男村人ぼく×サム 

「博物館に行きたい?オイオイ、オメェそういうのは、オレみてぇなムサいオッサンじゃなくて、他のやつを誘うべきなんじゃねぇか?」
サムは呆れたみたいに言うけど、君がいいんだ、と彼の目を見て言う。
「しょうがねえやつだなぁ、オイ!」
そんなこと言って、サムは嬉しそうに笑った。
じゃあ明日ね、って言って、ぼくは自宅に戻った。2人きりで出かけるなんて、これはもうデートだ。
彼はきっと気づいていないだろうけど、誘いを了承してもらえた時、ぼくは嬉しくて嬉しくてしかたなかったんだ。
いや、本当の最初に、彼がこの村に来た時から、
ぼくは心が躍ってしまって、彼の自宅に押しかけて、当たり障りのない挨拶をして、それでも彼が嬉しそうに応対してくれるもんだから、
幸せだって脳がうるさく恋を鳴らしてたんだ。
それから会うたびに話しかけたし、手紙も書いたし、何度も好きだって伝えたけど、またかよ、なんて軽く笑って返されて、
本気で取り合ってくれていないのか、
それともぼくが冗談めかしてそんなことを言ったんだって思ってるのか、わからなかったけど、
それでもぼくは何度も好きだって言って、
でもサムは少しも嫌そうな顔しなかったから、
きっと両思いにもなれないけど、嫌われることもないんだろうと思った。
曖昧な関係がこの終着点なんだって思った。
嬉しいのか切ないのかわからなかったけど、
ぼくはベッドに横になって、彼の写真を見ながらおやすみって呟いて、約束の時間の3時間前に起きた。
サムの家に彼を迎えにいって、彼はぼくが来たことに嬉しそうに笑った。それがぼくは嬉しかった。
ぼくが早く来たことに彼は怒らなかった。
「オメェがくるってわかってたら、団子の一つでも用意したのによぉ」
彼はあっけらかんとして笑った。
君が約束してくれたことが嬉しくて、待ち合わせなんてしてらんなかったんだ。
すぐ用意するからな、なんて言って、座布団を寄越してぼくを座らせる。なんて幸せな時間なんだろうか!

ぼくたちは取り止めもない話をしながら
博物館に向かった。
フータはスヤスヤと寝ていた。
彼はその様子を見て呆れたように笑った。その顔がかわいかったんだ。
彼はぼくが寄贈した魚を楽しそうに見つめて、
一際と大きな水槽の前で止まって、サメがゆらりと泳いでいて。
吸い込まれそうなくらいに綺麗だった。
水槽が光を反射して、それが彼に水面の影を描いて、彼は嬉しそうに笑っていた。ぼくは目が離せなかった。幸せだと思った。
ふと思い出したみたいにスマホを取り出して、カメラ越しに彼を見つめた。
彼はぼくに気づくと、屈託のない笑顔を浮かべて、手を振った。
ぼくは写真を撮るのも忘れて、ただ、彼をずっと見ていた。