃいますぅ、メビウスの輪廻抜けるぅっ、らめっ、逝くぅっ、完全っ、完全成仏しちゃうううううううぅぅぅ!!」
「いけ! おらイケ!! 俺のスーパードリルチンポでオマンコ俺の形に完全攻略されて、間抜けメスアクメ晒しながら逝けッ!!」
ロブは罵りながら尻肉から背中へ両腕を回し、上体を寄せてぎゅうっと抱きしめながら、少女をさらに犯し続けた。桃色の残像を奔らせながらちぎれ落ちんばかりに暴れ狂っていた乳房が、ロブの胸板に圧されて潰れる。
そして少女もまたロブを求めるようにシーツを離し、その背中をぎゅっと抱き返してきた。
「うっ、うう……っ、お、俺も、もう……っ……」
「きて! きてえええぇぇぇっ!!」
二重螺旋を描いてえぐりこむような突きの嵐に膣壁を抉られ、身も世もなく泣きむせびながら少女はロブを求めて叫んだ。
「わたくしの女陰にっ、魔羅様のをっ……わたくしの中にぃ、魔羅様の菩提心、だしてぇぇぇっっっ!!」
「…………!」
猛烈な腰使いと肉棒突きの嵐を受け止めながら、この少女が自分の腕の中で、自ら膣内射精を強く望んでいることをロブは悟った。
そして、同時に思う――この少女が、本当に可愛い、と。
守りたい――彼女の想いに応えたい、と。
「分かった……イクぞ、一緒にイクぞッ!!」
「ひゃいいぃぃっ!! きてっ、魔羅様きてっ、わたくしもいく、イク、逝きましゅぅぅぅぅっ!!」
来るべきその瞬間へ向かって、ロブは腰使いのリズムを整えていく。少女も何かを悟ったのか、ロブの腰へと回されたその両脚に、ぎゅっと力が入るのが分かった。
そしてロブは少女を突き上げて止めたまま、万感を込めた最後の宣言をシンプルに放つ。
「射精る……ッ!!」
「あ、あぁ……ッ、あああああああああ〜〜〜ッ!!」
そして放たれた二回目の射精が、少女の膣奥へと注ぎ込まれた。遮るものなど無い。
解き放たれた10億の精子がことごとくその全身に力を漲らせ、少女の最奥に待つ攻略目標――すでに卵巣から放たれていた卵子を目指し、通常の精子を遥かに超える速度で怒涛のごとく突入していく。
「お、おお……っ、おお……おおおおおおぉ……っ」
人生最高の快楽に身震いするロブの腕の中で、膣内射精を受けた少女は完全に焦点の失われた目を見開き、かつての戦闘で見た最後の瞬間の記憶をフラッシュバックさせていた。
姉が乗る機体を狙撃した敵機の射線へと割り込み、すでに損傷していた自機のコクピット・ブロックを過たず貫いてきた、頭のない連邦軍RGM−79R『ジムU』のビームライフル。
その一撃に自身を焼き尽くされ、煙のように燃え尽きたパイロットスーツと、次の瞬間に発生した自機の核爆発。すべてをプラズマ化して消滅させる死の奔流に全身を洗われながら達した、決して現世では得られるはずのない、無常の快楽。 「――南ァ無・ジオン……っ……」
盛大な火球の中で確かに己を貫いたビームのイメージを、どくどくと精液を注がれていく自らの胎内で貫かれる卵子のイメージに重ねて感じる。
ひとりの少女から『母』になっていく自分をどこか遠くから見下ろすように認識しながら、少女の意識は再び、ふっつりと途切れた。
「おっ……? お、おい。だ、大丈夫か……? おーい……」
ベッド上でしばらく彼女を抱きしめながら射精の余韻を謳歌したあと、ロブは完全に意識を失った彼女に気づいた。呼びかけながら目の前で手を振ってみても反応はない。
「ああ……。やれやれ……、やっちまった。まーた、調子乗って壊しちまったか……」
ようやく自身を少女の中から引き抜くと、混じり合った濃厚な精液と愛液、そして血液がぬらりと糸を引いた。
「何だよ、この血……。別に、俺のがデカすぎたから、ってわけでもないよな……。まさか、この子……あれで処女、だったのか……? いや、何も言ってなかったよな」
ひとまず脈と呼吸があることを確認し、密着していた上体を離してそっとベッドに横たえる。そして気づいた。
「ン……? う、うわっ!? なんだコレ!?」
ロブのシャツの胸にべっとりと、白い液体が染みついていた。そして今は穏やかに寝息で揺れるだけの少女の爆乳、
その頂で薄桃色に輝いていた乳首と乳輪は、今やどす黒く染まり、ぶつぶつの乳腺を浮き上がらせながら、そこから白い液を――母乳を溢れさせているのだった。
「え、ええ……ええええええ……? な、なんでだよ。い、今ので、妊娠……妊娠、させちまったのか!?」
なぜかいきなりスーツケースの中から部屋に出てきた見知らぬ美少女、しかも処女に、膣内射精した挙句、気絶させた。あまつさえ、さらに乳首を変色させ、母乳まで垂れ流しにさせてしまった。
これが商売なら、まず確実に店から出入り禁止を食らうだろう。とりあえず今からでも避妊処置をした方が良いのだろうが、事後処置のやり方がぱっと思いつかない。
そして同時に、もっと気になることもある。
「今、イクとき最後に……『南ァ無・ジオン』って言ってなかったか、この子……?」
仏教まがいの凶悪なカルト宗教型ジオン残党組織、『大ジオン仏道』のことはロブもよく知っている。神出鬼没のゲリラ戦を旨とし、新サイド4宙域を拠点としながらも主にその外部で活発に活動してきたという連中だ。
ルスラン・フリートによる近代化改修を受けたと思しきMS−14A『ゲルググ』の3機編隊で、近年は主に月や各サイドに散在するニュータイプ研究所を襲撃しては、跡形もなく殲滅して回ったりしていたらしい。
つい最近ではアイネ・クライネ伍長の最初の乗艦、サラミス改級巡洋艦『アバリス』を撃沈し、そのMS隊を殲滅したのも彼らだ。この前の不審船事案で接触するまで直接交戦したことはなかったが、その特徴はいくつも聞いている。
襲う地球連邦兵の『完全成仏』を重視し、ビームの直撃か至近核爆発を浴びせて、相手が苦しみを知覚する時間を与えずに殺すことを戦闘行為における絶対条件としていること。
戦闘時には必ず敵を『完全成仏』させることで証人を残さず、証拠も局限すること。
そして3機のゲルググのパイロットのうち2人は、どうも妙齢の女性であるらしいこと。
不審船事案ではその2人の女性パイロットの片方は生き残って後退したものの、もう1機がサラミス改級駆逐艦『アルマーズ』所属のシエル・カディス伍長機に撃墜され、機体は融合炉へのビーム誘爆で核爆発を起こしたこと。
「…………。まさか、……この子が??」
『南ァ無・ジオン』は、大ジオン仏道が戦闘中によく発する言葉だ。不審船事案後にアルマーズMS隊長リン・リンリー少尉や、シエルからも聞いていた。というかそれ以外に、こんな奇矯な言葉が流行っているなどとは聞いたことが無い。
だが、あの戦闘にはロブも参加している。当該のゲルググは間違いなくビームの直撃で核爆発したのを目撃した。仮にイジェクション・ポッドで直前に脱出していたとしても、とうてい助からなかったはずだ。 だが、もしも。
もしも彼女が何らかの手段で生き残り、そして、それをトラキア隊の誰かが密かに捕らえ、スーツケースに閉じ込めてここまで連れてきたのだとしたら。
その過程で拷問なり尋問のために何かおかしな薬物でも使用し、彼女の理性や体質に重大な悪影響を与えていたのだとしたら。
ロブが今まで体験したこの異常な現象には、ほぼ全ての説明が付いてしまうのではないだろうか。
「…………」
冷たい汗が背中を流れ落ちていく。
あの戦闘後に敵の捕虜を捕らえた、などという報告はどこからも出なかった。彼女が大ジオン仏道の捕虜だとしたら、彼女を捕らえてここまで連れてきた誰かは、完全な違法行為を犯していたことになる。表沙汰になれば厳罰は免れ得ないだろう。
そして、あの戦闘とその後に、そうした一連の行動が可能だった人物はといえば――
「サントス伍長」
「はいいいぃぃっ!?」
心臓を氷の手で掴まれたように、ロブは下半身裸のままでその場に跳ねあがった。
確かに内鍵を施錠していたはずの自室に、直属上官たるトラキアMS隊長――マコト・ハヤカワ准尉が、いつにも増して感情の存在を感じさせない表情で突っ立っていた。ただ静かに、部屋の様子を見渡している。
「な、なんで……っ……」
鍵が、と言おうとしてロブは気づいた。この家はもともと、サブリナとマコトの共同所有なのだ。今回割り当てられた空き部屋の鍵をマコトが持っているのは、考えてみればむしろ当然のことでしかない。
「…………」
そしてマコトは室内を一瞥して、すべてが完全に手遅れだったことを思い知っていた。
だらしなく開脚したままベッドに転がる銀髪美少女の股間からは、血と大量の精液が入り混じった紅白の濁りが溢れ出ている。そしてぬらついて光る糸が引かれた先は、下半身裸で立つロブの亀頭なのだ。
永遠のようにも思えた数秒間の空白の後、ようやくマコトは言葉を発した。
「中に、出したのか」
「口にも出しました」
威厳ある美人女性MS隊長の口から出たとは思えない台詞と、それに対する男性部下の返答とは思えない会話だった。意味はかろうじて通っていなくもないが、会話としてはまったく成立していない。
当然だった。二人とも混乱の極地にあるからだ。
「……なぜ、避妊しなかった」
「そ、それは、いきなり、彼女が襲い掛かってきたからで……その後は、ついカッとなって。中に出してほしい、という彼女の合意と要求もあったので、やってしまいました」
互いに状況の異質さを理解していながら、マコトとロブは惰性で無意味な会話を続けた。だが実際のところ、マコトがあまりにも堂々としているせいで未だに下半身を隠せていないロブより、その堂々としたマコトの方がずっと混乱している。 どこまで話せばいいのか。どう誤魔化せばいいのか。どこまで知られてしまったのか。
無意味と分かり切った上っ面の会話を条件反射だけで続けながら、マコトは全力で現状の分析と次に打つべき一手を考え続け、ロブは恐怖と絶望の中でもはやかつての威容など見る影もなくしなびた自身を今さら隠すことも出来ないままに、無意味な返答を続けていた。
そのとき、少女の方で何かが光った。
無防備に両足を開き、ロブに何度も貫通され大きく押し開かれながら白濁液を垂れ流していた少女の膣口からへその辺りで、電光のような何かがパリッ、と煌めいた。
「ん……?」
一瞬、そんな光景が見えた。
――ような気がした、と思った次の瞬間――
「ゔッ!!」
下腹の内側で手榴弾でも炸裂したかのように、少女の腹が爆発的に膨らんだ。
みぞおちへ巨人の鉄拳でも受けたかのように少女は目を剝いて仰け反り、膣口からは圧迫された精液が水鉄砲のように噴き出す。腹の膨らみに蹴飛ばされた乳房がデタラメに弾け飛び、母乳の飛沫を撒き散らしながら暴れ狂った。
そして少女は一瞬のくぐもった悲鳴を上げたきり意識を失い、ことり、と頭を倒して崩れ落ちた。
少女の腹は、大きく膨らんだままだ。乳房もさらに一回り大きくなっているようだった。膨らむときは内部で爆弾でも破裂したかのように見えたが、改めてよく見てみれば、そこに外傷はまったく無い。
その腹の膨らみの大きさはまさに、臨月の妊婦そのものだった。少女はびくびくと痙攣しながらも、さらに大きく膨らんで母乳を垂れ流し続ける裸のままの乳房を上下させている。死んではいないようだ。
「…………」
「…………」
マコトは眼前で展開された現象の異常さに押し黙ったまま、それでも倒れた少女に近づく。そっと屈みこむと膨らみきった少女の腹を優しくさすり、そして片耳を当てた。一人小さく、ロブに聞こえない声で呟く。
「……何らかの条件によって起爆させられた『力』が、……時を、……超えた……?」
状況はやはり、完全に理解を越えていた。理屈はまったく分からない。だが、経験からの憶測は出来る。
やがてマコトは静かに立ち上がると、ロブへ向き直って宣言した。
「おめでとう、サントス伍長。君の子だ」
「…………は??」
「若い男が避妊もせずに快楽だけで女に膣内射精すれば、こういう結果を招くということだ」
「は…………??」
もはや完全に言語と思考の能力を根こそぎ吹き飛ばされたロブへゆらりと近づき、その肩へぽんと両手を置きながら、マコトは至近距離から不気味に微笑んだ。
「生まれてくる子の名前を考えておくんだな。……サントス伍長。女を孕ませた父親としての責任、これから一生かけて取ってもらうぞ」 今回は以上です。次回以降はしばらく非エロ場面が続きます。
追ってハーメルンとpixivに挿絵付きの完全版を投稿します。
よろしければ「フェニックステイル」で検索して、そちらもご確認ください。
ご感想などいただけますと励みになります。 真面目な話、ティファってアルタネイティブ社に居た時
どんくらい強姦&中絶させられてたんだろ? 今回は長引きます(おそらく本文だけで13レス以上)。 「ん……はぷっ。んちゅっ、……はぷうぅ……っ」
P−04から離れた新サイド4暗礁宙域の深部を、1隻の民間貨物船が行く。
派手なペイントで『ジャンクハンター・ゴアズ』と表記された船体には、複数の空コンテナと3機のRB−79『ボール』、そして1機のMS−09R2『リック・ドムU』が係留されていた。
そして、その船に乗り組んでいるのはジャンク回収業者――この新サイド4宙域では『境界漁民』とも呼ばれるジャンク屋たちである 。
新サイド4に前進拠点P−04を構える地球連邦軍及びルウム農協と、同宙域に潜伏しながら戦力を拡大し続けてついには広大な絶対防空圏『聖域』を構えるまでに至った、強大なジオン残党軍ルスラン・フリート。
その両者がかつて激しく激突し、今は静かに対峙しつつ拮抗している両勢力圏の『境界』は同時に、8年前のルウム戦役で崩壊した数十のコロニーとそこから生じたデブリが手つかずで漂う、大量の有価値ジャンクの宝庫とも言える。
境界漁民とは、そこで一獲千金を夢見て操業するジャンク屋たちの別称だった。
新サイド4暗礁宙域はまさに地球連邦軍とジオン残党軍の最前線であり、他のサイドで活動するジャンク屋以上に危険な環境へ身を置くことにはなる。だがそこでは、かつて行われた破壊が撒き散らしたジャンクの規模も桁違いなのだ。
わずか一日で20億人の市民を殺してのけた地球圏史上最大の虐殺劇、ルウム戦役の残骸は、血塗られた富の芳香とともに今なおL1軌道を漂い続けている。
そしてジャンク回収船の船橋では一人の若く屈強な男が、まだ幼さの残る顔立ちの少女を抱いてその唇を貪りながら、旧式パイロットスーツの上から乳房を自在に揉みしだいていた。
この船橋内に、その少女以外の女は居ない。だが船橋に居合わせた男たちは誰一人として、その痴態を直視しようとはしていなかった。
「んちゅ……んぷっ、はあぁ、……っ……」
長い愛撫の末、少女の唇の奥へ送り込んでいた舌をようやく引き抜き、絡み合う唾液をぬめらせながら男が笑った。
「ありがとよ、パティ。お前がいいタイミングで情報を持ってコッチ側に来てくれたおかげで、『宝船』の目星がついた。アレさえ手に入れられれば、俺らはもっとビッグになれるぜ」
獰猛な目つきの奥に野心の輝きを光らせながら、男は獣じみた笑みを浮かべてのける。そんな男の腕の中で、少女はいっそう媚びながらしなだれかかった。
「あはっ。それじゃさパサベイ、あたしも自分のMS欲しい。買ってよ。――いいでしょ?」
境界漁民の中でも、個人的にMSを所有している者は多くはない。確かに一年戦争中には地球圏人類の死命を制する希少な決戦兵器として扱われたMSも、戦後には一転してコモディティ化が進みはした。
それでもなお、MSは市井の一般人においそれと手が出せるような代物でもない。羽振りがいいとされる境界漁民にしたところで今なお大半が、P−04の地球連邦軍が予備役登録を条件に貸し出すボールを作業機としている。
だがこの男は最近、自分の私有機としてリック・ドムUを手に入れていた。時には人を出し抜きながらいくつかの危ない橋を渡って大きく稼ぎ、自ら回収した程度の良い機体の整備に費やしたのだ。
個人の財産として、自分自身のMSを所有する――それはジャンク屋たちにとって、一つの理想の地位だった。
「そいつは宝船の中身次第だが、――今もギッシリ詰まったままなら、いいぜ。ザクの1機ぐらいはくれてやる」
「やったぁ! パサベイ、愛してるっ」
転がるような嬌声を上げて、少女はまたも男へ抱き着く。張りのある尻肉をスーツ越しに撫で上げながら、男は耳元で囁いた。
「悪い女だぜ、パティ……あいつら、お前のお仲間だったんだろ? あいつらもやっと見つけた大事なネタが、商売敵のところに持ち込まれてるとは思わねえだろうな」
「女だけでつるんでチマチマやろうとしてた、しょっぱい仲良しクラブのことなんて知らなーい。あたしはパサベイみたいなデキる男の側について、早く『上がり』たいのっ」
笑う少女を抱きしめながら、『ジャンクハンター・ゴアズ』社長兼船長――パサベイ・ゴアは彼女の背中で邪悪に笑う。腕の中の少女――パティ・リンデンを釣り上げた彼女の古巣、十代の少女だけで構成された境界漁民の一チームのことを思い出していた。
今回情報ごと飛び込んできたところをモノにしたパティも悪くはないが、あの負けん気の強そうなリーダー格のフィオや、豊満で乳もでかく抱き心地の良さそうなまとめ役のマルミンなど、あのチームは他にも一度は抱きたくなる美少女たちを揃えていた。 今回の『漁』でさらなる金と力を手に入れたら、彼女たちに手を出してみるのも乙なものだ。確か連中は借金を抱えていたはずだ。それならひとつ債権でも買い取って、追い込みがてら迫ってみるとするか――
「しゃ、社長」
「あァ?」
パティの程良い大きさの乳房を愛撫しながら、さらなる欲望の算段を弾いていた最中に割り込まれて、パサベイは話しかけてきた通信士を不機嫌そうに睨む。通信士はその眼光に竦みながらも、なんとか言葉を継いで報告した。
「つ、通信が入っています。接近する『騎士団』機からです」
「――騎士団から? ここでか。チッ……しゃあねぇ、出せ」
「あんっ」
パサベイはその目に殺気を宿すと荒く吐き捨て、抱いていたパティを乱暴に船橋の脇へと押しやる。無重力に押し出された少女は切なげに喘いでみせつつ、乱れたスーツの前を素早く直しながら船橋正面のモニタを見た。
すぐに通信が接続され、モニタに金髪の美女が映し出された。凛々しく涼やかな青い目元に、冷たい雰囲気を讃えている。
新型の連邦式パイロットスーツの胸元を押し上げる膨らみは、男が抱いていた少女のそれよりゆうに二回りは豊かだ。それでいて引き締まった身体に隙は無い。
「境界巡察お疲れ様です『騎士様』!」
『お勤めご苦労。息災そうだな』
いつか床へ犬みてぇに這いつくばらせながらバックでガン突きしてヒィヒィ言わせてやりてえ、と心中だけで金髪巨乳美女に舌を嘗めずりながら、パサベイは隙のない営業スマイルで遜りながら応えてのけた。
「へへぇ、これも騎士団様のおかげさまです」
短いやり取りの間に、船橋の窓の向こう側でスラスターの噴進炎が躍って輝く。その『騎士様』が駆ってきたMSが姿を現していた。
YMS−15『ギャン』。2機編隊だ。
かつて一年戦争末期、ジオン公国軍最後の次期主力量産機コンペに参加した、格闘重視型のMS――オリジナルの設計にブッホ・エアロダイナミクス社が独自の改修も加えた、その戦後レプリカ生産機だった。
ジオン系MSとしては異質の直線的なシルエット、そして現代兵器というより中世の板金甲冑を思わせる独特の意匠。
さらには右手に握った大型実体格闘兵器のヒートランス、左手に構えた円形の大盾、そして腰へ佩いた大型ビームサーベル基部といった武装の数々が、まさに『騎士』の乗機たるに相応しい威容を示している。
騎士甲冑の兜そのものの頭部で十字型のレール上をモノアイが動き、船橋を睨んだ。
『この境界にお前たちが女連れとは珍しいな。聞いていないのか。最近この辺りに『女を狙う亡霊』が出る、とかいう話を』
「ああ……そういやなんか、そんな迷信もどきを言い出す奴らもいるらしいッすね」
女騎士はちらりと目線を動かし、ギャンのコクピット側でも通信小窓の端に映っているのであろう少女の姿を一瞥した。パティがばつの悪そうな愛想笑いを返す。
『ふん……。我々ロナ騎士団も、お前たち下々の者どもを守りはするが。あまり余計な手間は掛けさせるな』
「へへえ。騎士様の仰せのままに」
今まで社員や愛人たちに見せつけていた威勢のほどが嘘のように、パサベイ・ゴア社長は傲慢な女騎士へと慇懃に頭を下げた。
ロナ騎士団――それは地球圏有数の巨大複合企業集団、ブッホ・コンツェルンが抱える組織の一つだった。
ブッホ・コンツェルンは宇宙でのジャンクやデブリの回収を扱う、ブッホ・ジャンク社を祖業としている。殊に一年戦争後は戦後復興事業の中でさらに隆盛を極めており、創業者一族は地球の伝統ある旧家ロナ家とも結びついていた。 この新サイド4暗礁宙域のように、ジオン残党軍や宇宙海賊など怪しげな武装勢力が跋扈し、地球連邦軍による対処も追いつかない危険宙域で活動する自社及び契約企業の作業要員の安全を守るため、ブッホが地球連邦軍の認可を受けて設けた警備会社。
それがブッホ・セキュリティ社、通称『ロナ騎士団』だった。
ロナ騎士団の勢力は、連邦軍やルウム農協などと比べればごく小さなものに過ぎない。だがここで重要なのは、ロナ騎士団はジオン残党軍ルスラン・フリートと完全に敵対しているわけではない、ということだ。
例えば境界漁民たちが『聖域』近くで操業していて、ルスラン・フリートに拿捕されるような事態が生じたとする。このとき連邦軍や農協が助けを求められたところで、致命的な戦闘に挑むか、あるいは完全に無視するかの二択しかない。
そして境界漁民たちにとって、前線でのプレゼンスにおいて連邦軍や農協がルスラン・フリートに完全に押し負けつつあることは、もはや周知の事実であった。救援など期待できない。
しかしルスラン・フリートと完全に敵対しているわけではないロナ騎士団ならば、そこには交渉の余地が出てくるのだった。
そのロナ騎士団の構成員、特にMSパイロットたちは最高の家庭環境で育ち、最高の教育を受けてきたエリート揃いなのだという。
確かに、中には融通の利かない地球連邦軍や、ジャンク屋たちなどただの使い走りだとしか思っていない節さえ感じさせるルウム農協などより、よほど親身になってくれる騎士もいなくはない。
だがロナ騎士団の大半はこの女騎士のように、とにかくお高く止まった面々だ。油断ならない――少なくとも、パサベイとパティはそう思っていた。
なにせブッホ・ジャンクは境界漁民たちの後方拠点と、彼らが回収してきたジャンクの販路までもを握っているのだ。
ブッホはルウム農協や地球連邦軍と交渉して、P−04に港湾拠点と工場施設を設けた。そこで境界漁民たちが回収してきたジャンクを評価・査定して買い取り、必要な処置を加えて他サイドや月へ輸出。
さらにその船舶や作業ポッドといった表道具の整備から、各種生活物資の販売までを取り扱うことで、総合的な収益を上げているのだった。
境界漁民たちは前進拠点とジャンクの販路、そして境界での安全保障と引き換えに、ロナ騎士団の強い影響下に置かれている。下請け業者と言っても過言ではない。
現地派と中央派の2派閥が厳然と存在する地球連邦軍、ルウム農協、ロナ騎士団、そしてルスラン・フリート。
新サイド4暗礁宙域というジャンク屋にとっての巨大な『宝島』で境界漁民たちが操業を続けていくには、これら強大な武力を握る大組織との関係をバランスを取りながら維持していく必要があるのだった。
『――本当に、無理だけはしないでくれ』
そのときモニタ上で、金髪の女騎士の隣に通信小窓が増えた。端整な銀髪の美青年が案ずるような表情で顔を出している。もう一機のギャンに乗るロナ家の騎士だった。
『もちろん我々も油断なく警戒するし、助けを求められれば全力で駆け付けもする。だが、さすがに我々だけで境界宙域全体はカバーできない。
ましてや相手がルスラン・フリートでもない第三勢力なのだとすれば、交渉が通じる相手かどうかさえ分からなくなる。どうか慎重に当たってくれ』
「分かってますよ。命あっての物種ですからね――」
そのときパサベイの横目に、ほう、と熱い息を吐きながら女の目線で騎士を見上げるパティの横顔が入ってきた。それは自分に向けるものとは異なる、熱い憧憬の視線だった。
ギリッ、と奥歯を軋ませて静かに苛立ちを押し殺しながら、パサベイは愛想良く笑ってみせる。
『そうしてくれると助かる。君たちを守ることが、我々ロナ騎士団の存在意義だからね』
「ありがてぇこってす」
『もういいだろう。行くぞ、ヴィリ』
『分かっていますよ、キーラ。――それでは、無事の航海を』
女騎士が彼の名を呼び、男騎士が屈託なく微笑むと、ロナ騎士団との通信は切れた。2機のギャンはそれきり機首を巡らし、背部メインスラスターを噴かせてジャンク回収船から離れていった。 「…………」
ロナ騎士団の2機が回収船から十分に遠ざかったのを確認してから、男は船橋の前列へ向かって言葉を投げた。
「おい。進路を変えるぞ。前方15キロ、あのコロニー残骸の下に回れ」
「はっ……? し、しかし、社長。その経路では、騎士団機との通信が維持できなく――ブッ!!」
「馬鹿かテメェは!?」
途中まで言おうとしたところで、彼はパサベイに思い切り後頭部を蹴飛ばされてコンソールに潰れた。
「話聞いてなかったのかこのボケ、あいつらもお宝の噂を聞きつけてんだよ! このままブッホの騎士どもに一部始終を見られてたら、せっかくお宝を収めても奴らにいいように搾られちまうだろうが。
奴らはこれから帰り道だ、いったん隠れてやり過ごすんだよ!!」
瞬間的にキレた社長はそのまま大声を張り上げながら、パサベイは部下の頭を激しく何度も蹴りつけた。コンソール上に頭を踏みにじりながら威圧する。
「だいたいテメェの見張りが適当だから、今もブッホのクソ騎士どもにコソッと近づかれたんだろうが! 先に見つけてりゃあうまく撒けてたかもしれねぇのによ。境界じゃあ目ン玉皿にして見とけって言ったろ?
人並みの仕事も出来ねぇ雑魚が人間様みてぇな口利いてんじゃねぇよ!! 給料丸ごと引くかんなテメェ!?」
「も、申し訳ありません社長、申し訳ありませブギュぅッ」
「やばっ、今出た声めっちゃキモい!」
「ほんとトロクセぇ奴だなァ。テメェみてぇな奴は他じゃ通用しねえよ! それでも使ってくださる社長に感謝するんだな」
社長に頭を足蹴にされて平謝りしながら奇声を発した社員を指さし、少女は楽しげに嘲笑いながら男の豪腕へ胸を押し当てるように抱き着いた。
社長の尻馬に乗って彼を嘲る別の社員――彼にも周辺警戒の責任があったはずなのだが、流れに乗ることでうまく責任転嫁を誤魔化している――に持ち上げられ、機嫌良さそうに耳元で笑いながら媚びるパティからの嬌声を浴びて、ようやく社長は機嫌を直した。
「チッ……。次もっぺんやらかしたら、マジで船外に蹴り出して殺すかんなテメー」
「は、はひっ。申し訳ございません、申し訳ございません……」
ミノフスキー粒子の干渉を断続的に受け続けているレーダー画面と窓越しの宇宙、そして船体各所の監視カメラで再度全周を警戒してみれば、すでに周囲には他の境界漁民も、地球連邦軍やルウム農協の哨戒部隊の姿も見えなくなっていた。
パティがもたらした目標の座標まではあと少し――ここから先、真に警戒すべきは残党軍哨戒部隊の動向だ。
「連中の定時哨戒がいつも通りなら、うまく誤魔化せればあと2時間で宝船までたどり着ける」
ジャンク回収船はコロニー残骸の陰で減速していく。
ルスラン・フリートが暗礁宙域に築いた見えざる堅城、絶対防空圏『聖域』を指呼の間に捉えながら、ジャンク回収船は作業準備を装って去りゆくロナ騎士団のMS編隊を見送りつつ、コロニー残骸の影で静かに目標を目指す時を待った。 「おお……すごい。なんか、本当に『ディナー』っぽい……」
十人ほどの人間が入ってなお余裕のありそうなミケリヤ邸の食堂には、すでに皿と食器が整然と並べられ、隣接する台所から食欲をそそる匂いが届いていた。
示された時間に三三五五と集まってきたトラキアMS隊の来客たちと同様、アイネ・クライネ伍長も食卓を遠巻きにしながら手持無沙汰に立ち尽くしている。
プラント到着後初めての夕食は、サブリナ・ミケリヤ少尉とマコト・ハヤカワ准尉の2家族が主催して、トラキアMS隊から招いた来客と顔を合わせる会食だった。
そしてアイネは結局この時間まで、ミケリヤ邸で割り当てられた自室へ入る時間もないまま、上官たるトラキアMS隊長マコトから預かったその娘ミコトに延々と振り回され続けていた。
ミコトはその母親似の可愛らしい顔立ちに浮かべる表情こそあまり大きく動かさないのだが、動作と感情の振り幅は非常に活発だった。
プラント最下層部の一区画を使って箱庭のように設けられた、ミケリヤ邸・ハヤカワ邸の各地をミコトがじっくり見せて回ってくれたおかげで、アイネはこれから当分の間寝起きすることになるのであろう一帯についての理解を深めることが出来た。
そしてもう一点、アイネが骨身に染みて理解したことがあった――ミコトはアイネの乳房に、並々ならぬ強い関心を抱いている。
何しろ手で、顔で、頭で、胸で、とにかくミコトは全身全力でアイネの乳房を触ってくるのだ。アイネに隙あらばキャミソールを剥き下ろして裸の乳房を転び出させようと企む、無邪気な幼女の邪悪な意志の存在を強く感じさせられていた。
夕食前にはミコトが帰宅してようやく解放されたとはいえ、これからこの調子がずっと続けば身が持たないのではないかと思う。いや、ミコトはとても可愛いから、そういう意味では癒されるのだが……。
そんなにおっぱいが好きなら自分の母親にも同居のサブリナにもじゅうぶん立派なものがあるでしょうが、ともアイネは思った。
だが途中でサブリナが近くを通りかかったときもそちらには無関心だったあたり、ミコトが狙う獲物はどうしてもアイネでなければいけない理由があるらしかった。
やはり決め手はこの大きさなのだろうか。
「はあ……。まったく、子どものおもちゃじゃないっていうのに……。……はっ!?」
いくらなんでも大きく育ちすぎたとしか思えない自身の胸の膨らみを両手で支えながらため息を吐く。
そこで絶対零度の視線で見上げるマリエル・エイムズ軍曹、赤面しながら顔を逸らすシュン・カーペンター伍長、だらしなく緩んだ顔で凝視してくるイベル・ガルノフ軍曹らに気づいて、アイネは慌てて胸を隠すように両手でかばった。
だが、その場に居合わせた男たちのうち、ロブ・サントス伍長だけがなぜか疲れ切った顔のまま天井を見上げており、アイネの無防備な動作にも無反応だった。変な目で見られなくて良かったと思いつつ、体調でも悪いのだろうか、とアイネは同時にロブを案じた。
いや――この食堂には実はもう一人、男がいた。
「うわーっ、すっげー! ねーちゃんのオッパイ、ほんとにすんげーデケーなっ!!」
「ジロ君、だめっ!! いきなり女の人に体のことを言ったらダメだよっ!!」
無遠慮な喚声を上げながら飛び込んできたのは、ミコトと同年代とおぼしき短髪の、いかにもやんちゃな雰囲気の男児だった。
そして彼より少し上背がある年長と思しき女児が、二条の三つ編みにまとめた柔らかそうな栗色の髪を揺らしながら、その少年の背中に駆け寄ってくる。
「見てよシー姉、マジでけぇ! このお姉ちゃんのオッパイ、かーちゃんのオッパイの倍じゃきかないぐらいデッケー!!」
「だからー!! そういうことを言っちゃダメなのーーー!!」
三つ編みの女児は弟分らしき男児を捕らえて説教を始めたが、もともと優しそうな可愛らしい顔立ちのうえ仕草と口調も断固たる意志に欠けるため、いかんせん迫力がない。 「う、うう……。わ、わかったよシー姉……。オレが悪かったよ……」
それでも、そんな女児が困り眉毛の下で大粒のエメラルドグリーンを思わせる瞳に涙を溜めはじめると、さすがに男児の方も何か察したのか、そこでおとなしく押し黙った。
女児は小さく震えながら、アイネの前まで進み出て会釈した。
「あの、はじめまして。わたしはミケリヤ家の長女、シータ・ミケリヤと言います。弟のジローが本当に失礼なことを言ってしまってごめんなさい。弟にはわたしの方から、後でよく言い聞かせておきます」
「こんばんは、シータちゃん。私はアイネ・クライネ。お母さんのサブリナ少尉にはお仕事でお世話になっています。えっと、ジロー君、……びっくりしちゃったけど、もうしないでね」
「うっ……」
膝を折って目線の高さを合わせながら、アイネは二人へ微笑みかけた。そこまでするとジロー少年にも通じたようで、男児は少しばつの悪そうな顔で目線を逸らしながら、小さく「ごめんなさい」と口にした。アイネは頷き、とりあえず許すことにした。
――何しろすでに、もっと強烈なのを食らっていることでもあるし。
「ありがとうございます!」
姉のシータは微笑むと弟のジローの手を引き、他の面々への挨拶回りを始めていく。どうやらアイネ以外は初対面ではないらしかった。
「みなさん、お久しぶりです! あれっ。ガルノフさん、お怪我されたんですか?」
「……いや、これは……その……」
「どうしたんだよ、ロブ。元気ねーな……おーい。どうしたんだよー?」
「…………」
落ち着いて二人をよく観察してみれば、弟のジローには確かにサブリナの面影がある。だが一方で姉のシータの方は、髪や瞳の色といい顔立ちといい、あまりサブリナに似ているようには見えなかった。
「あの、皆さんをお席にご案内しますね!」
ミケリヤ家の家庭事情は分かりかねるが、それこそ分を超えた質問というやつだ。アイネはただ微笑みながらシータの案内に従い、まだ小さいのにしっかりしたお姉さんだなあ、と思いながら食卓へ向かう。
アイネの席はシュンとマリエルの間に用意されていた。笑顔でお辞儀して立ち去るシータを見送りながら着席しようとしたとき、アイネは覚えのある気配の接近を背後に感じた。
この足跡、歩幅、そしてブレることのなく目指す目標――振り向かなくても分かる。間違いない、奴だ。奴が来た。
「んっ!」
内心で待ち構えていたアイネの思考を読んだように、ミコトが頭からアイネの乳房へ突っ込んできた。キャミソールの張りつめた谷間に頭を埋めながら、アイネの膝上に身を乗り上げてくる。
上陸されてしまった。
ミコトは両足をアイネの太腿の上に渡して全身を交差させると、アイネの右乳房に上から顔面を預けながら、小さな手で左乳房を下からたぷたぷと揺らしにかかってきた。
相変わらず表情の読めない顔をしているが、その瞳は輝き、足先は楽しそうに揺れ動いている。
「み、ミコトちゃん、久しぶりね……」
「ん」
隣席のマリエルが困り顔で話しかけたが、ミコトは雑な返事を寄越しただけで、アイネの胸に無言のまま没頭している。
女児に弄ばれてぷるぷると震えるキャミソール越しの爆乳を前に、ガルノフがいやらしい笑みを深め、ロブは相変わらず心ここになさげな夢見心地で、シュンが羨望と屈辱を半々にしたままの困り顔で直視しきれないまま、ちらちらと視線を寄越している。
つまり、誰にも止められない。 「ダメだよミコちゃん、そんなことしちゃダメ! ミコちゃんの席はこっち! こっちだよミコちゃん!!」
アイネたちゲスト組の対面で自分も席に着いていたシータが身を乗り出し、もはや食堂唯一の良心としてミコトの暴挙をやめさせようと説教しはじめたが、ミコトはまったく反応しない。
その傍らでジローが頭の後ろで両手を組みながら、軽く馬鹿にするように言い放った。
「ほんっと、ミコはガキだよなー! もうすぐ7歳だってのに、未だにオッパイ大好きなんだもん。オレはもう大人の男だから、オッパイなんかとっくに卒業したけどな!」
「うっ……」
得意げに鼻の穴を膨らませながら、ジローがミコトへ謎のマウントを取りにかかる。ミコトはこれも馬耳東風だが、流れ弾が変なところに着弾したらしくシュンが具合悪そうに俯き、マリエルが異様に冷たい視線を向けた。ロブとガルノフに変化はない。
「よーしお前ら、お待ちかねの料理が出来たぞ!! ……ってアイネ、何してんの?」
「ミ、ミコトちゃんが……」
そこへようやく、料理満載の鍋や大皿を持ったサブリナとマコト、そして初めて顔を見る成人男性の3人が台所から顔を出した。ミコトはこの期に及んでなお動じるも飽きることもなくアイネの乳房を弄んでいる。母親に対しても反応を見せていない。
サブリナの夫らしき男性の目の前で、乳房をミコトのおもちゃにされている――最高に気まずい状況のまま、アイネはとりあえず自己紹介した。
「あ、アイネ・クライネ伍長です……よろしくお願いします」
「どうも、サブリナの夫のロン・ミケリヤです。クライネ伍長、はじめまして。妻がいつもお世話になっています」
「おう、今日の料理は買い出しから仕込みまでほとんどロンくんがやってくれたからな。感謝して食えよお前ら!」
ロン・ミケリヤは温厚篤実そうだが屈強な体格で、サブリナとほぼ同年配の二十代半ばほどと思しき若い男だった。ジローが二人の息子だと言われれば素直に納得できるが、やはり彼がシータの父親だと言われてもピンと来ない感じがする、とアイネは思う。
「――面白い子でしょう?」
「え?」
料理を手際よく並べていくロンに言われて、アイネはすぐにミコトのことを指しているのだと気づいた。
「うちは妻が産後も軍に残って、私は退役してミコトも含めた家庭を守っています。
マコトが艦艇勤務でここを留守にしている間は、ミコトの面倒も毎日一緒に見ているのですが……ミコトがこんなに人に懐いているところは、はじめて見ました。誇っていいことだと思いますよ」
「そ、そうなんですか……ええ。ミコトちゃんはとても面白い、可愛い子ですね……」
出来ればもう少し、ソフトな感じの懐かれ方が良かったのだが――アイネは言いながらマコトの表情を追おうとしたが、彼女はただ黙々と大皿を並べていくだけだった。
「酒もあるからな、欲しい奴は言えよっ。ああガルノフ、ケガ人にはやらねー! オメーはジローと一緒にミルクでも飲んでろ!!」
「そ、そんな!」
食卓の準備はすぐに整い、会食が始まった。
料理に供された食材のほとんどは、ルウム農協がこのプラント群で生産したものだという。野菜や穀物だけでなく、魚介に鶏卵や畜肉、乳製品の類までもがふんだんに用いられた食事の豊かさにアイネは舌を巻いた。
「これ、ぜんぶP−04で作ったものなんですか?」
「ちょっとは輸入品もあるけど、9割がたはそうだね」
自慢げに胸を張りながらサブリナが答える。 「戦後すぐから北米大陸の穀倉地帯がごっそり焼けた星屑特需後しばらくの間は専らコメとか穀物主体だったんだけど、その後は地球圏の農業生産の立ち直りに合わせて多角化が進んできたんだよね。今じゃ水産から畜産に酒造まで手広くやってるよ」
「えっ、プラントで畜産もできるんですか!?」
「まあ、ちょっとずつだけどね――ああ、そうか。アイネはテキサス生まれだっけ。さすがにあんな大規模じゃないし、コロニーと違ってプラントだとうまく行かないことも多いみたいだけど、なんだかんだと畜産技術の復活も進んでるみたいよ。
今お前らの皿の上に載ってるのも、ルウム農協ブランドのリアル牛肉だぜい」
おおっ、とどよめきが漏れた。合成肉ではなかったのだ。口に入れてみれば、確かに美味しい。
「すごい……畜産業まで復活しているなんて……」
感動するアイネの膝上では、ミコトもアイネの乳房を背もたれにしながら黙々と、アイネの皿から料理を口に運んでいた。
アイネは食事を口まで運ぶたびに、黒髪の光沢に天使の輪を宿したミコトの頭を汚さないように気を遣いはしていたが、逆に言えばその程度で済んでしまっている。
それになんだかんだ言っても、膝の上で機嫌良さそうに食べるミコトの後ろ姿は、可愛いのだ。
「まあ、これもマコトたちがトラキアに残って、P−04から外に繋がる航路を守ってくれてるおかげなんだよね。こっちに残ってる私らだけじゃあ、この食卓は用意できないんだ。――感謝してるよ、本当」
「……いや、……私は……別に」
サブリナがマコトに話を振っても、ミコトはアイネの膝上で黙々と食事を続けるだけだ。代わってジローが目を輝かせながら身を乗り出してきた。
「マコトさん、航海のお話聞かせてよ! ジオンのモビルスーツ、今度は何機撃墜したの?」
「ジロくん、戦争のお話はダメだよ! グンジキミツがあるし、マコトさんも疲れてるんだからねっ」
「えーっ。いいじゃんシー姉」
あまり似ていないミケリヤ姉弟がわちゃわちゃ騒ぐのを見ながら、アイネは食器を置き、軽くミコトの頭を胸に抱きしめた。
「ミコトちゃん。ミコトちゃんのママはね、ほんとに凄いんだよ」
「…………」
無言のまま動きを止めたミコトに、アイネは耳元から小声で優しく囁いていく。
「あなたのママが、私の命を助けてくれたの。ママがいなかったら私もここにいないし、そしたらミコトちゃんをここに乗っけてあげることも出来なかった。
ミコトちゃんのママは本当に強くて、優しくて……いちばん素敵なひとなんだよ」
「…………」
ミコトは黙り込み、手元のナプキンで口元を拭うとそのまま、またアイネの乳房に頭を埋めてしまった。もう食事にも満足したのか、そのまま動く気配を見せない。 うーむ、とアイネは唸り、苦笑するサブリナとロン、そしてミケリヤ姉弟から質問を浴びせられながら寂し気に笑うマコトを見た。ミコトの頭をそっと撫でながら海老フライをつまみつつ、ふと思い出してサブリナの方に尋ねた。
「そうだ。そういえば、……『境界漁民』って何なんですか?」
「あー、境界漁民はねえ。あいつら別に、特に魚介とか関係ないんだよね……。まあ、要するにジャンク屋なんだよ。
うちのソギル准将閣下とルウム農協が組んで、免許持ちがP−04に入って連邦軍に予備役登録すれば、ジャンク屋用のボールを貸し出すってキャンペーンで人を集めたんだよね。それで有価値ジャンクを回収して儲けてる若いのが大勢いるわけ」
「なるほど、それで漁民……。境界、っていうのは?」
「うちらP−04側の防空圏とルスラン側の防空圏の境界あたりが、いちばん手つかずのジャンクが残ってて連中的においしいらしいんだよね。そこでジャンクを漁って活動するから『境界漁民』……そのまんま。
うまくやれば割と儲かるらしいけど、ブッホの下請けみたいなもんでもあるし……まあ、大変そうよね」
「すごく若い女の子たちもいましたよね……」
アイネが第113整備基地で見かけたボール乗りと思しき少女たちは、明らかにアイネたちより年下だった。せいぜいミドルティーン程度ではなかったか。
「うん、若い娘たちもいるね……最近は身寄りが無くてもボールを乗りこなせるぐらいの技量があって、ここで経験を積もうとしてる地元の娘たちも結構育ってるから。
それに上としてはルウム農協の農業以外に、ジャンクの回収と再生も基幹産業に育てていきたい思惑があるみたいなんだよ。いざという時のための予備戦力も確保したいし。
だから私らとしても守ってやらなきゃいけないんだけど、あいつら放っとくとすぐ境界のルスラン側に寄ってくからなあ。そこでうちらが迂闊に近づくとルスランの哨戒部隊とドンパチ始まっちゃうし、わりと手に負えん部分あるんだよね」
「境界漁民も、いちおう連邦軍なんですよね……ルスランから攻撃されないんですか?」
「いきなり殺されたりはしないみたい。中にはルスランの連中にジャンクを直接売りさばく奴までいるらしいんだけど、たまに拿捕されてるね。そういうのは大体、ブッホが作ったロナ騎士団とかいうMS持ちの警備会社がルスランと交渉して何とかしてる」
「民間警備会社……」
アイネは言いながら、P−04へ向かっていた貨物船『リバティ115』を護衛していた警備会社VWASS――ヴィックウェリントン・エアロスペースセキュリティ社と、その元気が取り柄の少女アシュリー・スコット予備上等兵を思い出す。
そういえば、あの子もボール乗りだった。
「ジオン残党相手に連邦軍、特にウチみたいな部隊が直接前に出ると、もう戦争にしかならんからさ。今の戦力比だと、やりあって必ず勝てるわけでもないし……だからああいうどっちつかずの民間組織が間に入ってくれてるのが、一番いいのかもしれんね」
「なるほど。そういうものなんですね……」
「ただ……」
「――ただ?」 一瞬言いよどんだサブリナに、アイネは思わず続きを促す。サブリナは料理に目を落としながらも手を止め、声を下げながら続けた。
「あの辺の境界宙域にはルスラン以外にも、なんか……『良くないもの』が出るっぽいんだよね」
「――『良くないもの?』」
「そう。なんか、理屈では言い表せないもの。人間の常識を超えてる、っていうか……とにかく、普通じゃないもの」
「まさか……ジオン残党の、ニュータイプ用サイコミュ兵器でしょうか?」
かつての一年戦争においてソロモン攻略戦の直後、連邦艦隊を襲った正体不明の敵による謎の攻撃があった。
戦後7年が経過した今ではジオン公国軍が開発したニュータイプ用モビルアーマーによる超長距離攻撃だったとされているが、当時はその正体に関して様々な憶測が流れ、非科学的なものも多く含まれていたという。
「うーん……どうも、そういうのじゃないっぽいんだよね。そこまで具体的なものじゃない。ただ、分からないんだけど、どうも……あの辺には何か『人じゃないもの』が、いる気配がある」
「人じゃない、もの……?」
「あいつらが……残党軍や海賊の類だとは、思えない……」
サブリナはよく冗談を言うし、アイネをからかうことも少なくない。
だが少なくとも今この瞬間のサブリナには、普段そうしたときに見せる稚気のようなものの気配がなかった。
サブリナは怪力乱神を語り、非合理的な精神論でごり押ししようとするタイプの士官ではない。
彼女にここまで言わせるものとは何なのだろう、とミコトを膝上に載せたままアイネが考え込むと、サブリナはそんな彼女にふっと優しく微笑みかけた。
「――何。アイネ、漁民連中が気になるの?」
「あ、はい。私が連邦軍でMSに乗りたいって思った理由は、やっぱり戦災復興の最前線で力になりたかったからですし。ジオン残党軍に脅かされる第一線で頑張る人たちがいるのなら、その人たちのために働きたいって思います」
「ふーん、……そっか……。よし。がんばれ!」
何かを切り替えるようにサブリナが笑ったそのとき、食堂に不意の警報音が鳴り響いた。
食堂の端でニュース番組を流していたテレビモニタの画面が、暗礁宙域の望遠ライブ映像に切り替わる。何かの光が動いていた。爆発の残滓だ。
『境界宙域に爆発光を含む戦闘光を確認。現在ルウム農協第411MS中隊が急行中』
「戦闘!?」
アイネが反射的にミコトを脇へ下ろしながら腰を上げた。そのままMSを置いてあるプラント中心軸の整備場へと繋がるエレベーターまで走り出そうとして、サブリナに鋭く制止される。
「いいよ、アイネ! ここじゃあこんなのはしょっちゅうだから。初動対処はアラート待機の連中がやってくれる。私らはいよいよ、って時までどんと構えていりゃあいい」
星々とデブリの海を捉えた望遠映像の中、RGM−79GSR『ジム・ゲシュレイ』らしき2機を上下に積んだパブリク改級哨戒艇が高加速を掛けながら、爆発光が消えていこうとしている方向目掛けて駆け抜けていくのが見えた。
そして戦闘光らしきものは、それ以上新たに大きく広がっているようには見えない。
「今はとにかく飯を食う! しっかり食って態勢を整えて、動くとしたら状況を見てその後。いい?」
「は、……はい」
アイネに向かってそう言いながらも、サブリナは真剣そのものの目で戦闘宙域を映すモニタを凝視していた。アイネがその手に触れる気配を感じて視線を落とすと、ミコトが彼女の手を取りながら、席へ戻れと促すようにじっと見上げている。
「――そうだね。ミコトちゃん……びっくりさせて、ごめんね」
汗のにじんだ掌の中に小さな手をそっと握り返しながら、アイネは再び食卓へ戻り、モニタの映像を見守った。 リック・ドムUが、そして3機のボールが、脚とマニピュレータを使って押し出す反動でジャンク回収船の船体からゆっくりと離れた。十分な安全距離を取ったところで4機は旋回し、スラスターを噴かす。
正規のMS運用対応艦艇の装甲なら、いきなり甲板上でスラスターを噴かして発艦しても問題はない。だがジャンク回収船『ジャンクハンター・ゴアズ』には、まだその灼熱の噴流に問題なく耐えられるまでの改修は施されていなかった。
まず道案内役を務めるパティ・リンデンのボールが先導し、そのすぐ後ろにパサベイ・ゴアのリック・ドムUが、そして社員2人のボールが続いていく。
パサベイ機はドム系MSの代名詞とも言える武装をまったく装備していないため、それだけで機体のシルエットは独特に見えた。射撃兵装のジャイアント・バズが無いのは当然としても、背中へたすきに掛けているはずのヒートサーベルも無いのだ。
兵装らしきものとしては、代わりに前腕部へビームサーベルがマウントされているだけだった。
ジャンク屋業務で用いる解体装備と考えるなら、刃に一度でも熱を入れればほぼ使い捨てになってしまうヒートサーベルより、繰り返しの使用にも耐えられるうえ廃熱の心配も少ないビームサーベルの方がずっと優れているのは、実用性と経済性の面からも当然と言える。
さすがにビームサーベルまでは許した連邦軍からも、マシンガンやバズーカといった類のMS用射撃兵装は認められていない。だが同じく許可されたボールの低反動砲を分解して、MS用ハンドキャノンを仕立てられるだけの技術力は彼らにもあった。
だから随伴するボールの1機が頭頂部に装備する連装低反動砲が奇妙なかたちをしているのも、いざとなれば取り外してリック・ドムUが手持ちで構えられる射撃兵装として運用するための『抜け道』を用意するためだった。
もっともパサベイたちはこれらの武装でルスラン・フリート哨戒部隊と一戦交えようなどと思っているわけではないし、昨今流行りのエゥーゴとやらに参加するつもりもない。
ジャンク屋たちが持つMSが武装として最大の真価を発揮するのは、お上の目の届かない軍事力の空白地帯――すなわちこの境界で、同業者たちと獲物を巡って小競り合いするときなのだった。
この境界に法など無い。力こそが法なのだ。
「――ビンゴ」
そしてパティの先導で、パサベイたちは目標を捉えた。
8年前のルウム戦役で大量の金塊を搭載して脱出しようと出港したものの、結局は戦闘に巻き込まれ船橋を潰されて乗員全員が死亡、その後も旧ルウム暗礁宙域を漂い続けていた『宝船』。
もはや境界漁民たちの伝説となっていたその船影を、彼らはついに捉えたのだ。
『船舶番号の標記も合致……間違いありません。やりましたね、社長!』
『やったぁ!』
「船を呼べ。すぐに境界から引き揚げるぞ――まずはワイヤーで固定して曳航準備だ」
『――コッチニ オイデヨ』
『あ?』
だが歓喜に沸く境界漁民たちの通信回線にそのとき、子どもの笑い声のような雑音混じりの『何か』が入った。 リック・ドムUが十字レール上にモノアイを巡らせ、愛人と社員たちが乗る3機のボールを確認する。
「おい……今誰か、何か言ったか?」
『あたし、何にも言ってないよ』
『俺もです、社長』
『でも、今、何か……聞こえましたよね……?』
「じゃあ、何だ、……今の……」
『コッチニオイデヨ……オネエチャン、……コッチニオイデヨ……!』
『また……!?』
再び入電。さっきよりもはっきりと、その音声は聞こえてきた。
近づいてきている。
暗礁宙域は静止した空間ではない。漂うデブリは地球と月の重力に引かれながら、軌道上を高速で同一方向に飛び続けている。相対速度が合致しているから止まったように見えているだけだが、それも常に見えない重力の力を受けて揺れ動き続けている。
そうして漂うデブリの海の中から、近づいてくる電波の発信源をリック・ドムUが割り出す。即座に望遠し、モニタ上に拡大した。
「ま、まさか――まさか、こいつが――『亡霊』……!?」
全身のあちこちに被弾の痕跡を刻みながら、力なく漂ってくるモビルスーツ。MS−06F『ザクU』――いや、その残骸から、電波は発信されていた。
『い、生きてる……の?』
「何だぁ、テメェ……? ビビらせやがって……無線で録音流してるだけか。カモがネギ背負って来てんじゃねぇよ」
パサベイは言いながら、ビームサーベルをその手に取った。見た目の損傷具合からして、8年前のルウム戦役当時の代物だろうか。いかに旧式の残骸であっても、ザクUを丸々回収できれば悪くない儲けになる。
「よし……こいつにも縄を掛けろ。宝船と一緒にふん縛って回収、きれいに売り飛ばしてやる。行け」
『へ、へいっ。オラ、行くぞっ』
『は、はい先輩っ』
『な、何だろ、このザク……なんか、……キモくない……?』
社員たちのボール2機がワイヤーを構え、ザクUに接近していく。パティのボールはビームサーベルを握ったまま身構えるリック・ドムUの側に残った。
そしてワイヤーアンカーを狙い撃てる距離にまで2機のボールが達したとき、突然、ザクUのモノアイが異様な光を放った。
同時に機体各所のスラスターとバーニアを全開にしながら、今までにない大音量であの通信を叩きつけてきた。
『コッチニオイデヨ! コッチニオイデヨ!! オネエチャアアアアアンンンッッッ、コッチニオイデヨオオオオオオ!!』
『なっ!?』
2機のボールが同時に撃ったワイヤーアンカーは虚空を突き抜けていた。社員がボールを旋回させて再びザクUの機影を捉えようとしても追い切れず、その後ろからヒートホークが突き刺さる。
『ど、どこへ!? は、速っ――かぷあ熱ヂュウウッ』
『キャハーーーッ!! ジョーオーハーツゥゥゥーーー!!』
プラズマ化した斧刃が装甲をバターのように切り裂き、コクピット経由で一気に丸い機体をえぐり抜く。社員の絶叫とそのマイクが一瞬で燃え尽きるまでの音を通信回線に残してボールは燃料電池に引火、そのまま盛大な火球となって爆散した。
『せ、先輩……ひ、ひぃ……っ、ひいいいいぃぃぃッ!!』
「おいコラァ! 勝手に逃げてんじゃねえぞテメェ!?」
同僚が眼前で瞬時に焼死爆散する瞬間を見せつけられた生き残りの社員はボールを反転、スラスターの推進剤ペレットを一気に全力で噴射させた。一も二もなく全速力で、転がるように離脱していく。
『モエタ、……モエタァァァァァァ! ホネマデモエテ、カキュウニナッテ、シンダァ……シンダアアアァァァ!!』
がくがくがくがくがくっ、とヒートホークを出鱈目に振り回しながら、社員の焼死で狂喜したかのようにザクUが躍った。それはもはや薬物中毒患者の発作か、あるいは壊れたオモチャのような有様だった。
まともなパイロットがまともな機動制御プログラムを使っているようには見えない。
だがザクUはそこからモノアイを蠢かせ、パティのボールを直視してきたのだ。 『サア、オネエチャンモ、……オネエチャンモ、イコウ……コッチニ、オイデヨ……ジョウハツ、シヨウ……ヒートホークデ、ジュウッテ、ジョウハツ、シヨウ……!!』
『ひっ』
ヒートホークを握ったまま軽くスラスターを噴かして、傷だらけのザクUの機影がゆっくりとパティのボールへ迫りくる。
「おい、……待てや、コラ」
だがその行く手にパサベイのリック・ドムUが、ビームサーベルの光刃を伸ばしながら立ち塞がった。
『パサベイ!』
「ヒトの女に手ェ出してんじゃねェ……久々に……キレちまったよ……完全にな……」
『キャパーッ! ジョオーハツゥゥゥーーーッ!!』
弾かれたような高加速でザクUが跳ねた。速い。
だが、パサベイは勝利を確信している。得物の長さが違うのだ。パサベイ機のビームサーベルは、ザクUのヒートホークに対して圧倒的にリーチの面で有利だった。
『や、やっちゃいなよパサベイ! こんなバケモンなんかっ!!』
「オメーが蒸発しろやぁーーーッ!!」
リック・ドムUもスラスターを噴かせて突撃しながら、全力でビームサーベルを振り抜く。パサベイが確実に敵機の中心を切り裂いたと確信できた瞬間、ザクUはその光刃を受けていた。左肩の、盾で。
もしパサベイ機の格闘兵装がヒートサーベルのままだったら、この戦闘の結果は違っていたかもしれない。ヒート兵器相手にビームの作用を阻害する対ビームコートなどが通用するはずもなく、ザクUを盾ごと切り裂いて撃墜していたかもしれない。
だがパサベイ機のサーベルはヒートではなくビームで、そしてザクUの盾を切り裂くことなく弾かれていた。
「な、なんげゲブッ」
ズタボロの残骸として漂っていたはずのザクUが、新鋭の対ビームコートを備えた盾がある。
完全に理解を超えた現実を提示されながら、ザクU右肩のスパイク・タックルがリック・ドムUの胴体へと激突した。
地上用のドムと異なり、宇宙用のリック・ドムは著しく装甲を減じられている。本体重量も3割近く軽い。
この軽量化は高機動性の実現に直結していたが、こと格闘戦における打撃力と打たれ強さという面においては、著しい弱体化を引き起こしていた。
ザクUのタックルはそれだけでパイロットごとコクピットブロックを半壊させ、そしてザクUは動きの止まったリック・ドムUへとヒートホークを突き刺した。コクピット内へじりじりと、プラズマの刃を圧し込んでいく。
『キャアアアッパアアァーーーッッッ!! オネエチャンノマエニオッサンモッ、ジョーオォーーハアァーーーチュウゥゥーーーーッッッ!!』
「きびいいいいっ!! ひ、火いいいぃあッ熱ッもっ燃え、あぢゅうううブヂュッ」
『うそ――』
新式のビームサーベルを装備していたリック・ドムUが、デブリ同然に見えたザクUの残骸に襲撃されて撃破され、愛人の社長が死んだ。パティの思考はそこまでで停止させられてしまっていた。
あるいはこの瞬間に後ろからリック・ドムUごと低反動砲で撃っていれば、パティは助かったのかもしれない。
だが彼女がそれに気づいたときには、ザクUはすでにリック・ドムUのコクピットを完全に焼き切ったことを確認しながら、ゆっくりと振り向いてくるところだった。
『オネエチャン、……コッチニ、オイデヨ……』
「……ひっ」 ドンッ、とパティ機頂部の低反動砲が火を噴く。だがザクUはすでにそこになく、砲弾はリック・ドムUの胴体を撃ち抜きながら炸裂、機体を巨大な火球に変えた。
「あ、ああ! あああああ、ああ、い、嫌ぁーーーっ!!」
パティは引き金を引き続け、出鱈目に低反動砲を撃ちまくりながら全力で逃げようとした。敵の姿が見えない。
あのザクUは何なのだ。ルスラン・フリート所属機のようには見えない。では本当に、本物の『亡霊』だとでもいうのか。
完全に頭が真っ白になっている。彼女にいま分かっていることは、たったの一つだけ――逃げられなければ自分もあのヒートホークで焼き殺される、ということだけだった。
「アグ!?」
ガンッ、と真横から機体を圧されたかと思った時には、パティ機はそのままコロニー外壁の残骸に押し付けられていた。サイドモニターいっぱいにあのザクUの傷だらけの機影が、そのモノアイが映し出されている。ヒートホークを構えていた。
『オネエチャアアアンンン、ツゥカァマエタアァ』
「い、いや……い、いや……!! こ、殺さないで……なんでもする、……な、なんでもするからぁ……」
パティは震える手指でヘルメットを外し、ツインテールの髪と、涙でぐしょぐしょになった顔を出した。接触回線越しに相手のモニタへ自分の姿が映っていることを祈りながら、さらにパイロットスーツの正面ファスナーを下ろしていく。
「い、いくらでも……いくらでも、気持ちよくしてあげるから……ナカに出してもいいよ……何回でも、サセてあげるから……お願い、……こ、……殺さないで……」
必死に色仕掛けしながらの命乞い。永遠のようにも思えた数秒間が過ぎた。
ヒートホークは、来ない。助かったのか?
『……チガウヨ』
「えっ……?」
『ボクガネ、……イチバン、ミタイノハァ……、ジョウハツウウウゥゥゥッッッ!! オネエチャンガッ、ハダカラニクカラホネマデヤカレテェ、スミモノコサズニケシトンデッ、ジョウハツスルトコロガアァ、ミタイノオオオォォォッ!!』
「ひいッ!?」
ヒートホークがボールの正面装甲を少しずつ食い破り、ついにコクピット内へ侵入してきた。一気には来ない。だが確実にじりじりと少しずつ近づいてくる。
刃が直接触れずとも、その膨大な輻射熱だけで操縦桿が、シートが、そしてパイロットスーツがじりじりと泡立ち、煙を上げて灼かれていく。
『ジョウハツ! ジョウハツッ!! ジョウハチュウウウゥゥゥッッッ!!』
「あ、ああ!? あああああああああーーーッッッ!! いやああああああーーーッッッ!!」
パティは次々に燃え上がっていくボールの狭いコクピット内で、咄嗟にヘルメットを被りなおした。迫るプラズマ刃から逃れようと半狂乱で内壁に張り付く。
工具もなく、もはや振りかぶれる空間も無いというのに、少女の腕力だけで内壁をこじ開けようとするかのように縋りついた。ドアなど無いのに、壁を叩きながら叫んだ。
「開けて!! 開けてッ!! 開けてぇぇぇッ!!」
『ミセテェェェ……オネエチャンガタイマツミタイニエンジョウスルトコロ、ミセテェ……ドンナフウニモエテ、ドンナフウニケシズミニナッテ、ドンナフウニジョウハツスルノカアァ、ミセテェェェ!!』
灼熱地獄から1ミリでも逃れようと、壁に張り付きながら身をよじるパティの背中へと着実に斧刃は迫る。宇宙服として十二分な耐熱性能を持つパイロットスーツの生地が、ついにぱっと明るく燃え上がった。
「あ、熱いッ!? 死にたくない!! 死にたくないぃぃぃ!! 助けて!! いやああああ!! パパ!! ママ!! フィオ!! マルミン!! 助けてよ!! 助けてよおおおおおおぉぉぉッッッ!!」
もはや溶鉱炉と化したコクピット内で、今やパイロットスーツの背中はバックパックからほとんどが焼け落ち、少女の白い素肌を露わにしつつあった。そこから空気が漏れていく。
タンパク質の変性温度などとっくに超越し、自然発火点も超えている。だが少女の柔肌が真っ黒に炭化することはなく、火傷の一つすら負う気配を見せていない。
ヒートホークが放つすべてを焼き尽くす凶暴な熱量の光を浴びながら、パティの肌は何か淡い光の層を帯びていた。 『ジャア、……モエテッ!!』
そしてザクUはヒートホークを一気に押し進め、直接少女へ押し付けた。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛―――ッッッ!!」
溶けた鉄など比較にもならないほど熱いプラズマ化した刃が、パティの若い肉体を背後から丸ごと飲み込む。
ぼぢゅうぅっ、とコクピット内装のすべてとヘルメットが、そして焼け残っていた少女のパイロットスーツの側面と正面までもが瞬時に焼け落ちる音をパティは聞いた。
スポーツブラジャーとショーツもプラズマ刃の中で湯気のように消滅して、絶対の死を前に倒錯しながら達したパティの絶頂が勃起させた乳首と溢れる愛液が曝け出される。
「あっ、」
――逝くゥッ……!!
全身をプラズマ刃に包まれて死を認識した瞬間、パティの意識は蒸発していた。
『…………』
ヒートホークを引き抜くと、ザクUは急速に冷え固まっていくボールの破孔から、気絶したパティの裸身を引き出した。もはや通信も発さず無言のまま、その掌中に淡い光に包まれたまま気絶した彼女を収める。
もう1機のボールとリック・ドムUの残骸には目もくれず、ザクUは反転、離脱しようとして――爆発的な加速を掛けて横っ飛びに回避した瞬間、一瞬前までいた位置をビームの光条が薙ぎ払った。
「てめぇッ! 農協(ウチ)の店子を3機も食いやがったのか!? やってくれたな――死ね!!」
高速で境界宙域へ突入したパブリク改級哨戒艇から発進しながら、ジム・ゲシュレイの2機編隊がビームガンから放ったギロチン・バーストだった。続けざまに第二射、第三射が迫る。
ザクUは残骸もどきの外観に似合わぬ軽快な機動でデブリに紛れつつ巧みに避けるが、驀進するゲシュレイのコクピットでルウム農協の少女パイロット、トモエ・ワカツキ伍長は獰猛に笑った。
「ゲシュレイの足を嘗めんな! ザクごとき、この距離で逃がすわけねえだろうがッ」
ジム・ゲシュレイがベース機としたジム・コマンド宇宙戦仕様は、一年戦争末期の技術で最大限の局地戦性能を引き出すため、多数のサブスラスターとバーニアを機体各所に増設した意欲的な機体だった。
そのため運動性と短距離での加速性は通常型のジムより高い。
だが反面、熱核ジェネレータと一体化した高比推力の熱核ロケットではなく、配線越しの電気で燃焼するため推進効率の劣るサブスラスター類を増設したことで、総合的な機動性能と継戦性はかえって低下していた。
安定性も褒められたものではなく、総じて乗員の練度に恵まれなかったこともあり、カタログスペックに比して一年戦争での戦果は乏しい。
ジム・ゲシュレイはその局地戦機として尖った特性はそのままに、主ジェネレータをはじめとするジムU規格部品を導入して基本性能を伸ばし、さらに脚部にはRGM−79SP『ジム・スナイパーU』仕様の大型サブスラスターまで設けた機体だ。
むしろ癖はさらに強くなっている面さえあったが、トモエのようにこの難物を乗りこなせるパイロットがいったん敵機を交戦距離に捉えれば、たとえ相手が射撃兵装を持たずに軽いザクUが相手であろうと、逃げられる道理などない。
「おらおらおらッ! 墜としちまうぞ、亡霊さんよッ!!」
トモエのゲシュレイは牽制射撃を交えつつ、背中に目でも付いているかのように回避を続ける敵機との距離を見る間に詰めていく。トモエは盾の下に仕込んだツイン・ビームスピアへ得物を持ち替えるタイミングを探った。
長く遊んでやるつもりはない。次の一撃で仕留めてやる――
『トモエ、上!』
「!」
僚機のリタ・ブラゼル伍長から警告を受けると同時に、トモエは自機にロールを打たせて回避していた。その機体があった空間を大口径機関砲弾の射線が走り抜けていく。
MS−21F3『ドラッツェF3』。ルスラン・フリート哨戒部隊主力機の巨体がMMP−78型ザク・マシンガンの銃口を巡らせながら、逆さ落としに2機編隊で駆け抜けていった。速い。
トモエが咄嗟にビームガンで追撃したが当たらず、あっという間に有効射程外に離脱していく。 『後続も来る――中隊規模。ダメだね。トモエ、下がるよ!』
「ちいぃ……っ!」
そしてドラッツェ隊が来た方向から、さらに3機ほどのMS−06F3『ザクUファドラン』編隊とコムサイ改級哨戒艇が迫り来る。
まだマシンガン系の実体弾で狙われる距離では無いが、警告代わりとばかりにビームライフルが放たれた。その光条が回避機動するゲシュレイの軌跡を恐ろしいほどの精確さで掠めて、トモエはひゅっと息を吐く。
「やりやがる……ッ!」
さらにその後方にも、スラスター光のきらめきが見えている。いかにトモエとリタが腕に覚えがあろうとも、もはや2機で相手取れる戦力差ではない。ここは境界――時間は敵に有利、待てば待つほど敵が増えるのだ。
戦闘機動の中でトモエが視線を巡らせば、件のザクUは遠く離れ、すでにデブリの陰へと消えていくところだった。トモエが忌々しげに呪詛を吐く。
「覚えとけよ、テメェ……次に会うときは、確実にブッ殺す!」
不意打ちからの一撃必殺に失敗し、ルスラン・フリート哨戒部隊の介入を許した時点で選択肢は失われていた。ジム・ゲシュレイよりなお優速のドラッツェF3、機数で勝るザクUF3に追われながら、少女たちの2機編隊が旋回する。
P−04防空圏へ向けて一気に加速し、パブリク改級哨戒艇と合流する離脱経路へ乗った。
ルスラン・フリート哨戒部隊は後続の増援と合流しながら、2機のジム・ゲシュレイとパブリク改がP−04防空圏へ入るまで、周辺宙域を悠然と支配した。
やがて破壊された2機のボールとリック・ドムUの残骸を回収し、後方の前進拠点へと後退していった。 「ふむ。境界漁民がルスラン・フリート所属ではないと思われる所属不明のザクUに襲われ、貸与のボール2機と個人所有のリック・ドムU1機が大破、3人が死亡。
ルスラン・フリート哨戒部隊の介入により、不明機はルウム農協のジム・ゲシュレイによる追撃を振り切って逃走……か。やられたものだね」
P−04防空指揮所。
右の眼球をほぼ露出させた傷面偉丈夫の将官が、上がってきた速報に目を通している。
襲撃の戦闘光を見てアラート待機から突入してきたルウム農協MS隊に反応し、ルスラン・フリートは30機近いMS隊をその周辺に展開させていた。
連邦軍もP−04防空圏の前方にほぼ同等の戦力を展開させ、艦隊砲戦距離外から静かに睨み合っているが、敵もそれ以上の動きを見せようとはしていなかった。
とりあえず現時点では、これ以上の事態エスカレーションは無いと考えて良いのだろう。
「最近は、いろいろと噂になっているようだね。ルウム戦役の折、多量の金塊を積んで脱出しようとしたまま難破した幽霊船だとか。境界宙域に出没する、女性だけを付け狙う亡霊だとか――」
「境界漁民にも困ったものです。このままでは彼らの動きひとつで、次の大規模戦闘が偶発的に誘発されかねない」
「若者たちには、希望が必要なのさ」
「といって、このまま見殺しにするわけにも行きますまい」
居並ぶ参謀たちが目配せを交わし合い、一人が進み出て提言した。
「閣下……ここはブッホに要請し、一時的に境界漁民のP−04防空圏外での操業を停止させるべきでは?」
「ジャンク事業収益の低下は痛いところですが、我が方の戦力が整うまでにルスランとの大規模衝突が発生するリスクを鑑みれば、やむを得ないかと。今はひととき雌伏して――」
参謀たちの言葉の途中で、ユン・ソギル准将はそっと片手を立てた。分かっている、というように微笑む。
「この新サイド4宙域に漂うジャンクは、かつて旧サイド5の住民たちの財産だったものだ。それを自らの手で少しでも取り戻そうとする若者たちに、必要以上の枷を嵌めるような真似をしたくはない」
「それは、確かにそうですが――」
「災いの芽は、根から断つに越したことは無い。そう。『亡霊』が女性を狙うというのなら……逆に釣り出すことも出来る、ということだ」
「閣下……?」
「幸いなことに我が部隊には、才能ある優秀な女性たちが多い」
ソギルが操る手元の端末に表示されているのは、隷下部隊の女性MSパイロットたちだった。境界漁民も多くはボールの貸与と引き換えに連邦軍に予備役登録しているため、このリスト上に並んでいる。
少女たちだけで構成された、境界漁民の1チーム。そして最近P―04へ入港した母艦が整備に入って手持無沙汰になっている、艦載機の若年女性パイロットたち。
自ら人選を手早く終えたソギルは、居並ぶ参謀たちへ再び告げた。
「クシナダ作戦、と命名しよう。――境界宙域に潜む『亡霊』を、殲滅する」 「――アッ、……アッアッアッアッアッアッアッ……」
薄暗い部屋に、濡れ湿った肉と肉とがぶつかる水音が響く。
両手両足を拘束された全裸の美少女が、背後から男に犯されていた。少女は後背位で犬のように犯されながら、犬のように舌を出し、狂った犬のように喘いでいた。すでにその目は焦点を結んでいない。押し寄せる快楽の嵐の中で、理性はとうに崩れ去っている。
男の腰使いは力強く巧みで、そのリズミカルな突きが寄せては返すたび、逸物の亀頭に最奥を突かれて少女は喘ぐ。
膣肉はえぐり込んでくる肉槍を絡め取ろうとその堅さに従いながら必死に搾り上げ、もはや完全にこの男に奉仕するためだけの専用肉壺としてその形状を完成されつつあった。
「しゅごっ、しゅごいっ、しゅきっ、これしゅきいぃっ、いいのっ、しゅごいのっ、さいこおなのおおおおおっ。ほんものッ。これがほんものぉっ、ホンモノおちんぽにゃのおおおおおぉっ」
今まで自分を抱いてきた男たちとのセックスなどはすべて児戯にも満たぬ代物だったことを、少女はいま雌肉と魂に刻んで知った。
つい先ほど彼女を守ろうとしてモビルスーツで戦い、あっけなくヒートホークで焼け死んだ男のことなどとうに脳裏から蒸発していて、彼女はもはや名前すら憶えていなかった。
「…………」
そして男は完全に無言のまま、ちょうど掌に収まる大きさで張りの強い乳房を握りつぶすように乱暴に揉みながら、ひたすら肉杭を少女の子宮目掛けて撃ち込んでいく。ただ力強く、ただ機械的に。そんな突きだけで少女の人間性はひどく簡単に壊されていった。
だがその律動は次第に高まる波に導かれ、着実に絶頂へと駆け上がっていく。その周波数の微妙な変動を確実に捉えて、よがり狂いながら少女は求めた。
「ら、……出ひてぇ! ナカにぃ、……ナカに、射精してぇぇぇ!! ホンモノオトコの、ホンモノザーメン欲しいのおおおぉぉぉ!! 孕ませてぇぇぇええ!!」
「…………」
そして男が無言のまま、最奥で腰を、止める。
それが発砲の合図。
「……あ゛……ッ」
パリッ、と電流が少女の脳裏に走った。
どぢゅうぅっ、と亀頭が脈打ち、おびただしい精液を放つ。本来鈍感なはずの膣奥を犯し、子宮口へと注がれる精子の奔流を、彼女は確実に『目撃』した。
そして排卵済みの卵子へ向けて遡上した無数の精子が群がり、次々と受精していく『未来』の姿も――。
それらと同時に、ヒートホークの刃に全身を呑まれ、パイロットスーツもスポーツブラジャーもショーツもすべてが蒸発した瞬間の死と直結した快楽が再び蘇り、脳髄を直撃して完全に焼き尽くした。
パティの思考容量は完全に溢れかえって爆発する。
「お、おほ! おほおおおぉぉぉおほお! い、いきゅ! 逝きゅうううぅっ逝きながりゃああああああっ、はりゃあっ、孕みゅうううぅぅぅううう〜〜〜っ」
少女から『母』となる確実な未来へ向けて、淡い色合いの乳首が一気にドス黒く変色した。乳輪にぶつぶつと腺が浮いていく。
男に握りしめられたままの、弾力の強い美しい乳房――かつてパイロットスーツの輪郭越しに男たちを挑発し誘惑する、最高のイミテーションでありデコレーションだったもの。
それは膣内射精と同時にたちまち、まだ飲ませる赤子もいない母乳を四方八方へ撒き散らすだけの、無様なミルク・サーバーと化していた。
「……しゅっ……しゅっ、ご……っ、……しゅごっ……、……しゅごおおぉっ、……いいぃっ……っ……」
「…………」
脳を焼き切られた少女は息も絶え絶えに、ただ壊れたオルゴールのように同じ言葉を繰り返すだけだった。そして男の逸物は、少女の中でなお堅さを保っている。
意識の灯を吹き消された少女の肉体になお欲望を叩きつけんと、男は腰の動きを再開した。
「……あ、あへ……あ、あへ……っ……」
重い水音と機械のような嬌声が、なおも途切れることなく密室に響き続ける。
境界漁民パティ・リンデン予備上等兵は、『亡霊』の完全な性奴隷に、堕ちた。 今回は以上です。
追って挿絵付の推敲版をハーメルンとpixivに投稿します。
次回以降、新章となります。よろしくお願いいたします。 ガンダム世界の女性パイロットの下着ってどうなってるんだろう
ファーストの頃のセイラさんとVの頃のシュラク隊では全く違いそう。
宇宙世紀じゃない世界ならまた違う下着だろうな
パイロットや士官と一般兵士やクルーに支給される下着も差があるんだろうな
ハマーン様とかどんなの穿いてるんだろう。 ハマーン様に強制ストリップさせるにはどうしたらいいだろうか
ミネバ様を人質にしてもダメだろうし
シャアが頼み込んでもまあムリだろうな
ニュータイプの神懸かり的攻撃で服だけ吹っ飛ばすしかないか
逆に見せても堂々としてそう スポンサーに饗されるフォウ・ムラサメなんて夢を見た(ただし1コマのイラストだけ) フラウ・ボウや三編みにしてるときのクリスみたいな素朴な雰囲気の女の子が一番チンチンにくる キシリア様とかも最近の萌え絵で描かれたら年相応のお姉さんになるんだろうなぁ
テレビ版の24歳ってシュラク隊のお姉さん方と同じくらいか? ウッソがシュラク隊のお姉さん方に種付けしていくお話しください
原作展開替えられなくてせっかく種付けしても死んでいっちゃう鬱展開でもいいです 月曜日 ルー・ルカ
火曜日 エマ・シーン
水曜日 ルクレツィア・ノイン
木曜日 エリシャ・グランスキー
金曜日 セイラ・マス
土曜日 ファ・ユィリィ
日曜日 レイン・ミカムラ 月曜日 シャリー・レーン
火曜日 サラ・タイレル
水曜日 スメラギ・李・ノリエガ
木曜日 エニル・エル
金曜日 フォウ・ムラサメ
土曜日 ハマーン・カーン様
日曜日 エル・ビアンノ エマ・シーンの見るからに薄い生地のノースリーブの軍服の脇の下から手を入れて、胸を揉みしだきたい フォウにエウーゴの悪名名高いあの制服着せてみたかった 自分はレズが大好きなので理想の組合せを書かせてもらいます。
レイン・ミカムラ×フォウ・ムラサメ
セイラ・マス×エリシャ・グランスキー
エマ・シーン×エル・ビカンノ
ファ・ユィリィ×マノン・チャップマン
シャリー・レーン×ジュンコ・ジェンコ
ハマーン・カーン様×ルクレツィア・ノイン
ルー・ルカ×スメラギ・李・ノリエガ クリスは多分男知ってるだろうな
清純だがあの肝の据わった風格とどこまでも
冷静で大人びた理知的な性格は処女の小娘では絶対に滲み出てこない
クリスと並ぶとバーニィはやはりどこか少年っぽい青臭さの残る子供にみえる
結局バーニィのクリスに対する恋情はアムロのマチルダに対する憧れと大差なかった
きっとクリスはバーニィやアルそして視聴者さえも知らないところで軍の上官か先輩あたりに抱かれているのだろう 死の間際にヘンケン艦長のアプローチを思い出して、自分も一人の女性なんだと気付かされながら息を引き取ったエマさんをその場で屍姦したい
エマさんが処女であっても、そうでなくてもいいけど 08小隊(小説)で舌を噛んで自決したキキも、恐怖と絶望の中で命を絶った上に遺体を辱められてそうでかわいい
全裸に剥かれて口も性器もお尻も犯されて木から吊るされてるところを仲間に見つけてもらって回収された後に
村で遺体をきれいにしてもらったところを屍姦したい Zのフォウも小説だと脳死状態でアーガマに収容されてるので、その御遺体を抱いてあげたいし 1st小説のクスコ・アルも母親が連邦兵士に強姦されてたりするんだっけかな
そのあげく彼女自身もアムロと出会った末に死んでいくのがかわいい 0083で3号機をコウとニナに託して逝ったルセットも血染めのアナハイム制服脱がしながら抱きたい
小説だと手の施しようもないので止血しないで鎮痛剤を打つ描写があるし、最後の力を振り絞って3号機を託して息を引き取る様がかわいい
アナハイムの制服もかわいいし、その下に彼女がどんな下着着けてたのかとか想像が膨らむ 0083が傲岸不遜に振る舞いながら、知らずにG3ガス注入して大量虐殺させられて苦しみ続けるシーマ様もかわいい
自分を気遣った結果、眼前で母艦を沈められた上にメガビームで蒸発させられた最期はある意味で救いだったのかもしれない 0083続き
ケリィの死を知って泣き崩れてるラトーラを容赦なくレイプした後にケリィのもとに送ってあげるのもいい ヒロインじゃないけどF91で薬莢が直撃して即死した、赤ちゃん抱いた女性もいいな
小説だと、赤ちゃんを怪我させないように自分のお腹の上になるようにして倒れた姿にセシリーが感銘を受ける描写が有る
たぶん、母乳出そうだし楽しめそう ララァは出自が娼館だったりなんだりとブレてるけど、シャアの庇護下では心身ともに満たされてて欲しい
アムロが遅すぎたっつーても、アムロがララァ拾ってホワイトベースで暮らし始めたらロクな展開になってなさそう イセリナも死後にアムロ達WBクルーに辱められてたらいいな
マチルダさんは破壊されたコックピットから遺体で発見されてWBに回収された後に婚約者と無言の再会果たしててほしい
棺には結婚式で着るはずだったウェディングドレスを入れてあげて ミハルはガンペリーから投げ出されてからカイや弟妹の走馬灯を見ながら海面に叩きつけられて苦しまずに即死してて欲しいし
せめて五体満足とは行かないまでも漁船や貨物船などに救助されてお墓に入れてもらえててほしい
※スペースシャトルチャレンジャー事故でも乗員の数名はコックピットブロックごと海面に落ちるまで意識があったと推定されている 08小隊でユーリ・ケラーネ少将の秘書官やってるシンシアも美人でいいよね
ユーリが謀殺されたあとは彼の死を知らされて絶望の中で死ぬまで輪姦されてそう
小説だとユーリとともに射殺されてるから、悪い意味でユーリの一緒に遺体がゴミのように捨てられてそう Zのサラ・ザビアロフもかわいい
小説でシロッコに抱かれた描写があるが、何歳の時に抱かれてるんですかね一体 逆シャアのサラダ大好きケーラも回収された遺体を抱きたい
どの程度押しつぶされてるのか分からんから、もしかしたら膣もお尻も使い物にならないぐらい臓器がこぼれてるかもしれないけど
描写的に顔は酷いことになってなさそうだから口は使えそう UCのマリーダさんは女性の機能が失われてるらしいけど、加えて薬物で生理も止めてそう
IF展開で生き残って恋もするけど恋人の子を産めないことに苦悩してほしい F91のアンナマリーかわいいし、小説だと死の瞬間にオーガズムに似た声を挙げとか書かれてるけど
コックピット撃ち抜かれてるから蒸発しちゃってるのでもったいない Vガンは敵味方問わず女性が死にまくるので捗る
ボンボンで連載してたマンガだとシュラク隊が、より美人に描かれ無駄に(精神体で)裸になり、壮絶な死を遂げるので良かった ガンダムWは特に女性キャラ死んでなさそうだなと思ったら五飛の奥さん死んでるやん! しかも14歳で!
屍姦したら五飛に殺されそうだけどしたい ガンダムXだとジャミルの上官のルチル(美女)が精神崩壊させられたあげく生体部品にされて
一時的に復活してジャミルと心を通わせた後に絶命してるので良い ∀ガンダムで戦後隠棲しながら最期の時をロランに看取られたディアナ様を味わいたいけど
「ディアナの尻」って言われただけでキレるハリーが殺しに来る ガンダムSEEDだと、
フレイはいいお嬢様だったのに心身ともにボロボロにされちゃったから生き残っても苦しいだけだろうからあれで良かったのかも
ナタルは家系もあって優秀な軍人目指して生きてきただろうから恋愛こそしていても身体を許したことはなかったかもしれない 良い
アイシャは美人だし、バルトフェルドが生存してることを考えると遺体はきれいなものだったろうから屍姦したい ガンダムSEED DESTINY
マユは9歳かぁ でもかわいいし片腕もげちゃったけど身体は使えそうだからシンの目の前で抱いてあげたい
ステラも弄びたい、シンの前で
あれこれ薬剤投与されたりなんだりしてるので裸体に傷とかありそうだけどそれも良い
ミーアの遺体はアスランの目の前で辱めたいよねやっぱり ガンダムAGE
ユリンちゃんはかわいいし辛い思いいっぱいしてるから幸せになってほしかった
レミはオブライトさんに「私達の家」に連れ帰ってもらえたところを抱きたい オブライトさんの眼前でな!
フラムちゃんは正統派ヒロインなのでゼハートさんの死体の前で抱きたい
ルウちゃんは火星で風土病に冒されて死んじゃった娘かわいいので生きてるうちに死ぬで犯したい ISAPが逝って14年か
余りにも狂信者達に荒らされすぎた… ま、待ってくださいよ! カテジナさーん! ヒロインが非業の死を遂げるのがガンダムじゃないですかー! 『だらだらと過ごす』
APEX→ガンダムエボリューション完全初見
(4:22〜放送開始)
ttps://www.twitch.tv/kato_junichi0817 『ガンダムエボリューションやる』Take2
(20:43〜放送開始)
ttps://www.twitch.tv/kato_junichi0817 深夜である。薄暗い廊下に人気はなかった。
「…………」
その男はベンチに腰掛けたまま、組んだ両手の上に顔を載せたきり、じっと静かにうなだれていた。その姿勢はどこか、どこか遥かな遠くに在る何者かへと祈りを捧げているようにも見える。
一人そこに座りこんでから、男はもうだいぶ長い時間ずっと待ち続けていた。その頭上では『施術中』と書かれた看板が点灯していて、廊下に男の影を落としている。
そうしたまま、どれほどの時が流れたのか――やがて、その看板から静かに光が落ちた。
「…………!」
緊張を伴った表情で、男がびくりと弾かれたように腰を浮かす。それからさらに数分間、無限にも思えるほど長い時間が流れた。
そしてゆっくりと、『手術室』――いや、『分娩室』のドアが開いた。
「お父さん、おめでとうございます! 元気な女の子ですよぉ〜」
耳をつんざくのは、生まれたばかりの赤子の泣き声。しわくちゃの顔で泣きじゃくる赤子を白いバスタオルに包みながら、白衣のウェンディ・アーデル曹長は笑顔でロブ・サントス伍長に差し出してきた。
「…………」
ドアの向こうに設えられたにわか造りの分娩室もどきの中で、あの銀髪の爆乳美少女が出産したのだ。つまり、この赤子は「自分の娘」ということになるのだろう。
だが、果たして彼女が自分に似ているのか、それどころか母親の方に似ているのかどうかさえ、ロブにはまったく判別が付かなかった。
下宿先の部屋でなぜかスーツケースの中から出てきた彼女と交わり、押し倒された勢いのままその膣奥に精を放ってからわずか数分間で、彼女の腹は臨月の妊婦のごとく膨れ上がった。
さらに彼女は数時間後には産気付き、なんとかこのプラント内医院までたどり着いたところに、改修工事中のサラミス改級巡洋艦『トラキア』から急遽駆けつけたウェンディの支援を得て、ようやく分娩が執り行われたのだった。
「いやー、かわいい女の子ですねぇ! どう、ロブ。もう名前は考えたの?」
「……え……? いや、……あの、その、……まだ、……はぁ……」
ロブに父親としての実感など何もない。すべての展開があまりに早すぎた。
改修整備に入る母艦を離れてP−04農業プラントで滞在することになった、ミケリヤ家の下宿部屋に届いていた不審なスーツケース。そこから出てきた謎の淫乱美少女との突然の情事がこんな形に帰結するなど、いったい誰が想像できたというのだろうか。
「だからあれほど名前は先に考えておけ、と言っただろう」
ただただ魂が抜けたように応じるだけのロブを咎めるように、ウェンディの背後から出てきた『助産師』――マコト・ハヤカワ准尉は大仰なため息をついてのけた。
マコトが出産の現場に立ち会うのはこれが初めてではないが、それでも彼女の知識と技術は限られている。ウェンディの助手として分娩を手伝った彼女の顔には、色濃い疲労が浮かんでいた。
――疲労が浮かんでいるのは、特に何もしていなかったはずのロブも同様なのだが。
「あーらら。ロブ君、とうとうパパになっちゃったねぇ……。年貢の納め時ってやつだよ。まあ、悪いようにはしないから、さ……。これからの『心の準備』、ちゃんとやっておきな?」
「……はあ……」
ひたすら元気に泣きじゃくり続ける赤子の重みを両腕にしばし確かめると、なお心ここにあらずの体でロブは答えた。マコトはため息を吐く。
「まあいい……私と違って、君は今日も勤務だろう。顔を洗って、シャッキリし直してから中央基地へ向かえ。エイムズ軍曹も同行するとはいえ、いま出撃することになればトラキアMS隊を指揮するのは君なんだからな」
「はあ……」
最後までとことん覇気のない表情のまま自分の「娘」をウェンディへ返すと、ロブはそのまま、棺桶から這いだしてきた死人のような動きで元来た廊下を帰っていった。
ほぼ一睡もせずに翌日も連勤とは、気の毒にな――マコトはそう思いつつロブを見送る。
だが、それはサラミス改級巡洋艦『トラキア』のMS格納庫拡張工事に伴う業務に従事しながら、マコトの連絡一つでここまで飛んできて産科医に化けたウェンディについても言えることだった。
そのウェンディをちら、と横目でマコトは見やる。 「ウェンディ。今回の件、どう思う?」
幽霊のようなロブの気配が廊下の彼方へ遠ざかると、マコトは率直な質問をウェンディに向けた。
「あー……うん。まあ、今までにないパターンだ、ってのは分かる。分かるよ。しかしねぇ、……中出し一発でほんの数分後にお腹が爆発。それから一日経たずに元気な赤ちゃんがおんぎゃあ、なんてさぁ……コレ一件だけじゃ、まだなんとも言えんよね」
「……まあ、……そうだな」
すべてが特殊すぎた。
今回ロブと彼女が辿った展開は、二人が今までに見てきた『因子』によるものはまったく異なっていた。
『力』を発動させて死地から生還した女は、気絶から覚醒した後、例外なく発情して手当たり次第に男を求める。発動時点で女はすでに排卵しているらしく、そのまま無責任に性交すれば、極めて高い確率で受精し――経験則的にはほぼ確実に、妊娠する。
そこまではいい。そこまでは分かっている。
だが発動後の性交からの膣内射精で妊娠しても、そこから先は普通のはずだ。受精から着床し妊娠に至るまでの時間は、一般的な場合と大差ない――少なくともマコトたちは、今までの経験からそう認識していた。
では、今回のこれは何だ?
「だけど、こう考えることも出来る。もともと『力』の持ち主はビームの直撃を食らおうが、至近距離から核爆発に飲み込まれようが、そのまま宇宙に裸で放り出されようが、致命傷や後遺症はおろか、かすり傷の一つも負いはしなかった。
――だけどそもそも、その不死身と言える異常な力の源泉が、何か『時空』に関わるところから出ているとしたら?」
「時空……? あの『力』が実は時間と空間をねじ曲げるような代物だから、ビームや核爆発を簡単に跳ね返し、宇宙を裸で漂流しても無傷で生き残れていた、ということか……?
その時空をねじ曲げる『力』が今回は、ロブの精子か彼女の卵子か、あるいはその両方に作用した……と?」
「分からんけど、……今ある手元の材料からは、とりあえず仮説としてそう考えとくしかないでしょ。今までと違う展開になったのは、ロブが変なのか、あの子が変なのか。それとも何か、他に別の変数があるのか……それは分からない。
……科学的にはここから少しずつ条件を変えながら『実験』を重ねて、仮説を検証していくところなんだけど――」
「この件ばかりは、そういうわけに行かないからな」
マコトの表情は硬い。そしてウェンディも諦め顔で苦笑するばかりだった。
ある女性が『因子』の保持者なのか否か、その有無を事前に判別するための現実的な手段は、少なくとも彼女たちの手元には無い。現状ではそれが分かるのは、持ち主が即死級の物理ダメージを受けた後だけだ。
そして同時に、一度発動したその『力』が、その後も必ず発動するという保証も、無い。
「ただ少なくとも、今回の件で彼女の身分はクリアになったね」
「ん……?」
「ロブが以前に『トラキア』の寄港先で作った恋人が妊娠。やがて精神的に不調をきたし、ロブを追ってP−04まで流れてきたところで、とうとう産気付いた――
もしこれから彼女の存在を隠しきれなくなっても、そういうカバー・ストーリーを仕立て上げられる。
まさか出産直前の妊婦が数日前までジオン残党軍のMSパイロットをやってたなんて、誰も想像できないだろうからね。――適当な戸籍、後で業者から仕入れておくよ」
「なるほどな。あの赤子の存在と出産の事実を使えば、彼女には足を洗わせられる。今までのように、彼女の存在そのものを完全に地下へ隠し続ける必要もなくなるわけだ」
「彼女自身がうまく乗ってくれれば、だけどね――」
もし彼女が悪名高き『大ジオン仏道』から得た捕虜であることが明るみに出れば、軍当局が彼女を尋問することになる。そうなれば今まで隠し通してきた『力』の秘密も、軍の知るところとなってしまう。
それだけは、絶対に避けねばならない。
「しばらくの間は多少変な言動があっても、産後で精神的に不安定ってことにもできるしね――そうは言っても、いずれは彼女自身にもおかしな言動を控えてもらって、静かにしてもらわにゃならん。脱走や反逆されてもマズい。
彼女がおとなしくこのまま立派なママになって、私らの言うことに従ってくれればいいんだけどね」
「どうかな。何しろあの『大ジオン仏道』だからな……いずれにせよ、しばらくはこのまま監禁しながら経過観察というわけだ」
マコトは壁に背中を預け、天井を見つめた。P−04基地司令、ユン・ソギル准将から直々に言い渡されたマコトの『強制』休暇はまだ一週間以上残っている。それだけの時間の間に、これから何が出来るだろうか。 「「ふあ……」」
思わず出てきたあくびが、二人の間で同時にハモる。女たちは目を見合わせて笑った。
「とりあえず、……この子だな」
「そうだねぇ。見た感じ、健康そのものだけど……受精卵からたった一日でこうなったこの子がこれからどうなるのかも、しっかり見ていかないとねえ」
「貴重な実験材料というわけだ。――あの子と同じように」
話がまとまったところで、マコトは皮肉げに言うと赤子を抱いて腰を上げた。分娩室へ入っていく。
銀髪の美少女が大きくM字に脚を開いた姿勢のまま、手足を分娩台へ拘束されていた。赤子をひり出したばかりの膣は真っ赤に大きく開き、空洞になった腹もまだ膨らみきったままだ。
さらに大きくぱんぱんに張った二つの爆乳の頂には、かつて二人が彼女を捕らえて凌辱していた間の上品可憐な薄桃色など見る影もなかった。無残にどす黒く変色し、ぶつぶつの浮いた真っ黒な乳輪から溢れた母乳が、白い肌を伝い落ちている。
ロブの話を聞く限り、彼女は昨日まで処女だったらしい。今回が初産だったのであろう少女は、虚ろなままの瞳をマコトの腕の中の赤子へ向けた。
「……、して……」
「ん?」
出産を終えたばかりの憔悴しきった表情の中で、なお可憐な唇が言葉を紡ぐ。
「私の、赤子、……かえして……」
「ふむ」
分娩台に拘束された母親からの要求に、マコトは数歩の距離で足を止めた。無表情のまま、産後大きく開けた膣を剥き出しにしたままの少女に語りかける。
「君が今まで『大ジオン仏道』の名の下に何百人、あるいは何千人、何万人を殺してきたのかは知らないが――」
「…………」
冷たく投げ下ろされてくる言葉に、少女の表情が硬くなる。だがマコトは言いながら、少女から両腕の拘束を解いた。
「なっ――」
「その子に罪はない」
そしてマコトは自由を取り戻した腕に泣きじゃくる赤子を渡し、その口元を母乳を溢れさせる黒い乳首へと導いてやった。
「んっ……」
泣きわめいていた赤子がまだ盲目のまま、頬の感触だけで乳首の位置を探り当てる。そのまま口に含んだ。
少女の乳輪は乳房に比例して大きく、赤子の小さな口には収まりきらずに、乳輪からにじみ出た母乳はその頬を伝い落ちては濡らしていく。
だが潤沢な母乳は赤子の唇から吸われるたびに後から湧き出して、その喉奥へごくごくと落ちていった。
「あっ、……あああっ……」
存外に強い力で我が子に乳首を吸われ、分厚く大きな乳肉にたっぷり貯め込まれた母乳を吸い出されていく快感に身を委ねながら、少女の表情は急速に慈悲を帯びていく。
「ああ、……私の、……娘……」
「人は皆、こうして生まれる。君がこれまで『完全成仏』させてきた者たちも皆そうだ」
「…………」
「私たちは、お前たちジオンのようにはならない。だから君が『大ジオン仏道』の名の下に犯した罪は、これからしっかり償ってもらう。まずはその罪無き赤子を、健やかに育てあげるところから、な」
分娩台のキャスターからロックを外すと、マコトは授乳する母子を載せたまま押し出しはじめた。そのままウェンディが開けた扉をくぐり、再び彼女を監禁するための私設独房へ向けて進んでいく。
「敵の男に捕らわれて犯され、孕んだ娘を産む。それが力を持ちながら戦場に散った女たちの、宿命ということか――」
誰にも聞こえない小さな声で、マコトはひとり静かに呟いた。 「アシュリー・ザ・プー」
P−04中央港湾からほど近い公園区画。緑と光に溢れた爽やかな空間の一角には、ベンチに横たわる少女の全身から溢れ出して地を這う、真っ黒な邪気が澱んでいた。
RB−79『ボール』など連邦軍から払い下げられた旧式機動兵器を装備し、宇宙での警備業務に携わる民間警備会社――ヴィック・ウェリントン・エアロスペース・セキュリティ社ことVWASS(ヴィワス)。
そのVWASSに所属するボールパイロットの少女、アシュリー・スコット予備上等兵は私物一式の入ったスポーツバッグを近くの地面に放り投げたまま、ベンチに横たわりながら溶解する不吉な不審物と化していた。
まず、オーラが腐っている。
普段から考えの浅い言動と落ち着きの無い行動にさえもう少し気を付けていれば、相応に可愛いと言われることもある程度には整った顔立ちは、今やどす黒い陰気さ一色に押し潰されていた。
それなりに人もいる公園区画内で、彼女の周りだけが何かに呪われたように人を避けている。
「アシュリー・ザ・プー/ジョブレス・アンド・ユースレス……」
呪言の肩書きが増えた。
虚ろな瞳のまま、少女はひたすら呪言ばかりを垂れ流していく。
彼女がここまで腐り落ちてしまったすべての原因は昨夜、直属上司――テッド・バートン警備班長とVWASS本社の通話を立ち聞きしてしまったことにあった。
『えっ……!? ちょ、ちょっと待ってください。どういうことですか、課長!』
『だから、いま言ったとおりだ。『キャリフォルニヤの悪夢』だったか? 戦闘記録は見させてもらった――やられたものだな。今後、君の班は再編だ。乗機を破壊されたのはスコット予備上等兵だったな。
現在の情勢下で換えの機体は用意できん。彼女とは現時点を持って契約を解除。給与を精算し、現地解散せよ』
『そ、そんな! アイツは勇敢に職務を果たしたんです! なのにこんな出先で急にクビにして放り出せなんて、そんな――』
『情勢と方針が変わったんだ! 予算圧縮だよ。機体の無いパイロットを維持しておける余裕は、今のウチにはない。だいたい彼女、いくら今の時代でも若すぎるだろう。
あの若さなら、仕事なんてほかにいくらでもある――それとも君、他の誰かを選んでクビにしてみるか?』
『そ、それは……っ……』
『…………』
聞いているうちに頭が真っ白になって、気づけばアシュリーは手荷物一式をまとめてここにいた。
目が完全に死んでいる。
アシュリーが訓練を終え、ボールに乗り始めてからまだ一年に満たない。だが、あの球形の機動兵器は、自分の手足となって動いてくれていた。
ボールに手らしきものはあっても足などない――ついでに首もない――が、そんなことなど気にならないくらいに、彼女はボールに馴染んでいたのだ。
そのボールが、無い。
もう、ボールに乗れない。
「『玉無し』アシュリー……デッドボールで、ノーボール……」
行先不明の意味不明な呪詛ばかりを再び重ねながら、しかし自身の行く先も思いつかずに、少女はただ目と口を開けたまま公園の天井を眺めている。
どうすればいいのだろう。せっかく連邦軍の素晴らしいジムU女性パイロットに出会って、師匠と仰ごうとしていたのに。
確かに自分にあんなに立派なバストはないが、そもそも機体がなければ、どうすることも出来ないではないか。
何なのだ、これは。どうすればいいのだ。とりあえず、豊胸でもすればよいというのか。 その異様なオーラを気味悪がって誰ひとり近付こうとせず、公園管理者なり官憲なりを呼んでくるべきではないかとひそひそとざわめくばかりの来客たちから遠巻きにされていた少女の頭上へ、にわかに人の影がかかった。
「…………?」
逆光で、顔はよく見えない――しかし、アシュリーとほぼ同年代の少女のようだ。
洒落た私服に亜麻色の長髪をなびかせ、なかなかスタイルが良い。背後にもう二人、やはりほぼ同年代と思しき少女たちを従えている。
女子三人組のリーダーらしき美少女は目を眇めると、直球の言葉をアシュリーへまっすぐ投げおろしてきた。
「あの、さ。――VWASSをクビになったボール乗りの娘って、アンタ?」
「ぐふっ!!」
「ちょっ、ちょっとフィオ!!」
その少女のダイレクトな物言いが、まだ開いたばかりのアシュリーの傷口を深く抉った。
悶絶したアシュリーを前に、もう一人の少女が慌てて声をかけた少女の腕を掴んで割り込む。
「い、言い方がストレートすぎるよっ。何もそんな、傷口に塩を塗り込むような言い方で行かなくても――」
「お姉ちゃん、むちゃくちゃだよ! なんでいつもそんなに機雷原をまっすぐ突っ切るような最短距離ばかりを行こうとするのっ」
豊満な少女と小柄な少女の二人が、彼女たちがフィオと呼んだ少女へすがりつくようにして諫めにかかった。だがフィオは二人に耳を貸さず、あくまで強気のまま言葉を続ける。
「ふん。その分だと噂通り、図星みたいね。ねえ。行くところの当てがないなら――あなた、私のところでもう一度ボールに乗ってみない」
「えっ……?」
ボール。
その言葉に、ぴく、とアシュリーの耳が動く。
それから、ごろん、と体ごと転がって少女を向いた。何か信じられないようなものでも見るような目で、ベンチからフィオを見上げている。
公園区画天井の照明を背負って立つ少女は、アシュリーからは後光が差しているかのように見えた。
「私はフィオ・アレント。このP−04一帯の暗礁宙域で活動してる、女子だけで組んだジャンク回収業者チームのリーダーよ。今やる気と根性のある、ボール乗りの女の子が必要なの。
人並みには、給料も出す――あんた。もしやる気と根性がまだあるのなら、ウチに、来なさい」
「…………」
ぱちぱち、とアシュリーの瞳が瞬く。しばし二人の少女の視線が交錯したまま、時間が止まった。
「……また、ボールに、……乗れるの……?」
「任せて。機体はある」
「……いつ、……乗れるの……?」
「出来るだけ早く。準備が出来たらすぐに。慣らし運転なら、今日これからでもいい」
「…………」
ねずみ花火のような瞬発力でぎゅるんと回転し、ごろんっ、とアシュリーが地面へ転がり落ちた。
「ひいッ」
小柄な少女がアシュリーの奇行に怯えた悲鳴を上げながら跳び退いたが、フィオは一歩も引かない。芝生の上を生きた屍のように肘で這いずって迫りながら、アシュリーがフィオのズボンの裾を掴む。
凛々しく毅然としたフィオの眼差しに視線を重ね返しながら、靴のつま先近くで呟いた。
「アシュリー・スコット、……そのボール、乗りたい」
「オッケー。交渉成立ね」
フィオが屈んでアシュリーの手を取り、ぐっと力強く引いた。その場に立ち上がらせる。
「港湾区画に私たちの事務所があるの。まずはそこへ行きましょう。――よろしくね、アシュリー」 P−04中心岩塊を中心に、自転車の車輪とそのスポークのように広がる円環軌条。その車輪に相当する円環部に連なるプラント群のひとつから、3機のRGM−79R『ジムU』が発進した。
第113整備場から出たトラキアMS隊のジムU3機は、誘導に従いながら中心岩塊内の中央基地へ進入していく。
湾口周囲の宙域で哨戒に当たるMS隊を通り抜けて軍港区画内に入る。エアロックを抜けた基地施設内部では、サラミス改級の巡洋艦や駆逐艦、そしてコロンブス級の補給艦や輸送艦、さらには軽空母型までが縦横に接岸していた。
83年の観艦式以降の基準なら、停泊中の艦隊だけでも相当の規模だといえた。壮観ではあったが、ここに母艦トラキアの姿はない。改修工事はおそらく別の区画で行われているのだろう。
基地管制側から指定された場所にMSを駐機して降り、徒歩で人員ゲート前へ向かうと、その周囲にも4機のMSが警戒に就いていた。ルウム農協所属の予備役部隊らしきジムUが2機と、現役部隊のRMS−106『ハイザック』が2機。
いずれも武装したまま左右に分かれて、それぞれがあたかも互いに睨み合うようにしながら屹立している。
「基地の内部にまで警備のMS隊を常駐させられるなんて、よっぽどMSが余っているのかな……」
「気を付けた方がいいよ、クライネ伍長」
ヘルメットを外して何気なく呟いたところを同僚のシュン・カーペンター伍長に小声で呼びかけられて、アイネ・クライネ伍長は振り向いた。
「もう聞いてると思うけど……ここの連邦軍の事情は、いろいろと複雑なんだ」
「うん、聞いてる。『中央派』と『現地派』だよね」
明快に回答したアイネにシュンは一瞬面食らい、それから苦笑しながら呟いた。
「その言葉も、あまり大きな声では言わない方がいいよ。特にこの辺りではね。かなり根の深い話だから……」
言いながら、シュンが左右で頭上を覆うように立つジムUとハイザックを交互に一瞥すると、アイネも察して押し黙る。先日接触し、ついには交戦にまで至った『エゥーゴ』のことを思い出す――彼らも地球連邦軍だった。
地球連邦軍に内部分裂など、無い。
そういう建前が必要なことは、若いアイネにも理解できてはいた。
壊滅した旧サイド5の復興に一年戦争中から長く尽くしてきた、同地難民出身者が主体の旧トラキア隊を中核とする『現地派』。
その現地派がルウム農協とともに力を蓄えた頃、不意に出現した強敵であるジオン残党軍「ルスラン・フリート」への対抗を名目としてP−04へ地球連邦軍中央から『進駐』してきた、ヨランダ・ウォレン准将率いる『中央派』。
両者が対立するのは、確かに理屈としては理解できる。だがルスラン・フリートとエゥーゴそれぞれの脅威を最前線で感じてきたアイネにとっては、そんな対立は脇に置いて共闘すべき、としか思えないのだった。
「本当の敵を見失ったままで、市民を守ることなんて出来ないのに……」
「じゃあ、私は入門手続きをしてくるから。……カーペンター伍長、そこの役立たずをよろしく」
「了解です、エイムズ軍曹」
「…………」
アイネ機の補助席に便乗してきたマリエル・エイムズ軍曹が、この場の4人の最先任としてゲートの受付へ向かった。
トラキアMS隊のパイロット中での最先任であるロブ・サントス伍長は寝不足なのか何なのか、原因はさっぱり分からないがとにかく腑抜けたようになったままだった。まだヘルメットすら外していない。
昨日の夕食頃から前触れなくこんな感じになっていたが、一晩過ぎても治っていない。眠れなかったのだろうか。
最先任のマリエルが去り、ぱっと見では廃人同様のロブと3人で残されると、シュンとアイネの2人は押し黙った。
「大ジオン仏道」に撃墜されて宇宙を漂流した後の興奮から、本来あるべき何もかもをすっ飛ばし、理不尽に欲情したアイネによっていきなりの情事から入った出会い。
民間貨物船を襲った「キャリフォルニヤの悪夢」、そしてエゥーゴのジム改もどきとの戦い。一対一の模擬戦訓練。不審船事件に端を発する「大ジオン仏道」とルスラン・フリートとの戦い、エゥーゴとの再戦――。
立て続けに訪れた濃密な実戦で互いの背中を預け合う中で、アイネは自分の奥でシュンに対する不思議な感情が育っているのを感じていた。
そしてルウム農協所属の美少女パイロット二人がシュンに絡んできたとき思わず前に出てしまったことが、今や何より強く彼女の想いを裏付けてしまっている。
同時に、死と隣り合わせの環境で他者の命をも預かる職業軍人として、身近な戦友に対してこんな感情を抱くことは本当に正しいのだろうか、という思いも。
「え、えっと……」 ロブが実質的に死んでいるためもはや二人きりに等しい空間で、アイネは次の言葉に迷って狼狽える。こうして二人だけになるのはいつ以来なのだろう。
シュンの方もうまく言葉を出せず、落ち着かない素振りを隠し切れない。時間だけが無為に過ぎていく。
そんなとき、視界の隅で影が動いた。
「あっれぇ? 誰かと思えば……あはっ、やばっ! アイネじゃーん!」
「ふえっ――に、ニノン!?」
「おっすアイネー、ひさしぶりー! 元気してたー? 相変わらずでっかいねー!」
沈黙の空気を破ったのは、亜麻色のボブカットを揺らす少女だった。アイネたちと同じ、連邦軍制式パイロットスーツを着ている。
美少女と言っていいだろう。小作りな顔立ちは愛らしく整いながら精気に溢れ、全身に軍人離れした魅力と愛嬌の気配をまとっている。階級章はアイネらと同じ伍長であることを示していた。
「に、ニノン……久しぶり。元気だった?」
「やだなー、そんなに引かないでよぉ。それにしてもアイネは相変わらず凄いねー、ご立派ご立派。遠くからでもほんの一目で、あ、アイネだって分かったもん。ほんと、便利でいいね!」
「い、いやー……アハハハハ……」
ニノンと呼ばれた少女が人懐こそうにぐいぐい迫ってくる一方で、アイネは半歩引いていた。
ニノン・ルクレール伍長は、アイネのMSパイロット訓練生課程の同期生だった。
可愛く垢抜けた美貌に明るい性格、そして高い操縦技術で、ニノンは同期生たちの『姫』的な立場に収まっていた。
目的のために女子二人だけでひたすら黙々と邁進し続けたアイネとシエルが『陰』の二人だったとすれば、ニノンらの男女混成グループはまさに『陽』の者たちと言えただろう。
ニノンらのグループは他にももう一人、少し目立たない感じの少女――確か、ケイティとかいう名だった――を加えながら、同期生の男たちの最上位層を網羅するという派手なものだった。
だが課程修了間際、ひょんなことからシエルがそのグループと激突。アイネもこれに加勢した。
最終的な決着の場は、修了課題の模擬MS戦だった。そこでシエルがニノンを取り巻く男たちを片っ端から撃墜して壊滅させ、それまでの成績評価を逆転。同期主席の座を不動のものとしたのだった。
さすがに実際に殺し合ったり殴り合ったりしたわけではないにせよ、そうした経緯があったため、アイネにはニノンに対してちょっとした感情的な距離感がある。
だがニノンの方はまったくそんなわだかまりなど感じさせない態度で、アイネとの距離をぐいっと詰めてきた。
「と、ところでニノンの方こそ、なんでここに……? 確か任地希望、新サイド5で出して通ってなかったっけ」
「いやそれがさー、聞いてよ。異動だよ異動! 先週だよ? 最初に部隊配属されてすぐだったのに、あっという間だよ? いくらなんでも早すぎー。
でもお偉いさんから、新サイド4には今どうしてもお前の力が必要なんだ! とか言われちゃってぇ。そこまで言われるなら、まー仕方ないかなーって」
「アハハハハ……そうなんだ……」
いたずらっぽくボブカットの髪をかき上げてみせるニノンも、確かアイネやシエルと同じく旧ルウム出身のはずだ。
だが彼女は危険な暗礁宙域と化した新サイド4での勤務を嫌い、一年戦争で中立を保つことで平和を守った新サイド5――旧サイド6リーアを希望した。アイネらとは真逆の判断基準だったと言える。
アイネの目から見ても、ニノンは可愛い。過去のあれこれを差し引いても、強く美しい女性と可愛い女子には目がないアイネとしてはかなりの高得点を付けざるを得ないのがニノンだった。
そしてニノンは屈託なく、傍らのシュンに向き直った。
「こんにちはー! 私、ニノン・ルクレールっていいまーす! キミはー、アイネの同僚ですかー?」
「えっ……え、ええ。シュン・カーペンター伍長です。クライネ伍長と同じ小隊です。彼女には、いつもお世話に――」
「えーっ、そうなのー? いいなー、アイネ羨ましい! こんなかっこいー子と一緒に勤務できてっ」
輝くばかりの笑顔を振りまきながら、ニノンは上目遣いにシュンを見つめた。
パイロットスーツの輪郭に浮き出る少女の肉体は細く引き締まりながら、それでいて胸は形よく膨らんで確かな甘みを主張しつつ、ニノンが大げさに動くと二つぷるんと揺れてのける。
アイネのそれよりはずっと控えめながら、確かに女としての主張をやってのける胸元。本人の愛らしい顔立ちによく似合う均整の取れた肉体美は訓練隊時代、アイネに劣らず多くの男たちを魅了してきた。
「私のことはニノン、って呼んでくれていいよ! 私もシュン、って呼んでいいかなー?」
「えっ。いや……その……」 その強烈な「陽」のエネルギーに押されてシュンは思わず半歩引いたが、同時に彼の顔に差した微かな赤みをアイネは見逃さなかった。きゅっと目尻が上がる。
「そ、そうでもないけど」
「おっ?」
アイネは横から言いながら、少し強ばった表情で二人の間に決然と割り込んだ。
靴裏の電磁石を床に踏みしめながらアイネがどんと張ってのけた胸のド迫力に、ニノンはおおと呟きながら押し返されるように後ろへ下がった。目を細め、再びアイネに視線を戻す。
「……へえ……。……ふーん……?」
「な、なに……」
ニノンの口元に変わらぬ笑みから何か邪悪な気配を感じながらも、アイネはシュンとの間に立ちはだかりつつ、最大限の何気なさを装ってみせた。
訓練生課程の最後に激突する前から、アイネはニノンを苦手にしていた。どうにもペースを合わせられないのだ。
あの頃のニノンはたいてい誰か取り巻きを連れていて、今のように一対一で会話することはほとんどなかったはずだった。だが、今も本当にうまく間が持たせられない。どう切り返せば良いのかも。
この先、いったいどうすれば――
「ふーん……? でもさー、アイネが元気そうで良かったよー。
ほら、訓練隊でいつも一緒にいたあの子と別の部隊になっちゃったら、アイネみたいなかわいー娘は速攻で部隊のスケベなオジサンたちの餌食になっちゃうんじゃないかなー、ってみんな心配してたからー」
「む、無駄に心配しすぎでしょ。全然そんなこと、なかったから……ニノンの方こそ、そのへん大変じゃなかったの」
最初に配属された巡洋艦アバリスでのわずかな時間に、周囲を覆っていた異様な気配を思い出し、アイネは一瞬の嫌悪を表情に浮かべながらも巧みに切り返した。
いくら陽気で社交的かつ才気煥発、世知に長けてもいるとはいっても、ニノンもまたわずか18歳の少女に過ぎないのだ。
男性優位の軍隊社会にニノンほどの美少女が放り込まれて、ろくな波風が立たずに済んだとは思えない。うまく切り抜けることは出来たのだろうか。
「えー? それは――あ。やば……それじゃアイネとシュン君、またっ。今度どっかで会ったらこの辺の話、いろいろ教えてね。んじゃっ!」
「えっ? ん、んじゃ」
ニノンはしゅたっ、と片手を立てると、現れたとき同様、素早く壁面のリフトグリップを掴んで離脱していった。
自然かつ優雅でありながら素早い、見事な加速だった。シュンとともにアイネは、ぎこちなく手を振りながらその背中を見送る。 「――今の、ルクレールじゃなかった? なんでこんなとこにアイツがいるの」
「シエル!?」
言いながら歩み寄ってきたのは、怪訝そうな顔のシエル・カディス伍長だった。
「さ、さあ……。ところで、シエルはなんでここに?」
「なんでって。単に任務で呼ばれたからだけど……アイネたちもそうじゃないの?」
呆れたように言ってのけるシエルの視線の先で、すでにニノンの後ろ姿は基地内のどこかへ消えていた。素早い。
そしてアイネは、直感的に理解する。
――逃げたな。
訓練生課程の最後に生じた大激突で、反ニノン派の中核となったのがシエルだった。もっとも反ニノン派と言っても、実質的にはシエルとアイネの二人しかいなかったのだが。
最後の模擬戦で鬼神のごとき戦いぶりを見せつけ、ニノンが侍らせていた同期の男子たちを壊滅状態にさせたシエルに対して、ニノンが強烈な苦手意識を持っていることをアイネは知っていた。
つまりニノンはアイネに勝ち、シエルはニノンに勝つ、ということなのだろう。
しかし、だからといってアイネはシエルに勝つ、とは言えないので、この三人で『同期三竦み』とまでは言えないのが悲しいところではあるのだが。
「ども」
「ど、どうも」
そしてシエルは眼鏡の奥からちら、とシュンに一瞥くれると、軽く一言の挨拶だけで会話を打ち切りながら、自然にシュンとアイネの間へ入り込む。
シエルの髪のにおいを眼下に感じると、安心感が満ちていくのが分かって、アイネは思わず微笑んだ。
「えへへ」
「まったく、何なの……」
アイネの緩んだ顔を呆れたように一瞥しながら、シエルがちらと視線を動かす。警備室で通行証を取得したマリエルが戻ってくる。
「待たせた、ちょっと混んでてね。ちゃんと全員いる? IDを配る――カディス伍長。あなたも来たの」
「おはようございます、エイムズ軍曹。私も本日0900、第7会議室への出頭を命じられました」
「あれ? それって――」
「なるほど。行先は同じか」
目を丸くするアイネの眼下でマリエルは頷くと、IDカードをシエルにも渡した。
「警備の方から、あなたの分もまとめて受領してくれ、って言われてね――どうやら、同じ任務らしい」 今回は以上です。
しばらくエロ無し場面が続きます。
過去の分は、ハーメルンもしくはpixivで「フェニックステイル」で検索してください(挿絵あり)。 「おお」
P−04港湾部のビル。その一室のドアを開けると、奥窓の向こうには港湾区画が広がっていた。
「おおおおおお」
窓一面に広がる眺望は、軍艦ではなく貨物船やジャンク回収船が入り乱れる民間港湾区画だ。事務所へ入ってきた4人の少女たちの先頭で、素早く真っ直ぐに窓へと向かった新参者――
アシュリー・スコット予備上等兵は異様に目を輝かせながら顔全体を窓ガラスに圧着したまま、謎の奇声を発していた。
「おおおおおおおおおおおおお、おおおおおおおお〜〜〜!!」
部屋へ入るなり彼女の目に飛び込んできたのは、窓の向こうに停泊しているジャンク回収船と、その甲板に露天繋留された4機のRB−79『ボール』。
アシュリーの輝く瞳は、まっすぐそこへ吸い寄せられていた。
「C型、作業機仕様……なのに、低反動砲が付いてる! 機関砲じゃない!!」
そのままアシュリーは頭だけでぐるりと振り向き、背後の3人へ興奮まみれの言葉をひとかたまりに投げつけた。
「あのボール! あの船の甲板に並んでるボールが、自分らのなんすね!? 自分が乗っていいんすねっ!?」
「ええ。あれがジャンク回収船『ダーウィン』。これから私たちが乗り込んで、今回の仕事に漕ぎ出す船」
「『ばーふいん』……!」
アシュリーは再びガラスに顔面をべったり貼り付ける。アシュリーが次々に繰り出す奇行に傍らの小柄な少女がドン引きしているのも意に介さず、亜麻色の髪を長く伸ばした美少女、フィオ・アレントは淡々と説明した。
「他の船主はどこも私たちのために船を出してくれなくなっちゃって、どうしようって困ってたところに現れた救いの神だね〜。……まあ船長さんは、ちょっと変わった人だったけど」
「?」
豊満体型の少女マルミン・ポリンが溜息混じりに呟くと、アシュリーはようやく窓ガラスから顔面を引き剥がしながら振り向いてきた。
「みんな船を出してくれないの? なんで??」
「あ……。ま、まあ、ちょっといろいろあってね……」
真正面から聞かれて、マルミンはしまった、とでも言うように視線を宙に泳がせる。どう答えたものかと迷う彼女の目の前で、フィオがきっぱりと言い放った。
「『亡霊』が出たからよ。たちの悪い、『女を狙う亡霊』とやらがね」
「『亡霊』??」
「言っちゃうんだ……」
「言わなきゃ話にならないでしょ。アシュリー、『境界宙域』のことは知ってるよね?」
「うん」
半ば呆れたように呟くマルミンの笑顔など一瞥もせず、フィオは黙って頷いたアシュリーの眼前に一枚の写真を見せた。
「P−04に拠点を構えた連邦軍や農協と、聖域深部に潜む残党軍が火花を散らす境界宙域は、よそのサイドから出稼ぎに来る同業連中もおいそれと手出しできない宝の山。その中でも、極めつけの『宝船』がこれ」
「客船……?」
アシュリーが手に取って見るそれは無骨な貨物船の類ではなく、優美な印象を与える客船だった。見慣れない紋章を刻んだ船首の船橋は、大口径機関砲弾らしきもので打ち砕かれている。しかし爆沈は免れたらしく、そのまま漂流しているようだ。
「どっかのコロニーでお嬢様学校か何かやってた大富豪の船らしい。この大富豪ってのが結構な悪党だったみたいでね、どうやったのか、とんでもない額の金を貯め込んでたんだって。でもルウム戦役で本人もろともご覧の有様。
ジオンのアホどもは何も知らずに放置したけど、中には行方知れずのお宝がごっそりよ」
「たぶんね、こんな感じ」
マルミンが苦笑しながら、雑誌や新聞のスクラップ記事を貼り付けたノートをアシュリーの前に広げる。戦前の記事らしいが、件の大富豪の財力を誇示するような美術宝飾品の数々が放つ圧力めいた輝き――
そして何よりその評価額を示すキャプションの破壊力に、アシュリーは頭の回路をショートさせた。
「な、なんかよくわかんないけど……しゅ、……しゅごい……」
まさに一攫千金だ。これだけの金があれば、間違いなく自費でボールが買えるだろう。なんなら普段使い用、練習用、予備用、改造用、観賞用、布教用、贈答用、コレクション用と多数買い揃えられるかもしれない。
とりあえず、目指す宝の価値は理解できた。
「よ、よーし……とにかく、これを捕まえてくればいいンすね。任せろっす。あれ……じゃあ、『亡霊』ってのはなんなんスか?」
「昔から境界宙域のあたりに出る、得体の知れないキモいザク」
「ザク? ジオン残党軍?」
「――そうとも言い切れないから、みんな困ってるのよ」
言いながら、フィオは事務室内の端末を立ち上げていた。壁の大型モニタに、いくつもの別窓を開いてそれぞれに暗礁宙域内のMSの機影を映しはじめる。 望遠で撮って強引に拡大したもの、激しい機動中なのか像のブレたもの――いずれも画像、映像としての質は低い。
MS−06『ザクU』。細部の型式はよく分からない。最初期のF型だろうか。定番武装のザクマシンガンは見当たらず、代わりにヒートホークを振り回している。
その機体を目掛けて放たれる射撃の火線は、ボールの低反動砲だ。映像の撮影者も『亡霊』を捉えるや鋭く砲撃し、フレーム外の僚機も巧みに連携しながら別方向から砲撃するが、当たらない。
速い。ザクUでこの機動性はアシュリーに、あの『キャリフォルニヤの悪夢』ドッツィ・タールネン少佐を思い出させた。
しかし――
「なんか、ずいぶん……ボロボロなザクっすね?」
だが粗い画質でも一見しただけで、その機体の状態が悪いことは分かった。欠けたショルダースパイク、そこかしこに穿たれた弾痕、めくれ上がった装甲板。
何より目を引くのは、コクピットハッチに大きく穿たれた弾痕だった。破孔の深さは分からないが、普通に考えるなら、コクピットの内部まで破壊は達しているだろう。
この状態で継続的に単機行動。確かに異例の規模を誇るこの方面のジオン残党軍、ルスラン・フリートの所属機とは思えない異様さだった。
画像と映像を見比べてみれば、日時はそれぞれ異なる。この機体――『亡霊』と呼ばれるザクUとの遭遇は、一回ではなかったということだ。
「こいつね、じーっとデブリの陰に隠れてんの。あたしたちがめぼしい獲物(ジャンク)を見つけて近づくと、ばっと飛び出していきなり襲ってくる。しかも男だけの同業者が近くで操業してても、そっちにはお構いなし。
あたしたちや、女が来たときだけこいつは反応して、襲ってくる。キモすぎ。とんだ変態野郎なのよ」
「だけどとにかく神出鬼没のうえにやたら速くて手強いの。正直、今までとにかく逃げるだけで精一杯だった」
「……それで、『女を狙う亡霊』」
「こいつは境界宙域に出る。今のところはまだ、連邦軍の支配圏内には出てないけど……」
「じゃあとりあえず、宝船のことはおいといて……そこで操業するんじゃダメなんすか?」
フィオは頭を振った。
「ジャンク屋稼業はタダじゃない。船賃、燃費、機材費、人件費、事務所代に格納庫代、出漁費に会費……P−04近傍の大物は、もうあらかた穫り尽くされてる。そんなのをちまちま集めるような渋い仕事じゃ、もう取り返せない」
「私たち今まで何度もこの『亡霊』にミッションキルされて、最近は赤字が嵩んでるの。今まで稼いだ黒字もなくなっちゃって……あっ。だ、大丈夫よ! アシュリーちゃんのお給料は、ちゃんと払えるように取っておいてあるからねっ」
不穏な方向へ流れかけた話を、慌てたようにマルミンが取り繕う。その傍らで、フィオがまなじりを決して顔を上げた。
「だから、今回で決着を付ける。『亡霊』に煩わされるのは、もうおしまい」
「…………」
アシュリーは目を瞬かせる。亡霊とやらは単機のザクUらしいが、今までこのフィオたちが襲われても、応戦して逃げるのが精一杯の相手だったという。
だが……どうやら、自分さえ加われば勝てるらしい。
「フッ、……参ったっスね。そーゆーことっすか。自分の武名、VWASSからはるばるP−04まで轟いちゃってたんすねぇ。
低反動砲を下ろしたボールであの『キャリフォルニヤの悪夢』と互角に渡り合って退けた『VWASSの丸き閃光』の力を借りたくて、声かけしてくれたんすね」
「丸き閃光ってなに……爆発したときの火球ってこと……?」
「いやいや、アシュリーちゃんは戦わなくていいから。私たちと一緒に、作業だけやってくれればいいからね。4機編隊を組めないと、ジャンク作業っていろいろ大変なんだから。
……この前一人抜けちゃって、その子の代わりをやってくれる子を探してたんだよねえ」
小声で呟く影の薄い少女を押しのけるようにマルミンが、適当な本とペンを手に取って勝手にサインの練習を始めようとしたアシュリーの肩を掴んで揺すり、無理矢理現実に引き戻した。
何事もなかったように淡々と、フィオが窓の外へ視線を向けながら呟く。
「『ダーウィン』。最近P−04へやってきたあの船が、干上がりかけてたあたしたちに、手を差し伸べてくれた」
直筆サイン本(予定)をマルミンに取り上げられて不満顔のアシュリーも、フィオに釣られて窓の外に停泊する船を見た。 「『ダーウィン』の船主は『女だけで乗り込むなら』という条件付きで、あたしたちのための船出と、用心棒になるMS隊の手配を約束してくれた。
あたしたちが境界宙域で仕事にかかって『亡霊』が出てきたら、船内に隠した腕利きのMS隊を出して仕留めてくれる。――『亡霊』に追いかけ回されるのは、もう終わりだ」
「えええ……そうなんすか??」
自分は戦闘要員ではないと聞かされて、アシュリーが少し不満げに肩を落とす。マルミンはそのアシュリーの肩を持ったまま、優しく微笑みかけた。
「船から用心棒さんたちが出てきてくれるまで、『亡霊』の第一撃をかわしながらなんとか逃げきらなきゃだし、用心棒が来てくれても仕留めきるまで加勢はしなきゃだから、戦うことにはなると思うよ。
だから、アシュリーちゃん。あなたの力を私たちに貸してね」
「勿論ッス!」
マルミンが頼るような素振りを見せると、一瞬前までの不満顔が嘘のようにアシュリーは鼻息荒くふんぞり返った。
(扱いやすそうな子でいいなあ……)
マルミンはアシュリーの肩越しにフィオ、そしてもう一人の少女に目配せする。
「それじゃあアシュリーちゃん、雇用契約書を作るからね。サインはそっちの本じゃなくて、こっちにしてねー」
「勿論ッス!」
本当にちゃんと文面に目を通したのかと言いたくなるような早さでざっと通読するや、アシュリーは雇用契約書に署名していく。
フィオは小さく溜息を吐きながら、傍らに立つ小柄な少女に話しかけた。
「『ダーウィン』へ乗れる条件は、『全員が女であること』。これで女のボール乗りが4人揃う。『亡霊』退治まで、宝船まで、あと少し……。分かってるでしょうね、ボナ?」
「う、うん……。分かってる……分かってるよ、お姉ちゃん……」
フィオからボナと呼ばれたその少女は恥じらうように、風通しの良いミニスカートの裾をそっと押さえる。
この事務所には少女たちだけしかおらず、他の誰に見られているわけでもないというのに、姉の眼前でひとり俯くボナ・アレントの可憐な横顔には、恥じらいの紅潮が強く宿っていた。 「ここがP−04の中央基地司令部か……。はじめて来た」
きょろきょろと周りを見渡しながら、アイネ・クライネ伍長はおのぼりさんの雰囲気丸出しで呟いた。
P−04自体は僻地の方面軍基地に過ぎないが、現在その隷下にある兵力はかなりのものだ。当然、それに伴って司令部の規模も大きい。
幕僚らしき軍人たちが時にアイネの度肝を抜くほど巨大なパイロットスーツ越しのバストに視線を奪われながらも行き交う中で、アイネの方も初めて見る世界に興奮していた。
「おお、……司令部の雰囲気って、こういう感じなんだ……」
「アイネ、もう少し落ちつきなって。この辺、まだほんの入り口だよ」
訓練生時代の同期にして元ルームメイトの親友、シエル・カディス伍長の静かな声で、アイネははっと我に返った。
改修工事でサラミス改級巡洋艦『トラキア』を追われた間に起居するミケリヤ家で、その家主たるサブリナ・ミケリヤ少尉から、アイネらトラキアMS隊は新たな命令を告げられたのだ。
休暇中のマコト・ハヤカワ准尉を除くMSパイロット3人に、整備兵マリエル・エイムズ軍曹を加えた4人で、P−04中央基地司令部まで出頭すること。トラキアMS隊はそう命じられたのだった。
そしてゲート前では第223戦隊の僚艦であるサラミス改級駆逐艦『アルマーズ』所属のMSパイロット、シエルとも合流した。示された集合場所と時間が同じだったのだという。
「先輩、そっちじゃないです。こっちです、こっち」
「んあ……?? ……おお……」
「第7会議室――あれだな」
生きているのか死んでいるのかよく分からない先任パイロットのロブ・サントス伍長を、シュン・カーペンター伍長がかろうじて誘導しながら進んでいくうち、5人は目的の第7会議室へたどり着いた。
「じゃあ、行くよ」
シエルを含む全員が揃っていることを確認して、マリエルが会議室のドアを開ける。特にロックなどもなく素直に開いた扉の向こうには、先客がいた。
「うげっ」
「うっ」
アイネとシュンの2人が揃って、思わず表情を小さく歪める。
会議室前方の固定式端末を囲んで何か操作していたのは、因縁重なるルウム農協所属の予備役女性MSパイロット2人――トモエ・ワカツキ予備伍長とリタ・ブラゼル予備伍長だった。
「おー。やっと来たか」
「マリエルさん、お久しぶりです」
黒髪ポニーテールの不敵な美少女がさっと面々へ不敵な視線を走らせ、その傍らで褐色肌の温厚そうな美少女が三つ編みの髪を揺らしながら穏やかに微笑んだ。
アイネは自動的に、半ば硬直したシュンと二人の間を遮るように位置を取った。
「何、知り合い? どうしたのアイネ?」
旧知のマリエルやロブ、そして因縁の中心軸となっているシュンはともかく、シエルにとってトモエとリタは初めて目にする相手だった。シエルは不穏な気配に眉をひそめ、にわかに殺気立ったアイネの横顔を見つめた。
急に張りつめた空気の中で、マリエルが動じることなく淡々と二人へ語り掛けた。
「ええ、お久しぶり。あなたたちが来てるってことは、どうやら今回の任務は『閣下』の肝煎りということらしいね」
「さすがマリエルさん。察しがいいですね」
新サイド4駐留連邦軍における『現地派』の首魁たるP−04基地司令ユン・ソギル准将は、かつての一年戦争中に自らトラキア隊を率いていたという。
そしてその後も旧サイド5暗礁宙域の復興に携わる中で、現地の農業プラントにかろうじて生き残った難民の支援と、残存した農業プラント群の安全確保と再生支援に力を注いだ。
つまりトラキア隊とルウム農協はともに、ソギル准将直々の手兵とみなしてよい存在なのだろう。
トモエとリタがルウム農協MS隊の中でどういう位置にいるのかは分からないが、この場にはそうした『同類項』の人々が集められているということだ。
「マリエルさんは今回の作戦、どこまで聞いてます?」
「まったく何も。あなたたちは?」
リタは含みのある表情を見せた。 「『境界』の方で昨晩、ちょっとした騒ぎがあったのはご存じですか」
「ええ。確かあのとき緊急出撃したのは、農協の第411MS中隊……そうか。あれは」
「空振りでしたよ。ムカつくことにね」
初対面のシエルと互いに牽制しあうような視線を絡ませ合っていたトモエが、そこを切りながら吐き捨てるように呟いた。リタは淡々と続ける。
「『ゴアズ・ジャンクハンター』。最近売り出し中の境界漁民でしたが、どうやら境界を漂う噂の『宝船』を見つけ出して、近づこうとしていたらしいです。そこを『亡霊』に襲われて――」
「見事に全滅ですよ。ザクU1機相手に、リック・ドムU1機とボール2機の合計3機が社長もろともまとめて殺られて、かろうじて母船とボール1機だけが逃げ帰ってきた。あたしらはそこへ上から突っ込んで、『亡霊』ザクのケツを追い回してやったんですが」
「ルスランの哨戒部隊に横槍を入れられて、取り逃がした……そんなところ?」
マリエルが言うと、トモエは不満げに頬を膨らませ、リタは感情を見せない笑顔で応じた。
「『亡霊』は女を狙うという、あの噂――どうやら事実のようですね。もともとゴアズの社員は男ばかりでしたが、襲撃当日は女を一人連れていました。
漁民上がりの社長愛人だったそうですが、それで『境界』へ入って『宝船』へ近づいた途端に、『亡霊』は彼女を狙って襲ってきた。――そういう通信が入ってきたと、生き残りの社員が吐きました」
「女を……」
「あのー、……なんなんですか? その、『亡霊』って」
マリエルと農協娘2人が進める会話に、おずおずと手を上げてアイネが質問した。トモエは小馬鹿にするような表情を浮かべたが、リタは意味ありげに微笑んで答えた。
「そうですね。特に今回、そちらの2人には知っておいていただいた方がいいでしょう。『亡霊』とはいわゆる境界宙域でたびたび存在を確認されている、所属不明のザクUです。
境界宙域内を単機で神出鬼没に行動し、特に女性の境界漁民を狙って襲う謎のMS……そう言われてきました」
「常に単機で行動しているというのが変ですが、機体はザクUなのでしょう? やはりルスランか、ジオンの残党兵ではないのですか」
「ルスランの哨戒部隊とも、P−04を奥まで探りに来る偵察部隊とも明らかに動きが違う」
アイネではなく壁の一点を睨みながら、トモエが言葉を挟んできた。続けていく。
「あの『亡霊』、ルスランの奴らと連携している気配がない。今まで何度か境界宙域に哨戒を掛けて狩り出そうとしたこともあったが、異様なほどに哨戒網をすり抜けてくるんだ。
そして忘れた頃になるといつの間にか、気づいた時に目の前に潜んでいる。いくら『境界』のデブリとミノフスキー粒子が濃いといったって、あれは……。
そもそも『亡霊』がここまで大手を振って暴れまわるようになったのは、つい最近だ。それまでは皆、あんなもの……迷信のたぐいだと、思っていた」
「……?」
リタから答えを引き継いで言ってのけたトモエの表情に、今まで見たことのなかった陰の存在を感じて、アイネは目を眇めた。リタが続ける。
「『亡霊』の正体が何であるにせよ。ここまで大きな損害を出されてしまった以上、このまま放置しておくわけにはいかなくなりました。
女を狙って神出鬼没の、得体の知れないMS持ちの通り魔――そんな輩を放っておけば、P−04の収入源の一つでもある境界漁民の活動が委縮し、ルウム農協と連邦軍の威信も損なわれます。
漁民には女も多いですし、何より私たちだって今後、残党軍とやり合っているところを横から襲われかねません」
「なるほどね。だから閣下は、こちらから積極的に『亡霊』を狩り出そうとしているわけだ。配下の兵から、奴が狙う女たちを集めて」
「……でも、どうやって? 普通の哨戒では捉えられなかったのに?」
この部屋に入ってからはじめて声を発したシエルに、さっと視線が集中した。
「『亡霊』とやらが女を狙って殺しに来るのは分かった。理屈は分からないけどとにかく神出鬼没で、こちらから積極的に狩り出しに行くのが難しい、っていうのも分かった。
――でも、向こうだって馬鹿じゃないんでしょう。そいつはこっちが4機や6機のMS隊を組みながら手ぐすね引いて待ち構えているところに、相手に女が大勢いるからって単機でノコノコ出てきてくれるような間抜けなの?」
シエルの指摘に、リタが面白そうに微笑んだ。
「ええ、まさにその通り。神出鬼没の亡霊は決して無敵じゃないけど、だからといって馬鹿でもない。喰えそうな獲物だけをちゃんと選んで狙ってくる。
――だから『撒き餌』が必要だし、『猟犬』はその近くに隠しておかないといけない」 「撒き餌? 私たちがあちこちで単機にバラけて行動して、そいつを誘い出すってこと?」
「まさか。境界漁民のボールあたりならともかく、連邦軍のまともなMSや艦艇が境界宙域で堂々と動けば、『亡霊』より先にまずルスランの哨戒部隊が束になって突っ込んでくる。撒き餌どころの騒ぎじゃない」
「じゃあ、どうやって――」
「女子だけで組んだ漁民チームで、境界あたりを漂う『宝船』をしつこく追ってる連中がいる。『亡霊』に邪魔され続けて膨らんだ借金で首が回らなくなってて、やっと尻尾を掴んだ『宝船』をここで穫れないと詰むらしい。
とどめにこの『亡霊』騒ぎが大きくなって、肝心の船すら借りられなくなって往生してたみたいだが――私らが、そいつらに船を貸す」
「――その子たちを、囮にする……ってこと?」
女子だけで組んだ漁民と言われて、アイネの脳裏に第113整備場で見かけた少女たちの姿が蘇る。
直感的に、心に波が立つのがわかった。
「ええ。そして、私たちもその船に乗る……こっそりとね。船倉にジムを隠しておいて、『亡霊』が出てきたら一斉に飛び出して始末にかかる。これとは別にパブリク改を近くに1隻用意して、始まったら全速力で駆けつけてもらう。
漁民のボールで引きつけたところを、まず同乗の私たちが仕掛ける。そしてパブリク改の別働隊が後詰めで、ルスランの介入を足止めするなり、『亡霊』の退路を断つなりして締める。完璧でしょう?」
「なるほど……それなら……」
言われてアイネは算盤を弾く。チャーターするジャンク回収船が1隻、パブリク改級哨戒艇が1隻。両者に搭載するMS隊のパイロットが今この場に呼ばれている面々なら、MSは6機だ。境界漁民のボールもある。
「けっこう、大規模な……作戦なんですね」
「そうだよ。だからこれだけの面子で一気に仕掛ける。あたしとリタ、ロブ先輩とシュンの4人が漁民のジャンク回収船に隠れて待ち伏せ。
マリエル先輩とあんたら二人はパブリク改で後詰めだ。『亡霊』が赤い彗星か白い悪魔でもない限り、これで確実に仕留められる。詳細はこれだ」
トモエが言いながら、作戦命令書の写しらしき綴りを投げ寄越してきた。回転しながら飛んできたそれを受け取って開き、アイネは作戦名から読み上げはじめる。
「クシナダ作戦……」
由来は分からないがそう名付けられた作戦計画には、すでにユン・ソギル准将の決済が降りていた。この綴り自体は写しとはいえ、もはや正式な命令というわけだ。
「どれどれ、……ん?」
マリエル、シュン、シエルの3人が横から覗き込んでくる中、ぱらぱらと綴りをめくって読み進めながら、アイネはその途中で重大な事実に気づきはじめた。
「ん、んんん……? ええ、っと……私の気のせいでなければ、……ワカツキ伍長。いま漁船には、サントス伍長とカーペンター伍長とあなたたち。私とエイムズ軍曹とシエルは、パブリクで後詰め……って、言いませんでしたっけ?」
「ああ言ったともよ。そこにもちゃんと書いてあるだろ?」
書いてある。書いてあった。編成表と乗船割が。
決済済みの、正式な命令書に。
「な……っ、……」
そこまでのことを認識すると同時に、アイネとシュンは二人揃って総毛立つ。
トモエとリタ。シュンを付け狙う超・肉食系女子二人が作戦中の数日間、シュンと同じ船に乗るということの意味を。そして同乗のロブはいま完全に腑抜けている。
この4人だけになれば、彼女たちの肉欲にまみれた野望を阻むものなど、ない。
すべてを察してアイネは叫んだ。
「は、謀ったなぁ!!」
「ん〜!? なんのことかな フフフ……」
暗く含み笑いするトモエの横で、リタが微動だにしない微笑みを張り付けたままの表情で呟いた。
「今回の作戦に協力していただくジャンク回収船『シャンク』の船長と私たちは、旧知で懇意にしておりましてね。船首ブロック居住区で、ちゃんと『個室』も確保済みです。
まあ最悪でも私とトモエさえいれば、肝心の『亡霊』はきっちり狩ってご覧に入れますので……」
「シュンは別に、足腰立たなくなっててもいいんだぜ……?」
トモエが獲物を前にした肉食獣の目で舌をなめずる。シュンが色を失って後ずさり、アイネはその間に入ろうとするものの、命令書が相手ではどうすることも出来ない。
ロブは相変わらずここではないどこかを見ており、シエルは怪訝に目を細めたままで、そしてマリエルは凍りついたように微動だにしない。 先手を打たれてしまった。
シュンを狙うトモエとリタは『亡霊』討伐作戦を企画し、その作戦にかこつけてシュンを寝取るつもりなのだ。
アイネもシュンとの肉体関係は最初の事故以外に無いので、寝取るというのもおかしな話ではあるが、シュンとの心の絆はこの二人より自分の方がずっと近いという自負があった。
この二人は第113整備場で、シュンを寝取るためなら実力行使すら厭わなかった連中だ。危険すぎる。
裸身でベッドに縛り付けられながら全身にマジックペンで変な落書きをされ、同じく裸身のトモエとリタに挟まれながら光の無い瞳で両手にピースサインを作らされるシュンの姿を幻視して、アイネは怒りに全身を震わせた。
「おいおい、いちいちピーピー騒ぐなよ。これは作戦、ちゃんとした正規の作戦なんだよ。あんたも軍人なら、正規の命令にはちゃんと従わなきゃなあ?」
「だ、大丈夫……大丈夫だよ、クライネ伍長。僕は……僕は、絶対に負けないから……必ず、無事に帰ってくるから……」
「彼自身もそう言ってることですし。ここは同僚として、おとなしく信じて送り出してあげたらいかがですか?」
シュンは引き攣った微笑みを浮かべ、その左右から挟み込むようにトモエとリタが歩み寄ってくる。アイネはその動きを阻止することが出来ない。
「――お」
だが途中で会議室のドアに人の気配を感じて、トモエが顔を上げた。
「どうやら船長たちのお出ましだな。あんたらもこれから世話になるパブリクの艇長にはちゃんと挨拶しとけよ?」
「くっ――」
ドアが開く。そして、一人の女が入ってきた。
最新の軍用軟式ノーマルスーツ――いわゆるパイロットスーツに長身と、わがままに揺れるたわわな乳房を包みつつ、頭上には旧世紀大航海時代の海賊を思わせる、大時代で派手な羽根つき三角帽を被った金髪ツインテールの美女。
「……!?」
そんな存在の頓狂さが、すべてをぶった切るようにその場の視線をかき集めた。
彼女は室内の面々をさっと見渡し、軽やかに口笛を吹いた。くいっと小洒落た感じに三角帽を傾けたかと思うと、まったく物怖じもせず口上を切った。
「おおっ! いいじゃないのいいじゃないの。お姉さんたちがあたしの船で『亡霊狩り』に出てくれるって女軍人さんたちなのね? いいねいいねぇ! 美人さん揃いで、船長嬉しいゾ!」
「え? あ、は、はあ――」
最初からクライマックスで声を弾ませる彼女のテンションに付いていけないまま、視線を向けられて曖昧な返事を返したアイネに、金髪ツインテール海賊帽の彼女はニカッと少年のような笑みを浮かべて近寄ってきた。
「ちょ、ちょっと、――おわっ!?」
そのままドン、とアイネに迫るほどの爆乳をアイネの爆乳にぶつけられて、規格外サイズの四つの乳房がスーツ越しにぷるんと震える。アイネは思わずたじろぎ下がった。乳房の質量では勝っても、身長差から来る体重差まではいかんともしがたい。
「この感触っ……、うわっ、本物だぁ〜! MSパイロットでこれはすごいね! あたしよりデカい娘、はじめて見たよ! これからよろしくっ!」
互いのスーツ越しに感じたアイネの乳房の質感に満足したのか、長身の金髪ツインテールは満面の笑みでニカッと微笑みながら握手の手を差し出してきた。
だが当のアイネは半ば以上ドン引きしたまま、やっとその言葉を捻り出すだけで精一杯だった。
「え、ええっと……。……ど、……どちら様、ですか……??」
「おりょ?? まだ何も聞いてない感じ?」
アイネは謎の金髪女に問い返しながら、説明を求めようと横目だけでトモエとリタを見た。この爆乳ツインテールも彼女たちが旧知のコネで呼んだ相手のはずだ。
なんなんだ、この人。大丈夫なのか、この人。
そう思ってアイネが見たトモエとリタの二人は、その目を大きく見開いたまま、完全に表情を凍り付かせたきり停止していた。
呆気に取られたままトモエが呟く。
「…………?? ……えっと、……あんた、……誰……??」
「フムン? そうか、すまない! あたしとしたことが、名乗りがまだだったね!」
長身金髪ツインテールは深く息を吸い、三角帽の端を摘んでキメながら再び叫んだ。 「宇宙の海はあたしの海ッ! 男は乗せない漁船(いさりぶね)!! ダーウィン海運社長クレア・ダーウィン、お呼びにあずかりただいま参上ッ!!」
「いや、その……そうじゃなくて、……漁船、……社長……?? どちら様で……どうしてここに??」
リタが未だ微笑みを保ちながら――しかし、その薄皮一枚下に隠しきれない困惑を露わにしながら、クレアと名乗った三角帽の金髪ツインテール長身爆乳美女に問いかけた。
「私が説明しよう、リタ・ブラゼル伍長」
そのときまたドアが開き、新たな進入者の声が響いた。
また女だった。
今度は制服姿の連邦軍士官、階級は中佐。アフリカ系と思しき褐色の美女、階級章は中佐を示している。高官だ。アイネにとっては初対面の相手だったが、その場の軍人全員とともに姿勢を正す。
トモエとリタの隙を突いて逃れてきていたシュンが、そっとアイネに耳打ちした。
「タニア・メーティス中佐。元トラキア隊で『中央派』の重鎮だよ」
「『中央派』……」
シュンの情報を受けてアイネに警戒心が先走る中、タニアは淡々とクレアについて説明した。
「彼女はクレア・ダーウィン社長。地球の豪州方面で活動するダーウィン海運社の社長だ。ダーウィン海運社は本日、P−04で活動するジャンク回収船『シャンク』を買収し『ダーウィン』と改名。
P−04での宇宙ジャンク回収事業へ参入した。そしてダーウィン社長は、連邦軍による『亡霊』討伐作戦への協力を確約してくれた」
「え、……ば、……買収……?? 『シャンク』が?? いや、その……私ら昨日、その『シャンク』の船長に話を通して、……前金も、払った、ばっかりで……」
「フム? 君たちとともに漁へ漕ぎ出せないのは残念だが、……この宇宙(うみ)の潮流は、常に流れ続けていると知りたまえッ!」
狼狽するトモエを前に、クレアが鼻息を吹かしながら書面を広げた。ジャンク回収船、旧『シャンク』の権利書だった。登録番号の他、ご丁寧に改名前後の新旧船名まで記されている。正式の書類だ。
淡々とタニアが継いだ。
「旧『シャンク』船長はダーウィン社長との商談成立後、すでにP−04を離れたと聞いた。君たちルウム農協と旧『シャンク』の間に何があったのかは知らないが、連邦軍は民事案件に介入しない。何か問題があったのなら各個で独自に解決せよ」
「し、信じられねえ……野郎、前金だけ持って夜逃げしやがった……」
「…………。まあ、構いません。メーティス中佐、貴重な情報ありがとうございます」
予想外の状況に怒りすら凍りつかせながら震えるトモエをよそに、今までの薄い笑みを消した冷たさでリタが女性士官――タニア・メーティス中佐に相対した。
「『亡霊』討伐はソギル准将の決済を受け、P−04基地隊によって実施される作戦です。新サイド4駐留艦隊司令部所属の中佐殿は、本件に何の関係も無いかと愚考しますが?」
遙か上位の階級を持つ士官相手に何の愛想も遠慮もない、冷たい言葉だった。アイネが初めて見るリタの鋭さに息を呑む中、タニアもまた冷たく言葉を返しながら命令書を開いた。
「『亡霊』討伐作戦――『クシナダ』作戦の権限は、すでにP−04基地隊から新サイド4駐留艦隊に移管された」
その命令書には新サイド4駐留艦隊副司令、ヨランダ・ウォレン准将の署名があった。
「なっ……」
命令が、上書きされていた。
連邦軍『中央派』の首魁たる、新サイド4駐留艦隊副司令ヨランダ・ウォレン准将と、P−04基地隊司令ユン・ソギル准将。両者の階級は同格だが、最終決定権を持つ先任はヨランダだ。
まともにぶつかれば、ソギルら『現地派』はヨランダら『中央派』に道を譲らざるを得ない。それがこのP−04での現実だった。
リタたちは、自ら作り上げた作戦計画を奪われたのだ。
「リタ・ブラゼル伍長。トモエ・ワカツキ伍長。ロブ・サントス伍長。シュン・カーペンター伍長。君たち4人は原隊へ復帰せよ。本作戦には不参加となる。帰ってよい」
「……それは、どういう」
なお食い下がろうとするリタに、タニアは冷たく見下ろすような視線を合わせた。
「ダーウィン社長は、船員全てが女性となる自分の船には、女性しか乗せたくないと仰せだ」
「男は乗せない漁船(いさりぶね)。すまんね」
軽く合掌しながら、クレアがシュンとロブにウインクを飛ばす。彼女が自分の船に男を乗せない理由がここまでいっさい説明されていないが、およそろくな理由が出てこなさそうな気がしてアイネは口を噤んだ。 そしてアイネは、次にシュンと目を合わせる。
しかし、これは、……ひとまず助かった、……のだろうか?
「だからサントス伍長とカーペンター伍長には降りてもらう。マリエル・エイムズ軍曹、アイネ・クライネ伍長、シエル・カディス伍長。君たち3人は残れ」
「なら、なぜ私たちが――」
なおも異を唱えんとするリタに、タニアが堂々と言いつけた。
「今回の『亡霊』討伐作戦は『地球連邦軍』として実施する。ルウム農協の出る幕ではない」
「……!!」
P−04の政治について大した予備知識のないアイネにも、その濃厚な『政治』の腐臭は鋭く鼻を突いてきた。
『亡霊』騒ぎが大きくなりすぎた。だから膨らんだ狩りの手柄をルウム農協や現地派に渡さないため、中央派として独占したくなったということか。
「戦力の心配は無用だ。欠員は補う。入れ」
タニアが呼びかけると、再び会議室のドアが開いた。また2人、MSパイロットが入ってくる。2人とも女だ。
「「うげっ」」
アイネと、そして入ってきた2人の片割れが双方同時に呟いた。
ニノン・ルクレール伍長は天敵シエルの姿を見つけるや、先任らしき長身の女性パイロットの後ろへ素早く隠れるようにしながら室内へ入ってきた。
「紹介しよう。カリナ・ベルトラン軍曹とニノン・ルクレール伍長だ。ハイザックで本作戦に参加してもらう。そしてベルトラン軍曹が、本作戦の現場指揮を執る」
「カリナ・ベルトラン軍曹。……よろしく」
全くやる気の感じられない調子で、カリナが呟いた。
栗色のロングヘアをうねらせるカリナは、長身でスタイルも良い。バストサイズはアイネやクレアには及ばないにしろ、巨乳であるトモエやリタに勝るとも劣らぬだけの質量を持ち合わせている。
そのうえ顔立ちも整った美女だったが、いかんせん表情が完全に曇り腐っており、その陰気さがすべてを台無しにしていた。とてもやる気のある人間の姿には見えない。
そしてニノンはそんなカリナの傍らでしばし様子を窺いながら隠れていたが、やがてシュンの存在に気づくとぱっと表情を綻ばせながら飛び出し、アイネとシエルは訓練生課程で見慣れた『しな』を作り始めた。
「ニノン・ルクレール伍長でーすっ☆ よろしくお願いしまぁす!」
「うっわ……」
「全然変わってないなあいつ」
ぎゅっと握った小さな両拳を首元に固めた上目遣いで、ニノンはあざとさ全開の美少女ムーブを決めた。あまりにも露骨なのだが、ニノンにはその露骨さを力業だけで押し切ってしまえるだけの圧倒的な『華』があった。
この場に集った女たちの中で、バストサイズでは下から数えた方が明らかに早いニノンだが、その『美少女力』とでも言うべき力ではトップクラスに食い込んでいることを、アイネは認めざるを得なかった。
「おおおっ、いいねぇ! かわいいねぇ! かわいいねぇ!!」
媚態の直撃を受けたシュンは曖昧な笑みで受け流し、トモエとリタとシエルとマリエルの4人は死んだ魚でも見るような目で見ていたが、クレアは子猫でも見たかのようにはしゃいでおり、そして正直、アイネ自身もちょっとぐっと来てしまっていた。
ニノンの中身も行状もよく知っているのに、こうして見せつけられてしまうと、私もあの子ぐらい可愛かったらなあ、と思ってしまうのだった。
「……中佐殿、状況を整理させてください」
もともとの計画では最先任となるはずだったマリエルが、クレアやニノンの度重なる暴挙にさんざ調子を崩されつつも、こめかみを揉みながら質問した。
「ダーウィン社長のジャンク回収船『ダーウィン』に、境界漁民のボールを4機搭載。直掩MS隊はベルトラン軍曹を長として、ルクレール伍長、クライネ伍長、カディス伍長の4人が乗るMS4機を搭載。戦力の構成はこれでよろしいですか?」
「ああ。そしてエイムズ軍曹、君も『ダーウィン』に乗れ。先任のベルトラン軍曹の指揮下に入りつつ、MSの補給整備業務を支援せよ」
「了解しました。ところで、もともとの計画では境界漁民と直掩を乗せるジャンク回収船以外に、パブリク改とMS2機が『後詰め』の遊撃隊として用意されていたはずです。4人外して2人しか入れないのでは、この『後詰め』は――」
「そこの心配は無用だ。そこには軍の戦力などより、もっと確実なものを手配してある」 「確実なもの……?」
マリエルに答える途中、タニアの無線端末に何か通話が入った。タニアは応えて小さく頷くと「お入りいただけ」とだけ短く返し、そのまま視線をドアに向ける。
ドアが開き、また新たに2人のMSパイロットが入ってきた。
金髪の爆乳美女と、銀髪の美青年。パイロットスーツは連邦軍と同型だが、その薄紫の色彩は軍の制式にないものだった。
長い金髪をポニーテールにまとめた美女は、室内を傲慢そのものの視線で睥睨する。
その長くまっすぐに輝く金髪も、アイネには及ばずながらの爆乳もクレアに匹敵するものだ。だが気品に裏打ちされつつもすべてを見下すような冷たさが、彼女の雰囲気を全く異なるものにしていた。
背後の美青年を従えるようにしながら、ポニーテールの金髪美女が名乗りを上げた。
「ロナ騎士団、騎士キーラ・ブロンベルク。『クシナダ作戦』とやらを支援させてもらいに参上した」
「同じく、騎士ヴィリ・グラーフ。よろしくお願いします」
「……お、おお〜〜〜☆」
ニノンが再び妙な声を上げるのを聞いたアイネが横目で見れば、ロナ騎士団の騎士ヴィリに熱い視線を送っていた。確かに高貴な美青年だが、ずいぶんと目移りが早いことだ。
だがあのままシュンに変な目線を送られ続けるよりはずっとマシか、とアイネは思考を振り切る。クレア船長も女騎士キーラの美貌に口笛を吹いていたようだったが、アイネはこれも無視した。
ロナ騎士団――P−04のジャンク回収再生事業に大きな影響力を持つ、『ブッホ・ジャンク』社と同グループの警備会社『ブッホ・セキュリティ』社の異名だ。
確か連邦軍の認可を受けて、YMS−15『ギャン』を独自に改修したレプリカ機を運用しているはず、とアイネはこの前読んだばかりの資料の情報を思い出す。
そしてブッホ・グループのオーナーであるロナ家が、地球連邦政府に有するという並みならぬ政治力のことも。
「タニア・メーティス中佐。地球連邦軍を代表して、騎士ブロンベルク、騎士グラーフご両名の協力に感謝します」
「構いません、中佐。下々の民草を守ることもロナ家の騎士の務めですから」
キーラはタニアとの握手に応じながら、場の面々に視線を走らせた。怪訝に眉を潜める。
「……士官の姿が見えないようですが?」
「残念ながら今回、適任の者を用意できませんでした。現場の指揮はこちらのベルトラン軍曹に執らせます。――みな下士官とはいえ、腕は保証します」
「――なるほど」
現在この部屋に、連邦軍の士官はタニア一人しか存在しない。あとは全員が下士官と、民間人船長のクレアのみだ。
強制休暇中のマコトはともかく、リン・リンリー少尉やサブリナ・ミケリヤ少尉といった歴戦の女性士官パイロットを連れてこなかったのは、彼女たちが『現地派』だからなのだろう。
指揮官となる最先任者にはあくまでも『中央派』を据える必要があり、そして『中央派』から今すぐ出せる女性パイロットの最上位者がカリナだった。そういう事情をアイネは察した。
キーラは室内の面々をさっと一瞥すると、興味なさげに視線を切った。下士官ごとき相手にする価値もないということか、とアイネは鼻白む。
「……中央派の次は、ブッホの騎士どもだと……? こいつらを作戦へねじ込んで取り入るために、私らを切りやがったのかよ……」
殺気すら秘めた気迫で静かに睨みつけながら、トモエが絞り出すように呪詛を吐く。その手を傍らのリタがそっと押さえた。
「さて、これで全員が揃った。不参加者は退室せよ」
トモエ、リタ、そしてシュンとロブが四者四様に退室すると、タニアは室内に残った面々へと向き直って宣言した。
「ロナ騎士団のお二人には、平素からの境界巡察を継続していただきつつ、『亡霊』が出た際には退路を断っていただく。騎士団ならば境界でも堂々と行動が可能だ。そして諸君らはロナ騎士団の方々と緊密に連携し、P−04宙域を脅かす『亡霊』を確実に排除するのだ。
――これより『亡霊』討伐作戦、『クシナダ作戦』を開始する」
境界漁民、民間ジャンク回収船、連邦軍の現地派と中央派、そしてロナ騎士団。
ルウム農協と男たちを蹴り出して『亡霊』狩りに寄せ集められたいびつな歯車たちが、軋みをあげながら回り始めた。 今回は以上です。
増えた登場人物の把握については、ハーメルンなどに掲載の登場人物紹介(挿絵付き)をご活用ください。 P−04中心岩体の港口から、1隻のジャンク回収船が出港した。
虚空に敷かれた誘導灯の連なりに導かれながら、やや太短いずんぐりとした船体が緩やかに進行していく。その全長は100メートルに満たない。
遠洋型のジャンク回収船としては小型の部類に当たるが、境界漁民の母船としては一般的なものだ。パイソン級宇宙貨物船90メートル型――俗にパイソン90と呼ばれる船級だった。
パイソン級貨物船は宇宙世紀の地球圏における、小型〜中型民生用宇宙船のベストセラーである。
その船体構造は、まず船首部に船の頭脳たる船橋(ブリッジ)と着岸腕に推進補機をまとめ、その後ろに貨物船の命である船倉部を繋げつつ、船尾に主推進機一式を置いて締める。
各主要コンポーネントを一直線に繋いだシンプルな構成だ。平面基調の船体外板は貨物コンテナ等の外付け繋留にも標準仕様のまま対応する。
パイソン級は月面上を含む多彩な領域での運行に対応しており、顧客の多様なニーズに応じて機関の換装から船倉部の延長・短縮に至るまで変更可能な柔軟性を有していた。
その普及度とカスタマイズ性の高さから、連邦軍の艦艇乗員たちからはパイソン級をして『民船界のサラミス』とまで称する声もある。
――もっとも、宇宙戦闘艦としては間違いなく最多の生産数を誇るサラミス級をもってしても、その生産数の面ではパイソン級にはかなうはずもないのだが。
パイソン級の姿はどこか大蛇を思わせるが、パイソン90はその中でもかなり小型の構成だ。船倉部の全長は50メートル程度とやや短く、それも外観に寸詰まりでユーモラスな雰囲気を加えていた。
もしこの場にマコト・ハヤカワ准尉がいたら、その船影をして、かつて地球の日本列島に存在したという珍獣『ツチノコ』に似ている、とでも評したかもしれない。
大推力の機関部はより大型のパイソン級と共通のまま残し、船体を切り詰め小型軽量化することで、いざという時の逃げ足を稼ぐ――他用途への転用は効きにくくなるが、何より逃げ足の早さが求められる境界漁民の母船としては、それが重要なのだった。
進み行くパイソン90から、30キロメートルほど前方――艦砲有効射程前後の距離には、連邦軍『中央派』と思しきサラミス改級駆逐艦が浮かんでいる。合計10機近いRMS−106『ハイザック』が、その上下左右の甲板各所で立哨していた。
さらに遠方には、艇尾機関部の上下にRGM−79R『ジムU』とRGM−79GSR『ジム・ゲシュレイ』の混成4機を露天で載せながら、慣性のままゆっくりと流れていくパブリク改級哨戒艇の姿も見える。P−04周辺宙域の日常風景だった。
そして暗礁宙域でも、かつてのルウム戦役で破壊された廃コロニーの巨大な姿はひときわ目立つ。
軽く全長30キロメートルを超えるコロニーの壮大な巨体も、空気が無いため遠近感が働きにくい宇宙空間では、あたかもすぐ眼前を漂う小さなパイプ状の部品であるかのように人間の目を欺いてくる。
P−04のごく眼前に浮かぶように見えるそれらも、実は200キロメートルを超える遠方にあった。
P−04を離れ、境界宙域に向かっていくパイソン90級ジャンク回収船『ダーウィン』が、その船体をすっぽり隠すほどに大きい、コロニー本体から千切れて漂うミラー残骸の日陰側へと滑り込んでいく。
そのミラー残骸裏の日陰側に、張り付くように隠れていた4機のMSがあった。それぞれの頭部で、ゴーグルアイとモノアイの奥が鈍く光る。
「来た。……あそこに降りればいいんだよね」
同時に『ダーウィン』の前後に2分割された船倉区画の上面でも、後半部側のハッチドアが開きはじめた。
コロニー残骸の陰へ張り付いていた各2機のRGM−79R『ジムU』とRMS−106『ハイザック』がスラスターを灯すことなく、ただ大型デブリを手押しする反動だけで、その開口部へゆっくりと降下していった。
船倉内には女性らしき細身体型の軟式ノーマルスーツが一人、赤色灯を振って誘導している。幅も奥行きも20メートル程度の『ダーウィン』船倉ハッチへの、MS4機の同時降下はギリギリだ。
それでも4機は接触することもなく、鮮やかに着艦してのけた。鈍い着艦の衝撃とほぼ同時に、頭上でハッチが再び閉じていく。
パイソン90級は正式なMS運用能力を持った艦船ではないから、ジムUにせよハイザックにせよ、サラミス改級巡洋艦のMS格納庫内のように直立姿勢のまま格納されるわけにはいかなかった。 この船倉区画、なにしろ高さの方も20メートルに遠く満たず、MSは直立できない。さらにMSベッドも無いので、そのままでは駐機時の機体固定も厳しかった。
だから機体が無人の間に船が急な加減速でも掛けたら、MSが船内を転げ回りかねない――そこまでの事情は、この4機に乗る4人の女性パイロットたちも事前に聞かされていた。
4機は同機種同士が隣り合うかたちで2機ずつ2列になり、両膝を床面に付けて座り込むような姿勢で着座した。幸いなことに側壁にはMS対応規格らしきグリップがあり、脚部の電磁石以外にもそこを掴むことで機体を固定することが出来た。
持ち込んできたビームライフルやザクマシンガン改は右手に握りこんだまま、盾も左腕に付けたまま。アイネ機が左手に提げて持参した予備の兵装や弾薬、部品入りのキャリーケースは、電磁石ユニットで壁面に固定した。
「とりあえず、これで良し……か」
『各員、異常なければ降機。船橋に集合』
「了解」
臨時編成の4機を率いる、いつも不機嫌そうな栗毛の美女、カリナ・ベルトラン軍曹からの通信に応答して、アイネ・クライネ伍長は真空の船倉へとコクピット・ハッチを開いた。
同乗していたマリエル・エイムズ軍曹とともにハッチの枠を力強く手押しし、その反動で『ダーウィン』の床へと降り立つ。
『クシナダ作戦』のため、『ダーウィン』へ送り込まれた5人の女性軍人が船倉内に揃ったのを見届けると、カリナは鷹揚にヘルメットの顎で船橋方向を示した。
まずは船橋に向かい、先方との顔合わせと作戦説明に入る手筈になっていた。なにしろ前回P−04の連邦軍司令部で行った初回の作戦会議には、肝心の境界漁民の少女たちが呼ばれていなかったのだから。
『へいへーい、軍人さんいらっしゃーい。船橋はこっちだよー』
真空の格納庫内で、ヘルメット内の無線機に一般回線が繋がってきた。
船倉内で誘導の赤色灯を振っていた軟式ノーマルスーツ――彼女もアイネと歳の近い少女らしい――が陽気な声色で、MSから降りてきた地球連邦軍の5人を、船倉内を前後に二分する隔壁のドアへと誘導していく。
「あ、ども――」
アイネが適当に会釈しながらドアを越えた先の前部格納庫には、RB−79『ボール』4機が駐機されていた。いわば『餌』として今回の作戦の要となる、境界漁民たちの機体だろう。
以前に見た民間警備会社VWASSの機体と異なり、一年戦争当時さながらの長大な低反動砲を装備している。その威容はジム用のハイパーバズーカと比べてもまったく見劣りしない。アイネは唸った。
「うーむ。こうやって近くで見るとやっぱり、ボールの主砲ってすごいな……」
まともに胴体へ直撃すれば、相手がザクUだろうがゲルググだろうが問答無用で消し飛ばしてきた代物だ。
その長砲身の迫力と、連邦軍に予備役登録しているとはいえ一介のジャンク回収業者がこんな大物を堂々と装備して許されているP−04周辺の環境の異様さに、アイネは思わず息を呑んだ。
「あれ?」
そして息を呑んだ次の瞬間、アイネは頓狂な声を上げていた。ちょうど近くに来ていた、訓練生課程からの親友の肩を叩く。
「ねえシエル。あれって、ジム……ジムだよね?」
『モビルワーカー……? ええ。確かに、ジム……ジム、みたい、だけど、……あんなジム、あったっけ……?』
アイネに聞かれながら同じく格納庫の奥を凝視するシエル・カディス伍長も、戸惑い気味の返事を寄越した。 RGM−79、いわゆる『ジム』には一年戦争以来、大きく4種の基本系列が存在する。アイネたちはそう教えられてきた。
まず、もっとも生産数が多く、連邦軍あるところほとんどどこでも見かけられる『標準型』。
『A』や『B』のサブタイプを持ち、のちに近代化改修されて今アイネたちが乗るRGM−79R『ジムU』となった系列だ。
『標準型』は地球系のサプライチェーンを用いてルナツーやジャブローで量産されたもので、今なお『R』型の新造が大々的に続いている。
新興の連邦軍特殊部隊『ティターンズ』でも『RMS−179』の型式番号で採用され、独自の拠点で量産されているらしい。
もう一つが『C』のサブタイプを持つ、『改型』あるいは『月面型』とも呼ばれる系列。『標準型』に次いで生産数が多い。
一年戦争中に連邦軍のV作戦に参入したアナハイム・エレクトロニクスを中心とする月面系企業群が、独自のサプライチェーンで標準型と同等の基本仕様を満たしつつ、
独自要素も盛り込んで製造したものだ。
『改型』は一年戦争末期から連邦軍MS閥によって高い評価を獲得し、一時は『標準型』を押し退けて連邦軍第一線MS隊の主力機になるほどの勢いだったという。
しかしその後、当のMS閥が失脚。連邦軍と月面系企業群との関係も大きく修正されると、『改型』の導入も一気に失速していった。以降『改型』は第二線級部隊に追いやられ、
さらに既存機へ『ジムU』規格を導入する近代化改修事業の対象となった機体もごく一部のみに留まり、事実上見送られるなどして零落。
今や残存機も少なからぬ数が退役し、コロニー公社などへと民生用に払い下げられているという。
アイネが交戦し、格闘戦で1機のコクピットを貫いて撃墜した反地球連邦組織『エゥーゴ』のジムも、この『改型』をベースにした改修機だったように見えた。
噂通り、エゥーゴの背後に月面企業群があるというなら、『改型』のジムを使っていたのも納得できる。
そして三つめが『オーガスタ前期型』。『G』のサブタイプを持つジムだ。
『オーガスタ前期型』は『標準型』や『改型』と異なり、『ジム』としての基本仕様を必ずしも遵守せず、次期主力量産機も視野に入れた野心的な設計で作られた。
スペック面では高性能ながらも扱いの難しい機体となり、総生産数もさほどではないらしい。
これらのうち、戦後に持て余されていた宇宙戦仕様――『GS』型の機体在庫をP−04の連邦軍現地派が引き取り、
独自に『ジムU』規格やその他の近代化改修を施した局地戦機が、RGM−79GSR『ジム・ゲシュレイ』である。
そして最後の4番目が『N』と『Q』のサブタイプを持つ『オーガスタ後期型』。
癖の強かった『オーガスタ前期型』の教訓を踏まえ、さらなる新技術を取り入れつつも従来の短所を丁寧に潰すように開発された癖のない高性能機、
RGM−79N『ジム・カスタム』と、ティターンズ主力機も務めた対反乱戦特化型の高級量産機、RGM−79Q『ジム・クゥエル』がそれである。
素の『オーガスタ後期型』はジムUが一般化した今となっては、スペックシート的にそこまで特筆すべき事項があるわけでもないが、とにかく造りが良いらしい。
NでもQでもどっちでもいいから一度は乗ってみたいなあ、とアイネはかねがね思っていた。
一口に『ジム』と呼ばれるMSには、連邦軍中央ですら把握しきれているか怪しいほどに多種多様な派生型が存在する。だが、それらの基本型となるのはこの4系統だけだ。
そう教わってきて、そう思っていたのだが。
『これ、どう見てもジムっぽいけど……標準型でも、月面型でも、オーガスタ型でもないよね』
「じゃあ、これは、……なに……??」 『どしたんすか?』
アイネとシエルが足を止めて謎のジム風MSを凝視していると、さっきの誘導係がにゅっと顔を出してきた。
バイザーの向こうの浅黒いボーイッシュな顔立ちの中に、くりっとした大きな瞳がかわいらしくこちらを見ている。
とりあえず、聞いてみることにした。
「これ、ジムなんですか?」
『あー、らしいっすね。ウチの会社は連邦軍から委託された地上事業で、これの同型ジャンクをたくさん回収してるんすよ。
一年戦争のとき連邦の地上軍が『標準型』の配備を待てずに先走って、独自規格で勝手に作ったジムがあるらしいんすけど、こいつらがそれだって言ってました。
んで、こいつは社長が何年か前に、南アジアの山ん中から掘り出してきた奴らしいっす』
『……そういえば、なんか聞いたことあるなその話。確か『陸戦型ジム』とかってやつじゃなかったっけ。今はもう、地上軍でもあらかた退役してるとか……』
「やっぱり、一応ジムなんだ……そんなのあったのか。でも、『陸戦型』?」
アイネは眉を顰める。ここ宇宙だぞ。
『あちこちの戦場跡からジャンクで回収したのを、他機種とかも合わせてニコイチサンコイチしながら中身もちょろっとイジったりして、後は地上で社用モビルワーカーにして使ってたらしいっすね。
今回の宇宙進出に合わせて、こいつらも宇宙用に若干いじり直してから打ち上げてきた、って聞きました。うちらは『ディガー』って呼んでます』
「『ディガー』……じゃあこれ、宇宙でも使えるの?」
『そりゃまあ多少は。でもさすがに中ブルだからねー、軍人さんたちが乗ってるような『最新型』にはかなわないっすよぉ』
あはははは、と気持ちよさそうに少女は笑い、アイネも思わず愛想笑いを返す。
ジムUが『最新型』、か。エゥーゴの強力な新型MS群を見せつけられた後だと笑うに笑えないのだが、アイネは笑って誤魔化した。
誤魔化しながら改めて、アイネはダーウィン社のモビルワーカーになっているという『陸戦型ジム』改め『ジム・ディガー』をさっと観察してみる。
普通のジムなら左右一対の60ミリバルカン砲ユニットが収まっているはずの頭部両額に、それらしく見える開口部は無い。ダーウィン社での改設計とやらで撤去されたのか、元から無かったのか。
バックパックのメインスラスターは4発ノズルで、全体の意匠はジムUのそれに酷似しているようだ。ビームサーベルが片側に1本だけ挿されている。
一方、ジムマシンガンなど射撃兵装の類は近くに見当たらない。あくまで民生用モビルワーカーとして、完全な非武装仕様にされているのか。
代わりに左腕にはやや小振りだが重厚な、盾らしきものが残されていた。鋭利な刃の付いた、ごつい爪部らしきものを備えている。
『エゥーゴ』の改型ジムが『事故』を装いながら仕掛けてきた格闘戦。あのときシュン・カーペンター伍長機を貫こうとした敵機が繰り出してきた盾爪の禍々しさを、アイネは実戦感覚とともに思い出す。
なかなか凶悪なフォルムにも見えるが、果たしてこの盾は作業用の『工具』として使うものなのだろうか……。
「……おや?」
軽く身震いしながらも、その盾の表面に3つ斜めに並んで書かれた数字の『7』に気づいて、アイネは声を弾ませながら呟いた。 「スリーセブンだ! 縁起のいい機体なんだねっ」
『あー。それ山ん中から発掘したとき、そこの数字の『7』ひとつだけ掠れてギリなんとか読めたらしいんすよね。
なんか縁起悪そうで嫌だったから、あと二つ足して『777』にして誤魔化したって言ってました』
「…………」
からからから、と少女は笑う。
聞かなければよかった。つまり、以前この機体に乗っていたパイロットは……。
『そこの二人、いつまで油を売ってるつもり? いい加減に行くよ』
無線で呼ばれて顔を上げれば、カリナが腰に手を当てながら不機嫌そうにふんぞり返っていた。
その傍らでアイネとシエルのMSパイロット訓練生課程の同期、ニノン・ルクレール伍長が口元に手をやってくすくす笑っている。マリエルも呆れていた。
「は、はいっ」
アイネはばつの悪い返事を返し、5人でエアロックをくぐった。与圧された船首区画に入るとヘルメットを外し、通路を走るリフトグリップを握る。
『ダーウィン』はサラミス改級の5分の2ほどしかない小型船だから、船橋まではあっという間だった。
トラキアのMS格納庫から艦橋までに比べれば一瞬だ。
船橋のドアを開けると、ブリッジの小さな空間が広がった。
大窓を通して宇宙に臨む前縁に、軟式ノーマルスーツを着てコンソールに向かう若い女が2人。そして片側の奥に、旧式パイロットスーツを着たミドルティーンほどに見える少女たちが4人で固まっている。
そして中央の船長席には、あの冗談じみて大時代な海賊帽を被った金髪ツインテールの長身爆乳美女――クレア・ダーウィン船長が、威風堂々と待ち構えていた。
クレアが船長席から立ち上がりながらニヤリと笑う。
「ようこそ『ダーウィン』へ! 可憐な漁民少女たちを守らんとする連邦軍人諸官の、勇気ある船出を歓迎しようっ」
「カリナ・ベルトラン軍曹以下5名、MS4機にて乗船完了しました。ダーウィン船長のご厚意に感謝いたします」
クレアのやたらにオーバーアクションなキレキレの敬礼とまるで覇気のないカリナの敬礼が交錯して、若い女ばかりが10人以上も集まった狭い船橋に何とも言い難い独特の居づらさが発生しかける。
だがクレアが素早く次の話題を出してきたおかげで、それ以上の空気悪化は回避された。
「ようし、では初顔合わせと行こうっ。アレント社長代行、こちらが連邦軍『亡霊』討伐任務部隊長のベルトラン軍曹だ!」
旧式パイロットスーツを着た少女たち4人のひとりをクレアが指し示すと、亜麻色の長髪を揺らしながら、美少女が不機嫌そうに顔を上げた。
「…………」
「おお」
ずいぶんと顔立ちの整った美少女だ、とアイネは唸る。
美人や美少女は特にここ最近でかなり見慣れた感があったが、それにしても、この少女はかなりのものである。ハートを掴まれそうになってしまった。
気の強そうな、気を張った感じ。うかつに手を出せば噛まれそうな猫のような気迫。
だが、それがいい、と感じてしまう。
存在感にみずみずしい透明さを感じる。年の頃は、ミドルティーンほどだろうか……。
アイネは思わず手に汗握った次の瞬間、その後方に、見覚えのあるボーイッシュ少女の顔を発見して吹きかけた。向こうもすごい表情でアイネを凝視している。
「えっ」
なんであの子がここに。確かVWASSとかいう警備会社勤務だったはずでは。警備員から漁民に転職したのか??
こちらを凝視したまま、驚きと衝撃と喜びと謎の感動が謎の配分で入り混じったと思しき、何とも言えない絶妙に妙ちきりんな表情で硬直したアシュリー・スコットへ、アイネは反射的にぎこちないウィンクを送った。
それでとりあえず彼女を少し黙らせておくことにかろうじて成功すると、アイネはアレント社長に視線を戻した。 カリナ、マリエル、ニノン、シエル、そしてアイネまでの軍人5人を冷たい瞳でさっと一瞥した後、彼女は進み出ながら、はっ、と一息吐き捨てて一礼する。
「この度はご協力まことにありがとうございます。アレント廃品回収社社長、フィオ・アレントです」
「クシナダ任務部隊指揮官、カリナ・ベルトラン軍曹。よろしく。――このまま彼女たちに、作戦内容を説明しても?」
「ふむ?」
手短な挨拶を終えると、カリナは船上の最上位者たる船長席上のクレアを仰ぐ。船長から制止されないと見るや、口頭だけでそのまま続けた。
「作戦はシンプル。期間は最大7日間。『ダーウィン』はこのまま船長計画の隠密航行で、境界宙域の『宝船』とやらへ向かう。
首尾よく接触できたら、あなたたちは回収に行く。その途中で『亡霊』が現れたら、それまで『ダーウィン』に隠れていた私たちが飛び出して、一気に『亡霊』を仕留める。
騒ぎに感づいたルスランの連中が沸いてくる前に、さっさと引き揚げて帰る。それだけ。以上」
――いやいや、ぜんぜん『シンプル』なんかじゃないでしょ。
カリナの大雑把すぎる説明を聞きながら顔を引きつらせ、アイネは改めて認識する。
この作戦には何しろ、不確定要素が多すぎるのだ。
例えば――『亡霊』と接触するより先に、ルスランが暗礁宙域に多数『飼って』いるという宇宙海賊のような雑多な連中に襲われてしまった場合、護衛部隊はどう動くのか。
どの段階から、姿を現して迎撃してしまってもよいのか。
あるいは『亡霊』と同時に強力なルスラン哨戒部隊も襲いかかってきた場合、あくまで『亡霊』の撃破を優先するのか、まず漁民を護衛しての安全な撤退を優先するのか。
何を優先して、何を優先しないのか。それらの基準は何なのか。
恐るべきことに、作戦計画として事前に対処方針を決定しておくべき事項の多くが、未だにほとんど何の明文化も認識共有もされていなかった。
ルウム農協の少女兵たちによる当初の立案後、『クシナダ作戦』はその実施主導権を連邦軍内の派閥争いで『現地派』から『中央派』に奪われた。
それきり細部は混乱の中で実質的に放置されていた。ほぼ完全に『出たとこ勝負』なのだ。
こんなもの、とうてい『作戦』などとは呼べない――強く懸念するアイネの眼前で、亜麻色の髪の美少女が腕組みしながら半目で呟いた。
「へぇ。あなたたちが、私たちを『亡霊』から守ってくれるってわけ」
「ええ。まあ、そうなるね」
アレント社長――クレアにそう呼ばれた美少女、フィオ・アレントはカリナを下から舐め上げるように睨み上げる。カリナもそれを胡乱な目つきで受け止めた。
「ちょ、ちょっと、フィオぉ」
フィオにいきなり友好さの欠片もない態度で入られて、豊満体型で人の良さそうなツインテール少女、マルミン・ポリンがフィオの肩を掴もうとする。
そしてフィオにその手を払いのけられた。
「どうだか。実際、『亡霊を仕留める』気まではあっても、本当に『私たちを守る』気はない――そんなところじゃないの」
「なに……?」
フィオの物言いに、カリナが剣呑に表情を歪めながら息を呑む。
その有無を言わせぬ威圧的、高圧的の見下ろしてくるカリナの態度に火を付けられたのか、フィオは最初から食いつくようにカリナを下から睨み上げた。
「もし首尾良く、『亡霊』を仕留められたとしてもね――それで海賊だのルスランの連中だのが沸いてきて、また『宝船』を逃す羽目になったら意味ないのよ。
自分で何も考えなくても給料貰えるあんたらと違って、私らは生活かかってんの。『亡霊』も『宝船』も、次で全部片づけなきゃなんないのよ。わかる?」 「……そこは、あんたらの手際次第ね」
「はぁ? あたしたちが自分で出来れば、ぜんぶ出来るに決まってるでしょ。やる気無さそうなオバサン連中が問題なのよ。何ならあたしたちのボールとあんたらのMSを交換してみなさいよ。あたしたちだったら絶対ヘマせず全部やり遂げてみせるから」
「…………」
「いや、自分はやっぱりMSよりボールの方がいいッス。一球入魂、ボールですべてやり遂げてみせるのが真のプロボウラー(職業ボール操縦士)ッス」
カリナとフィオの対決があっという間に白熱しすぎて、まったく空気を読まずに発されたアシュリーの発言は誰の耳にも入らなかった。
アイネの背中に、嫌な汗がびっしりと浮かぶのを感じた。
「あ、この船のシステムってこうなってるんだー。へー。ふーん。どう、大変?」
「え……? え、ええ……」
ニノンは何も聞こえていないように、船橋コンソール群の表示を興味深そうに観察する体を装いながら、船橋前列に座る女性オペレータ2人の片割れに話しかける。
ニノンに話しかけられた女性オペレータはひやひやと後ろの様子に聞き耳を立てていたが、よく見るともう片方は船を漕いで――寝ていた。
シエルはすべてに呆れかえった半笑いのまま、物も言わない。
「……こうなるんじゃないか、と思ってはいたが――」
連邦軍側の次級者であるマリエルがアイネの傍らで重く呟きながら、介入のタイミングを計るように場を見回す。
マリエルはここまで同乗してきたアイネに機内で、カリナが『クシナダ作戦』の全体指揮を取ることへの懸念について話していた。
カリナは旧サイド5出身者ながら『現地派』を見捨てて『中央派』に取り入り、新サイド4からの『脱出』を目指す事なかれ主義者なのだと。
MSの腕自体は相応に確かだが、カリナもまた多くの『中央派』将兵と同じように実戦ではしばしば腰の引けた戦いぶりを見せ、『現地派』将兵や戦闘に巻き込まれた民間人たちから不評を買っていたという。
――さすがのカリナも『亡霊』討伐という、与えられた最低限度の命令ぐらいはこなすだろう。
だが、それ以上のことは期待できない。
今回のような作戦でカリナが今まで通りの姿勢なら、『ダーウィン』や『アレント社』と強烈な摩擦を引き起こす可能性がある。
――何ならあのフィオという少女も、カリナのこれまでの行状を知ったうえで食って掛かっている可能性すらある――
今マリエルの眼前で、何か言ってやった感を醸し出しているアシュリー以外のアレント社の少女2人は、フィオの暴言におろおろと慌てるばかり。
そして肝心のクレア船長はといえば、船長席にふんぞり返りながら、ただ満面の笑顔で場を見下ろすだけだった。
「おお、熱き魂のぶつかり合い! 立場と組織の枠を超えてともに戦わんとするうら若き乙女二人の魂が、今ここでひとつに溶け合おうとしているッ!!」
――いや溶け合うどころか、始まる前から空中分解しかけてますが。
嫌すぎる。この船橋、あまりに空気が悪すぎた。
こんなところにはもう1秒だって居たくはないが、この作戦は最長であと7日間続くのである。 アイネはマリエルの傍らで強烈な帰りたさに襲われながら、そのみずみずしい美貌に激昂を宿すフィオに視線を戻した。
「『亡霊』は潰す。『宝船』も獲る。そして『全員で生還する』。『全部』やんなくちゃなんないのよ。ふざけんなよ。あんたらみたいに何のやる気もない雑な軍人どものせいで、……ナイアは……。あたしたちはこれ以上、もう……誰も、失えないのに」
アイネの知らない誰かの名を呼んだあと、ぎりっ、とフィオがきつく歯噛みする。一瞬俯いたその目に光る何かを見た気がして、アイネははっと息を呑んだ。
フィオが再びカリナを睨み上げ、真正面から啖呵を切る。
「テキトーにあたしたちだけ『餌』にして、『亡霊』だけ殺って帰ればハイ終わり、なんて安直な、漁の邪魔にしかならないクソ軍人どもなら……さっさとこの船下りて今すぐ帰れ、って言ってんのよ!」
「こ、……こんの、クソガ――」
「や、やばいよフィオぉ。謝ろ? ね? 今からでも謝ろ??」
「お、お姉ちゃあん!!」
いよいよ青筋を立てながら目を剥いたカリナが、フィオへと半歩前に出る。顔面蒼白涙目になった豊満なマルミンと小柄なボナが両脇からフィオを守るようにすがりつく中、迫りくるカリナの長身が拳を振りかぶり、いよいよフィオを打ち据えるかと思われたとき――
「大丈夫。それ、私が全部やりますっ!」
「え……?」
二人の間へ割り込むように、アイネが大きく歩を進めていた。
「境界漁民の皆さんを守って、出てきた『亡霊』を仕留めて、『宝船』もちゃんとP−04まで持ち帰ってもらう。それ、私がやります。私なら出来ます」
「なっ、――」
強引に割り込んできたアイネの巨大なバストが、たわわに大きく揺れ弾むその圧倒的な質量の暴力で、二人を強制的に引き離す。フィオが反射的にアイネを見返してきたが、その表情に過ぎったわずかな怯みの色を、アイネは見逃さなかった。爆乳の圧でさらに押し込む。
「だ、誰よっ。この辺の部隊じゃ、見ない顔と名前みたいだけど――」
「アイネ・クライネ伍長です」
ストレートに短切に、はっきりとフィオに名乗って機先を制す。アイネは畳みかけるように後を続けた。
「ここでは新顔だけど、もう実戦経験は十分あります。私はジオン残党の名だたるエースパイロットと何度も戦って、勝って、生き残ってきました。そう。――私は、強い、です」
「は……っ? な、何を。で、デカけりゃいいってもんじゃ――」
「そうッ! クライネ伍長は、超強いんッス!!」
びりびりと鼓膜が震えるほどの絶叫。前列で寝ていた女性オペレーターがむくりと起きた。
全身を躍動させながら絶叫したアシュリーの援護射撃を背中に受けながら、アイネは予想外の伏兵に狼狽えるフィオを、そして拳を振り下ろす先を無くしたカリナを見つめた。
「だからアレント社長、私を――私たちを、信じてください。あなたたちのために、必ずやり遂げます。私は連邦軍人として、みなさん連邦市民を守ります。
――ベルトラン軍曹、やりましょう。この作戦、私たちなら完遂出来ます」
何気無さそうにモニターの文字列へ視線を固定していたニノンが、横目でちらりとアイネを見た。マリエルがふっとため息を吐き、シエルがまた、呆れたような苦笑を漏らす。
「ほほう……これは実に予想外。……ここで新たなる勇者の誕生とは、……な!」
徹頭徹尾何一つ変わらぬ笑みのまま船橋内を睥睨する、クレア船長の眼下。
その場の全員を力強く眺め渡して、アイネは力強く宣言した。まずフィオとカリナに、次いでシエルとマリエルに――そして何より、自分自身へと言い聞かせるように。
「やりましょう――やり遂げてみせましょう。私たちの力で、私たちの『クシナダ作戦』を」 もうここには誰もいらっしゃらないようですので、今回をもって拙作の当スレッドへの投下を終了とさせていただきます。
もし拙作の今後にご興味おありの方がいらっしゃいましたら、引き続きpixivとハーメルンにてご確認いただければ幸いです。
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