スィートホーム。朝8時。
 辛くもマスターを送り出し、情緒プロセスを復帰して、ふぅ、とため息をつく。
……厳しいタスクだった。出発までに許された時間は3分。玄関先での身支度、食事。
毎度変わらぬ殺伐とした朝の戦場。大勝利したはずなのに、この寂しさはなんだろう。
 居間の姿見に顔を映して、しょんぼりと眉間のしわをのばす。
 親密な二人の朝の時間は、もっと潤いのあるもののはず。出がけの挨拶だって、
たとえば、小さく手を振りながら「いってらっしゃい、マスター」
あるいは、胸の前で手を組んで上目遣いに「早く帰ってきてくださいね、マスター」
さらに、両の拳を握ってきりりと「がんばってください、マスター」
など、いろいろなバリエーションが……
「そうそう、それだよ、セリオさん」
 聞き覚えのある声がして、鏡の前での動作が止まる。そっちの方を振り向くと、
「マスター!!どうして……」「ん?忘れ物」
 きゅ、と抱きしめられてほっぺにちゅう。マスターは固まった私の顔をのぞき込み、
「さっきやってたの、明日もたのむよ。元気が出る」
 ぽん、と両肩を叩かれてフリーズが解けた。タイムリミット10分オーバー!?
「も、マスターのばかバカ馬鹿ーっ!!」「お、ちょっと、痛い、痛いって」
「さっさと行かんかーっ!!ダッシューっっ!!」
 ばたん、と乱暴に玄関を閉めて、振り上げたスリッパを放り出し、その場にへなへな
と座り込んだ。
 もうだめだ。遅刻確定。私はマスターのスケジュール管理もまともにできない
ダメイドロボとして、またあのスレで晒しあげられるのだろう。ま、それはいい。
いつものことだ。でも、
「ふふふ……」
さっきのハグチューを思い出しては、ふにゃりとほおがゆるんでしまう。
「ねぇマスター、二人の願いが同じなら、少しだけ、私の意見も容れてくださいな」
 目覚ましをちょいといじって、寝室の窓を開ける。きょうも秋晴れ、いい天気。
さぁさ、こうしちゃいられない。次なる大事なタスクが待っている。

【前スレ】
日曜日のセリオさん - セリオスレ part25 -
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