ガンダムヒロインズMARK ]YI
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0001名無しさん@ピンキー2020/12/01(火) 01:32:40.07ID:P3dXRXkh
語るも良し!エロパロ書くも良し!
ガンダムの娘ッ子どもで妄想が膨らむ奴は集え!

ガンダム以外の富野作品やGジェネ、ガンダムの世界観を使った二次創作もとりあえず可!
で、SSは随時絶賛募集中!

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ガンダムヒロインズMARK ]Y
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ガンダムビルドファイターズでエロパロ
http://nasu.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1381888018/
0002フェニックステイル第31話(承前)2020/12/01(火) 01:34:00.27ID:P3dXRXkh
「P−04ってのは、プラント農業とジャンク漁業の町なんだよ――まあ私も、実際に行くのは初めてだけど」
 サラミス改級巡洋艦《トラキア》、MS格納庫――ルウム農協船団護衛MS隊との接触から、一時間前。
 この短期間に数度の実戦を潜り抜け、今また無事に帰還したばかりの艦載機RGM−79R《ジムU》への整備と補給に、整備兵たちが飛び交いながら奔走している。その壁際で、二人の少女兵が飲料を片手に話し込んでいた。
「ルウム戦役の時、ジオンは大量破壊兵器の無差別投入で徹底的にコロニーを破壊したけど、流石に細かいプラント全部までは潰しきれなかった。
 まあ核にも艦砲にも毒ガスにも弾数ってもんがあるし、連邦軍とも戦わなきゃいけなかったからね。
 だからコロニーの住民が全滅した後も、プラントの方には多少の生き残りがいたんだ。
 戦闘後に両軍が撤退してからの数か月後を生き残っていられた人たちを、同郷のルウム難民志願兵を中心に編成されていた、当時のトラキア隊がルナツーから来て助けて回ったらしい」
「ぜんぜん知らなかった……そういうところだったんだ」
「うん。まあこればっかりは、アイネが不勉強ってわけじゃない。私も今の部隊に来るまで、ほとんど知らなかった。このへんの情報、なぜだかほとんど外には出てないみたいだし。――もっと早く、知れていたらなあ」
 シエルが言葉を切ったその一瞬に、アイネは親友の横顔に過ぎる記憶の暗い影を見た。一息の間を見守られた少女はどこか遠くへ視線を投げて、何かを洗い流そうとするように続けた。
「――とにかく、戦中に始まったトラキア隊とプラント難民の協力関係は続いて、戦後には旧ルウム暗礁宙域に拠点を築いていった。
 暗礁宙域に潜伏したジオン残党と戦いながら、食糧難に陥った戦後地球圏への輸出を見越して、再生プラントでの農業を推進したの。そこへ83年の末に起こったのが、北米大陸へのコロニー落下事故。
 あのとき食料相場は狂乱したけど、ちょうど輸出態勢が立ち上がるのを待ってた大量の在庫で介入して、プラント難民組織――『ルウム農協』は財を成した。
 連邦政府の予算無しでも復興事業は軌道に乗るようになって、P−04が築かれた。そしてジオン残党どもが巣食う新サイド4に築かれた、連邦軍の橋頭堡になったってわけ」
「なるほど〜」
 眼鏡の小柄な少女パイロット、シエル・カディス伍長が淡々とMSパイロット候補生時代に同室だった同期生へ向かって語りかけると、相手は気抜けしたような調子で楽し気に頷く。
 シエルはトラキアではなく、第223戦隊の僚艦であるサラミス改級駆逐艦《アルマーズ》MS隊の所属である。
 だがシエル機は先の戦闘で頭部と脚部を失った満身創痍の機体で、戦域離脱時にかろうじてトラキアへ着艦したまま、今も艦外に繋留されている。
 本格的な修理に着手するのは、P−04への入港以降となるだろう。P−04への入港を控えて、パイロットのシエルもそのままトラキアに残されていた。
 そしてシエルの傍らには、そのかつての同期生――アイネ・クライネ伍長が、今は底抜けに幸せそうな――腑抜けたような、とも言えそうなほどに緩んだ表情で、彼女の話に聞き入っている。
 二人がMSパイロット訓練課程を修了してそれぞれの任地へと別れてから、まださほどの日数は経っていない。
 二人がその後のわずかな期間に経験した激しい実戦と、シエルが聞かされたアイネ戦死の「誤報」が心を揺らしても、互いの無事を認め合った後は、あの戦場で見せた互いの動きだけで、すべてを語るに事足りた。
 だから二人の話題は何事もなかったように自然と、世間話の方向へ流れていった。
 現在のトラキアMS格納庫では、アイネとマコト・ハヤカワ准尉のジムU2機、そしてサブリナ・ミケリヤ少尉のジムUキャノンの合わせて3機のMSに対する整備作業が進行している。
 いずれもシエル機と異なり、機体の損傷は小さい。艦外ではゲンナー・ウェズリー少尉のジム・ゲシュレイに率いられて、ロブ・サントス伍長とシュン・カーペンター伍長のジムUが対空警戒に当たっていた。
 アイネも自機の整備が完了し次第、次の指揮官となるサブリナとともに機体ごと出て、対空警戒を交代するになっている。シエルは引き続き待機だ。
0003フェニックステイル第31話(承前)2020/12/01(火) 01:35:38.24ID:P3dXRXkh
「そしてプラント農業とその輸出態勢が軌道に乗った頃には工業プラント群も整備されて、宙域のデブリやジャンクを回収して再利用する基盤も整っていた。
 連邦軍の第一線を退役したボールを大量に取得して、今は予備役登録を条件に業者へ積極的に貸し出したりする振興策をやってるみたい。
 何せここの暗礁宙域は地球圏最大だったうえ、長年残党軍の拠点にされてたから、今でも高額で捌けるジャンクがデブリになって、手つかずのまま大量に漂流してる。
 誰が呼んだかジャンク漁業――そのジャンク漁業に従事する民間船団の護衛は、今でもここの連邦軍の任務のひとつらしい」
「ジャンク漁業の護衛っ……!」
 シエルの言葉に、にわかにアイネの瞳が輝きを増す。姿勢が前のめりになり、巨大な胸元がシエルの眼前へ迫る。呆れたような半笑いを浮かべながら、シエルは親友の顔を見上げた。
「何。アイネ、そんな仕事やりたいの?」
「うんっ!」
 揶揄するような調子の問いにも、アイネは満面の笑みで即座に頷いてのける。
 ジャンク回収船に張り付いていつ来るかも分からない敵をひたすら待ち受ける受け身の任務など、シエルは積極的にやりたいとは思わない。むしろいかに危険であろうと、果敢に敵陣へ斬り込む威力偵察のような攻めの任務の方が好ましいと思っている。
「白兵大好き突撃バカのアイネがそれ言う……? 死ぬほど退屈でしょうよ。そんな待ちの仕事、私なら絶対イヤだけどな」
「やっとMSのパイロットになれたんだもん。あの凶悪なジオンの残党どもから、復興のために働く人たちの安全を最前線で守るんだ。これこそ地球連邦宇宙軍の、最高の存在意義だよ!」
「――そう」
 屈託のない笑みからの、まっすぐに理想を目指して言い切ってのける言動。互いにあれほどの激戦を経験してきたというのに、訓練隊から巣立ったあの日から、アイネは何も変わっていない。彼女は理想を捨てていない。
 同室の親友が見せるこの横顔が、シエルは決して嫌いではなかった。
「クライネ伍長!」
「はいっ!」
 そんな二人へ向かって、整備中だったアイネの乗機、ジムU25のコクピットハッチから声が掛けられる。幼くあどけない女児じみた声色のようでありながら、同時に凛とした気迫を備えたその呼びかけに、アイネが思わず背筋を伸ばして向かい合う。
「25とミケリヤ少尉機の整備、間もなく完了! コクピットに入って最終点検。良ければ庫内のエアを抜いて、そのまま対空監視に出てもらうけど。準備はいい?」
「万全です!」
 女性として小柄なシエルと比べてもなお二回りは小さく見える、いっそ童女のような整備兵が、整備作業の汗を帯びたボブカットの金髪を揺らしながらアイネを呼んでいた。
「よしっ。じゃあシエル、行ってくる!」
「おう、行ってこい」
 ノーマルスーツの拳と拳をカツンと合わせると、アイネは格納庫の床を蹴り、自機の機付長が待つコクピット目掛けて跳んだ。
 途中でノーマルスーツのスラスターを噴かすこともなく、跳躍のみで狙い過たず届いたコクピットハッチの縁を掴んで制動しながら、アイネはコクピット内を覗き込んでいるマリエル・エイムズ軍曹の真横で身体を止めた。
 思ったより距離が近い。
「…………」
 無言のまま、妙に心拍数が上がってしまう。
 会議室での初顔合わせ以来、アイネはマリエルに対してなぜか緊張感を持つようになってしまっていた。
 マリエルが自他ともに厳格な人物なのは動作と態度の端々からも感じられるのだが、どうもアイネに対してはそれ以外の「何か」があるようにも感じられるのだ。
 なんとなく、これは女社会における負の側面の片鱗めいた気配なのではないか、とすら思ってしまう。
 まだろくに話してもいないというのにこれというのは、自分たちは何か、よほど絶望的に相性が悪いのだろうか……?
 自機の整備という命運を預ける存在から人間的に嫌われてしまうなど、MSパイロットにとっては完全な悪夢以外の何者でもない。
0004フェニックステイル第31話(承前)2020/12/01(火) 01:35:48.68ID:P3dXRXkh
 とはいえ比較対象として、現在この場に不在の整備班長ウェンディ・アーデル曹長の想像を遙かに上回る奔放さを思い出してしまうと、自機の機付長としてどちらが良い、と言えるものでもなくなってくるのだが。
 だが同時に、こうして間近で見るマリエルの横顔はまさしく人形のように整っていて、こんなに可愛い女の子は見たことがない、とすら思ってしまう。
 ――ハヤカワ准尉やシエルみたいな凛とした女性も素敵だけど、エイムズ軍曹みたいな美少女も、最高だなあ。
 エイムズ軍曹を隠し撮りした高解像度の大判写真を額縁に入れて飾りたい。というか無骨な整備兵用ノーマルスーツなんかじゃなくて、フリルのたくさん付いた可愛いドレスを着せてみたい。
 いや。そこまでやるならもう、その状態でさらに手足を縛ってベッドの白いシーツの上に転がし、涙目でキッとこちらを睨み返してくるところを――
「――クライネ伍長?」
「はいっ!?」
 妙な緊張を伴う沈黙の中、危うくおかしな方向へ跳びかけたアイネの思考を、マリエルの言葉が矯正した。
「最新の戦闘データ、見せてもらった。ずいぶん突っ込んだ戦い方が好きみたいね」
「は、はい」
「カーペンター伍長の機体をそのまま使って、ルスランのザクUF3にエゥーゴのジム改もどきとビームサーベルでやり合った。
 それで今度は乱戦の中、あの大ジオン仏道のゲルググ相手にも斬り込んでみせた。無茶をするのね――大した度胸だこと」
「……はい」
 マリエルの意図が読めず、アイネの返答は萎む。関節部を酷使する格闘戦という機体への負荷を省みない無茶な戦い方をした、として叱責されるのだろうか。不意にマリエルが金髪を揺らし、アイネの瞳をじっと見つめた。
「――それがあなたのやり方だというなら、こちらも全力で整備するまでのこと。クライネ伍長。だから今後、整備への変な遠慮で自分に枷を填めて、言い訳するのは許さない。全力で、やりなさい」
「は、はいっ!」
 結局アイネは徹頭徹尾はいとしか答えられないまま、マリエルはそこで会話を打ち切った。アイネはリニアシートへ飛び込み、次々と機能点検を掛けていく。全項目異常なし。マリエルはそれを無感情に見届けると、コクピットから跳び去った。
「な、なんだろ。よく分かんない……よく分かんないけど……可愛くて、怖いひとだなぁ……」
『アイネ、もう良いの? 良いんなら、さっさと行くよー』
「だ、大丈夫です。今行きます、ミケリヤ少尉!」
 慌ててコクピットハッチを閉めながら全天周モニターを完全に起動させると、すでにサブリナのジムUキャノンはBR−S85ビームライフルを手に昇降機へ向かうところだった。マリエル、シエルもエアロック外へ退避している。
「ま、いいか……。考えていたって仕方ない。私は私の、出来ることをやっていくんだ」
 艦外ではあの戦闘後からそのまま、ロブ・サントス伍長やシュン・カーペンター伍長らが警戒を継続している。早く休みたいであろう戦友たちと早く交代してやろうと、アイネも昇降機へと自機の歩を進めさせた。
 しかし、とアイネは再び別のことを思う。トラキアから最大の危機はすでに去ったとはいえ――
「ハヤカワ准尉とアーデル曹長、どこにいるんだろ。……トラキアMS隊トップの二人が揃って見当たらないなんて、いったい何をしてるんだろう……?」
0005フェニックステイル第31話(承前)2020/12/01(火) 01:37:53.19ID:P3dXRXkh
「ん、……っ……」
 長い銀髪を下ろしたあどけない顔立ちの美少女が、薄闇の空間で目を覚ました。
 彼女の記憶に残っている最後の光景は、首のないジムUから向けられたビームライフルの丸い銃口だった。
 装甲を貫き、一瞬でコクピットとパイロットスーツを焼き尽くした、灼熱の閃光。それが彼女が最後に見たものだった。
 苦痛を感じる間もなく、自身の肉体は蒸発した――彼女がこれまで多くの連邦兵をそうしてきたように、彼女自身も細胞の一片までを原子レベルで分解され、再び宇宙と一体化する『完全成仏』を遂げた。そのはずだった。
 だが今、彼女の目の前に広がっているのは、明らかに極楽でも地獄でもない。宇宙艦艇の、窓もない狭い倉庫の一室だった。
 その目に映るのは一糸まとわぬ、透き通るように白くみずみずしい自身の肌。相変わらず下向きの視界を遮るほどに大きな乳房はなぜか熱を孕んで、桜色の頂は堅く尖っている。
 素肌には火傷はおろか、かすり傷の一つすらも残っていない。そして下着のひとつも身につけていない、完全な裸身であった。
「…………!?」
 自身の状況を確かめようと身体を動かしかけて、彼女はまったく果たせずにその場で揺れた。彼女の両手両足は、いっそ過剰と思えるほど厳重に拘束されていた。
「おー。大ジオン仏道のカワイコちゃん、お目覚めでしゅか〜?」
「!?」
 いっそ軽迫な調子の女の声が耳元で響いたと思った瞬間、彼女の乳房は左右もろとも、背後から伸びた女の手に強く握り締められていた。
 女の掌などではとうてい包みきれないたっぷりとした肉塊が変形し、手指に絞られた充血した乳肉が逃げ場を求めて熱く蠢く。
「あ、あああーーーッッッ!!」
 まだ敏感な頂には触れられてすらいないというのに、それだけで少女はおとがいを反らせて倉庫に絶叫を響かせた。
「んん〜、いいおっぱいだぁ。アイネちゃんのよりはちょっと小さいけど、白くてキレーで感度も最高。やっぱり犯るのは『墜としたて』に限るよぉ。たまんないねぇ〜〜〜!」
「なっ、……なにを、言ってっ……!」
 少女の乳房をいいように捏ね回してくる背後の女は、赤毛をポニーテールにまとめた看護師だった。前髪が目元を隠し、口元には邪悪な笑みが浮かんでいる。
 少女を凌辱する獄卒のごとき女に乳房を弄ばれながら、かつて一度も感じたことのない濃厚な性感の快楽の中で、彼女は少しずつ現実を認識していく。
 自分はあの戦場で、完全成仏を果たせなかった。
 なぜ?
 あそこから、ビームが外れたのか? コクピットハッチを焼いて飛び込んだビームが彼女の肉体をギリギリで外し、気絶だけさせて捕虜にしたのか?
 あり得ない。
 自分は確かに、粉々に砕けるヘルメットを、燃え上がる間もなく蒸発して消し飛ぶパイロットスーツを感じていた。ビームの直撃は確実だったのだ。
 となれば、結論はひとつしかない。
 何か人智を越えた、得体の知れない邪悪な力が働いたのだ。それが自分の完全成仏を妨げ、このような辱めを受けさせるに至らしめた。
 では、その力とは、何か。
 彼女にはひとつ、覚えがあった。あの戦場で感じた、強烈な違和感。決してこの世に在ってはならぬと強く感じさせた、まったく異質な存在の気配。彼女が放った必殺の狙撃を易々と掻い潜り、反撃で痛打を浴びせてきた、あのジムU。
 時代遅れのビームスプレーガンを構えたジムUを操る連邦兵の気配は、およそ人間のものではありえなかった。
「おやおやウェンディ、もうお楽しみか。ふふ。それにしても、しかし――なかなかいい眺めじゃないか」
「!!」
 背後で少女の乳を揉み続ける女とは別の女が、薄闇の正面からふと現れていた。
 憎き地球連邦軍の制服に身を包み、囚われの少女を嘲るような表情を浮かべた、東アジア系の美女だ。初めて見る顔だったが、少女はこの美女の正体を瞬時に理解することが出来ていた。
「おのれッ……この妖術、やはりお前の仕業だったか。……妖怪変化め……ッ!!」
 背後から爆乳を弄ばれつつ、歯を食いしばってきつく睨みつける銀髪の美少女の視線を真っ向から受け止めながら、マコト・ハヤカワ准尉は邪悪な笑みを浮かべてみせた。
0006フェニックステイル第31話投下終了2020/12/01(火) 01:38:42.11ID:P3dXRXkh
今回は以上です。
スレッド容量の確認を怠って途中でスレッドを落としてしまい、申し訳ございませんでした。
0008名無しさん@ピンキー2021/01/07(木) 19:58:56.10ID:8dZJlkmz
0083の観艦式に参加した連邦艦隊
そりゃーキレイなお姉さんたちがオペレーターで乗ってたんだろうなぁ
勿体無いなぁ
0010フェニックステイル第32話2021/02/28(日) 22:07:01.91ID:G2Yl2B1i
「――以上をもちまして、『トラキア』からの状況報告を終了いたします」
 サラミス改級巡洋艦『トラキア』艦長リドリー・フランクス大尉が急拵えの資料で報告を終えても、新サイド4暗礁宙域に設けられた地球連邦軍要塞拠点『P−04』内部の作戦会議室は静けさを保っていた。
 前列の席に着くのはつい今し方P−04へ到着し下艦したばかりの、トラキアが属する第223戦隊の主要士官たち。戦隊司令リード中佐、旗艦『マカッサル』艦長カミラ少佐、その僚艦であるサラミス改級駆逐艦『アルマーズ』艦長ヘイズ大尉の3人が並ぶ。
 そしてその後方に艦載MS隊長たちが立つ。トラキアのハヤカワ准尉、アルマーズのリンリー少尉、それから不審船を巡る戦闘で壊滅状態に陥ったマカッサルMS隊の生き残りである隊長代理、キーガン少尉。
 もっともリドリーが報告した内容の大半は、すでに第223戦隊の内部ではレーザー通信経由で共有されていたものだった。戦隊側から質問を発する気配はなく、場の意識は会議室前方の最上位者に集中していく。
 室内における最上位者――すなわち、P−04駐留部隊司令官、ユン・ソギル准将。そして新サイド4駐留艦隊副司令ヨランダ・ウォレン准将の懐刀として知られる参謀、タニア・メーティス中佐の2人である。
「ご質問は?」
 微かな緊張を帯びながら、リドリーはソギルへ問いかけた。
「ふむ。ご苦労だった、フランクス大尉。さて……よろしいですな、中佐?」
 ソギルが傍らの黒人系女性士官へ何事かを確認すると、タニアは無言で同意を示した。ソギルがひとり頷くと、前方の大画面がリドリーの資料から切り替わる。
「では今度は、私から諸君らに説明しよう。諸君ら第223戦隊がこのP−04から離れ、外部拠点から新サイド4宙域への哨戒任務に移行して半年。その間にルスラン・フリートは我々の以前の推定を大幅に上回る、劇的な戦力強化を達成していたことが判明した」
 ソギルが手振りで促してリドリーを席へと返しながら画面の前へと歩を進めるや、大画面が再び切り替わって新たな資料を映し出した。
 航路図、部隊編成表、そして望遠の戦闘映像。
「それを明らかにしたのが、この戦闘だ――昨86年12月。P−04に拠点を置く新サイド4駐留艦隊第450戦隊が、巡洋艦1隻と駆逐艦2隻に21機のMS隊を搭載して、戦隊司令の独断でルスラン・フリートが実効支配する宙域――いわゆる『聖域』への侵入を強行した」
「――450戦隊?」
「3ヶ月前……では、やはり、あの噂は――」
 その部隊名と作戦の時期を聞いて、第223戦隊の指揮官たちが静かにざわめく。
 画面上の航路図で部隊符号が動き始めた。同時にその横へ新たな窓が開いて、かなりの望遠で撮ったと思しき戦闘記録映像を流しはじめた。
 450戦隊の3隻がMS隊を展開しつつ、敵宙域へと突進していく。暗礁宙域としてはかなりの速度が出ている。電撃的な侵攻作戦だった。
 そしてRMS−106『ハイザック』を主力としつつ、洗練された機動を見せるRMS−117『ガルバルディβ』の3機小隊を頂点とした21機もの大MS部隊が3隻のサラミス改の周囲と前方に展開していた。
 6機ほどのMS−21F3『ドラッツェF3』から成るルスラン・フリート前哨部隊を一方的に後退させつつ、敵陣深く侵攻していく。
 高機動性を存分に発揮しながら軽快に先頭を切っていくガルバルディβを相手に、ドラッツェF3はまともな抵抗を出来ていない。かろうじて紙一重で背後からの射撃を回避しながら、必死に逃げまどい続けるだけだ。
 それでもドラッツェF3の大推力にはガルバルディβといえども直線では追いつけないが、この暗礁宙域ではそうも行かない。何度も迫られ、危ういところを何度も紙一重でビームを回避する。
 それはもはや戦闘というより、中世貴族の狐狩りのような様相だった。
「第450戦隊はルスラン・フリートの前哨部隊を順調に駆逐しつつ、敵前進拠点を制圧するべく前進を継続した。が、敵はその間に態勢を整えていた」
 敵宙域の奥に、艦影が現れた。
「――マゼラン?」
「いや、艦橋が……では、まさか、あれが――」
 それは連邦宇宙軍の軍人ならば、誰もが見慣れた艨艟の艦影。しかしただ一か所、第一艦橋の形状だけが異なっている。
 巨大な艦体と不釣り合いに小さいそれは、旧ジオン公国軍のムサイ級巡洋艦の第一艦橋に挿げ替えられたものだった。
 ただその一点だけが、見慣れたはずの艦影に不気味な影を落としている。
0011フェニックステイル第32話2021/02/28(日) 22:07:56.94ID:G2Yl2B1i
「ルスラン・フリート旗艦――マゼラン級戦艦『ルスラン』」
 リードにそう艦名を呼ばれたジオン残党軍のマゼラン級戦艦が単艦、第450戦隊に向かって接近してくる。
 連邦軍の3隻を相手にわずか1隻で向かってきたその敵艦から、10機前後のMS隊が発進した。スラスターが曳く光条を見るに、サラミス改級巡洋艦のようなMS用カタパルトではなく、一年戦争末期さながらに艦底部甲板からの自力推進らしい。
 だが、その後の加速は鋭い――わけても先頭に突出する3機小隊が、ひときわ。
 MS隊を発進させた敵艦から、艦砲射撃の火線が走った。マゼラン級戦艦が放つビームは太く、速く、そして鋭く、サラミス改級の3隻をたやすく圧した。艦隊を嘗めるように走った正確な光条に脅され、450戦隊が思わず行き足を乱す。
 ドラッツェ隊を玩具のように追い回していたMS隊の先鋒が、苛立つように進路を転じた。敵艦へ、そしてそのMS隊へと目標を変える。
 スラスターが火を噴き、ガルバルディが虚空に跳ねる。
 その意気揚々と先陣を切っていく連邦軍MS小隊の、派手なパーソナルマーク付きのガルバルディβへと、敵艦から来た角付きのMS−14A『ゲルググ』――あるいはその同型に見える機体が静かに銃口をもたげた。
 互いに同系統のビームライフルが狙いを付けあう。
 一瞬の沈黙ののちに有効射程を割るや、両者は同時に火蓋を切った。
 ガルバルディβ小隊とゲルググ小隊、火力拮抗する両者の間で光の雨がうねって荒れる。瞬きする間に距離が大きく詰まっていく。
 上下左右への激しい回避機動を交えながらも、ガルバルディβの隊長機は巧みに機体を制動し、休むことなく精確な応射を放ち続ける。獣のように躍るゲルググの機動を捉えきれないまま、一発を盾の対ビームコートで弾き、一発が右肩を掠めて機体を揺らす。
 そして両小隊が交錯する瞬間、ゲルググの振るったビーム・ナギナタが、ガルバルディβを機体の中心から上下に分割していた。その両方が光の泡と化して消し飛ぶ。
 同時に、光弾。
 急旋回したそのゲルググがビームナギナタの下から覗かせていたビームライフルの銃口が、ナギナタで斬り裂いた爆光越しにもう一機、小隊僚機のガルバルディβを過たず撃ち抜いていた。2機目のガルバルディβが痙攣したように一瞬震え、そして消し飛ぶ。
「おい、あいつらはペズンの凄腕だぞ」
 小隊長を含む二機を瞬時に撃墜されながらも、尖兵小隊で最後に残ったガルバルディβはさらに加速して距離を開き、ゲルググ小隊からの狙撃を逃れる。逃れようとした。
「P−04付の450はウチより大勢、教導団上がりを6人も引き抜いていましたからね。それが――」
 リードが呆然と呟き、応じた傍らのカミラが言い終えるより早く、戦況は動いていく。
 雲霞のごとく敵機の群れが押し寄せた。
 航路図が、そして編成図が大きく動いていた。第450戦隊を取り巻くようにその周囲から突如として、おびただしい数の敵MS隊が出現していたのだ。
 コロニーの残骸や小惑星に潜んでいたもの、あるいはそれらを偽装したバルーンに隠れながら接近していたもの。そして遠方からコムサイ改級揚陸艇などで駆けつけてきていた増援部隊。
 それらすべてを合計した規模は、第450戦隊を遙かに上回る。航路図へ新たに浮かんだ光点、そして編成図を書き換えて現れた敵MS隊の陣容は、ゆうに80機近い。
 もはや5倍近い戦力差となったその大部隊が一斉に、一個の生物のような連携を見せつけながら450戦隊へと襲いかかった。
 先鋒最期のガルバルディβはビームライフルとミサイルを猛然と応射し、なお軽快な高機動を発揮して足掻く。だが四方八方から降り注ぐマシンガンとビームの弾幕に取り囲まれ、そのすべてからは逃れきれずに右手、そして左脚をもぎ取られる。
 姿勢制御が狂ったところへ突撃してきたMS−06F3『ザクUファドラン』が、ヒートホークを胴体部へ深々と突き立てた。痙攣するようにくの字に折れると、小隊最後のガルバルディβは火球に変じて爆散した。
 劈頭で最強の小隊が全滅したその背景では、烏合と化した残兵が数の暴力に潰されていくだけだった。
 RMS−106『ハイザック』の小隊が無数の射線に追われ、もはや応射すら出来ずに逃げまどう。背後から降り注ぐ火線に貫かれて1機がたちまち爆散。
 後退の一途から急反転して、猛加速で追撃してきたドラッツェF3が閃かせたビームサーベルに両断されて、さらにもう1機が火球と爆ぜる。
0012フェニックステイル第32話2021/02/28(日) 22:09:55.01ID:G2Yl2B1i
 ジオン残党が振るう圧倒的な数の暴力でMS隊が一方的に撃墜されていく中、メガ粒子砲と機銃で狂ったように防御射撃を繰り広げる3隻のサラミス改へと、MS−09RB『ビック・ドム』の編隊が肉薄していく。長大なビーム・バズーカの砲口を向けた。
 雲霞のごとく群がる敵MS編隊によって、第450戦隊の各艦が放つ対空砲火は既に限界まで分散し、飽和させられきっていた。ビック・ドム隊はろくな迎撃を受けることもなく、中距離からビーム・バズーカの狙いを定める。
 巡洋艦の艦砲にも匹敵する大火力の高初速ビームを、矢継ぎ早に撃ち放った。
 艦隊に回避機動の猶予などない。太い光弾が次々と艦体の舷側を捉えては食い破り、3発、4発と立て続けに浴びたサラミス改級駆逐艦の内部に誘爆の炎が走ると、200m近い巨体は内側から膨れ上がり、跡形もなく消し飛んだ。
 周囲すべての僚機を撃墜されて完全に孤立し、武装もろとも右腕を失いながらハイザックが単機、よろめくように逃げまどう。そのハイザックの背中を、一転して猛追するドラッツェF3が狙った。
 MA級の圧倒的な加速力で瞬く間に距離を詰め、ハイザックの背後からビームサーベルを振りかぶる。
 だがその前方にいきなり出現したRGM−79R『ジムU』が、すんでのところでドラッツェの光刃を止めた。
 それはこの戦場に登場した、初のジム系MSだった。
 戦場外からにわかに参戦したRGC−80SR『ジムUキャノン』とジムUの小隊が猛射を放ち、ハイザックを追おうとしていたルスラン・フリート追撃部隊の出鼻を挫く。
 片脚を撃ち抜かれたドラッツェF3が錐揉み状態に陥って離脱し、突っ込んできたザクUF3は肩盾でビームライフルを弾きながら戦闘機動しつつ、果敢にザクマシンガンの連射を返す。
 だがそれ以上はジムU部隊が放つ巧みな射撃を警戒して、生き残りのハイザックを確保しながら後退へ転じた新手を深追いできない。
 戦場の中心では、まだ生き残っていた最後のサラミス改級巡洋艦がいよいよ集中砲火を浴びて閃光を放ち、小さな太陽となって轟沈するところだった。
 単機で2機のガルバルディβを屠った、あのゲルググが信号弾を放った。宙域に鮮やかな華が咲く。
 ルスラン・フリートの大MS部隊は逃げ去るジムU部隊を鷹揚に眺めつつ、整然たる隊伍を組みあげていく。そして凱旋するように、ゆっくりと後退を開始した。
 去り行く編隊の先頭から、ゲルググが頭部を巡らせる。遠方から撮影していたカメラの主を嘲るように、数百キロメートルの距離越しに真正面からモノアイを向けたところで、映像は止まった。
「――以上の戦闘で、第450戦隊は壊滅した。このときP−04外縁警備に就いていたものの、独自の判断で救援に急行したサブリナ・ミケリヤ少尉率いる哨戒部隊が、かろうじて生き残りのMSを1機だけは救出することが出来たのは幸いだった」
 指揮官型ゲルググの望遠映像で止まったままの画面の前に、ソギルが踏み出す。
「敵はほぼ奇襲に近い一個正面への侵攻に、これほどの大部隊による即応態勢を整えていた。つまり、今回出てきた敵の数倍の予備兵力があるということだ。だが、これとて敵の全力には程遠い。実は同時期に、我が軍は他の正面からも『聖域』への侵入を試みていたのだ」
 再び航路図と編成表が動く。
 連邦軍の艦艇数隻が各個に別々の多正面から、『聖域』への侵入を図って前進していく。しかしいずれの正面でも、わずかな時間の間に出撃してきた数倍の敵MS隊による迎撃を受け、ろくに戦闘もせずに追い返されてしまった。
「今回の一連の作戦で確認された敵MS隊の勢力から、我々はルスラン・フリートの現有戦力を再計算した。その結果、我が軍のジムUやハイザックに匹敵する、ザクUF3級の水準以上のMSが、少なくとも500機以上との分析が得られた。
 これは我がP−04に前方展開する連邦宇宙軍部隊が有する、ボール・タイプを除く全MS戦力の3倍近い」
「…………。……は?」
 上官たる准将の面前にある戦隊司令とは思えないアホ面で、リード中佐が呆然と呟いた。だが普段なら上官をたしなめる立場にいるカミラ少佐も、ただ青くなっているだけで何も言えない。
0013フェニックステイル第32話2021/02/28(日) 22:11:16.03ID:G2Yl2B1i
 タニアがソギルの言葉を継いだ。
「現在までに、この新サイド4暗礁宙域から地球圏の各地へと、ジオン系MSの密輸が十件近く確認されています。
 今までに押収・確認されている密輸MSの多くはザクUF3のような新型機ではなく、ザクUF型やF2型といった旧型機が中心ですが、そのほとんどがジオン本国での製造記録を持たないものです。
 旧ジオニック社の正規品ではない、デッド・コピーのレプリカMS――形態は不明ながら、ルスラン・フリートは独自にMSを開発し、一定規模での新規生産を行うだけの能力を有している。そう結論せざるを得ません」
「…………」
 リードがそのまま押し黙る。一年戦争後にも決して絶えることのない「ジオン残党軍」の脅威。旧ジオン公国軍の人員と装備だけではなく、戦後に生産されたレプリカMSがその戦列に加わっている、との噂話は連邦軍でも絶えることがなかった。
 だがこれは、規模の桁が違い過ぎる。かつてのデラーズ・フリートですら、少なくともMS隊の物量はこの水準には遥かに及ばなかったのだ。
 一方でリドリー・フランクス大尉とジャクソン・ヘイズ大尉の二人は溜息を吐きながらも、静かに現実を受け入れていた。
 これらの情報の大半はすでに、パブリク改級哨戒艇で任務中のトラキアへの合流を敢行したサブリナによって密かに、そして細部に至るまで、長くP−04から離れていたトラキアとアルマーズへ伝えられていたものだった。
 トラキア隊にとって今回のブリーフィングは、入手可能なあらゆる情報資料を収集・分析しうる上級司令部から公式に与えられる情報とそれらの「答え合わせ」と、今後、自分たちがそれらを知っていることをどこまで公言できるのか、を測るためのものに過ぎない。
「敵さん相変わらず、絵に描いたように見事な待ち伏せだねえ。教範に載せてやりたいよ」
「ですがサブリナも相変わらずいい仕事をしています。悪いのは男癖だけではないらしい」
 他人事のようにリンとマコトが小声で呟くと、隣に立つキーガンは唇を噛んで俯いた。彼もまたルスラン・フリートの旗艦部隊に殲滅されていった450戦隊のエース部隊と同様、ペズンの教導団出身者だったからだ。
「し、しかし――いくらなんでも、これほどの戦力差など前代未聞です。一年前にヨランダ・ウォレン准将が自ら率いてこられた大規模な増援を受け、今や我が新サイド4駐留艦隊の勢力はかつての比ではないほど充実しております。
 だというのに敵は、かつてのデラーズ・フリートに数倍するMS戦力を整備してきた。……一体どうやって……? ま、まさか。エゥーゴ? エゥーゴを支援しているという月のアナハイム・エレクトロニクスが、奴らに500機の大MS部隊を提供したのかっ!?」
「アナハイムも、そこまで暇ではないと思いますが……」
「とにかくっ! 現状は、まさに危機的状況です! すでに事態は、我が新サイド4駐留艦隊のみで対処できる範疇を大きく超えつつあります! 増援を……ティターンズが約束したという増援部隊の、さらに大幅な増強を要請しなければ!」
「心配はご無用。ティターンズはすでに、一騎当千の『特殊部隊』の派遣を確約しました」
 戦闘記録映像を含む豊富な資料で作られた発表で取り乱すリードに、タニアが明言した。マコトが後列で眉を動かす。
「ほお――」
 一騎当千。タニアが口にした景気のいい言葉に、マコトは七年前のア・バオア・クーで遥か遠方に見た、狂奔し絡み合う閃光の渦を思い出す。
 噂では聞いていた。あの伝説に匹敵するニュータイプ兵を人工的に育成し、同時にその異能に相応しい超兵器を開発しようとする試みのことは。
「ニュータイプ研究所」なる怪しげな組織が地球圏にいくつも乱立し、戦災復興を最大の課題とする戦後世界で多額の予算を獲得しながらこの宇宙にも跋扈していることは、マコトもとうに知っていた。
 ティターンズがその幾つかを抱き込みにかかっていること。そしてルスラン・フリート側もその幾つかを攻撃し、どうやら殲滅に成功しているらしいということも。
0014フェニックステイル第32話2021/02/28(日) 22:12:26.16ID:G2Yl2B1i
「詳細は申し上げられませんが、あの『アムロ・レイ』が最新鋭のニュータイプ専用機に搭乗したうえ、数人がかりで我々の援軍に来るようなもの、とご理解ください。今やニュータイプ研究において、我々連邦軍はジオン残党軍の遥か先を行っております。
 新生ニュータイプ部隊が敵の前衛を突破して中核を撃破すれば、あとの残兵なぞは烏合に過ぎません。我々が団結して最善を尽くせば、勝機は十二分なのです」
「おお! なんだ、それなら安心ですな。そういえば我々は先の戦いでルスランのニュータイプらしき敵にも遭遇しましたが、我がマカッサルの精強なる対空砲火で撃墜してやりました! いやあしかし、昔は気合を入れてやったものですが、あのアムロくんも出世しましたなあ」
 どうでもいい武勇談をここぞとばかりに混ぜ込みながら満面の笑顔を浮かべるリードを前に、ソギルもタニアもニュータイプ部隊の派遣と引き換えに、ティターンズ一般部隊の増援がなくなった件については口を閉ざした。
 その名を聞くだけで、味方にこうも大きな安心を与えてのける。本人が戦場へ出なくなってもう7年以上になるというのに、アムロ・レイのネームバリューは今なお実に凄まじい――マコトは無表情に眼前の光景を見つめていた。
「我々はこのティターンズからの増援部隊を交えて、新サイド4駐留艦隊の総力を挙げた、ルスラン・フリート討伐を目的とする任務部隊を編成します。エゥーゴの戦艦も宙域に入った今こそ、諸君らの一層の奮起を期待します」
 そのエゥーゴ艦がティターンズの1個戦隊を殲滅した情報は第223戦隊相手にはおくびにも出さず、タニアは姿勢を正して冷たくソギルへ向き直った。
「ではソギル准将、よろしいですね? ――じ後の編成及び作戦計画は追って伝えます。各艦はまず整備と補給、そして乗員の休養に努めるように。それでは、解散とします」
 ソギルが頷くやそう宣言して、タニアが踵を返す。リドリーが目の前を通る彼女と視線を合わせないよう目を逸らした。マコトとタニアの目が一瞬合うが、タニアは未練も見せずに視線を切り、そのまま会議室の外へと消えた。
「任務部隊……となると、艦隊決戦ですか。いずれにせよ、まずは本艦MS隊の損耗補充ですな」
「マイデン大尉は全治1か月と聞いたぞ? 大破2機に中破4機、機体とパイロットの都合、どう付けたものか」
 リードとカミラも席を立つと、キーガンもその後ろに続いて退室していく。会議室には手元の資料を眺めるソギルと、トラキア隊とアルマーズ隊だけが残った。
 扉が閉まり、場に残ったのが一年戦争以来の『身内』だけになったところで、ソギルはふっと破顔してその場の四人を見渡した。
「――お帰り、諸君。P−04から離れたこの半年間、皆、本当によくやってくれた」
 かつて一年戦争当時、この場の全員がトラキアに乗って戦った。
 ルウム戦役で惨敗し、かろうじてルナツーへ後退した連邦艦隊と、そこに収容されたわずかなルウム難民。負傷し重体に陥ったソギル大尉は大手術の末、奇跡的に回復するや行動を開始した。
 ソギルは自ら難民たちから志願兵を募って部隊を編制、混乱するルナツーで完成間近だったサラミス級巡洋艦トラキアを受領した。
 それが第223戦隊――トラキア隊の始まりだった。
 そしてトラキア隊は連邦軍の他部隊同様にMSを持たないまま、圧倒的優勢を誇るジオン公国軍を相手に地獄のようなゲリラ戦を繰り広げた。
 トラキアは単艦ソギルの指揮下、ジオン艦隊の目を巧みに掻い潜り、地球圏の戦場を縦横無尽に泳ぎ回った。あらゆる手段を使ってジオン艦艇を撃沈し、あるいは接舷して白兵戦で制圧。
 劣勢の連邦宇宙軍がジオンに仕掛けた各種のゲリラ作戦の中でも、トラキア隊は傑出した戦果を挙げていった。
 地球侵攻作戦を展開するジオンの伸びきった後方連絡線は大いに脅かされ、事態を重く見たジオン宇宙攻撃軍は、あの『赤い彗星』までもを受け身の対ゲリラ戦へ投入せざるを得ない状況に至る。
 だが単艦とは信じられないほどの戦果を挙げていながら、トラキア隊は無名のままであった。理由はいくつかある。
 一つは、手の内を隠したため。
 徹底して存在を秘匿しながら行動し、いったん襲った敵は確実に殲滅することで証拠隠滅を徹底。トラキア隊は終戦までジオン軍に対してその正体を隠し通した。
 戦後に押収された公国軍関係部署の文書からも、トラキア隊の活動を認知していたと思しき記録は見つからなかった。
 ただトラキア隊が当時活動していた宙域で、「触雷」「原因不明の事故」などによって喪失したMSや艦船の記録が残るのみである。特殊作戦部隊として考えれば、無名は有名に大きく勝る。
0015フェニックステイル第32話2021/02/28(日) 22:13:54.26ID:G2Yl2B1i
 もう一つは、連邦軍内部の力関係。当時の連邦軍は現在にも増して著しく硬直した、教条主義的な組織であった。艦隊主力がろくな戦果も挙げられないままルナツーに逼塞していた状況下である。
 どう考えても主流とは言い難い、怪しげな難民上がりの部隊による不透明なゲリラ戦での不可解な勝利など、とうてい組織として誇れるべき戦果とみなされる状況にはなかった。ただ薄気味悪いだけの存在とすら見なされていた。
 そして何より決定的なのは、誰もが沈黙を守ったためだった。
 トラキア隊は一兵卒に至るまで、誰もが堅く秘密を守った。ソギルという強烈なカリスマに率いられ、年端もいかない少年少女を多く含む新兵を主力としながら鉄の規律を持って戦ったトラキア隊は、当時の連邦軍にとって明らかな異端だった。
 その異様さに脅威を感じた何人かの士官が団結の背景を探ろうとしたが、その結果は芳しくなかった。激しさを増す戦闘の中である者は戦死し、またある者は事故死して、そうした試みは自然消滅していった。
 だから結局、今でも部外者には知られていない。トラキア隊がそこまでして戦い、果たそうとした真の目的が何だったのかは。
 一年戦争が終わり、トラキア隊が旧ルウム暗礁宙域でジオン残党軍と戦い、のちにルウム農協となった難民の復興活動を支援してきた戦後の7年間も、それは変わらなかった。
 連邦軍内部における、トラキア隊の扱いも変わらなかった。ジオン残党の巣窟と化した暗礁宙域でわざわざ危険な任務を買って出て、旧式装備のまま戦後もひたすら戦い続ける、腕は確からしいがかなり頭のおかしい連中。
 彼らを知る連邦軍の大半から、トラキア隊はそう思われていた。
 だからこの連邦中央の目も届かない暗礁宙域で敵を討ちつつP−04という城を築き、彼らは静かに爪を研ぐことが出来ていたのだ。
 ――半年前、突如として予備役から復帰した老将、ヨランダ・ウォレン准将がP−04へと大軍を率いて来るまでは。
 ヨランダはそれまでソギルの支配下にあったP−04に介入し、そこかしこに連邦軍中央の橋頭堡を築いて「目」を入れた。
 指揮系統を抑えてトラキア隊であった第223戦隊を改編し、ソギル子飼いの歴戦艦であったトラキアとアルマーズをP−04から引き離した。
 ヨランダの率いてきた大軍は不気味に存在感を増しつつあったルスラン・フリートに対する地球連邦の備えであると同時に――あるいはそれ以上に、ルウム農協と結びついたソギル一党を抑えるための憲兵であることは誰の目にも明らかだった。
 だからトラキアとアルマーズはこの半年、新サイド4暗礁宙域で行動していながら、P−04へは近寄ることも許されなかったのだ。
 だが今、その構図が崩れた。他ならぬ宿敵、ルスラン・フリートが見せた、予想を大きく上回る成長によって。
「リドル曹長のことは残念だった」
「また置いていかれてしまいました」
 淡々とソギルに答えながら、ヘイズとリンはその瞳に黒い炎を灯していた。マコトはよく覚えている。それは一年戦争の日々にトラキア隊の誰もが共有していた、復讐の暗い炎だ。
「ですが今、我々はここに帰ってきました。また一つ『約束の日』は近づいた。約束を果たすことが出来れば、リドルに――今まで倒れていったすべての同士に報いることができます」
「リン君、逸ってはならない」
 ソギルは静かに呟いた。傷面の中で剥き出しになった異形の右目とともに、優しく、諭すように。
「必ずや、我々は約束を果たす。しかしまだ、今日ではない。明日へと繋ぐ道をひとつひとつ、築き上げていかねばならない。――諸君。これからも、共に歩んでくれるな?」
「もちろんです、閣下」
「…………」
 ヘイズとリン、そしてリドリーとマコトが頷くと、ソギルは満足げに微笑んで視線をリドリーとマコトへ向けた。
「さて。トラキアにはこのP−04で補給を終えたのち、MS格納庫の改修工事を予定している。格納定数を現行の4機運用から、マカッサルと同等の6機運用に移行してもらう」
「……!」
 寝耳に水の発言に、マコトが思わず眦を上げた。当のリドリーもさすがに予想外だったのか、押し黙ったまま上官の顔をじっと見返す。
「リード君の方には後で私から話を通しておく。機体の手配と人選についても問題は無い。長らく待たせてすまなかったが、ようやく予算と工廠の目途が付いてね。モジュールはすでに揃っているから、工期は10日ほどの予定だ。
 フランクス大尉。その間、乗員諸君にはゆっくりとP−04の休暇を堪能してもらいたまえ」
「い、いえ。結構な話ではあるのですが、ずいぶんと、その……急な話ですな」
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