【風俗嬢】過ぎ去りし想い出は【風俗店員】part3 [無断転載禁止]©bbspink.com
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前スレからの続きです。
スレ主が自分の過去を淡々と書き綴るスレです。
part1
前スレ【風俗嬢】恋愛物語~過ぎ去りし想い出は【風俗店員】
http://tamae.2ch.net/test/read.cgi/dame/1483366309
part2
前スレ【風俗嬢】恋愛物語~過ぎ去りし想い出は【風俗店員】part2
https://rio2016.2ch.net/test/read.cgi/loser/1486558015/ 俺はフロントに戻り、自分がマイを追いつめ、その結果他の女の子まで被害を受けてしまったことを、
後悔した。
早く修復しなくては。
それにしてもミサキとレイナが言いかけたことが気になった。
昨夜渋谷で何があったのだろうか?
営業終了後、みんなが帰るのを見計らって、マイの個室に行った。
今日もマイはラストまで働いたので、店泊予定だった。
「お疲れ様。ちょっといい?」
「うん。どうしたの?」
俺は、昨夜の渋谷のことを聞くのは最後にしようと思って、
まずはミサキとレイナが思ってることを、マイに伝えた。
「マイ、あまりプレッシャーに感じて欲しくないんだ。
今までどおり、仲良くやってくれるだけで充分なんだから。」
「だって、みんな最近怠けてるよ。指名だってとれてないでしょ。」
「そうかもしれないけど、それはマイの責任じゃない。リーダーとして
みんなを励ますことはあっても、責めちゃダメだよ」
マイは納得がいかない顔で、だまりこんでしまった。 「話は変わるけど、ミサキと渋谷で何かあったのか?」
俺がそう問いかけると、マイはびくっと体を震わせ、
下を向いたまま固まってしまった。
俺が声を掛けても反応しない。
やがてマイを顔をあげると、何かを決心したように立ち上がり、
荷物をまとめて無言のまま個室を飛び出していった。
「お、おい!どこ行くんだよ?」
俺の呼びかけに振り向くこともせず、マイは店を出て、深夜の歌舞伎町の中に消えていった。
今日はそれ以上追いかけても無駄なような気がした。
そこからマイとは連絡が取れなくなってしまった。
どれくらいの期間だっただろう?
残念ながら記憶にない。
数日だったか、数週間、あるいは数カ月・・・
いや、数か月なら覚えてると思うから、せいぜい1〜2週間だったんじゃないかな。
次にマイの所在がわかったとき、彼女は意外な場所に現れたんだけど、
その前に、ミサキとレイナが言いかけた「昨夜の渋谷の事件」をミサキから聞き出すことができたので、
その話をする。 あの日ミサキから「昨夜渋谷で・・」と最初に言われた時、
嫌な予感がしてたんだ。すごく嫌な予感が。
というのも、以前マイからこういうことを打ち明けられたことがある。
「うーさん、私ね、このまえ渋谷でスカウトに声かけられたの。」
「え?スカウトって風俗の?」
「うん。あっ、でも断ったからね。もちろん!」
「なんだ。驚かせないでよ。びっくりした。」
「クスクス・・でもね、移籍したら祝い金100万くれるって言われたから少し考えちゃった」
「ひゃ!ひゃくまん?そんなの詐欺だって!入店しても絶対くれないよ!」
「うーん、多分、ホントにくれると思う。」
「なんでそう思うの?」
「それはたまたまその店が、私の知ってる人がやってるお店だったから。」
「え?」
「稲山会の直営店なの。」
左腕に黒豹の和掘りがあるマイのことだ。
そっち方面に人脈があることは予想はしていたが、直接本人の口から聞かせられると、
ちょっと俺は尻ごみしてしまった。
「そ、そうなんだ・・」
「うん。もうかかわりたくないから逃げてきちゃった。」
たぶん、本当に100万もらえたとしても、店で働くだけでは済まされないんだろうな、
ってマイはわかっていたんだと思う。 その話を前もって聞いていたから、ミサキから「渋谷で」と言われた時、
そっち系のトラブルなのかと予感はあった。
「ミサキちゃん、マイちゃんと連絡が取れなくなっちゃったよ。
このまえ言いかけたアレ、渋谷で何があったの?教えてよ」
「うん、話しますね。あの日、マイさんからご飯誘われたの。
そんなこと今までなかったし、なんで渋谷なんだろって思ったけど、
せっかく誘ってくれたんだから断りづらくて、渋谷に行ったんです。」
「食事に?マイが?ふたりっきりで?」
「うん。ふたりで。イタリアンの店に連れてってくれた。」
「へえ、マイちゃんとミサキちゃんが二人でどんな話するのか、想像もできないな。
もしかして、仕事や、指名数のお説教みたいな話されてウンザリしたとか?」
「そうそう、私もそれ系の話だと思ったから、ホントは行きたくなくて。
でも、もっとヤバい話だったんですよ!」
「もっとヤバいって何が?」
俺は嫌な予感マックスになってきた。
「・・・クスリすすめられた」
俺は心臓が止まりかけた。 「クスリ?!それってまさか・・・」
「たぶん・・・マイさんは精神安定剤って言ってたけど、絶対そうじゃないですよね・・?」
俺は全身から脂汗が滲み出てきた。
まさかそんな話が身近に現れるとは・・・
いや、こういう世界だ、あってもおかしくはない。
でもそれなりに深い仲であった相手にこんなことが起こるとは・・
しかも俺はまったく気がついてなかった。。
俺はかなりショックを受けた。
思い返せば、思い当たるふしもあった。
マイは腎臓が弱いと言ってて、よく体調不良になった。
オーラスで働かせたことも多いから、俺は申し訳ない気でいたが、
俺が病院に行ってこいと言っても、マイは決して病院に行かなかった。
それは尿検査や血液検査をされたくないからだったのかもしれない。
実家に住んでてお金には困って無いはずなのに、やたら稼ぎを気にして、
体調が悪くてもハードに仕事をこなしていたのは、決して俺や店のためではなく、
薬を手に入れるためだったのかもしれない。 俺はミサキからその話を聞いて、マイと体の関係を結ばなかったのは正解だったのかもとか
思いもしたが、むしろ逆だった。
俺はマイを救いたいという気持ちが強くなり、より愛おしく感じるようになってしまった。
それが地獄への入り口だとしてもだ。
俺はマイに長文のEメールを何度も送った。
後から読み返せば恥ずかしくなるような内容のだ。
【好きだ。戻ってきてくれ。マイの力になりたい】
そんなような内容だったと思う。
好きなんて言葉、今までマイには一度も言ってなかったが、
俺はマイが応えてくれるなら、マナミを切る覚悟が出来ていた。
何度送ってもしばらく返信は無かったが、やっと返事が来た。
【うーさんごめんね。うーさんの気持には答えられない。
お母さんにも相談したけど、結婚を考えられる人と付き合いなさいって言われちゃったの】
お母さんに相談したなんて絶対嘘に決まってるけど、
マイが俺を真剣な恋愛対象とは見てなかったことが、はっきりわかった。
俺はなんとかマイの力になってあげたいと思っていたんだけど、
マイは俺の力なんて必要としてなかったってことだ。
俺はそれがわかって肩を落とした。 それから数日後だったと思う。
3号店の店長のミヤッチから、俺に連絡があった。
「部長、そっちの店のマイちゃんが、ウチの店に来てますよ?
こっちで働きたいって・・・もう本店には戻りたくないって。
なんかあったんすか?」
俺はほっとした。
自暴自棄になって、渋谷の稲山の店に行ったんじゃないかって思っていたから。
ウチのグループに戻ってきてくれたら、また顔を合わせる機会もあるだろう。
俺は本店と3号店をまとめる統括部長だし、そのチャンスはあるはずだ。
「そうか、マイがそっちに?じゃミヤっち、悪いけど面倒見てやってほしい」
「部長がそういうなら、マイチャンなら大歓迎すよ。じゃ在籍こっちに移しますね」
「ああ。そうしてくれ」
いつかまた顔を合わせて、弁解のチャンスがあると思っていたが、
実際はマイは決して本店には顔を出さず、
俺も3号店には行きづらくなってしまい、しばらくは顔を見ることはなかった。
いや、結局、最後まで会うことは無いまま、終わったんだ。 マイが店からいなくなって、ミサキやレイナは元通り生き生きと楽しそうに働くようになり、
俺はマイのことを忘れようと、マナミとの関係修復に努めるようなった。
マイはマイで、3号店で頑張ってるという話をミヤっちから聞き、
ああ、これでよかったんだ、と思うようになった。
だけどそう思ったのもつかの間だった。
ミヤっちは3号店の店長だけど、グループ4店舗の広報部長も兼ねていて、
もともと1か所にじっとしてられないタチだから、
ちょくちょく本店にも油を売りに来ていた。
そのミヤッチが、顔を見せるたびに、痩せて行ってるのが明白だった。
顔色も青白く、目は睡眠不足でくぼみ、とても健康な20代後半の男には見えない。
毎日のように顔を見てるが、それでもはっきりとわかるくらい、毎日少しずつ痩せている。
着ているスーツがダボダボだ。
もともとたいして強くない空手家だけど、今のミヤっちなら片手でノックアウトできそうだ。
「おい、ミヤッチ、最近顔色悪いぞ?ちゃんと飯食ってんの?」
「いやー、夏バテっすかね。食欲があんま無くて、でも大丈夫っすよ!」
いつも麦茶の1リットルパックを持ち歩いてがぶがぶ飲んでいる。
げっそりしながらも眼光だけはやたらギラギラしてる。
彼の痩身の原因は明白だった。 マイとミヤッチが付き合いだして、二人揃ってポン中になった、
という想像はついた。
二人が付き合うのは、なんとなく予想はついた。
年齢も近く、偶然にも二人は左腕に似たような刺青があり、
マイは黒豹、ミヤッチは虎の違いはあったものの、なにか通じるものがあるのだろう。
確認したわけではないから、付き合ってたのかどうか、俺には分からずじまいだけど、それならそれで良いと俺は思っていた。
稲山会のやくざの女になってることを想像していたから、それよりずっとましだ。
だけどミヤっちは、もう少ししっかりとした男だと思っていたから、
簡単にクスリに負けた姿をみて、俺は残念だった。
俺は二人のことも心配だったが、他の男女スタッフにクスリが出回らないか、
それが一番心配だった。
俺の懸念は的中し、本店の女の子の中に、あきらかに挙動がおかしい連中が数人現れた。
幸い、それらの連中のほとんどは、店の中核メンバーではなく、
週に1度か2度しか出勤しないような、アルバイトのガングロギャルだった。
そいつらには客を付けず、干していたら自然に退職していったのでたいした問題にはならなかったが、
看板娘のナツキが怪しい動きを見せていた。
ナツキの若くてみずみずしかった肌は荒れ、いままで真面目に出勤していたのに、
よく仕事をさぼるようになってきた。 ナツキはAV会社の所属だから、所属会社に毎月決まったお金を払っているし、
北新宿のそこそこのレベルのマンションを、寮として無料で貸し与えていたので、
仕事に出てこなくなるのは店にとって大損害だ。
寮はコンクリート打ちっぱなしのおしゃれなマンションで、間取りは2LDK、
家賃は20万近く払ってたような覚えがある。
他の子も寮に住んでる子はいたけど、大久保や百人町のオンボロマンションだったので、
それに比べるとナツキは特別扱いだった。
そしてその日も、ナツキは出勤してこず、電話してもコールはするものの、応答はなかった。
俺はナツキのマンションのマスターキーを持って、歩いて北新宿まで行った。
歌舞伎町から歩いて20分くらいだったか。
普通に歩けばもっと早いかもしれないけど、俺は嫌な予感がしてたので、
かなりゆっくりと歩いて向かったような覚えがある。
やがてマンションに着き、部屋の玄関の呼び鈴を押したが反応がなかったので、
俺はマスターキーを使って部屋に入った。
「おーい、ナツキちゃん・・・いないのかな〜?」
と思ったら、居た。
ベッドルームで荒い寝息を立てて、寝ていた。
「ちょっ!おい、大丈夫かナツキちゃん?具合悪いのか?」
声をかけても、体をゆすっても、起きる気配がない。
こいつはやべえ・・・完全にキマッてるよ・・・
こりゃ今犯しても気がつかないんじゃ、とか考えもしたけど、
問題がこじれるだけだから自制した。
俺は軽く部屋の中を物色すると、あったよ、ごみ箱の中にポンプが。 さて、どうするか。
救急車や警察呼ぶわけにもいかないし・・・
まあ、ナツキの寝息を聞いてる限り、命にかかわるようなこともなさそうなので、
俺はナツキをそのままにして、店に戻ることにした。
戻ったら支社長に相談しよう。証拠品としてこのポンプは持って帰ろう。
歩いて帰る道すがら、俺は考えた。
いったいどういうルートでクスリが流れてきているのか。
マイはナツキとはほとんど接触がなかったので、
マイから直接ナツキにクスリが流れることは考えられなかった。
ミヤッチもそこまで大胆なことができる男ではない。
外見は突っ張っているが、内面は気の小さな男だ。
だから、マイやミヤッチ、ナツキの裏に、だれか黒幕がいるはずだ。
それがだれなのか。
俺はヤマノが怪しいと睨んでいた。 最初のころにも書いたけど、ヤマノは入店時にはおとなしい黒髪のボブで、
従順な従業員だったが、すぐに金髪の坊主あたまに変え、本性を現すようになった。
くるぶしからクビ根っこ、手首までの全身の入れ墨を入れた男で、
今は俺の後をついで本店の店長をしている。
ヤマノは最近、俺はもちろん、支社長にまで口答えするようになり、
俺たちを追い出して店を乗っ取るという気持ちを、隠そうともせず、
前面に出すようになってきた。
裏で女の子たちに、あることないこと、俺の悪口を流布しているのもわかっている。
こいつは見た目が完全にやくざだけど、実は知略家で、頭の切れる男だ。
簡単にしっぽをつかませるようなヘマはしないだろう。
奴が店長になってすぐのころは、女の子たちには嫌われていたが、
いつのまにか、ヤマノ派の女の子グループが出来ていた。
奴がやったことを想像すると、女の子や男子スタッフに飯を奢り、
俺や支社長のことを貶め、ひとりずつ自分の傘下に加えていく。
そして言うことを聞かない奴にはクスリで操る。
ちょっと考えすぎかもしれないが、そこまで策を張り巡らせるようなやつなら、
俺に勝ち目は無い気がしていた。 もう俺は、修復は不可能だと感じていた。
火災以降、相変わらず客足は戻らず、給料も満額もらえない日々。
なんとか持ち直そうとして指名推奨制にして、
柱と考えていたマイを失った虚脱感。
クスリが蔓延した店内。
ヤマノとの確執。
レジから金を抜きだしパチンコに明け暮れる支社長。
俺はすっかり、モチベーションを失ってしまった。
あとは、いつ辞めるか、辞めたあとどうするか。
もう財布貯金も無い。またゼロに戻ってしまった。
なんのために東京に来たのか。
地方のヘルスに入店したのが約4年前。
この4年間、まったく意味のないものになってしまった。
情けなくて、自然と涙がこぼれてくる。
まわりは敵ばかりだから相談する相手もいないが、
唯一、ゴローだけは別だ。
ゴローは2号店と4号店を統括する部長職で、
1号店と3号店を見ている俺と同格だけど、
俺より9歳若い。
でも、俺よりこの商売に関しては天才的なものがある。
地方都市にいたときから一時的だけど一緒の店で働いてたこともあるから、
相談できる相手はゴローしかいなかった。 一旦ここまでです。またもう少し書き溜めて投稿します。 あーうー私がうーちゃんです。見るからに見た目こわい(いや、ぜんぜんヘタレの一般人』のヤマノに、怯えてしまっていたんです。
、怖がって、しまっていたんです。あーうーあーうー私がしぶんで、しぶん、うーちゃん呼ぶもらいこじきの、うーちゃんなんです。
ちなみにまなみのメコは鬼くさいです。 ゴローの店も火災以降は泣かず飛ばずだったが、
店の規模が小さいので、家賃など経費も少なく、
1号店ほど火の車というわけではなかった。
それに普通の性感店の1号店とちがって、ゴローの2号店は学園イメクラ、
4号店は人妻店だったので、固定客の割合が多く、客単価が高いのも幸いしていた。
その目のつけどころがゴローのすごいところだ。
「ゴロー、もうこっちはダメだよ・・・もうどうしようもない」
「○○(俺)さん、どうするつもりですか?」
「もう辞めるしかないかなって思ってるんだけど・・・」
「○○さん、辞めるなら、一緒にデリ、やりません?」
「デリヘル?そんな金、もうないよ」
「僕もないですけど、200万くらいなら、女からひっぱれますよ。」
「え、マジで言ってんの?」
「ええ本気ですよ。前から考えてたんです。デリならそれほど金もかからないと思うし、どうですか?」
「一緒にって言うけど、ゴローはどうするの?」
「僕は今のここに残ります。僕がオーナーで、○○さんが店長って形にはなりますが」
俺がゴローの部下になる。
俺は9歳年下のこの男が好きだったから、なんの抵抗もなかった。
なにより、他に行くところもなかったし、まだ東京に残ることができる。
デリの事務所で寝泊まりする場所も確保できるだろう。
俺の決心は固まった。 それ以降、仕事中に店を抜け出し、ゴローとルノアールで密会し、何度も打ち合わせをした。
あ、そうそう靖国通り沿いの居酒屋も行ったな。仕事中だけどw
「集」ってお店。当時オープンしたばかりで、ゴローがお勧めっていうから。
なんで覚えてるかっていうと、今でもあるから。
正確な店名を調べてみたら、炭火BAR集。
歌舞伎町のオシャレ系居酒屋でこんなに長く続いてる店も他に無いんじゃない?
結局1度しか行かなかったけど。
女の子や支社長たちとよく行ってた、セントラルロード沿い、コマ劇前の「炙り屋」はいつのまにかなくなってる。
当時、セントラルロードって言ってたけど、今はゴジラロード?になっちゃったな。
今では昔なつかしコマ劇場は無くなり、高層の東宝ビルになっちゃったけど、
コマ劇が解体されて、高層ビルが建つって知ったとき、
こんなでっかいビル、完成までいったいどれくらいかかるんだろうって思っていたけど、
もう開業して2年以上経つのか。
年月が経つのは早いもんだ。
歌舞伎町は今でもちょくちょく行くけど、ナイタイギャラリー、コマ劇場、喫茶上高地、いろいろ変わっちゃったな。
よくウィスキー買いに行ってた、信濃屋は今でもまだあるね。
よくホームラン賞のタオルもらってた新宿バッティングも健在でうれしい。
今でも130キロ、打ち返せるかな?
なつかしいなあ。
でっかいごみ袋に、洗濯物詰めて通ったコインランドリーはまだあるのかな。
サクラと住んでたアパートも当時新築だったけど、最近見たら、結構古ぼけた感じになってた。
アパートのオーナーが飼ってた、でっかい犬はもういなかった。
そりゃ生きてないよな。
店を辞めて、デリヘルやろって決めたとき、なんだか走馬灯のように、いろんなことを思い返したのを覚えてる。
まともな辞め方なんかできないだろうし、バッくれれば、当分の間は歌舞伎町には脚を踏み入れられないって、
思っていたから。 話がそれちゃったな。
ゴローと打ち合わせして、デリの事務所と女をどうするかをメインに話し合った。
けっこうゴローとは意見が合わなかったんだ。
金を出すのはゴローだけど、その金はゴローの女の金だから、
ゴローは俺ほどはひっ迫してなかったんだ。
ゴローは経営そのものより、自分の都合と、今の店での保身を優先しているのがわかった。
まず事務所だけど、ゴローは中野坂上のマンションに住んでたから、
歌舞伎町との中間にある、西新宿のマンションを事務所として借りようとしていた。
実際、俺は不動産屋に案内されて下見も行った。
(ちなみ数年後、そのマンションでポール牧が死んだ)
ちょっと古いけど、広いし間取りも良いし、確かに理想的な物件だったけど、俺は反対した。
なんと言っても家賃と初期費用が高すぎる。
たしか家賃が25万くらい、初期費用は150万くらいだったと思う。
これでは事務所を借りるだけで予算がふっとんでしまう。
それをゴローに言っても、「お金ならなんとかなるでしょ」くらいのことしか言わない。
だけどこっちとしては、ゴローの金じゃないことを知ってるだけに、
女が出してくれなくなったら終わってしまうわけだから、
出来るだけお金をかけずに済ませたかったんだ。 事務所より大事な、女についても意見が合わなかった。
俺は今の店から、何人かひっぱるつもりでいたし、
ゴローもそれに協力してくれるものだと思っていたんだ。
「俺、5人、少なくとも3人は今の店から引っ張れると思う。ゴローは自分の店から何人くらい連れてこれる?」
「いや、○○さん、それはダメです、他の幹部連中にバレてしまうから、僕も引っ張れないし、○○さんも引き抜きはやめてください」
「ええ?そのアテがあるからデリやろうって言ったんじゃないの?じゃどうすんの?女無しで出来ないよ?」
「今の店の子は引き抜けませんけど、僕がなんとか探してきますんで、女は心配しないでください」
「そうか、ゴローがそういうなら・・・あと、警察の届け出はどうしよう?」
「○○さん、僕は届けは必要ないと思ってます。ホテトルとかみんな無許可ですよ。」
「いや、オーナーはゴローだけど、名義は俺だろ?俺、逮捕されるのだけは御免だ。」
「大丈夫ですよ。今の店でも無許可でやってるじゃないですか。」
「それが上手くいかなくなってきたから店が傾いたんじゃないか。デリは簡単に届けが出せるんだから、オカミのお墨付きになったほうがいいよ」
最初から意見がいろいろ食い違ってて、俺は不安になってきた。
だけど俺は後戻りできない。もうデリで食ってくしか、道は残されてないんだ。 なかなか話がまとまらない日々が続いた。
このままだと、すぐ今の店を辞めるわけにもいかない。
だけど、そんな中、俺は再びヤマノと衝突してしまった。
ヤマノは店長だというのに、午後になっても個室で寝ていた。
しかも店の女と一緒の部屋に。
以前も同じことがあって、俺が叱りつけたらしぶしぶ出てきたけど、
今回は、もう俺はこの店がどうなっても良いと思っていたし、
俺は今回のことを、自分が辞める正当な理由として利用できると考えた。
パチンコ狂の支社長には申し訳ないとは思わなかったけど、さすがに飛ぶとなると気が引けるし、
俺を信じてくれていた女の子たちや、地方都市にいるオーナーや部長に、恩を仇で返すことになる。
だから俺は、ヤマノと、ヤマノを店に連れてきた支社長に、店の責任を取らせるために、ここで奴と衝突する必要があったんだ。
プルル・・・プルル・・・
フロントから、ヤマノが寝ている個室のインタフォンをコールする。
だけどなかなか出てこない。
プルル・・プルル・・・
何度かしつこくコールするとヤマノが出てきた。
「るっせえな!なんだよ!寝てんだよこっちは!!」
「何だとコラ?その口のきき方は!何時だと思ってんだテメエ!」
俺を舐めていたヤマノは、俺がいきなりブチ切れて、ちょっとひるんだように見えた。 あーうーあーうー私がうーちゃんです。しぶんで、しぶん、うーちゃんのことうーちゃん呼んでしまっているんです。
実際はヤマノに怯えていたんです。
怖がってしまっていたんです。
うだつ上がらない、私の名前はうーちゃんです。
ちなみにまなみの親戚全員もらいこじきなんです。 俺とヤマノの言い争いはしばらく続いた。
店内には二人の怒号が響き渡った。
薄いカーテン一枚で隔てられた待合室には、数人の客がいたはずだが、
客も固まっているのか、物音ひとつしなかった。
やがてヤマノは分が悪いと見たのか、方向転換を試みた。
「部長、へへ、威勢が良いのは結構だけど、知ってんだよ、俺」
「なにを言ってんだオメエは!」
「へへへ、マイチャンに送ったメール、なんだよ?あれ?」
俺はドキリとした。
「好きだー、だのなんだの。ギャハハハ!おお恥ずかしい!3号店ではみんなの笑いのタネだぜ!
そんなメールを店の女に送るような男が、偉そうなこと言えんのかよ?!え?部長さんよう!」
俺は愕然とした。
俺が個人的にマイに送ったメールが、ヤマノや他のスタッフの目に入っている・・・
どういうことだ?
俺はマイにそこまで恨まれるようなことをしていたのか?
それともマイは最初から俺をおちょくっていたのだろうか?
俺は言葉が出てこなかった。 俺はもう、ヤマノと争う気力が果てた。
張り詰めていた糸が、ぷつんと切れてしまったのを感じた。
「何黙ってんだよ!恥ずかしくてものも言えねえのかよ?!」
「もういい」
「あぁん?」
「あとはお前の好きにしろ」
俺は黙って、レジから10万を抜きだし、ご丁寧に出金伝票を切ったんだ。
「○月分、給料未払い分」と書いて。
ヤマノは黙って見ていた。
俺も黙ったまま、あらかじめ荷物を詰めていた大きなバッグを抱え、店を出た。
誰も何も言わなかった。
今日限りで、俺の歌舞伎町での戦いが終わった。
数年前、初めて歌舞伎町に降り立った日から、サクラをはじめ、他の子たち、
信用できる従業員仲間たちから、たくさんの良い思い出をもらった。
苦しかったことも多いけど、楽しかったことのほうがずっと多い。
きっと一生忘れない。
でも今日ですべてさよならだ。みんなありがとう。
たぶんこれから先、誰とも会うこともないだろうけど、元気でやってくれ。
俺はバッグを抱えたまま、靖国通りに出て、あてどもなく3丁目方面に歩いた。
その道中はよく覚えてないけど、きっといろんなことを思い出しながら歩いていたんだろうと思う。 そうだ。間違えなく覚えてることがひとつある。
俺は放浪しながら、マナミに電話を掛けたんだ。
マイが完全に俺から離れたとわかった途端、マナミの声が聞きたくて仕方なかったんだ。
調子良すぎるのはわかってる。
「うーさん、どうしたの?」
マナミはその日、休みで店にはいなかったから、俺とヤマノの衝突は知らない。
「俺、ついさっき、店、飛んできたよ。」
「え!?マジ?どーしたの?今どこにいるの?」
「ちょっといろいろあって・・今ぶらぶらしてる。ごめんな、何も言わずに」
「・・・これからどうするの?」
「実は、ゴローと一緒に、デリヘルを立ち上げる計画なんだ。これから急いでその準備をする」
俺は、マナミにも縁を切られる覚悟で言ったんだ。
マナミは知らないとはいえ、他の女にうつつを抜かし、マナミを置いて勝手に店を辞めている。
愛想をつかされて当たり前だ。
「ほんとにごめん。」
さよならのつもりで、そう言ったんだ。
「あたしはどうすればいいの?」
「えっ?」
「あたしはうーさんのデリヘルで働けばいいの?」
前触れもなく、勝手にマナミを置いて逃げてきた俺に、
マナミはなんの躊躇もせず、ついてきてくれると言っている。
その言葉を聞いて、俺はマナミが愛おしくてたまらなく、そして、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 「俺についてきてくれるのか?」
「うん、だってうーさんのいない店で働いていたくないもん」
俺は涙腺が崩壊寸前になった。
こんな良い子を裏切ってた自分が、また情けなくなった。
「ありがとう。マナミ。本当にありがとう」
「・・ううん」
「でも、まだ事務所も決まってないんだ。それに、ゴローと一緒にデリヘルを開くけど、
あの店の連中には内緒でやるんだ。バレるとゴローが困るから、マナミは俺が連絡するまで、
今の店で働いててほしい」
「うん、わかった」
「必ず連絡するから、絶対に!」
「うん。待ってるね」
店の女は引き抜くなとゴローから言われていたから、マナミのことは今はまだゴローには言えない。
だけど、マナミという味方が出来て、俺は心強かった。
さて、少し足取りも軽くなった俺だけど、宿なしには違いない。
のんびりはしてられないけど、とりあえず今夜の宿をケータイサイトで探し、
新宿5丁目近辺の安いビジネスホテルにしけこんだ。
ホテルにつくなり、支社長から何度も何度も着信があったけど、俺は全部無視し、
ゴローに電話をして、今日で店を飛んできたことを報告した。
たしかまだ日は暮れてなかったけど、どっと疲れがでた俺は、食事も取らずにベッドで深い眠りに落ちた。 あーうーあーうー私がうーちゃんです。しぶんでしぶんうーちゃん呼んでしまっているんです。
店から金パクって立派な犯罪者なんです。
そして、まなみのメコはくさすぎたんです。そしてうーちゃんは、五郎に思いっきり顔面殴られて、二丁目でうりせんボウイとして働かされているんです。
そうしないと五郎にまた殴られらの、怖いので恐れてしまっているんです。
私が一生うだつ上がらないうーちゃんなんです それからしばらくのことは、なぜか記憶が薄い。
俺はたぶん、1週間くらいはホテルに泊まったはずだけど、正直、ホテルでの生活は全く覚えてない。
なんとなく部屋の内装は覚えてるんだけど。
俺はすぐにでも事務所を決めないと、という焦りで、
西新宿の物件を紹介してくれた不動産屋に駆け込み、
もっと安い物件を紹介してもらいに行ったはずだ。
不動産屋に掛け合った結果、俺は新宿2丁目の物件が気に行った。
新宿2丁目がどういう街なのかは知っていたが、
デリだから、そこで集客するわけではないので、細かい立地は気にしなくて良いと思った。
なにより、最初に下見した西新宿の物件の、約1/2の費用で契約ができるのが魅力だった。
家賃は13万、初期費用は85万。その数字ははっきり覚えてる。
やはりちょっと古いが、11階建てのレンガ調のマンションの6階で、間取りは2LDK。
丸ノ内線の新宿御苑前駅からもほど近く、万が一、車を確保できなかったときのため、駅に近いのは魅力だ。
古いから2部屋とも畳張りの和室だけど、女の子の待機場所としては、かえってくつろげるかもしれない。
俺はとにかくホテルを早く引き払いたかったし、なにより物件が気に行ったので、すぐ不動産屋で入居契約を済ませた。
保証人が必要だったが、アリバイ会社の保証人代行を使うことによってその問題はクリアできた。
代行料はたしか25,000円だったけど、安いもんだ。
代行してくれた、見知らぬ人物の印鑑証明書がアリバイ会社から送られてきたので、
その人を「叔父」として、印鑑証明を不動産屋に提出。
なんの問題もなく無事書類関係は完了。
どこのだれだか知らないけどありがとう。
きっとやくざに小銭で雇われた、どっかのホームレスなんだろうな。
さて、あとは契約金を払うだけだったので、ゴローに事務所が決まったことを報告し、必要な金額を伝えた。 そのあと、俺はゴローからお金を受け取ったはずだ。
だけどこのあたりの記憶があいまいなんだ。
金額も覚えてないけど、不動産屋に85万払って、入居後に秋葉原にPCを買いに行った。
そのPCがブラウン管モニタ一体型の富士通FMVだったことは、なぜか覚えてるけど。
当時まだPCは今ほど安くなかっただろうから、それが20万くらいはしたんじゃないかな。
そのあと、しばらくの生活費も含まれていたから、
ゴローから受け取った金額は120〜150万の間だったかと思われる。
そうそう。
最初、軍資金は200万とゴローから聞いていたので、残りのお金はいつ受け取れるのか聞いたような覚えがある。
でも、女から一度にはもらえないので、何度かにわけて渡すから、少し待ってほしいと言われたな。
そう、そのあたりから、俺はちょっと不安になってきてたんだ。
ゴローは口は出さないけど、俺が勝手に2丁目の事務所を契約したことに不満をもってることは明白だった。
さて、新事務所に入居後、俺が一番最初にやったことは、
地方都市のオーナーに電話をして謝罪をしたことだ。
あっちにはオーナーはじめ、世話になった人がたくさんいる。
それを俺は裏切って、店をほったらかして逃げてきたんだ。
いろいろ事情があるとはいえ、一度は謝らなければ気が済まなかった。
それに、このまま黙っていると、単に悪者扱いされ、ヤマノの思惑通りになるのも癪だったし、、
店に残されたスタッフや女の子たちも心配だった。
俺がオーナーに連絡することによって、支社長を立ち直らせ、ヤマノのやりたい放題を少しでも
抑えることができれば、という気持ちも大いにあった。 俺はオーナーの携帯番号を知らなかったので、
まず地方店の本店に居る部長に連絡をいれた。
本店の部長とは、ほとんど一緒に働いたことはないけど、
とても優しいイケメンで、俺より1個下だったけど、この人がグループのNo.2で、オーナーの実質右腕。
歌舞伎町の店にもちょくちょく地方から新幹線に乗って会いに来てくれた人だ。
「おぉ〜!○○(俺)さん!どうしたの?みんな心配してるよ?何かあったの?」
俺は当然、怒られると思っていたのに、本気で俺を心配してくれてるような声で部長が言った。
このグループの人たちは、上に行くほどジェントルマンで腰が低い。
俺が長くこの仕事に居座ってしまったのも、このグループの居心地が最高にいいからだ。
だからますます俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「本当に部長やオーナー、みなさんに御迷惑おかけしました。申し訳ありません。
僕はもう、あの店では働けません。だから飛んできてしまいました。
最後にオーナーに謝りたくて連絡しました・・・」
「なんか複雑な事情がありそうだね。俺もいろいろ聞きたいこともあるけど、
まずオーナーに連絡するよ。○○さん、今日は連絡とれるの?」
「はい。今、なにもしてませんので、いつお電話いただいても大丈夫です」
「了解わかった。じゃオーナーに伝えるから、待っててね」
「はい。すいません」 どれくらい待っただろうか。
覚えてないけど、その日のうちにオーナーから電話がかかってきた。
「はい○○です。」
「おう!○○、何があったんだ?話してみな?」
オーナーはいきなり本題に入った。
「御迷惑かけて申し訳ありませんでした。」
俺は謝ったあと、店でのここ数カ月の出来事を、全部オーナーに話した。
売り上げが上がらず、半年もまともに給料をもらってないこと、
支社長がレジから金を出してパチンコに明け暮れていること、
薬物が店に蔓延してること、
その出所がヤマノであると思われること、
そしてヤマノの店での態度について。
「・・・」
オーナーは電話の向こうでしばらく無言だった。
オーナーは激情するタイプではない。
オーナーが大きな声を出すときは、笑ってる時だけだ。
怒って怒鳴るようなオーナーを、俺は見たことがない。
だから黙り込んだオーナーは、たぶん激怒している。
俺はそう感じた。
俺はオーナーの言葉を待った。
「そうか・・・わかったよ。俺は何も知らなかった。ごめんな。
教えてくれてありがとう。」
俺は涙をこらえることができなかった。 俺が黙り込んでいると、オーナーが続けた。
「だけど○○、一人で抱えてないで、なんでもっと早く報告してくれなかったんだ?
それが残念だよ、俺は。」
「本当にすいませんでした。店を守れなかったのは、自分の責任ですから・・」
「・・・わかった。じゃこうしよう」
「はい?」
「ヤマノは解雇する。支社長は役職をヒラに戻して地方に呼び戻す。お前は店に戻って支社長になってくれ」
「ええっ?」
「頼む。そうしてくれないか?」
思いもよらなかった展開だ。
ほんとうに想像もしてなかった。
俺が歌舞伎町に来る前、地方店の店長会議で、東京への転勤をオーナーから打診されたのが4年ほど前。
当時30歳だった俺は、今、34歳だ。
そのときはすぐ了承の回答ができず、少し返事を待ってもらった。
でも、今日は、すぐ結論が出たんだ。
「ありがとうございます。でも、僕にはもうできません。本当に申し訳ございません」
「だめか?」
「はい。お気持ちはすごく嬉しいです。でも支社長やヤマノとは関係なく、いろいろやってみましたが、
もう何をしても売り上げを元に戻せる気がしません。自信がないんです」
俺の本音だった。火災以降もうあの街は終わっている。
俺の力の及ぶ範囲ではないんだ。
「そうか、わかった、仕方ないな。そう言うなら。」
俺は最後に感謝の気持ちを伝え、電話を切った。
ようやくけじめをつけることができた。
ここから新しい挑戦のスタートだ。
だけど、その挑戦は長くは続かないことになる。
俺は少し、その予感はあったんだ。 男のくせメソメソ泣く、あーうーあーうー私がうーちゃんなんです。しぶんでしぶん、うーちゃん呼んでしまっているんです。人を欺く天才なんです。人、不快させるライセンス取得してしまっているんです。
あーうーあーうー、私がコジキのうーちゃんです。ちなみにゴロウニ怯え、二丁目売り専ボウヤなってしまっているんです。
ちなみにまなみのメッコ隣町まで悪臭及んでしまっているんです 不安でいっぱいだったけど、事務所を構えることができた。
さっそく俺は、管轄の警察署に、開業届けを出しに行ったんだ。
ゴローは無届けでやるき満々だったけど、俺はそこだけは譲れなかった。
新しく買ったPCで、届け出の書類をダウンロードし、ネットで風営法を少し勉強もして、
届け出書類を作成した。
最初、新宿署に行ったら、土曜日だかで閉まっていた。
もう長く水商売をやってると、役所が土日休みだとかの感覚がない。
日を改めて行ったら、今度は、「お宅の店はウチの管轄じゃないよ」と追い返されてしまった。
なんだかなぁ・・・よく調べもせず、焦りで空回りしてるよ。
聞いたところ、新宿2丁目は四谷署の管轄だからということで、
さらに日を改めて四谷署の生活安全課に出向いた。
届け出の必要書類を提出すると、「じゃ、ちょっと待っててください」と言われ、
通路の腰かけに座ってドキドキしながら待っていた。
俺は長く歌舞伎町で無許可の違法風俗店に勤めていたし、
アンナの未成年事件や、シオリの自殺未遂事件で、さんざん警察のお世話になったので、
届け出を却下されるんじゃないか、とか、下手したらここで逮捕されるんじゃないかとか、
悪い想像をして、全身に脂汗をかきながら、呼び出しを待っていたことを覚えている。
もっともデリヘルは「届け出制」であって、許可制や認定制ではないので、
提出した書類に不備さえ無ければ、必ず受理されるのではあるが。
「○○さん、お待たせしましたね」
年配のこわもての警察官が俺を呼んだ。 「はっ、はい!」
「はい、書類はこれでOKですよ。これが受理証ですから、大事に保管して下さい」
「でっ、では!」
「ええ、いつでも店を始めて大丈夫です。」
「ほんとですか!ありがとうございます!」
俺は全身の力が抜けた。
「ただ、いつの日か、もし店を閉める時が来たら、かならず廃業届けを出しに来て下さい。
ドロンは無しですよ」
釘を刺されて、俺はドキリとしたが、
「は、はい、わかりました」と返事をした。
思ったより簡単に開業届けが受理された。
少し構え過ぎて、拍子抜けした感もあるけど、晴れて店をオープン出来るんだ。
まだまだ解決しないといけない問題は山積みだけど、
とりあえず俺は一つハードルをクリアできた満足感に浸った。
俺は受け取った届け出証を大事にカバンにしまって、居心地の悪い警察署から速やかに出た。
空腹を覚えた俺は、署に入る前だか、後だか正直覚えていないけど、
四谷署の近くにある、モスバーガーでハンバーガーを食べて腹を満たした。
ずいぶん年配の御夫婦らしき店員さんがいたことを覚えてる。
フランチャイズのオーナー夫婦かもしれないな。
あれから15年経った今でも店はあるんだろうか。
あの年配の店員さんは御健在なのだろうか。 事務所に戻った俺は、次の作業にとりかかった。
店のホームページを作るんだ。
デリヘルだから、店に看板を掲げるわけには行かないし、風俗案内所も無い。
ホームページでの集客が命だった。
届け出を出す際に、書類に電話番号とHPのURLを記載する必要があったので、
URLはあらかじめ取得済みだった。
ゴローに届け出が受理されたことと、ホームページを作ってることを報告すると、
ゴローは、「HPなんかより公衆電話にビラを貼ったほうが効果あるんじゃないですか」と言ってきた。
公衆電話自体が今の時代には珍しいものになってしまったが、当時は電話ボックスがあちこちにあって、ホテトルの名刺サイズのビラがべたべた貼ってあるものだった。
当然それは違法行為だったけど、なるほど、ゴローはそれをやるつもりで、届け出は必要ないって言ってたんだ。
たしかに最初から違法行為をやること前提だったら、届け出は出さないほうが無難だ。
だけどもう俺の計画はスタートしてしまっている。後戻りはできない。
結果さえ出せばゴローも文句は言わなくなるだろう。
誰もいない事務所の畳の上にあぐらをかいて、もくもくとPCに向かった。
静かすぎて逆に集中が難しい。固定電話は引いてあるが、当然電話なんか鳴らない。
でも、飛んできた歌舞伎町の店に居たときから、HTMLの勉強をしていたから、今回もホームページの土台は、割とすぐ完成した。
基礎はホームページビルダーと言うソフトを使ったが、ほとんどは直接俺がコーディングをした。
もちろん、ネット全盛の2017年現在から見たら、恥ずかしくなるレベルのものだけど、当時としては決して他に見劣りはしないものを作ったつもりだ。
なんとか土台は出来たものの、風俗店のHPとしては一番肝心なものが欠けている。
女がいないんだ。 女の写真が載っていない風俗店のHPなんか、誰がみるものか。
でも現実、女はいない。
だからダミー写真を使うしかない。
歌舞伎町の店には、辞めた女の写真が腐るほどあったから、ちょっとパクってきたら良かったな。
でもゴローに相談したら、ゴローの店の古い写真を何枚か持ってきてくれた。
「ありがとう。ゴロー。助かるよ、使わせてもらうね」
「でも顔にはボカシ入れて下さいよ。バレたらかなりまずいことになるんで」
「もちろんわかってるさ。それは大丈夫」
ていうか・・・また不細工な連中の写真ばかり選んできやがって・・・
これじゃ言われなくてもボカシ入れざるを得ないよ。
たしかにトップレベルの子の写真を流用するとバレやすいから仕方ないんだけど、これじゃ数合わせにしかならない。
集客という面ではなんの助けにもならないな。
無いよりましだけど、やっぱりHPにも看板娘が必要だと思った俺は、
出会い系サイトでモデルを募集した。
まだ地元にいたとき、婚約者に捨てられて自暴自棄になって、出会い系で女と遊びまくってたときがあったから、
出会い系を使うのはそのとき以来だ。
もっとも地元にいた当時は、サイトじゃなくてツーショットダイヤルや伝言ダイヤルだったけど。
俺はPCの出会い系サイトに、
「撮影モデル募集中!顔出し、タッチ、絡み、一切無し!時給1万で3時間程度の撮影!」
と書き込んだ。
まあ、こんなので来ねえよなあ、と思っていたら、意外とすぐ返信があった。 返信のメールの内容は全然覚えてないけど、
何度かやりとりをしたのち、新宿駅南口で待ち合わせの約束をしたのは間違いない。
たしか待ち合わせ時間は21時だったと思う。
季節は、記憶を逆算すると、2月の半ば〜終わりころだったはずだ。
地下鉄で行こうか、タクシーで行こうかと迷ったけど、予算も限られてる。
逆に時間はたっぷりあるので、俺は2丁目から新宿駅まで歩いていくことにした。
俺はなんの期待もしていなかった。
どうせブスが俺の目の前に現れて、適当にお茶を濁して帰ってくることになるだろう。
せめて、HPの数埋めに、顔は不細工でも、スタイルが良い子が来てくれればいいのだが。
むしろそのほうが、時給1万と言ってあるから、30分で撮影を済ませて追い返せば、
ギャラは5000円で済む。
金が無いからそのほうが却ってありがたいかもしれない。
そんなことを考えながら着替えて事務所を出た。
新宿駅までは、たいした距離ではない。
とうに日も落ち、暗くなった夜の甲州街道を新宿駅に向かって歩いた。
車のヘッドライトに照らされながら、たくさんの会社帰りのサラリーマン、OLとすれ違う。
みんな、俺と違って、順調な人生を歩んでる人たちだ。
それに比べて俺はいったい何をやっているんだろう。
俺は自分に引け目を感じながら、てくてくと歩いていたのを覚えている。 やがて南口に着いた。
改札前は騒がしく、多くの人でごったがえしている。
探そうと思ってもこの人だかりでは探しようが無い。
そもそも顔も知らない相手と待ち合わせしてるんだから当たり前だけど。
〔今、南口に着きました。服装は・・・〕
俺は相手に、自分の服装など、相手が俺を見つけるためのメールを打って、返事を待った。
当然、すっぽかしも想定内だ。
すっぽかされたら、近くでラーメンでも食って、今日はおとなしく帰ろう。
期待せずに返事を待ってると、これまたすぐ返事が来た。
こんなにぽんぽん気前よく返事をくれる相手だ。きっと金に困った超絶不細工に違いない。
モデルとして使い物にならない女がくるなら、すっぽかされたほうがまだマシだ。
俺はそんなこと思いながら待っていると、背後から声を掛けられた。
「あの、○○さんですか・・・?」
期待してない俺は無表情のまま振り向いた。
「あ、はい、あ、え?」
「え。どうしたんですか?」
「あ、あっ、いや、君がメールの○○さんなの?」
「はい。今日はよろしくお願いします。私で大丈夫ですか?」
彼女はぺこりと頭を下げた。
マジかーーーー!ウソだろおい?!か、か、カワイイじゃないかーーーー!!!
超絶カワイイ!超タイプ!なにかの冗談か、それともドッキリか?あ、ありえねえ・・・
「あうあう」
俺が口をぱくぱくさせていると、「ど、どうしたんですか?大丈夫ですか?」と心配されてしまった。 あーうーあーうー アウアウ 私がうーちゃんです。シブンでシブンうーちゃん呼んでしまってイルンです。
普段ドブスとか、メコがくっさい女としか関われないため、並以下の女で、アウアウ言ってしまうのです
あーうーあーうー私がコジキのうーちゃんです あーうアーウ私がコジキのウーちゃです。
しぶんでしずんうーキャン呼んでしまっているんです。
人生嘘で上塗りしまくってるんです。
つけられたアダ名は忍者ハッタリ君です。
ちなみにまなみのオメグサは地域一有名です そのあとどうやって事務所まで連れて行ったか覚えていない。
歩いて戻ってないことは確かだから、おそらくタクシーを拾ったんじゃないかと思う。
タクシーの中で何か会話を交わした記憶もない。
出会った新宿駅南口でのことか、事務所に連れて帰ってからのことか、
それも覚えてないけど、俺はこの撮影が、新規オープンしたデリヘルのホームページで使う写真なんだと、
そういう説明して、承諾を得た覚えがある。
とにかく俺は焦っていたことはまちがいない。
この上玉に逃げられてはいけないから、一刻も早く事務所に連れていかねばという気持ちでいっぱいだった。
たいした説明もせず、やがて彼女と一緒に事務所に戻った。
タクシー?を降り、事務所のマンションのエレベータが来るのを待つ。
「このマンションの13階が事務所なんだ。」
「あ、はい、誰か他にいるんですか?」
「ううん、誰もいないよ。俺が撮影するだけだから安心してね。」
それで安心させられたのか、逆に不安にさせたのか、彼女の顔はまだ警戒心いっぱいの表情だった。
騒がしい新宿駅から、静かな事務所に戻って改めて彼女を見ると、
とても素人とは思えないほどカワイイ。歳を聞いたら実年齢で19歳とのこと。
タイプ的にはサクラに近い。目がくりくりで、巨乳のグラマラスで超色白。
でもサクラには悪いけどサクラより3倍くらいカワイイ。
身長は162センチくらいで、カップはEってとこかな。 店のHPで使う写真だから、彼女の名前を決めた。
名前は「しょうこ」ちゃんだ。
この物語で登場する人物は、すべて仮名だけど、しょうこという名は実際にHPで使った名前だ。
なんでこの子の名前がしょうこちゃんになったのか、よく覚えてないけど、
たぶん、本人の希望だったんだと思う。
俺がこんなカワイイ子にそんな古臭い名前つけるわけないし、
歌舞伎町の店に、同名のDQN女がいたから。
だから本人がテキトーに考えた名前だったのだろう。
さて、事務所である古いマンションの殺風景な部屋で、
畳の上に二人座って、少しお話をしたはず。
だけどしょうこちゃんはまったく関心がないようで、すぐにでも撮影を済ませて、
さっさとここを出ておうちに帰りたいってオーラが出てた。
そりゃ胡散臭いからな。こんな何にもない部屋で、カメラマンもおらず、
俺が安っぽいデジカメもってるだけなんだもの。 しょうこちゃんも顔が引きつってきてるから、
俺はヤバいと思ってすぐ撮影に入った。
撮影に入ると、しょうこちゃんはリラックスしてきたのか、
笑顔も見せてくれるようになってきた。
それにしてもクリクリのお目目がかわいすぎて、引き込まれそうだ。
思わずシャッターを切る指が止まりそうになる。
後から思えば、カメラ慣れしてる感じといい、素人離れしたルックスと言い、
もしかしたらプロのモデルさんの卵とかじゃないのかなって思った。
マジで週刊プレイボーイやヤンマガのグラビア飾ってても全然おかしくないレベルで、
風俗嬢には絶対いないタイプの女の子だ。
その時の写真が少し残ってるから、できることならここで見せたいくらい。
だけど顔出しNGで撮影してるから、目を手で隠してる写真しかないけどね。 徐々に俺と打ち解けてきて、軽いノリで下着撮影もお願いしたら、
最初「えーっ!聞いてませんよー!」って言いながらも、
そんなにいやがってない感じだったから何度かお願いしたら、
服を脱いでくれた。
シルバーのサテン地ぽい上下の下着で、フリルに黒のレースがあしらわれている。
全然透けてないし、エッチ感はないが、高級感のある下着。
たぶん、下着撮影までは想定内で来てたんだろうと思う。
しょうこちゃんは何も言わず、俺のお願いするポーズを取ってくれた。
四つん這いのエッチなポーズなんかも嫌がらずにしてくれたから、
俺はちょっと調子に乗ってきて、
「しょうこちゃん、ブラ外してもらっていい?」
と試しにお願いしてみた。
「おっぱい撮るんですか?」
「あ、いやいや、手で隠してていいから・・・」
そしたらなんとブラ外してくれたよ!
だんだん俺も興奮してきた。
もう頭の中は、この子をいかにして手籠にするかでいっぱいになった。 ブラを外したしょうこちゃんのおっぱいは、想像以上におっきくて、
Fカップくらいはありそうだ。
乳首は薄いピンクベージュ的な色・・・
しょうこちゃんは、撮影時には手で隠して撮ったが、シャッターを切るとき以外はおっぱいを隠そうとはしない。
ああやばい。マジやばい。
だんだん喉がカラカラになってきた。
俺は焦りが出てきた。
別に制限時間なんて無いんだけど、早くこの子をなんとかしたいという気持ちでいっぱいになり、
冷静な行動が取れなくなってきていた。
「あ、あの、しょうこちゃん、軽いカラミの写真、撮らせてもらえないかな・・・?」
その瞬間だった。リラックスして撮影をちょっと楽しんでいたしょうこちゃんの顔から、
笑顔がスッと消えたんだ。
しばらく固まる彼女。
「それはしないって約束じゃなかったですか・・・?」
俺に目を合わさず、無表情で訴える彼女。
やばい!まだ早かったか!しまった!
「あ、そーだった!そうそう!ごめんごめんうっかりね・・・」
しょうこちゃんは、とたんにカラに閉じこもってしまった。
笑顔は戻らず、しばらく気まずい空気が流れた。
終わった・・・ 俺はその気まずい空気に耐えられなくなり、撮影終了を宣言した。
「ごめんね。撮影はもう終わりにするよ。どうもありがとう。」
しょうこちゃんはそれを聞いて、無言で服をいそいそと着る。
時計を見ると、事務所に来てまだ1時間も経ってない。
「ギャラなんだけど、まだ1時間も経ってないから、申し訳ないけど1万円で・・」
我ながらセコいと思うけど、予算が無いから仕方がない。
しょうこちゃんは1万円札をひったくるように受取りバッグにしまうと、一言もしゃべらずに逃げるように事務所を出ていった。
タクシー呼ぶよ、せめて下まで送るよって言いたかったけど、それすら言う間もなく、
しょうこちゃんは逃げてった・・・・
あーーバカバカ!俺のバカ!!!
ブラをすぐ脱いでくれたんだから、パンツも脱いでくれたかもしれないのに!
それからでも遅くなかったはず!
なんで勝負を急いだんだ俺は!
アウトが欲しくてど真ん中にストライク投げてホームラン打たれたピッチャーみたいだ・・・
それとも無理やりでも押し倒してれば・・・・
相変わらずなんて弱気な俺・・・ 逃した魚は過去に何匹もいるけど、今回は大物逃しちゃったなあ・・・
でも、本来の目的である、HP用の写真を撮るという最低限のミッションはクリアしたわけだから、
まあ良しとするか。
さっそく、作ったHPのトップページに、
「ニューフェイス!大物新人のしょうこちゃんが入店しました!」
と写真を載せた。
これで看板娘もいる、そこそこ在籍の多いデリヘル店みたいに見えてきた。
でも実際は女の子いないけど・・・
しょうこちゃんの写真を載せてから、少し店に問い合わせの電話が鳴るようになってきた。
「はい!お電話ありがとうございます!ギャル○○です!」
店の名前はここじゃ言えないけど、ギャル○○○○・・・だ。
「すいませんHP見たんですけど、しょうこちゃんって今日出勤ですか?」
「ありがとうございます。申し訳ございませんが、しょうこは今日は予約でいっぱいで・・・」
「明日はどうですか?」
「明日はお休みです。」
「あさっては?」
「あさっては出勤が未定ですので、また当日おかけ直しください」
ガチャ・・・
この繰り返しで、1円にもならない・・・ そろそろマナミを起動するか・・・と思ったが、とりあえずゴローに電話して相談した。
「ゴローちゃん、最近、ぽつぽつと店の電話が鳴るようになってきたんだよ。女の子、アテがないかな?」
歌舞伎町時代はゴローと呼び捨てにしてたけど、今は上司だからチャンづけてゴローチャンだ。
「わかりました。ひとり声かけてる子がいるんで、今度連れていきますよ」
「ホント?助かる。歌舞伎町の店の子?」
「いえ、違います。まあ出所は内緒で。」
「ふーん、まあどこの子でも助かるよ。」
まあ期待しないで待つか。
何日待ったか覚えてないけど、ゴローが女の子をひとり連れてきた。
ゴローが連れてきたというより、勝手に女の子がひとりで事務所に来た。
「ゴローさんの紹介で来ました。よろしくお願いします。」
うーん・・・なんか影の薄い子だ。
ひょろっと痩せてて、顔はブスじゃなく、目鼻立ちがくっきりして、どっちかと言うと美形なんだけど、
暗い感じの表情で、真っ黒の黒髪のロングで、肌の色が浅黒くて、なんか東南アジアの貧乏な家庭の女の子って感じ。
日本人なのは間違いなさそうだけど。
あまりに印象が薄くて、正直名前が全く思い出せない。
1時間弱の付き合いだったしょうこちゃんは、約16年後の今でも鮮明に覚えているけど、
この後1〜2ヶ月一緒に過ごしたはずの、この女の子は、名前を全く思い出せない。
年齢も思い出せなくて、20代半ば〜後半くらいだったかな・・・もう少し若いかもしれないけど。 この子は、人気の出るタイプじゃないなと思った。
かといってクレームが来るようなタイプでもないから、
まあ、いないより、ずっと良い。
「こちらこそよろしくね。ゴローチャンから聞いてると思うけど、まだこの店、立ち上げたばかりなんだ。
たっぷり稼がせてあげたいけど、当面は厳しいかもしれない。大丈夫かな・・?」
「あ、はい。いさせてもらえれば充分です。」
「そう言ってもらえると助かるよ。どこに住んでるの?」
「東村山市です」
「え?そりゃまた遠いね?」
「ええまあ、ちょっと。」
うーん、こりゃお茶ひかせたら交通費で大変だろうなあと思ったことを覚えてる。
ヒマな日は自宅まで来るまで送ってってやるか。
あ、そうそう、車だけど、どうやら購入するだけの予算をゴローに要求するのは出来なさそうと思ったので、
たまたま近所にレンタカー屋があって、そこに掛け合ったら、月5万で軽自動車を月極めリースしてくれた。
しかも駐車場代わりに、レンタカー屋の敷地を使っていいことになったんだ。
これはホント助かった。 そんなこんなで、俺と、その女の子の二人っきりで事務所に待機する日が何日か続いた。
その子の名前は思い出せないから、物語の進行上、(仮名)ナギサちゃんとしておこう。
「渚」という、日焼けした健康的なイメージとはかけ離れた、単なる地黒の幸薄い子だけど。
お客からかかってくる電話の数も徐々に増え、多い日だと1日20本くらい鳴った。
電話のほとんどは、ダミーのしょうこちゃん目当てのものだったから、
それをなんとかセールストークでナギサちゃんに振り変える。
ホームページ上で「ニューオープンキャンペーン」と銘打ち、
格安料金で客を釣る。
その格安料金と、しょうこちゃんに釣られて電話をかけてくる客に対し、
「お電話ありがとうございます。ああ、しょうこちゃんは今日はもう予約でいっぱいですし、
そのキャンペーン料金は指名無しのフリーのお客様だけに適用されるものですから、
そのコースでしょうこちゃんを指名することはできません。
お客様、しょうこちゃん以外でも、HPに載せられない事情の、ルックスの良い子がたくさん待機してますので、
御安心してキャンペーンを御利用下さい」
と、指名無しで客をナギサちゃんにつける。 もちろん、それで電話を切られる客も多かったが、
何度かは成功し、ナギサちゃんに客付けする。
やっぱり最初の記念すべき成約1号のときはうれしかったなあ。
いろいろ苦労したし、この第1号から未来が開けた感があるからね。
自分がやってる方向性に間違いがなかったってことだし、あとは女さえ集めれば、
絶対成功できるって確信できたから。
あまりにうれしくてすぐゴローに電話したのを覚えてる。
そんなこんなで、俄然やる気を出した俺だけど、
現実女は相変わらずナギサちゃんだけだから、現実ってものがすぐ見えてきた。
なんとかナギサちゃんで注文を受け、車で江戸川区に向かっていると、
移動中に転送電話で携帯に注文が入り、府中に来てくれとか。
運転しながら電話対応し、
「お客様、ふ、府中ですか?うーん、今女の子が予約がいっぱいで、
一番早い子が・・・そうですね・・・3時間くらいはかかりそうですが」
「ええ?3時間?そんなに待てねえよ!どんな子でも良いからもっと早く来れる子はいないの?」
「もうしわけありません・・・」
「じゃ、もういいよ。他の店探すから」
プツッ・・ツーツー そんな繰り返し。
歌舞伎町のハコの店もそうだけど、やっぱり電話が鳴る時間が集中する。
全然電話の鳴らない時間もあれば、やたら連続して電話が鳴る時間帯がある。
それに思った以上に、都内全域から注文が入る。
新宿でやってるんだから、区内か隣接区からしか注文来ないと思っていたのに、
むしろ区内の客はほとんどおらず、大田区やら小平市やら、もうあっちこっち。
こりゃちょっと考えないと、女一人、ドライバー一人、車一台じゃ、どうにもならん。
注文の電話が1日20本あっても、こなせる客数は1日に1件2件、良くて3件。
いや3件こなせた日はあったかな?
指名無しのキャンペーン価格でやってるから、一日2本いくかどうかでは、
全然商売にならない。このままじゃ家賃もレンタカー代も払えん。
仮に女を増やせても、車が1台しかないから、どうしたもんか・・・
とりあえず女を増やして、近場の客にはタクシーか電車で自力で行ってもらうかだな。 その後、立て続けに2人の女が入店した。
一人はゴローの紹介で、ゴローの歌舞伎町の店と兼任でヘルプに来てくれるらしいが、
なんせ一言で言ってバケモン。
あ、いやいや、それはさすがにいいすぎだけど、正直俺なら、この女には1円も払いたくないってタイプ。
てか、金もらってもお断り。大柄で猫背で笑うとガハハハ・・って笑う。化粧してるの見たことない。
本当は雇いたくなかったけど、ナギサの休みの日だけでも穴埋めしてもらえれば
いないよりマシかと思って採用。
もうひとりは、HPの求人ページ見たって面接に来た女の子。
HPに求人ページ作ったものの、まさかこんなので来るとは思わなかったからラッキー。
歳は25くらいだったかな。
顔は・・・うーん、45点かな・・・
でもスタイルは75点だから即採用。
この子も現職でハレ○チグループの店に居るらしく、掛け持ちしたいって言うから、
週末とか忙しそうな日やナギサが休みの日に呼ぶ予定にした。
だって女が3人いても、車が1台だしね・・・ さて、在籍が増えたのは良いが、店の電話が鳴らなくなってきた。
店のHPを、風俗雑誌社が運営する2つのデリヘル紹介サイトに有料で登録してて、
当初は、だいたい1日平均600ページビューくらいはあったんだ。
1日600アクセスあって、鳴る電話が約20本。
だけど日に日にアクセス数が下がってきた。
そりゃそうだ。最初のうちは風俗サイトには「新店」扱いでトップページに表示されてたけど、
今ではそれが無くなってしまったからだ。
いまだにダミーのしょうこちゃん頼みの運営では、近いうちに行き詰る。
それは明白だった。
かといって、客を呼べるような女のアテは無いし、他のデリヘルサイトに登録するような金もない。
俺はかなり焦ってきた。
マナミの力を借りる時が来たようだ。
俺はマナミに連絡を取った。 2018明けましておめでとうございます。
久しぶりの書き込みとなりましたが、とりあえずここまで書きました。
また忙しい仕事が始まるので、次にいつ書き込みできるかわかりませんが、
気長におまちくださいませ。 あーうあーーうーわたしがコジキのうーキャンです。
しぶんでしぶんうーキャン読んでしまっているんです。嘘で塗り固められた人生、それこそがうーキャンであります。
全て作り話なんです。ちなみにまなみのメッコはげきグサで猛威ふるいまくっているんです。 期待してお待ちしてました。
是非、つづきお書きください。 あーウーアーウー私がコジキのウーキャンです。しずんで自分ウーキャン呼んでしまっているんです。
続きも何も元々、架空の話なので、ない頭振り絞ってしまっているんです。
ちなみにまなみのメコ臭は地元で笑いの種なってしまっているんです ずいぶん御無沙汰してすいません。
いろいろ忙しいのでもう少しお待ちを。 あーうーあーうー私こそがコジキのうーキャンです。しぶんでしぶんうーキャン読んでしまっているんです。いま嘘で塗り固められたストーリーをバラック小屋で練ってしまっているんです。 応援のコメントありがとうございます。
ようやく今の仕事の繁忙期も落ち着き、少し時間の余裕が出来てきました。
4月には続きを投稿できると思いますので、今しばらくお待ちくださいませ。 お待たせしており申し訳ございません。
なかなか筆が進みません。
仕事やプライベートでいろいろトラブルに巻き込まれて、集中ができません。。。
そんな中、心の拠り所だった大切な人とも連絡が途絶え、ふんだりけったりです。
GWにはなんとか頑張りたいと思ってます。 このあたりの時系列の記憶が曖昧だけど。
マナミは一度、ヒロキを連れて、事務所に遊びに来た。
ヒロキはマナミの息子で、このとき5歳くらいだったかな?
マナミが18の時、産んだ子で、マナミはいまだに茨城に居るDV旦那から逃げている。
マナミと出会ったのが2年ほど前で、ヒロキはまだその時赤んぼのようだったけど、
久しぶりにあったヒロキは、ちゃんと言葉をしゃべれるようになっていた。
子供と言うのはあっという間に成長するもんだな。
マナミとヒロキと俺。3人だけで2DKの古マンションの一室にいると、
なんだか家族みたいだ、と何かうれしい気持ちになったことは、はっきり覚えている。
サラ金から逃げて、地元から逃げて、女から逃げて、つい最近は歌舞伎町の店からも逃げてきた。
いったいいつまで逃げ続ければいいのだろう。
茨城にいる旦那から逃げて東京に来てる、マナミと俺は、同じ境遇だと感じた。
だからマナミとヒロキと3人で一緒の部屋にいる、このシチュエーションが、なにかすごく温かいものに感じたんだ。
これから先も、3人で暮らせたらいいのにな・・・と思った。
だけどヒロキの悪気のない一言で、現実に引き戻された。
「ねーねー、ママ!○○君はこないの?」
マナミが制する。
「ちょっ!しっ!」
マナミは自らの口に人差し指を立てた。 うすうす、感じてはいたことなんだ。
マナミには俺以外の男がいる。
マナミはそういう女だ。
あるいはマナミにとっては俺が軽い相手だということなのかもしれない。
実質シングルマザーで、小さな子供を育てながら、風俗の世界で生きていくことは、
男の俺には想像もできない苦労があるだろうし、
複数の支援者が必要であることは想像できる。
彼女は自ら自覚があるかどうか知らないが、まわりの男の同情を引くのが上手い。
ほっとけないタイプなんだ。
だから対して美人でもないのに、男を引きつける。
マナミに俺以外の男が何人いようと、俺はマナミを責める気にはなれなかった。
俺は、さきほどのヒロキの発言を、聞き流した。
マナミは、これ以上ヒロキをここにいさせては不味いと思ったのか、
その日は足早にヒロキを連れて帰ってしまった。 その日から何日後だったか覚えてないけど、
俺は再びマナミに連絡を取り、HP用の写真撮影をするために、事務所に呼び出した。
約束の日に先立って、俺は職安通りのドンキで、撮影用のTバックの下着を2着購入しておいた。
ブラはサイズわかんないから、下だけね。白いシンプルなやつと、ピンクのカワイイ系の。
全部裸の写真っていうわけにもいかないし、マナミがどんな下着をつけてくるかわからないしね。
買うときはちょっと恥ずかしかったけど、何度もサクラのピンクローターを買いに行かされてたことを思えば、
大したことではなかった。
撮影当日、さすがにマナミはヒロキを連れずに、一人で来た。
ヒロキはどうしたの?って聞くと、マナミを困らせることになると思い、聞かなかった。
きっと彼氏に見てもらってるんだろう。俺は勝手に悪い想像をした。
さっそく撮影に入り、洋服を脱がせると、マナミはカワイイ下着を着けていた。
白地にイチゴちゃんがいっぱいプリントしてあるデザインの上下だ。
とてもカワイイのでそのまま何枚も撮影。
でも色気にはちょっとかけるので、買っておいたTバックが入った小さな紙袋をマナミに渡す。 「え〜、どうしたのこれ?」
マナミが聞く。
「あ、あぁ、撮影用に買っておいたんだよ。新品だから。」
「へー、カワイイね。これ着けるの?」
「うん。いいかな。」
「もちろんいいよ、ねえ、うーさん、これ、撮影終わったら貰っていいの?」
「うん、いいさ。使い道ないしね」
撮影が終わったら記念にとっておこう、と思っていたのだが、
いきなりマナミからおねだりされて、折れてしまった。
マナミはこの下着を着けた姿を、誰に見せるつもりだろうか。
下着を履かせ、さらに撮影は進む。
もともと写真を撮られるのが好きなマナミだし、
以前はきわどい撮影も何度もしているから、
俺の要求したポーズはそつなくこなしてくれる。
やがて下着も脱がせ、全裸にした。 一糸まとわぬ姿になったマナミに、俺はふたつのことに気がついた。
今までアンダーヘアの手入れなどしたことがなかったのに、
綺麗に短く整えられている。
この日の撮影の為に、わざわざ?
もしそうじゃないとしたら?
俺は悪いほうに悪いほうに想像してしまう。
もうひとつ気がついたのは、股の間から、タンポンのひもが見えたこと。
それも初めて見た。
「生理なの?」
「うん」
短い問いかけに、短い返答。それだけだった。
でも脚を開かせても、タンポンの紐に血がにじんでいるということはなかった。
無言に拒否されている?誰かの命令で?
また悪い想像をした。 すこし気まずい空気になったまま、撮影は続いた。
もうそろそろカメラのフラッシュメモリもいっぱいになる。
俺は撮影終了の宣言をする前に、マナミの反応を試した。
全裸で座イスに座らせ、M字開脚のポーズをとっていたマナミにすり寄り、
「入れてもいい?」
と聞いてみたんだ。
「だめだよ!生理っていったでしょ。もう、男ってすぐ入れたがる。」
拒否されたけど、俺はマナミのアソコを手でなぞった。
撮影好きなマナミだから、そこは充分に濡れていた。
だけど、透明だった。赤くはなかった。
そのままタンポンの紐をひっぱり、強引に行くのも一手だろうけど、
俺自身、その気がなくなってしまった。
「そうだったね。ごめん」
俺の知らない他の誰かのために、貞操を守ろうとしているマナミが、
すごく遠い所の人に感じた。
歌舞伎町で一緒に働いてた頃とは、明らかに距離感が違っているのを、俺は痛いほど感じたんだ。 御無沙汰してました。
GWになり、少し書いてみました。
私の会社の休日は暦通りなので、明日、あさっては通常出勤です。
そのあと3連休になるので、また気が向いたら書きます。
みなさまの御支援ありがとうございます。 「写真はHPにすぐアップするよ。」
「うーさん、わたし、顔出しはダメだからね。」
「わかってるさ。ちゃんと目線入れとくから。」
少し気まずい雰囲気のまま、マナミは2着のTバックをリュックにしまって、帰宅した。
マナミには、歌舞伎町の店は辞めずに、掛け持ちしてもらうことにした。
こっちでは完全予約制にして、予約が入ったときだけ出勤する。
こっちの専属になってほしい気持ちは山々だけど、息子のヒロキとの生活費を保証できるものがなかったから。
こっちでの源氏名は、本人の希望で「アヤ」に決まった。
何日後だったろうか。
ダミーのしょうこちゃん目当てでかかってきた客の電話を、
上手くアヤに振り替えることに成功した。
「あ、お客様、しょうこちゃんはあいにく予約でいっぱいですが、
HPのトップに載せてる新人のアヤちゃんなら、まだ枠が空いております。素人で性格の良い子ですよ。」
少なくとも素人ぽさではマナミは誰にも負けない。バリバリのプロだけど。
予約は何時だっただろうか。結構遅い時間だったと思う。
22時とか23時とかだったかな。
出張先は、志村三丁目あたりの自宅マンションだ。 マナミに予約が入ったことを連絡すると、マナミは割と早い時間に事務所に出勤してきた。
今日は歌舞伎町の店は休んだらしく、自宅からそのまま来たのだと言う。
だけど、困ったことに、今度は息子のヒロキを連れてきてしまったんだ。
「ごめんねうーさん。ヒロキを預けるところがなくって・・」
予約入るたびに託児所に預けてたんじゃ、稼いだお金がパーになるわけだから、仕方がない。
「いや、そりゃ仕方ないよ。でも事務所にヒロキを一人で置いとけないから、
車で一緒に連れてかなきゃならないな。」
「だよね・・いいかな?」
「俺は構わないけど・・・」
どうなんだろう。母親が何をしにいくか、子供ながらに感じたりしちゃうんだろうか?
だけど、俺が気にするほど、マナミはそれを気にしてないようだった。
というのも、マナミが次に発した言葉に、俺は固まってしまった。
「ねえ、うーさん、お客にお小遣いもらって、本番させてもいい?」 ウチの店は、正式に警察に届けを出した非本番系の出張型ヘルスだ。
無届けのホテトルとは違う。
当然、本番は絶対禁止行為だ。
だけど、マナミがお金を必要としてること、それに・・・
マナミが売春に抵抗が無い女だということを再確認してしまった俺は、
何かふっきれた感があったんだ。
少し間をおいて、俺は、
「うん。かまわないけど、避妊は自己責任だぞ?歌舞伎町の店と違って、助けに行けない。」
と答えてしまった。
「うん・・・ゴム置いてる?」
ホテトルやソープじゃないんだから、コンドームなんか用意してるわけがない。
「俺が近所のドラッグストアで買ってくるよ、待ってて。」
あとから思うと、俺が本番許可を出したのは、
俺とマナミが、単なる従業員と店の女という関係ではなく、
そこそこ深い男女関係がある間柄にもかかわらず、
マナミが俺に本番の許可を得ようとしてきたことに対する、
俺のささやかな反抗だったのではないだろうか。
(お前がそういうつもりなら勝手にしろ。ただし俺も考えさせてもらう)
そういうセリフを、俺は口に出せない男だから、その代替の本番許可だった気がする。
マナミは俺から受け取ったコンドーム3つを、店で用意した出張用のエコバックの底にしまった。
今夜、いくつ使うんだろう。
「ちょっと時間早いけど、そろそろ行こっか。」 マナミとヒロキを、店で借りてるレンタカーの軽自動車に乗せて、
客から聞いた住所をナビにセットした。
なんとも言えない、複雑な心境だ。
マナミの初めての客。
これまでナギサちゃんや他の子を何度か客のところに届けたが、
その時は、ピザか寿司でも届ける気持で、道に迷わないだろうかとか、
ちゃんとお金を貰えるかとか、その程度の心配しかしなかったんだけど、
やっぱりマナミは俺にとって特別な女。
ましてや、マナミはこれから本番してくると公言して行くわけだ。
歌舞伎町のハコ店でも、マナミやサクラを客の部屋に入れるときは、
それなりに複雑ではあったけど、
その時とは比較にならない、気持ちの悪い感情が俺の胸に湧いてきた。
見ず知らずの男の自宅に、自分の彼女をセックスをさせるために送り届ける。
「ねえママ、どこいくの?」
ヒロキが不安そうな表情で言った。
俺はどきっとしたが、マナミは
「ママちょっと仕事に行くんだよ。すぐ終わるから。」
と、平静を保って答えた。
一番緊張してるのはマナミのはずなのに、母は強し、なのか、
本当にただ仕事と割り切って落ち着いてるのか、
俺には判断できなかった。 マナミとヒロキを後部座席に乗せ、新宿から板橋に向けて、ナビに従って夜の東京を走る。
マナミもだんだん緊張してきたのか、無言になってきた。
ヒロキはさきほどから寝息を立てている。
俺も緊張してきて、マナミになんて声をかけていいかわからない。
板橋だからそれほど遠くは無いはずなのに、道のりが永遠とも思えるほど長く感じた。
やがて目的地付近に到着したことをナビが知らせる。
お客のマンションは大きな幹線道路沿いにあった。
車を止めるとこを探したが、道路の反対側に商店が数件つながるテナントがあり、
そこの狭い駐車スペースに車を潜り込ませた。
夜中だから、すでに商店は全て閉まっているし、マナミが接客から帰って来るまで
待機するのにちょうどいい。
(あのマンションだな・・・)
片側二車線の広い道路を挟んでひときわ目立つマンションが見える。
間口は狭いけど、10階建てくらいだろうか。
新築に近いオシャレなマンションだということがわかった。
家族向けではなく、独身セレブが住むような、家賃は安く見積もっても12万はするだろう。
金払いに心配することはなさそうだ。
それと、マナミの特別サービスの追加料金も。 予約の時間まで車内で待機する。
「うーさん、玄関まで一緒に来てくれる?」
やっぱりマナミも不安そうだ。
言われなくてもそのつもりだった。
「もちろん。だけどヒロキは大丈夫かな?」
ヒロキは気持ちよさそうに寝ているが、夜中の大通り沿いだ。
大型トラックもバンバン走っている中、もしヒロキが目を覚まし、
母親を探しに車外にでも出たら・・・
「鍵を掛けてれば出れないと思う。心配だけど・・」
とにかくマナミを早く客のところに届け、すぐに車に戻ったほうが良さそうだ。
「マナミ、そろそろ時間だ、行こう」
ヒロキが起きない様に、そっと車のドアを閉め、鍵を掛ける。
近くの交差点まで行き、小走りに広い道路を横断し、客の待つマンションの下まで来た。
(これからマナミとセックスする客は、どんな男なんだろう。)
そんなことを考えながら、マンションの1Fオートロックから客の部屋をコールした。
オートロックが解除され、エレベータで5Fに向かう。
5Fというのは、なぜかはっきり覚えている。
エレベータが5Fに到着すると、ワンフロアに2部屋しかなく、
客の部屋は、エレベータを出て目の前の部屋だった。
一呼吸置いて、俺とマナミは目を合わせ、うなずいた。
インターフォンを鳴らす。 「ギャル○○です。アヤちゃんをお届けにあがりました。
申し訳ありません。初回のお客様は男子スタッフが玄関まで同行することになってまして・・・」
適当なことを言い、マナミを客に紹介する。
マナミは、「よろしくお願いします」と短く挨拶し、ぺこりと頭を下げた。
「ああ、そうなんですか。かまいませんよ。」
紳士的な客のようだ。しかも想像以上に若い。どうみても20代半ばだ。
その年齢でこの高級マンション。
よほど良い会社にお勤めのようだ。
客の脇から室内が少し見えた。広い部屋だ。
1LDKか、もしかしたら2LDKはあるかもな。
俺は風俗業界に入る前の20代のとき、大手仲介不動産会社に少し勤めていたから、
玄関口の広さでだいたいの間取りがわかる。
少なくとも1Rや1Kではない。
この部屋でマナミが若い客に抱かれる・・・そう思ったとたん心臓が高鳴る。
客から料金を徴収し、マナミに「じゃ、頑張ってね」と声をかけた。
頑張ってもへったくれもないんだけど、
マナミは振り返って無言で俺の目を数秒見つめた。
俺にはマナミの気持ちが読めなかった。
ごめんね、と言ってるようにも、助けて、帰りたいよ、と言ってるようにも感じた。 俺はマナミを置いて、玄関の外に出た。
内側からガチャリと鍵をロックする音が聞こえる。
ついに、俺はマナミを売ってしまった。
歌舞伎町のヘルスのときとは違う。
あのときはお互い雇われ人で、マナミは自分の意思で店に入店してきて、
たまたま偶然、俺と出会った。
だけど今度は俺の名義の店で、俺が店に誘い、俺の足で客に届け、俺の判断で売春をさせるんだ。
とてつもない罪悪感を感じた。
だけどもう後戻りはできない。
それよりも、早く車に戻らなくては。
今ではマナミよりヒロキが心配だ。
俺は踵を返し、目の前にあるエレベータのボタンを押すと、
まだエレベータは5Fにあって、すぐ扉が開いた。
短い時間とは言え、エレベータの利用者は誰もいないようだった。
1Fに降り、交差点を渡り、駆け足で車に戻る。
車内を覗き込むとヒロキはまだ気持ちよさそうに寝ていた。
全身の力が抜けたように安心した。
あとはマナミの帰りを待つだけだ。
車内に戻るとヒロキが起きてしまうかもしれないので、
商店の前にある自販機でコーヒーを買い、車の外でタバコを吸って時間をつぶした。 接客が終わると、マナミから電話がかかってくることになっている。
携帯を握りしめ、ときどき車内のヒロキを確認し、そしてマナミがいるマンションの5Fを見つめる。
たしかコースは70分コースだった記憶がある。
だけどまるで、時計が壊れて止まっているかのように、長い長い時間に感じられた。
マンションは、こちらからは通路側しか見えないので、部屋の電気が点いているのか消えているのか、わからない。
今頃、あの部屋で客と何をしてるんだろう。
とっくにシャワーを浴び終え、ベッドでプレイに入ってる時間だ。
本当に本番をしているのだろうか。
いや、全ての客が本番を求めてくるわけじゃない。
それが違法だということくらい、客のほうだってわかっているはず。
普通にルール通り、非本番のヘルスサービスを淡々と進めている可能性のほうが高いんだ。
そうであってほしい。
マナミの生活費の足しにはならないかもしれないが、
本番をしないで済むならそれに越したことはない。
車内のヒロキを再度確認すると、まだ当分目が覚めそうにない。
俺は無性にマンションの5Fに戻り、確認したい衝動に駆られた。
もちろん部屋の中には入っていけない。
だけど、玄関ドアの前ならマナミの声が聞こえるかもしれない。
ガンガンと有線放送のBGMの鳴っていた歌舞伎町の店とは違い、静かなマンションだ。
もし本番をしていたら、マナミの声が聞こえてくるかもしれない。
もし万が一ひどい目にあっていて、悲鳴が聞こえてきたら、助けなきゃ・・・
様々な感情が湧いてきて不安でいっぱいになった。。
だけど、またヒロキを置いていくのも不安だ。
なにより良く考えたらオートロックなんだから入れないし。
そう思ったら、ますますマナミが心配になって仕方なくなった。
そんなとき、握っていた携帯電話が鳴った。 ************
さて、GWに思ったよりたくさん書けました。
出来ればこの勢いで、デリヘル編を書き終えたかったのですが、
思ったより長くなり、それはちょっと無理みたいです。
4年間のヘルス編より、わずか3カ月足らずのデリヘル編のほうが、
割合的に長くなってしまった感があるのは、やはり記憶が新しいからなのでしょうか。
あるいは文体が小説風になってしまったからかもしれません。
小説風にはなりましたが、加筆したり脚色したりは一切していません。
GW休みもあと1日です。たぶんもう明日は仕事に気持ちを切り替える為に、
続きを書くことはできないでしょう。
また近いうちにデリヘル編の残りを書き、ソープ編に突入したいと思います。
ところで今日は天気も良く、ぶらっと渋谷の街にひとり散策に出かけました。
かつてサクラやマナミと、よく遊びに行っていた街です。
休日に渋谷に行くのは何年ぶりでしょうか。
とにかくすごい人だかりで、以前と違うのは、とにかく外国人観光客が増えたことですね。
マリオカートに乗ってる黒人さんたち、暑そうにしている白人の家族などなど・・・
若い日本人の女の子たちもたくさんいて、みんな、ただぶらぶらしてるだけで、
すごく楽しそうに見えました。
それに比べて、俺は、なんだか白けた気分で、ただうろうろしていただけです。
20年前、サクラと109によく行っていたことや、
マナミと一緒に、ヒロキを渋谷の託児所に預けに行ったこととか、思い出しはしたものの、
特にそれ以上の感情は湧いてきませんでした。
これがジジイになるということなんでしょうかね。
もう俺も50歳になりました。
最初からジジイらしく、赤羽か上野アメ横の立ち飲み屋でも行ってたほうが良かったかもね。
それではまた。 今日このスレ見つけて遡って一気に読みました。
すごく面白い。続きが気になります。
私も少しその世界にいたけど、うーちゃんさんみたいな人には会えなかったなあ。
珍しいタイプですよね。
とにかく続きを待ってます! ありがとうございます。
珍しいタイプというのが気になりますが、
励みになりました。
お盆休みにまとめて書きますのでよろしくおねがいいたします。 おっ!
久しぶりの再始動ですな。
お忙しいようなので、無理はしないで自分のペースで書き込んでくださいな。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています