ガンダムヒロインズMARK ]YI
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0001名無しさん@ピンキー2020/12/01(火) 01:32:40.07ID:P3dXRXkh
語るも良し!エロパロ書くも良し!
ガンダムの娘ッ子どもで妄想が膨らむ奴は集え!

ガンダム以外の富野作品やGジェネ、ガンダムの世界観を使った二次創作もとりあえず可!
で、SSは随時絶賛募集中!

■前スレ
ガンダムヒロインズMARK ]Y
https://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1455334594/

■関連スレ
ガンダムビルドファイターズでエロパロ
http://nasu.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1381888018/
0105名無しさん@ピンキー2022/06/13(月) 12:31:50.42ID:qO4lH6gZ
Vガンは敵味方問わず女性が死にまくるので捗る
ボンボンで連載してたマンガだとシュラク隊が、より美人に描かれ無駄に(精神体で)裸になり、壮絶な死を遂げるので良かった
0106名無しさん@ピンキー2022/06/13(月) 14:20:56.64ID:qO4lH6gZ
ガンダムWは特に女性キャラ死んでなさそうだなと思ったら五飛の奥さん死んでるやん! しかも14歳で!
屍姦したら五飛に殺されそうだけどしたい
0107名無しさん@ピンキー2022/06/13(月) 14:25:21.96ID:qO4lH6gZ
ガンダムXだとジャミルの上官のルチル(美女)が精神崩壊させられたあげく生体部品にされて
一時的に復活してジャミルと心を通わせた後に絶命してるので良い
0108名無しさん@ピンキー2022/06/13(月) 14:46:26.89ID:qO4lH6gZ
∀ガンダムで戦後隠棲しながら最期の時をロランに看取られたディアナ様を味わいたいけど
「ディアナの尻」って言われただけでキレるハリーが殺しに来る
0109名無しさん@ピンキー2022/06/13(月) 19:16:51.84ID:qO4lH6gZ
ガンダムSEEDだと、
フレイはいいお嬢様だったのに心身ともにボロボロにされちゃったから生き残っても苦しいだけだろうからあれで良かったのかも

ナタルは家系もあって優秀な軍人目指して生きてきただろうから恋愛こそしていても身体を許したことはなかったかもしれない 良い

アイシャは美人だし、バルトフェルドが生存してることを考えると遺体はきれいなものだったろうから屍姦したい
0110名無しさん@ピンキー2022/06/13(月) 20:53:56.80ID:qO4lH6gZ
ガンダムSEED DESTINY
マユは9歳かぁ でもかわいいし片腕もげちゃったけど身体は使えそうだからシンの目の前で抱いてあげたい

ステラも弄びたい、シンの前で
あれこれ薬剤投与されたりなんだりしてるので裸体に傷とかありそうだけどそれも良い

ミーアの遺体はアスランの目の前で辱めたいよねやっぱり
0111名無しさん@ピンキー2022/06/14(火) 17:59:30.13ID:12GFVOxJ
ガンダムAGE
ユリンちゃんはかわいいし辛い思いいっぱいしてるから幸せになってほしかった

レミはオブライトさんに「私達の家」に連れ帰ってもらえたところを抱きたい オブライトさんの眼前でな!

フラムちゃんは正統派ヒロインなのでゼハートさんの死体の前で抱きたい

ルウちゃんは火星で風土病に冒されて死んじゃった娘かわいいので生きてるうちに死ぬで犯したい
0112名無しさん@ピンキー2022/07/02(土) 11:38:13.66ID:U8n1EVWW
ISAPが逝って14年か
余りにも狂信者達に荒らされすぎた…
0113名無しさん@ピンキー2022/07/05(火) 00:48:37.01ID:lVc+h7yC
ま、待ってくださいよ! カテジナさーん! ヒロインが非業の死を遂げるのがガンダムじゃないですかー!
0114名無しさん@ピンキー2022/09/23(金) 08:13:55.50ID:KdQ9DaA9
『だらだらと過ごす』
APEX→ガンダムエボリューション完全初見
(4:22〜放送開始)

ttps://www.twitch.tv/kato_junichi0817
0115名無しさん@ピンキー2022/09/23(金) 23:15:56.97ID:kETluj/m
『ガンダムエボリューションやる』Take2
(20:43〜放送開始)

ttps://www.twitch.tv/kato_junichi0817
0117フェニックステイル第37話2022/09/25(日) 08:55:27.81ID:uPXO0s6n
 深夜である。薄暗い廊下に人気はなかった。
「…………」
 その男はベンチに腰掛けたまま、組んだ両手の上に顔を載せたきり、じっと静かにうなだれていた。その姿勢はどこか、どこか遥かな遠くに在る何者かへと祈りを捧げているようにも見える。
 一人そこに座りこんでから、男はもうだいぶ長い時間ずっと待ち続けていた。その頭上では『施術中』と書かれた看板が点灯していて、廊下に男の影を落としている。
 そうしたまま、どれほどの時が流れたのか――やがて、その看板から静かに光が落ちた。
「…………!」
 緊張を伴った表情で、男がびくりと弾かれたように腰を浮かす。それからさらに数分間、無限にも思えるほど長い時間が流れた。
 そしてゆっくりと、『手術室』――いや、『分娩室』のドアが開いた。
「お父さん、おめでとうございます! 元気な女の子ですよぉ〜」
 耳をつんざくのは、生まれたばかりの赤子の泣き声。しわくちゃの顔で泣きじゃくる赤子を白いバスタオルに包みながら、白衣のウェンディ・アーデル曹長は笑顔でロブ・サントス伍長に差し出してきた。
「…………」
 ドアの向こうに設えられたにわか造りの分娩室もどきの中で、あの銀髪の爆乳美少女が出産したのだ。つまり、この赤子は「自分の娘」ということになるのだろう。
 だが、果たして彼女が自分に似ているのか、それどころか母親の方に似ているのかどうかさえ、ロブにはまったく判別が付かなかった。
 下宿先の部屋でなぜかスーツケースの中から出てきた彼女と交わり、押し倒された勢いのままその膣奥に精を放ってからわずか数分間で、彼女の腹は臨月の妊婦のごとく膨れ上がった。
 さらに彼女は数時間後には産気付き、なんとかこのプラント内医院までたどり着いたところに、改修工事中のサラミス改級巡洋艦『トラキア』から急遽駆けつけたウェンディの支援を得て、ようやく分娩が執り行われたのだった。
「いやー、かわいい女の子ですねぇ! どう、ロブ。もう名前は考えたの?」
「……え……? いや、……あの、その、……まだ、……はぁ……」
 ロブに父親としての実感など何もない。すべての展開があまりに早すぎた。
 改修整備に入る母艦を離れてP−04農業プラントで滞在することになった、ミケリヤ家の下宿部屋に届いていた不審なスーツケース。そこから出てきた謎の淫乱美少女との突然の情事がこんな形に帰結するなど、いったい誰が想像できたというのだろうか。
「だからあれほど名前は先に考えておけ、と言っただろう」
 ただただ魂が抜けたように応じるだけのロブを咎めるように、ウェンディの背後から出てきた『助産師』――マコト・ハヤカワ准尉は大仰なため息をついてのけた。
 マコトが出産の現場に立ち会うのはこれが初めてではないが、それでも彼女の知識と技術は限られている。ウェンディの助手として分娩を手伝った彼女の顔には、色濃い疲労が浮かんでいた。
 ――疲労が浮かんでいるのは、特に何もしていなかったはずのロブも同様なのだが。
「あーらら。ロブ君、とうとうパパになっちゃったねぇ……。年貢の納め時ってやつだよ。まあ、悪いようにはしないから、さ……。これからの『心の準備』、ちゃんとやっておきな?」
「……はあ……」
 ひたすら元気に泣きじゃくり続ける赤子の重みを両腕にしばし確かめると、なお心ここにあらずの体でロブは答えた。マコトはため息を吐く。
「まあいい……私と違って、君は今日も勤務だろう。顔を洗って、シャッキリし直してから中央基地へ向かえ。エイムズ軍曹も同行するとはいえ、いま出撃することになればトラキアMS隊を指揮するのは君なんだからな」
「はあ……」
 最後までとことん覇気のない表情のまま自分の「娘」をウェンディへ返すと、ロブはそのまま、棺桶から這いだしてきた死人のような動きで元来た廊下を帰っていった。
 ほぼ一睡もせずに翌日も連勤とは、気の毒にな――マコトはそう思いつつロブを見送る。
 だが、それはサラミス改級巡洋艦『トラキア』のMS格納庫拡張工事に伴う業務に従事しながら、マコトの連絡一つでここまで飛んできて産科医に化けたウェンディについても言えることだった。
 そのウェンディをちら、と横目でマコトは見やる。
0118フェニックステイル第37話2022/09/25(日) 08:57:15.77ID:uPXO0s6n
「ウェンディ。今回の件、どう思う?」
 幽霊のようなロブの気配が廊下の彼方へ遠ざかると、マコトは率直な質問をウェンディに向けた。
「あー……うん。まあ、今までにないパターンだ、ってのは分かる。分かるよ。しかしねぇ、……中出し一発でほんの数分後にお腹が爆発。それから一日経たずに元気な赤ちゃんがおんぎゃあ、なんてさぁ……コレ一件だけじゃ、まだなんとも言えんよね」
「……まあ、……そうだな」
 すべてが特殊すぎた。
 今回ロブと彼女が辿った展開は、二人が今までに見てきた『因子』によるものはまったく異なっていた。
『力』を発動させて死地から生還した女は、気絶から覚醒した後、例外なく発情して手当たり次第に男を求める。発動時点で女はすでに排卵しているらしく、そのまま無責任に性交すれば、極めて高い確率で受精し――経験則的にはほぼ確実に、妊娠する。
 そこまではいい。そこまでは分かっている。
 だが発動後の性交からの膣内射精で妊娠しても、そこから先は普通のはずだ。受精から着床し妊娠に至るまでの時間は、一般的な場合と大差ない――少なくともマコトたちは、今までの経験からそう認識していた。
 では、今回のこれは何だ?
「だけど、こう考えることも出来る。もともと『力』の持ち主はビームの直撃を食らおうが、至近距離から核爆発に飲み込まれようが、そのまま宇宙に裸で放り出されようが、致命傷や後遺症はおろか、かすり傷の一つも負いはしなかった。
 ――だけどそもそも、その不死身と言える異常な力の源泉が、何か『時空』に関わるところから出ているとしたら?」
「時空……? あの『力』が実は時間と空間をねじ曲げるような代物だから、ビームや核爆発を簡単に跳ね返し、宇宙を裸で漂流しても無傷で生き残れていた、ということか……?
 その時空をねじ曲げる『力』が今回は、ロブの精子か彼女の卵子か、あるいはその両方に作用した……と?」
「分からんけど、……今ある手元の材料からは、とりあえず仮説としてそう考えとくしかないでしょ。今までと違う展開になったのは、ロブが変なのか、あの子が変なのか。それとも何か、他に別の変数があるのか……それは分からない。
 ……科学的にはここから少しずつ条件を変えながら『実験』を重ねて、仮説を検証していくところなんだけど――」
「この件ばかりは、そういうわけに行かないからな」
 マコトの表情は硬い。そしてウェンディも諦め顔で苦笑するばかりだった。
 ある女性が『因子』の保持者なのか否か、その有無を事前に判別するための現実的な手段は、少なくとも彼女たちの手元には無い。現状ではそれが分かるのは、持ち主が即死級の物理ダメージを受けた後だけだ。
 そして同時に、一度発動したその『力』が、その後も必ず発動するという保証も、無い。
「ただ少なくとも、今回の件で彼女の身分はクリアになったね」
「ん……?」
「ロブが以前に『トラキア』の寄港先で作った恋人が妊娠。やがて精神的に不調をきたし、ロブを追ってP−04まで流れてきたところで、とうとう産気付いた――
 もしこれから彼女の存在を隠しきれなくなっても、そういうカバー・ストーリーを仕立て上げられる。
 まさか出産直前の妊婦が数日前までジオン残党軍のMSパイロットをやってたなんて、誰も想像できないだろうからね。――適当な戸籍、後で業者から仕入れておくよ」
「なるほどな。あの赤子の存在と出産の事実を使えば、彼女には足を洗わせられる。今までのように、彼女の存在そのものを完全に地下へ隠し続ける必要もなくなるわけだ」
「彼女自身がうまく乗ってくれれば、だけどね――」
 もし彼女が悪名高き『大ジオン仏道』から得た捕虜であることが明るみに出れば、軍当局が彼女を尋問することになる。そうなれば今まで隠し通してきた『力』の秘密も、軍の知るところとなってしまう。
 それだけは、絶対に避けねばならない。
「しばらくの間は多少変な言動があっても、産後で精神的に不安定ってことにもできるしね――そうは言っても、いずれは彼女自身にもおかしな言動を控えてもらって、静かにしてもらわにゃならん。脱走や反逆されてもマズい。
 彼女がおとなしくこのまま立派なママになって、私らの言うことに従ってくれればいいんだけどね」
「どうかな。何しろあの『大ジオン仏道』だからな……いずれにせよ、しばらくはこのまま監禁しながら経過観察というわけだ」
 マコトは壁に背中を預け、天井を見つめた。P−04基地司令、ユン・ソギル准将から直々に言い渡されたマコトの『強制』休暇はまだ一週間以上残っている。それだけの時間の間に、これから何が出来るだろうか。
0119フェニックステイル第37話2022/09/25(日) 08:58:56.39ID:uPXO0s6n
「「ふあ……」」
 思わず出てきたあくびが、二人の間で同時にハモる。女たちは目を見合わせて笑った。
「とりあえず、……この子だな」
「そうだねぇ。見た感じ、健康そのものだけど……受精卵からたった一日でこうなったこの子がこれからどうなるのかも、しっかり見ていかないとねえ」
「貴重な実験材料というわけだ。――あの子と同じように」
 話がまとまったところで、マコトは皮肉げに言うと赤子を抱いて腰を上げた。分娩室へ入っていく。
 銀髪の美少女が大きくM字に脚を開いた姿勢のまま、手足を分娩台へ拘束されていた。赤子をひり出したばかりの膣は真っ赤に大きく開き、空洞になった腹もまだ膨らみきったままだ。
 さらに大きくぱんぱんに張った二つの爆乳の頂には、かつて二人が彼女を捕らえて凌辱していた間の上品可憐な薄桃色など見る影もなかった。無残にどす黒く変色し、ぶつぶつの浮いた真っ黒な乳輪から溢れた母乳が、白い肌を伝い落ちている。
 ロブの話を聞く限り、彼女は昨日まで処女だったらしい。今回が初産だったのであろう少女は、虚ろなままの瞳をマコトの腕の中の赤子へ向けた。
「……、して……」
「ん?」
出産を終えたばかりの憔悴しきった表情の中で、なお可憐な唇が言葉を紡ぐ。
「私の、赤子、……かえして……」
「ふむ」
 分娩台に拘束された母親からの要求に、マコトは数歩の距離で足を止めた。無表情のまま、産後大きく開けた膣を剥き出しにしたままの少女に語りかける。
「君が今まで『大ジオン仏道』の名の下に何百人、あるいは何千人、何万人を殺してきたのかは知らないが――」
「…………」
 冷たく投げ下ろされてくる言葉に、少女の表情が硬くなる。だがマコトは言いながら、少女から両腕の拘束を解いた。
「なっ――」
「その子に罪はない」
 そしてマコトは自由を取り戻した腕に泣きじゃくる赤子を渡し、その口元を母乳を溢れさせる黒い乳首へと導いてやった。
「んっ……」
 泣きわめいていた赤子がまだ盲目のまま、頬の感触だけで乳首の位置を探り当てる。そのまま口に含んだ。
 少女の乳輪は乳房に比例して大きく、赤子の小さな口には収まりきらずに、乳輪からにじみ出た母乳はその頬を伝い落ちては濡らしていく。
 だが潤沢な母乳は赤子の唇から吸われるたびに後から湧き出して、その喉奥へごくごくと落ちていった。
「あっ、……あああっ……」
 存外に強い力で我が子に乳首を吸われ、分厚く大きな乳肉にたっぷり貯め込まれた母乳を吸い出されていく快感に身を委ねながら、少女の表情は急速に慈悲を帯びていく。
「ああ、……私の、……娘……」
「人は皆、こうして生まれる。君がこれまで『完全成仏』させてきた者たちも皆そうだ」
「…………」
「私たちは、お前たちジオンのようにはならない。だから君が『大ジオン仏道』の名の下に犯した罪は、これからしっかり償ってもらう。まずはその罪無き赤子を、健やかに育てあげるところから、な」
 分娩台のキャスターからロックを外すと、マコトは授乳する母子を載せたまま押し出しはじめた。そのままウェンディが開けた扉をくぐり、再び彼女を監禁するための私設独房へ向けて進んでいく。
「敵の男に捕らわれて犯され、孕んだ娘を産む。それが力を持ちながら戦場に散った女たちの、宿命ということか――」
 誰にも聞こえない小さな声で、マコトはひとり静かに呟いた。
0120フェニックステイル第37話2022/09/25(日) 09:00:29.00ID:uPXO0s6n
「アシュリー・ザ・プー」
 P−04中央港湾からほど近い公園区画。緑と光に溢れた爽やかな空間の一角には、ベンチに横たわる少女の全身から溢れ出して地を這う、真っ黒な邪気が澱んでいた。
 RB−79『ボール』など連邦軍から払い下げられた旧式機動兵器を装備し、宇宙での警備業務に携わる民間警備会社――ヴィック・ウェリントン・エアロスペース・セキュリティ社ことVWASS(ヴィワス)。
 そのVWASSに所属するボールパイロットの少女、アシュリー・スコット予備上等兵は私物一式の入ったスポーツバッグを近くの地面に放り投げたまま、ベンチに横たわりながら溶解する不吉な不審物と化していた。
 まず、オーラが腐っている。
 普段から考えの浅い言動と落ち着きの無い行動にさえもう少し気を付けていれば、相応に可愛いと言われることもある程度には整った顔立ちは、今やどす黒い陰気さ一色に押し潰されていた。
 それなりに人もいる公園区画内で、彼女の周りだけが何かに呪われたように人を避けている。
「アシュリー・ザ・プー/ジョブレス・アンド・ユースレス……」
 呪言の肩書きが増えた。
 虚ろな瞳のまま、少女はひたすら呪言ばかりを垂れ流していく。
 彼女がここまで腐り落ちてしまったすべての原因は昨夜、直属上司――テッド・バートン警備班長とVWASS本社の通話を立ち聞きしてしまったことにあった。

『えっ……!? ちょ、ちょっと待ってください。どういうことですか、課長!』
『だから、いま言ったとおりだ。『キャリフォルニヤの悪夢』だったか? 戦闘記録は見させてもらった――やられたものだな。今後、君の班は再編だ。乗機を破壊されたのはスコット予備上等兵だったな。
 現在の情勢下で換えの機体は用意できん。彼女とは現時点を持って契約を解除。給与を精算し、現地解散せよ』
『そ、そんな! アイツは勇敢に職務を果たしたんです! なのにこんな出先で急にクビにして放り出せなんて、そんな――』
『情勢と方針が変わったんだ! 予算圧縮だよ。機体の無いパイロットを維持しておける余裕は、今のウチにはない。だいたい彼女、いくら今の時代でも若すぎるだろう。
 あの若さなら、仕事なんてほかにいくらでもある――それとも君、他の誰かを選んでクビにしてみるか?』
『そ、それは……っ……』
『…………』

 聞いているうちに頭が真っ白になって、気づけばアシュリーは手荷物一式をまとめてここにいた。
 目が完全に死んでいる。
 アシュリーが訓練を終え、ボールに乗り始めてからまだ一年に満たない。だが、あの球形の機動兵器は、自分の手足となって動いてくれていた。
 ボールに手らしきものはあっても足などない――ついでに首もない――が、そんなことなど気にならないくらいに、彼女はボールに馴染んでいたのだ。
 そのボールが、無い。
 もう、ボールに乗れない。
「『玉無し』アシュリー……デッドボールで、ノーボール……」
 行先不明の意味不明な呪詛ばかりを再び重ねながら、しかし自身の行く先も思いつかずに、少女はただ目と口を開けたまま公園の天井を眺めている。
 どうすればいいのだろう。せっかく連邦軍の素晴らしいジムU女性パイロットに出会って、師匠と仰ごうとしていたのに。
 確かに自分にあんなに立派なバストはないが、そもそも機体がなければ、どうすることも出来ないではないか。
 何なのだ、これは。どうすればいいのだ。とりあえず、豊胸でもすればよいというのか。
0121フェニックステイル第37話2022/09/25(日) 09:03:00.50ID:uPXO0s6n
 その異様なオーラを気味悪がって誰ひとり近付こうとせず、公園管理者なり官憲なりを呼んでくるべきではないかとひそひそとざわめくばかりの来客たちから遠巻きにされていた少女の頭上へ、にわかに人の影がかかった。
「…………?」
 逆光で、顔はよく見えない――しかし、アシュリーとほぼ同年代の少女のようだ。
 洒落た私服に亜麻色の長髪をなびかせ、なかなかスタイルが良い。背後にもう二人、やはりほぼ同年代と思しき少女たちを従えている。
 女子三人組のリーダーらしき美少女は目を眇めると、直球の言葉をアシュリーへまっすぐ投げおろしてきた。
「あの、さ。――VWASSをクビになったボール乗りの娘って、アンタ?」
「ぐふっ!!」
「ちょっ、ちょっとフィオ!!」
 その少女のダイレクトな物言いが、まだ開いたばかりのアシュリーの傷口を深く抉った。
 悶絶したアシュリーを前に、もう一人の少女が慌てて声をかけた少女の腕を掴んで割り込む。
「い、言い方がストレートすぎるよっ。何もそんな、傷口に塩を塗り込むような言い方で行かなくても――」
「お姉ちゃん、むちゃくちゃだよ! なんでいつもそんなに機雷原をまっすぐ突っ切るような最短距離ばかりを行こうとするのっ」
 豊満な少女と小柄な少女の二人が、彼女たちがフィオと呼んだ少女へすがりつくようにして諫めにかかった。だがフィオは二人に耳を貸さず、あくまで強気のまま言葉を続ける。
「ふん。その分だと噂通り、図星みたいね。ねえ。行くところの当てがないなら――あなた、私のところでもう一度ボールに乗ってみない」
「えっ……?」
 ボール。
 その言葉に、ぴく、とアシュリーの耳が動く。
 それから、ごろん、と体ごと転がって少女を向いた。何か信じられないようなものでも見るような目で、ベンチからフィオを見上げている。
 公園区画天井の照明を背負って立つ少女は、アシュリーからは後光が差しているかのように見えた。
「私はフィオ・アレント。このP−04一帯の暗礁宙域で活動してる、女子だけで組んだジャンク回収業者チームのリーダーよ。今やる気と根性のある、ボール乗りの女の子が必要なの。
 人並みには、給料も出す――あんた。もしやる気と根性がまだあるのなら、ウチに、来なさい」
「…………」
 ぱちぱち、とアシュリーの瞳が瞬く。しばし二人の少女の視線が交錯したまま、時間が止まった。
「……また、ボールに、……乗れるの……?」
「任せて。機体はある」
「……いつ、……乗れるの……?」
「出来るだけ早く。準備が出来たらすぐに。慣らし運転なら、今日これからでもいい」
「…………」
 ねずみ花火のような瞬発力でぎゅるんと回転し、ごろんっ、とアシュリーが地面へ転がり落ちた。
「ひいッ」
 小柄な少女がアシュリーの奇行に怯えた悲鳴を上げながら跳び退いたが、フィオは一歩も引かない。芝生の上を生きた屍のように肘で這いずって迫りながら、アシュリーがフィオのズボンの裾を掴む。
 凛々しく毅然としたフィオの眼差しに視線を重ね返しながら、靴のつま先近くで呟いた。
「アシュリー・スコット、……そのボール、乗りたい」
「オッケー。交渉成立ね」
 フィオが屈んでアシュリーの手を取り、ぐっと力強く引いた。その場に立ち上がらせる。
「港湾区画に私たちの事務所があるの。まずはそこへ行きましょう。――よろしくね、アシュリー」
0122フェニックステイル第37話2022/09/25(日) 09:07:22.46ID:uPXO0s6n
 P−04中心岩塊を中心に、自転車の車輪とそのスポークのように広がる円環軌条。その車輪に相当する円環部に連なるプラント群のひとつから、3機のRGM−79R『ジムU』が発進した。
 第113整備場から出たトラキアMS隊のジムU3機は、誘導に従いながら中心岩塊内の中央基地へ進入していく。
 湾口周囲の宙域で哨戒に当たるMS隊を通り抜けて軍港区画内に入る。エアロックを抜けた基地施設内部では、サラミス改級の巡洋艦や駆逐艦、そしてコロンブス級の補給艦や輸送艦、さらには軽空母型までが縦横に接岸していた。
 83年の観艦式以降の基準なら、停泊中の艦隊だけでも相当の規模だといえた。壮観ではあったが、ここに母艦トラキアの姿はない。改修工事はおそらく別の区画で行われているのだろう。
 基地管制側から指定された場所にMSを駐機して降り、徒歩で人員ゲート前へ向かうと、その周囲にも4機のMSが警戒に就いていた。ルウム農協所属の予備役部隊らしきジムUが2機と、現役部隊のRMS−106『ハイザック』が2機。
 いずれも武装したまま左右に分かれて、それぞれがあたかも互いに睨み合うようにしながら屹立している。
「基地の内部にまで警備のMS隊を常駐させられるなんて、よっぽどMSが余っているのかな……」
「気を付けた方がいいよ、クライネ伍長」
 ヘルメットを外して何気なく呟いたところを同僚のシュン・カーペンター伍長に小声で呼びかけられて、アイネ・クライネ伍長は振り向いた。
「もう聞いてると思うけど……ここの連邦軍の事情は、いろいろと複雑なんだ」
「うん、聞いてる。『中央派』と『現地派』だよね」
 明快に回答したアイネにシュンは一瞬面食らい、それから苦笑しながら呟いた。
「その言葉も、あまり大きな声では言わない方がいいよ。特にこの辺りではね。かなり根の深い話だから……」
 言いながら、シュンが左右で頭上を覆うように立つジムUとハイザックを交互に一瞥すると、アイネも察して押し黙る。先日接触し、ついには交戦にまで至った『エゥーゴ』のことを思い出す――彼らも地球連邦軍だった。
 地球連邦軍に内部分裂など、無い。
 そういう建前が必要なことは、若いアイネにも理解できてはいた。
 壊滅した旧サイド5の復興に一年戦争中から長く尽くしてきた、同地難民出身者が主体の旧トラキア隊を中核とする『現地派』。
 その現地派がルウム農協とともに力を蓄えた頃、不意に出現した強敵であるジオン残党軍「ルスラン・フリート」への対抗を名目としてP−04へ地球連邦軍中央から『進駐』してきた、ヨランダ・ウォレン准将率いる『中央派』。
 両者が対立するのは、確かに理屈としては理解できる。だがルスラン・フリートとエゥーゴそれぞれの脅威を最前線で感じてきたアイネにとっては、そんな対立は脇に置いて共闘すべき、としか思えないのだった。
「本当の敵を見失ったままで、市民を守ることなんて出来ないのに……」
「じゃあ、私は入門手続きをしてくるから。……カーペンター伍長、そこの役立たずをよろしく」
「了解です、エイムズ軍曹」
「…………」
 アイネ機の補助席に便乗してきたマリエル・エイムズ軍曹が、この場の4人の最先任としてゲートの受付へ向かった。
 トラキアMS隊のパイロット中での最先任であるロブ・サントス伍長は寝不足なのか何なのか、原因はさっぱり分からないがとにかく腑抜けたようになったままだった。まだヘルメットすら外していない。
 昨日の夕食頃から前触れなくこんな感じになっていたが、一晩過ぎても治っていない。眠れなかったのだろうか。
 最先任のマリエルが去り、ぱっと見では廃人同様のロブと3人で残されると、シュンとアイネの2人は押し黙った。
「大ジオン仏道」に撃墜されて宇宙を漂流した後の興奮から、本来あるべき何もかもをすっ飛ばし、理不尽に欲情したアイネによっていきなりの情事から入った出会い。
 民間貨物船を襲った「キャリフォルニヤの悪夢」、そしてエゥーゴのジム改もどきとの戦い。一対一の模擬戦訓練。不審船事件に端を発する「大ジオン仏道」とルスラン・フリートとの戦い、エゥーゴとの再戦――。
 立て続けに訪れた濃密な実戦で互いの背中を預け合う中で、アイネは自分の奥でシュンに対する不思議な感情が育っているのを感じていた。
 そしてルウム農協所属の美少女パイロット二人がシュンに絡んできたとき思わず前に出てしまったことが、今や何より強く彼女の想いを裏付けてしまっている。
 同時に、死と隣り合わせの環境で他者の命をも預かる職業軍人として、身近な戦友に対してこんな感情を抱くことは本当に正しいのだろうか、という思いも。
「え、えっと……」
0123フェニックステイル第37話2022/09/25(日) 09:09:01.07ID:uPXO0s6n
 ロブが実質的に死んでいるためもはや二人きりに等しい空間で、アイネは次の言葉に迷って狼狽える。こうして二人だけになるのはいつ以来なのだろう。
 シュンの方もうまく言葉を出せず、落ち着かない素振りを隠し切れない。時間だけが無為に過ぎていく。
 そんなとき、視界の隅で影が動いた。
「あっれぇ? 誰かと思えば……あはっ、やばっ! アイネじゃーん!」
「ふえっ――に、ニノン!?」
「おっすアイネー、ひさしぶりー! 元気してたー? 相変わらずでっかいねー!」
 沈黙の空気を破ったのは、亜麻色のボブカットを揺らす少女だった。アイネたちと同じ、連邦軍制式パイロットスーツを着ている。
 美少女と言っていいだろう。小作りな顔立ちは愛らしく整いながら精気に溢れ、全身に軍人離れした魅力と愛嬌の気配をまとっている。階級章はアイネらと同じ伍長であることを示していた。
「に、ニノン……久しぶり。元気だった?」
「やだなー、そんなに引かないでよぉ。それにしてもアイネは相変わらず凄いねー、ご立派ご立派。遠くからでもほんの一目で、あ、アイネだって分かったもん。ほんと、便利でいいね!」
「い、いやー……アハハハハ……」
 ニノンと呼ばれた少女が人懐こそうにぐいぐい迫ってくる一方で、アイネは半歩引いていた。
 ニノン・ルクレール伍長は、アイネのMSパイロット訓練生課程の同期生だった。
 可愛く垢抜けた美貌に明るい性格、そして高い操縦技術で、ニノンは同期生たちの『姫』的な立場に収まっていた。
 目的のために女子二人だけでひたすら黙々と邁進し続けたアイネとシエルが『陰』の二人だったとすれば、ニノンらの男女混成グループはまさに『陽』の者たちと言えただろう。
 ニノンらのグループは他にももう一人、少し目立たない感じの少女――確か、ケイティとかいう名だった――を加えながら、同期生の男たちの最上位層を網羅するという派手なものだった。
 だが課程修了間際、ひょんなことからシエルがそのグループと激突。アイネもこれに加勢した。
 最終的な決着の場は、修了課題の模擬MS戦だった。そこでシエルがニノンを取り巻く男たちを片っ端から撃墜して壊滅させ、それまでの成績評価を逆転。同期主席の座を不動のものとしたのだった。
 さすがに実際に殺し合ったり殴り合ったりしたわけではないにせよ、そうした経緯があったため、アイネにはニノンに対してちょっとした感情的な距離感がある。
 だがニノンの方はまったくそんなわだかまりなど感じさせない態度で、アイネとの距離をぐいっと詰めてきた。
「と、ところでニノンの方こそ、なんでここに……? 確か任地希望、新サイド5で出して通ってなかったっけ」
「いやそれがさー、聞いてよ。異動だよ異動! 先週だよ? 最初に部隊配属されてすぐだったのに、あっという間だよ? いくらなんでも早すぎー。
 でもお偉いさんから、新サイド4には今どうしてもお前の力が必要なんだ! とか言われちゃってぇ。そこまで言われるなら、まー仕方ないかなーって」
「アハハハハ……そうなんだ……」
 いたずらっぽくボブカットの髪をかき上げてみせるニノンも、確かアイネやシエルと同じく旧ルウム出身のはずだ。
 だが彼女は危険な暗礁宙域と化した新サイド4での勤務を嫌い、一年戦争で中立を保つことで平和を守った新サイド5――旧サイド6リーアを希望した。アイネらとは真逆の判断基準だったと言える。
 アイネの目から見ても、ニノンは可愛い。過去のあれこれを差し引いても、強く美しい女性と可愛い女子には目がないアイネとしてはかなりの高得点を付けざるを得ないのがニノンだった。
 そしてニノンは屈託なく、傍らのシュンに向き直った。
「こんにちはー! 私、ニノン・ルクレールっていいまーす! キミはー、アイネの同僚ですかー?」
「えっ……え、ええ。シュン・カーペンター伍長です。クライネ伍長と同じ小隊です。彼女には、いつもお世話に――」
「えーっ、そうなのー? いいなー、アイネ羨ましい! こんなかっこいー子と一緒に勤務できてっ」
 輝くばかりの笑顔を振りまきながら、ニノンは上目遣いにシュンを見つめた。
 パイロットスーツの輪郭に浮き出る少女の肉体は細く引き締まりながら、それでいて胸は形よく膨らんで確かな甘みを主張しつつ、ニノンが大げさに動くと二つぷるんと揺れてのける。
アイネのそれよりはずっと控えめながら、確かに女としての主張をやってのける胸元。本人の愛らしい顔立ちによく似合う均整の取れた肉体美は訓練隊時代、アイネに劣らず多くの男たちを魅了してきた。
「私のことはニノン、って呼んでくれていいよ! 私もシュン、って呼んでいいかなー?」
「えっ。いや……その……」
0124フェニックステイル第37話2022/09/25(日) 09:12:16.96ID:uPXO0s6n
 その強烈な「陽」のエネルギーに押されてシュンは思わず半歩引いたが、同時に彼の顔に差した微かな赤みをアイネは見逃さなかった。きゅっと目尻が上がる。
「そ、そうでもないけど」
「おっ?」
 アイネは横から言いながら、少し強ばった表情で二人の間に決然と割り込んだ。
 靴裏の電磁石を床に踏みしめながらアイネがどんと張ってのけた胸のド迫力に、ニノンはおおと呟きながら押し返されるように後ろへ下がった。目を細め、再びアイネに視線を戻す。
「……へえ……。……ふーん……?」
「な、なに……」
 ニノンの口元に変わらぬ笑みから何か邪悪な気配を感じながらも、アイネはシュンとの間に立ちはだかりつつ、最大限の何気なさを装ってみせた。
 訓練生課程の最後に激突する前から、アイネはニノンを苦手にしていた。どうにもペースを合わせられないのだ。
 あの頃のニノンはたいてい誰か取り巻きを連れていて、今のように一対一で会話することはほとんどなかったはずだった。だが、今も本当にうまく間が持たせられない。どう切り返せば良いのかも。
 この先、いったいどうすれば――
「ふーん……? でもさー、アイネが元気そうで良かったよー。
 ほら、訓練隊でいつも一緒にいたあの子と別の部隊になっちゃったら、アイネみたいなかわいー娘は速攻で部隊のスケベなオジサンたちの餌食になっちゃうんじゃないかなー、ってみんな心配してたからー」
「む、無駄に心配しすぎでしょ。全然そんなこと、なかったから……ニノンの方こそ、そのへん大変じゃなかったの」
 最初に配属された巡洋艦アバリスでのわずかな時間に、周囲を覆っていた異様な気配を思い出し、アイネは一瞬の嫌悪を表情に浮かべながらも巧みに切り返した。
 いくら陽気で社交的かつ才気煥発、世知に長けてもいるとはいっても、ニノンもまたわずか18歳の少女に過ぎないのだ。
 男性優位の軍隊社会にニノンほどの美少女が放り込まれて、ろくな波風が立たずに済んだとは思えない。うまく切り抜けることは出来たのだろうか。
「えー? それは――あ。やば……それじゃアイネとシュン君、またっ。今度どっかで会ったらこの辺の話、いろいろ教えてね。んじゃっ!」
「えっ? ん、んじゃ」
 ニノンはしゅたっ、と片手を立てると、現れたとき同様、素早く壁面のリフトグリップを掴んで離脱していった。
 自然かつ優雅でありながら素早い、見事な加速だった。シュンとともにアイネは、ぎこちなく手を振りながらその背中を見送る。
0125フェニックステイル第37話2022/09/25(日) 09:12:30.73ID:uPXO0s6n
「――今の、ルクレールじゃなかった? なんでこんなとこにアイツがいるの」
「シエル!?」
 言いながら歩み寄ってきたのは、怪訝そうな顔のシエル・カディス伍長だった。
「さ、さあ……。ところで、シエルはなんでここに?」
「なんでって。単に任務で呼ばれたからだけど……アイネたちもそうじゃないの?」
 呆れたように言ってのけるシエルの視線の先で、すでにニノンの後ろ姿は基地内のどこかへ消えていた。素早い。
 そしてアイネは、直感的に理解する。
 ――逃げたな。
 訓練生課程の最後に生じた大激突で、反ニノン派の中核となったのがシエルだった。もっとも反ニノン派と言っても、実質的にはシエルとアイネの二人しかいなかったのだが。
 最後の模擬戦で鬼神のごとき戦いぶりを見せつけ、ニノンが侍らせていた同期の男子たちを壊滅状態にさせたシエルに対して、ニノンが強烈な苦手意識を持っていることをアイネは知っていた。
 つまりニノンはアイネに勝ち、シエルはニノンに勝つ、ということなのだろう。
 しかし、だからといってアイネはシエルに勝つ、とは言えないので、この三人で『同期三竦み』とまでは言えないのが悲しいところではあるのだが。
「ども」
「ど、どうも」
 そしてシエルは眼鏡の奥からちら、とシュンに一瞥くれると、軽く一言の挨拶だけで会話を打ち切りながら、自然にシュンとアイネの間へ入り込む。
 シエルの髪のにおいを眼下に感じると、安心感が満ちていくのが分かって、アイネは思わず微笑んだ。
「えへへ」
「まったく、何なの……」
 アイネの緩んだ顔を呆れたように一瞥しながら、シエルがちらと視線を動かす。警備室で通行証を取得したマリエルが戻ってくる。
「待たせた、ちょっと混んでてね。ちゃんと全員いる? IDを配る――カディス伍長。あなたも来たの」
「おはようございます、エイムズ軍曹。私も本日0900、第7会議室への出頭を命じられました」
「あれ? それって――」
「なるほど。行先は同じか」
 目を丸くするアイネの眼下でマリエルは頷くと、IDカードをシエルにも渡した。
「警備の方から、あなたの分もまとめて受領してくれ、って言われてね――どうやら、同じ任務らしい」
0126フェニックステイル第37話投下終了2022/09/25(日) 09:16:08.47ID:uPXO0s6n
今回は以上です。
しばらくエロ無し場面が続きます。
過去の分は、ハーメルンもしくはpixivで「フェニックステイル」で検索してください(挿絵あり)。
0129フェニックステイル第38話前編2023/01/29(日) 00:52:13.70ID:GXZXRmiN
「おお」
 P−04港湾部のビル。その一室のドアを開けると、奥窓の向こうには港湾区画が広がっていた。
「おおおおおお」
 窓一面に広がる眺望は、軍艦ではなく貨物船やジャンク回収船が入り乱れる民間港湾区画だ。事務所へ入ってきた4人の少女たちの先頭で、素早く真っ直ぐに窓へと向かった新参者――
アシュリー・スコット予備上等兵は異様に目を輝かせながら顔全体を窓ガラスに圧着したまま、謎の奇声を発していた。
「おおおおおおおおおおおおお、おおおおおおおお〜〜〜!!」
 部屋へ入るなり彼女の目に飛び込んできたのは、窓の向こうに停泊しているジャンク回収船と、その甲板に露天繋留された4機のRB−79『ボール』。
アシュリーの輝く瞳は、まっすぐそこへ吸い寄せられていた。
「C型、作業機仕様……なのに、低反動砲が付いてる! 機関砲じゃない!!」
 そのままアシュリーは頭だけでぐるりと振り向き、背後の3人へ興奮まみれの言葉をひとかたまりに投げつけた。
「あのボール! あの船の甲板に並んでるボールが、自分らのなんすね!? 自分が乗っていいんすねっ!?」
「ええ。あれがジャンク回収船『ダーウィン』。これから私たちが乗り込んで、今回の仕事に漕ぎ出す船」
「『ばーふいん』……!」
 アシュリーは再びガラスに顔面をべったり貼り付ける。アシュリーが次々に繰り出す奇行に傍らの小柄な少女がドン引きしているのも意に介さず、亜麻色の髪を長く伸ばした美少女、フィオ・アレントは淡々と説明した。
「他の船主はどこも私たちのために船を出してくれなくなっちゃって、どうしようって困ってたところに現れた救いの神だね〜。……まあ船長さんは、ちょっと変わった人だったけど」
「?」
 豊満体型の少女マルミン・ポリンが溜息混じりに呟くと、アシュリーはようやく窓ガラスから顔面を引き剥がしながら振り向いてきた。
「みんな船を出してくれないの? なんで??」
「あ……。ま、まあ、ちょっといろいろあってね……」
 真正面から聞かれて、マルミンはしまった、とでも言うように視線を宙に泳がせる。どう答えたものかと迷う彼女の目の前で、フィオがきっぱりと言い放った。
「『亡霊』が出たからよ。たちの悪い、『女を狙う亡霊』とやらがね」
「『亡霊』??」
「言っちゃうんだ……」
「言わなきゃ話にならないでしょ。アシュリー、『境界宙域』のことは知ってるよね?」
「うん」
 半ば呆れたように呟くマルミンの笑顔など一瞥もせず、フィオは黙って頷いたアシュリーの眼前に一枚の写真を見せた。
「P−04に拠点を構えた連邦軍や農協と、聖域深部に潜む残党軍が火花を散らす境界宙域は、よそのサイドから出稼ぎに来る同業連中もおいそれと手出しできない宝の山。その中でも、極めつけの『宝船』がこれ」
「客船……?」
 アシュリーが手に取って見るそれは無骨な貨物船の類ではなく、優美な印象を与える客船だった。見慣れない紋章を刻んだ船首の船橋は、大口径機関砲弾らしきもので打ち砕かれている。しかし爆沈は免れたらしく、そのまま漂流しているようだ。
「どっかのコロニーでお嬢様学校か何かやってた大富豪の船らしい。この大富豪ってのが結構な悪党だったみたいでね、どうやったのか、とんでもない額の金を貯め込んでたんだって。でもルウム戦役で本人もろともご覧の有様。
 ジオンのアホどもは何も知らずに放置したけど、中には行方知れずのお宝がごっそりよ」
「たぶんね、こんな感じ」
 マルミンが苦笑しながら、雑誌や新聞のスクラップ記事を貼り付けたノートをアシュリーの前に広げる。戦前の記事らしいが、件の大富豪の財力を誇示するような美術宝飾品の数々が放つ圧力めいた輝き――
そして何よりその評価額を示すキャプションの破壊力に、アシュリーは頭の回路をショートさせた。
「な、なんかよくわかんないけど……しゅ、……しゅごい……」 
 まさに一攫千金だ。これだけの金があれば、間違いなく自費でボールが買えるだろう。なんなら普段使い用、練習用、予備用、改造用、観賞用、布教用、贈答用、コレクション用と多数買い揃えられるかもしれない。
 とりあえず、目指す宝の価値は理解できた。
「よ、よーし……とにかく、これを捕まえてくればいいンすね。任せろっす。あれ……じゃあ、『亡霊』ってのはなんなんスか?」
「昔から境界宙域のあたりに出る、得体の知れないキモいザク」
「ザク? ジオン残党軍?」
「――そうとも言い切れないから、みんな困ってるのよ」
 言いながら、フィオは事務室内の端末を立ち上げていた。壁の大型モニタに、いくつもの別窓を開いてそれぞれに暗礁宙域内のMSの機影を映しはじめる。
0130フェニックステイル第38話前編2023/01/29(日) 00:53:46.86ID:GXZXRmiN
 望遠で撮って強引に拡大したもの、激しい機動中なのか像のブレたもの――いずれも画像、映像としての質は低い。
 MS−06『ザクU』。細部の型式はよく分からない。最初期のF型だろうか。定番武装のザクマシンガンは見当たらず、代わりにヒートホークを振り回している。
 その機体を目掛けて放たれる射撃の火線は、ボールの低反動砲だ。映像の撮影者も『亡霊』を捉えるや鋭く砲撃し、フレーム外の僚機も巧みに連携しながら別方向から砲撃するが、当たらない。
 速い。ザクUでこの機動性はアシュリーに、あの『キャリフォルニヤの悪夢』ドッツィ・タールネン少佐を思い出させた。
 しかし――
「なんか、ずいぶん……ボロボロなザクっすね?」
 だが粗い画質でも一見しただけで、その機体の状態が悪いことは分かった。欠けたショルダースパイク、そこかしこに穿たれた弾痕、めくれ上がった装甲板。
 何より目を引くのは、コクピットハッチに大きく穿たれた弾痕だった。破孔の深さは分からないが、普通に考えるなら、コクピットの内部まで破壊は達しているだろう。
 この状態で継続的に単機行動。確かに異例の規模を誇るこの方面のジオン残党軍、ルスラン・フリートの所属機とは思えない異様さだった。
 画像と映像を見比べてみれば、日時はそれぞれ異なる。この機体――『亡霊』と呼ばれるザクUとの遭遇は、一回ではなかったということだ。
「こいつね、じーっとデブリの陰に隠れてんの。あたしたちがめぼしい獲物(ジャンク)を見つけて近づくと、ばっと飛び出していきなり襲ってくる。しかも男だけの同業者が近くで操業してても、そっちにはお構いなし。
 あたしたちや、女が来たときだけこいつは反応して、襲ってくる。キモすぎ。とんだ変態野郎なのよ」
「だけどとにかく神出鬼没のうえにやたら速くて手強いの。正直、今までとにかく逃げるだけで精一杯だった」
「……それで、『女を狙う亡霊』」
「こいつは境界宙域に出る。今のところはまだ、連邦軍の支配圏内には出てないけど……」
「じゃあとりあえず、宝船のことはおいといて……そこで操業するんじゃダメなんすか?」
 フィオは頭を振った。
「ジャンク屋稼業はタダじゃない。船賃、燃費、機材費、人件費、事務所代に格納庫代、出漁費に会費……P−04近傍の大物は、もうあらかた穫り尽くされてる。そんなのをちまちま集めるような渋い仕事じゃ、もう取り返せない」
「私たち今まで何度もこの『亡霊』にミッションキルされて、最近は赤字が嵩んでるの。今まで稼いだ黒字もなくなっちゃって……あっ。だ、大丈夫よ! アシュリーちゃんのお給料は、ちゃんと払えるように取っておいてあるからねっ」
 不穏な方向へ流れかけた話を、慌てたようにマルミンが取り繕う。その傍らで、フィオがまなじりを決して顔を上げた。
「だから、今回で決着を付ける。『亡霊』に煩わされるのは、もうおしまい」
「…………」
 アシュリーは目を瞬かせる。亡霊とやらは単機のザクUらしいが、今までこのフィオたちが襲われても、応戦して逃げるのが精一杯の相手だったという。
 だが……どうやら、自分さえ加われば勝てるらしい。
「フッ、……参ったっスね。そーゆーことっすか。自分の武名、VWASSからはるばるP−04まで轟いちゃってたんすねぇ。
 低反動砲を下ろしたボールであの『キャリフォルニヤの悪夢』と互角に渡り合って退けた『VWASSの丸き閃光』の力を借りたくて、声かけしてくれたんすね」
「丸き閃光ってなに……爆発したときの火球ってこと……?」
「いやいや、アシュリーちゃんは戦わなくていいから。私たちと一緒に、作業だけやってくれればいいからね。4機編隊を組めないと、ジャンク作業っていろいろ大変なんだから。
 ……この前一人抜けちゃって、その子の代わりをやってくれる子を探してたんだよねえ」
 小声で呟く影の薄い少女を押しのけるようにマルミンが、適当な本とペンを手に取って勝手にサインの練習を始めようとしたアシュリーの肩を掴んで揺すり、無理矢理現実に引き戻した。
 何事もなかったように淡々と、フィオが窓の外へ視線を向けながら呟く。
「『ダーウィン』。最近P−04へやってきたあの船が、干上がりかけてたあたしたちに、手を差し伸べてくれた」
 直筆サイン本(予定)をマルミンに取り上げられて不満顔のアシュリーも、フィオに釣られて窓の外に停泊する船を見た。
0131フェニックステイル第38話前編2023/01/29(日) 00:57:01.89ID:GXZXRmiN
「『ダーウィン』の船主は『女だけで乗り込むなら』という条件付きで、あたしたちのための船出と、用心棒になるMS隊の手配を約束してくれた。
あたしたちが境界宙域で仕事にかかって『亡霊』が出てきたら、船内に隠した腕利きのMS隊を出して仕留めてくれる。――『亡霊』に追いかけ回されるのは、もう終わりだ」
「えええ……そうなんすか??」
 自分は戦闘要員ではないと聞かされて、アシュリーが少し不満げに肩を落とす。マルミンはそのアシュリーの肩を持ったまま、優しく微笑みかけた。
「船から用心棒さんたちが出てきてくれるまで、『亡霊』の第一撃をかわしながらなんとか逃げきらなきゃだし、用心棒が来てくれても仕留めきるまで加勢はしなきゃだから、戦うことにはなると思うよ。
だから、アシュリーちゃん。あなたの力を私たちに貸してね」
「勿論ッス!」
 マルミンが頼るような素振りを見せると、一瞬前までの不満顔が嘘のようにアシュリーは鼻息荒くふんぞり返った。
(扱いやすそうな子でいいなあ……)
 マルミンはアシュリーの肩越しにフィオ、そしてもう一人の少女に目配せする。
「それじゃあアシュリーちゃん、雇用契約書を作るからね。サインはそっちの本じゃなくて、こっちにしてねー」
「勿論ッス!」
 本当にちゃんと文面に目を通したのかと言いたくなるような早さでざっと通読するや、アシュリーは雇用契約書に署名していく。
 フィオは小さく溜息を吐きながら、傍らに立つ小柄な少女に話しかけた。
「『ダーウィン』へ乗れる条件は、『全員が女であること』。これで女のボール乗りが4人揃う。『亡霊』退治まで、宝船まで、あと少し……。分かってるでしょうね、ボナ?」
「う、うん……。分かってる……分かってるよ、お姉ちゃん……」
 フィオからボナと呼ばれたその少女は恥じらうように、風通しの良いミニスカートの裾をそっと押さえる。
この事務所には少女たちだけしかおらず、他の誰に見られているわけでもないというのに、姉の眼前でひとり俯くボナ・アレントの可憐な横顔には、恥じらいの紅潮が強く宿っていた。
0134フェニックステイル第38話後編2023/06/04(日) 14:48:20.68ID:s1uIMrE2
「ここがP−04の中央基地司令部か……。はじめて来た」
 きょろきょろと周りを見渡しながら、アイネ・クライネ伍長はおのぼりさんの雰囲気丸出しで呟いた。
 P−04自体は僻地の方面軍基地に過ぎないが、現在その隷下にある兵力はかなりのものだ。当然、それに伴って司令部の規模も大きい。
 幕僚らしき軍人たちが時にアイネの度肝を抜くほど巨大なパイロットスーツ越しのバストに視線を奪われながらも行き交う中で、アイネの方も初めて見る世界に興奮していた。
「おお、……司令部の雰囲気って、こういう感じなんだ……」
「アイネ、もう少し落ちつきなって。この辺、まだほんの入り口だよ」
 訓練生時代の同期にして元ルームメイトの親友、シエル・カディス伍長の静かな声で、アイネははっと我に返った。
 改修工事でサラミス改級巡洋艦『トラキア』を追われた間に起居するミケリヤ家で、その家主たるサブリナ・ミケリヤ少尉から、アイネらトラキアMS隊は新たな命令を告げられたのだ。
 休暇中のマコト・ハヤカワ准尉を除くMSパイロット3人に、整備兵マリエル・エイムズ軍曹を加えた4人で、P−04中央基地司令部まで出頭すること。トラキアMS隊はそう命じられたのだった。
 そしてゲート前では第223戦隊の僚艦であるサラミス改級駆逐艦『アルマーズ』所属のMSパイロット、シエルとも合流した。示された集合場所と時間が同じだったのだという。
「先輩、そっちじゃないです。こっちです、こっち」
「んあ……?? ……おお……」
「第7会議室――あれだな」
 生きているのか死んでいるのかよく分からない先任パイロットのロブ・サントス伍長を、シュン・カーペンター伍長がかろうじて誘導しながら進んでいくうち、5人は目的の第7会議室へたどり着いた。
「じゃあ、行くよ」
 シエルを含む全員が揃っていることを確認して、マリエルが会議室のドアを開ける。特にロックなどもなく素直に開いた扉の向こうには、先客がいた。
「うげっ」
「うっ」
 アイネとシュンの2人が揃って、思わず表情を小さく歪める。
 会議室前方の固定式端末を囲んで何か操作していたのは、因縁重なるルウム農協所属の予備役女性MSパイロット2人――トモエ・ワカツキ予備伍長とリタ・ブラゼル予備伍長だった。
「おー。やっと来たか」
「マリエルさん、お久しぶりです」
 黒髪ポニーテールの不敵な美少女がさっと面々へ不敵な視線を走らせ、その傍らで褐色肌の温厚そうな美少女が三つ編みの髪を揺らしながら穏やかに微笑んだ。
 アイネは自動的に、半ば硬直したシュンと二人の間を遮るように位置を取った。
「何、知り合い? どうしたのアイネ?」
 旧知のマリエルやロブ、そして因縁の中心軸となっているシュンはともかく、シエルにとってトモエとリタは初めて目にする相手だった。シエルは不穏な気配に眉をひそめ、にわかに殺気立ったアイネの横顔を見つめた。
 急に張りつめた空気の中で、マリエルが動じることなく淡々と二人へ語り掛けた。
「ええ、お久しぶり。あなたたちが来てるってことは、どうやら今回の任務は『閣下』の肝煎りということらしいね」
「さすがマリエルさん。察しがいいですね」
 新サイド4駐留連邦軍における『現地派』の首魁たるP−04基地司令ユン・ソギル准将は、かつての一年戦争中に自らトラキア隊を率いていたという。
 そしてその後も旧サイド5暗礁宙域の復興に携わる中で、現地の農業プラントにかろうじて生き残った難民の支援と、残存した農業プラント群の安全確保と再生支援に力を注いだ。
 つまりトラキア隊とルウム農協はともに、ソギル准将直々の手兵とみなしてよい存在なのだろう。
 トモエとリタがルウム農協MS隊の中でどういう位置にいるのかは分からないが、この場にはそうした『同類項』の人々が集められているということだ。
「マリエルさんは今回の作戦、どこまで聞いてます?」
「まったく何も。あなたたちは?」
 リタは含みのある表情を見せた。
0135フェニックステイル第38話後編2023/06/04(日) 14:50:06.94ID:s1uIMrE2
「『境界』の方で昨晩、ちょっとした騒ぎがあったのはご存じですか」
「ええ。確かあのとき緊急出撃したのは、農協の第411MS中隊……そうか。あれは」
「空振りでしたよ。ムカつくことにね」
 初対面のシエルと互いに牽制しあうような視線を絡ませ合っていたトモエが、そこを切りながら吐き捨てるように呟いた。リタは淡々と続ける。
「『ゴアズ・ジャンクハンター』。最近売り出し中の境界漁民でしたが、どうやら境界を漂う噂の『宝船』を見つけ出して、近づこうとしていたらしいです。そこを『亡霊』に襲われて――」
「見事に全滅ですよ。ザクU1機相手に、リック・ドムU1機とボール2機の合計3機が社長もろともまとめて殺られて、かろうじて母船とボール1機だけが逃げ帰ってきた。あたしらはそこへ上から突っ込んで、『亡霊』ザクのケツを追い回してやったんですが」
「ルスランの哨戒部隊に横槍を入れられて、取り逃がした……そんなところ?」
 マリエルが言うと、トモエは不満げに頬を膨らませ、リタは感情を見せない笑顔で応じた。
「『亡霊』は女を狙うという、あの噂――どうやら事実のようですね。もともとゴアズの社員は男ばかりでしたが、襲撃当日は女を一人連れていました。
 漁民上がりの社長愛人だったそうですが、それで『境界』へ入って『宝船』へ近づいた途端に、『亡霊』は彼女を狙って襲ってきた。――そういう通信が入ってきたと、生き残りの社員が吐きました」
「女を……」
「あのー、……なんなんですか? その、『亡霊』って」
 マリエルと農協娘2人が進める会話に、おずおずと手を上げてアイネが質問した。トモエは小馬鹿にするような表情を浮かべたが、リタは意味ありげに微笑んで答えた。
「そうですね。特に今回、そちらの2人には知っておいていただいた方がいいでしょう。『亡霊』とはいわゆる境界宙域でたびたび存在を確認されている、所属不明のザクUです。
 境界宙域内を単機で神出鬼没に行動し、特に女性の境界漁民を狙って襲う謎のMS……そう言われてきました」
「常に単機で行動しているというのが変ですが、機体はザクUなのでしょう? やはりルスランか、ジオンの残党兵ではないのですか」
「ルスランの哨戒部隊とも、P−04を奥まで探りに来る偵察部隊とも明らかに動きが違う」
 アイネではなく壁の一点を睨みながら、トモエが言葉を挟んできた。続けていく。
「あの『亡霊』、ルスランの奴らと連携している気配がない。今まで何度か境界宙域に哨戒を掛けて狩り出そうとしたこともあったが、異様なほどに哨戒網をすり抜けてくるんだ。
 そして忘れた頃になるといつの間にか、気づいた時に目の前に潜んでいる。いくら『境界』のデブリとミノフスキー粒子が濃いといったって、あれは……。
 そもそも『亡霊』がここまで大手を振って暴れまわるようになったのは、つい最近だ。それまでは皆、あんなもの……迷信のたぐいだと、思っていた」
「……?」
 リタから答えを引き継いで言ってのけたトモエの表情に、今まで見たことのなかった陰の存在を感じて、アイネは目を眇めた。リタが続ける。
「『亡霊』の正体が何であるにせよ。ここまで大きな損害を出されてしまった以上、このまま放置しておくわけにはいかなくなりました。
 女を狙って神出鬼没の、得体の知れないMS持ちの通り魔――そんな輩を放っておけば、P−04の収入源の一つでもある境界漁民の活動が委縮し、ルウム農協と連邦軍の威信も損なわれます。
 漁民には女も多いですし、何より私たちだって今後、残党軍とやり合っているところを横から襲われかねません」
「なるほどね。だから閣下は、こちらから積極的に『亡霊』を狩り出そうとしているわけだ。配下の兵から、奴が狙う女たちを集めて」
「……でも、どうやって? 普通の哨戒では捉えられなかったのに?」
 この部屋に入ってからはじめて声を発したシエルに、さっと視線が集中した。
「『亡霊』とやらが女を狙って殺しに来るのは分かった。理屈は分からないけどとにかく神出鬼没で、こちらから積極的に狩り出しに行くのが難しい、っていうのも分かった。
 ――でも、向こうだって馬鹿じゃないんでしょう。そいつはこっちが4機や6機のMS隊を組みながら手ぐすね引いて待ち構えているところに、相手に女が大勢いるからって単機でノコノコ出てきてくれるような間抜けなの?」
 シエルの指摘に、リタが面白そうに微笑んだ。
「ええ、まさにその通り。神出鬼没の亡霊は決して無敵じゃないけど、だからといって馬鹿でもない。喰えそうな獲物だけをちゃんと選んで狙ってくる。
 ――だから『撒き餌』が必要だし、『猟犬』はその近くに隠しておかないといけない」
0136フェニックステイル第38話後編2023/06/04(日) 14:51:22.07ID:s1uIMrE2
「撒き餌? 私たちがあちこちで単機にバラけて行動して、そいつを誘い出すってこと?」
「まさか。境界漁民のボールあたりならともかく、連邦軍のまともなMSや艦艇が境界宙域で堂々と動けば、『亡霊』より先にまずルスランの哨戒部隊が束になって突っ込んでくる。撒き餌どころの騒ぎじゃない」
「じゃあ、どうやって――」
「女子だけで組んだ漁民チームで、境界あたりを漂う『宝船』をしつこく追ってる連中がいる。『亡霊』に邪魔され続けて膨らんだ借金で首が回らなくなってて、やっと尻尾を掴んだ『宝船』をここで穫れないと詰むらしい。
 とどめにこの『亡霊』騒ぎが大きくなって、肝心の船すら借りられなくなって往生してたみたいだが――私らが、そいつらに船を貸す」
「――その子たちを、囮にする……ってこと?」
 女子だけで組んだ漁民と言われて、アイネの脳裏に第113整備場で見かけた少女たちの姿が蘇る。
 直感的に、心に波が立つのがわかった。
「ええ。そして、私たちもその船に乗る……こっそりとね。船倉にジムを隠しておいて、『亡霊』が出てきたら一斉に飛び出して始末にかかる。これとは別にパブリク改を近くに1隻用意して、始まったら全速力で駆けつけてもらう。
 漁民のボールで引きつけたところを、まず同乗の私たちが仕掛ける。そしてパブリク改の別働隊が後詰めで、ルスランの介入を足止めするなり、『亡霊』の退路を断つなりして締める。完璧でしょう?」
「なるほど……それなら……」
 言われてアイネは算盤を弾く。チャーターするジャンク回収船が1隻、パブリク改級哨戒艇が1隻。両者に搭載するMS隊のパイロットが今この場に呼ばれている面々なら、MSは6機だ。境界漁民のボールもある。
「けっこう、大規模な……作戦なんですね」
「そうだよ。だからこれだけの面子で一気に仕掛ける。あたしとリタ、ロブ先輩とシュンの4人が漁民のジャンク回収船に隠れて待ち伏せ。
 マリエル先輩とあんたら二人はパブリク改で後詰めだ。『亡霊』が赤い彗星か白い悪魔でもない限り、これで確実に仕留められる。詳細はこれだ」
 トモエが言いながら、作戦命令書の写しらしき綴りを投げ寄越してきた。回転しながら飛んできたそれを受け取って開き、アイネは作戦名から読み上げはじめる。
「クシナダ作戦……」
 由来は分からないがそう名付けられた作戦計画には、すでにユン・ソギル准将の決済が降りていた。この綴り自体は写しとはいえ、もはや正式な命令というわけだ。
「どれどれ、……ん?」
 マリエル、シュン、シエルの3人が横から覗き込んでくる中、ぱらぱらと綴りをめくって読み進めながら、アイネはその途中で重大な事実に気づきはじめた。
「ん、んんん……? ええ、っと……私の気のせいでなければ、……ワカツキ伍長。いま漁船には、サントス伍長とカーペンター伍長とあなたたち。私とエイムズ軍曹とシエルは、パブリクで後詰め……って、言いませんでしたっけ?」
「ああ言ったともよ。そこにもちゃんと書いてあるだろ?」
 書いてある。書いてあった。編成表と乗船割が。
 決済済みの、正式な命令書に。
「な……っ、……」
 そこまでのことを認識すると同時に、アイネとシュンは二人揃って総毛立つ。
 トモエとリタ。シュンを付け狙う超・肉食系女子二人が作戦中の数日間、シュンと同じ船に乗るということの意味を。そして同乗のロブはいま完全に腑抜けている。
 この4人だけになれば、彼女たちの肉欲にまみれた野望を阻むものなど、ない。
 すべてを察してアイネは叫んだ。
「は、謀ったなぁ!!」
「ん〜!? なんのことかな フフフ……」
 暗く含み笑いするトモエの横で、リタが微動だにしない微笑みを張り付けたままの表情で呟いた。
「今回の作戦に協力していただくジャンク回収船『シャンク』の船長と私たちは、旧知で懇意にしておりましてね。船首ブロック居住区で、ちゃんと『個室』も確保済みです。
 まあ最悪でも私とトモエさえいれば、肝心の『亡霊』はきっちり狩ってご覧に入れますので……」
「シュンは別に、足腰立たなくなっててもいいんだぜ……?」
 トモエが獲物を前にした肉食獣の目で舌をなめずる。シュンが色を失って後ずさり、アイネはその間に入ろうとするものの、命令書が相手ではどうすることも出来ない。
 ロブは相変わらずここではないどこかを見ており、シエルは怪訝に目を細めたままで、そしてマリエルは凍りついたように微動だにしない。
0137フェニックステイル第38話後編2023/06/04(日) 14:53:32.34ID:s1uIMrE2
 先手を打たれてしまった。
 シュンを狙うトモエとリタは『亡霊』討伐作戦を企画し、その作戦にかこつけてシュンを寝取るつもりなのだ。
 アイネもシュンとの肉体関係は最初の事故以外に無いので、寝取るというのもおかしな話ではあるが、シュンとの心の絆はこの二人より自分の方がずっと近いという自負があった。
 この二人は第113整備場で、シュンを寝取るためなら実力行使すら厭わなかった連中だ。危険すぎる。
 裸身でベッドに縛り付けられながら全身にマジックペンで変な落書きをされ、同じく裸身のトモエとリタに挟まれながら光の無い瞳で両手にピースサインを作らされるシュンの姿を幻視して、アイネは怒りに全身を震わせた。
「おいおい、いちいちピーピー騒ぐなよ。これは作戦、ちゃんとした正規の作戦なんだよ。あんたも軍人なら、正規の命令にはちゃんと従わなきゃなあ?」
「だ、大丈夫……大丈夫だよ、クライネ伍長。僕は……僕は、絶対に負けないから……必ず、無事に帰ってくるから……」
「彼自身もそう言ってることですし。ここは同僚として、おとなしく信じて送り出してあげたらいかがですか?」
 シュンは引き攣った微笑みを浮かべ、その左右から挟み込むようにトモエとリタが歩み寄ってくる。アイネはその動きを阻止することが出来ない。
「――お」
 だが途中で会議室のドアに人の気配を感じて、トモエが顔を上げた。
「どうやら船長たちのお出ましだな。あんたらもこれから世話になるパブリクの艇長にはちゃんと挨拶しとけよ?」
「くっ――」
 ドアが開く。そして、一人の女が入ってきた。
 最新の軍用軟式ノーマルスーツ――いわゆるパイロットスーツに長身と、わがままに揺れるたわわな乳房を包みつつ、頭上には旧世紀大航海時代の海賊を思わせる、大時代で派手な羽根つき三角帽を被った金髪ツインテールの美女。
「……!?」
 そんな存在の頓狂さが、すべてをぶった切るようにその場の視線をかき集めた。
 彼女は室内の面々をさっと見渡し、軽やかに口笛を吹いた。くいっと小洒落た感じに三角帽を傾けたかと思うと、まったく物怖じもせず口上を切った。
「おおっ! いいじゃないのいいじゃないの。お姉さんたちがあたしの船で『亡霊狩り』に出てくれるって女軍人さんたちなのね? いいねいいねぇ! 美人さん揃いで、船長嬉しいゾ!」
「え? あ、は、はあ――」
 最初からクライマックスで声を弾ませる彼女のテンションに付いていけないまま、視線を向けられて曖昧な返事を返したアイネに、金髪ツインテール海賊帽の彼女はニカッと少年のような笑みを浮かべて近寄ってきた。
「ちょ、ちょっと、――おわっ!?」
 そのままドン、とアイネに迫るほどの爆乳をアイネの爆乳にぶつけられて、規格外サイズの四つの乳房がスーツ越しにぷるんと震える。アイネは思わずたじろぎ下がった。乳房の質量では勝っても、身長差から来る体重差まではいかんともしがたい。
「この感触っ……、うわっ、本物だぁ〜! MSパイロットでこれはすごいね! あたしよりデカい娘、はじめて見たよ! これからよろしくっ!」
 互いのスーツ越しに感じたアイネの乳房の質感に満足したのか、長身の金髪ツインテールは満面の笑みでニカッと微笑みながら握手の手を差し出してきた。
 だが当のアイネは半ば以上ドン引きしたまま、やっとその言葉を捻り出すだけで精一杯だった。
「え、ええっと……。……ど、……どちら様、ですか……??」
「おりょ?? まだ何も聞いてない感じ?」
 アイネは謎の金髪女に問い返しながら、説明を求めようと横目だけでトモエとリタを見た。この爆乳ツインテールも彼女たちが旧知のコネで呼んだ相手のはずだ。
 なんなんだ、この人。大丈夫なのか、この人。
 そう思ってアイネが見たトモエとリタの二人は、その目を大きく見開いたまま、完全に表情を凍り付かせたきり停止していた。
 呆気に取られたままトモエが呟く。
「…………?? ……えっと、……あんた、……誰……??」
「フムン? そうか、すまない! あたしとしたことが、名乗りがまだだったね!」
 長身金髪ツインテールは深く息を吸い、三角帽の端を摘んでキメながら再び叫んだ。
0138フェニックステイル第38話後編2023/06/04(日) 14:54:19.80ID:s1uIMrE2
「宇宙の海はあたしの海ッ! 男は乗せない漁船(いさりぶね)!! ダーウィン海運社長クレア・ダーウィン、お呼びにあずかりただいま参上ッ!!」
「いや、その……そうじゃなくて、……漁船、……社長……?? どちら様で……どうしてここに??」
 リタが未だ微笑みを保ちながら――しかし、その薄皮一枚下に隠しきれない困惑を露わにしながら、クレアと名乗った三角帽の金髪ツインテール長身爆乳美女に問いかけた。
「私が説明しよう、リタ・ブラゼル伍長」
 そのときまたドアが開き、新たな進入者の声が響いた。
 また女だった。
 今度は制服姿の連邦軍士官、階級は中佐。アフリカ系と思しき褐色の美女、階級章は中佐を示している。高官だ。アイネにとっては初対面の相手だったが、その場の軍人全員とともに姿勢を正す。
 トモエとリタの隙を突いて逃れてきていたシュンが、そっとアイネに耳打ちした。
「タニア・メーティス中佐。元トラキア隊で『中央派』の重鎮だよ」
「『中央派』……」
 シュンの情報を受けてアイネに警戒心が先走る中、タニアは淡々とクレアについて説明した。
「彼女はクレア・ダーウィン社長。地球の豪州方面で活動するダーウィン海運社の社長だ。ダーウィン海運社は本日、P−04で活動するジャンク回収船『シャンク』を買収し『ダーウィン』と改名。
 P−04での宇宙ジャンク回収事業へ参入した。そしてダーウィン社長は、連邦軍による『亡霊』討伐作戦への協力を確約してくれた」
「え、……ば、……買収……?? 『シャンク』が?? いや、その……私ら昨日、その『シャンク』の船長に話を通して、……前金も、払った、ばっかりで……」
「フム? 君たちとともに漁へ漕ぎ出せないのは残念だが、……この宇宙(うみ)の潮流は、常に流れ続けていると知りたまえッ!」
 狼狽するトモエを前に、クレアが鼻息を吹かしながら書面を広げた。ジャンク回収船、旧『シャンク』の権利書だった。登録番号の他、ご丁寧に改名前後の新旧船名まで記されている。正式の書類だ。
 淡々とタニアが継いだ。
「旧『シャンク』船長はダーウィン社長との商談成立後、すでにP−04を離れたと聞いた。君たちルウム農協と旧『シャンク』の間に何があったのかは知らないが、連邦軍は民事案件に介入しない。何か問題があったのなら各個で独自に解決せよ」
「し、信じられねえ……野郎、前金だけ持って夜逃げしやがった……」
「…………。まあ、構いません。メーティス中佐、貴重な情報ありがとうございます」
 予想外の状況に怒りすら凍りつかせながら震えるトモエをよそに、今までの薄い笑みを消した冷たさでリタが女性士官――タニア・メーティス中佐に相対した。
「『亡霊』討伐はソギル准将の決済を受け、P−04基地隊によって実施される作戦です。新サイド4駐留艦隊司令部所属の中佐殿は、本件に何の関係も無いかと愚考しますが?」
 遙か上位の階級を持つ士官相手に何の愛想も遠慮もない、冷たい言葉だった。アイネが初めて見るリタの鋭さに息を呑む中、タニアもまた冷たく言葉を返しながら命令書を開いた。
「『亡霊』討伐作戦――『クシナダ』作戦の権限は、すでにP−04基地隊から新サイド4駐留艦隊に移管された」
 その命令書には新サイド4駐留艦隊副司令、ヨランダ・ウォレン准将の署名があった。
「なっ……」
 命令が、上書きされていた。
 連邦軍『中央派』の首魁たる、新サイド4駐留艦隊副司令ヨランダ・ウォレン准将と、P−04基地隊司令ユン・ソギル准将。両者の階級は同格だが、最終決定権を持つ先任はヨランダだ。
 まともにぶつかれば、ソギルら『現地派』はヨランダら『中央派』に道を譲らざるを得ない。それがこのP−04での現実だった。
 リタたちは、自ら作り上げた作戦計画を奪われたのだ。
「リタ・ブラゼル伍長。トモエ・ワカツキ伍長。ロブ・サントス伍長。シュン・カーペンター伍長。君たち4人は原隊へ復帰せよ。本作戦には不参加となる。帰ってよい」
「……それは、どういう」
 なお食い下がろうとするリタに、タニアは冷たく見下ろすような視線を合わせた。
「ダーウィン社長は、船員全てが女性となる自分の船には、女性しか乗せたくないと仰せだ」
「男は乗せない漁船(いさりぶね)。すまんね」
 軽く合掌しながら、クレアがシュンとロブにウインクを飛ばす。彼女が自分の船に男を乗せない理由がここまでいっさい説明されていないが、およそろくな理由が出てこなさそうな気がしてアイネは口を噤んだ。
0139フェニックステイル第38話後編2023/06/04(日) 14:55:11.87ID:s1uIMrE2
 そしてアイネは、次にシュンと目を合わせる。
 しかし、これは、……ひとまず助かった、……のだろうか?
「だからサントス伍長とカーペンター伍長には降りてもらう。マリエル・エイムズ軍曹、アイネ・クライネ伍長、シエル・カディス伍長。君たち3人は残れ」
「なら、なぜ私たちが――」
 なおも異を唱えんとするリタに、タニアが堂々と言いつけた。
「今回の『亡霊』討伐作戦は『地球連邦軍』として実施する。ルウム農協の出る幕ではない」
「……!!」
 P−04の政治について大した予備知識のないアイネにも、その濃厚な『政治』の腐臭は鋭く鼻を突いてきた。
『亡霊』騒ぎが大きくなりすぎた。だから膨らんだ狩りの手柄をルウム農協や現地派に渡さないため、中央派として独占したくなったということか。
「戦力の心配は無用だ。欠員は補う。入れ」
 タニアが呼びかけると、再び会議室のドアが開いた。また2人、MSパイロットが入ってくる。2人とも女だ。
「「うげっ」」 
 アイネと、そして入ってきた2人の片割れが双方同時に呟いた。
 ニノン・ルクレール伍長は天敵シエルの姿を見つけるや、先任らしき長身の女性パイロットの後ろへ素早く隠れるようにしながら室内へ入ってきた。
「紹介しよう。カリナ・ベルトラン軍曹とニノン・ルクレール伍長だ。ハイザックで本作戦に参加してもらう。そしてベルトラン軍曹が、本作戦の現場指揮を執る」
「カリナ・ベルトラン軍曹。……よろしく」
 全くやる気の感じられない調子で、カリナが呟いた。
 栗色のロングヘアをうねらせるカリナは、長身でスタイルも良い。バストサイズはアイネやクレアには及ばないにしろ、巨乳であるトモエやリタに勝るとも劣らぬだけの質量を持ち合わせている。
 そのうえ顔立ちも整った美女だったが、いかんせん表情が完全に曇り腐っており、その陰気さがすべてを台無しにしていた。とてもやる気のある人間の姿には見えない。
 そしてニノンはそんなカリナの傍らでしばし様子を窺いながら隠れていたが、やがてシュンの存在に気づくとぱっと表情を綻ばせながら飛び出し、アイネとシエルは訓練生課程で見慣れた『しな』を作り始めた。
「ニノン・ルクレール伍長でーすっ☆ よろしくお願いしまぁす!」
「うっわ……」
「全然変わってないなあいつ」
 ぎゅっと握った小さな両拳を首元に固めた上目遣いで、ニノンはあざとさ全開の美少女ムーブを決めた。あまりにも露骨なのだが、ニノンにはその露骨さを力業だけで押し切ってしまえるだけの圧倒的な『華』があった。
 この場に集った女たちの中で、バストサイズでは下から数えた方が明らかに早いニノンだが、その『美少女力』とでも言うべき力ではトップクラスに食い込んでいることを、アイネは認めざるを得なかった。
「おおおっ、いいねぇ! かわいいねぇ! かわいいねぇ!!」
 媚態の直撃を受けたシュンは曖昧な笑みで受け流し、トモエとリタとシエルとマリエルの4人は死んだ魚でも見るような目で見ていたが、クレアは子猫でも見たかのようにはしゃいでおり、そして正直、アイネ自身もちょっとぐっと来てしまっていた。
 ニノンの中身も行状もよく知っているのに、こうして見せつけられてしまうと、私もあの子ぐらい可愛かったらなあ、と思ってしまうのだった。
「……中佐殿、状況を整理させてください」
 もともとの計画では最先任となるはずだったマリエルが、クレアやニノンの度重なる暴挙にさんざ調子を崩されつつも、こめかみを揉みながら質問した。
「ダーウィン社長のジャンク回収船『ダーウィン』に、境界漁民のボールを4機搭載。直掩MS隊はベルトラン軍曹を長として、ルクレール伍長、クライネ伍長、カディス伍長の4人が乗るMS4機を搭載。戦力の構成はこれでよろしいですか?」
「ああ。そしてエイムズ軍曹、君も『ダーウィン』に乗れ。先任のベルトラン軍曹の指揮下に入りつつ、MSの補給整備業務を支援せよ」
「了解しました。ところで、もともとの計画では境界漁民と直掩を乗せるジャンク回収船以外に、パブリク改とMS2機が『後詰め』の遊撃隊として用意されていたはずです。4人外して2人しか入れないのでは、この『後詰め』は――」
「そこの心配は無用だ。そこには軍の戦力などより、もっと確実なものを手配してある」
0140フェニックステイル第38話後編2023/06/04(日) 14:55:55.16ID:s1uIMrE2
「確実なもの……?」
 マリエルに答える途中、タニアの無線端末に何か通話が入った。タニアは応えて小さく頷くと「お入りいただけ」とだけ短く返し、そのまま視線をドアに向ける。
 ドアが開き、また新たに2人のMSパイロットが入ってきた。
 金髪の爆乳美女と、銀髪の美青年。パイロットスーツは連邦軍と同型だが、その薄紫の色彩は軍の制式にないものだった。
 長い金髪をポニーテールにまとめた美女は、室内を傲慢そのものの視線で睥睨する。
 その長くまっすぐに輝く金髪も、アイネには及ばずながらの爆乳もクレアに匹敵するものだ。だが気品に裏打ちされつつもすべてを見下すような冷たさが、彼女の雰囲気を全く異なるものにしていた。
 背後の美青年を従えるようにしながら、ポニーテールの金髪美女が名乗りを上げた。
「ロナ騎士団、騎士キーラ・ブロンベルク。『クシナダ作戦』とやらを支援させてもらいに参上した」
「同じく、騎士ヴィリ・グラーフ。よろしくお願いします」
「……お、おお〜〜〜☆」
 ニノンが再び妙な声を上げるのを聞いたアイネが横目で見れば、ロナ騎士団の騎士ヴィリに熱い視線を送っていた。確かに高貴な美青年だが、ずいぶんと目移りが早いことだ。
 だがあのままシュンに変な目線を送られ続けるよりはずっとマシか、とアイネは思考を振り切る。クレア船長も女騎士キーラの美貌に口笛を吹いていたようだったが、アイネはこれも無視した。
 ロナ騎士団――P−04のジャンク回収再生事業に大きな影響力を持つ、『ブッホ・ジャンク』社と同グループの警備会社『ブッホ・セキュリティ』社の異名だ。
 確か連邦軍の認可を受けて、YMS−15『ギャン』を独自に改修したレプリカ機を運用しているはず、とアイネはこの前読んだばかりの資料の情報を思い出す。
 そしてブッホ・グループのオーナーであるロナ家が、地球連邦政府に有するという並みならぬ政治力のことも。
「タニア・メーティス中佐。地球連邦軍を代表して、騎士ブロンベルク、騎士グラーフご両名の協力に感謝します」
「構いません、中佐。下々の民草を守ることもロナ家の騎士の務めですから」
 キーラはタニアとの握手に応じながら、場の面々に視線を走らせた。怪訝に眉を潜める。
「……士官の姿が見えないようですが?」
「残念ながら今回、適任の者を用意できませんでした。現場の指揮はこちらのベルトラン軍曹に執らせます。――みな下士官とはいえ、腕は保証します」
「――なるほど」
 現在この部屋に、連邦軍の士官はタニア一人しか存在しない。あとは全員が下士官と、民間人船長のクレアのみだ。
 強制休暇中のマコトはともかく、リン・リンリー少尉やサブリナ・ミケリヤ少尉といった歴戦の女性士官パイロットを連れてこなかったのは、彼女たちが『現地派』だからなのだろう。
 指揮官となる最先任者にはあくまでも『中央派』を据える必要があり、そして『中央派』から今すぐ出せる女性パイロットの最上位者がカリナだった。そういう事情をアイネは察した。
 キーラは室内の面々をさっと一瞥すると、興味なさげに視線を切った。下士官ごとき相手にする価値もないということか、とアイネは鼻白む。
「……中央派の次は、ブッホの騎士どもだと……? こいつらを作戦へねじ込んで取り入るために、私らを切りやがったのかよ……」
 殺気すら秘めた気迫で静かに睨みつけながら、トモエが絞り出すように呪詛を吐く。その手を傍らのリタがそっと押さえた。
「さて、これで全員が揃った。不参加者は退室せよ」
 トモエ、リタ、そしてシュンとロブが四者四様に退室すると、タニアは室内に残った面々へと向き直って宣言した。
「ロナ騎士団のお二人には、平素からの境界巡察を継続していただきつつ、『亡霊』が出た際には退路を断っていただく。騎士団ならば境界でも堂々と行動が可能だ。そして諸君らはロナ騎士団の方々と緊密に連携し、P−04宙域を脅かす『亡霊』を確実に排除するのだ。
 ――これより『亡霊』討伐作戦、『クシナダ作戦』を開始する」
 境界漁民、民間ジャンク回収船、連邦軍の現地派と中央派、そしてロナ騎士団。
 ルウム農協と男たちを蹴り出して『亡霊』狩りに寄せ集められたいびつな歯車たちが、軋みをあげながら回り始めた。
0141フェニックステイル第38話後編投下終了2023/06/04(日) 14:56:34.95ID:s1uIMrE2
今回は以上です。
増えた登場人物の把握については、ハーメルンなどに掲載の登場人物紹介(挿絵付き)をご活用ください。
0143フェニックステイル第39話2024/03/10(日) 14:08:14.92ID:O+JwS4S5
 P−04中心岩体の港口から、1隻のジャンク回収船が出港した。
 虚空に敷かれた誘導灯の連なりに導かれながら、やや太短いずんぐりとした船体が緩やかに進行していく。その全長は100メートルに満たない。
 遠洋型のジャンク回収船としては小型の部類に当たるが、境界漁民の母船としては一般的なものだ。パイソン級宇宙貨物船90メートル型――俗にパイソン90と呼ばれる船級だった。
 パイソン級貨物船は宇宙世紀の地球圏における、小型〜中型民生用宇宙船のベストセラーである。
 その船体構造は、まず船首部に船の頭脳たる船橋(ブリッジ)と着岸腕に推進補機をまとめ、その後ろに貨物船の命である船倉部を繋げつつ、船尾に主推進機一式を置いて締める。
 各主要コンポーネントを一直線に繋いだシンプルな構成だ。平面基調の船体外板は貨物コンテナ等の外付け繋留にも標準仕様のまま対応する。
 パイソン級は月面上を含む多彩な領域での運行に対応しており、顧客の多様なニーズに応じて機関の換装から船倉部の延長・短縮に至るまで変更可能な柔軟性を有していた。
 その普及度とカスタマイズ性の高さから、連邦軍の艦艇乗員たちからはパイソン級をして『民船界のサラミス』とまで称する声もある。
 ――もっとも、宇宙戦闘艦としては間違いなく最多の生産数を誇るサラミス級をもってしても、その生産数の面ではパイソン級にはかなうはずもないのだが。
 パイソン級の姿はどこか大蛇を思わせるが、パイソン90はその中でもかなり小型の構成だ。船倉部の全長は50メートル程度とやや短く、それも外観に寸詰まりでユーモラスな雰囲気を加えていた。
 もしこの場にマコト・ハヤカワ准尉がいたら、その船影をして、かつて地球の日本列島に存在したという珍獣『ツチノコ』に似ている、とでも評したかもしれない。
 大推力の機関部はより大型のパイソン級と共通のまま残し、船体を切り詰め小型軽量化することで、いざという時の逃げ足を稼ぐ――他用途への転用は効きにくくなるが、何より逃げ足の早さが求められる境界漁民の母船としては、それが重要なのだった。
 進み行くパイソン90から、30キロメートルほど前方――艦砲有効射程前後の距離には、連邦軍『中央派』と思しきサラミス改級駆逐艦が浮かんでいる。合計10機近いRMS−106『ハイザック』が、その上下左右の甲板各所で立哨していた。
 さらに遠方には、艇尾機関部の上下にRGM−79R『ジムU』とRGM−79GSR『ジム・ゲシュレイ』の混成4機を露天で載せながら、慣性のままゆっくりと流れていくパブリク改級哨戒艇の姿も見える。P−04周辺宙域の日常風景だった。
 そして暗礁宙域でも、かつてのルウム戦役で破壊された廃コロニーの巨大な姿はひときわ目立つ。
 軽く全長30キロメートルを超えるコロニーの壮大な巨体も、空気が無いため遠近感が働きにくい宇宙空間では、あたかもすぐ眼前を漂う小さなパイプ状の部品であるかのように人間の目を欺いてくる。
 P−04のごく眼前に浮かぶように見えるそれらも、実は200キロメートルを超える遠方にあった。
 P−04を離れ、境界宙域に向かっていくパイソン90級ジャンク回収船『ダーウィン』が、その船体をすっぽり隠すほどに大きい、コロニー本体から千切れて漂うミラー残骸の日陰側へと滑り込んでいく。
 そのミラー残骸裏の日陰側に、張り付くように隠れていた4機のMSがあった。それぞれの頭部で、ゴーグルアイとモノアイの奥が鈍く光る。
「来た。……あそこに降りればいいんだよね」
 同時に『ダーウィン』の前後に2分割された船倉区画の上面でも、後半部側のハッチドアが開きはじめた。
 コロニー残骸の陰へ張り付いていた各2機のRGM−79R『ジムU』とRMS−106『ハイザック』がスラスターを灯すことなく、ただ大型デブリを手押しする反動だけで、その開口部へゆっくりと降下していった。
 船倉内には女性らしき細身体型の軟式ノーマルスーツが一人、赤色灯を振って誘導している。幅も奥行きも20メートル程度の『ダーウィン』船倉ハッチへの、MS4機の同時降下はギリギリだ。
 それでも4機は接触することもなく、鮮やかに着艦してのけた。鈍い着艦の衝撃とほぼ同時に、頭上でハッチが再び閉じていく。
 パイソン90級は正式なMS運用能力を持った艦船ではないから、ジムUにせよハイザックにせよ、サラミス改級巡洋艦のMS格納庫内のように直立姿勢のまま格納されるわけにはいかなかった。
0144フェニックステイル第39話2024/03/10(日) 14:09:50.66ID:O+JwS4S5
 この船倉区画、なにしろ高さの方も20メートルに遠く満たず、MSは直立できない。さらにMSベッドも無いので、そのままでは駐機時の機体固定も厳しかった。
 だから機体が無人の間に船が急な加減速でも掛けたら、MSが船内を転げ回りかねない――そこまでの事情は、この4機に乗る4人の女性パイロットたちも事前に聞かされていた。
 4機は同機種同士が隣り合うかたちで2機ずつ2列になり、両膝を床面に付けて座り込むような姿勢で着座した。幸いなことに側壁にはMS対応規格らしきグリップがあり、脚部の電磁石以外にもそこを掴むことで機体を固定することが出来た。
 持ち込んできたビームライフルやザクマシンガン改は右手に握りこんだまま、盾も左腕に付けたまま。アイネ機が左手に提げて持参した予備の兵装や弾薬、部品入りのキャリーケースは、電磁石ユニットで壁面に固定した。
「とりあえず、これで良し……か」
『各員、異常なければ降機。船橋に集合』
「了解」
 臨時編成の4機を率いる、いつも不機嫌そうな栗毛の美女、カリナ・ベルトラン軍曹からの通信に応答して、アイネ・クライネ伍長は真空の船倉へとコクピット・ハッチを開いた。
 同乗していたマリエル・エイムズ軍曹とともにハッチの枠を力強く手押しし、その反動で『ダーウィン』の床へと降り立つ。
『クシナダ作戦』のため、『ダーウィン』へ送り込まれた5人の女性軍人が船倉内に揃ったのを見届けると、カリナは鷹揚にヘルメットの顎で船橋方向を示した。
 まずは船橋に向かい、先方との顔合わせと作戦説明に入る手筈になっていた。なにしろ前回P−04の連邦軍司令部で行った初回の作戦会議には、肝心の境界漁民の少女たちが呼ばれていなかったのだから。
『へいへーい、軍人さんいらっしゃーい。船橋はこっちだよー』
 真空の格納庫内で、ヘルメット内の無線機に一般回線が繋がってきた。
 船倉内で誘導の赤色灯を振っていた軟式ノーマルスーツ――彼女もアイネと歳の近い少女らしい――が陽気な声色で、MSから降りてきた地球連邦軍の5人を、船倉内を前後に二分する隔壁のドアへと誘導していく。
「あ、ども――」
 アイネが適当に会釈しながらドアを越えた先の前部格納庫には、RB−79『ボール』4機が駐機されていた。いわば『餌』として今回の作戦の要となる、境界漁民たちの機体だろう。
 以前に見た民間警備会社VWASSの機体と異なり、一年戦争当時さながらの長大な低反動砲を装備している。その威容はジム用のハイパーバズーカと比べてもまったく見劣りしない。アイネは唸った。
「うーむ。こうやって近くで見るとやっぱり、ボールの主砲ってすごいな……」
 まともに胴体へ直撃すれば、相手がザクUだろうがゲルググだろうが問答無用で消し飛ばしてきた代物だ。
 その長砲身の迫力と、連邦軍に予備役登録しているとはいえ一介のジャンク回収業者がこんな大物を堂々と装備して許されているP−04周辺の環境の異様さに、アイネは思わず息を呑んだ。
「あれ?」
 そして息を呑んだ次の瞬間、アイネは頓狂な声を上げていた。ちょうど近くに来ていた、訓練生課程からの親友の肩を叩く。
「ねえシエル。あれって、ジム……ジムだよね?」
『モビルワーカー……? ええ。確かに、ジム……ジム、みたい、だけど、……あんなジム、あったっけ……?』
 アイネに聞かれながら同じく格納庫の奥を凝視するシエル・カディス伍長も、戸惑い気味の返事を寄越した。
0145フェニックステイル第39話2024/03/10(日) 14:11:50.08ID:O+JwS4S5
 RGM−79、いわゆる『ジム』には一年戦争以来、大きく4種の基本系列が存在する。アイネたちはそう教えられてきた。
 まず、もっとも生産数が多く、連邦軍あるところほとんどどこでも見かけられる『標準型』。
『A』や『B』のサブタイプを持ち、のちに近代化改修されて今アイネたちが乗るRGM−79R『ジムU』となった系列だ。
『標準型』は地球系のサプライチェーンを用いてルナツーやジャブローで量産されたもので、今なお『R』型の新造が大々的に続いている。
 新興の連邦軍特殊部隊『ティターンズ』でも『RMS−179』の型式番号で採用され、独自の拠点で量産されているらしい。
 もう一つが『C』のサブタイプを持つ、『改型』あるいは『月面型』とも呼ばれる系列。『標準型』に次いで生産数が多い。
 一年戦争中に連邦軍のV作戦に参入したアナハイム・エレクトロニクスを中心とする月面系企業群が、独自のサプライチェーンで標準型と同等の基本仕様を満たしつつ、
独自要素も盛り込んで製造したものだ。
『改型』は一年戦争末期から連邦軍MS閥によって高い評価を獲得し、一時は『標準型』を押し退けて連邦軍第一線MS隊の主力機になるほどの勢いだったという。
 しかしその後、当のMS閥が失脚。連邦軍と月面系企業群との関係も大きく修正されると、『改型』の導入も一気に失速していった。以降『改型』は第二線級部隊に追いやられ、
さらに既存機へ『ジムU』規格を導入する近代化改修事業の対象となった機体もごく一部のみに留まり、事実上見送られるなどして零落。
 今や残存機も少なからぬ数が退役し、コロニー公社などへと民生用に払い下げられているという。
 アイネが交戦し、格闘戦で1機のコクピットを貫いて撃墜した反地球連邦組織『エゥーゴ』のジムも、この『改型』をベースにした改修機だったように見えた。
 噂通り、エゥーゴの背後に月面企業群があるというなら、『改型』のジムを使っていたのも納得できる。
 そして三つめが『オーガスタ前期型』。『G』のサブタイプを持つジムだ。
『オーガスタ前期型』は『標準型』や『改型』と異なり、『ジム』としての基本仕様を必ずしも遵守せず、次期主力量産機も視野に入れた野心的な設計で作られた。
 スペック面では高性能ながらも扱いの難しい機体となり、総生産数もさほどではないらしい。
 これらのうち、戦後に持て余されていた宇宙戦仕様――『GS』型の機体在庫をP−04の連邦軍現地派が引き取り、
独自に『ジムU』規格やその他の近代化改修を施した局地戦機が、RGM−79GSR『ジム・ゲシュレイ』である。
 そして最後の4番目が『N』と『Q』のサブタイプを持つ『オーガスタ後期型』。
 癖の強かった『オーガスタ前期型』の教訓を踏まえ、さらなる新技術を取り入れつつも従来の短所を丁寧に潰すように開発された癖のない高性能機、
RGM−79N『ジム・カスタム』と、ティターンズ主力機も務めた対反乱戦特化型の高級量産機、RGM−79Q『ジム・クゥエル』がそれである。
 素の『オーガスタ後期型』はジムUが一般化した今となっては、スペックシート的にそこまで特筆すべき事項があるわけでもないが、とにかく造りが良いらしい。
 NでもQでもどっちでもいいから一度は乗ってみたいなあ、とアイネはかねがね思っていた。
 一口に『ジム』と呼ばれるMSには、連邦軍中央ですら把握しきれているか怪しいほどに多種多様な派生型が存在する。だが、それらの基本型となるのはこの4系統だけだ。
 そう教わってきて、そう思っていたのだが。
『これ、どう見てもジムっぽいけど……標準型でも、月面型でも、オーガスタ型でもないよね』
「じゃあ、これは、……なに……??」
0146フェニックステイル第39話2024/03/10(日) 14:12:54.78ID:O+JwS4S5
『どしたんすか?』
 アイネとシエルが足を止めて謎のジム風MSを凝視していると、さっきの誘導係がにゅっと顔を出してきた。
 バイザーの向こうの浅黒いボーイッシュな顔立ちの中に、くりっとした大きな瞳がかわいらしくこちらを見ている。
 とりあえず、聞いてみることにした。
「これ、ジムなんですか?」
『あー、らしいっすね。ウチの会社は連邦軍から委託された地上事業で、これの同型ジャンクをたくさん回収してるんすよ。
 一年戦争のとき連邦の地上軍が『標準型』の配備を待てずに先走って、独自規格で勝手に作ったジムがあるらしいんすけど、こいつらがそれだって言ってました。
 んで、こいつは社長が何年か前に、南アジアの山ん中から掘り出してきた奴らしいっす』
『……そういえば、なんか聞いたことあるなその話。確か『陸戦型ジム』とかってやつじゃなかったっけ。今はもう、地上軍でもあらかた退役してるとか……』
「やっぱり、一応ジムなんだ……そんなのあったのか。でも、『陸戦型』?」
 アイネは眉を顰める。ここ宇宙だぞ。
『あちこちの戦場跡からジャンクで回収したのを、他機種とかも合わせてニコイチサンコイチしながら中身もちょろっとイジったりして、後は地上で社用モビルワーカーにして使ってたらしいっすね。
 今回の宇宙進出に合わせて、こいつらも宇宙用に若干いじり直してから打ち上げてきた、って聞きました。うちらは『ディガー』って呼んでます』
「『ディガー』……じゃあこれ、宇宙でも使えるの?」
『そりゃまあ多少は。でもさすがに中ブルだからねー、軍人さんたちが乗ってるような『最新型』にはかなわないっすよぉ』
 あはははは、と気持ちよさそうに少女は笑い、アイネも思わず愛想笑いを返す。
 ジムUが『最新型』、か。エゥーゴの強力な新型MS群を見せつけられた後だと笑うに笑えないのだが、アイネは笑って誤魔化した。
 誤魔化しながら改めて、アイネはダーウィン社のモビルワーカーになっているという『陸戦型ジム』改め『ジム・ディガー』をさっと観察してみる。
 普通のジムなら左右一対の60ミリバルカン砲ユニットが収まっているはずの頭部両額に、それらしく見える開口部は無い。ダーウィン社での改設計とやらで撤去されたのか、元から無かったのか。
 バックパックのメインスラスターは4発ノズルで、全体の意匠はジムUのそれに酷似しているようだ。ビームサーベルが片側に1本だけ挿されている。
 一方、ジムマシンガンなど射撃兵装の類は近くに見当たらない。あくまで民生用モビルワーカーとして、完全な非武装仕様にされているのか。
 代わりに左腕にはやや小振りだが重厚な、盾らしきものが残されていた。鋭利な刃の付いた、ごつい爪部らしきものを備えている。
『エゥーゴ』の改型ジムが『事故』を装いながら仕掛けてきた格闘戦。あのときシュン・カーペンター伍長機を貫こうとした敵機が繰り出してきた盾爪の禍々しさを、アイネは実戦感覚とともに思い出す。
 なかなか凶悪なフォルムにも見えるが、果たしてこの盾は作業用の『工具』として使うものなのだろうか……。
「……おや?」
 軽く身震いしながらも、その盾の表面に3つ斜めに並んで書かれた数字の『7』に気づいて、アイネは声を弾ませながら呟いた。
0147フェニックステイル第39話2024/03/10(日) 14:14:28.33ID:O+JwS4S5
「スリーセブンだ! 縁起のいい機体なんだねっ」
『あー。それ山ん中から発掘したとき、そこの数字の『7』ひとつだけ掠れてギリなんとか読めたらしいんすよね。
 なんか縁起悪そうで嫌だったから、あと二つ足して『777』にして誤魔化したって言ってました』
「…………」
 からからから、と少女は笑う。
 聞かなければよかった。つまり、以前この機体に乗っていたパイロットは……。
『そこの二人、いつまで油を売ってるつもり? いい加減に行くよ』
 無線で呼ばれて顔を上げれば、カリナが腰に手を当てながら不機嫌そうにふんぞり返っていた。
 その傍らでアイネとシエルのMSパイロット訓練生課程の同期、ニノン・ルクレール伍長が口元に手をやってくすくす笑っている。マリエルも呆れていた。
「は、はいっ」
 アイネはばつの悪い返事を返し、5人でエアロックをくぐった。与圧された船首区画に入るとヘルメットを外し、通路を走るリフトグリップを握る。
『ダーウィン』はサラミス改級の5分の2ほどしかない小型船だから、船橋まではあっという間だった。
 トラキアのMS格納庫から艦橋までに比べれば一瞬だ。
 船橋のドアを開けると、ブリッジの小さな空間が広がった。
 大窓を通して宇宙に臨む前縁に、軟式ノーマルスーツを着てコンソールに向かう若い女が2人。そして片側の奥に、旧式パイロットスーツを着たミドルティーンほどに見える少女たちが4人で固まっている。
 そして中央の船長席には、あの冗談じみて大時代な海賊帽を被った金髪ツインテールの長身爆乳美女――クレア・ダーウィン船長が、威風堂々と待ち構えていた。
 クレアが船長席から立ち上がりながらニヤリと笑う。
「ようこそ『ダーウィン』へ! 可憐な漁民少女たちを守らんとする連邦軍人諸官の、勇気ある船出を歓迎しようっ」
「カリナ・ベルトラン軍曹以下5名、MS4機にて乗船完了しました。ダーウィン船長のご厚意に感謝いたします」
 クレアのやたらにオーバーアクションなキレキレの敬礼とまるで覇気のないカリナの敬礼が交錯して、若い女ばかりが10人以上も集まった狭い船橋に何とも言い難い独特の居づらさが発生しかける。
 だがクレアが素早く次の話題を出してきたおかげで、それ以上の空気悪化は回避された。
「ようし、では初顔合わせと行こうっ。アレント社長代行、こちらが連邦軍『亡霊』討伐任務部隊長のベルトラン軍曹だ!」
 旧式パイロットスーツを着た少女たち4人のひとりをクレアが指し示すと、亜麻色の長髪を揺らしながら、美少女が不機嫌そうに顔を上げた。
「…………」
「おお」
 ずいぶんと顔立ちの整った美少女だ、とアイネは唸る。
 美人や美少女は特にここ最近でかなり見慣れた感があったが、それにしても、この少女はかなりのものである。ハートを掴まれそうになってしまった。
 気の強そうな、気を張った感じ。うかつに手を出せば噛まれそうな猫のような気迫。
 だが、それがいい、と感じてしまう。
 存在感にみずみずしい透明さを感じる。年の頃は、ミドルティーンほどだろうか……。
 アイネは思わず手に汗握った次の瞬間、その後方に、見覚えのあるボーイッシュ少女の顔を発見して吹きかけた。向こうもすごい表情でアイネを凝視している。
「えっ」
 なんであの子がここに。確かVWASSとかいう警備会社勤務だったはずでは。警備員から漁民に転職したのか??
 こちらを凝視したまま、驚きと衝撃と喜びと謎の感動が謎の配分で入り混じったと思しき、何とも言えない絶妙に妙ちきりんな表情で硬直したアシュリー・スコットへ、アイネは反射的にぎこちないウィンクを送った。
 それでとりあえず彼女を少し黙らせておくことにかろうじて成功すると、アイネはアレント社長に視線を戻した。
0148フェニックステイル第39話2024/03/10(日) 14:15:58.66ID:O+JwS4S5
 カリナ、マリエル、ニノン、シエル、そしてアイネまでの軍人5人を冷たい瞳でさっと一瞥した後、彼女は進み出ながら、はっ、と一息吐き捨てて一礼する。
「この度はご協力まことにありがとうございます。アレント廃品回収社社長、フィオ・アレントです」
「クシナダ任務部隊指揮官、カリナ・ベルトラン軍曹。よろしく。――このまま彼女たちに、作戦内容を説明しても?」
「ふむ?」
 手短な挨拶を終えると、カリナは船上の最上位者たる船長席上のクレアを仰ぐ。船長から制止されないと見るや、口頭だけでそのまま続けた。
「作戦はシンプル。期間は最大7日間。『ダーウィン』はこのまま船長計画の隠密航行で、境界宙域の『宝船』とやらへ向かう。
 首尾よく接触できたら、あなたたちは回収に行く。その途中で『亡霊』が現れたら、それまで『ダーウィン』に隠れていた私たちが飛び出して、一気に『亡霊』を仕留める。
 騒ぎに感づいたルスランの連中が沸いてくる前に、さっさと引き揚げて帰る。それだけ。以上」
 ――いやいや、ぜんぜん『シンプル』なんかじゃないでしょ。
 カリナの大雑把すぎる説明を聞きながら顔を引きつらせ、アイネは改めて認識する。
 この作戦には何しろ、不確定要素が多すぎるのだ。
 例えば――『亡霊』と接触するより先に、ルスランが暗礁宙域に多数『飼って』いるという宇宙海賊のような雑多な連中に襲われてしまった場合、護衛部隊はどう動くのか。
 どの段階から、姿を現して迎撃してしまってもよいのか。
 あるいは『亡霊』と同時に強力なルスラン哨戒部隊も襲いかかってきた場合、あくまで『亡霊』の撃破を優先するのか、まず漁民を護衛しての安全な撤退を優先するのか。
 何を優先して、何を優先しないのか。それらの基準は何なのか。
 恐るべきことに、作戦計画として事前に対処方針を決定しておくべき事項の多くが、未だにほとんど何の明文化も認識共有もされていなかった。
 ルウム農協の少女兵たちによる当初の立案後、『クシナダ作戦』はその実施主導権を連邦軍内の派閥争いで『現地派』から『中央派』に奪われた。
 それきり細部は混乱の中で実質的に放置されていた。ほぼ完全に『出たとこ勝負』なのだ。
 こんなもの、とうてい『作戦』などとは呼べない――強く懸念するアイネの眼前で、亜麻色の髪の美少女が腕組みしながら半目で呟いた。
「へぇ。あなたたちが、私たちを『亡霊』から守ってくれるってわけ」
「ええ。まあ、そうなるね」
 アレント社長――クレアにそう呼ばれた美少女、フィオ・アレントはカリナを下から舐め上げるように睨み上げる。カリナもそれを胡乱な目つきで受け止めた。
「ちょ、ちょっと、フィオぉ」
 フィオにいきなり友好さの欠片もない態度で入られて、豊満体型で人の良さそうなツインテール少女、マルミン・ポリンがフィオの肩を掴もうとする。
 そしてフィオにその手を払いのけられた。
「どうだか。実際、『亡霊を仕留める』気まではあっても、本当に『私たちを守る』気はない――そんなところじゃないの」
「なに……?」
 フィオの物言いに、カリナが剣呑に表情を歪めながら息を呑む。
 その有無を言わせぬ威圧的、高圧的の見下ろしてくるカリナの態度に火を付けられたのか、フィオは最初から食いつくようにカリナを下から睨み上げた。
「もし首尾良く、『亡霊』を仕留められたとしてもね――それで海賊だのルスランの連中だのが沸いてきて、また『宝船』を逃す羽目になったら意味ないのよ。
 自分で何も考えなくても給料貰えるあんたらと違って、私らは生活かかってんの。『亡霊』も『宝船』も、次で全部片づけなきゃなんないのよ。わかる?」
0149フェニックステイル第39話2024/03/10(日) 14:16:47.54ID:O+JwS4S5
「……そこは、あんたらの手際次第ね」
「はぁ? あたしたちが自分で出来れば、ぜんぶ出来るに決まってるでしょ。やる気無さそうなオバサン連中が問題なのよ。何ならあたしたちのボールとあんたらのMSを交換してみなさいよ。あたしたちだったら絶対ヘマせず全部やり遂げてみせるから」
「…………」
「いや、自分はやっぱりMSよりボールの方がいいッス。一球入魂、ボールですべてやり遂げてみせるのが真のプロボウラー(職業ボール操縦士)ッス」
 カリナとフィオの対決があっという間に白熱しすぎて、まったく空気を読まずに発されたアシュリーの発言は誰の耳にも入らなかった。
 アイネの背中に、嫌な汗がびっしりと浮かぶのを感じた。
「あ、この船のシステムってこうなってるんだー。へー。ふーん。どう、大変?」
「え……? え、ええ……」
 ニノンは何も聞こえていないように、船橋コンソール群の表示を興味深そうに観察する体を装いながら、船橋前列に座る女性オペレータ2人の片割れに話しかける。
 ニノンに話しかけられた女性オペレータはひやひやと後ろの様子に聞き耳を立てていたが、よく見るともう片方は船を漕いで――寝ていた。
 シエルはすべてに呆れかえった半笑いのまま、物も言わない。
「……こうなるんじゃないか、と思ってはいたが――」
 連邦軍側の次級者であるマリエルがアイネの傍らで重く呟きながら、介入のタイミングを計るように場を見回す。
 マリエルはここまで同乗してきたアイネに機内で、カリナが『クシナダ作戦』の全体指揮を取ることへの懸念について話していた。
 カリナは旧サイド5出身者ながら『現地派』を見捨てて『中央派』に取り入り、新サイド4からの『脱出』を目指す事なかれ主義者なのだと。
 MSの腕自体は相応に確かだが、カリナもまた多くの『中央派』将兵と同じように実戦ではしばしば腰の引けた戦いぶりを見せ、『現地派』将兵や戦闘に巻き込まれた民間人たちから不評を買っていたという。
 ――さすがのカリナも『亡霊』討伐という、与えられた最低限度の命令ぐらいはこなすだろう。
 だが、それ以上のことは期待できない。
 今回のような作戦でカリナが今まで通りの姿勢なら、『ダーウィン』や『アレント社』と強烈な摩擦を引き起こす可能性がある。
 ――何ならあのフィオという少女も、カリナのこれまでの行状を知ったうえで食って掛かっている可能性すらある――
 今マリエルの眼前で、何か言ってやった感を醸し出しているアシュリー以外のアレント社の少女2人は、フィオの暴言におろおろと慌てるばかり。
 そして肝心のクレア船長はといえば、船長席にふんぞり返りながら、ただ満面の笑顔で場を見下ろすだけだった。
「おお、熱き魂のぶつかり合い! 立場と組織の枠を超えてともに戦わんとするうら若き乙女二人の魂が、今ここでひとつに溶け合おうとしているッ!!」
 ――いや溶け合うどころか、始まる前から空中分解しかけてますが。
 嫌すぎる。この船橋、あまりに空気が悪すぎた。
 こんなところにはもう1秒だって居たくはないが、この作戦は最長であと7日間続くのである。
0150フェニックステイル第39話2024/03/10(日) 14:18:12.25ID:O+JwS4S5
 アイネはマリエルの傍らで強烈な帰りたさに襲われながら、そのみずみずしい美貌に激昂を宿すフィオに視線を戻した。
「『亡霊』は潰す。『宝船』も獲る。そして『全員で生還する』。『全部』やんなくちゃなんないのよ。ふざけんなよ。あんたらみたいに何のやる気もない雑な軍人どものせいで、……ナイアは……。あたしたちはこれ以上、もう……誰も、失えないのに」
 アイネの知らない誰かの名を呼んだあと、ぎりっ、とフィオがきつく歯噛みする。一瞬俯いたその目に光る何かを見た気がして、アイネははっと息を呑んだ。
 フィオが再びカリナを睨み上げ、真正面から啖呵を切る。
「テキトーにあたしたちだけ『餌』にして、『亡霊』だけ殺って帰ればハイ終わり、なんて安直な、漁の邪魔にしかならないクソ軍人どもなら……さっさとこの船下りて今すぐ帰れ、って言ってんのよ!」
「こ、……こんの、クソガ――」
「や、やばいよフィオぉ。謝ろ? ね? 今からでも謝ろ??」
「お、お姉ちゃあん!!」
 いよいよ青筋を立てながら目を剥いたカリナが、フィオへと半歩前に出る。顔面蒼白涙目になった豊満なマルミンと小柄なボナが両脇からフィオを守るようにすがりつく中、迫りくるカリナの長身が拳を振りかぶり、いよいよフィオを打ち据えるかと思われたとき――
「大丈夫。それ、私が全部やりますっ!」
「え……?」
 二人の間へ割り込むように、アイネが大きく歩を進めていた。
「境界漁民の皆さんを守って、出てきた『亡霊』を仕留めて、『宝船』もちゃんとP−04まで持ち帰ってもらう。それ、私がやります。私なら出来ます」
「なっ、――」
 強引に割り込んできたアイネの巨大なバストが、たわわに大きく揺れ弾むその圧倒的な質量の暴力で、二人を強制的に引き離す。フィオが反射的にアイネを見返してきたが、その表情に過ぎったわずかな怯みの色を、アイネは見逃さなかった。爆乳の圧でさらに押し込む。
「だ、誰よっ。この辺の部隊じゃ、見ない顔と名前みたいだけど――」
「アイネ・クライネ伍長です」
 ストレートに短切に、はっきりとフィオに名乗って機先を制す。アイネは畳みかけるように後を続けた。
「ここでは新顔だけど、もう実戦経験は十分あります。私はジオン残党の名だたるエースパイロットと何度も戦って、勝って、生き残ってきました。そう。――私は、強い、です」
「は……っ? な、何を。で、デカけりゃいいってもんじゃ――」
「そうッ! クライネ伍長は、超強いんッス!!」
 びりびりと鼓膜が震えるほどの絶叫。前列で寝ていた女性オペレーターがむくりと起きた。
 全身を躍動させながら絶叫したアシュリーの援護射撃を背中に受けながら、アイネは予想外の伏兵に狼狽えるフィオを、そして拳を振り下ろす先を無くしたカリナを見つめた。
「だからアレント社長、私を――私たちを、信じてください。あなたたちのために、必ずやり遂げます。私は連邦軍人として、みなさん連邦市民を守ります。
 ――ベルトラン軍曹、やりましょう。この作戦、私たちなら完遂出来ます」
 何気無さそうにモニターの文字列へ視線を固定していたニノンが、横目でちらりとアイネを見た。マリエルがふっとため息を吐き、シエルがまた、呆れたような苦笑を漏らす。
「ほほう……これは実に予想外。……ここで新たなる勇者の誕生とは、……な!」
 徹頭徹尾何一つ変わらぬ笑みのまま船橋内を睥睨する、クレア船長の眼下。
 その場の全員を力強く眺め渡して、アイネは力強く宣言した。まずフィオとカリナに、次いでシエルとマリエルに――そして何より、自分自身へと言い聞かせるように。
「やりましょう――やり遂げてみせましょう。私たちの力で、私たちの『クシナダ作戦』を」
0152フェニックステイル投下終了について2024/03/20(水) 10:12:32.38ID:1KG1tHql
もうここには誰もいらっしゃらないようですので、今回をもって拙作の当スレッドへの投下を終了とさせていただきます。
もし拙作の今後にご興味おありの方がいらっしゃいましたら、引き続きpixivとハーメルンにてご確認いただければ幸いです。
今まで長らくお世話になりました。
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